●リプレイ本文
―― 再開の兄と妹 ――
「‥‥噂には聞いていた。だが、実物を見るとインパクト違いすぎるな‥‥」
Anbar(
ga9009)が全力でため息を吐きながら「今回は宜しく頼むんだぜ!」と歯を輝かせながら他の能力者達に挨拶をしている大石・圭吾(gz0158)を見つめた。
(「猪退治だけど大石さんは苦手だな‥‥参加者を確認せずに申し込みをした小雪がいけないんだよね‥‥」)
矢神小雪(
gb3650)が遠くを見ながら心の中で呟く。ちなみに大石は妹である美和の姿を見ていきなり入ってきたので予め確認していても大石が入ってくるのは避けられない運命だった事だろう。
「死ねばいいのに」
大石の妹だという事が発覚して美和はジト目で大石を睨みつけながら低く呟く。
「はっはっは、俺と一緒だからって照れるなよぅ、今日は先輩としてちゃんと戦い方を教えてやるぞぅ」
大石が美和の肩を抱きながら大きな声で叫ぶ――が美和の持っていた煙草が大石の手の甲に押し付けられる。
(「同好の志である大石さんに危険が迫っていると聞いてやってきたのですが‥‥間違いないようですね。ここは私が褌の地位と名誉の為に頑張らなくては! それと猪も食べたいですし」)
鳳 つばき(
ga7830)はじゅるりと口元を拭いながら心の中で呟く。ちなみに彼女の中では大石の危機は食欲に負けているような気がする。
「大石さん‥‥お義兄さんと呼ばせてください!」
佐渡川 歩(
gb4026)はいきなり大石の手を握り締めながら叫び始める。どうやら彼はかなり惚れっぽい性格らしく美和の姿を見て一目惚れしたらしい。
「はっはっは、お義兄さんは駄目だがふんど師匠とは呼ばせてやってもいいぞぅ」
「え、いや‥‥僕はブルマ派なので――」
佐渡川はそこまで呟き、ピタリと言葉を止める。
(「僕が大石さんと親しくして、尚且つ美和さんと付き合う事になれば、僕を通じてお二人が顔を合わせる事も多くなりますし、それがきっかけで仲良くなれば全て丸く納まります」)
佐渡川は眼鏡をキランと輝かせながら「頑張ります!」と拳を強く握り締めながら言葉を返したのだった。
「また変なのが増えた‥‥」
「本当ですね」
美和の言葉に賛同したのは神楽坂 撫子(
gb6251)だった。彼女は冷たい視線で大石を見つめ、そしてため息を吐く。
「それにしても美人になったなぁ、さすがは俺の妹だ」
大石が美和に向けて呟くと「褌一丁のあんたを兄と認めてないわよ」と言葉を返した――が「褌を馬鹿にするなぁ!」と拳を強く握り締めながら大きな声で叫んだ。
「馬鹿野郎!!」
ばちこーん、と天道・大河(
ga9197)が大石を殴りつける。
「お前の褌が妹を苦しめてるんだ! それも分からぬのなら‥‥そんな褌、脱ぎ捨ててしまえー!」
天道の言葉に『それはやめてくれ』と誰もが心の中で呟く。大石ならば本当に脱ぎだしそうで怖いのだ。
「今回こそはちゃんとしたキメラを倒そうと思っていたのに‥‥」
緋阪 奏(
gb6253)ががっくりと肩を落としながら呟く。しかしある意味彼の目的は間違っていない。今回は『キメラは普通』で『同行する能力者が普通ではない』だけなのだから。
「ん? 何してるんですか?」
突然回りをきょろきょろし始めた大石に鳳が話しかけると「奴が俺を轢きに来そうな気がしてな」と言葉を返した。
その時だった。大通りから速度を落とさずに曲がってくる車がある。かなり危険だ。しかしその車は狙ったように大石を高く跳ね上げる――が大石だから問題は無いだろう。
「お、依頼を探しに来たのだが‥‥」
キキィとブレーキ音を響かせながらとまり、車はそのままゆっくりとバックしてきてUNKNOWN(
ga4276)が車から降りてきた。
「む――大石、またバグアに。くっ、バグアめ」
UNKNOWNは悔しそうに目頭を押さえながら呟くが、大石を轢いたのはバグアでも何でも無く彼自身なのだ。
「貴方は‥‥?」
「――藤木か、大石の親友のUNKNOWNという」
その間にもグリグリと足で踏みつけながら美和に挨拶をする。
「奴の遺志、無駄にせぬ為に。私はバグアを追おう」
そう言葉を残してUNKNOWNは颯爽と去っていく。
「あんのおおおおおおおんんんっ!!!」
がばっと起き上がり、大石はUNKNOWNを追いかけ始める。もはや恒例行事となりつつある出来事に能力者達は驚く事もなく「出発しましょうか、出来ればアレ抜きで」と美和が呟き、能力者達は目的地へと出発していったのだった。
―― 森の中で ――
「ふんふんふんどぉ〜しぃ」
道中『褌の歌』なるものを歌いながら大石はキメラが潜む場所へと向かっていく。
「殺していいかしら、いいわよね、うん、そうしよう」
美和が呟くと同時にライフルを大石に向ける。
「大石は確かに変人だが、彼の父との約束を守り続ける態度は彼の意思の強さと共に、本当に父が好きだった証である、確かに美和さんと母親は苦しんだだろうが、それでもそれは大石なりの家族愛なのかもしれない」
だから少しでもいいから彼への見方を変えてやってくれないか? と言葉を付け足しながら緋阪が美和に話しかける。
「いいわよ――‥‥それを貴方が出来るのならね」
びしっと美和は大石を指差しながら言葉を返してくる。その指の先には歌いながら楽しそうにスキップする褌男がいる。
「‥‥うん、なんていうか‥‥ごめん」
思わず緋阪は謝ってしまう。
「小雪もあんな兄だったら嫌だな‥‥美和さん、可哀想‥‥」
矢神が呟くと「分かるでしょう!? 私の苦労が! あんなイカガワシイ生物を押し付けられる家族の苦しみが!」と美和は力説する。
「大石‥‥不幸にもお前の家族は褌でバラバラになってしまった‥‥だからこそ、もう一度戻せるのはお前しか、褌しかないっ!」
だから今はまだ褌を強調するなよ、と天道が大石に向けて言葉を投げかける。
「馬鹿だなぁ、俺の家族はバラバラになっていないぞ? 美和を見ろ、あんなに楽しそうにしてるじゃないか」
大石の爽やかな言葉に流石の天道も頭を抱えたくなった。
(「あれはどう見ても怒っているのに、どこをどう見たら楽しそうになるんだ?」)
天道は「まぁ‥‥とりあえず、褌は強調するなよ、絶対だぞ!」と念を押してその場を離れる。
「もう嫌、死にそう、ゲロりそう。あんなのがいるってだけで気持ち悪いわよ」
美和がぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩いていると「同情はする」とAnbarが声をかける。
「アレが肉親だったら俺も縁を切りたいからな。だが、まぁ一旦アレの事は置いておこうや。美和さんも傭兵なら仕事に手を抜かないよな?」
Anbarの言葉に「勿論よ、そんなのは私のプライドが許さないもの」と美和は言葉を返してきた。
「そうだな、だったら今問題にすべきはアレではなく、実際に被害を与えているキメラの方だからな、信頼してるぜ、俺は」
Anbarの言葉に美和はぶわっと涙を零しながら「ま、まともな人がいてよかった」と答えた。
「美和〜! 俺のふんど――「あーーーっと! 大石さん!」」
大石が美和に危害という名のスキンシップを行おうとすると鳳が慌てて大石の口を塞ぐ。
「さて、こんな感じでいいかな」
Anbarは今回の敵が猪型キメラという事で、森の中に罠を仕掛けている最中だった。罠の種類は簡単な落とし穴や草罠など猪型キメラの機動力を削ぐ物を仕掛けている。
「大石、囮班に入って此処までキメラを誘導してくれないか? ここで頑張れば妹も見直してくれるかもしれないぜ?」
Anbarの言葉に「よぉし、お兄ちゃん頑張っちゃうんだぜー」とやる気を見せる彼だったが、ウザい事この上ない。
「あ、あの美和さん‥‥ぼ、僕の為にこれを履いて貰えませんか!?」
佐渡川が歩いている途中で美和に『ブルマ』を渡しながら照れたように話しかける。彼なりの精一杯の告白のつもりなのだろう。
しかし美和は‥‥ブルマを手にとって佐渡川の頭にぎゅっと被せて「自分で被ってなさいよ、変態」と冷たい視線と言葉を投げかけたのだった。
「ぼ、僕はブルマを履く――もとい被る趣味はありません‥‥ブルマは女の子が履いてこそ輝くものだと思うのです!」
ブルマを被った状態で力説する彼だったが「変態な台詞を力説してんじゃないわよ」と顔面パンチと共に言葉が返ってくる。
「美和! そんな乱暴しちゃ駄目だろぅ!」
「煩いよ、何勝手に話しに入ってきてんのよ! このド変態が!」
息を乱しながら喋る美和に「まぁまぁ‥‥」と神楽坂が宥めるように話に入ってきた。
「誰しも一つは欠点がある、あんな駄目な男でも一応は兄なんだから‥‥」
「その一つの欠点が100個以上の威力を見せてるんじゃないのっ。あんな兄なんかいらないわよ!」
「まぁ、気を確り持って」
怒り狂う美和の姿を生暖かい目で見守りながら神楽坂は言葉を返したのだった。
―― 戦闘開始・猪と能力者と褌と ――
罠を仕掛け、囮班がキメラを探しに行ってから数十分後に「ぶへーん」と意味の分からない奇怪な声を出す猪型キメラを連れて戻ってきた。どすどすと鈍い音を響かせながらやってきたが、頭の悪いキメラらしくAnbarの仕掛けた落とし穴に落ちていく。落とし穴とは言っても即席の物なので足がすっぽりを嵌る位の深さだった。しかし猪突猛進な猪キメラにはそれでも対応出来ないらしく「ぷぎゃ」と珍妙な声を出しながら困っている様子が見受けられた。
「この様子じゃ苦労する事はないみたいだね」
鳳は呟きながら『練成弱体』を使用して猪型キメラの防御力を低下させた後に『超機械 トルネード』で攻撃を行う。
続いてAnbarが『強弾撃』を使用しながら小銃『S−01』で攻撃を仕掛けた。後衛の援護射撃で猪型キメラが動けなくなった後に天道が前へと出て『両断剣』と『流し斬り』を使用して居合いの太刀を浴びせる事に成功した。
「さてと、猪さん焼き加減はこんがりでいいですね?」
答えは聞かないけど‥‥と言葉を付け足しながら矢神が『【OR】フライパン・アサルト』と『【OR】アサルト・ライオット』で攻撃を仕掛ける。
「一つ、二つ、これでとどめ〜」
矢神は『竜の爪』を使用しながら攻撃を行うが、トドメには至らなかったようで猪型キメラはヨロヨロとしながらも立ち上がってくる。
「美和さんに良い所を見せるんだ」
佐渡川は呟きながら『練成強化』で能力者達の武器を強化する。その時だった、美和にキメラが突進攻撃を仕掛けようと走り出す。
「くっ‥‥」
緋阪が『蛍火』を構えて『両断剣』を使用しながら美和を守るように攻撃を行う――だが猪型キメラの勢いは止まらなかった。
「大石ぃぃぃっ!!」
天道がいきなり大石の褌を掴みながら美和の方へと投げる。この時に密かに大石が「いやん☆」と言ったのは天道の聞き間違いではないだろう。
しかし――「あんたに助けられるくらいなら攻撃受けた方がマシよ!」と大石を蹴り返しながら美和は猪型キメラから攻撃を受けてしまう。
「むしろお前が死ねやあああっ!!」
美和がライフルで大石に攻撃を仕掛けた時「あぶな〜い」と言いながら『刀(鞘つき)』で突き飛ばして庇う。しかしある意味ダメージが大きいのはきっと気のせいだろう。
そんな中、ある意味猪型キメラは存在を忘れられつつあったが、その後能力者達はフルボッコにして猪型キメラを退治する事に成功したのだった。
―― みんなで楽しい会食をしましょう ――
今回の猪型キメラは退治された後に鍋にされる事が決まっていたので、猪型キメラを捌く者、味付けなどをする者など、様々な役割を受けた能力者達は料理の準備に取り掛かっていた。
「大石さんもお父様を大事に想い、遺志を引き継いでこうして誓いを守っています。それが険しい道のりであっても。普通の人間にこのような格好が出来るでしょうか? いや、否。そこは認めてあげてください」
鳳が大石と美和を仲直りさせようと頑張っているのだが「一つ聞いていい?」と美和が言葉を返してくる。
「何で褌男が増えてるの?」
美和は天道を指差しながら引きつった笑顔で呟く。
「まぁ、その辺は気にしないで下さい。お母様や貴女に迷惑をかけた事は反省させなくては‥‥」
「無理矢理話を繋げたわね‥‥」
美和の言葉をスルーして鳳は大石を呼び「というわけで。誓いを果たすのも立派な事ですがお母様と妹さんに迷惑をかけたことは反省して謝罪するべきだと思います」と言葉を投げかける。
「メンゴー☆」
明らかに謝る気のない大石に「フンドシーチョップ! 潔さも褌の魂と知れい! 迷惑をかけたのは事実! それを謝るのは自然の事ですぞ!」
鳳の言葉に「断る!」と潔く断って、そのまま別の能力者の所へと行ったのだった。
「あんばー、猪の肉を食べてないじゃないか、好き嫌いは駄目だぞ!」
彼はムスリムなので猪の肉を食べないと他の能力者達には伝えてあった、そのおかげか彼が食べれるように野菜や他の肉などを用意してくれてある。
「てめぇは言ってはなら無い事を言った! その言葉は万死に値するぜ!」
胸倉を掴もうと彼が手をあげるが、残念ながら大石は服を着ていないので掴める胸倉が無い。仕方ないので首を絞めながら「謝れ! 俺に謝れ!」と言葉を繰り返している。
「おお、うまい。丹念に下拵えした甲斐があったな」
天道は食べながら呟く。彼は日本酒やワイン、そしてミネラルウォーターなどを使って猪の肉の臭みを取る作業を行っていた、そのおかげか随分と食べやすくなっている。
「こっちにはお稲荷さんもあるよー、皆食べてねー!」
矢神が持参してきた稲荷を差し出しながら能力者達に話しかける。
「キメラの肉を食べても大丈夫とは言われても、最初の一口は勇気がいるなぁ‥‥」
神楽坂は苦笑しながら恐る恐る猪の肉を口にしたのだった。
「うん、でも肉も稲荷も絶品だな。これだけでも今回の任務に来た甲斐があったかな」
緋阪が鍋をつつきながら呟く。
その後、能力者達は報告の為に本部へと帰還したのだが‥‥。大石は再びUNKNOWNの車によって派手に轢かれる事となった。
「大丈夫かね? バグアがまた近くで出たようだが‥‥大石はどこに消えたのだろうな?」
車から降りたUNKNOWNが周りをきょろきょろと見渡しながら呟く。ちなみに大石はUNKNOWNの車の下に居る。
「もっと派手にしてくれなくちゃ死なないわよ、アレは」
美和がボソリと呟くと「大石の仇は、私が取ろう」と力強く善意溢れる雰囲気で美和に話しかける。
ちなみに大石を毎回轢いているのは彼なのだ。犯人など居ない。
「あんんお―――ぷぎゃ」
大石が叫び始めた時に再び車が発進して再び踏まれる。
「あんのおおおおおおおおおんっっっ!」
LHに響き渡る声、美和と大石は仲直り出来なかったが今日もLHは平和である‥‥?
END