タイトル:【BL】禁断の扉マスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 19 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/25 23:03

●オープニング本文



 性的興奮を異常に高める物質を散布する機械が、世界の2か所にてばら撒かれました。
 ――UPC本部
 突如として舞い込んできたその報せは、あまりに驚愕であると同時に、バグアの思惑を疑うものであった。
「何でも、その物質を吸引した者は、とにかく異常な性的興奮を覚えるそうです」
 媚薬。その歴史は古く、精力の付く薬や食品の総称とも捉えられてきたが、要は正真正銘なソレをぶちまける機械が、あろうことかバグアによって開発されてしまったとのこと。
「現場に駆け付けた能力者達によって、その機械をばら撒いたバグア一派は討伐できたのですが‥‥」
 と、その後に続く言葉に顔を引き攣らせるオペレーター。
「そ、それが、能力者達がその媚薬効果にやられたせいか、街中であんなことやこんなことを始めてしまい、収拾がつかなくなっている模様です」
 ‥‥ある意味、最恐の兵器である。
 恐らくは、何故かふと開発してしまい、ぜっかく開発したからには使ってみようと試験的に用いたのでろうが、予想以上に効果抜群だったのでろあう最恐媚薬生成マシーン。
 形状は1メートル四方の正四面体っぽいものらしいのだが、どうやら同じ街に複数設置されているようだ。

「ばら撒かれた場所は、アメリカ地方とヨーロッパ地方の二か所です。本部からは、それぞれに傭兵を派遣し、何としても対象の機械を破壊せよとの通達です」
 真剣にオペレーターは力説するが、ぶっちゃけどうしようもない内容な気がするのは内緒である。
「尚、散布されている媚薬効果を持つ物質ですが、とにかく効力が強い為、なるべく同性で構成されたチームを推奨します。それでも、効果があるかは謎なくらい強烈らしいですが‥‥」
 そこまでしますか。とは言え、本部側からの正式な提案だ。確かに、なるべく性的対象になりにくい同性間なら効果も薄い‥‥かもしれない。
「先生! 同性が恋愛の対象になる人は、どうすれば良いんでしょうか!?」
「もうどうにでもなって良いと思うよ!!!」
 解説するのに疲れたオペレーター。瞬間、何かが吹っ切れた。
 かくして、ヨーロッパとアメリカを舞台に、壮絶なミッションが今、開始される――

※※※

「ちょっと‥‥どこにいくのよ」

大荷物を抱えながらクイーンズ編集室を出て行こうとするのはお騒がせ記者・土浦 真里だった。

「友達からね、面白いって言ったら不謹慎なんだけど――機械が人々を苦しめてるんだって。此処は取材しなくちゃクイーンズじゃないでしょう!」

ぐ、と握り拳を作りながら力説するマリに「‥‥はぁ」とチホはため息しか口から出す事は出来なかった。

「ちゃんと能力者に来てもらうんでしょうね? あんたが危ない目にあって胃を痛めるのはもうこりごりよ」

チホの言葉に「うん、連絡するよ」とマリが満面の笑みで言葉を返した。

「‥‥‥‥連絡、するよって‥‥まだしてないの!? 出発するんでしょう?」

「うん、現地に到着してから『来てね♪』って連絡するんだ。じゃあねーーー!」

ははははは、とけたたましい笑い声をのみを残しながらマリは問題の機械がある場所へと旅立っていった‥‥。

「もー‥‥ヤだ。私が旅立ちたいわよ‥‥」

楽しそうに去っていくマリの背中を見ながら、チホは壁に寄りかかって胃が痛むのを感じていた。

※※※

「な、な、な、な、なんじゃ、こりゃああっ」

現地に到着して数秒後、顔を真っ赤にしながらマリは大きな声で叫んだ。

それもそうだろう。

『そっちの事』に全く免疫の無い彼女が『あ〜んな事』や『こ〜んな事』を街中でして居る姿を見てしまったのだから。

「おおおおう、ま、マリちゃんは男性同士の恋愛も、ぜ、全然問題ないと思うよ! でも流石に街中ではいかんと思う! いかんぞおおっ」

手で顔を覆いながらマリは大きく叫ぶが、誰も聞いていない。所々に機械が置いてあって、どうやらその機械の影響を住人達も受けているらしいのだが‥‥。

「ちょっと、あんた! そこからは近寄るんじゃないよ!」

少し太った中年の女性がマリの腕を引っ張りながら話しかけてくる。

「おおおおっ、ま、マリちゃんを襲っても美味しくないよおおっ!!」

「何を言ってんだいっ! わたしゃそういう趣味は無いよ!」

べしん、と軽く頬を叩きながら「あの機械が見えるだろ」と箱のような機械を女性が指差し、マリは首を縦に振った。

「あの機械の影響を受けるとああなっちまうらしいのさ――うちの旦那もね」

へへへへ、と女性は顔を青くしながら自分の旦那であろう人物を指差す。

「とりあえず、能力者には機械の破壊を要請してるんだけど‥‥どうなる事やらねぇ‥‥」

女性のため息と共に、マリは再び視線を其方へと移して『ぷしゅう』と顔を赤くしたのだった。

●参加者一覧

/ ノエル・アレノア(ga0237) / 神無月 紫翠(ga0243) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 神崎・子虎(ga0513) / 叢雲(ga2494) / UNKNOWN(ga4276) / 玖堂 鷹秀(ga5346) / アンドレアス・ラーセン(ga6523) / カーラ・ルデリア(ga7022) / 榊 紫苑(ga8258) / レイン・シュトラウド(ga9279) / 佐倉・拓人(ga9970) / 姫咲 翼(gb2014) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / ニウァリス・アルメリア(gb2734) / 美環 響(gb2863) / 長門修也(gb5202) / 天原大地(gb5927) / セグウェイ(gb6012

●リプレイ本文

―― 偽者の愛で滅ぼされようとしている町 ――

「皆さん、こんにちは――貴方の町のマリちゃんは現在『愛の力』で滅ぼされようとしている町に来ております」
 取材メモを書く為のノートを丸めてマイク代わりに使いながら土浦 真里(gz0004)はきりっと実況中継を始める――のだが「きゃあああああ」とすぐに顔を手で隠して中継をするどころの話ではない。
 もっとも叫びながら顔を両手で隠すマリなのだが――何故かその手は隙間だらけでじーっと興味津々に見ている。
 まぁ、とりあえずちょっとむっつりな記者は適当に置いておいて――媚薬を撒き散らす機械を破壊する為にやってきた能力者達に視点を変えてみよう。


※ お子様でも『それ』に関しては大人なんです? ※

「ノエルンと一緒に依頼は楽しいな、と♪ 頑張ろうね、ノエルン☆」
 神崎・子虎(ga0513)はノエル・アレノア(ga0237)と手を繋ぎながら現地へとやってきていた。
「うん、そうだね。一般の人にも凄く被害が出てるみたいだし‥‥これ以上、被害を出させる訳には行きません!」
 ノエルは町の中を見渡しながらため息混じりに呟く。現在の町の状況は目を背けたくなる程にいやんうふんな状態が続いている。いくら能力者でも子供にははっきり言って見せたくない状況だ。
「とにかく、被害を受けた人達が多く溜まっている場所の近くに装置がありそうだね。そこを探して‥‥後は覚悟を決めて飛び込むしかないよ」
 ノエルが呟きながら町の中をこのような状況にしている機械を探し始める。
(「でも‥‥今回の任務は子虎くんに誘われて来たのだけど、何か嫌な予感がする」)
 楽しそうに機械を探している子虎を見ながらノエルが心の中で呟いた時だった。
「あれがその機械かな? さっさと怖しちゃおう☆」
 神崎が指差した先には明らかに人為的に置かれて怪しげな甘い匂いを撒き散らしている箱のような機械があった。
「そうだね、早く壊して――「ノーエルン♪ んふふ〜」――子虎くん!?」
 機械の破壊に向かおうとしたとたんに背後から抱きしめられる。勿論その相手は言うまでもなく神崎だった。
「ちょ――‥‥っ」
 まだ機械は遠くに見えるのに、とノエルが思って振り返った瞬間――別の機械がすぐ近くにあるのが視界に入ってきた。
「こ、子虎くん!?」
 どさり、と地面に押し倒されてしまい服が泥で汚れてしまう。しかし神崎はそんな事などお構いなしでノエルに頬ずりをしながら、服を丁寧に脱がしていく。
「ちょ、待っ!?」
 ノエルは多少抵抗をしながらも『普段はこんな事ないのに‥‥』といつもとは違う反応をしてしまう自分自身に驚きを隠せずにいた。
「駄目だよ、ノエルン☆ 抵抗したら――服破いちゃうよ?」
 んふふ、と神崎はノエルの服を脱がすのを途中で止めて凄く楽しそうに笑って言葉を投げかける。服を破かれては困る――という理性は残っているのかノエルは抵抗する事をやめて「ぅ‥‥」と顔を背けながら神崎が自分の身体を触るたびに意識を持っていかれそうになるのを必死に耐えていた。
(「変な声が出てしまう‥‥うぅ、恥ずかしい」)
 そしてノエルの身体にキスをしたりなどして、既に二人の頭の中からは『機械の破壊』の事など完全に抜けてしまっている。
「ノエルンのお肌‥‥美味しい♪ すべすべで綺麗だけど、ちゃんと筋肉あって♪」
「うぅ‥‥言わないでよ‥‥」
 自分の身体を実況中継されていく様はあまり気分の良いものではなかったらしく「あはは、ごめんごめん☆」と神崎は悪びれた様子もなく謝る。
「僕の身体も触って〜♪ どうかな? 僕の身体‥‥♪」
 ノエルの手を自分の身体に触れさせた後に問いかけると「綺麗‥‥だよ」とノエルは恥ずかしそうに言葉を返したのだった。
「あは、時間は沢山あるから楽しもうね、ノエルン☆」
 そうして神崎はノエルの首筋にキスをしたのだった。


※ 慣れた二人に怖いものはない? ※

「機械破壊ですか? ‥‥相当厄介なものみたいですね‥‥依頼であがってくるとは‥‥」
 神無月 紫翠(ga0243)が苦笑しながら、今回一緒に任務を行う事になった榊 紫苑(ga8258)に話しかける。
「ど〜も、嫌な予感が、しますね?」
 呟いた後に榊は「こういう予感は、外れないので、嫌なんですが」と言葉を付け足す。
「しかし、お前と一緒なのは珍しいな‥‥それじゃ、いつものパターンでいくか?」
 榊が神無月に話しかけると「えぇ、そうですね」と言葉を返し、機械破壊の為の作戦を立てていた――のだが、これはあくまで機械の影響を受けなければの話である。
「いつもの形ですか? ‥‥了解です‥‥それでは‥‥頼みます」
 神無月も言葉を返し、町の方に視線を向ける――そして二人で苦笑を漏らす。
「物凄い状態だな? 一体いくつあるんだ、これ‥‥」
 町の状況を見ると目を背けたくなる状況に盛大なため息を漏らす――それと同時に甘い香りが鼻につく。機械そのものは近くにはなかったのだが、強い風が吹いた為に運ばれてきたのだろう。
(「‥‥やばい、ですね」)
 神無月は壁に寄りかかりながら隣の榊に視線を向ける、すると彼も影響を受けてしまっているようで、少しだけ肩を震わせているのが分かる。
「‥‥やっぱり、嫌な予感は、外れなかったな」
 ぼそりと榊が呟いた後「え?」と神無月が言葉を返した直後、自分の目が空を見ている事に気づく。
「ふふ、長年相棒やってるんだ。お前の弱点を知らない筈ないだろ?」
 呟きながら榊は神無月に接近しつつ、上着のみをはだけさせる。きっとここでつっこんではいけない。どんな『相棒』なんだと言う事に。そこは聞き流しておくべきなのだろう。
「それは‥‥確かに‥‥長いですけど‥‥いきなり‥‥そこは‥‥」
 そろりと服の下に忍び寄ってくる榊の手に神無月は地面の土を強く握り締める。
「確か、ここだったよな、弱点」
 榊は神無月の背中の傷を触りながら「くっ」と鬼畜めいた笑みを浮かべる。それと同時に神無月の呻くような声がもれた。
「やっぱり、弱いんだな?」
 耳元で囁かれる言葉から逃げるように神無月が身を捩るが「この俺から、逃げられると思っているのか?」と榊は神無月の顎を持ち上げながら呟き、そのまま口を塞ぐ。
「口答えが許されると思ってるのか? お前はただ感じていればいい」
 榊は呟いた後に再び神無月の口を塞いだのだった。


※ 美女と美少年 ※

「こんなのダメ! ホントの愛を見失っちゃいけないわ!」
 ナレイン・フェルド(ga0506)は『巨大注射器』を構えて『リーフ・ハイエラの白衣』を翻しながら大きな声で叫ぶ。ラブラブは真実の愛があってこそ、とナレインは考えており、その考えの為か人を無理矢理に酔わせる機械が許せないのだろう。
 そして勇敢なのか無謀なのか分からないけれどナレインは巨大注射器を振りかざしながら機械の方へと走っていく。勿論、機械に近寄るのだから影響は受けてしまう。
「うぅ‥‥力が入らないけれど‥‥負けないんだから‥‥」
 一生懸命注射器を振りかざすが、へなへなとその場に座り込んでしまう。
「あれ、ナレインさん?」
 聞き覚えのある声がしてナレインが其方に視線を向けると――そこには美環 響(gb2863)がきょとんとした顔でナレインを見つめていた。
「どうしたんですか?」
 美環が座り込むナレインに近寄りながら話しかける――平静を保っているように見える美環だが‥‥勿論機械の影響は受けている。
「やだぁ‥‥お願い響ちゃん‥‥私‥‥」
 ナレインは力の入らない手を美環に縋るように伸ばし、美環がその手に触れると過剰な程に反応を見せる。
「‥‥ん‥‥そんな風に触らないで‥‥」
 ナレインはぎゅっと瞳を閉じながら消え入りそうな声で呟き美環の手を制止するが――そんな様子に加虐心を擽られるのか、奇術で青薔薇を出しながら「僕と一緒に赤薔薇を咲かせて見ませんか?」と耳元で囁くように呟く。
「あ‥‥今、私に触らないで‥‥お願い‥‥だから‥‥」
 耐えるようなナレインの様子に美環は更にナレインの耳元に口を寄せて「きっと青薔薇より、よく似合いますよ」と言葉を付け足した。
「ど、ういう‥‥事‥‥?」
 ナレインが顔を赤く染めながら呟くと「貴方のそんな仕草が好意に値しますね、つまり‥‥好きってことです」と美環はニッコリと笑顔で言葉を返す。
「人を愛する素晴らしさの前に、性別なんてものはささいなもの。僕達で皆に教えてあげましょう」
 ナレインの頬に手を添えて、情熱的な視線を向けたまま見つめながら呟く。
 しかし‥‥少し離れた場所からマリが口をぽかんと開けながらその様子を見ていた。
「‥‥お、お姉さまが何故ここに‥‥がーん‥‥」
 離れた場所でショックを受けているマリの事など気づく筈もなく、ナレインと美環は目くるめく禁断の愛の世界へと足を踏み入れかけていたのだった。


※ 美少年たちの愛は素晴らしきことなのです ※

「LHじゃよくある事やね」
 先ほどの事でショックを受けていたマリにカーラ・ルデリア(ga7022)がぽむと肩に手を置きながら安心させるように説明をする。
「うそーーっ、私ああいうのLHで見たことないよ!? 偏見は持たないつもりだけど、だけど、そうなんだけどおおおっ」
 やや興奮気味になっているマリに「はいはい、落ち着いて」とカーラがマスク越しに言葉を投げかけてくる。恐らく機械の影響を受けないように少しでも予防策を考えてきているのだろう、その大きなマスクは彼女の綺麗な顔を半分ほど隠していた。
「きゃ〜! 美少年同士とかそそられるッ‥‥! さっきのは女装と美少年やねぇ、あの堕ちていく姿、たまらない!」
 きゃあきゃあ、と騒ぎながらカーラは興奮気味に話している。
「ほらほら! あっちの弱気な美青年に押し倒される青年とかもうね!」
(「この人はこれが見たくて此処まで来たのかな‥‥」)
 マリは心の中で呟く。だけどそうとしか考えられないのだ。彼女は手に銃を持っているし、機械を破壊しようと思えばできる状況にある。それにも関わらず目くるめく世界を見て一人興奮しているのだ。
「うん、もう少し堪能させてもらおう、そうしよう」
 カーラの言葉に「え、まだ見るの!?」と思わず目を丸くしたマリだった。


※ 禁断・Sっ子とMっ子 ※

「変な機械のせいで酷い事になっていると聞いたのですが」
 叢雲(ga2494)が呟きながら町の中を見渡す。確かにある意味では酷い事になっており「やれやれ。こんなに酷いとは」とため息混じりに呟いた。
「要は妙な機械ブチ壊してくりゃいーんだろ? 楽勝だ、楽勝!」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)が呟き「効率よくとっとと片付けようぜ」と機械を探して歩き出す。アンドレアスの後ろから叢雲が周囲の様子を見て、機械の特性を掴む。機械から一定の距離に足を踏み入れると影響を受けてしまうという事は住人や他の能力者達を見ても明らかだった。
「アス、気をつけて歩かないと‥‥どこにあるか分からないんだから」
 叢雲の言葉に「大丈夫、大丈夫」とアンドレアスは根拠のない自信で言葉を返す。その言葉にため息を吐きつつも彼もいい大人なのだから確りと理解しているだろうという希望的観測で彼が歩いていくのを見つめていた。
「お、あったあった」
 どどんと自分の存在を誇示するかのように置かれた機械を眺めながら「ちょっとだけなら大丈夫だよな」と呟きつつ機械へと必要以上に近づく。これはアンドレアスのメカ好きが祟ったのだろう、人間誰しも好奇心には勝てないのだから。
「しっかし‥‥どゆ仕組みなんだ? コレ」
「あ、こら。不用意に近づくと‥‥」
 少し目を離した隙に叢雲はアンドレアスの姿を見失い、見つけた時には既に機械に近寄った後だった。
「‥‥ちょ、ヤバい、かも」
 動悸が激しくなり、息をするのも苦しくなり、顔が火照ったように熱くなっているのが自分でも分かる。
「‥‥手遅れでしたか」
 壁に寄りかかり、明らかに様子のおかしいアンドレアスを見てため息混じりに叢雲が呟く。機械はアンドレアスの少し先、気をつけていけば叢雲は影響を受けずに済むかもしれない――そう考えて機械の範囲に気をつけながら歩いていたのだが‥‥。
「‥‥‥‥っ」
 突然ガクリと足の力が抜けそうになる。そして壁によって死角となっていた場所に――隠れるように機械が設置されていた。
「‥‥ふぅ」
 この任務を受けた時からある程度の心構えはしていたので、酷い変化が叢雲を襲う事はなかったけれど叢雲は気分が高揚していくのが自分でも分かる程だった。
「‥‥貴方が近寄らなければ、俺もこうなる事はなかったんですけどね」
 叢雲はアンドレアスを回収する為に接近し、彼の襟首を掴んだ時に「‥‥っあ」と彼は表情を顰めながら声をもらした。
 そして‥‥機械の影響を受けたせいか潤み、縋るような視線を叢雲に向ける。そして彼の首に手を回して抱きつくと無意識的にキスをしようとした。
「‥‥‥‥」
 迫ってくる唇に叢雲は何も言う事はせず、触れる刹那の瞬間にアンドレアスの口の中に指を突っ込む。
「‥‥っふ‥‥」
 息苦しさと別の感情がアンドレアスの中に沸き立ち、悩ましい声が漏れる。その様子さえ叢雲は楽しそうに見つめ、そして楽しそうな笑顔のまま引き倒してそのままアンドレアスを足蹴にする。
「何トチ狂ってるんですか?」
「‥‥痛‥‥んっ‥‥痛ぇって、馬鹿‥‥」
 アンドレアスは止めさせようとして反論しているのだろうが、それは叢雲の何かを煽り立てる役割にしかならない。
「ハッ。踏まれて悦んでいるとかどんな変態ですか?」
 笑顔のまま、だけど見下すような冷たい笑みのまま叢雲は足蹴にするのを止める事はなかった。
「‥‥っは‥‥そんな目で、見んなよぉ‥‥」
 恥ずかしさと浅ましさでアンドレアスは強く目を閉じ、その瞳から涙が一筋流れる。そして叢雲は『【OR】複合兵装 罪人の十字架』で近くにあった機械二つを破壊する。まだ影響が少し残っているものの、これ以上酷くなる事はないだろう。あとはこの高揚感が収まるのを待つばかり。


※ 奪われた彼氏殿を取り戻せ ※

「見境無く盛らないで下さい」
 玖堂 鷹秀(ga5346)は自分に向かってくる人間に雷属性の『棍棒』でガスガス殴りながらため息混じりに呟く。とりあえず脛とか鳩尾とかを強く殴れば正気に戻るのではないだろうか、という試みだ。戻らなくても痛みで呻いている間に逃げればいい。
「‥‥玖堂さん‥‥私、少々気分が悪くなりました。しばし休ませて頂きたく存じます」
 玖堂と一緒に行動をしていた佐倉・拓人(ga9970)が顔色を真っ青にしながら俯き、呟く。
「えぇ、構いませんよ。大丈夫ですか?」
「‥‥はい、何か飲み物をお持ちではありませんか?」
 佐倉の問いかけに玖堂は荷物を見ながら「すみません、残念ながら‥‥」と申し訳なさそうに言葉を返した瞬間、佐倉が豹変した。
「‥‥‥‥では、玖堂さんで喉を潤わせて頂きましょう、あ。唇の接吻はマリさんに取って置いてください? 私、吸血鬼伝説が大好きでして‥‥」
 そう呟きながら佐倉は玖堂の喉を撫でるような仕草を見せる。
「頂くのは、その首です」
 佐倉の様子がおかしいと判明した時から玖堂には分かっていた。近くに機械が存在するという事を。その証拠に玖堂自身も機械の影響を受け始めたのだから。
「‥‥えーと‥‥」
 玖堂が苦笑しながら呟く間にも佐倉は玖堂の第一ボタン、第二ボタンを外し、その胸板に指を滑らせる。
「マリさんに、怒られてしまいますかね」
 息がかかるほどの近さで囁き、玖堂の首筋に口付けを落とした瞬間――ゴスという鈍い音と共に佐倉がそのまま地面に突っ伏す。
「うわあああああんっ、私の鷹秀に何すんのよーーーっ! 鷹秀も抵抗しなさいよっ! もしかして浮気!? そうなのね、鷹秀が浮気したあああああっ」
 機械の影響を受けないようにだろう、遥か離れた場所からマリが叫んでいる。
(「‥‥よくあそこから此処までモノが届きましたね‥‥」)
 佐倉の頭にぶつかった棒切れを見ながら玖堂はどこか関心したように心の中で呟いていた。
 そしてマリも危ない事を知り、玖堂はマリに離れるように言いかけた時だった。身体中を駆け巡るような感覚が彼を襲い、そのまま壁にもたれかかる。
「鷹秀っ、大丈夫!?」
 慌てて駆け寄ってくるマリを後ろから抱きしめる。
「‥‥少し、吸ってしまったようで‥‥申し訳ないのですが‥‥暫くこのままで、居させてもらえませんか」
 マリは何も言葉を返さず、顔を真っ赤にして俯いたまま首を縦に振った。そして機械の影響なのだろう、玖堂はマリの首筋や耳にキスをしたり、お腹やわき腹を撫でている。そして手が太腿の所まで行ったところで「スカートだったら、きっとアウトでした」とマリの耳元で囁く。
「私の鼓動が聞こえますか? こんなに早くなるのは媚薬のせいではありません、愛する人に触れているからこそ、ここまで強く反応するんです‥‥」
 呟いた後に玖堂はマリを正面に向かせ、そのままキスをして「‥‥さてと、任務をしなくては」と少し顔を赤くしながら呟き『エネルギーガン』で近くにあった機械を破壊したのだった。


※ 純真さゆえに ※

「‥‥ボクは道を間違えたのかな?」
 現場に到着して、それが第一声。レイン・シュトラウド(ga9279)は呆然とした様子で町の状況を見ていた。彼は『困っている人がいる』と言う事で今回の任務にやってきたのだが、到着して既に自分も困っている事に気づく。15歳の少年が直視するにはやや厳しい状況なのだから無理もない。
「早い所見つけないと、ある意味で町が崩壊しそうだ」
 レインは『スコーピオン』を構え、町そのものを狂わせている機械を探し始める。少し離れた所にはいやんうふんな状態の人間が存在している。
「ああなったら、ある意味、人間として終わりかも‥‥」
「可愛い男の子――――っ!」
 目を血走らせた住人がレインに向かって走ってくる、その鬼のような形相にややひるむも能力者と一般人、相手になるはずもなく銃床を一般人の腹部に叩き込んだ。
「ボクにはそんな趣味はありませんから――あ、マリさんだ」
 少し歩いた所でマリを見つけ、顔を真っ赤にしている姿が彼の視界に入ってきた。
「‥‥マリさんも普通の女性なんですね」
 何気に酷い事を呟きながらレインは機械捜索の為に進む。キメラなどと違っていちゃついている人間を見れば、何処にあるのかが分かるために機械破壊のみはとても簡単なものに思えた。そして怪しげな機械を発見して、射程ぎりぎりから機械めがけて発砲する。
「騒ぎの種はあれですね‥‥あと幾つあるんでしょう」
 レインはため息混じりに呟き、次の機械捜索へと向かい行く。その途中で何人もの人間に襲われかけながら、彼はそれを悉く撃退していくのだった。


※ 物凄い偶然の彼と物凄い痛みを受けた者 ※

「どんな偶然なんだ、俺は」
 姫咲 翼(gb2014)は呆然と町の様子を見ながら呟く。彼が呟く偶然、それはニウァリス・アルメリア(gb2734)と共に今回の任務にやってきたのだが‥‥しかし、ドラグーンである筈の彼なのに偶然、凄く偶然にもAU−KVを忘れてしまったという凄くうっかりさんだった。
「ま、まぁ‥‥これで何とかなるだろうが‥‥」
 姫咲が『瑠璃瓶』を構えながら呟く。
「油断大敵ですよ? まぁ、俺がこんなのに惑わされるわけもありませんが」
 ニウァリスが自信ありげに呟き『イアリス』を抜きながら捜索を始める。
「ちょっとこっちを見てくる」
 姫咲が左方向を指差しながら呟き、そのまま歩いていく。
「さて、早くこんなどんよりとした空気から離れたいな‥‥任務とはいえ、情けなくなるよ」
 ニウァリスはため息混じりに呟くと、離れた所で前屈みになって苦しそうな表情をしている姫咲が視界に入ってくる。
「媚薬のせいか‥‥?」
 ニウァリスは少し心配になり、足を踏み入れたのだが――勿論、彼も機械の影響を受けてしまう事は言うまでもない。
「こ、こっちに来るな! ニウ!」
 姫咲は慌てて叫ぶのだが、時既に遅し、ニウァリスは既に足を踏み入れた後だった。
「な!? ‥‥しまった! 媚薬が‥‥! ゆだ、ん‥‥した‥‥ぁ」
 媚薬のせいで理性は飛んだニウァリスだったが、意識は限界ぎりぎりの所で保つ事ができたのだが‥‥身体は勝手に姫咲の所へと歩いていく。
「すみません‥‥オレ‥‥て、手加減出来ないかも、ですッ! ん、色んな‥‥意味で‥‥」
 ニウァリスが呟くと同時に姫咲の肩に手をかける。
「わ! な、何する!?」
 抵抗する為に姫咲が暴れるのだが、ニウァリスは髪を結んでいた紐を解き、それで姫咲の動きを封じる。そしてそのまま押し倒し、耳に息を吹きかけたりなど姫咲の精神的な部分を攻撃するかのように行為を続けていく。
「‥‥や、やめろ、馬鹿!」
 ばたばたと暴れる姫咲だったが、力の抜け切った身体ではニウァリスの腕を振りほどく事など出来る筈もなかった。
(「あ、あれは‥‥」)
 怪しげな機械を発見して、押し倒された際に頭の近くへと落としてしまった瑠璃瓶を手に取り、そのまま機械を破壊しようとするのだが――‥‥ニウァリスによって銃を取り上げられてしまう。
「‥‥も‥‥どれ‥‥バカヤロウ!!」
「はぅっ‥‥」
 姫咲は叫ぶと同時に『女子のチカン撃退法No1』――つまり急所蹴りを行った。凄まじい痛みの中、媚薬に操られていたニウァリスは一瞬で正気を取り戻したが、ニウァリスは男として何かを失いつつあった。
「撃て! ニウ!」
 痛みでそれ所ではない筈のニウァリスに姫咲は無情にも言い渡し「このっ‥‥」と涙目で銃を構える。
「こんな恥ずかしい装置を実戦で使うなあぁぁぁぁっ!!」
 ニウァリスの怒りの叫びと共に機械が破壊され、二人には平穏が戻ったのだった。


※ 巻き込まれ体質な彼 ※

「たまの休みに外に出てみれば‥‥巻き込まれ体質でもあるのでしょうか?」
 ジェームス・ハーグマン(gb2077)が泣きそうな声でポツリと呟く。彼は常に『アサルトライフル』を構えており、機械を一つ破壊していた。
 しかし‥‥。
「う、うわあ、こっちに来るな!」
 数名で固まって激情に身を任せた一般人が彼めがけて走り出してくる。
「ふ、腐女子の餌になるのはいやあああああっ!」
 慌ててジェームスは逃げ回るのだが、闇雲に逃げていては自分も機械の影響を受けて追いかけてくるアレの仲間入りと言う事になる。
(「確か、こっちはさっき通ったけど大丈夫だったな」)
 ジェームスは細い路地に入ると「ここで大丈夫かな」とホッと安堵のため息を吐く。
「ぎゃあっ!」
 後ろには誰もいない筈なのに、いきなり腰を撫で回されてジェームスは素っ頓狂な声を出してしまう。
「ふふふ‥‥怖がらなくてもいいのですよ? それがしが包み込んで差し上げるゆえ」
 長門修也(gb5202)がにっこりと満面の笑みでジェームスに話しかける。どうやら機械の影響を受けてアレ化しているようだ。
「いやいやいや、離れようよ、まず主旨が違うでしょう! 機械を壊しにきているんでしょう!」
 ジェームスが尤もな事を言うと「侍なら男の愛人の一人くらいつくっとけってばっちゃが言っておりました!」と抱きつきながら長門が言葉を返す。
「ま、まって、僕にはそんな――――」
「一回やればハマりますよ?」
 そう呟きながら長門は服を脱ぎ始める。
「ええええっ!」
「それがしは露出卿だああ――――!! 全てを統べる裸体の貴族だああ――!!」
「変態だ――――!」
 まるで漫才でもしているかのような二人だったが、それぞれ目的は違うが本気(マジ)である。
「それがしは裸体を晒しているのではない! 誇り(プライド)と言う名の服を着ているのだ!!!」
 意味分からない、ジェームスは心の中で呟きながら身の危険をひしひしと感じている。
「ふふ‥‥こうすると気持ち良いのですか‥‥?」
 すっかり流されてしまったジェームスは外見年齢11歳の少年に良いように扱われている。
「ごめんね‥‥‥‥僕、お婿にいけなくなっちゃったよ‥‥へ、へへへへへへへ‥‥」
 全てが終わった後にはどんよりと沈んでいるジェームスと、それとは正反対に晴れ晴れとした表情の長門の姿があったのだとか‥‥。


※ 純情爆発と此方の道に引き込もうとする者 ※

「媚薬を蒔くとは‥‥バグアも暇なんだなとしか感想が浮かばないぜ‥‥」
 セグウェイ(gb6012)が呆れたような表情で呟くと「あの周辺には人が集まってるな‥‥」と天原大地(gb5927)が目を細めながら小さく呟く。あのように人が密集している場所だと、人が邪魔で射撃しづらく、天原自身も射撃は苦手なので接近して機械の破壊を行おうと考えていた。
「それにしても‥‥あんな機械の媚薬でこんなに人が変わっちまうんだなぁ‥‥、カオスモード――なったらなったで面白そうだな」
 オレはどう変異するんだろうな、と何処か楽しそうな表情でセグウェイが呟いた。
「取りあえず――此処でこうしていても始まらない。カオスモード突入は避けられないだろうが‥‥俺は行くぞ」
 天原が拳を握り締めて人が密集している機械付近へと走り出す。
「お、おい」
 セグウェイが話しかけるも、既に天原は走っていった後でセグウェイの声が聞こえる筈もなかった。
 そして真正面から突っ込んでいった天原が機械の影響を受けて、ガクリと膝を折る。突然機械の影響を受けて、身体が変調したのだから動きが鈍るのも当然なのだが「くっ‥‥」と苦しそうに呻き声をもらした。
「大地‥‥‥‥」
 そして勿論の如く天原を追ってきたセグウェイもカオスモードに突入しているのは言うまでもなく。セグウェイは天原を抱きしめて「もう少し‥‥このままでいてもいいか?」と天原の耳元でそっと囁く。
「あぁ‥‥ホラ‥‥お前の好きにしていいんだぜ‥‥?」
 天原は顔を赤く染めながらセグウェイに言葉を返す。
「大地‥‥お前は可愛いな」
 そっと背中を撫でながらセグウェイが呟くと、びくりと天原は身体を震わせる。そしてそんな様子を可愛いと思ったのか、セグウェイは頭を撫でてやり、その後に強く抱きしめる。
 しかし――‥‥。
「‥‥ふ、ざ、け、ん、な‥‥!」
 地中から這い出るような低い声で天原が呟き、セグウェイは「は?」とマヌケな声を出して天原を見つめる。
「‥‥俺にはな‥‥惚れた女がいるんだよォォーーーーーっっ!!」
 本来、天原の作戦は媚薬の力を借りて男の純情を弄ぶ連中への怒りを増幅させるだけのつもりだったらしい。
 だが、最近してしまった女性傭兵への『一目ぼれ』の感情が強く爆発してしまい、怒りが別の方向に向かっているようだ。
「やれやれ‥‥俺をほったらかしにして愛の告白か」
 セグウェイはいまだ機械の影響は受けているものの、天原の激情に任せた告白を聞いては精神的に落ち着きを取り戻さざるを得ない状況になってしまったらしい。
「こいつは‥‥この想いだけはァ!!」
 天原は機械に接近しながら拳を振りかぶり「誰にも譲らねぇええええ!!」と叫びながら機械を破壊したのだった。
 その際に隠れていた機械もあったようで、そちらの方はセグウェイが『スナイパーライフルAAS−91s』で攻撃を行い、破壊していた。
「‥‥男の純情‥‥舐めんな‥‥」
 ふ、と格好良くキメた天原だったが『トランシーバー』を通じて、この場にいる能力者全てに恥ずかしい告白が筒抜けとなっている事に気づくのはこれより数分後。


※ 常に機械の影響受けてます? ※

「ほぅ、面白い機械が落ちているものだな?」
 かつん、と靴音を鳴らしながらUNKNOWN(ga4276)が機械の前へと立つ。
「――ラストホープに持ち帰って色々と研究してみるか」
 UNKNOWNは『隠密潜行』を使用しながら周囲の雰囲気を観察しつつ機械を眺める。途中で色々な症状に見舞われている人間を見たが、それらの事をカメラや手帳で記録を取っていた。
「ふむ、面白い機械だ」
 UNKNOWNは呟くと懐から大きな袋を取り出して機械を確りと包む。
「では、諸君、頑張ってくれたまえ」
 UNKNOWNは軽く手を挙げながら言葉を残し、そのままラストホープへと帰っていく。ここで一つの疑問が残る。
 何故彼には『媚薬の効果がないのか』という事‥‥。彼は近寄る者には甘いキスと視線を送り、特にキスは相手が気を遠くしてしまうほどのもの。
 つまり、いつもの行動‥‥考えにくい事ではあるが――媚薬程度では彼を変えることは出来ないということなのだろうか。
 それとも‥‥常に媚薬のようなフェロモンを出しているという事なのだろうか。彼はその名が示すとおり『UNKNOWN』な存在だと言う事を、その場に居た者だけが分かったのだった。


―― そろそろおしまいにしましょう ――

「さて、結構な数が破壊されたけど――まだ残ってるのね、そろそろマジメに破壊しないと。これ以上、この状態でも私は困らないけど困るし」
 カーラは大きく伸びをしながら呟く。困るのか困らないのかどっちなんだというツッコミは機械と一緒に破壊してしまえばいいと思う。
「ぐふっ、正気になった途端にあの人たちがどういう反応をするのか楽しみやね〜!」
 むしろそれが本命、とでも言うように悪戯っぽく笑い小銃『S−01』で遠距離破壊を行うが、やはり機械の影響を考えているとうまく破壊する事が出来ない。
「‥‥しかたない」
 カーラは呟くと『瞬天速』を使用してヒット&アウェイで攻撃を仕掛け、残っていた3体の機械を見事破壊したのだった。

「ものすごく‥‥つかれました‥‥色々な意味で‥‥紫苑、付き合ってください‥‥朝まで飲みます」
 神無月の呟きに「良いけどよ、お前、そんなに飲めたか?」と榊も言葉を返すが「飲みたい気分なんです」という言葉が返ってきて榊は納得したのだった。

「ん? 私‥‥どうなってたのかなぁ〜?」
 ナレインはまるで寝起きの子供のような声で呟くと「お姉さまの破廉恥―!」とマリが遠くから叫んでいる。
「え、えええ!? ど、どういうことなの!?」
 涙目で「破廉恥」を繰り返すマリにナレインは自分がまさかマリを襲ったのかという見当違いな予想を頭の中で浮かべていたのだとか‥‥。

「にゅふふふ‥‥後でこれをノエルンにも見せてあげないと‥‥」
 神崎が取り出したのは先ほどまでまわしていたビデオ、その中身はもちろん神崎とノエルのアレである。
「びっくりするだろうなぁ〜☆」
 見せた時の驚きが目に浮かぶのか神崎は帰還するまでずっと笑みを浮かべたままだった。

「‥‥なんでこんなコトになってるわけ?」
 アンドレアスが自分の衣服の汚れなどを見ながら首を傾げると叢雲が大きなため息を吐く。
「正気に戻りましたか?」
 え、と呟き記憶の端に残っているものが蘇り「お前、実はすげー楽しんでるだろ!」と顔を赤くしながら大きな声で叫ぶ。
「別に楽しんでませんが?」
 そこで「あ、そういえばお前はホントに何もなかったのか?」と問いかけた。先ほどまでの彼はとても影響を受けているようには見えなかったからだろう。
「何かあったとして言うとでも?」
「思いません」
「ま、少なくとも貴方よりはマシでしたよ」
 叢雲は呟きながら携帯電話をチラリと見せる。
「最近の携帯電話は便利ですよね、写真だけじゃなくて動画も撮れるんですから」
 にっこりと笑いながら言う叢雲とは正反対にアンドレアスはさぁっと血の気が失せていくのが分かる。
「ちょ、てめー! 消せ! 消すんだ! 今すぐに!」
 携帯電話に手を伸ばすアンドレアスだったが、奪われる叢雲でもない。
(「‥‥実際は何も撮ってないんですけどね、単純だなぁ」)

「ふ、ふふふふ‥‥」
 玖堂は試験管を眺めながら怪しげな笑みを浮かべている。ちなみにこの試験管の中身、媚薬成分が入れられている。一体何に使うのかは分からないけれど、あまり良い事には使われそうな気がしないのは気のせいだろうか。

「実はバグアって、変態の集まりなんじゃ‥‥」
 こんな機械まで開発するくらいだ、それなりに変態が多いのだろうとレインは心の中で呟く。
(「そういえば‥‥今回の記事、どんな風にするんだろう‥‥」)
 レインが見かけた時、マリは取材として色々なネタをメモ帳に書いていた。つまりは記事にするつもりがあるからなのだろう。
「発売されるでしょうし、その時にでも見ればいいかな」
 レインは呟き、壁に背中を預けて今日一日のことを思い返し、大きなため息を吐いたのだった。

「ああああああ、すみませんすみません、申し訳ございません!」
 佐倉がマリに土下座をしながら必死に謝っている。
「鷹秀の浮気相手‥‥」
「「違います!」」
 マリの呟きに玖堂と佐倉が同時に言葉を返した。

「あのな、今だから言うけど‥‥意識はあったんだよな、身体が勝手に動いていただけで」
 ニウァリスの言葉に姫咲が「ま、まじ?」と言葉を返してくる。そのせいかにニウァリスは拳を強く握り締めながら「死ぬかと思ったんだけど」と短く呟く。
「ま、まて‥‥あのまま俺がお前を蹴らなかったら‥‥」
 そこまで呟き姫咲は寒気が走るのを感じていたのだった。

(「なかなか面白い状況ではあったな、たまにはこういうことも悪くないか‥‥」)
 セグウェイは欠伸を噛み殺しながら呟き「帰ったら寝よ」と小さく呟いたのだった。


 後日、クイーンズの新刊が発売されたのだが‥‥。
 初の年齢制限つきのクイーンズで『桃色☆クイーンズ』という雑誌名にされていたのだとか。
 しかも17歳未満は見ちゃだめよ、と微妙な年齢制限つきでマリが何をしたかったのかよく分からない能力者達なのだった。
 そしてマリが首筋につけて帰って来た虫さされにも似たモノを、クイーンズ記者たちは生暖かい目で見ていた――のだが、当然のごとくマリが気づくはずもなかったのだった。

END