タイトル:帰って来たもやしマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/02 00:25

●オープニング本文


あなたは覚えているだろうか?

天使のような外見に悪魔のような性格の少女――キルメリア・シュプールの事を。

通称・萌え+癒し=もやしと呼ばれている少女の事を。

※※※

「もやしちゃんだよね? 相変わらず可愛いね」

本部に任務を探しに来た能力者が『もやし』ことキリーに話しかけると‥‥。

「うるさいわね、私に話しかけてる暇があるんならキメラの一匹でも倒したらどうなの? へたれ」

このように、以前にも増して悪魔な性格っぷりを見せていた。

「相変わらずねぇ、もやし」

「でもあんなに可愛いんだから、少しくらい態度が悪くても許せちゃうな〜、俺」

女性能力者と男性能力者が話していると、会話が聞こえたのかキリーがつかつかと近寄りながら‥‥。

「そんなに許せるんなら毎日話しかけてあげましょうか? この変態ロリコン。可愛い女の子を見てハァハァしてる変態でも一応能力者なんだから人様の役に立ったらどうなの?」

ふん、とキリーは言葉を残して別な能力者のところへと歩いていく。

「‥‥前言撤回、あんのクソガキャ〜‥‥」

「可愛いから許せるんじゃなかったの?」

他人の前では悪魔どころか魔王並の性格を見せるキリーだったが、一人だけ悪魔を見せない人物がいた。

「キリー、また人を困らせているんじゃないでしょうね」

キリーの母親が頭を能力者達に頭を下げながら話しかけると「ううん、全然」とさらりとキリーは言葉を返す。

「今もね、キリーは弱いから皆の足を引っ張るかも知れないってご挨拶してたのよ? 少し前まではやんちゃだったけど、キリーももう大人なんだから!」

「あら、そう? 皆さん、うちの娘をどうぞ宜しくお願いします」

ぺこりと母親が頭を下げた時だった‥‥。

『さっきの事、チクったらぶっ飛ばすぞ』

紙に殴り書きしたものを見せながらキリーが般若のような顔で能力者達を影から脅している。

「いや、別に‥‥元気なお子さんじゃないですか、まるで二重人か――くぅっ!」

男性能力者がさらっとチクろうとしていると、キリーは何処から取り出したのかシャンパンのコルクを男性能力者目掛けて飛ばす。

「こら! 何をしてるの!」

「ご、ごめんなさい‥‥皆に飲んで貰おうと思って開けたらコルクが飛んで行っちゃったの‥‥」

しゅんとしながらキリーは母親に謝り、コルクを飛ばした男性能力者のところへと歩いていき「大丈夫?」と声をかける。

「死にたくねぇんならよ、余計な事は言わない方が身の為だよ? 風呂に入った時に超機械でビリっと行く?」

ぼそぼそと男性能力者にしか聞こえない程度の大きさでキリーが般若の顔で呟く。

「キリー? どうしたの?」

「ううん、何でもな〜い、お兄ちゃんに『痛いの痛いの飛んでけ〜』ってしてたの!」

くるりと振り向きながら表情を般若から天使に変える様は拍手を送りたいほどだ。

「ねぇ? そうだよね?」

キリーが男性能力者に向き直りながら、天使の表情から般若へと変えて問いかける。

「は、はは‥‥大丈夫。思わずお兄ちゃん天国に行くところだったけど、もやしちゃんのおかげで元気になれたよ」

男性能力者がキリーの肩にぽんと手を置いた時、母親は少し視線を外していた。

「‥‥‥‥ふっ」

その隙にキリーは男性能力者の手を払い、触れていた所をパパッと払い「私の体は高いんですけど? 一生借金地獄に沈んでみる?」と睨みながら呟くと「‥‥エンリョシマス」と降参のポーズを取って男性能力者は手を離したのだった。

ちなみに此処まで読んでくれた貴方なら分かるだろうが、もやしは『サイエンティスト』として半年ほど前に傭兵登録をしている。

そして、その任務の中で彼女により毒舌攻撃で沈まなかった者は存在しない。

「さぁ、行きましょ。楽しいキメラ退治の時間だものね」

そう言って笑う彼女は凄く楽しそうで輝いていた。


――
もやし補足
・もやしの本名は『キルメリア・シュプール』と言い、キリーと呼ばれる事が多い。
・もやしの由来は『萌え+癒し=もやし』らしい。
・服装は以前はピンクのフリル付ドレスだったが、最近はアリス風にミントブルー系の服装をしている事が多い。
・栗色の髪にふわりとしたウェーブの外見『だけ』は可愛い女の子。
・以前の捜索シナリオでは12歳だったけれど、現在は13歳(誕生日は10月5日)
・性格は前の悪魔を越えて、現在では魔王クラスになっている。
・気安く話しかけると『ロリコン』と罵られ、名前を名乗ると『あんたの名前なんて興味ないわよ』と返される、物凄く天邪鬼な少女。
・母親の前では態度が180℃変わって、まさに天使のような少女に変貌。
(しかし隙を見ては魔王に戻る)

もやしの必殺技
・暗闇万歳‥‥視線を同じ高さに合わせるとくらう目潰し‥‥被害者多数

・ビリっと感電‥気に入らない事をした人物が風呂に入っている時間を見計らって侵入して電気製品(コンセントにコード差込状態で)投げ入れる‥‥被害者少数
(ネタ技なので、死に至る事はない)

●参加者一覧

アーシュ・シュタース(ga8745
16歳・♀・DF
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
宵藍(gb4961
16歳・♂・AA
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
神咲 刹那(gb5472
17歳・♂・GD

●リプレイ本文

―― 魔王の名はもやし ――

「至らない部分ばかりある娘ですが、宜しくお願いします」
 もやしの母は能力者達に丁寧に頭を下げ、その横で「宜しくお願いします」と天使の微笑みを浮かべながらもやしが挨拶を行う。
 そして能力者達も挨拶を行い、母親を見送った後にもやしに目をやると「ぷはー」と煙草(型チョコ)をふかしながら「あんた達も挨拶しなさいよ」とまるで雲の上から見下ろすかのような態度で能力者達に言葉を掛ける。
「我が名はアーシュ! 天を撃つ魔王アーシュ・シュタース(ga8745)なり!」
 最初にアーシュが自己紹介をするがもやしはそ知らぬ態度で明後日の方向を見ている。
「‥‥って聞きなさいよ! キルメリア・シュプール!!」
 アーシュはやや涙目になりながら叫ぶが「私が聞くなんて一言も言ってないわよ、馬鹿」と下からジロリと睨みながら言葉を返す。
「ふふん、あっちが魔王なら、ボクは隠しボスの破壊神だにゃ♪」
 白虎(ga9191)が呟くと「きっと勇者に見つけてもらえなくて一人寂しくドミノでもしてそうな隠しボスなのね、おめでとう」ともやしは高笑いをしながら言葉を返す。
「にゅふふふ‥‥私は如月・菫(gb1886)――寛大な私はチミッコ相手に怒るなんて事はしないのですよ」
 如月が他の能力者達が毒舌攻撃にあっている姿を見ながら呟くと「宜しくね、ニラ」ともやしは手を差し出しながら挨拶をしてくる。
(「‥‥怒らない代わりにもやしの座は私が頂くのです」)
「ねぇ、聞いてるの? ニラ? そうだ、これをあげるわね」
 もやしは鶏肉ミンチパックを差し出しながら「ニラと混ぜて作る鳥団子は美味しいのよ」と悪魔な笑みを浮かべながら言葉を続けた。
 そんな中、ぷちんと何かがキレる音がして『このガキャ‥‥許さん、許さんのです』と如月がもやしに対して復讐を決意した。
「‥‥俺はディッツァー・ライ(gb2224)、宜しく頼む」
 子供の警戒心を解くには、相手の目線で話すべし――心の中で彼は呟いてもやしと目線を合わせて話しかけるが――「何を偉そうにしゃがんでいるのよ」と今回初の暗闇万歳の犠牲者となってしまい、本部の中で転がりまわる彼の姿が多くの能力者に発見される。
「大丈夫ですか!? すぐに消毒しますから!」
 白雪(gb2228)は慌てたように消毒液をディッツァーの目に直塗りする――彼はより酷い絶叫をあげながら本部の中をのた打ち回った。
「もやし‥‥随分なネーミングと言うか、褒められている気がしないな、俺なら‥‥。それにぶっちゃけ能力者って顔良いの多いし、わざわざ子供に走らんでもと思うんだが‥‥」
 先ほど被害にあった男性能力者の事を思い出しながら宵藍(gb4961)がボソリと呟くのだが――「別に私が望んでもやしになったわけじゃないわよ」と背後から魔王オーラを漂わせながらもやしが話しかけてくる。
「これだからガキって困るのよね」
 もやしはため息混じりに呟くのだが宵藍は立派な成人男性、そこは決して聞き逃せない言葉だった。
「お、俺は子供じゃないからな! これでも立派に数年前に成人してるんだ!」
 宵藍が反論すると「それなら人のあだ名の心配する暇があるんなら自分の顔を老けさせる方法でも考えたらどうなの? 童顔」と更にもやしはばっさりと斬りつけて来た。
(「今回は面白い事になりそうだな、俺様は傍からほくそ‥‥もとい、暖かく見守らせてもらうか」)
 テト・シュタイナー(gb5138)はガクリと膝を付きながら泣きそうになる宵藍を見ながら心の中で呟く。そんな時にもやしと目があって、もやしは自分の年齢と身長、テトの年齢と身長を見比べ「へっ」と鼻で笑う。
(「‥‥あーいう輩は、真正面からぶつかるだけ損、我慢しろ、俺様」)
 テトは拳を強く握り締めながら自分の鉄の心を奮い立たせる。
「えーと‥‥一応キメラ退治がメインだから‥‥それなりに対策を立てておこうよ」
 もやしに弄られる者を見ながら神咲 刹那(gb5472)が苦笑気味に言葉を掛け、もやしと目が合う。
「えっと、キリーと呼んで良い? 嫌なら言い方を変えるけど」
 神咲が話しかけると「別に何でもいいわよ。あんた初任務なんでしょ?」ともやしが言葉を返す。
「うん。初任務で迷惑をかけるかもしれないけど宜しく頼むな」
「別に宜しくしなくていいわよ」
 もやしは偉そうに言葉を返すと、のた打ち回っているディッツァーに「いつまで転がってるのよ」と高速艇の方へと歩き出したのだった。


―― キメラよりもやしが怖いんです ――

 能力者達は班分けなどは行わずに、前衛と後衛に分かれて戦闘を行うという作戦を立てていた。
「何と言うか前より後ろの方から嫌な気配がするって言うのはどうなのかしらね?」
 アーシュが苦笑気味に呟く。
「そういえば自己紹介してなかったわね、私は真白――さっきまでは白雪だったけど宜し「別に宜しくしたくないわよ」」
 覚醒を行った為、白雪から真白に変わった彼女だが、そんな彼女をもばっさりともやしは斬り捨てる。
「そう? じゃあ好きに呼んでくれていいわ。返事出来る保障ないけど」
 真白が呟くと「わかったわ、おばちゃん」ともやしが言葉を返す。
「別に返事をしなくてもいいわよ? 返事するまで呼び続けるだけだから、おばちゃん」
 もやしはけらけらと笑いながら「ま、まぁ‥‥チョコでも食べるか?」とディッツァーがもやしに『板チョコ』を差し出したのだが‥‥もやしはそれをバリバリと食べた後「別にチョコなんて好きじゃないわよ」と口の周りにチョコをつけて言葉を返した。
(「にゅふふふふ‥‥犬と子供と言えばトラウマ――もやしに犬のトラウマを植えつけてやるのですよ」)
 ニラと呼ばれた事の復讐に如月は心の中で計画しながらキメラ捜索を続ける。
「キリー大丈夫? 結構この森は暗いから怖かったら――「他人を気にする余裕があるんならさっさとキメラを探しなさいよね、ヘタレ」――ハイ」
 しくしく、と泣きたい気持ちを抑えて宵藍がキメラ捜索を続ける。
「獣道とか辿ったりすりゃ、すぐに見つかるだろ。森も小さいんだしよ。ま、こんな捜索はもやし様は出来ねぇ‥‥もとい、やらないだろうからな」
 真面目っ子ちゃんな俺様が頑張ってやるぜ、テトが大きく伸びをしながら呟くと「本当に真面目なら、自分で言わないよ」ともやしからすかさずツッコミが入る。
 その時、もやしが転びそうになった所を神咲が抱きとめて助けるが「何勝手に触ってるのよ、ロリコン」と罵声を浴びせる。
「一応、あんまり年は変わらないからロリコンという言葉は合わないかな」
 苦笑しながら言葉を返すと「分かったわ、ぴったりの言葉を考えててあげる」と天使の微笑みを向けながら答えたのだった。
「む、あそこにいるのは犬型キメラ!?」
 森を少し進んだ所で白虎が『100tハンマー』を構えながら呟き、他の能力者達も其方に視線を向けると確かに犬キメラが能力者達に対して威嚇している姿が視界に入ってきた。
 しかし‥‥。
「前門の狂犬、後門のもやし、か。むしろ俺の背中を護って欲しい気がするな、主にもやしから」
 ディッツァーが呟くと「さっさと行きなさいよ」ともやしが彼の足をガスガスと蹴りつけながら犬キメラにけしかける。
(「前衛は何と言うか災難というか貧乏くじを引いたって感じね、まぁ精々誤射に気をつけなさい」)
 アーシュが拳銃『黒猫』を構えながら前衛で戦う能力者達に向けて心の中で呟く。
「ほら、さっさとあんたも行くのよ」
 もやしは白虎に向けて呟くと「うわ〜ん、お姉ちゃんが苛める〜♪」と何処か楽しそうに叫びながら『100tハンマー』を振り回しながら犬キメラに向かっていく――がスポンと手から離れてハンマーはもやしの方に向かっていった。
「ディッツ君、お願い!」
 もやしの危機を感じて真白がディッツァーを蹴り飛ばしてもやしの盾にする。もちろん「ぐはぁっ!」と彼は叫ぶが、誰も気にしない。
「‥‥モミアゲがなければ、即死だっ「そんなワケないでしょ、馬鹿じゃないの」」
 もやしが呟くと「にゅふふふふ〜〜っ」と叫びながら如月が犬キメラを連れてもやしの所へやってくる、もやしにトラウマを与えようとしているのだろうが、犬キメラは既に如月を標的に決めているようでもやしの所に行く気配は全くない。
 既に何が何やら状態の状況を見て「誰か‥‥俺にチームワークと言う言葉を教えてくれ」と宵藍が呟き、もやしが持っていた紙に『チームワーク』と書いて、それを宵藍に渡して「まぁ、頑張りなよ」と果てしなく上から目線で言葉を投げかけた。
 そんな中、テトは真面目に後方から支援を行っていた。能力者には『練成強化』を使用して武器を強化したり、キメラに『練成弱体』を使用して防御力を低下させたりなど。
「さすがに、初任務とは言えこの程度の相手に負けるわけには行かない」
 神咲は『リンドガーフィンネイル』を構え、犬キメラの前へと出て『急所突き』を使用して攻撃を行う。
「あんな雑魚に負けては魔王の名折れだわ」
 アーシュは拳銃『黒猫』を構えて『両断剣』を使用しながら攻撃を行う――が弾丸は犬キメラに当たることはなく、前衛で戦っている能力者の横を掠める。あらゆる意味でこの戦いには敵が多かったようだ。
「‥‥そういえば、さっき私にハンマー投げたわね?」
 ちょうど後方へと下がってきた白虎の耳を強く引っ張りながらもやしが問いかけると「‥‥わざとじゃないよ、ホントダヨ」と最後の片言が明らかに嘘臭く言葉を返して、前衛を支援する為に白虎は『閃光手榴弾』を使用した――のだが、何も言わずに投げてしまった為に数名の能力者が『目が、目が〜〜』状態になってしまう。
「さ、流石にヤバくなりそうなので真面目にするですよ」
 如月は『竜の鱗』を使用しながら犬キメラに彼女の愛刀であるニラ‥‥ではなく『菫』で攻撃を行う。
「何でニラじゃないわけ」
 もやしが首を横に振りながら野次を飛ばすが、雑魚敵に倒されるのも癪なので如月はもやしの野次を気にせずに戦いを続ける。
「悪いが、今の俺は機嫌が悪い。お前に恨みは全く無いが、俺の心の平穏の為に牙嵐の錆になれぇ!」
 ディッツァーは『【OR】獅子刀 牙嵐』で犬キメラに攻撃を行う。
「‥‥弄られキャラに平穏なんて存在しないのよ」
 もやしの魔王な微笑みと共に呟かれる言葉が彼の耳に入って、攻撃をし損ねる所だったが『豪破斬撃』『紅蓮衝撃』『急所突き』を使用して犬キメラへと攻撃を命中させた。
「‥‥犬風情が。抵抗する暇も無く殺してあげる」
 真白は呟きながら『二段撃』を連続で使用しながら攻撃を行い、ざざ、と足を踏ん張り『二段撃』『流し斬り』『両断剣』を使用して攻撃を行う。
 明らかにもやしパワーで能力者達の精神的な攻撃力が上がっているのは言うまでも無い。
「はっ!」
 真白の攻撃の後に飛剣『ゲイル』を振り上げて『円閃』で宵藍が犬キメラに攻撃を仕掛ける。
 その間にテトは負傷した能力者達に『練成治療』を行い、もやしへと視線を移す。彼女とは距離を取っており『あんだけ偉そうに振舞ってるんだから一人で出来るだろ』とテトは心の中で呟いていた。
「ありがとう、おかげで、もう少し頑張れそうだ」
 テトが治療している間に、もやしも神咲を治療しており、彼がお礼を言うと「礼を言う暇があったらさっさと倒してきなさいよね」と呟き神咲を前線へと送り出す。
 その後、もやしへの怒りなどを糧に能力者達は犬キメラに同情したくなるほどにをフルボッコして退治したのだった‥‥。
 ちなみに後から分かるのだが、もやしによって数名の能力者は『練成弱体』を掛けられるという恐ろしいほどの足手まといさをもやしは見せていたのだとか‥‥。


―― 相変わらずのもやし ――

「今回のキメラは弱かったから良かったようなものの、これがもっと強敵だったら危ないだろ!?」
 ごもっともな正論で宵藍がもやしに向けて叫ぶのだが――もやしは俯き、黙ったまま何も言葉を返さない。彼の心の九割を占める良心が痛んで、もやしと目線を合わせる為にしゃがみ込んだ時に『暗闇万歳』が彼に襲い掛かる。
「‥‥あんた、誰にモノを言ってるわけ? 私が頑張らなくても他が頑張ればキメラは退治出来るでしょ? それともあんた、あれくらいのキメラも倒せないほどにヘタレなわけ? あとで反省文持ってウチに来なさいよね」
 目潰しを受けて転げまわる宵藍にもやしが話しかけるが、きっと彼は話を聞く所ではない。
「ハンっ、結局単なる我侭な餓鬼ね、度が過ぎているという問題があるけど」
 アーシュが呟くがもやしはそれをさらりとスルーして「だから話を聞きなさいってば! キルメリア・シュプール!!」と再びアーシュは涙目で言葉を投げかけたのだった。
「あんたもハンマー投げるんなら、もっと狙って投げなさいよね。人としてどうなのよ、それは」
 もやしが白虎に駄目出しをすると「ボク子供だから分かんな〜い」と言葉を返すのだが虎のヘアバンドを引っ張りながら「子供だからこそ子供の特権で何でも許されるのよ」ともやしは言葉を返した。
「今度あんたにはニラを送ってあげるからそれで戦いなさいよね、ニラの名にかけて」
 もやしが呟き、如月が反論するが、勿論それが受け入れられる筈もない。
 そんな姿を見てディッツァーが「覚えておくといい」ともやしに話しかける。
「世の中には理不尽で不条理で非常識な奴もいる、そんな大人にはなるんじゃないぞ?」
 真白を見ながら呟き、もやしはニヤリと笑い「おばちゃん、この人がおばちゃんの事を理不尽で不条理で非常識な人だって」と教えて差し上げた。
「お疲れ様、ディッツ君、これ――飲んでね」
 真白は『リンゴジュース』を今にも割れそうな程に握り締めながらにっこりと話しかけるが、その笑顔がディッツァーは恐ろしく感じられたのだとか。
「まぁ、彼の言う事も一理あるわね、自分の前でだけ良い子にしてて、裏では人を傷つける事も厭わない子だとお母さんが知ったら、どう思うのかしら」
 真白の言葉に「バレなきゃいいのよ」ときっぱりはっきりと言い切る。
「でも、無茶は止めた方がいい」
 神咲がポツリと呟く。
「‥‥俺は、目の前に守ると誓いを立てたんだ、まだ力が足りない事は理解している。それでも『守りたい』と言う心を持ち続けたい。それが俺の生きる意味だから‥‥」
 神咲の言葉に「じゃあ、私を守らせてあげるわよ」とさらりと言う。
「誓いを立てたんなら遣り通しなさいよね、それがオトコってモンでしょ」
 にっこりと魔王な笑みを浮かべながらもやしが呟き「よし、飯でも食いにいくか」とテトが提案をする。
「何ならもやし、お前も行こうぜ? 奢るからよ」
 テトが話しかけるが「あんたに借りは作りたくないわよ」ともやしは言葉を返し、ずっしりと重い財布を見せたのだった。


END