●リプレイ本文
―― 童歌に誘われし能力者達 ――
「今回は日本の童謡に準じた存在みたいね、それでもやるべき事は変わらないけど」
アンジェラ・ディック(
gb3967)がため息を吐きながら呟く。
今回の事件は能力者要請をしながら後回しにされていたもの、そのせいで被害が拡大して合計で4人の被害者を出す事をとなったのだ。
「‥‥犠牲者が4人‥‥全て救う事は出来ないとわかっていますが、重い数字です」
水無月 蒼依(
gb4278)もポツリと呟く。
「最初の訴えがあった時に能力者が派遣されていれば、こんな事にはならなかったのに‥‥残念な事だわ」
二度と悲劇が起きないようにきっちりとケリつけなくちゃ、天羽・夕貴(
gb4285)が言葉を付け足す。
「どうして、もっと早く!」
大きな声で叫ぶのはファブニール(
gb4785)だった。彼は今にも泣きそうな辛い表情で能力者が派遣されなかった事に対して強い怒りを見せていた。
「‥‥殺された子供達の無念、私が晴らして見せます」
ぐ、と拳を強く握り締めながら鳳由羅(
gb4323)が呟く。
その隣では鳳と同じく拳を握り締める者がいた、その者はシルヴァ・E・ルイス(
gb4503)だった。 彼女はキメラを確実に撃破したいという気持ちがいつもより強くあった。
(「犠牲者とその家族に対しては気の毒だと感じるが、それ以上の同情は無い」)
シルヴァは心の中で呟く。今の時代を生きる者ならば少なからず同じような経験をしている者が多いのだから。
「‥‥ご遺族は、能力者を恨んでいるでしょうね‥‥」
セシル シルメリア(
gb4275)が呟くと「それは仕方ねぇよ」とテト・シュタイナー(
gb5138)が短く言葉を返した。
「え?」
「俺様達が遅れたのは事実。そのせいで犠牲者が増えたのも事実。恨みたきゃ恨め。例え恨み言を言われようと俺様達がやるべき事は変わらねぇんだから‥‥」
呟きながらテトは語尾が弱くなっていく。きつい口調でも彼女なりに責任を感じているのだろう。
(「必ず‥‥必ずだ! 倒してみせる!」)
ファブニールは出発の際に心に強い誓いを立てて、能力者達は4人の子供を殺害したキメラを退治に向かったのだった。
―― 廃校に潜む子供型キメラ ――
キメラが潜んでいる場所が小学校と言う事で、能力者達は班を三つに分けて行動する作戦を立てていた。
A班・水無月、鳳、ファブニールの三人。
B班・セシル、テト、シルヴァの三人。
C班・アンジェラ、天羽の二人。
戦闘の地となるのが廃校となった小学校で、キメラを探すのに時間が掛かる事からそれぞれ手分けしてローラー作戦を取る事になったのだ。
「これがこの小学校の見取り図よ」
アンジェラが班数分の見取り図を取り出すと、一班に一枚ずつ渡していく。
「少し‥‥薄暗いですね‥‥」
セシルがポツリと呟く。誰もいなくなった小学校は老朽化が進んでおり、昼間の今でも中は少し薄暗さを感じる。
(「暗いのは苦手だけど‥‥1人じゃないから、大丈夫かな‥‥」)
セシルは心の中で呟き「行きましょう」と一度目を伏せた後に呟く。
「廃校ってちょっと気味悪いわね」
鳳が苦笑しながら呟く。しかも学校周辺にはカラスが多く飛んでおり、不気味さに拍車を掛けている。
「それじゃ、行こう‥‥」
シルヴァが呟き、能力者達は不気味な廃校へと足を進めたのだった。
※A班※
A班とB班は玄関口や体育館などから、ローラー作戦でキメラを挟み撃ちに出来る場所を選んで校舎内に侵入していく事になっていた。
「私達は玄関からで、B班が体育館通用口からだね」
水無月が呟くと「此処も‥‥キメラに襲われたのかな‥‥」とファブニールが呟きながら門を見る。門は何かに壊されたかのようにぼろぼろになっていた。
「本部で調べた所、ここもだいぶ前にキメラに襲われて避難した後みたいです。その時も死者が何人か出たみたいですが‥‥」
鳳が呟くと「子供が犠牲になるなんて‥‥許せないよ」とファブニールがポツリと呟き、キメラ捜索を開始したのだった。
「‥‥ここでも1人犠牲になっているんですね‥‥」
鳳が軋む床を見る、するとそこには大量の血痕が残されていた。勿論日数が経っているので渇ききっていたが、当時の悲惨さを思い出させ、三人は表情を険しくした。
「他の班からもまだ連絡は来ないし‥‥先を進んでみよう」
ファブニールが呟き、A班の能力者たちは捜索を続ける。
※B班※
体育館通用口から捜索を開始したB班は、その悲惨さに言葉を失っていた。校舎の中は物が散乱しており、普通に廃校になった訳ではない事が一目瞭然だった。
「きゃ‥‥っ!! あわわ、すいません!」
捜索している途中でゴトンと何かが落ちる音が響いてセシルがシルヴァに飛びつく。
「ご、ごめんなさい‥‥」
セシルが慌てて頭を下げると「いや、大丈夫?」とシルヴァは言葉を返す。
「きっと別の教室で何かが落ちたんだろう。教材などがそのままになっているくらいだからな。何が残っていてもおかしくない」
テトが歩きながら音がした教室の前で立ち止まる。そして一度大きく息を吸い込んだ後に警戒をしながらガラッと扉をあける。
「‥‥いねぇ、か」
教室の中は誰もおらず、棚の下にはゆらゆらと揺れる人形があった。恐らく棚の上から人形が落ちただけなのだろう。
「この辺には誰かが歩いた痕跡もない、他を探すのがいいかもしれないな」
シルヴァが後ろを指差しながら呟く。セシルとテトがシルヴァの指先を追うように視線を向けると、埃が溜まった中で三人分の足跡だけが残っていた。前方に視線を向けても埃によって真っ白になっている床が続いているだけだった。
「途中で分かれ道があったから、そっちに戻ろう」
テトが呟き、3人は引き返して別の道の捜索を続ける。
※C班※
「コールサイン『Dame Angel』――ミッション開始」
アンジェラは呟き、見取り図を見ながら職員用玄関口から校舎へと中に入っていく。
「お喋りとかしながら歩いていたら、こっちの気配を感じて出てきやすいかしら?」
天羽がアンジェラに問いかけると「そうね、喋りながら捜索しましょうか」と言葉を返す。
「それにしても酷いわ‥‥この辺、血が‥‥」
天羽が呟き、アンジェラが視線を移すとそこには比較的新しい血痕が残されていた。恐らくは4人の被害者のうちの1人の血痕だろう。
「‥‥早く退治しましょ、住人を安心させる為にも、ね」
アンジェラが呟くと2人以外の声が聞こえて、アンジェラと天羽はぴたりと動きを止める。
「‥‥これ」
「間違いないね――僕、他の班に連絡を入れるよ」
天羽は『トランシーバー』を使い、他の班へと連絡を入れ、アンジェラは此方へと近づいてくる足音と歌声に警戒しながら『アサルトライフル』を構えた。
そしてアンジェラの攻撃する音が聞こえ、AとBの両班は天羽から聞いた場所へと急いで向かうのだった。
―― 少女型キメラ VS 能力者達 ――
最初に攻撃を仕掛けたのは『アサルトライフル』を構えたアンジェラ、それに続いて『夕凪』で攻撃を仕掛ける天羽だった。
だが少女型キメラはニィと笑いながら子守唄を口ずさみ、鋭く伸びた爪が二人を襲う。
「くっ‥‥」
天羽は『夕凪』でそれを防ぐが、アンジェラはまともに受けてしまう。
そこへAとBの両班が到着して戦闘態勢を取って少女型キメラと距離を保つ。
「‥‥罪のない子供を殺した罪、償っていただきます‥‥」
セシルは呟き『セリアティス』の射程ぎりぎりまで近づいて足を重点的に狙って攻撃を行う。
そしてファブニールが少女型キメラの前へと立って『グラジオラス』と『プロテクトシールド』を構えて少女型キメラの気を引く。
「どんなに肉体を強化しても、関節部は弱いものです――それになかなかの速さですが、その程度ならば捉える事は可能です」
ファブニールが少女型キメラの気を引いている間に水無月が移動して『円閃』と『スマッシュ』を使用して少女型キメラの膝を斬る。
「いくら子供の姿だからって‥‥していい事と悪い事はあるんだよ」
鳳は『ツインブレイド』を振り上げながら攻撃を仕掛ける。その時、少女型キメラが爪での攻撃を仕掛けてくる。
だが鳳は器用にそれを『ツインブレイド』で受け止め、そのまま真っ直ぐ少女型キメラの方へと向かって、密着状態から『円閃』を連続で使用して攻撃を仕掛ける。
鳳の攻撃に少女型キメラは「ぎゃ」と苦しそうな声で叫んだ後、校舎の壁へと叩きつけられた。
「いくら貴方でもこの至近距離からの連続攻撃は避けられないでしょう?」
鳳は血払いをしながら少女方キメラへと吐き捨てるがキメラに言葉は通じないらしく子供らしくない笑みを浮かべて、逆に不気味さを覚えた。
「これ以上‥‥好きにはさせない‥‥」
シルヴァは『蛍火』で攻撃を仕掛けながら短く、だが重く呟いた。
だが、少女型キメラが攻撃を仕掛け、シルヴァがまともに攻撃を受ける――所だったがファブニールが『プロテクトシールド』でそれを防ぐ。
「お前もやりすぎたんだよ、誰も殺さず大人しくしてりゃこんな事にはならなかったかもしれねぇのに――殺される側の恐怖、身を持って味わいな」
テトは呟くと『練成強化』を使用しながら呟く。
「そうだ、お前はワタシ達に退治される。それが運命」
アンジェラは『先手必勝』を使用して『強弾撃』で強化した後『影撃ち』で少女型キメラに攻撃を仕掛ける。
アンジェラの攻撃に少女型キメラは足を引きずりながら後ろへ、また後ろへと後退していく。
「切り札は‥‥最後まで見せてはいけないのですよ?」
セシルがポツリと呟き『円閃』と『スマッシュ』を使用して少女型キメラに攻撃を仕掛けた。既に少女型キメラは瀕死に近い状態でマトモに攻撃する事すら出来なくなっていた。
「僕達があなたにしている行為、それがあなたが罪のない子供にしてきたこと‥‥」
少女型キメラがガクリと倒れそうになった所を天羽が『スマッシュ』を使用して攻撃を仕掛ける。
「‥‥今頃それに気づいたとしても、私達は許すわけにはいかないんだけどね」
鳳は呟きながら『ツインブレイド』で攻撃を仕掛け、次の能力者達に攻撃を繋ぐ。
少女型キメラの攻撃にシルヴァは『バックラー』で防御して小銃『S−01』に武器を持ち替えて少女型キメラの足止めを行う。
「僕達が退治しても何も変わらないけど‥‥何もしないよりは、マシだから」
ファブニールは『豪破斬撃』と『流し斬り』を使用しながら少女型キメラに攻撃を仕掛けながら呟く。
「因果応報、己の行動を地獄で悔いなさい」
水無月は呟き、最後の攻撃で首を落として少女型キメラを退治したのだった。
―― 遺族達の願い ――
能力者達は少女型キメラを退治した後、犠牲になった子供達が住む町へと行く事にした。キメラがもう居ないと言う事を知らせる為に。
「‥‥そう、ご苦労様」
そう言って冷たく言葉を返してくるのは依頼人の女性だった。
「でも‥‥私は能力者を許す事が出来ない。貴方達が悪いんじゃないと言うのは頭でも分かってるけど‥‥納得は出来ないの」
「すいません‥‥どんな事を言われても構いません。必ず彼ら‥‥バグアは滅ぼしますから」
セシルが申し訳なさそうに言うと「もう今更なのよ」と女性は言葉を返してくる。
「‥‥バグアを滅ぼしたら姉さんの子供は帰って来るの? 違うでしょ? それは貴方達の自己満足なんじゃない‥‥」
女性は涙を流しながら呟く。
「申し訳ありません‥‥謝っても時が戻る事はありませんし、犠牲者が帰って来るわけでもありません‥‥それでも、あなたに謝らせてください」
水無月が頭を下げながら呟く。シルヴァはそれを壁にもたれながらジッと見ていた。そして俯きながら「奴を倒したとて、手向けにもならないだろうが‥‥せめて魂の平安を」と誰にも聞こえない程度の声で呟いたのだった。
「能力者を憎んでくれても構わないっ!」
ファブニールは女性に頭を下げながら必死に謝る。
「いいえ、だから貴方達が悪いわけじゃないと言うのは分かっているって言ったでしょう」
女性が言葉を返すと「僕達には守る為の力があったのだから‥‥」と頭を下げたまま言葉を続ける。
「何とか出来た筈なのに! もっと早く来ていれば‥‥今更言っても遅い事は分かってる‥‥ごめん‥‥ごめんよ‥‥」
ファブニールは泣き崩れながら『ごめん』と言う言葉を繰り返す。まるでその言葉しか知らぬ赤子のように‥‥。
「‥‥貴方が悪いわけじゃないでしょ、そんなに自分を責めないで‥‥」
女性が座り込んだファブニールに視線を合わせるようにしゃがみながら話しかける。
「俺様だって、生まれた直後に両親を殺された」
ポツリとテトが呟く。
「両親の顔は、写真の中のしか知らねぇ。正直、護ってくれなかった軍を恨んだ事もある。お前のその感情、その時の俺様に近いのかもしれねぇな」
「貴方も‥‥キメラによる被害者なのね」
女性が辛そうな表情でテトを見ると「だからこそ、俺様は言い訳はしねぇ」とテトは言葉を続けた。
「俺様達が来れなかったのも事実、助けられなかったのも事実だからな。それは、同じ気持ちを抱く者を増やさない為に、俺様の心に刻み込む為にな‥‥」
テトの言葉を聞いて女性は俯きながら「ゴメンナサイ、私はまだ貴方みたいに強くなれない」と申し訳なさそうに言葉を返した。
その後、女性は何も言わずに能力者達を見送った。
そして、能力者達はバグアを滅ぼすという強い意思を再び胸に秘めて報告の為に本部へと帰還していったのだった。
END