●リプレイ本文
「よろしくね〜、アルちゃん♪」
ハルカ(
ga0640)がプレイシアルににっこりと笑って話しかける――‥‥が、完璧に無視される。
「ありゃ‥‥」
無視されはしたが、特に気にする事なくハルカは「無視されちゃった」と頭に手を置きながら月森 花(
ga0053)に話しかけた。
「プレイシアルさん‥‥味方にまで攻撃仕掛けてくるらしいし‥‥ちょっと怖いね」
月森が視線をプレイシアルに向けながら呟くと「そうですか?」とスケアクロウ(
ga1218)が話に入ってきた。
「私には結構気楽な生き方をしているようにしか見えませんけどね」
スケアクロウの言葉に月森とハルカは互いの顔を見合わせて首を傾げる。
「確かに過去に何かあったのでしょう、だからと言って周囲に目がいかなくてもOK? 自分だけを見ていればいいなんて‥‥結構気楽な生き方だと思っただけですよ」
スケアクロウの言葉が聞こえたのか、プレイシアルはじろりと鋭い瞳で睨んでくる。
「ハハハ、別に深い意味はありませんよ」
そう言ってスケアクロウはおどけた様に笑うと、その場を離れていった。
「私もプレイシアルさんの噂は聞きました‥‥彼女をそこまで駆り立てるものは‥‥いえ、無粋な詮索は止めにしましょう」
如月・由梨(
ga1805)が呟くと、緩やかに首を振り、言葉を止めた。
「とりあえず、どんな理由で戦っているとは言え、目的が同じ以上は仲間だ」
ブレイズ・カーディナル(
ga1851)が呟くと「そうですね」と如月が言葉を返した。
「ふふ、でも真に恐ろしきは目の前の大蛇より、内輪の毒蛇――か。敵の敵は味方とは限らない‥‥まさにこの事じゃないか」
クク、と笑みを浮かべながら呟くのは崎森 玲於奈(
ga2010)。
「おい、お前達に一つ言っておく。どうせ私の噂は聞いているだろう? だったら言うべき事は一つ‥‥私の邪魔をするな」
プレイシアルが今回一緒に戦う『仲間』に念押しをするように話しかける。
「ずっと気を張ってても、疲れるだけだよ? 息抜きは必要だよ」
雪野 氷冥(
ga0216)がプレイシアルに言葉を返す。おそらくその言葉はプレイシアルの張り詰めすぎた気を心配して言っているのだろう。
「無用な心配だ。私はお前達を仲間だとは思わない。仲間など‥‥必要ない」
呟くプレイシアルの表情は少しだけ憂いたものだったが、それに気づいた者はいなかった。
「さて、色々と厄介な仕事ですが――頑張りますか」
アウグスト・フューラー(
ga2839)はため息混じりに呟き、能力者達はキメラ討伐の為に動き出した‥‥。
●キメラ討伐開始――プレイシアルの異常な行動
今回のキメラ退治の為に能力者達は班分けを行った。
まずA班のチームは以下の通りである。
前衛:雪野、ブレイズ、スケアクロウ
中衛:ハルカ
狙撃:月森
そして、B班も同じく前衛などを決め、行動する事になった。
前衛:崎森、プレイシアル
中衛:如月
狙撃:アウグスト
どちらの班もバランスよく班分けがされており、もしキメラが複数いたとしても対処できるだろう。
「ん〜‥‥物静かなのもアレですし、プレイシアルさんは何故能力者をしているんです?」
プレイシアルと同じ班のアウグストが彼女に話しかける。
「‥‥‥‥答える必要はない」
プレイシアルから返ってきた言葉は冷たいものだったが、アウグストの予想範囲の中だった。
「同じ仲間なんですし、何か雑談でもしませんか?」
「私の事を詮索するつもりか? なら無駄な事だ」
プレイシアルの言葉にアウグストは「とんでもない」と笑いながら答えた。
「貴女の過去を探ろうなんて毛頭ありませんのでご安心を」
「‥‥一つ後学の為に教えてやろう。仲間なんてものは信用するに値しないものだ。口ではどんな事を言っても、所詮は人間。心の変わり様は早い物だ」
そう呟くプレイシアルの表情は何処か寂しげなものだった。
「‥‥彼女にあるものは憎悪だけなのでしょうか?」
プレイシアルの行動を見ながら如月が呟く。プレイシアルは一番先頭を歩き、その少し離れた所から能力者達はついていく。
しかし、彼女は意味もなく木の枝を避けたり、途中で地面に剣を突き立てたりなど理解し難い行動を取っていた。
その時―‥‥『ウゥぅ‥‥』と唸るような声が響く。もちろん人間のものではない。
「やはり複数存在したか」
ブレイズが舌打ちしながら忌々しげに呟いた。ちょうど能力者達がいる場所の左右に一匹ずつ虎を模したようなキメラが口から唾液を流しながら此方を見ている。
「忠告はしたぞ、邪魔はするな――とな」
低く呟くと同時にプレイシアルがキメラに向かって剣を突き立てる。咄嗟のことだったためかキメラは避ける事すら出来ずに剣の突き立てを許してしまう。
しかし、その次の瞬間にプレイシアルの頬を鋭い爪が引き裂く。
「‥‥アッハッハッハッハ! 踊るがいい! 舞い散るがいい! そして渇きを癒せえええっ!」
崎森は叫ぶと同時にプレイシアルの攻撃に合わせるように白兵戦を展開する。如月は弓を使っての援護射撃を行い、アウグストは矢を撃ち続け、牽制に徹する。
そして、プレイシアルを攻撃したキメラAは攻撃にひるみ始めたのか、少し動きが鈍くなってきている。
「プレイシアル! 下がったほうがいいんじゃないの? 爪の毒で痺れているんでしょう?」
崎森がプレイシアルに問いかけると「大きなお世話だ」と痺れて震える手で剣を握り締める――が痺れの為に上手く剣を持てない。
「ちっ」
プレイシアルは舌打ちをすると持っていたバンダナで剣と手とを強く縛り上げ、そのまま攻撃に向かう。
「‥‥あっ」
奇襲のように今まで弱り始めていたキメラが襲ってきて、崎森は少しだけ驚くがそれをサイドステップで避け、カウンターのように斬りつける。
それと同時にアウグストの鋭角狙撃がキメラの足を撃ち抜き、如月の矢もキメラの目を射抜く。
「邪魔だ! どけええっ!」
プレイシアルは叫ぶと同時に助走をつけて走り、キメラを木ごと貫いたのだった。
「はぁっ、はぁっ」
激しく息を切らすプレイシアルは次のキメラの元へとよろけながら歩き始めた。
そして、一方A班は‥‥
「思うところは沢山あるけど、まずはキメラ殲滅からね」
雪野は呟き、ロングスピアを持って同じ前衛組の二人から少し距離を取る。まず、前衛が攻撃する為にも中衛と後衛とでキメラの足を抑える必要がある。
ハルカはキメラや前衛たちからある程度の距離を取り、フォルトゥナ・マヨールーで攻撃を仕掛ける。ハルカの攻撃の後、キメラは前衛に襲いかかろうと走り出したが、月森が小銃・スコーピオンを発砲し、キメラの足を止める。
その時、もう一体のキメラを倒し終えたプレイシアルが攻撃に加わってくる。
「‥‥様子が、おかしい?」
月森がよろめくプレイシアルの行動を見て、小さく呟く。
そしてB班の如月が此方へと寄ってきて、キメラによって攻撃を受けている事を知る。
「毒を受けた体で動き回るなんて‥‥いくら致死性がないといっても危険すぎだよ」
月森が援護射撃をしながら呟く。
「うぉっ! 何しやがる!」
叫ぶのはブレイズ。それもそうだろう、目の前数センチを彼女の武器が横切ったのだから。
プレイシアルの攻撃の後、キメラは地面に爪を突き立てる。
「言った‥‥筈だ。邪魔するなら、敵味方関係ないと」
その様子を少し離れた場所から見ていたアウグストは眉根を寄せる。
(「誰彼構わず自身に立ちはだかる存在を伏せようとする彼女‥‥眼前にいるキメラとどう違いがあるのでしょう」)
心の中でアウグストは呟くが、その言葉がプレイシアルに届く事はなかった。
その中、スケアクロウは援護射撃に合わせるように撹乱をして、注意を自分に引き付ける役目をする。
そのおかげでキメラにはかなりの隙が見え、プレイシアルが攻撃した後に雪野とブレイズも攻撃を仕掛け、キメラを仕留める事に成功したのだった。
●プレイシアルの行動――本当の理由。
「私には‥‥噂で聞いた彼女とは少し違った印象を受けました」
キメラ殲滅を終え、負傷した者達が救急セットで治療しているときに如月が呟いた。
「どういう事?」
崎森が如月に問いかけると「此処に来る前です」と言葉を返す。
「彼女は‥‥この中で誰よりも私達を仲間だと思っていたのだと思います、その証拠が木の枝を避けたりして私たちが歩きやすいようにしてくれていました。そして地面に剣を突き立てていたのは、猛毒を持った蛇を始末していたから‥‥」
プレイシアルが取った行動の意味が理解できず、如月はあの時に突き立てた地面を見ていた。
すると、近くに剣で殺された蛇の死骸が存在していた。
「‥‥あ‥‥」
ブレイズも何かに気づいたように呟く。彼がプレイシアルから攻撃を受けようとしていた時、キメラの爪がすぐそこまで迫っていた。
もし、プレイシアルの攻撃でブレイズが後ろに下がっていなければ強力なキメラの攻撃を受けていたことだろう。
「ふふ、冷酷な少女は実際は仲間思いでした――ですか」
スケアクロウがおかしそうに笑いを零しながらプレイシアルを見る。
「人に嫌われるような態度を取ってまで‥‥アルちゃんには何があったって言うの?」
ハルカが問いかけると「‥‥昔の事だ」とプレイシアルがポツリと呟き始めた。
「私が傭兵を始めたころ、キメラ殲滅の為に志を同じくした仲間がいた――私はいつもその仲間たちと仕事をしていた――しかしある時、私達が総動員でも勝てないキメラが存在した‥‥」
プレイシアルは地面の土を握り締めながら、低い声で言葉を続ける。
「仲間は私を刺し、キメラの前に突き飛ばした後――逃げ出した。この目はその時、動けなくなった私がキメラから受けたものだ」
そう言ってプレイシアルは黒い眼帯の所に手を当てる。
隠されたプレイシアルの過去――そして今まで彼女がこんな態度を取らざるを得なかった状況に言葉を発する者はいなかった。
「信じれば裏切られる、裏切られない為には信じなければいい」
そう言いながらも彼女は『仲間』である能力者達を見捨てる事が出来なかった。先頭を歩いていたのも『仲間』を危険から少しでも離れさせるためだったのだろう。
「‥‥つらかったよね」
月森がポツリと呟く。
「そんな事があったなんて‥‥ボクは知らなかったよ」
今にも泣き出しそうな月森に、プレイシアルが少し焦ったような表情を見せる。それはこの仕事が始まってから初めて彼女が見せた人間らしい表情だった。
「そんな仲間を見捨てるような奴らと一緒にされるのはごめんだわ」
「全くだな、助ける為なら言ってくれよ‥‥本気で驚いたんだからよ」
「‥‥同感ですね」
崎森、ブレイズ、スケアクロウがため息と一緒に声を掛ける。
「貴女に足りないもの、それは精神(こころ)を鍛えることですよ。貴女に起きた出来事は非道なものでしたが、それらを全て許せるほどに強くなって下さい」
アウグストがプレイシアルに話しかける。
彼女が探していた幸せは、かつて仲間と分け合った『信頼』
それを失い、自暴自棄になっていたが――彼女は漸く『幸せ』を取り戻せたのかもしれない‥‥。
END