●リプレイ本文
―― ヤズルカヤへ ――
「誘われている気がしないでもないが‥‥飛び込まなければ、な」
九条・命(
ga0148)はため息混じりに呟く。
「どうにも引っ掛かるな‥‥武装している場所から無傷で此処まで‥‥?」
八神零(
ga7992)が少し離れた所で飲み物を飲んでいる男性を一瞥しながら呟いた。それは今回の能力者誰もが心の何処かで引っ掛かっている事でもあった。
「念の為に作戦内容とかは知らせないようにしよう」
アズメリア・カンス(
ga8233)も男性を一瞥した後にポツリと呟いた。もし男性が敵側の人間だった場合、作戦内容などを知らせるにはリスクが大きすぎるからだろう。
(「罠であるにせよ、そうでないにせよ、助けを求められて拒否するなんて出来ないよね」)
サンディ(
gb4343)は戦友からお守りとして貰った『フルーレ』にソッと触れながら心の中で呟く。
(「拉致され強制労働をさせられる者100人余り‥‥使用人などという事はあるまい、何の為に働かされている‥‥?」)
アンジェリナ(
ga6940)は心の中で自問するが、その問いに答える者はいない。明らかに考えの違うビスタ・ボルニカ(gz0202)やハリー・ジョルジオの事など彼女に分かる筈もないのだから。
「現地に赴けば何らかの手がかりが‥‥」
アンジェリナは誰の耳にも止まる事のない小さな声でポツリと呟いた。その隣では翡焔・東雲(
gb2615)が手の中にある物をジッと強い瞳で見ていた。
(「前の現場に落ちていた髪飾り‥‥お前のだろ、ビスタ。畢竟あそこで血を流したのが誰かって事を教えてくれた訳だ」)
翡焔は心の中で呟きながら強く髪飾りを握り締め、「‥‥守るだけ‥‥どんな手で来たってそれは曲げない!」と言葉を付け足したのだった。
「えと、そういえばどうやって逃げてきたです? 何処の道を使ったとか覚えてれば教えて欲しいのです」
ヨグ=ニグラス(
gb1949)が逃げてきた男性に問いかけると「え、あの‥‥ここを‥‥」と地図の中の道を指した。
「此処を通れば、その‥‥誰にも見つからなかったから」
「んと、そうするのです。ありがとうなのです」
ヨグは言葉を返しながらにぱっと笑顔を見せる。だけど『そうする』というのは真っ赤な嘘である。半要塞と化した場所から無傷で逃げてくるという不可解な事をして見せた男性をヨグも完全に信用しているという訳ではないらしい。
「あの‥‥先にルートを聞いていてもいいか? 現地は俺の方が詳しいから案内できるかもしれないし」
男性の言葉に「まぁ、太陽に向かって走るんだ――という感じかな」と天狼 スザク(
ga9707)がはぐらかすように言葉を返し、能力者達はヤズルカヤへと出発していったのだった。
―― 行動開始 ――
今回の能力者達は救助を迅速に行う為に班を二つに分けて行動する事に決めていた。
囮班・九条、八神、サンディの三人。
救助班・アンジェリナ、アズメリア、天狼、翡焔、ヨグの五人。
簡単に言えば、囮班が騒ぎを引き起こしている間に救助班が一般人を救助するという作戦内容だ。言うのは簡単だが、簡単に事が済むなどとは誰も思っていない。
「行こう」
九条が小さな声で呟き、救助班と別行動を始める。これはもちろん救助班も作戦だと分かっている。男性に悟られぬように別ルートからヤズルカヤに向かうと予め作戦を立てている段階の時に話してある。
そして囮班が離れていくのを見た上で救助班は自分達に課せられた『一般人の救助』に取りかかる為に行動を開始したのだった。
※囮班※
「敵を引き付けるのが目的なんだ‥‥派手に行こうか」
八神が『月詠』を構えながら呟くと「主よ。どうか皆をお守り下さい」と祈りの言葉を呟いた後に「頑張ろう」と言葉を付け足したのだった。
「まずは武装を破壊しておこうか、これらが救助者達に牙を剥かないとも限らないからな」
九条が備え付けられた兵器などを見ながら呟く。
「そうだね、派手に暴れれば敵が此方側に集中するだろうし」
サンディも言葉を返して『スブロフ』の瓶を使って作ってきた火炎瓶を取り出す。それらを兵器が備え付けられている所などに投げつけ、爆音と共に兵器が吹き飛ぶ。元々火炎瓶にそこまでの威力はないのだが、兵器の力も借りているのだろう。爆発は大きな物となった。
「こんなモノ、何処から持ってきたんだろうな」
九条も『スブロフ』で簡易火炎瓶を作り、ライターで火をつけながら投げていく。
「あらぁ、楽しそうな事をしてるじゃない。あたしも混ぜて頂戴よ」
けらけらと女性特有の高い笑い声が響き、三人が視線を向けるとマシンガンのような物に寄りかかりながら三人を見つめるビスタの姿があった。
「あんたがビスタか‥‥噂は聞いてる。随分といい性格をしてるらしいな」
八神が呟くと「あら、あたしの事を知ってくれてるなんて嬉しいわね‥‥お礼に」と呟きながら『カチ』とマシンガンのスイッチを入れる。
「殺してあげるわっ」
だだだだ、と無数の弾丸が三人を襲う。流石に能力者といえど全ての弾丸を回避するのは難しく、数発はそれぞれの身体を掠めている。
「目立ちながら兵器を壊すってのは失敗だったわね、あんた達の場所が分かったわ」
ビスタはニッと笑みながら剣を取り、漆黒の髪が金色へと変わっていく。
「さぁ、遊びましょうか。あたしを失望させないでね」
※救助班※
囮班がビスタと交戦し始めた頃、救助班は強制労働をさせられている一般人達の元へと到着していた。
「女子供はいないのか? 動ける者は動けない者を支えてやれ!」
天狼は大きな声で100名以上いる一般人達に話しかける。
「皆助け出す、だから慌てずに冷静に行動してくれ」
アンジェリナは一般人達の波を掻き分けながら話しかけていく。何故彼女は人の波の中に入ったのかと言うと、一般人達の中にキメラや強化人間などが混ざっていないかを確認しているのだ。
(「しかし何故こんな所で強制労働を‥‥? もしや新兵器開発などか?」)
アンジェリナは心の中で呟きながらも一般人達を見ていく。その時、離れていたアズメリアが一般人達の所へと戻ってくる。
「向こう側の罠は排除しておいた」
アズメリアは『月詠』を肩にトンと置きながら呟く。
「んと、慌てずゆっくり歩くですっ――っと大丈夫ですか?」
足を怪我している人を見かけてヨグが話しかけると「えぇ、大丈夫‥‥無事に逃げられるんなら痛みなんて我慢できるわ」と弱々しい言葉が返ってくる。
「あっと、すまない」
翡焔は挙動不審にしている人間に小石を軽く当てながらFFの有無を確認していた。勿論こんな状況なのだから普通に冷静でいられる人間は少ないのだけど。
「‥‥気づかれないようにしないとね」
アズメリアは小さく呟き『トランシーバー』で囮班に『脱出開始』とだけ知らせて、五名の能力者達は100人余りの一般人を連れて行動し始めたのだった。
※囮班※
「さぁ、懺悔の時間だ。覚悟しろ!」
サンディが『ハミングバード』を構えながらビスタに向けて叫ぶが――彼女は「くっ」とそれを嘲るように笑う。
「悔い改める事なんてないわ」
「それならそれでも構わない」
八神が『月詠』の二刀流でビスタの正面から近接攻撃を仕掛ける。だが真正面からの攻撃の為かビスタはそれを容易く避ける。
「この程度なの? がっかり――ッ!」
死角からサンディが『スマッシュ』と『二連撃』で攻撃を仕掛けてくる。ビスタはそれを避けようとするが、完璧に回避するには至らず左腹部に傷を負う。続いて九条も『貫通弾』を装填した小銃『M92F』で攻撃を行う。サンディと八神が連携攻撃をしている間に九条は三度、援護射撃を行うチャンスを見送っていた。勿論ビスタもそれに気づいている。
その為、ビスタは九条を甘く見ていた。チャンスを物にできない男、と――しかし、4回目のチャンス、それを九条は見送る事はなかった。
「遠慮はいらん、全弾くれてやるからとっとと逝け」
九条の言葉に「‥‥また銃で殺されるのかしら、何かヤだな」と貫通弾を受けながらも足で踏ん張り、ギロリと九条を睨みつける。
「‥‥そろそろかしらね」
遠くの方を見ながら瓦礫の上を器用に渡り「あたしが気づいていないとでも思った? 向こう側にいる救助班に」と口から流れる血を拭いながら背中を向ける。
「ま――ッ!」
八神が呟いた時「また後で会いましょう」と言葉を残し、そのまま救助班がいる場所へと向かっていったのだった。
―― 悲劇と本当の目的 ――
「‥‥少し調子に乗っちゃったかしらね」
ビスタは自分の身体を見ながら呟き、大勢を連れて移動する救助班の所へと来ていた。
「はぁい。ごきげんいかが?」
流れる金髪と声に能力者達は勿論、一般人達もビクリと肩を震わせながら声の方を見る。
「別にあんた達にもう用はないから、どうなろうと構わないんだけどね。一応は止める素振り見せておかないと坊やに叱られちゃうのよね」
「あんたと斬り合うのを待っていた‥‥と言いたい所だが今回は救助メインなんでな、そこをどいてもらう!」
天狼は叫びながら『ゼルク』を構えてビスタへと向かって走り出す。
「んと、急ぐですっ。あっちまで走るですっ」
ヨグが混乱する一般人達を宥めるように話しかけ、出口の方を指差す。
「あらあら、逃げられると困る――事もないんだけど。確保はしてるから」
ビスタはそう呟きながら指笛を鳴らして鳥型キメラを呼び寄せると一般人たちに向けてそれを放つ。
「く――‥‥ぅっ」
アンジェリナは『先手必勝』を使用して一般人達に攻撃を仕掛けようとするキメラとの間に割って入り、キメラの攻撃を『氷雨』と『夏落』で受け止める。
「はっ!」
アズメリアは『月詠』でキメラの足を斬り落とし、翡焔が二刀小太刀『疾風迅雷』で攻撃を行う。
突然呼び出したキメラだけあって、強さは中の下くらいで能力者達は苦労する事はなかった――のだが、ビスタがいる以上、いつ一般人に犠牲者が出るか分からないという事実が能力者達に無言のプレッシャーを与えていた。
「ビスタ!! 返すよ、落し物!!」
翡焔は叫びながら前の任務で拾っていたビスタの髪飾りを投げつける。
「あら。あたしのお気に入りの髪飾り――ありがとう、お礼にイイモノを見せてあげる」
ビスタは呟きながら周りを見渡し「あれ?」と首を傾げる。
「戦闘中に余所見とは余裕だなっ」
天狼は『紅蓮衝撃』と『二段撃』を使用しながらビスタに攻撃を仕掛けようとしたのだが。
「ちょっとっ! 考え事してるんだから――邪魔しないでよね!」
ビスタは持っていた剣を天狼に向けて投げつけ、スキル発動のタイミングをズラさせる。そのせいかビスタに攻撃が当たる事はなかった。
そこへ囮班が合流した。ビスタと戦っていた時に彼女はわざと囮班が回り道をしなくてはならないような状況を作り、彼らの合流を遅らせていたのだ。
「‥‥ねぇ、アンタさ。あたしはあっちのルートを行かせろって言ったわよね? 何でこっちに来てんの?」
最初に本部に助けを求めに来た男性の前までビスタが歩いてきて、投げつけた剣を拾い、切っ先を男性へと向ける。
「お、俺はちゃんとあっちに行くようにって‥‥言ったんだけどっ‥‥でも能力者たちが行ってくれなくて‥‥っ」
「言い訳は無用よ、死になさいよ、役立たず」
ビスタは冷たく言い放つと向けていた切っ先を男性の喉へと突き刺す。それを見ていた一般人達はそれぞれ悲鳴をあげ、能力者達は目を丸くしてビスタを見る。
「本当はね、あっちのルートを行かせたかったのよね、地雷仕込んでてさ、一般人もろともドカーンってのを考えてたんだけど‥‥この役立たずのせいで失敗もいいところだわ」
既に息絶えた男性を蹴りつけながらビスタは忌々しそうに呟く。
「貴様にとっては人の命も玩具程度かっ!」
九条が拳をビスタに叩き込みながら叫ぶと「役立たずの命に玩具程の価値があると思うの?」と答えてビスタは剣で九条の腹部を突き刺し、そのまま壁へと蹴りつける。
その間に八神が走り出しており『二段撃』『紅蓮衝撃』『急所突き』を使用しながら攻撃を仕掛ける。
「残念」
だがビスタは先ほどの男性の遺体を盾にして自身が負った傷は僅かなものだった。
「役立たずを殺して何が悪いのよ?」
反撃をしながらビスタがさも当たり前のように言う。
「強制労働なんかさせて何がしたいのかは知らないけど、好き勝手はさせないわよ」
アズメリアは『月詠』を構えながら攻撃を仕掛ける。彼女の攻撃はビスタの腕をざっくりと斬り、流石にビスタにも苦痛の表情が見えた。
「そらぁっ」
天狼は『紅蓮衝撃』と『二段撃』を使用して攻撃を仕掛けるが、ビスタはそれを剣で受け止める。しかし天狼の中ではそれも予想内だった。彼はすぐさまビスタの足を払い、彼女がバランスを崩した所に『流し斬り』を仕掛ける。
「んと、こっちには来ちゃ駄目なのですっ」
戦闘の破片などが一般人の所に飛んできたりしたが、ヨグは『竜の翼』を使用して、破片や瓦礫から一般人を守る。
「お前達はあたし達が守る、だから――勝手な行動はするなよ!」
翡焔も一般人達に被害が及ばぬように、牽制しながら叫ぶ。
「一気に貫く! 白羽の連撃(フェザー・コンテニュアス)!」
天狼の攻撃を受けて隙が出来た所をサンディが狙い打つ。
「‥‥くっ、雑魚共がああっ!」
ビスタが激昂したように叫ぶと剣を取り、サンディに攻撃を仕掛ける。お互いにお互いを貫いたけれど、ビスタは足を踏ん張り、倒れる事はなかった。彼女のプライドが許さないのだろう。
「‥‥ふぅ、またやっちゃう所だった。今日はあんた達に伝言を伝えようと思っていただけだったんだけど。ドカンも見たかったのは事実だけどね」
突如、ビスタは思い出したように冷静さを取り戻し、いつもの人を見下す視線で能力者たちを見る。
「一応、練習もうまくいったしね」
一人で納得するビスタに「何のことだ‥‥?」とアンジェリナが問いかける。
「うふふ、ハリー坊やのお城よ。ああ見えて坊やってば独占欲が強いのよ‥‥自分が気に入ったものは自分の物にしないと気がすまないみたい」
「意味が分からない‥‥ハリーは何処にいる?」
サンディが問いかけると「トラブゾン」とビスタは短く言葉を返してくる。
「坊やご自慢の要塞よ、そのうちご招待が来るでしょうね、だから」
早く坊やを殺してしまいなさい、ビスタは酷く楽しそうに呟く。
「それじゃ、あたしは此処で失礼するわ」
「逃げられると思うの?」
アズメリアが問いかけると「勘違いしないで。殺そうと思えば殺せたのよ、そいつら」と一般人達を指差しながら呟き、鳥型キメラを呼び寄せてそのまま何処かへと行く。
その後、能力者達は一般人達を安全な場所まで案内して、報告のために本部へと帰還していったのだった。
END