タイトル:四葉のクローバー・希望マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/14 01:54

●オープニング本文


信じていれば裏切られる。

希望を持っても、何も無い。

だから僕は何も信じない。

幸せの四葉のクローバー?

‥‥そんなもの、クソ喰らえだ。

※※※

「お兄ちゃん、これをあげるね」

妹のセイルは『四葉のクローバー』が象られたブレスレットを差し出してきた。

確かそれはセイルの誕生日に母さんから貰ったもので、凄く大事にしていた記憶がある。

「それ‥‥お前が大事にしてたモンじゃないか」

「セイルはいいの、お兄ちゃんがいるから。でもお兄ちゃんはお母さんとお父さんが死んじゃってから元気がないから――元気が出るようにこれをあげる」

僕にとって、セイルは生きる『希望』だった。

キメラに両親を殺されたにも関わらず、健気に僕を励まそうとするセイルの姿を見て、僕も『頑張ろう』と言う気持ちになっていた。

それなのに――‥‥。

セイルが死んだ、たった一人の大事な妹が殺された。

「‥‥信じて、裏切られて、希望を持って、絶望を感じさせられて――これからの僕はどうしたらいいんだよ」

首を掻き切られた以外は綺麗なままの妹の遺体を見ながらポツリと僕は呟く。

(「‥‥絶望も希望も何もかも僕は信じない」)

いっそのこと、僕も死んでしまおう――セイルの死んだ場所で。

そんな事を思いながら僕はふらふらと歩き始めたのだった。

●参加者一覧

ノエル・アレノア(ga0237
15歳・♂・PN
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
沢辺 麗奈(ga4489
21歳・♀・GP
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
田中 直人(gb2062
20歳・♂・HD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA

●リプレイ本文

―― 希望を無くした少年を ――

「一体全体、どうして捨てられた町なんかに行ったのやら」
 鹿島 綾(gb4549)がため息混じりに呟くと「死にたいんだよ」と少年の事を知る女性が俯きながらポツリと言葉を返してきた。
 能力者達は作戦を実行する前に少年の事を聞こうと依頼主である女性との接触をしていた。
「‥‥死にたい?」
 ノエル・アレノア(ga0237)が首を傾げながら呟くと「一人になってしまったから‥‥」と事情を知っている女性がつらそうな表情で言葉を返してきた。
「あの子は妹と二人で頑張って行こうとしていた時に‥‥妹のまで殺されちゃったから‥‥」
 女性の言葉に能力者達に少しだけ重苦しい沈黙が流れ「‥‥はぁ」とミア・エルミナール(ga0741)のため息で沈黙が壊される。
「夢も希望も無い世界、復讐に燃える子供もいれば、こういう子もいるか‥‥責めるつもりはないけど、やるせないね」
 ミアの言葉に「‥‥そうだな」と九条・縁(ga8248)が拳を強く握り締めながら言葉を返す。
「世界は何時だってこんな筈じゃない事ばっかり‥‥ずっと昔から何時だって誰だって差別区別なく‥‥な。こんな筈じゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由だ」
 九条の言葉に「でも子供には辛すぎる現実‥‥」とシャーリィ・アッシュ(gb1884)が悲しそうな表情を見せながら言葉を漏らした。
「あの子はセイルちゃんが死んでから、消えてなくなりたいと何度も言ってました‥‥だから」
 女性はそれだけ言うと俯きながら嗚咽混じり呟き、あふれ出る涙を堪えるように両手で顔を覆う。
「その子に消えてもらっては困ります、子供が死んでしまうのは――嫌だから」
 田中 直人(gb2062)が女性に言葉を返す。
(「なんか最近、救助ばかりやってるな‥‥ま、性に合ってる‥‥のか?」)
 田中は心の中で自問自答をするが、答えてくれる人はいなかった。
「‥‥例え善意の押し付けになっても、生きてもらいませんとね」
 澄野・絣(gb3855)が呟くと「どうか、あの子を宜しくお願いします」と女性が丁寧に能力者達へと頭を下げる。
「とりあえず何でその子は廃墟なんて行くん? キメラがおる所なんやろ?」
 沢辺 麗奈(ga4489)が女性に問いかけると「その場所は、セイルちゃんが死んだ場所なんです」と涙をぼろぼろと流しながら言葉を返す。彼女の言葉を聞いて何で少年が『廃墟』に向かったのか、その理由を知る事が出来た。
「とにかく、キメラに襲われて最悪の事態を迎えない為にも‥‥急いで出発しましょう」
 ノエルが呟き、能力者達は少年が向かったとされる廃墟へと出発したのだった。


―― 廃墟・死を望む少年と生を望む能力者 ――

 本部を出発して、少年が向かったとされる廃墟へと能力者達はやってきていた。この廃墟にはキメラが潜んでいるという事もあり、能力者達は班を分けて行動するという作戦を立てていた。
 A班・沢辺&ノエル。
 B班・シャーリィ&鹿島。
 C班・田中&澄野。
 D班・九条&ミア。
「とりあえず『トランシーバー』で連絡を取りつつ、散開してまず少年の確保から始めようか」
 ミアが呟くと「せやな、早めに見つけて確保せんと何しでかすか分からんからなぁ」と沢辺も苦笑しながら言葉を返し、能力者達は少年の保護、そしてキメラの捜索を開始し始めたのだった。

※A班※
「‥‥結構、建物とか崩れていますね」
 ノエルが捜索をしながら町の建物などを見回してポツリと呟く。
「何回かキメラが現れてる場所や聞いたからなぁ、せやから住人も町を捨てて移動したんちゃうかな」
 沢辺も周りを見ながら言葉を返す。確かに町中の至る所に残るキメラの爪跡は新しいものから古いものまで混在していた。
「あれ‥‥?」
 ノエルが何かを見つけたように呟きながら立ち止まり、それにつられるように沢辺も立ち止まってノエルに声をかける。
「いえ、これ‥‥足跡みたいだなと思って」
 ノエルが地面を指差しながら言葉を返す。彼が指差した先には靴跡が残されており、大きさから言っても子供の靴跡だった。
「まだ新しいんやな――って事はこの辺におるんかな?」
 沢辺は呟き、他の班に連絡をしようとしたのだが――あいにく、二人とも『トランシーバー』を所持していなくて連絡が出来ず、そのまま少年捜索を続けたのだった。

※B班※
「一応、地図を申請してて良かった――‥‥とも言えないか、この状況じゃ」
 鹿島が苦笑しながら地図と町とを交互に見比べる。町そのものに多少の面影は残っているけれど、地図上にあるべき建物がなかったりなどして、あまり地図が役に立つとは思えなかった。
「でもある程度の場所が分かるから、やはり必要だと思いますよ、地図」
 シャーリィが地図を見ながら鹿島に言葉を返し、少年、そしてキメラの捜索を行うが、B班が捜索している所にはどちらの気配も見られない。
「この辺にはいないのかねぇ、特に変わったモンは全くありゃしない」
 鹿島がため息混じりに呟くと、比較的新しい傷がついている壁を見つけた。鋭い爪跡が壁に残されており、その壁の近くには血痕も残されている。
「渇いてるけど、そんなに昔の血痕じゃなさそうですね」
 シャーリィが壁に残された血痕を見ながら冷静に分析していく。
「この廃墟に潜んでいるキメラの残したものならば、急いで少年を保護した方が良さそう」
 シャーリィが呟くと「そうだね、急ごう」と『トランシーバー』で他の班に連絡を入れた後、再び捜索を開始したのだった。

※C班※
「田中さんが一緒で少し心強いです」
 澄野が不気味な廃墟の中を捜索しながら呟くと「そ、そう?」と田中は少し照れたように言葉を返す。ちなみに澄野にとって田中は友達のお兄さんと言う関係だった。
 彼らの捜索は田中のAU−KV『バハムート』をバイク形態にして後ろに澄野を乗せながら捜索するというやり方だった。
「ま、折角バハムートを手に入れたしな、性能テストと行こう」
 こいつだって、前に出られるんだ――と田中は言葉を付け足して、バハムートで町の中を駆けていく。
 その時だった、瓦礫と化した建物の近くで座る少年を見つけたのは。
「止まってくださいっ、あそこに子供が‥‥っ」
 澄野の言葉を聞いて、田中はバイクを勢いよく止める。そして視線を移すと、空ろな瞳で空を見上げる少年の姿があった。
「きみ、セイルちゃんのお兄ちゃん――だよな?」
 田中が空を見上げている少年に話しかけると「‥‥あんた、誰」と視線はそのままで言葉だけを返してきた。
「此処はキメラが居るんです、だから‥‥」
 澄野が呟くと「知ってるよ、だからボクは此処に来たんだ」と素っ気無く言葉を返してくる。
「危ないから――「ボクは死にたいんだ、放っておいてよ」――」
 澄野の言葉を遮って少年は話しかけてくる、その時にD班が「キメラを見つけた」と言う連絡をしてきてC班はキメラが現れた所まで向かうことにする。
 その際に何をするか分からないから不本意だったけれど、少年を置いていく事は心配だったので一緒に連れて行く事にした。
(「‥‥何をするか分からないから、気をつけておかないと‥‥」)

※D班※
「両親を失って、自分が妹を守らなくちゃ――と言う時に妹を亡くして自棄になっているんだろうなぁ‥‥」
 まだキメラを発見していない頃、九条はそんな事を言いながら少年とキメラ捜索を行っていた。
「‥‥まぁ、今の時代じゃそういうのは珍しくもないんだろうけどさ‥‥」
 ミアもため息混じりに言葉を返す。
「でも死にたいというのは不謹慎だと思うけどなー。生きたいと思いながら死んでいった人間は大勢いるんだからさ」
 少年が死を望んでいるという事を聞いて、少し憤りを感じているのか呟きながら「さーて、何処にいるのかねー」と少年、キメラを探す。
 その時だった、何か獣のような唸り声が聞こえ、勢いよく其方を見る。すると虎に似た獣――キメラが口からだらしなく涎を垂らしながら此方を見ていた。
 それを見たミアは『トランシーバー』で連絡を行い、自分達がいる場所を知らせたのだった。


―― 戦闘開始・キメラと少年 ――

 D班からの連絡を受けた後、他の能力者達はD班と合流をした。その中で『トランシーバー』を持っておらず連絡が取れなかったA班は途中でC班と偶然合流したおかげで、一緒にD班の場所へと向かう事が出来た。
「あれが‥‥セイルを殺したキメラ――ボクも、ボクも殺せぇぇっ!」
 少年はキメラに向けて悲痛な、そして大きな声で叫ぶ。その声にキメラは少年の方へと気づいたのか素早く走って少年に鋭い爪を振りかざす。
「くっ‥‥」
 ノエルが『瞬天速』を使用して、一気にキメラと少年の間に割り込んで入ると『ロエティシア』でキメラの爪を受け止める。
「何で‥‥何で邪魔するんだ! ボクは死にたいっ! 死にたいんだよ!」
 少年が『四葉のクローバー』が象られたブレスレットを強く握り締めながら「ボクを殺せ!」と尚も喚き続けている。
「死のうと思う意思は結構‥‥だが、その意思と決意の強さを別の方向に活かすといい」
 シャーリィは呟きながら『竜の咆哮』を使用してキメラを掌打で弾き飛ばし、少年との距離を取らせる。
「キミが死んじゃうとコッチも困るんだよね〜っと」
 ミアは『豪破斬撃』と『紅蓮衝撃』を使用しながらキメラに攻撃を行い、少年に向けて言葉を投げかける。
「『瞬天速』で動き回って『疾風脚』で能力底上げ、そして『急所突き』で仕留める‥‥の三点セット、どそ〜♪」
 沢辺は楽しそうに呟きながら三つのスキルを使用して、キメラに攻撃を仕掛ける――が彼女の予想通りには行かず、キメラはふらつきながらもまだ能力者達を威嚇していた。
「‥‥何で皆邪魔するんだ‥‥ボクはセイルのところにいきたいんだよっ!」
 少年が大きな声で叫んだ時に「阿呆ぅっ!」と沢辺が少年に負けないくらいの大きな声で叫び、ぱしんと渇いた音が響き渡る。
「このまま死んだら、ただの無駄死にやろうが! あの世で妹はんとどんな顔で会うつもりや!」
 沢辺の言葉に少年が何か言い返そうとしたが、それを手で止めて「話は後や、まずはあいつを倒す」と言葉を残して少年の近くから離れ、前線へと戻っていった。
「さて、この間のアイツとどっちが速いのか――って思ってたけど、一目瞭然であっちだなぁ‥‥まぁ、アレも素早いんだろうけど」
 九条がため息混じりに呟きながら「俺達8人の相手じゃないね」と言葉を付け足して『クロムブレイド』を構える。
「死んで俺の経験値になれ〜〜〜!」
 九条は『両断剣』を使用しながら攻撃を行い、キメラを勢いよく斬りつける。その攻撃の後、シャーリィがキメラに動く暇を与えぬかのように接近して攻撃を行った。
「貴様等、バグアはいつも人の夢や未来を奪う‥‥ならば‥‥私は貴様等の明日を奪おう‥‥それが無慈悲に殺された者‥‥利用しつくされて無念の内に殺された者への‥‥手向けだっ!」
 シャーリィは再び『バスタードソード』を振るい、怒りに満ちた表情でキメラに攻撃を行う。
「そんな爪があるから、人を傷つけるんだよな」
 田中は『竜の翼』を使用しながらキメラに急接近して『試作型機械剣』で攻撃を行い『ショットガン20』でも追撃する。その際に『竜の角』と『竜の瞳』を使用してより確実にダメージを与えられるようにしていた。
「死のうとしたのも、妹を大事に思っていたからだ――お前はあの子の妹を殺し、挙句にあの子まで殺そうとするのか‥‥救いようないな」
 田中は怒りに満ちた瞳でキメラを一瞥し、それと同時に澄野が『影撃ち』を使用して長弓『桜花』でキメラの目を射抜く。
「ボクは死にたい‥‥一人ぼっちでこんな世界で生きていたくなんかないんだっ!」
 少年が叫ぶと「甘えるんじゃないよ」と鹿島が少年の肩を掴み大きな声で叫ぶ。鹿島は『真デヴァステイター』で援護射撃を行いながら少年がおかしな真似をしないように監視も同時に行っていた。
 その後、一般人にとっては脅威なキメラでもそれなりに修羅場をくぐった能力者達にとってはそこまで脅威でなかったらしく、総攻撃を受けてあっさりと倒す事が出来た。


―― 生きるために ――

「死にたかったのに、セイルと父さんや母さんの所に生きたかったのに‥‥」
 少年はわぁわぁと大きな声で泣き叫びながら能力者達を責め立てた。
「このブレスレットをくれた妹はもういない、ボクは――死にたい」
「辛い、けど‥‥それをくれた人は、キミが幸せになる事を望んでいたんじゃないかな? なのにキミは自らその想いを捨てようとするの?」
 ノエルの言葉に「え?」と少年が顔を上げながらきょとんとした表情を見せる。
「ま、キミの人生どう使っても、キミの自由だけどね。ただ死ぬのだけはちょっとねー‥‥キミが絶とうとしたその命、他の死んだ人はさぞ欲しかっただろーね」
 ミアの言葉に少年は言葉を返す事なく俯いたまま。
「落ちる所まで落ちたら、這い上がればいいさ。糸は今目の前に垂れてるんだから。それでも死にたいなら、勝手にすればいい。覚えてたら仇くらいは取ったげるよ」
 その時、沢辺が少年と目を合わせるようにしゃがみ込んで「うちにも双子の兄貴がおるけど、ずっと無事に生きてて欲しいとは思うても、自分の為に死んで欲しいなんて絶対思ってへんで?」
 あんたの妹はんも同じちゃうの? と沢辺が呟くと「‥‥セイルは誰よりも、ボクの事を考えてくれてた」と涙をぼろぼろと流しながら言葉を返す。
「だからな、妹はんの分まで、歯ぁ食いしばって生き抜くんやで? それがあんたの出来る、最高の供養っちゅうやっちゃ」
「そう、お前にとって妹が希望だったように妹にとってもお前は希望だった筈だ。その四葉がその証明だ」
 九条は少年の持つブレスレットを指差しながら言葉を続ける。
「お前が生きる限り彼女は死んでも望みは消えない。それだけは事実だ。妹を思うなら生きろ、彼女の希望を絶やすな」
 九条の言葉に「そう」とシャーリィも首を縦に振りながら話しかけてくる。
「君が死んでしまっては‥‥君の家族‥‥妹さんも生きていた証がなくなってしまう‥‥それは、死ぬより悲しい事だと思う‥‥」
 シャーリィも悲しそうな表情で少年に話しかけ「‥‥ボクは‥‥」とブレスレット強く握り締めながら呟く。
「自ら命を捨てようとする行為は、生きていたかったのに死んでしまった者達に対する冒涜に他ならない」
 鹿島も少し厳しい事を言いながら少年を見下ろす。これ以上少年がふざけた事を言うなら沢辺と同じく引っ叩いてやろうと考えていた。
 少年は涙を流しながら「ボク、セイルの分まで生きる‥‥」と言葉を付け足した。

 その後、能力者達は生きる意欲を取り戻した少年を連れて報告の為に本部へと帰還していったのだった。


END