●リプレイ本文
―― 珍妙なミズキメラ参上 ――
「久しぶりなお仕事なのでうまく出来るかしら‥‥」
藍乃 澪(
ga0653)が苦笑しながら呟き、問題を起こしているキメラの資料を見る。
「えーと‥‥失敗作ですよね? このキメラ‥‥なんか、洗面器を返して貰えるなら退治しなくても良い様な気がしてきましたよ‥‥」
藍乃はこみ上げてくる笑いを堪えながら呟くと「近所迷惑なだけのキメラか‥‥珍妙だな」とAnbar(
ga9009)も資料を見ながら大きなため息と共に呟いた。
(「全く‥‥あのスレンダーが良いというのに‥‥どうして邪道に走ったのかしら?」)
シュブニグラス(
ga9903)は心の中でぶつぶつと呟いていた所、今回の珍妙な依頼の事を知り、行き所の無い怒りをぶつける為に参加したのだとか。
「‥‥猫、ねぇ」
シュブニグラスは資料に書かれているキメラの頭に乗せられている猫を見ながらポツリと呟く。彼女自身、今回の依頼はかなりやる気がなかったらしいのだが『猫が大量にいる』と言う事で捕獲する勢いで、依頼に対するやる気を見せ始めた。
「‥‥見れば見るほど本気で頭が痛くなってきた」
堺・清四郎(
gb3564)が手で頭を押さえながらため息と共に呟く。能力者達は今回のキメラの事を考えるだけで何故かため息ばかりが出てしまい、既に多くの幸せが出て行ったような気がする。
「しかし‥‥何でこんなキメラ作ったんだ?」
嫁に行き遅れて遂にキレた三十路女のようなキメラ(堺談)は大量の猫を人質(猫質)に取った上にあまり意味の無い行動で住人達を困らせている。
「しかも現われた場所が銭湯‥‥キメラも風呂に入らんと‥‥だろうか?」
織部 ジェット(
gb3834)が腕組みをしながら考え込むように呟く。
「銭湯‥‥流石に、バハムートを持って入るわけにはいかないでしょうね」
水無月 春奈(
gb4000)は苦笑しながら呟く、今回の戦闘場所となるのは『銭湯』であった。それゆえにAU−KVを中に入れる事は出来ず、水無月は今回『AU−KV』ナシの戦闘となる。
「山で一日遭難していたり、夏物の服を着ていたりとお聞きします。きっとキメラさんは寒かったのでしょう」
退治されてしまう前に、せめて少しでも暖まって欲しいです――ルトリス(
gb5547)は資料に挟まれている『ミズキメラ』の写真を見ながら哀れみの視線を向けたのだった。
「ぐふふふ‥‥私、メアリーちゃん♪ ご一緒する方は本当に『御愁傷様』と言っておくわ。メアリーちゃんはね、お電話と気に入った人を背後から見守るのが大好きなの」
障子にメアリー(
gb5879)が能力者達を見ながら「ぐふふふ‥‥」と少しだけ怖い笑い声をあげて呟く。
ちなみに彼女は気に入っているオペレーターを見守るという一方的なストーカーを行っていたら『君にぴったりの仕事だよ』と泣きながらオペレーターから進められた仕事が今回の依頼だったらしい。
「それじゃ、出発して早めにお仕事を終わらせてしまいましょうか」
藍乃が呟き、能力者達は『ミズキメラ』が隠れ‥‥いや、堂々と陣取っている銭湯へと向かって出発し始めたのだった。
―― 銭湯で戦闘☆ お馬鹿なミズキメラ登場 ――
ミズキメラが出現しているのは、近所でも安いという評判の銭湯だった。ミズキメラはその銭湯の洗面器を奪って一時は逃走したのだが、次なる洗面器を求めて戻ってきたと銭湯のおばちゃんから通報があった。
「とりあえず猫質がいるので『猫じゃらし』と『猫缶』を用意してきたんですけど‥‥早めに猫さんにはご退場願いたいですしね」
藍乃が猫じゃらしと猫缶を能力者達に見せながら苦笑気味に呟く。
「そうだな、張り付いている猫に罪はないからな」
Anbarも腕組みをしながら藍乃に言葉を返す。
「私は脱衣所のコンセントを借りて『こたつむり』を使って、猫の回収を行うわね」
シュブニグラスが呟く。彼女は今回武器となるものを持ってきていないらしく、はがされた猫を回収して他の能力者達を暖かく見守る役に徹しようと決めていたらしい。
「全く‥‥妙なキメラもいるもんだな‥‥」
ため息混じりに堺が呟き、能力者達は問題の銭湯へと到着したのだが――銭湯の前でキメラ――もとい銭湯のおばちゃんが仁王立ちで「ちょっと! あんた達!」と凄い剣幕で能力者達に近づいてくる。
「あんた達が能力者だろ? さっさとあの妙なキメラを追い出しておくれよ! 洗面器は奪うわ、銭湯は占拠するわ、こっちとしては偉い迷惑な話だよ!」
アフロがかった髪の毛を振り乱しながらおばちゃんは叫び、能力者達を銭湯の中へと押し込んで「退治するまで出てこなくていいからね!」と外から鍵まで閉められてしまう。
「とりあえず‥‥キメラがいる場所に行きましょうか――「男湯だよ!」――なんで男湯なんでしょう」
外から聞こえるおばちゃんの声にミズキメラの居場所に水無月はため息混じりに言葉を付け足したのだった。
「ぐふふふ‥‥メアリーちゃんは皆が真剣に戦っている様子を背後からこっそりと見守っているの」
メアリーはマタタビの粉を入れた袋を持って「これを投げつけちゃうの」と楽しそうに一人呟く。
そして――湯気の向こうから現われたのは‥‥猫を頭にたくさんかぶせたふざけたキメラだった。
「見るからに頭悪そうなキメラだな、作った奴の顔が見たいぜ」
Anbarはため息混じりに呟き、頭の上の猫と目があって「‥‥もしかして、ネコを被っている、に掛けているのか?」と信じられないものでも見たような驚きの表情でポツリと呟く。
「え?」
ルトリスが「どうかしましたか?」とAnbarに言葉を投げかける。
「‥‥すまねぇ、今のは流してくれ‥‥」
Anbarの言葉に「はぁ、判りました」とルトリスが言葉を返し、ミズキメラに再び視線を送る。
「‥‥あの、あれって本当に退治しなくちゃいけないんでしょうか‥‥?」
藍乃が困ったような表情で能力者達に話しかける。その間に普通のキメラなら攻撃を仕掛けてくるはずなのだが、何故かミズキメラはみんなの相談が終わるまで待ってくれている。
「まぁ、トドメを刺すのは反対という意見は出しておく。最終的な判断は多数決ってのはどうよ?」
織部が呟くと「それでいいんじゃないかしら? いまいち害がなさそうだし」とシュブニグラスも言葉を返した。
「とりあえず何処かの研究機関に売りつけるなり、押し付けるなりしたらどうだ?」
Anbarが軽く手を挙げて能力者達に意見を言う。
「そうだな、余裕があればそうした方が後味も悪くなくていいかもしれんな。あんなキメラ一匹、別に退治せずとも他に方法はありそうだしな」
堺も『退治』ではなく『捕獲』に賛成らしく自分の意見を述べた。
「私も猫を無事に引き渡すなら、殺さない方法でも構わないと思います。とりあえず、猫さんが巻き添えになるのは嫌ですしね‥‥大人しく返してくれれば良いのですが‥‥」
水無月はミズキメラに視線を向けながら呟く。
「僕はこのコートを貸してあげたいと思います。銭湯に拘るのはやっぱり寒いからなんだと思うんです。あんな寒そうな格好して、きっと猫質を取ったのも寒いから暖まりたいからなんだと思うんです」
ルトリスが寒そうなミズキメラを見て、少しだけ哀れみの視線を向ける。そしてその視線に何故か照れたような仕草を見せたミズキメラ。
「さて、作戦開始ですね」
藍乃が呟き、ミズキメラの近くに行って猫缶を開けて、猫じゃらしを振りながら「はーい♪」とミズキメラの頭に被さっている数十匹の猫に向けて話しかける。
「猫さん猫さん♪ こっちにご飯と玩具がありますよ〜♪」
藍乃が用意した猫缶と猫じゃらしはかなりミズキメラの頭の上にいる猫達の興味を引いているらしく、うずうずとしている猫が多数見受けられた。
(「う〜ん、今にも飛びついてきそうなんですけどね〜」)
藍乃は心の中で呟きながら猫じゃらしを振り続ける。
「‥‥あぁ、なぜ俺はここにいる‥‥」
覚醒を行いながら堺が呟き、目の前の状況に頭が痛くなるのを感じていた。
「キメラのお嬢さん、まだ夏服は早いんじゃないか?」
織部は攻撃を仕掛けてこないミズキメラに『睡眠薬入りの缶珈琲』を差し出した。うまくこれを飲んで眠ってくれれば後の処理はしやすいと判断したのだが――ミズキメラは珈琲の匂いを嗅ぐと『×』と手をクロスさせて『いらない』の意志を表示する。
ちなみに余談だが、ミズキメラは睡眠薬が入っている事を知っていたから飲まなかったのではなく、単純に珈琲が嫌いと言う理由だったりする。
きっと珈琲以外の飲料を渡されていたら、たとえ睡眠薬入りでも迷う事なく飲んでいたことだろう。
その間にルトリスがミズキメラに近づいて「これを着てください」と『コート』をミズキメラに差し出す。
「退治しなければならないかもしれませんが、その前に少しでも暖まってください」
にっこりとルトリスは『コート』を着せて「ごめんなさい、猫さんは引き取らせていただきますね」と猫を一匹はがしていく。引き剥がされた猫は「にゃーん」と鳴き声をあげるとシュブニグラスの『こたつむり』の中へと入っていく。
「ぐふふふ‥‥そんなまどろっこしい事より、こうすれば簡単よ♪」
メアリーは呟きながらマタタビの粉入りの袋をミズキメラに向けて投げつける。その所為でミズキメラはマタタビの粉だらけになってしまい、猫に「にゃーん」「にゃーん」と飛びつかれる事になってしまう。
「ふ、ふんどしー!」
ミズキメラは奇声を上げながら猫を振り払うが「トランクスー!」と藍乃が言葉を返す。あまり特に意味はないが、ノリ的に言って見ただけなのだろう。
しかし、今度はマタタビのせいでミズキメラから猫が離れないという状況に陥ってしまった。
「しかたねぇな‥‥」
Anbarはため息混じりに『巨大ピコピコハンマー』でなぎ払いながらミズキメラから猫をはがしていく。
「そんな恨めしそうな声でにゃあーにゃあー鳴くんじゃねぇよ、まったく。俺も好きでやっているわけじゃないんだぜ」
しかし、それを拒むようにミズキメラが奇声をあげながら叫ぶと「おとなしく引き渡しなさい。猫が巻き添えになってもいいのですか?」と水無月が少しきつい口調でミズキメラに向けて呟く。
「え〜い! やぁ〜!」
ルトリスも『巨大ピコピコハンマー』で猫をなぎ払いながら、シュブニグラスの『こたつむり』まで誘導していく。
「一応、キメラでも女だからな。顔への攻撃は避けたいな」
織部は呟きながらミズキメラが抵抗を始めた頃、腹部を殴る。でも普段の戦闘よりはかなり手を抜いて攻撃を行っている。
そして全ての猫を引き剥がした後、ミズキメラは「きゃーきゃー」と顔を隠しながら銭湯内を走り回り始めた。恐らく猫がはがされた事によって恥ずかしさがピークに達したのだろう。
「覚悟は宜しいですか‥‥? 人前に出てこなければこのような事にはならなかったというのに‥‥」
水無月が天剣『ラジエル』を構えながら呟くのだが――あまり抵抗を見せない。それどころかただ恥ずかしがっているだけにも見える。
「あ、あまり抵抗がないようなので、そのまま研究機関に引き渡してしまえばいいんじゃないかと‥‥」
藍乃が苦笑しながら呟くと、他の能力者たちも同じ事を考えていたらしく、ミズキメラは戦う事なくそのまま御用となる――筈だったのだが。
「ふんどしーーーーーっ」
いきなり叫んで銭湯の中を走り出すミズキメラに能力者達は多少驚いてしまう。
「仕方ありませんね、本当は猫さん用の作戦なんですけど‥‥」
藍乃は「強硬手段に出ちゃいますよ」と蛇口にホースをつけて水流MAXでミズキメラに向けて噴射しようとしたのだが――ここはお約束なのか、藍乃は手を滑らせてしまいホースを暴れさせて能力者全員がびっしょりとずぶ濡れになってしまう。
「あ‥‥あははは〜☆ まぁ銭湯ですから濡れても大丈夫ですよね」
だけど彼女は気がついていない。自分の服が濡れて透けているという事に。
「ねぇ‥‥あれ、何をしてるのかしら」
シュブニグラスがミズキメラを指差しながら呆れたように呟く。ちなみにミズキメラの状態は滑って転んで浴槽のふちで頭をぶつけて倒れていた。更に言うならば藍乃の暴れさせたホースのせいではない。
むしろ『銭湯の中では走ってはいけません』と言う事を身をもって教えてくれたようなものである。
「‥‥と、とりあえず何処かの研究機関を呼べばいいんでしょうか」
水無月がポツリと呟き、能力者達は戦わずしてミズキメラを退治する事に成功したのだった。
―― さらば☆ミズキメラ また会う日まで ――
それから数時間して、キメラ研究機関の能力者がミズキメラを引き取りにやってきた。
「あんまり、こういうのはいらないんですけど‥‥」
ため息混じりに呟く研究員にミズキメラが哀れに思えたが、そこはあまり気にしない事にした。
「えーと、こういう場合は何か歌でも歌った方がいいんですかね」
藍乃はまるで売られていく牛のようなミズキメラに苦笑しながら呟き、研究員に連れて行かれる姿を生温い目で見つめていた。
「まぁ、せめて人類様の役に立てよ? それがお前の存在意義だ」
Anbarはミズキメラに向けて呟く。勿論彼の言葉などミズキメラは理解していないのだが、彼も言わずには居られなかったのだろう。
「一匹猫ゲット☆ 名前は何にしようかしら‥‥ミズキ‥‥?」
シュブニグラスは今回のキメラの名前であるミズキメラから『ミズキ』と言う名前を取って連れて帰る猫の名前にしたのだった。
「まぁ、お前もこれから頑張れよ。もう人前に出てくるんじゃないぞ」
堺はミズキメラに向けて呟く。
(「トラメ流の奥義を使わずに済んでよかったのかな」)
堺は心の中で呟き、間抜けなミズキメラの顔を見て大きなため息が出たのだった。
「このまま切り殺されるよりは生きながらえた方が良いでしょう‥‥神がそれを望むのなら、ですが」
水無月が呟くと「退治せずに済んでよかったです」とルトリスも研究員からミズキメラに貸していたコートを受け取りながら呟く。
「研究所で暖まってくださいね〜」
にっこりと笑いながらルトリスはミズキメラが連れて行かれる姿を見送ったのだった。
「ぐふふふふ‥‥報告が終わったらまたオペレーターの人を見守りに行こう。お家に帰るのを確かめた後にお電話するんだから」
メアリーはいつの間にか輪の中に入っていて「ぐふふふ」と少し怖い笑みを浮かべていた。
その後、能力者達は報告するのも恥ずかしい事件の報告を行う為に本部へと帰還していった。
そしてメアリーはきっとオペレーターの所に電話をするのだろう。
「私、メアリーちゃん。今、貴方のお家の前にいるの♪」――と。
END