タイトル:強くない誰かの物語マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/21 02:01

●オープニング本文


アタシはか弱い乙女‥‥(生物学上は♂だけど、心は乙女なんだから!)

外見通り(身長190近くあるけど)戦うのが苦手だし、か弱いから上手く闘えないのよね。

折角イケメンゲット‥‥ぢゃなくて! 人の役に立つ為に傭兵になったんじゃないの!


※※※

「今回、一緒にデート(任務)する事になったヌエよ♪ どーぞ宜しくね☆」

明らかに女性モノの洋服を身に纏って現れたのはヌエと名乗る能力者(エキスパート)だった。

彼‥‥いや微妙に彼女な彼は【弱い】と言う事で有名なオカマ。

任務に赴き、戦闘になれば真っ先に逃げ出し、おまけに迷子になって能力者達に更なる手間をかける。

血を見るのが嫌いで、自分の血、仲間の血、敵の血が流れると貧血を起こしてしまう。

(「‥‥また厄介な奴が来たなぁ‥‥」)

能力者がため息を吐くと「あら、ため息吐くと幸せが逃げちゃうわよ〜?」とヌエが話しかけてくる。

「でも、貴女がため息吐くのも分かるわ‥‥だってアタシ、弱いものね‥‥どの任務でも迷惑ばかりかけていたから‥‥」

ヌエは俯きながらため息混じりに呟き「でも! 今日からのアタシはいつもと違うの!」と言葉を付け足す。

「イケメンゲットの為に‥‥バグアやキメラの被害に苦しむ人の為に頑張るつりよ!」

(「‥‥今、イケメンゲットの為って言った」)

(「しかも、何事もなかったかのように言いなおした‥‥」)

拳をグッと握り締めて呟くヌエに多少の‥‥いや、かなりの不安を能力者達は感じずにはいられなかった。

「あら、ヤダ!」

ヌエは今回の退治対象となっているキメラの資料を見て大げさに手を口元にあてて驚いた口調で叫ぶ。

「‥‥? どうかしたのか? その町に知り合いが居るとか――「やぁん、このキメラ! 滅茶苦茶アタシ好みだわーーーっv」――皆、気をつけるんだ、意外と敵は間近にいると思う、うん」

キメラの資料を抱きしめながら「禁断の愛ね! でもアタシ達は結ばれない運命なのよねぇ!」と叫ぶヌエに能力者達は頭を抱えたくなったのだった。


ヌエ(鵺)――伝説上の怪獣、正体不明の物事、人物。

辞書には【鵺】について、こう書き綴られているがまさにその通りだと思う能力者だった。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
榊 紫苑(ga8258
28歳・♂・DF
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
皓祇(gb4143
24歳・♂・DG
ルカ・ブルーリバー(gb4180
11歳・♀・ST
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER

●リプレイ本文

―― 危険人物・鵺との任務 ――

「こんにちは♪ エキスパートの鵺よ♪ どうぞ宜しくね♪」
 投げキッスを男性陣に勢いよく投げながら厄介な能力者・鵺が挨拶を行う。もちろん男性陣はその投げキッスを勢いよく避ける。
「セレスタです、宜しくお願いしますね」
 セレスタ・レネンティア(gb1731)が丁寧に挨拶をすると「宜しく☆」と鵺が無意味な動きをしながら言葉を返してくる。
「初めまして、宜しくお願いしますね――初任務なので、少し緊張していますが‥‥」
 皓祇(gb4143)が呟くと「皓祇さんは初任務ですか‥‥緊張しなくても大丈夫ですよ」とセレスタが緊張を和らげるように言葉を返した。
「さぁイケメンの為‥‥げふん、一般人を苦しめるキメラを退治しに行くわよぅ!」
 叫ぶ鵺に「‥‥今、イケメンって言った」と奉丈・遮那(ga0352)がポツリと呟く。彼の中で自分は『イケメンの部類に入らない』と思っているらしく、自分は狙われる事はないだろうと安心している部分があった。
 しかし、この数分後にその安心は見事に砕かれる事になる。
「悪寒が走ってますね? 嫌な予感が――」
 榊 紫苑(ga8258)が呟いた時、彼の頬の数センチ横を鵺の拳が風を切る。
「‥‥オカマが走ってますね? って言った?」
 果てしなく耳の悪いオカマ――もとい鵺に「‥‥悪寒、と言いましたが」と榊は苦笑しながら言葉を返す。
「あら、ヤダ! アタシったら聞き間違いしちゃったのね! しかも貴方イケメンじゃないの!」
 いやん、うふん、などと鳥肌が立ちそうな言葉を交えながら呟く鵺を見て「嫌な予感がします」と短く呟いた。ちなみに榊のこういう予感は外れた事がない。
「‥‥その、よく分からない、けど。頑張ろう、ね」
 ルカ・ブルーリバー(gb4180)がくねくねと妙な動きをする鵺を見ながらポツリと呟く。ちなみに彼女は『キメラ退治』の任務に参加した筈なのに、思わぬ事態(鵺)に少しばかり吃驚しているようだ。
「まぁ『愛』の形は色々あるし‥‥俺は応援してるよ♪」
 朔月(gb1440)がルカに言葉を返す、彼女にとって不可思議な物体や興味深い存在も好意の対象なので、鵺の妙な行動は全く気にならないのだろう。
「うむ、確かに嗜好は人それぞれだしな――フローネ殿、貴女も参加してらしたのか」
 シルヴァ・E・ルイス(gb4503)が鵺を見ながら呟くと、見知った顔が視界に入ってきて意外そうにフローネ・バルクホルン(gb4744)に話しかけた。
「ん? まぁな――」
 フローネは何かを考えているようで「ふふ」と笑みを浮かべながら高速艇へと乗り込む。

「さぁ、現地での行動班を決めましょ♪ アタシが決めて来たんだけどどうかしら?」
 鵺はにっこりと笑みながら彼が考えたという班分けを書いた紙を見ると――見事に男と女が分けられていた。
「今回は気合を入れていかなくちゃね、何しろイケ‥‥キメラ退治なんですもの!」
 そう言いながら鵺は『マムシ☆最高』と書かれた栄養ドリンク――精力剤を一気に飲み干す。一体、鵺は何を頑張ると言うのだろうか。
「このキメラも好みなのよねぇ‥‥残念だわぁ」
 鵺ががっくりと肩を落としながら呟くと「いくら好みだと言っても相手がキメラでは‥‥」と奉丈が苦笑しながら呟くと――鵺の瞳がキランと輝く。
「あらぁ、心配しなくても貴方もすごーくアタシ好みなのよ? アタシと貴方の仲という事で清い交際から始めない?」
 会ってから十数分後にいきなり告白をされ、しかも『アタシと貴方の仲』と勝手に決められてしまい、奉丈は「いえ、遠慮します」と思わず即答してしまう。
「酷いわああああああっ、アタシの純情を弄ぶなんて酷いじゃないの! 榊ちゃん、貴方ならアタシの気持ちが分かるわよね!」
 よよよ、と泣き真似をしながらどさくさに紛れて鵺は榊に抱きつく、もし榊が女性だったならば十分にセクハラ罪で訴えられるだろう。
「まぁ、そういうのはどうでもいいとして。今の格好でも良かろうが、私が良い服を持っている、こちらに着替えてみては如何かな?」
 フローネが取り出した服――‥‥それは黒いゴスロリ、紫の女性用スーツ、ピンクのひらひらフリルの三種類だった。
「あらあら、アタシこれが着たいわぁ♪」
 鵺が指差したのは黒いゴスロリ、それを見た一部の能力者達は「うわぁ」と心の中で呟く。
 そして化粧などもばっちり行われて、鵺(ゴスロリバージョン)との任務が開始されたのだった。


―― キメラよりも鵺が厄介な任務 ――

「被害状況はそこまで酷くはないんだな、軽傷者が数名、最悪の事にならない内に住人達は避難しているみたいだし‥‥目撃情報も町の入り口付近だとさ」
 朔月が調べてきた事を纏めたメモを見ながら呟く。
「‥‥と言う事は入り口付近から警戒を強めなくてはいけませんね」
 奉丈は自分に抱きつこうとしている鵺を避けながら呟き、避けた先にいた榊に鵺が抱きつく事となる。
「それにしても貴方の顔が見えないわねぇ、それ取れないの〜?」
 鵺がAU−KVを装着した皓祇を見ながら問いかけると「私の顔は見えなくとも、此方からは確り拝見できますから」と言葉を返す。それと同時に「いやぁぁぁんv」と叫ぶ鵺に思わず能力者達はため息を吐く。
(「‥‥190cm以上の男がゴスロリか‥‥流石にキツイな」)
 シルヴァは鵺を見ながら冷静に感想を心の中で呟く。
「‥‥あれが問題の町ですね」
 セレスタは着陸した高速艇から降りて、少し歩いた先に見える町を見て小さく呟く。入り口付近で目撃されたという情報もあるから、彼女は最初から警戒を弱めるつもりはなかった。
「‥‥‥‥取りあえず、仕事‥‥だな」
 シルヴァは『蛍火』を構え、町の入り口付近に立つ奇妙な男を鋭い視線で見ながら呟く。
「皆‥‥頑張って、です」
 ルカは呟きながら後ろへと下がり『練成強化』を使用して、能力者達の武器を強化する。
「さて、鵺さんがどんな行動に出――「きゃあああv イケメンじゃなーーいっ!」‥‥成程、そう出ますか」
 奉丈は『狙撃眼』を使用して『長弓』で攻撃を仕掛けると「何するのよぅ! 彼が痛がってるじゃない!」と鵺から盛大なブーイングが飛んでくる。
「ダメ、だよ。あの人は悪い事ばかり、してるから。人も傷つけて、そんな人がいいの?」
 ルカが首を傾げながら鵺に問いかけると「でも、タイプなのよぅ」と言ってキメラに向かって走り出す。
「鵺さん!」
 ルカが大きな声で叫ぶと「ルカさん、大丈夫ですか? 彼女は私が押さえます、下がってください」と皓祇が『竜の翼』を使用して鵺の前へと先回りをする。
「私を彼の所に行かせて‥‥」
 昼ドラのようなノリで鵺が呟くと皓祇は首を横に振って「手荒くなりますが、失礼しますよ」とAU−KVを装着したまま、鵺をお姫様抱っこしてキメラの所から離れる。
「チッ、一撃が重いようだが、世の中、そんなに甘く無いんだぜ?」
 榊は邪魔者(鵺)がいなくなった事を確認すると『両断剣』と『二段撃』を使用してキメラに攻撃を仕掛ける。キメラは反撃として武器を振るって反撃を行ってくる。
「ま、俺は鵺がキメラに近づこうが抱きつこうが攻撃をやめる気はなかったしな」
 朔月は『【OR】天狼』と『快刀 嵐真』を振りかぶってキメラに攻撃を仕掛ける。その間にも鵺の「うぎゃあ」とか「やめてぇぇぇ」とか叫ぶ声が聞こえてくるが彼女はばっさりと無視する。
「前衛を援護します‥‥!」
 セレスタは『クルメタルP−38』で牽制攻撃を行いながら、援護しやすい場所へと移動して、武器を『サブマシンガン』に変更する。
「もうやめてぇぇぇぇぇっ」
 鵺は叫び、キメラに向かって走り出す――が、攻撃を受けて血まみれの姿を見て「きゃあああっ」と叫びながら走る途中でバタンと倒れてしまう。
「あんな所で倒れたら‥‥攻撃してくださいと言っているようなものですね」
 奉丈が呟き、言っている傍からキメラが鵺に向かっていく姿が見えた。
「チッ、一体何がしたいんだ――‥‥」
 榊はため息混じりに『天照』を構えてキメラに攻撃を仕掛けて、鵺から自分にと気を引き付ける。
「大丈夫ですか? 全く‥‥」
 皓祇が鵺を抱えて、前線から離脱すると鵺が眼を覚まして「あ、アタシの為に争わないで!」と見当違いな事を鵺は叫び、前衛能力者達はガクリと肩を落とし、僅かな隙を作ってしまう。その隙を突かれ、榊とシルヴァは小さな傷だがダメージを負う。
「私は別に鵺殿の奪い合いで戦っているわけではないのだがな」
 シルヴァはため息混じりに呟くと、キメラの背後に移動して『円閃』を使用して攻撃を行う。
「全く、あの程度の男が好みとは――鵺も大して趣味が良くないんだのぉ‥‥私の好みではないから遠慮なく攻撃させてもらうぞ」
 フローネは呟くと『超機械γ』で攻撃を行うと奉丈も『長弓』で攻撃を行い、キメラの足を射抜く。
「そろそろ、退場してくれ、これ以上疲れるのは――嫌なんだ」
 榊はため息混じりに呟き、キメラを攻撃して後ろへと下がる。
「まさか敵に本当に惚れるとはねぇ、いや――惚れるって言うより見境が無いって感じ?」
 朔月が失神している鵺を見ながら可笑しそうに笑い、キメラへと攻撃を行う。キメラそのものは大した強さが無いらしく、苦戦する事はなかった。
「射撃開始します‥‥!」
 セレスタが大きな声で叫ぶと、前衛能力者達は左右に避け、それと同時にセレスタが『サブマシンガン』で攻撃を行う。
 そして背後からシルヴァが『円閃』で攻撃を行い、キメラ退治は無事に終えたのだった。


―― 夜闇に響くオカマの声 ――

「酷いわぁぁぁぁっ、アタシの恋を返してえええ‥‥」
 あれから数時間後、鵺がようやく意識を取り戻したのだが――無残な遺体となったキメラを見て大きな声で泣き始めたのだ。
「こんなに恋したのは初めてだったのに、酷い、酷いわ‥‥」
(「出会って数十分で僕に告白した人が、どの口でそんな事を言うんでしょうね」)
 奉丈は鵺を見ながら心の中で呟く。きっとそれを口に出してしまえば『責任を取って!』と言われかねないからだ。
「ま、世の中そういう事もある!」
 朔月が鵺の背中をバシンと叩きながら話しかけると「あって欲しくないわよぉっ!」と余計に大きな声で泣き始める。
 ぶっちゃけるとウザイ事このうえない。
「色んな意味で疲れた。とりあえず、頑張れよ? 出会い求めて」
 榊がポンと鵺の肩を叩きながら話しかけると「アタシの出会いを奪ったくせにぃぃ!」とフリルのたっぷりついたハンカチを噛み締めながらキッと榊を睨みながら叫ぶ。
「これ、どうぞ‥‥これからも頑張って下さいね」
 セレスタが『ミネラルウォーター』を鵺に差し出しながら話しかけると「‥‥ありがと」とお礼を言いながらミネラルウォーターを受け取り、それを一気に飲み干す。
「泣き止んでください、貴方が泣いていると私まで悲しいですし‥‥」
 皓祇が鵺に話しかける、ちなみに女誑しのような台詞を言っている彼だがこれは決して彼自身の本心ではなく『任務だから』と言う事を覚えていてもらいたい。
 その時、薄緑色の燐光が集い、幻想の犬や猫が現れて鵺の足元で彼を止める為か慰める為か分からないけれどちょろちょろと動いている。
 ちなみにその犬や猫は全て手のひらサイズでルカが覚醒している時に現れるものだ。
「お前達‥‥アタシを慰めてくれるの? でもアタシにはもう生きる希望が‥‥」
 何故か話がかなり大きくなっているのだが、能力者達が退治したのは『鵺の彼氏』ではなく『一般人を苦しめるキメラ』だと言う事を強く強調しておこう。
「今回は残念だったな。だが、人生まだまだ先はある。そのうち良い人が見つかるであろうよ」
 フローネが慰めるように話しかけるが「その『そのうち』を待って10年以上経ってるわよぅ!」と瞳にぶわっと涙を溜めながら言葉を返してくる。
「どうせなら、同僚――能力者の中から良い男を探せばいいではないか」
 さらりとシルヴァが呟き、鵺の動きがピタリと止まる。
「‥‥同僚?」
 そしてゆっくりと俯いていた鵺の顔が上がっていき、今回の任務を共にした男性陣へと視線が行く。
「アタシは決めたわ! この中の誰かがアタシと付き合ってくれなくちゃ初恋の人を死なせた事を許してあげない!」
 びしっと奉丈、榊、皓祇を指差しながら叫ぶ。
「さぁ! アタシと付き合って付き纏われるか、それともアタシと付き合うのを断って付き纏われるか、どちらかを選びなさい!」
 鵺が立ち上がりながら男性陣に向けて叫ぶと、彼らは顔面蒼白になっていた。
(((「「「えええええっ、何その究極の選択は!!」」」)))
「良かったな、許してくれるってよ」
 朔月が笑いを堪えながら男性陣に言葉を投げかける。
「‥‥これで、良かった、のでしょうか?」
 ルカが首を傾げながら呟くが、キメラに向かっていくよりはいいのかなと思えて彼女も納得することにした。
「‥‥頑張ってください」
 セレスタが何処か哀れみを含んだ視線を男性陣に向けながら呟く。
(「‥‥もしかして、この展開は私のせいなのか?」)
 ほとんどが『自分じゃなくて良かった』と思う中、シルヴァは男性陣に対して多少の罪悪感を覚えていたが、あまり深くは考えない事にした。
「鵺、なんだったら紹介してやっても良いが‥‥若いのとジジィ、どちらが好みかな?」
 フローネの言葉に男性陣は「助かった」と心の中で呟くのだが――‥‥。
「会ってみなくちゃ分からないわ、アタシは今この三人が一番お気に入りだからv」
(((「「「えええええ‥‥」」」)))
「さぁ、帰るわよーぉ! 何ならアタシの部屋に来てもいいわよー♪ さぁ、さっさと報告をして帰りましょ! 愛の巣へ!」
 戦闘時に何もしていないだけあって、無駄に元気の残っている鵺を見ながら女性陣は男性陣に対して『とりあえず、生き残れ』と思うばかりなのだった。

(「‥‥何か、この人との関わりが今後もありそうなのは気のせい‥‥?」)
 腕を引っ張られながら、榊は心の中で小さく呟いていたのだった。


END