タイトル:消えた少女マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/25 02:54

●オープニング本文


死にたくない。

心の底からそう思った時、昔に別れてしまった大事な友達の事が頭の中に浮かんだ。

※※※

その出来事は『彼女』の全てを変えてしまうには十分すぎるものだった。

自分と同じ年代の子供達が次々に改造されて、バケモノへと変貌していく。

次は自分の番かもしれない。

血の匂い、耳を劈く悲鳴――――それらの中で『彼女』は一週間と言う時間を過ごした。

※※※

「取材に行ってきます」

クイーンズ記者・室生 舞は大きな荷物を持って、玄関から大きな声で他の記者達に挨拶をした。

「本当に一人で大丈夫? キメラとかの情報は無い場所だから大丈夫だと思うんだけど――やっぱり一人で行かせるのは心配なのよね」

チホが少し心配そうに舞に話しかけると「大丈夫ですよ、ボクはそんなに無理しないですし」と苦笑気味に言葉を返す。

今回、舞はバグアやキメラの所為で親を亡くした子供達が集まる施設に取材に行く事になっていた。

「‥‥? 何か楽しそうね? いい事でもあったの?」

チホが問いかけると、舞は「えへへ」と呟きながら施設にいる名簿の中から『倉坂ハル』と言う名前を指した。

「ボクがマリさんに拾われる前に別の施設で一緒だった友達なんです。久しぶりに会えるから凄く嬉しくって」

舞はよほど嬉しいのか表情を崩しながらチホに呟き「行ってきます」と言葉をつけたし、クイーンズ編集室から出て行ったのだった。

※※※

「残念だなぁ‥‥キミも男の子だったら――ボクの『弟』になれたかもしれないのに‥‥キミは女の子だからボクの『弟』にはなれないなぁ」

血に塗れた白衣を翻しながら長身の男性が『彼女』を見ながら残念そうに呟く。

「あ‥‥あ‥‥」

『彼女』は怯えに瞳を潤ませて、カツン、カツン、と一歩ずつ近づいてくる男に腰を抜かした状態のまま必死に後ろへと下がろうとする。

「髪の毛も短いし、男の子っぽいから――キミはボクの『弟』になれると思ったんだけど‥‥女の子じゃ、諦めるしかないよね」

「ぅぁ‥‥」

手にぐにゃりとした感触が伝わり『彼女』がそれに視線を落とすと、数日前まで『彼女』と一緒に恐怖に震えていた少年――だったモノだ。

「その子はね、ボクの『弟』に目が似ていたんだけど――あんまり煩いから殺しちゃったよ。ボクの『弟』はその子みたいに泣き叫ぶ事はしなかったからね」

今はもう物言わぬ遺体となった少年を軽く蹴り上げて壁際へと移動させる。

「でも――此処もね、麓の住人達が連絡したみたいで――能力者が来そうなんだよね――だから、キミにはボクが此処から離れる間の時間稼ぎをしてもらおうかな」

男はにんまりと不気味な笑みを浮かべて怯える『彼女』の腕を強く掴んで『処置室』へと連れて行く。

途端に『彼女』が大きな声で叫び始めた。数十人いた友達は全ていなくなり、残るのは自分だけ。

そして『処置室』に連れていかれた者の末路は先ほど男が蹴り上げた少年。

「い、いやだ‥‥いや‥‥」

「大丈夫。痛いのはすぐ終わるから――ね」

泣き叫びながら男は彼女――『倉坂 ハル』を処置室へと連れて行ったのだった。

これは舞が取材にクイーンズ編集室を出る2日前の事だった。

●参加者一覧

ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
レィアンス(ga2662
17歳・♂・FT
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
芝樋ノ爪 水夏(gb2060
21歳・♀・HD
水無月 春奈(gb4000
15歳・♀・HD
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

―― 危険へと向かう者 ――

「あんた、本当に行くの? 最近連絡が全く取れないから‥‥危ないかもしれないよ?」
 室生 舞(gz0140)が麓の町で目的地である施設への道を問いかけると、女性が道を教えてくれると同時に忠告もしてきた。
「大丈夫ですよ。あそこに取材に行くのがボクのお仕事だし‥‥友達もいるから」
 道を教えてくれてありがとうございます、舞は言葉を付け足しながら施設への道を歩いていく。
 これは能力者達が到着する半日前の出来事である。


「連絡が取れないなんて、何があったんでしょう」
 芝樋ノ爪 水夏(gb2060)が俯きながらポツリと呟く。施設は町と少し離れた山の中にあるという事で、住人達が知らないだけでキメラに襲われたのかもしれない‥‥芝樋ノ爪はそう考えていた。
「連絡がなくなった施設‥‥生存者がいると良いのですけど‥‥」
 水無月 春奈(gb4000)が拳を握り締めながら呟く。住人達の話を聞く限り、施設から2日以上連絡が途絶えた事は今までなかったらしく、連絡が途絶えた――この事実が施設に『何か』起きたという事を示している。
「とっとと向かおうゼ。何かヤな胸騒ぎがする‥‥」
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)が能力者達に向けて話しかける。施設には数十人の子供がいると住人達から情報を得ており、ヤナギは施設の子供達が心配なのだろう。
「そうですね、急ぎましょう! 子供達が心配です!」
 椎野 のぞみ(ga8736)が焦るような口調で言葉を返す。普段は元気溢れる笑顔の彼女だけれど、今回は流石に子供達が心配なのか焦りが顔に出ている。
「‥‥随分とキナ臭い依頼だな‥‥何事もなければいいが‥‥」
 ファファル(ga0729)がため息混じりに呟く。
「そうだな、何もなければそれに越した事はない――が‥‥」
 レィアンス(ga2662)がファファルに言葉を返すのだが――恐らく『何もない』と言う状況は奇跡でも起きない限り無理なのだろうと心の中では思っていた。
「あれ、ファファルさん。それって施設の見取り図ですか?」
 猫屋敷 猫(gb4526)がファファルの持つコピー用紙を指しながら問いかけると「あぁ、必要だと思って申請しておいた」と彼女は言葉を返してきた。
「見せてもらっていいですか? もし戦闘があった場合は戦いやすい場所を見つけておくのもいいかも‥‥」
 猫屋敷の言葉に「そうだな、なるべく最悪を想定しながら任務に向かわないとな」とレィアンスも言葉を返す。
「おーい、遅くなってごめん」
 その時、大きく手を振りながら朔月(gb1440)が能力者達と合流してくる。彼女は様々な住人達に話を聞きまわっており、少し遅くなってしまったのだ。
「ヤバイ事が2つ判ったぜ。1つは不審な男が逃げていったらしい、もう1つは女の子が施設に向かったらしいんだ」
 朔月の表情から決して良い報せではない事は能力者達もわかっていたが、予想していなかった言葉に能力者達は少しだけ驚きの表情を見せた。
「男が逃げてって、女の子が‥‥結構状況がヤバイんじゃねーの?」
 ヤナギが呟くと「そうですね、急いだ方がいいでしょう」と水無月も言葉を返し、能力者達は目的地である施設へと出発したのだった。
 しかし、此処では誰も予想していないだろう。向かった少女、それが舞だと言う事に。


―― 惨劇に見舞われた施設・傷ついた彼女 ――

「ここが例の施設‥‥で、あってるか?」
 レィアンスが施設を見ながら問いかけると「間違いない、みたいですけど‥‥」と椎野が口ごもりながら言葉を返す。
「‥‥酷いものだな‥‥」
 その酷い有様にファファルが短く呟く。施設は一見すると問題はなさそうだったが、窓から中を覗くと――血で溢れ返っており想像を絶する惨劇が起きたのは明白だった。
「探査の眼、使います。慎重に行動しましょう」
 椎野は呟くと同時に『探査の眼』を使用する。冷静に呟く椎野だったが、それは表面上だけの物で心の中では施設の惨劇に焦りを必死に隠していた。
「周りには‥‥気配はない、か」
 朔月は施設の周りに警戒を強めるが、施設の周りからは何の気配も感じられない。もし何かがいるのならば椎野が気づいている筈だから。
「つまり、何かがいるとしたら施設の中って事か‥‥」
 朔月はため息混じりに呟き、他の能力者達と共に不気味に静寂を湛える施設の中へと入っていったのだった。
「静かですね。人の気配がしません」
 施設の中に入り、数分が経過した頃に芝樋ノ爪がポツリと呟く。この施設には数十名の子供達がいる筈だから、こんなに静かなのはおかしい。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか〜?」
「おい、誰か居ねェかー?」
 水無月とヤナギが施設にいる筈の誰かに向けて言葉を投げかけるが、言葉が返ってくる事もなく二人の声が不気味に施設内に木霊した。
「‥‥洒落になんねェ事態になってねー事を祈るゼ?」
 静寂だけが能力者達を迎える中、ヤナギは人の気配の薄い施設に躊躇いつつも落ち着かせるように小さく呟く。
「‥‥ふむ‥‥」
 レィアンスは施設内とファファルが用意してきた見取り図を見比べながら小さく呟く。
(「向こうは運動場か、規模は小さいが戦闘になった場合はあそこに誘導するのが正解か‥‥?」)
 レィアンスは施設内部の状況から『何者かに襲われた』と言う事は間違いないと考え、戦闘が出来る場所を探していた。
「そういえば‥‥逃げていった男性というのは此処の職員か何かだったんでしょうか? あ、でもそれなら助けを求めるはずですね‥‥」
 芝樋ノ爪が考え込むように呟くと「此処には中年の女性しか職員はいないよ、男の職員なんて存在しない」と朔月が町から見つけてきた施設名簿を見せながら言葉を返してきた。
「それに此処に来た女の子も気になりますねー‥‥こんな場所まで何の用だったんでしょうね」
 猫屋敷が呟いた時だった。
「これは‥‥キメラの気配と‥‥救助対象者でしょうか!?」
 椎野の『探査の眼』が何かを発見したのか「こっちです!」と『憩いの広場』とプレートの下げられた部屋の扉を勢いよく開く。
 そこに倒れていたのは‥‥クイーンズ記者の室生 舞だった。
「舞さん!」
 舞と親しい者が慌てて駆け寄る。舞は額から血を流し、苦痛に表情を歪めている。一番酷い怪我はざっくりと斬られた右肩だった。
「ボク‥‥っつ‥‥」
 能力者達の声で意識が浮上して、舞が瞳を開き慌てて起き上がったのだが額と肩が痛み、苦痛に表情を歪める。
「無理をしないで下さい、命に別状はないみたいですけど‥‥酷い怪我なんですから」
 水無月が呟き「大丈夫か?」とヤナギが舞の怪我の様子を見ながら問いかけ「何があったんだ?」と言葉を付け足す。
「‥‥何も、ありません‥‥何でもないんです、早く、帰りましょう」
 ぐい、とヤナギの腕を引っ張りながら舞は施設を出ようする。
「何もないって‥‥そんな怪我してるのに何もないって事はないでしょう」
 猫屋敷が目を瞬かせながら言葉を返すと「何でもないんですっ!」と普段の舞からが想像できないほどに大きな声で叫んだ。
「‥‥っ、転んで怪我しただけです。それに‥‥此処の人たちは皆で出かけているみたいなので‥‥誰も居ないです。だから早く帰りましょう」
 舞は動揺を隠す為か早口で能力者達に話しかけるが、その行動が『嘘』だと能力者達に印象付けていた。
「此処にはキメラの気配もあるんだよ、キメラに襲われたんだよね?」
 椎野が舞と視線を合わせるように話しかけるが「‥‥ボクは、キメラになんて‥‥襲われてないです‥‥気のせいですよ」と舞は俯きながら言葉を返す。
 その時、隣の部屋から子供の悲鳴のような雄たけびのような、そんな判別し難い声が響く。
「何かいるのは間違いなさそうだな」
 ファファルが呟きながら『サブマシンガン』を構える。
「止めて! 何も居ない! 何も居ないから‥‥っ!」
 舞が慌ててファファルに言葉を返すが、それと同時に扉が開かれ雄たけびを上げていた主が能力者、そして舞の前に姿を現す。
「これ、は――ッ!」
 現れたキメラを見てレィアンスが驚愕に瞳を見開く。
「惨い事を‥‥」
 ファファルも眉を顰めながら低く呟く。目の前に現れたキメラ、それは明らかに『人間』を材料に、様々なパーツを無理矢理つけられた――哀れな少女の成れの果てだった。
「‥‥だから舞は『止めて』と言ったのか‥‥」
 朔月が呟き『【OR】天狼』を構えながら「だけど、仕方ないんだよ」と言葉を付け足す。
「止めてええ! あんな姿だけどっ‥‥ボクの大事な友達なんです! だから殺さないで!」
 舞が泣き縋るような声で叫び、その事実に能力者達は目を丸く見開いた。
「そんな‥‥酷い‥‥また子供を助けられないの‥‥!」
 椎野が苦しそうな表情をしながら呟き、右肩の古傷がズキンと疼くのを抑える。
「必死に止めていたのは‥‥人間から作られたキメラだという事ではなく、友達を材料に作られたキメラだから‥‥酷すぎます」
 芝樋ノ爪が呟くと「お願い、お願いだから‥‥っ」と舞が涙をぼろぼろと流しながら話しかけてくる。
「舞さん‥‥あのキメラ‥‥彼女を元に戻す方法はありません、眠らせてあげるしか‥‥」
 水無月の言葉に「そんな‥‥」と舞がガクリと膝を折ってその場に座り込む。
「‥‥最後まで見届けますか? ここは危険なのであまり勧められませんが‥‥どうしてもと言うなら私の後ろから離れないで下さい」
 水無月の言葉にも舞は返事をする事なくうな垂れたまま。
 そんな舞の様子を見ながら猫屋敷、そしてヤナギはキメラを迅速に倒す事に専念する。これ以上舞を悲しませない為に。


―― 悲しき戦闘 ――

 能力者達はキメラを外の小さな運動場まで誘導して、戦闘を開始する。
「今、楽にしてやる」
 ファファルは呟きながら『サブマシンガン』を構え『鋭覚狙撃』と『影撃ち』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「‥‥‥‥」
 レィアンスはキメラを見て、そして体中に無理矢理付けられたパーツを見て苛立ちを募らせ、銀色の髪を靡かせ、碧色の瞳でキメラを睨みつけ、他の能力者達とキメラを囲むような陣形で戦闘を進めていき、体に付けられたパーツ部分を斬り落とす。
「‥‥‥‥っ」
 攻撃を行うたびに少女の声で悲鳴をあげ、レィアンスは少しだけ表情を歪める。そして『先手必勝』で先手を取り『流し斬り』で攻撃を行い、キメラに付けられたパーツをそぎ落としていく。
「私に出来る事、貴女を早く楽にする事だけ‥‥」
 椎野は『バスタードソード』を構え、今にも泣き出しそうな表情でキメラに攻撃を仕掛ける。
「‥‥後で恨んでくれていい。今だけは静かにお休み」
 朔月は『瞬速縮地』を使用しながらキメラの背後に回り『【OR】天狼』でパーツの接続部分を狙って攻撃を行う。
「止めてええええっっ!!!」
 響き渡る友達の悲鳴に舞が耐え切れなくなって叫び、そのままキメラへと向かう。
「舞さん!」
 芝樋ノ爪は『竜の翼』を使用してキメラに向かう舞を止め、そして背後に迫ったキメラを『竜の咆哮』を使用して攻撃班の所へと弾き飛ばす。
「だって、ハルは‥‥ボクの友達‥‥化物じゃないのにっ‥‥」
 舞は泣きながら芝樋ノ爪に抱きつき、消え入りそうな声で呟く。
「これ以上、彼女を泣かせない為にも‥‥早く終わらせます」
 猫屋敷が『蛍火』を構え『円閃』で攻撃を行うが、キメラは反撃を行うように翼や余分に付けられた腕などで彼女に攻撃を仕掛ける‥‥。
「こっちがガラ空きだゼ?」
 ヤナギは小銃『S−01』で射撃を行った後に武器を『イアリス』に持ち変えて、キメラとの距離を詰める。
「もう‥‥俺らにはこれしか出来ねー‥‥せめて、安らかに‥‥な」
 ヤナギは『円閃』を使用しながら攻撃を行う。
「相手の動きを見逃すな」
 ヤナギの攻撃を受けてグラリと倒れたキメラにファファルが『サブマシンガン』で攻撃を行い「‥‥助かる」とレィアンスが武器を構えたままキメラへと駆けていく。
「礼はいらん」
 ファファルの呟きを背中で聞き、レィアンスは「‥‥ごめん」と呟きながら『紅蓮衝撃』を使用しながら攻撃を行い、キメラにトドメを刺したのだった‥‥。


―― お礼が言えない ――

 戦いが終わった後、静けさを取り戻した施設には舞の泣き声が響いていた。
 そんな舞の様子を見ながらファファルは「ままならんものだ‥‥」とやりきれなさそうな表情を見せていた。
「すまない‥‥こんな方法でしか、救えなかった‥‥」
 レィアンスも舞と同じように涙を流しながら謝る。今回の彼は自分でもわからない程に感情の起伏が激しかった。
(「何で俺は‥‥こんなに泣いたり怒ったりしてるんだろうな‥‥」)
「舞さん‥‥」
 友人の遺体、しかもキメラへと改造された姿を見て涙をぼろぼろと零す舞を見て芝樋ノ爪はかける言葉が見つからないようで口ごもっている。
「舞さん‥‥大丈夫ですか? つらいでしょうが、目を背けてはいけませんよ」
 水無月が話しかけると「‥‥大丈夫」と空ろな瞳のまま言葉を返してくる。
「溜め込むのはよくないので、ぺたんこな胸でよければ貸してあげるです。そして少し落ち着いたらお茶でも飲むです」
 猫屋敷が両手を広げて舞に話しかけると、ふらりと猫屋敷に抱きつき、再び大きな声で泣き始める。
「時間は戻らねェ。けど、思い出はお前ん中に生きてるハズだ」
 ヤナギの言葉に「思い出‥‥ボクの中‥‥?」と涙混じりの目で舞がヤナギを見ながら首を縦に振る。

 その後、能力者達は埋葬などを行うために施設内を見回る事にした。その最中に椎野は『処置室』と書かれた部屋の中に入り、その惨状に目を丸くするしかなかった。
 元々は保健室のような場所だったのだろう、消毒液の匂いの中――手術台のようなものが設置してあり、その周りには無造作に捨てられた――子供の遺体。
「また子供達を助けられなかった‥‥あああああっ!!!」
 椎野は『バスタードソード』で手術台を破壊しながら大きく叫ぶ。
 そして、その隣の部屋では‥‥舞が一冊のノートを見つけてバッグの中へと入れていた。
「‥‥」
 そのノートを睨むように見て「‥‥ボクは絶対に許さない」と小さな声で舞が呟いたけれど、能力者達の耳に届く事はなかった。
「‥‥後で音楽聞かせてください――‥‥」
 舞がヤナギに問いかけると「お、おお」とヤナギが少し吃驚したように言葉を返した。
(「俺には音楽しかねェけど‥‥何かの慰めになるなら‥‥」)
 そして施設内に存在する遺体に向けてファファルは黙祷を捧げ、施設から出る。
「助けてくれて嬉しいけど‥‥今回だけはボク、ありがとうがいえません」
 高速艇に乗る間際、舞が能力者達に向けて呟いた。

 そして、能力者達は報告の為に本部へと帰還して、朔月は舞の好物をもってクイーンズ編集室まで様子を見に行くのだった。


END