●リプレイ本文
―― 仕掛けられた爆弾 ――
「『バグアも同じ命』とは見上げた精神。だがそんな事は一切の食物を口にせず生活するようになってから言うのだ」
命を語るという事は‥‥それぐらいの覚悟がいるものだ、アンジェリナ(
ga6940)は言葉を付け足しながらLHで最もドラグーンの多いカンパネラ学園を中心に爆弾を探す為に動き始める。
「アンジェリナ、爆弾を見つけたらこれを‥‥」
ヒューイ・焔(
ga8434)が本部に申請して貸し出して貰った液体窒素を渡す。普段はあまり貸し出されない物だが、今回は緊急事態の為に無理を言って貸し出して貰ったのだ。
もちろん、貸し出される際に「普段は貸し出さないんですけどね、使わなかったら返してくださいよ」と何度も嫌味を言われたのだけれど。
「何処に仕掛けられているか分かりませんけど、場所によっては大惨事になる可能性がありますから‥‥」
女堂万梨(
gb0287)が「私は整備士の方にAU−KVの整備方法を伝授して頂く事にします、万が一の爆弾解除班として動けるように‥‥」と言葉を付け足した。
そう、今回は爆弾を見つけたら終わり――ではないのだ。見つけて爆発しないように解除するか、もしくは被害の出ない場所まで移動させねばならないのだから。
「ふん、俺らドラグーンの相棒に爆弾たぁ、ふざけた真似してくれるぜ‥‥っ」
嵐 一人(
gb1968)が苛立ちを露にしながら呟く。彼はドラグーンでAU−KVに爆弾が仕掛けられたという事にも腹立たしさを感じているが、バイク好きである為にバイクに爆弾を仕掛けたという事が一番腹立たしいのだろう。
「でもこの『粛清の刃』とか言うの、結構矛盾してるよね〜」
ブラスト・レナス(
gb2116)がため息混じりに呟く。
「博愛もいいけどさ、爆弾を仕掛けて人に怪我させちゃ意味無いでしょ。それにドラグーンを狙うって事は、同じ学園にいる人間の犯行なんじゃないかな?」
一番楽に仕掛けられるしね、とブラストは言葉を付け足す。
「13回目の鐘‥‥13時間後って気がするけど1つ1時間で合っていても残り時間は少ないですね‥‥急がないと」
織那 夢(
gb4073)が呟く。やはりドラグーンが標的になっている以上、カンパネラ学園と考える能力者が多かった。
「爆弾‥‥あまりエレガントではありませんわね‥‥」
ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)が『【OR】フリルパラソル』をくるくると回しながらポツリと呟く。
「爆発物を仕掛けた‥‥ね。どうせなら仕掛けた場所のヒントとか書いといてくれたら名探偵なんちゃらの出番だったのに」
神咲 刹那(
gb5472)が苦笑しながら呟き、ヒューイから液体窒素を受け取り、それぞれ爆弾捜索、そして解除、移動の為に行動を開始し始めたのだった。
―― 爆弾、そして犯人を捕まえる為に ――
「‥‥一見するとどれもあまり違いが無いように見えるが」
アンジェリナはため息混じりに駐車中のAU−KVを見ながら呟く。
「そこの貴女、何をしているの?」
如何にも厳しそうな女性が眼鏡を釣り上げながらアンジェリナに話しかけてくる。先ほどからAU−KVをじろじろと見ていたので、少し怪しんで近寄ってきたのだろう。
「不審なAU−KVがあると聞いて来たんだが‥‥何か知らないか?」
アンジェリナが問いかけると「いいえ?」と女性は言葉を返す、そこでアンジェリナは女性の手に持たれている物に視線を落とし、驚きで目を見開く。
「‥‥時間までにもう一つ仕掛けておこうかと思ったのに、なかなか勘の鋭い人ね」
女性の手に持たれていたもの、それは隠す事もされていない――爆弾だった。
「お前ッ‥‥」
アンジェリナは『氷雨』を構えて、女性に向けて大きく叫んだ。
その頃、ヒューイと女堂はAU−KV整備工場へと足を運んでいた。工場の中では壊れてしまったAU−KVを修理する整備工達が何十人も存在しており、「ちょっと見せてもらっていいですか?」と整備工の一人に話しかける。
「あぁ、別に構わないけど‥‥別に見ていても面白いモンじゃねぇだろ」
「いえ、ちょっと調べ物を‥‥工場の中を見回らせて貰いますね」
女堂は呟きながら工場の中を歩き回る、後ろで「何のために」と整備工が話しているのが聞こえ「大惨事を避ける為の任務です」と短く言葉を返した。
「やれやれ、ドラグーンじゃないからAU−KVに関して詳しくは分からないな‥‥」
ずらりと並ぶAU−KVを見ながらため息を吐く。
「整備士に怪しい人物がいないか、AU−KVを確認している時に見ていたんですけど‥‥対応や行動が怪しい人はいませんでした」
女堂が言葉を返すと「挙動不審にでもなるマヌケなら良かったんだけど」とヒューイも苦笑気味に答えた。
「とりあえず、此処には無さそうだから次を探しにいきましょうか」
女堂が呟いた時だった、別行動をしているアンジェリナから「犯人の女と接触した」という連絡が入ってきたのは。
「まさか俺のAU−KVに仕掛けてねぇだろうな」
嵐は爆弾捜索に出る前に、自身が所有しているAU−KV(3台)に仕掛けがされていないかを確認していた。バイク好きという事もあってか、嵐は普段の手入れは自分で行っている。その為、いつもと違う所があればすぐに気がつくだろう。
「手の込んだ偽装や機構内部じゃない限り、俺でもわかるだろう」
嵐は呟きながら自身のAU−KVを確認していたが、何処も異常は見当たらなかった。
「さて、いくかな」
嵐は時計を見ながら学園へと向かう準備をする。彼を含む多くの能力者達が『13回目の鐘=13時』と予想しているのだが‥‥これが大きな間違いである事にまだ気づいてはいない。
その後、嵐は学園でAU−KVを置ける場所、そして人が集まる所を重点的に捜索を行っていた。
その頃、ブラストはAU−KVのガレージに詰めていた。整備工達が何人もいる中、彼女はただ見張るだけではなく、整備工達を見ながらAU−KVの詳しい整備の仕方を覚えている。
「大丈夫かい? 少しは休んだほうがいいんじゃ‥‥」
整備工達の班長を務める男性がブラストに話しかけてくる。此処の整備工達にブラストは今回の事件の事を全て話しており、防犯カメラなど全てチェックして貰っていた。
「大丈夫だよ、それに予測の範囲を出ないけど13時が決行時刻なら、この時間帯に仕掛ける事があるかも‥‥って思ってるし」
「他の所は見にいかなくてもいいのかい?」
男性が話しかけると「‥‥こっちに犯人や爆弾が来なくてハズレたらそれはそれ、走り回っても見つからないと思うしね」とブラストは言葉を返した。
つまり、彼女は闇雲に走り回るより一箇所を徹底的に固めるという行動を取ったのだ。
「そうかい、早く見つかるといいんだけどね‥‥物騒だねえ」
男性はため息混じりに呟くと再び整備の続きを行い始めた。
「あの‥‥今から夢が言うのは‥‥嘘でも何でもなくて、本当の事なんです。AU−KVのどれかに爆弾が仕掛けられているという報告がありました」
織那は学園の校内放送を使ってドラグーンの能力者達に事件の事を知らせていた。ソレと同時に「きゃー」とか「わー」とか校内は少しパニック状態になり、織那は校内放送をした事を少しだけ後悔する事になった。
そして、その頃、ミルファリアは整備前、かつ現状況では使っていないAU−KVが多くありそうな整備場へと向かっていた。
「‥‥既存のAU−KVとの違い‥‥ありますかしら‥‥」
ミルファリアは整備場の中を見回りながら呟くと、一箇所だけあからさまに隠されたAU−KVを発見する。
「何でしょう、これは‥‥白いシートなんか被せられて‥‥」
ミルファリアがばさりとシートを取ってみると――少し古いAU−KVがあり、その中心部には色々なケーブルに繋げられた時限性の爆弾がカチカチと静かに時を刻んでいた。
「え‥‥この時刻ですと、爆発するのは12時ちょうど‥‥」
ミルファリアが呟き、出発前にアンジェリナが言っていた言葉を思い出す。アンジェリナだけは『13時の鐘=12時』という予想をしていた。普通ならば1の鐘は1時なのだが、アンジェリナは1の鐘を0時と数えていたので、他の能力者達にも自分の考えを伝えていた。
「‥‥時間がないですわ」
ミルファリアは慌てて『トランシーバー』を手に取り、捜索している能力者全てに「爆発時間は12時です!」と伝えたのだった。
「0時を1と数えて、か。また回りくどい事を考えたもんだなぁ‥‥ボクの学校のチャイムという予想は見事に外れたけど――早く急がなくちゃ」
神咲は呟き、爆弾のある場所へと急ぎ始めた。
「ドライバー、ニッパーっと‥‥液体窒素も持ったし。頼むから間に合ってくれよ‥‥っ」
神咲はぎり、と唇をかみ締めながら呟き、爆弾がある場所へと急いでいったのだった。
―― 不審人物と爆弾の解除 ――
「何でこんな真似をするッ‥‥」
アンジェリナが女性の攻撃を『氷雨』で受け止めながら短く問いかける。
「命を奪う行為を正義と信じる愚か者達への見せしめよ、奪われる側の気持ちを知るといいわ」
女性の言葉に少しだけアンジェリナは表情を険しくする。
「これでも私は平等主義だ、バグア同等貴方達を葬る事に何の迷いもない。紫電の銘が所以、その身で受けてみるか?」
アンジェリナは「力技は得意では無いのだがな‥‥ッ」と言葉を付け足しながら女性を押し返す。
「くっ‥‥命を奪う行為を何とも思わない下賎な輩にとやかく言われる筋合いはないわ!」
女性は隠し持っていたナイフで攻撃を仕掛けてくるがアンジェリナはそれを避ける。
「アンジェリナ、避けろ!」
ヒューイの声が響き渡り、アンジェリナはすぐに女性から離れる。それと同時にヒューイの『ソニックブーム』が女性に直撃して、女性は壁に叩きつけられてしまう。
「動かないで下さい‥‥あまり手荒な真似はしたくありません」
女堂は『エネルギーガン』を女性に突きつけながら話しかける。
「ふふふ、爆弾を解除するようにしているみたいだけど‥‥うまく出来るといいわね。私の他にも仲間はいるんだから」
女性は捕らえられながらもクッと挑戦的な目で三人を見つめ「一人は確保した」と他の能力者達に伝えたのだった。
ミルファリアの連絡を受けて、ほとんどの能力者達は爆弾が仕掛けられた場所へと向かっていた。
ほとんどが学園内を見回っていた為に目的の場所に到着するのに時間はさほどかからなかった。
「うーわ、いるよ。マジで。っつーか他の命を殺してまで生き残りたいかね。生にしがみ付く辺りが滑稽だぜ」
乱暴な口調の女性が面倒そうにミルファリアを見ながら「け」と言葉を付け足す。
「俺は別のガレージに仕掛けに行く。此処の爆弾を解除されても問題ないように、な」
ちらりとミルファリアを見ながら髪の長い男性は爆弾を持って別の場所に移動しようとする。
「ま――!」
ミルファリアが呼び止めようとすると「お前の相手はあたしだろ」と女性が前に立ちはだかる。
「お前達が殺した命の償いをする為に死んでしまえ」
女性がそう言って銃をミルファリアに向けると「ご高説ごもっとも‥‥そんなにバグアやキメラが大事なら、あんたら直々に奴らに平和を訴えてきてくれよ」と少しだけ嘲るように嵐が整備場に入ってくる。
「っつーかさ、あんたら戦場に出た事ないんじゃねえか? 一度でも奴らと戦った事あるなら、こんな馬鹿げた話は出来ないと思うぜ」
嵐の言葉に「あるに決まってんだろ、あたしだって親を殺された‥‥だけど許す心が必要だと教えてくれた人がいるんでね!」と女性は声を荒げながら銃を発砲する。
「もう一人の男が別の場所に爆弾を仕掛けに!」
ミルファリアの言葉に嵐が移動しようとすると「お前らは此処であたしと遊んでるんだよ!」と銃撃を仕掛けてくる。
「どちらに行きましたか? 夢達がその男性を追います!」
後ろから顔を覗かせてきたのは織那と神咲だった。
「嵐さん、ボクと変わろう。此処の爆弾を解除するのがボクの役割だし‥‥」
神咲が呟きながら女性に攻撃を仕掛け、嵐がその隙に後ろへと下がり織那と共に移動した男性を追う事にしたのだった。
「さて‥‥早めに終わらせてしまいましょう‥‥?」
ミルファリアが呟きながら覚醒を行い、フリルパラソルを構える。
「間違っているのはお前達だああああっ!」
女性が叫びながら攻撃を仕掛けるが、戦闘経験はあるとは言っても経験豊かではないのだろう。動きも酷く散漫で隙だらけだった。
「殺しはしないけど、大人しくしてもらうね」
神咲が呟き、女性の意識を奪い、爆弾処理に取り掛かる。
「基本的な時限式っと、これなら何とかなりそうだ」
彼女達が仕掛けた爆弾は以前にも使われた事がある形式の爆弾のようで、解除の仕方が載っていた事を思い出し、神咲が一応専門家の意見をトランシーバーで聞きながら爆弾解除を始めた。
その頃、犯人の一人はブラストがいるガレージへとやってきていた。
「何をしようとしてるのか詳しく聞きたいね、物騒な物も持ってるみたいだし」
ブラストが呟くと「爆弾を仕掛けようとしているんです」と追いついた織那が大きな声で叫ぶ。
「そ」
ブラストは呟くと『竜の翼』を使用して男性との距離をつめて投げ飛ばす。相手は能力者といえど生身の人間なので武器を使う事は躊躇われたのだ。
「とりあえず、お前らの目論見を失敗させて地団駄踏ませてやるよ!」
嵐も背後から武器を使わずに攻撃を行い、男性の意識を奪う。
「何だ、弱いじゃねぇか‥‥博愛主義もいいけどよ、コレに懲りたら人様に、むしろバイクに迷惑かけるなってんだ」
嵐は意識を失った男性を見ながらため息混じりに呟いたのだった。
―― 解除成功・犯人確保‥‥だったのだが ――
二人の犯人を確保してから暫くが経過した頃、神咲から「爆弾を解除しました」という連絡が入ってきた。
「取りあえずはこれで万事解決か、あとは犯人グループの情報を引き出して‥‥とめろ!」
アンジェリナが呟いている最中で突然二人組に手を伸ばした。
しかし、時既に遅く、犯人である二人は自らの舌を噛み切って自害していた。
「命を‥‥って謡ってた奴が自分の命を軽んじるのか‥‥」
今はもう物言わぬ遺体となった二人を見つめながら何処かやりきれない思いがしていた。
「でも今回は犠牲者もいないですし‥‥解決した――と思っていいのでしょうか」
女堂が呟き「こいつらが持ってた爆弾も回収したしな」と言葉を返す。
「本部に報告ですね――でも『粛清の刃』の手がかりを失いましたね‥‥この様子だとまだ何か仕掛けてきそうだと夢は思います」
織那の言葉に「何か仕掛けてきたらまた防げばいいんだよ」と神咲が言葉を返し、能力者達は使わなかった液体窒素の返却と事件の報告を行うために本部へと向かったのだった。
END