タイトル:鬼の囁く夜マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/26 23:48

●オープニング本文


私は悪くない。

だって‥‥私はずっと我慢してきたもの。

これからは‥‥私が幸せになっても――いいよね?

※※※

今まで私は不幸の連続だった。

学生の頃に両親をキメラに殺され、家族が恋しかった私は19歳で子供が出来て結婚した。

だけど夫となった男性は酒癖も悪く、最近では暴力ばかり振るって私や子供を怯えさせていた。

子供が居るから頑張れる、子供の為に我慢しよう――そう思っていた矢先、酒に酔った夫によって子供は殺された。

頭をぶつけて、すぐに病院に運べば助かったであろうと医者に言われ――私の中で何かが壊れたのだ。

その日の夜、私は夫を刺した。

「あなたがいけないのよ、私もあの子も幸せにしてくれなかったから‥‥」

死体をどう始末しよう、そんな事を考えていた時だった。

近くにキメラが現れたから逃げて、と近所の人が教えに来てくれたのは。

キメラが現れたのは怖い、両親が殺された時も怖くて怖くて体が震えたから。

だけど、これはチャンスかもしれない。

今まで不幸の連続だった私が幸せになる為のチャンス――。

「‥‥ねぇ、あなたはキメラに殺された可哀想な一般人――になってもらうわね」

呟き、私は死なない程度に自分の体を傷つけたのだった。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
Fortune(gb1380
17歳・♀・SN
坂井 胡瓜(gb3540
19歳・♂・SN
月村新一(gb3595
21歳・♂・FT
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

―― キメラを退治する為に‥‥ ――

「また‥‥キメラが現れたのか」
 御山・アキラ(ga0532)が事件の事を知り、ため息混じりに呟く。
「退治しても減る素振を見せるどころか逆に蔓延しているような気もします」
 金城 エンタ(ga4154)が御山に言葉を返すと「まったくだ」と彼女は二度目のため息を吐いた。
「‥‥絶対に犠牲者は出さない!」
 ぐ、と『アサルトライフル』の準備を行いながらレヴィア ストレイカー(ga5340)が強い意志を秘めた口調で呟く。
「‥‥何だか不穏な空気を感じる、あまり良くない予感がするわ」
 Fortune(gb1380)が表情を曇らせながらポツリと呟く。
「何事もなければ良いのですが‥‥そういえばや〜な天気ですね‥‥」
 坂井 胡瓜(gb3540)が外を見ながら小さく呟く、その心の中では『本に防水カバー掛けといてよかった!』と安堵のため息を吐いていた。
「本当だ‥‥雨が降らなきゃいいけど」
 芹架・セロリ(ga8801)が外を見ながら呟く。確かに今にも雨が降りそうなどんよりとした空模様だった。
「そうだな、キメラとの戦闘に支障が出なければいいんだが‥‥それに被害が大きくならないうちに退治してしまわないと」
 月村新一(gb3595)が呟く。住宅地にキメラが現れているのだから、少しでも遅くなればそれだけ被害が拡大するだけなのだから。
「住宅地にキメラとはな‥‥良い迷惑だな」
 フローネ・バルクホルン(gb4744)がため息混じりに眼鏡を掛けなおしながら呟く。
「それじゃ手遅れになる前に目的地まで急ごう」
 フローネが呟き、能力者達はキメラが現れたとされる住宅地へと向かったのだった。

―― 死者1人、軽傷者1人 ――

 今回の能力者達は、任務を迅速に遂行すべく班を二つに分けて行動する事にしていた。
 A班(討伐)・御山、金城、芹架、Fortuneの四人。
 B班(探索)・レヴィア、坂井、月村、フローネの四人。
「此処を真っ直ぐ行くと河原なんですね、其方も含めてしっかり捜索しましょう」
 金城が地図を見ながら呟くと「じゃあ自分達はこっちを探しますね」とレヴィアは住宅地の方を指差しながら言葉を返した。
「何かあったら『トランシーバー』で連絡を取り合う事にしましょう」
 Fortuneは『トランシーバー』を見せながら呟き、能力者達は行動を開始したのだった。

※A班※
「‥‥住宅地の方は意外と綺麗なんだね」
 A班では河原周辺を捜索する為に住宅街を歩きながら家などを眺めて芹架が呟く。
「確かに‥‥本当にキメラがいるのか疑いたくなるほどに無傷だな」
 御山も「ふむ」と納得したように呟きながら家屋を見ていく。住人が避難していてひっそりとしているものの、それ以外におかしな所は見受けられない。
「‥‥わっ」
 突然、金城が呟いたので他の能力者達が金城に視線を向けると泥濘に滑ってコケかけている所だった。
「だいぶ足場が悪いですね‥‥戦闘時に影響がなければいいのですが」
 Fortuneが金城に「大丈夫ですか?」と問いかけた後に地面を見て呟く。
「それに――‥‥」
 御山は少し先を指差しながら呟く、他の三人も彼女の指先を追うように視線を移していくと、その先には人の足跡、そして鳥の羽のような物が散らばっていた。
「‥‥これ、靴跡じゃないですね――裸足です」
 金城が地面を見ながら呟き、不審な足跡を見つけたとB班に『トランシーバー』を使って連絡を入れたのだった。

※B班※
「‥‥A班からの通信でもあったように、綺麗過ぎる」
 フローネがため息混じりに呟く。
「えぇ‥‥ですが油断は出来ません」
 レヴィアは言葉を返し『アサルトライフル』を構えて後方を警戒していく。通報があってから能力者達が到着するまでに多少の時間があったせいか、既に住人達の姿はない。幸いにも死者や負傷者の姿もなく、無事に避難できていると信じたい。
「こっちに人の気配は無いですね〜」
 坂井が言うと「いや、あそこの家から物音がした」と月村が赤い屋根の家を指差しながら言葉を返した。
 確かに彼の言う通り、耳を澄ませば不自然なほどに物音が聞こえ人の叫び声のような物も聞こえてくる。
「もしかして‥‥被害者?」
 レヴィアは顔を青ざめさせながら警戒しつつも、物音が聞こえる家へと向かった。
 そこで能力者達が見たものは――‥‥。
 リビングで事切れている男性、そしてその男性に縋って泣く傷だらけの女性だった。
「‥‥遅かったか」
 フローネが呟くと「‥‥あなたたちは‥‥?」と泣きながら女性が能力者達を見る。
「僕達はキメラ退治にやってきた能力者です」
 坂井が女性に「大丈夫ですか‥‥?」と声をかけながら言葉を返す。
「レヴィアより討伐班へ、民間人に死傷者が出た――現在、詳しくは捜索していないがキメラらしき存在は居ない」
 レヴィアがA班へ通信を入れると「こっちはキメラと戦闘中」と言う言葉が返ってくる。「キメラと? だったら俺達も行った方が‥‥」
 月村の言葉に「行かないで! お願いだから」と女性が涙の混じった声で叫ぶ。
「‥‥お、襲われて‥‥主人を亡くして心細いの、怖いの‥‥お願いだから行かないで」
 女性が震える声で呟く。
「レヴィアより討伐班へ、其方の状況は‥‥? 負傷者がいて動けないんだけど‥‥」
 レヴィアがA班に連絡を入れると「此方は何とか大丈夫ですので、負傷者の方に着いていてあげてください」と言葉が返ってくる。
 B班はその言葉を聞いて、A班に戦闘を任せて自分達は負傷者の治療、そして状況などを聞く為に女性宅へと留まる事になった。


―― キメラ VS 能力者 ――

「探索班からの連絡は何だったの?」
 芹架が金城に問いかけると「負傷者が興奮しているそうで、今居る場所から離れれないそうです」と小銃『S−01』でキメラに攻撃を仕掛けながら言葉を返した。
「つまり――4人での戦闘か――‥‥どうなる事やら」
 御山は『アミッシオ』でキメラの攻撃を防ぎながら、表情を歪めて呟く。彼女は他の能力者達よりキメラに近い位置に立ち、後衛組に攻撃が行かないように盾の役割を受けていた。
 そして『エネルギーガン』で攻撃を行う。その際に『先手必勝』を使用して武器を持つ手を攻撃する。
「こちらに、間合いの利がございますので‥‥手堅く行かせて頂きます」
 金城は呟きながら両手に持った小銃『S−01』で攻撃を仕掛ける。キメラは持っていた包丁を金城目掛けて投げつけるが、彼は『瞬天速』を使用して包丁を避ける。
「何処を狙っているのです‥‥? 私はこちらですよ?」
 金城は挑発するように呟き、トリガーを引いて再び攻撃をする。
「今だっ‥‥」
 金城が攻撃をした事によって、キメラに僅かな隙が生じてそれを見逃さなかった芹架が『瞬天速』で一気にキメラとの距離を詰める。その際に真っ直ぐに進むのではなく、蛇行するようにちょろちょろと駆けて、仲間の隙を埋めるように心がけていた。
 そして『ショットガン20』を構えて『急所突き』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「‥‥っ、足場が悪いわね」
 河原、しかも雨上がりでぬかるんでいる状態のまま戦闘に入ったFortuneは『ショットガン20』を落とさないように確りと持ちながら踏ん張る。
「ここで私達に会ったのが貴方の不運‥‥さぁ逝って」
 Fortuneは『強弾撃』を使用して弾丸の威力を上昇させて『ショットガン20』で攻撃を仕掛ける。
「どうやら、その翼はお飾りのようだな」
 御山は呟きながら『エネルギーガン』で攻撃を仕掛け、続いて金城も小銃『S−01』でキメラに動く隙を与えぬように攻撃を続ける。
 そして芹架とFortuneの『ショットガン20』の攻撃によってキメラは無事に退治され、能力者達は僅かな傷だけで済んだのだった。
「そんなに強くないキメラだったわね。それにしても‥‥」
 Fortuneはキメラの持っていた包丁に視線を落として「あんな包丁で切られたら腕が落ちかねないわね」と言葉を付け足した。
「それじゃ逃げ遅れた負傷者の所へ行ってみよう、病院にも連れて行かなくちゃいけないだろうし」
 御山が呟き、A班の能力者達はB班が待機している家へと向かい始めた。


―― 疑惑・矛盾する言葉 ――

「わ、私は主人と家に居たんですけど‥‥き、キメラが突然来て主人を――私も刺されそうになったんですけど、主人が庇ってくれて‥‥」
 フローネが『練成治療』を使用して女性の傷を治していると、女性が震える声でポツリと話し始める。
「き、キメラは主人を‥‥刺した後に外へ出て行って‥‥」
 女性の言葉を聞きながら月村とフローネは僅かな違和感を覚えた。
「旦那さんの遺体、見せてもらいますね‥‥」
 坂井が問いかけると「え、えぇ‥‥」と女性は視線を逸らしながら言葉を返す。坂井は女性の了承を得て男性の遺体を見たのだが‥‥。
「あれ‥‥今回のキメラって力弱い?」
 坂井の言葉に月村が「どうかしたのか?」と問いかけると「いえ、キメラにしては傷口が浅いな‥‥と」と言葉を返す。
「き、きっと偶然ですよ、もしかしたら手加減したのかも‥‥」
 口ごもりながら無理矢理な言い訳をする女性を見て、能力者達は何かおかしい事に気づく。
(「彼女の話、そして様子もおかしい‥‥もしかしてこれは‥‥」)
 月村は心の中で呟き、物言わぬ遺体となって横になっている男性に視線を落とす。
(「これってキメラの仕業じゃないとすると、下手人は‥‥」)
 坂井も月村と同じ事を考えていたようで、心の中で呟きながら視線を女性へと移して慌てて視線を外す。
(「何を考えているんだ、まったく! 昨日推理小説を読んだせいか?」)
 負傷している女性を疑った自分に自己嫌悪して、坂井は自分を叱咤する。
「‥‥ねぇ、何か考えているみたいだけど‥‥? どうかした?」
 レヴィアは警戒を強めながら険しい表情をしている二人に話しかける。
「いや――(まだ憶測の域を出ていないし、もう少し様子を見るか)」
「何でも、ないですよ」
 二人は喉に痞えたような言い方で言葉を返す、するとフローネが「当時の状況を聞いてもいいか?」と女性に話しかけていた。
「キメラはどうやってご主人を? 何処から来て、何処へ行った? 攻撃方法は?」
 フローネの言葉に「‥‥き、気が動転していて覚えてません」と女性は俯きながら言葉を返す。
 その時にキメラ退治を行っていたA班が自宅へとやってきた。
「すみません、遅くなりました――貴方が負傷者ですか? 傷は大丈夫ですか?」
 金城が女性に話しかけると「え、えぇ」と言葉を返す。しかし金城は「あれ?」と首を傾げながら女性の背中を見る。
「背中は――大丈夫だったんですか?」
 逃げながら攻撃されたのならば背中に傷が出来るのが当たり前、しかし女性の傷は腕や足などに軽い傷がある程度だった。
「あんな包丁で攻撃されてそれだけで済んだのなら、余程ツイているのね」
 Fortuneの言葉に「え? チカラは弱くなかったんですか?」と坂井が目を瞬かせながら言葉を返した。
「いや、弱い事はなかった。普通に切られれば腕など簡単に落ちてしまうほどの威力はあった」
 御山が言葉を返すとB班全てに動揺が走る。
「ボク、ちょっとお手洗い借りるね」
 芹架は女性に言葉をかけてトイレへと向かう。彼女がトイレに行っている間、能力者達は男性の遺体を見ていた。実際にキメラと戦ったA班ならばキメラの傷口かどうか判断できると考えたからだ。
「やっぱり〜‥‥この件は何かおかしいと思う」
 坂井が呟き「これは‥‥キメラから与えられた傷ではありません」と金城小さな声で呟く。女性は隣の部屋に居る為、彼の言葉は聞こえていない。
「キメラの包丁は傷口を深くする為に刃がギザギザになっているものだったわ、彼女の切り傷を見ても分かるように真っ直ぐ、だからキメラが殺したんじゃないと思うわ」
 レヴィアは警戒ばかりをしていたせいで、異常に気がつかなかったのか驚きで目を見開かせている。
「貴方の傷も‥‥旦那さんの傷も‥‥検分の結果、キメラの物じゃないですね」
 金城の言葉に女性は大げさに肩を震わせる。そこへトイレに行っていた芹架が戻ってきて「あの、おばさん。子供が‥‥居るんですよね? と女性に問いかけた。
「あっちに小さな子供用の玩具が沢山あって‥‥その子は無事なんですか? ちゃんと逃げられたんですか?」
 芹架が心配そうに女性に言葉をかけると「あの子は‥‥」と涙を流しながら「死んだ」とだけ呟く。
「この男、キメラにやられたにしてはちと、おかしい」
 フローネの言葉の後に「貴方の傷も‥‥その‥‥旦那さんが庇ってくれたんですか?」と坂井が聞きにくそうに問いかける。
 そこで女性は観念したように「私がその人を殺しました」と泣きながら言葉を返した。そして男性にどのような仕打ちをされてきたのか、自分の子が殺された事などを告げて罪をキメラに被せようとした事も白状した。
「幸せになりたかった‥‥」
「事情は分かります‥‥が、旦那さんを殺した時点で‥‥貴方もやっている事は同じなんですよ!」
 坂井の言葉に女性は目を丸く見開き「‥‥その通りだわ」と自嘲気味に呟く。
 そして「本当に幸せになりたいなら、自分で努力しなくちゃ駄目だと思う‥‥」と芹架が言葉を返した。
「誰かに幸せにして貰おうとか、キメラに自分の罪を擦り付けようとか、そういう後ろ向きの考えのままじゃ、一生幸せになんかなれないよ」
 偉そうな事を言ってごめんなさい、芹架は言葉を付けたしながら女性に話しかける。
「わざわざ殺した事をバレないかと怯えて暮らし続ける事も無い。きっちり裁判を受けて『これだけの刑です』と判断を貰ってくるといい」
 御山が女性に話しかけて、言葉を続ける。
「判決を受け、刑を全うすれば法律が守ってくれるものだ。私見だが、この経緯ならそれなりの弁護人がつけば執行猶予は着くんじゃないかな」
 御山の言葉に「自分は‥‥貴方に自首して欲しいと願っているし、してくれると信じてる」とレヴィアが女性と視線を合わせながら告げる。
「俺達は警察じゃない。この後、何をするかは君の勝手だ。だが罪と真実からは誰も逃れる事は出来ない」
 月村の言葉に女性はただ黙って俯く。
「3日くらいは‥‥事件の事を忘れておきますから‥‥その間に自首、してくれますよね?」
 金城が女性に話しかけると、女性は無言で首を縦に振った。
「‥‥私が問い詰めると、ろくな事はない‥‥」
 フローネはため息混じりに呟く。
「彼女も俺と同じ、信じて来た者に裏切られたのか‥‥」
 月村は俯きながら、一歩間違えれば彼女と同じ人生を歩んでいたかもしれないと思うと、複雑な気持ちになった。
(「俺はまた、誰かを信じる事が出来るんだろうか」)
 月村は高速艇の中で小さく呟く。

 後日、女性が自首したという知らせが今回の事件に携わった能力者達の耳に入ったのだった。


END