●リプレイ本文
―― 現れたるは黒衣の吸血鬼 ――
「夜にしか現れない黒ずくめのキメラが相手か‥‥これ以上被害が増える前に退治してしまうとしよう」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)がため息混じりに呟く。現在、能力者達は目的地へ向かう高速艇の中、昼間のうちに移動をしてキメラが出没する森の下見をしておこうという事になったのだ。
「ふむ、死人が出ている時点で、殺傷能力が低いと言えるのか――謎だな」
リュイン・カミーユ(
ga3871)は資料を見ながらため息混じりに呟く。
「まぁ、高をくくって間抜けな事にならんよう、精々用心しておこう」
これ以上の犠牲を出す訳にはいかんしな、リュインは言葉を付け足しながら呟く。
「一人目はおじさん。二人目は若い男の人、か。男の吸血鬼って、若い女性を狙うイメージありましたけどっ」
不二宮 トヲル(
ga8050)が「まさか、ね」と苦笑しながら呟くが、能力者達は全員同じ事を考え、それぞれが口を閉ざしている。
「不二宮さんの気づいた、男性ばかりが主に襲われていると言う事実‥‥願わくば、この予感が外れてくれますように‥‥」
宗太郎=シルエイト(
ga4261)が引きつった笑みのまま呟く。
「キメラは『そういう趣味』の吸血鬼なんでしょうか? 危機感を感じている方々には申し訳ありませんが、ソレはソレで面白い事になりそうかな、と」
九条・陸(
ga8254)がにっこりと笑みながら呟く。もし本当にめくるめく禁断の世界に足を踏み入れた吸血鬼ならば、女である九条は安全圏にいる事になり、簡単に言ってしまえば人事になるからだろう。
「そんな趣味のキメラがいたら嫌だなぁ‥‥」
深墨(
gb4129)がポツリと呟く。その場合、彼も対象に入るだろうから彼にとっては人事ではないのだ。
「吸血鬼と忌み嫌われている僕が吸血鬼退治‥‥皮肉なものだね‥‥」
ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)がポツリと自嘲気味に呟く。
「そろそろ目的地に到着するみたいね、襲われた人達に話を聞けるといいんだけど‥‥」
月島 瑠奈(
gb3994)が呟き、高速艇は着陸し始めたのだった。
―― 下見、キメラを退治する為に ――
「これは迷ったら大変そうね‥‥」
月島が森を見ながら少し驚いたように呟く。キメラが現れるという森は昼間でも薄暗く鬱蒼としており、地元の人間でも迷いやすいという事を納得せざるを得なかった。
「先ずは町の方で生存している被害者から話を聞きだそうか」
リュインが呟くと「そうだな、森の下見はそれからにしようか」とブレイズが言葉を返した。
「あぁ‥‥願わくば予想が外れていますように」
宗太郎は必死さを感じさせる口調で呟き、町の方へと歩いていく。
「‥‥静か、だね」
不二宮が町に足を踏み入れながらポツリと呟く。既に死者が出ているせいかも分からないが、ドアや窓が内側から板で叩きつけられており、住人達の恐怖感が窺える。
「こんな状況じゃ安心して眠る事も出来ないみたいですね。安心して眠れないのって、すごくストレス溜まるんですよ?」
一日も早く、皆が安心できるように頑張りましょう、不二宮が言葉を付け足したのを聞きながら能力者達はキメラについて僅かな情報でも得る為に聞き込みを開始したのだった。
最初に能力者達が向かったのは三階建てのマンションだった。一軒家から聞き込みを開始しても良かったのだが、マンションの方が情報を持っている人間が居たりするのではないかと考え、能力者達は手分けして聞き込みを開始する。
「すみません、キメラを退治する為にやってきた能力者なのですが――キメラについて何かご存知ありませんか?」
深墨がインターホンを鳴らしながら問いかけると「‥‥私達は知りません」と素っ気無く住人は言葉を返してくる。
「‥‥何でもいいんだ、僕達がキメラを退治する為に協力して欲しい」
ミルファリアが呟くと「‥‥二階の五号室の旦那さんが襲われたらしいから、話を聞けると思います」と言葉を返し「ありがとう、早速行ってみる」とミルファリアは襲われた男性が住む部屋へと向かう。
「ご協力ありがとうございます、必ず退治しますから、安心してください」
深墨は言葉を残し、ミルファリアの後を追って小走りで駆けたのだった。
それから一時間後、聞き込みの為に散っていた能力者達はマンションの前へと集まり、それぞれが得た情報を確認しあう。
「三階の住人の人の話だけど、森を歩いていたらいきなり空から襲われた――みたい。怪我を見せて貰ったけれど剣のように鋭い何かで斬りつけられた跡があったわ」
月島が髪をかきあげながら呟くと「僕が調べた方もそんな感じだね」と九条が言葉を返す。
「死者は2人だけど軽傷者は大勢いるみたいだね。中には怖い物見たさで森に向かった無謀な愚か者もいたよ」
「むぅ〜‥‥無謀で命を落としたらどうするんだろ」
不二宮がため息混じりに言葉を返した時だった。
「‥‥うわぁ‥‥やっぱり全ての被害者が男性だ‥‥」
宗太郎が顔面蒼白になって小さく呟く。他の能力者達も互いが調べた事を確認すると、確かに全て『男性が被害者』と書いてある。
「こうなると‥‥もう疑いようがないよな」
同じく『男性』のブレイズも引きつった笑みで呟くと「確かに被害者は男ばかりなようだが、男勝りにもかかるのか‥‥?」とリュインが首を傾げながら呟く。
「まぁ、こういうのはなるようにしかなりませんから深く考えずに行きましょう。
次は森の下見ですよね?」
九条が問いかけると「そうだね、迷いやすい森みたいだから確り下見しておこう」と月島が言葉を返し、能力者達は戦いの場となる森の下見を行う為に森へと向かっていく。
「まずは戦い易い場所を探さないとな、少し開けた場所があるといいんだが‥‥」
ブレイズは森の中を見渡しながら、キメラとの戦闘に適した場所を探し始める。しかし迷いやすい森というだけあって、何処も彼処も似たような地形に見えてくる。
「まだ昼間だから帰り道も分かるが、暗い場所だと‥‥流石に迷わないという自信は持てないな」
リュインもため息混じりに地形を見ながら呟く。
「ふぎゃっ」
突然、不二宮の声が聞こえて能力者達が視線を向けると、木の根に躓いて転んだ不二宮の姿が視界に入ってきた。
「ふぎゃ〜‥‥こんな所に根なんかないで欲しいよね」
半ば八つ当たりのような感じで不二宮が呟くと「大丈夫ですか?」と九条が手を差し出しながら問いかける。
「うん、大丈夫。でも夜は気をつけないと――結構根が張ってるから‥‥」
不二宮が少し先を見ながら呟く、九条も彼女の視線を追うように見ると確かに地面には木の根が張っている所が目立つ。
「夜は足元注意、ですね」
深墨は木の根を避けながら呟き、先へと進んでいき、やがて開けた場所に到着した。
「ここなら‥‥隠れる場所もあるし、戦闘には向いてるかもしれないね」
ミルファリアが呟くと「うん、此処なら問題はなさそうだ」と宗太郎も呟き、持ってきたランス『エクスプロード』を木の陰に隠して蛍光塗料を塗ったリボンで枝を結び、武器の位置が直ぐに分かるようにしておく。
「後は、此処への道が分かるように枝にこのリボンを結んで帰ればいいだけ、だな」
ブレイズが呟く。今回の能力者達は迷いやすい森が戦場だと聞いて、夜でも迷わないように対策を講じてきた。
「道順はリボンやこの包帯で目印をつけ、この『ペイント弾』をキメラに撃ち込んで敵の居場所も知る――というわけだな」
リュインが『ペイント弾』を見ながら呟く。他にも短く切った包帯に蛍光塗料を塗ったものを幾つか用意している。此方は木の枝に結ぶ為に準備したものだった。
「これで夜でも迷わず行ける、はず」
きゅ、と包帯を枝に結びながらリュインは呟く。
「えぇと、リボンはあそこの開けた場所の方を向いた枝に結べばいいんですよねっ?」
不二宮が枝を見ながら考えながら用意してきたリボンを結んでいく。
「こうやっていれば、遠足みたいでいいんですけどね」
深墨もリボンを結びながら苦笑気味に呟く。確かに普通の時に来たならば楽しかったかもしれないが――この森にはキメラが潜んでいるのだ。
「さて、それじゃ時間まで少しでも体を休めておこう」
ミルファリアが呟き、能力者達は夜になるまで町の方で時間を潰したのだった。
―― 吸血鬼 VS 能力者達 ――
青い色から橙色へと空は色を変えていき、やがて何も写さない真っ暗な色へと変わった。
「さて、そろそろ出発するかな」
リュインは『ランタン』を手に持って、薄気味の悪い森へと入っていく。その後ろにはリュインの『ランタン』の光を頼りに宗太郎と不二宮も互いに離れているが、彼女の後ろを着いていく。
そして三人以外の能力者達は、リュインより先に昼間のうちに決めた場所へと移動を開始していた。リュインは囮役なので、上手くキメラをひきつけて誘導地点まで連れて行かねばならないのだ。
「さて‥‥上手く釣れればいいんですがねぇ‥‥」
宗太郎は『ランタン』の灯りを見逃さないように木の陰に隠れながらリュインの後を着いていく。
暫く歩いていた時だった。がさ、と何か葉が擦れ合うような音がしたかと思うと、空中からリュイン目掛けて黒衣の男が襲い掛かった。
「「危ないっ」」
ほとんど同時に宗太郎と不二宮が飛び出し、キメラの視線が二人に突き刺さる。
「っだああ!? 何で俺の所に来やがる!?」
宗太郎の姿を見た途端にキメラは標的をリュインから宗太郎へと変える、慌てた宗太郎だったが『メンゴ&ふぁいとー』とジェスチャーしてくる不二宮に彼は慌てて誘導地点目掛けて走り出したのだった。
「此方リュイン。今からそっちへ向かう。歓迎宜しく」
リュインは『トランシーバー』で短く告げると走っていく宗太郎を追いかけたのだった。
そしてリボンや包帯の目印を頼りに彼は誘導地点までキメラを連れて行き、本格的に能力者達とキメラの戦闘が開始したのだった。
「確か吸血鬼ってのは太陽の光に弱いんだろ? まぁ、キメラに普通の光は効かないだろうが‥‥太陽の騎士が使ってたとされる剣、ガラティーンの名を持つ武器なら、その太陽の光の代わりになるのには十分だろ!」
ブレイズはやってきたキメラを視界に捕えると『ガラティーン』でキメラ目掛けて攻撃を仕掛ける。
だがキメラは空中へと逃げて彼の攻撃を避ける。
「逃がしはしないぞ」
リュインは『ペイント弾』を二発連続で使用した後に『フォルトゥナ・マヨールー』で『急所突き』を使用しながら攻撃を仕掛ける。彼女のペイント弾のお陰で暗闇の中でもぼんやりとキメラの姿が肉眼で見る事が出来た。
「俺は‥‥そんな趣味の持ち主じゃねぇっ!」
リュインの攻撃の後、地上へと落ちてきたキメラを宗太郎は『【OR】試作型暗拳 ハーミット』で攻撃する。
そしてランスへと武器を持ち換えると『急所突き』と『豪破斬撃』を使用して攻撃を仕掛ける。
「さぁて‥‥綺麗な花を咲かせましょうってな!」
宗太郎が攻撃を仕掛けた後「Ash to ash! Dust to dust!」と九条が叫びながら『ショットガン20』で攻撃を仕掛ける。
「貴方は地べたを這いずる姿がお似合いよ」
月島はキメラの背後に回って翼を奪う為に『イアリス』を構えて『流し斬り』で攻撃を仕掛ける。
「マーキングついでに‥‥視界も奪わせてもらおうかな」
深墨が呟くと『ペイント弾』をキメラの顔面目掛けて撃つ。その際に『鋭覚狙撃』を使用している為、狙いが外れる事はない。
「もう片方の翼も、奪うね」
ミルファリアが『ベルセルク』で『二段撃』を使用しながら翼を攻撃した後『【OR】フリルパラソル』へと武器を持ち替えて攻撃を続行する。
「ほら、翼ばかりに気を取られていると――死にますよ?」
九条は『貫通弾』を装填した『ショットガン20』で攻撃を行う。ほぼゼロ距離に近い位置からの攻撃は確実にキメラへ致命的なダメージを与えたのだ。
「光よ! 闇を切り裂け――ってね! こんな台詞一度言ってみたかった」
にっ、と悪戯っぽく笑いながら『豪破斬撃』と『急所突き』を使用して攻撃を行う。
「逃がしはしない、ぞ」
リュインは『疾風脚』を使用した後、その位置から『急所突き』を使用して『鬼蛍』で斬りかかる。
「奪われた命、汝が命で購えるものではないが――逝け」
彼女の言葉と同時に宗太郎も攻撃を仕掛け、不二宮が『疾風脚』と『急所突き』を使用してキメラに攻撃を行いながら、次へと攻撃を繋いでいく。
「終わりよ、消えなさい」
月島が冷たく、そして短く呟くと天剣『ラジエル』を構えて『両断剣』を使用しながら腹部にダメージを与える。
「流石に気づかないかな?」
深墨は『隠密潜行』を使用しながらキメラへ確実にダメージを与えれる位置まで移動して『アサルトライフル』で攻撃を行う。
「この日傘が忌み嫌われる理由の一つ‥‥この日傘で吸血鬼を葬るなんて‥‥皮肉なものですわね」
ポツリと呟きながら、彼女は手に持っていたフリルパラソルで突き刺して吸血鬼にトドメを刺したのだった。
「月夜に散る吸血鬼‥‥」
ミルファリアは呟き、パラソルに付着した血を払った。
―― キメラ倒したけど、新事実‥‥? ――
「キメラにも、目くるめく世界があったんですね」
九条が『イアリス』でキメラを確実に仕留め、宗太郎を見ながら呟く。
「良かった‥‥のか分からないがとりあえずキメラにもモテたという事でおめでとう」
リュインが呟くと「いやいやいやいや!」と宗太郎は激しく首を横に振る。
本当にキメラが『ボク、男が好きなの♪』なキメラだったのか本人はもう死んでいるから分からないけれど、キメラの行動を見る限り間違いではないのだろう。
「とりあえず、何にしても皆が軽い怪我で退治できて良かったわ」
月島が能力者達を見渡しながら呟く。確かに軽傷だけで重傷の能力者はいない。だからあながち殺傷能力が低いと言うのも嘘ではなかったのだろう。
「ふ〜〜〜‥‥」
深墨は覚醒を解除して、大きく息を吐く。
「でも色々な意味で疲れちゃいましたね、本部に報告に戻りましょう」
深墨の言葉に「そうだね」とミルファリアが言葉を返し、能力者達は高速艇の方へと歩いていく。
勿論、本部に帰還する前に住人達にキメラを退治した事を知らせ、大勢の住人達から感謝される中、彼らは本部へと帰還していった。
END