タイトル:目覚めた未来はマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/28 03:24

●オープニング本文


それは不幸な事故だった。

当時10歳だった少年が交通事故によって植物状態となって眠り続ける事となった。

そして八年後――奇跡的に彼は目を覚ます。

18歳の体に宿る10歳の心。

彼の名前は鉄太(てった)――既に両親もキメラに殺されており、彼が知る者は存在しない。

※※※

鉄太の事は傭兵の間でも少し話題に上がっていた。

「今は養護施設にリハビリの為にいるみたいね、最初は歩く事も出来なかったらしいけど‥‥8年間も眠ったままじゃ体も鈍るでしょうしね」

女性能力者が呟くと「親も死んでるんだろ? 大変だよなぁ‥‥」と男性能力者が言葉を返した。

「‥‥でもまだ両親の事は彼に話してないらしいわ――まだ目覚めたばかりで、わざわざ辛い事を教える必要もないでしょうって‥‥」

女性能力者の言葉に「そうだな‥‥今、聞かせる事じゃねぇもんな」と男性能力者は言葉を返した。

「でも――彼、能力者としての適正があるみたいよ。リハビリが終えたら‥‥能力者になるんじゃない?」

女性能力者が呟き「マジで?」と男性能力者が言葉を返した時だった。

鉄太のいる養護施設が二体のキメラによって襲撃されているという報告が入ったのだ。

●参加者一覧

佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
ルチア(gb3045
18歳・♀・ST
柊 沙雪(gb4452
18歳・♀・PN
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

―― 取り残された子供 ――

 今回の能力者達に課せられた任務は養護施設での一般人保護とキメラ退治だった。
「8年前か‥‥まだ能力者もUPCも存在しなかったんですよね」
 レールズ(ga5293)が資料を見ながらため息混じりに呟く。
「彼もこのタイミングで目覚めなくてもいいものを‥‥自らの望み通りに進む夢の中と地獄のような現実――彼にとって幸せなのでしょうね」
 柊 沙雪(gb4452)がどこか遠くを見ながら呟く。彼女は決して冷たい気持ちから言葉を吐いているのではない。鉄太の為を思って口にした言葉なのだろう。
「確かにな、目覚めてみたら世界は大ピンチ。しかも、両親はもういない‥‥か。10歳の心じゃ、一度に受け止めきれない重さだよな」
 テト・シュタイナー(gb5138)が鉄太の資料を見ながらため息混じりに言葉を返した。
「でも、辛くても自分の意思で進む――望み通りの夢の中よりは素晴らしいと思います‥‥」
 白雪(gb2228)が俯きながら呟く。
「だが漸く目覚めたんだ。これ以上の悪夢を見させる必要など無い‥‥さっさと助け出すぞ」
 ディッツァー・ライ(gb2224)が拳を強く握り締めながら呟くと「そうだね」とロジャー・ハイマン(ga7073)が言葉を返す。
「‥‥折角助かった命を見捨てるなんてこと、俺には出来ないですからね」
 助け出してあげたいね、絶対に――ロジャーは言葉を付け足しながら投擲用の『アーミーナイフ』の準備をしていた。
「ディッツさん、白雪さん、今回はどうぞ宜しくお願いしますね。他の皆さんも宜しくお願いします」
 ぺこりと丁寧に頭を下げながら挨拶をするのはルチア(gb3045)だった。特にディッツァーと白雪とは仲が良いらしい。
「何の、仲の良さなら私達も負けないよね。ねぇ、リーダー」
 佐竹 優理(ga4607)がレールズにちらりと視線を送りながら同意を求めると「いや、リーダーはもういいですって」とレールズは視線を逸らしながら言葉を返した。
「はい、ちょっと聞け。鉄太以外にも救助者が居る事が判明したぞ」
 テトの言葉に「え?」と能力者達は聞き返すように言葉を返した。
「鉄太の担当者で、鉄太と同じく姿が見えねぇんだとさ、まだ中に居るんじゃねぇかって他の職員が言ってきたらしい」
「それじゃ‥‥救助者が二名って事になるのかしら」
 白雪が呟き「どうやら急いだ方が良さそうですね」と柊も言葉を返し、能力者達は2人の救助者が待つ養護施設へと出発したのだった。


―― 取り残された子供、二匹のキメラ ――

 今回の能力者達は迅速にキメラを退治すべく、そして救助者を救出する事が出来るようにと班を二つに分けて行動する事にしていた。
 A(1)班・柊、ディッツァー。
 A(2)班・白雪、ルチア。
 B(1)班・佐竹、レールズ。
 B(2)班・テト、ロジャー。
 それぞれの班でも二つに行動を分けて、どのような状況にも対応できるようにしていた。

 そして養護施設に到着した能力者達だったが‥‥。
「‥‥もう一匹は中にいるんでしょうか‥‥」
 柊が養護施設前にいる虎型キメラを見ながら小さな声で呟く。虎型キメラは暴れたばかりと言う事もあってか異常に興奮状態になっている。
「此処で一匹を全員で相手にするよりはA班には先に行ってもらって、俺たちは此処で虎型キメラを退治してから施設の中へいきましょう」
 レールズの提案に「異議なし、さすがはリーダー」とからかうように佐竹が言葉を返して「それはいいですって」とレールズは疲れたような表情で答えた。
「それじゃ私達は先に行くわね、何かあったら連絡を取り合いましょう」
 覚醒を行って真白となった白雪がB班に言葉を残し、施設の中へ向かって走り出す。勿論キメラも獲物を見つけたように唸りながら攻撃を仕掛けるが、B班の能力者達がそれを食い止め、A班は無事に施設の中へと入っていったのだった。

※A班※
「大丈夫でしょうか‥‥」
 施設の中へ入る時、柊が後ろを振り返りながら小さく呟く。虎型キメラをB班が押さえて、A班が施設の中に入ると同時に戦闘開始となるのだろう。
「此方もあまり向こうの心配はしてられないかもしれません‥‥」
 ルチアの言葉に「どうかしたの?」と真白が聞き返すと、彼女は床を指差す。床にあったモノ――それは泥だらけの足跡、しかも獣の足跡が幾つも床に残されていたのだ。
「油断は出来ないか」
 ディッツァーは何処から来ても良いように武器を構えながら警戒を強める。
 その時。カタンと少し先の部屋から音が聞こえて4人の能力者達は互いの顔を見合わせる。場所はリハビリ室のようで、色々な器具が置いてあり広さもある。
「開けますね」
 柊が呟いて、ドアに手をかけた瞬間――獅子型キメラがドアを突き破って攻撃してきた。
「きゃあっ!」
「大丈夫か!」
 ドアに近い位置にいた柊は攻撃を受けたが、咄嗟に後ろに下がったお陰で大きなダメージは無い。
「意外と早く出て来てくれたのね、手間が省けたわ」
 真白は『月詠』と『血桜』を構えながら不敵な笑みを獅子型キメラに向ける。
「奇襲の基本は先手を取る事です――が、今は関係ないですね」
 柊は静かに呟くと『瞬天速』を使用して獅子型キメラとの距離を一気に詰めて『急所突き』を使用して攻撃を行う。
 そして柊の攻撃を受けた事により生じた隙をルチアが見逃さず「これが後衛の戦い方ですっ」と獅子型キメラに向けて『練成弱体』を使用する。
「猫は好きだが、こんなデカいのは少々持て余すな。爪を研ぐなら他所でやってくれよ」
 獅子型キメラの攻撃を『【OR】獅子刀 牙嵐』で受け止めながらディッツァーが呟き、弾き飛ばすように剣を振るう。
「脇が甘い、胴ォッ!」
 ディッツァーは叫びながら『先手必勝』と『流し斬り』を使用しながら獅子型キメラに攻撃を仕掛ける。
「八葉流参の型‥‥乱夏草」
 ディッツァーの攻撃が終わり、彼が下がると同時に真白が攻撃を繋ぐように獅子型キメラの死角から『流し斬り』を4回連続で使用しながら攻撃を仕掛ける。
 先ほど、ルチアの『練成弱体』により防御力の低下している獅子型キメラにとってはより凄まじい威力と感じた事だろう。
「確かに早い‥‥だけどそんな早さでは私達を捕える事は出来ませんよ」
 柊は冷たく呟くと二刀小太刀『疾風迅雷』を構えて獅子型キメラに攻撃を仕掛けて、一匹目のキメラを退治し終えたのだった。

※B班※
「A班は先に行ったかな、これよりこっちも本気で戦闘開始」
 佐竹が虎型キメラから多少の距離を取り『ソニックブーム』で攻撃を仕掛ける。少し離れた場所から使用したせいか、それは避けられてしまったが虎型キメラがジャンプして避けた所をレールズが『セリアティス』で振り回して攻撃を仕掛けた。
「まだ俺の槍は強化過程ですが‥‥この槍の初陣、負けられませんよ!」
 レールズが大きな声で叫びながら攻撃を仕掛けると「リーダー! そっち見て!」と佐竹が注意するように促す。
「リーダーって‥‥だからそんなに偉くないですって!」
 レールズは言葉を返しながら虎型キメラに攻撃を仕掛け、虎型キメラを壁へと叩きつけた。
「‥‥今だ」
 ロジャーはポツリと呟き、懐に手を伸ばして『アーミーナイフ』を5本取り出して『限界突破』を併用して虎型キメラへと投げつける。
 これは虎型キメラにトドメを刺す意味で投げたのではなく、キメラの四肢を狙って投げており、キメラ自身の行動力を低下させる為の行為だった。
「俺様が『練成強化』を使って武器の強化を行う、それで決めちまえ!」
 テトが3名の仲間に向けて言葉を投げかけて『練成強化』を使用する。そして『【OR】スライサー「スティングレイ」』を虎型キメラに投げつけて、僅かながら気を引く事にする。
 最初に仕掛けたのは虎型キメラから一番近い位置にいた佐竹で、彼は自分に向けられた攻撃を『月詠』を振り上げて、虎型キメラの攻撃をいなす。
 そして手を挙げさせられて胴部分が丸見えになっている隙にレールズが『セリアティス』で攻撃を仕掛ける。その際に倒れる間際、佐竹が『月詠』で攻撃を行ってダメージを与える事を忘れない。
「誰も‥‥傷つけさせない。その為に俺たちが居るんだから」
 ロジャーは呟きながら『瞬天速』を使用して虎型キメラへの距離を詰めると『月詠』を振り上げて攻撃を行い、養護施設に現れた二匹目のキメラを退治する事に成功したのだった。


―― 子供で大人? 一緒にいる男は本当に大丈夫? ――

 それぞれ一体ずつのキメラを退治して、A班とB班は合流して施設の中を歩き回りながら鉄太と男性職員の捜索を行っていた。
「‥‥此処で全部の部屋を回ったけど、誰もいなかった」
 ロジャーが首を傾げながら呟くと「まさかさっさと逃げちまったんじゃねぇだろうな」とテトが少しだけ低い声でため息混じりに呟く。
「それは無いだろう、施設の入口にはキメラいたし――あの場所を通らねば避難する事も出来なかったんだから」
 ディッツァーが言葉を返し、一部屋だけ異常に荒らされている場所を見つけ「何かおかしいわね」と真白も呟く。
 他の部屋は確かに荒らされてはいたのだが、この部屋のように異常な程荒らされているという事は無かった。
「あ、これ‥‥」
 ルチアが何かを見つけたように『それ』に近寄ると、地下室への入口のようなものが散乱した荷物に隠されていた。
「なるほど、これを隠す為にわざと散らかしたわけか」
 佐竹が納得したように呟き、扉を塞ぐ荷物を退かすとドアノブに手を掛ける。
 すると――‥‥泣き声のようなものが能力者達の耳に入ってきて、慌てて能力者達は奥へと進む。
「せんせえっ」
 泣きながら怪我をした男性に縋るのは、資料にあった保護対象である鉄太だった。
「私が治療します、少し退いて下さい」
 ルチアが呟き、テトと共に怪我をした男性に『練成治療』を施して応急手当をしていく。
「ぐすっ、せんせい、大丈夫なの?」
 目をごしごしと擦りながら鉄太がロジャーの服の裾を掴みながら問いかけてくる。
「ん、大丈夫だよ‥‥絶対に助かるから」
 ロジャーは鉄太をあやすように言葉を返すと「せんせい、俺を庇って‥‥」と呟き、その時の事を思い出したのか再び大きな声で泣き始めた。
「‥‥話には聞いていたけど見た目は普通の男の人ね‥‥仕草は可愛いけど」
 真白が苦笑しながら呟くと「何だか奇妙な感じですね‥‥」と柊も苦笑混じりに言葉を返した。
「とりあえず、こんな地下室があるなんて知らなかったからなぁ、戦闘時に巻き込まれなくて良かったけどな」
 テトが地下室を見ながら呟く。今回の能力者達は鉄太を保護した後に戦闘になった場合の事を考えて、護衛役などをそれぞれ決めていた。
「‥‥キメラが現れた時の為の、避難部屋として作られたんですよ、ここは」
 男性がまだ痛みが残るのか背中を庇いながら能力者達へと言葉を返してくる。
「とりあえず‥‥一般人「うわああああん、せんせええっ」―――‥‥」
 佐竹は途中で言葉を遮られ、荷物から『ぶどうジュース』を取り出して「これでも飲んで、大人しく待ってるんだよ」と男性から鉄太を引き離した。
「でもよく僕の事が分かりましたね、僕は昨日鉄太君の担当になって来たばかりなんで施設名簿にも名前とか載っていなかったはずなのに」
 男性の言葉に能力者達は肩を落として「はぁ〜〜〜」と大きな息を吐いた。救助者の割に男性の情報が少ない、これは能力者も考えていた事。
 だからもしかしたらバグアが鉄太を浚いにきたのではないか、と言う悪い想像までしていたが結果を聞いてみると力が抜けるほど間抜けな理由だった。
「お、カッコイイ人形持ってるな、何のキャラだ?」
 ディッツァーが問いかけると「スベルンダーZ!」と鉄太が言葉を返してきた。
「スベルンダーZ‥‥何と言うネタ好きの私にとっては恐ろしいキャラなんだ‥‥」
「父ちゃんと母ちゃんが寂しくないようにって送ってくれたんだ!」
 鉄太は嬉しそうに人形を見せるが、能力者達は「え?」と目を丸くしながら呟く。
「俺、ずっと寝てて目が覚めたら色々びっくりだったけどさ」
 鉄太の言葉に「ごめんね‥‥目が冷めたら、世界の半分も奪われて‥‥ご両親も‥‥」とレールズが口にする。
「え? 兄ちゃん達って俺の父ちゃんと母ちゃんの事知ってんの!?」
 目を輝かせながらレールズ、そして佐竹に問いかける。
「いやー、私らは仕事で助けに来ただけだから‥‥分からんねぇー」
 佐竹の言葉に「そっか‥‥」と鉄太はしゅんとしながら呟く。
「俺の父ちゃんと母ちゃん、仕事が忙しいんだ。だから会いに来れないからって毎月プレゼントと手紙をくれるんだ」
 にぱっと笑って答える鉄太を見て、能力者達は男性を見る。男性は見られている事に気がつき「鉄太君、部屋から飛行機持ってきなさい、お兄さん達が悪者を退治してくれたからね」と鉄太を地下室から出す。
 そして鉄太が居なくなった後。
「両親が死んでいる事を言わないで下さい。18歳だけど、あの子はまだ10歳なんです。両親が死んでる事を知って‥‥耐えられる保障は無い」
 男性が頭を下げながら「お願いだから」と必死に訴えてくる。
「プレゼントや手紙って‥‥?」
 柊が呟くと「職員同士でしている事なんです、僕も昨日聞いたばかりですけど」と男性は目を伏せながら言葉を返してきた。
「元気になったら能力者になって、悪者を退治して父ちゃんと母ちゃんに会いに行く、それが鉄太君の今の夢です――もう少し心を強く持てるまで、両親の事は言わないでおきたい」
 そこへ鉄太が「せんせいーっ、持ってきた」とふらつく足で帰って来た。リハビリは順調に行っているようで、まだふらつきこそするものの確りと自分で歩いている。
「鉄太君、能力者になりたいんだって? 力は責任を伴う物だよ。時には何かを(誰かを)犠牲にする事もある。悩んで悩んで悩みぬいてそれでも能力者になるのなら‥‥その時は宜しく」
 レールズがにっこりと笑いながら鉄太に話しかける。
「訳も分からず放り出され、どうすれば良いのか分からないかも知れん。しかしこれからどう生きていくのかはお前次第だ。答えが出て、その時俺達の助けが必要なら声を掛けてくれ」
「LHは良い人達ばかりです。きっと鉄太さんの力になってくれる筈です。いえ、なりたいと思ってます」
「俺、リハビリ頑張るっ。だから姉ちゃん宜しくな」
 鉄太がにぱっと笑って言葉を返し、その姿を見てテトはため息を吐く。
(「世界侵略を行うバグアの事を話して、両親の死を話して、悲しみを怒りに転化させたらって思ったが――まだ早い、か」)
 テトは仲間達と話していたが、鉄太の姿を見るとまだ両親の死を受け入れられるようには見えなかった。
 結局、両親の死の事には触れず、能力者達は鉄太達を保護した後に報告をする為、本部へと帰還したのだった。

END