●リプレイ本文
―― 赤い鳥 ――
「空を飛ぶ赤いキメラか、全くバグアの野郎――そんなものを野に放ちやがって少しは人の迷惑を考えろって‥‥まあ、そんな事を考える奴が地球侵略なんてする筈がないか」
やれやれだぜ、ザン・エフティング(
ga5141)は『カウボーイハット』を被りなおしながらため息混じりに呟く。
「赤い鳥型ねえ? 一匹だと楽なんだが、数匹固まっている事もあるな?」
神無月 翡翠(
ga0238)は資料を見ながら呟く。確かに資料には『一匹』だとも『複数』と言う事も書かれていない。つまり複数存在する事も頭に置いてから行動しなければならない。
「赤ねぇ。同じ『赤』がトレードマークの者同士、どっちが上か勝負と行こうじゃないか」
犬塚 綾音(
ga0176)が腕を組みながら不敵に微笑んで呟いた。
「皆さん、今回も宜しくね!」
椎野 のぞみ(
ga8736)が元気に笑って、今回一緒に任務を行う能力者達に挨拶を行い、神無月が持つ資料を覗き見る。
「赤い鳥かぁ。とりあえずボクは今回弓で先制攻撃かなぁ‥‥あとは住民の人の安否確認は、退治後がいいかな?」
椎野は首を傾げながら呟くと「その方がいいでしょうね」と犬塚が言葉を返してくる。今回のキメラは動くモノに対して攻撃を仕掛けてくるという情報もあり、先に住人と合流してしまうと住人が危険に巻き込まれる可能性があるのだ。
(「そういえば‥‥赤い色って言ったら‥‥アヤコちゃん元気かなぁ‥‥」)
椎野は心の中でポツリと呟く。両親を殺されたショックにより『赤』を嫌い、そして恐れた少女――だけど能力者達のおかげで救われた少女。
「もうすぐ現地に到着しそうですね、真っ赤な鳥のキメラ――さっさと片付けましょうか」
鹿嶋 悠(
gb1333)が外を見ながら呟く。彼の頭の中にも椎野と同じくアヤコの事があった。
(「そういえば以前、赤色が怖いと言う子の依頼も受けましたっけ‥‥アヤコさんだったかな? 今頃元気にしているといいですが‥‥」)
そう心の中で呟く鹿嶋だったが、彼を含めてアヤコと面識がある能力者達は『目的地にアヤコがいる』と言う事など夢にも思わないだろう。
「赤は警戒色でもありますね。さて‥‥どうしてわざわざ赤い色にしたのでしょう?」
柊 沙雪(
gb4452)が「あ、宜しくお願いします」と一緒に任務を行う能力者達に挨拶をしながら呟く。
「とりあえずー、キメラをおびき出す為に、堂々と町を練り歩く――でいいんだよね?」
田中 アヤ(
gb3437)が作戦を確認するように能力者達に声をかける。
「うん、現地に到着次第『探査の眼』でボクが探してみるね」
椎野が言葉を返すと「あぁ、そういえばこれ‥‥」とザンが目的地の地図をバサリと広げて見せてきた。
「本部に申請して貸し出してもらったんだ、町そのものは大した広さじゃないから、キメラを探すのもそんなに苦労する事はないんじゃないか?」
確かに地図を見ても、町の規模そのものは小さくキメラ捜索そのものは難しい事はないだろう。ただ、無茶な戦い方をすれば町に被害が行くかもしれないというのも事実だったりする。
「『シグナルミラー』で光を反射させてれば、すぐに見つけて襲い掛かってくるだろうな――とは言えキメラの方が先に俺達を見つけて空からの不意打ちってーのは流石にやばいからな」
ザンは『双眼鏡』を手に持ちながら「こいつで先にキメラを発見してからやるのが良いだろうな」と言葉を付け足した。
「大丈夫っすよ。鳥ごときに負けねぇっすよ。俺言わば天使っすから」
紅月・焔(
gb1386)が『ぐっ』と拳を握り締めて言葉を返すのだが――まず意味が分からない。
「赤い鳥? ふ‥‥赤がパーソナルカラーのこの俺に対する挑戦状か‥‥」
紅月は言葉を続けながら髪を掻きあげるのだが――全く持って見当違い。きっとキメラは紅月に挑戦状など出してはいないし、能力者達も彼を天使だと思っていない‥‥筈だ。
「ま、まぁ――あ、そろそろ目的地に到着しそうだから、そろそろ準備しよっか」
高速艇が目的地に近い事を知り、準備をわたわたとし始める。
「よし、俺も団地妻を、昼下がりのOLを見に行くぞ」
紅月は勇んで高速艇を降り、能力者達はそれぞれキメラ退治(と団地妻&昼下がりのOL)の為に任務を開始し始めたのだった。
―― 静まり返った町、その中で羽ばたく火の鳥 ――
能力者達は、高速艇の中でも言っていた通り班分けを行う事はせずに固まって行動を行う事にしていた。
「あ、あれぇ? 誰も居ない? 道行く団地妻は? 昼下がりのOLは?」
紅月だけは作戦内容を聞いていなかったらしく、恐ろしいほどにしょぼんとしながら周りを見渡している。
「さて、何処にそのキメラがいるか――だね」
犬塚は空を見上げながら呟くが、キメラの姿はまだ確認できていない。
「ちょっと待て、見てみるから――‥‥」
ザンが『双眼鏡』でキメラの捜索を始める。それと同時に椎野も『探査の眼』で捜索を開始する。彼女が『探査の眼』を使用したおかげで不意打ちや待ち伏せなどにがあっても発見しやすくなる事だろう。
「小さいけれど雰囲気の良い町ですね、本来ならばこんなに静か過ぎる事はないのでしょうが‥‥」
鹿嶋がため息混じりにシンと静まり返った町中を見渡しながら呟く。
「ふ‥‥この女性陣の数‥‥この依頼‥‥勝ったな」
一人だけ明らかに違う事を考えているのが紅月だった。ちなみに彼はキメラ警戒を行う――ふりをしながら女性陣を見ているという、むしろ彼を警戒した方がいいんじゃないかと言う行動を取っていた。
その時――「「いたっ」」とザンと椎野の声が重なって能力者達は二人に視線を向ける。
「少し先にキメラの気配が感じられます。さっき羽ばたくような妙な音も聞こえたし‥‥」
「あぁ、そこの教会の奥にある建物――そこの影に赤い翼らしきものを見た」
椎野とザンが呟き、能力者達は警戒を余計に強める。
「さーさー町を荒らす悪い子ちゃんは出ておいで! あたし達は此処だよ!」
田中は大きく息を吸い込むと、辺り一帯に響くような大きな声で叫ぶ。それと同時に赤い姿のキメラが物陰から奇声を上げながら現れる。
「意味もなく派手な色ですね。見つけ易いのはいいですけど‥‥」
柊は淡々とした口調で呟くと『疾風脚』を使用しながら小銃『フリージア』で翼を狙って攻撃を仕掛ける。
「あたしら近距離専門組には厄介な相手だね、空を飛ぶ奴ってのは」
犬塚は呟きながら「だけど」と言葉を付け足しながら『ソニックブーム』を使用してキメラの翼を狙って攻撃を行う。
「今日のあたしには『ソニックブーム』があるからね。それに遠距離が得意な奴もいるし、あんたに勝ち目はなさそうだね」
犬塚は不敵な笑みを浮かべながら呟き、キメラが落ちてくるのを待つ。
「空中から落として、地上に落ちた所をトドメとなる感じかな? 支援しますので頑張って下さい」
神無月は能力者達に『練成強化』を使用して武器を強化し、『練成弱体』を使用してキメラの防御力を低下させる。
「全員で攻撃すれば危なげなく倒せるだろうが――油断はしないでおこう」
ザンは『ショットガン』で自分に向かって攻撃してくるキメラに対してカウンターで攻撃を行う。彼自身も僅かに傷を負ったが、軽傷なので構わず攻撃を続ける。
「あなたは運が悪かった。私達が来たからね」
椎野は静かに呟き長弓『草薙』を構え『影撃ち』を使用して翼部分を狙って攻撃を行う。
そして彼女の攻撃に合わせるように鹿嶋が『ペイント弾』でキメラの視界を奪おうとするが、タイミングが合わずにペイント弾はキメラの目の近くに当たるだけで終わってしまう。
「‥‥‥‥」
だが、無言で『アンチシペイターライフル』を構えて援護射撃をする紅月の攻撃でキメラの動きが一時止まって、鹿嶋は二つ目の『ペイント弾』を使用してキメラの視界を奪う事に成功した。
「むー、銃ってあんまり慣れないんだよなぁ‥‥」
田中は不満そうに呟き、『瑠璃瓶』で「そんな所にいないでさっさと降りて来ーい!」と叫びながらキメラに向けて『瞬天速』を使用して攻撃を仕掛ける。
徐々にキメラそのものは降下し始めているがまだ近距離組が攻撃できる範囲までは降りてこない。
「とりあえず言うこと聞かないからこの羽ぼっしゅー!」
田中は『瑠璃瓶』で他の射撃組と一緒に翼を狙い撃ち、完全にキメラの翼がその意味を成さなくなり、地面へと落ちる。
「む、ちゃんと爪切ってるのー!?」
地面に落ちたキメラに田中は武器を二刀小太刀『花鳥風月』に持ち替えて、キメラの右足の鋭い爪を斬る。
残った翼で懸命に飛ぼうとしている姿を見て、鹿嶋が長刀『乱れ桜』を構えて攻撃を仕掛ける。その間にキメラも攻撃を仕掛けてくるが、単調な動きしか出来ないためか鹿嶋は傷を負うも「動きが単調すぎる!」とすれ違い様に切り裂くようにしてキメラの翼に攻撃を仕掛けた。キメラの勢いをも利用したためか威力は普段より大きい。
「人を襲うんなら、上から目線はいけないね。同じ位置で戦うもんでしょう――理解できないだろうけど」
犬塚は呟きながら『蛍火』でキメラに攻撃を仕掛ける、爪を斬られ、翼も失い、今のキメラは能力者に斬られ、撃たれるだけのサンドバッグ状態でしかない。
「さっさとやられた方がマシだっただろうにな」
ザンは『ショットガン』で攻撃を行いながら呟き、椎野は『バスタードソード』に武器を持ち替えてトドメを刺す為に走り出す。
「忌まわしき赤の鳥。消えなさい!!」
椎野が武器を振り下ろし、間髪入れずに鹿嶋も『豪力発言』と『流し斬り』を使用して「己が血で赤く染まるがいい!」と叫びながらキメラに僅かな動きも与えぬように攻撃を行う。
「終わりです‥‥」
柊も二刀小太刀『疾風迅雷』に持ち替えて『瞬天速』で接近した後に『二連撃』で攻撃を行い、キメラにトドメを刺したのだった――‥‥。
―― 偶然なる再会、そして彼女にとって『今の赤』とは ――
「お疲れ、さてと――もう一仕事か? 面倒くさいが‥‥」
神無月が大きく伸びをしながら呟く。能力者達の任務は『キメラを退治する』だけだったのだが、住人達にキメラを退治した事を知らせようと言う事になって、静かな町の中を歩いていた。
「資料には一匹だけとは書いてなかったしな、万が一の可能性でキメラが残っているかもしれないから一応見回っておかないとな」
ザンが呟くと「そうですよね、住人達にも早く安心して欲しいですし」と椎野が言葉を返して、一軒一軒周って『キメラを退治した』と言う事を知らせていく。
「‥‥はっ、あれ? 鳥は‥‥? 俺の団地妻は?」
ハッとしたように紅月が我に返り、周りを見渡しながら呟く。戦闘時の記憶を失っているのか、それとも団地妻が居ない現実から逃避しているのか分からない。
町を見れば、先ほどの戦闘音がなくなったせいか人の姿がちらほらと見え始める。そんな中で『キメラを退治した事』を伝えると、住人達は心の底から安心したように能力者達に礼を言ってくる。
「こういう事も立派なあたし達のお仕事、ですよね?」
田中が安心する住人達を見ながらホッとしたように呟く。
「失礼しま〜す、ULTの傭兵です! お怪我はありま‥‥あれ? もしかして‥‥アヤコちゃん‥‥?」
椎野が呟き、アヤコと面識がある能力者達は「え?」と扉から中を覗く。
「あ‥‥いつかのお兄さんやお姉さん‥‥」
アヤコも驚いているようで大きく目を見開いたまま能力者達を見ていると「悪いんだけどさ」とアヤコの隣にいた中年女性が能力者達に話しかけてくる。
「この子を施設まで送っていってあげてくれないかい? 流石にキメラが出た後じゃ一人で帰らせられないよ」
施設は此処を真っ直ぐ行った先にある建物だよ、と中年女性は少し遠くを指差しながら能力者達に話しかける。
能力者達も断る事なく「分かりました」とアヤコの手を握って施設への道を歩き出したのだった。
「元気だったか? 無事で何よりだな」
施設までの道の中、ザンがアヤコの頭を撫でながら話しかけると「まさかお兄さん達が来るとは思ってなかった」とアヤコも苦笑気味に言葉を返した。
「怪我とかはありませんでしたか?」
鹿嶋が問いかけると「うん、おばさんの家の中にずっといたから大丈夫」と鹿嶋を見上げながら言葉を返す。
「あ、これ飲みます?」
田中はアヤコに『コーンポタージュ』を差し出すと、アヤコは差し出されたものと田中を交互に見比べながら目を瞬かせている。
「わ、わ、怪しいものじゃないですよ? ‥‥アヤって言います。宜しくね?」
「アヤ? お姉さん、私と同じ名前だね
アヤコは呟きながら「ありがとう」と『コーンポタージュ』を受け取って飲みながら歩く。
「アヤコちゃん、今回の事でまた赤い色、嫌いになった?」
椎野が遠慮がちに問いかけると「どうだろ、でも‥‥前程嫌いじゃない」と薄く笑みながらアヤコは言葉を返した。
「赤は全てにおいて怖い色じゃないからね」
犬塚が呟くと「お姉さんにとっての赤って何?」とアヤコが聞き返してくる。
「ん、あたしにとっての赤? そりゃ『情熱』に決まってるじゃないか、どこぞの曲にもあるからね」
犬塚が笑いながら言葉を返すと「情熱かぁ」と納得したようにアヤコは言葉を返す。
「赤い色は色々な顔を持っている色だから‥‥でも、ボクはそんな赤い色は特別だから。喜怒哀楽、全ての記憶や思い出が詰まった色だし、ボクがこれから闘う色だから!」
椎野は「だから好きになれとは言わないけれど嫌わないで欲しいな?」と言葉を付け足した。
「赤い色にも色々ありますし、人括りにしてしまう事はないですよ」
柊もアヤコに向けて呟くと「‥‥うん、ありがとう」と短くアヤコが礼を言う。
そうしている間に施設へと帰ってきて、事情を知ったサエが「無事でよかった‥‥」とアヤコを抱きしめながら涙を流した。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん‥‥ありがとう!」
アヤコは笑顔で能力者達に礼を言う。
「ふ〜ん、大事なものや宝物が沢山あるみたいだな?」
神無月がポツリと呟き「え?」とアヤコが聞き返す。
「いい笑顔してるぜ? 頑張れよ」
神無月が言葉を返し、能力者達はそのまま高速艇へと向かい、本部に報告するためにLHへと帰還したのだった。
以前のアヤコを知るものならば、きっと安心出来たであろう。
だって、彼女はあんな笑顔が出来るようになったのだから‥‥。
END