タイトル:週刊記者と伯爵様マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/08 01:21

●オープニング本文


週刊記者と伯爵様

さぁ、今回はあのビッグな人を取材しちゃんだから!

そしてクイーンズの売り上げ倍増‥‥つまりマリちゃんのお小遣いも増えるというワケさ!

※※※

「チホー、ちょっとカプロイア社に行ってくるね」

それは突然の言葉で、思わずチホも「いってらっしゃい」と言葉を返した――のだが、マリの言葉をよく思い返してみて「ちょっと待った!」と玄関から出て行こうとするマリを追いかけた。

「ど、どどど、何処にいくって言った!? 聞き間違いじゃなければ『カプロイア社』って聞こえたんだけど!」

うん、言ったけど――クイーンズのお騒がせ記者・土浦 真里はきょとんとした顔でチホに言葉を返した。

「何でまたあの空の上のような人の会社に行くわけ!? ぶっちゃけ私らみたいな超庶民には関係ない人じゃん! 能力者でもないんだから接点もないでしょ!」

チホの言葉に「まだまだ記者としては甘いね、チホちゃんや」とマリは不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。

「接点がなければ作ればいいじゃない! これぞ究極の記者道でしょ! というわけで言ってきま――「待ちなさい!」――ぐぇ」

(「どうしよう、こんな失礼な子を行かせて、万が一にも‥‥いや99%の確率で失礼な事をするはずだから――下手したらクイーンズ存続の危機になるわ‥‥」)

きりきりと痛む胃を押さえながらチホは頭の中で何か良いアイデアがないか考えるが、突然の事で何も思い浮かばない。

「うりゃ」

びし、とマリはチホの鳩尾を殴り、チホの腕の力が緩んだ隙を見て「いってきまーーーーす」とクイーンズ編集室を出て行ったのだった。

※※※

「ほぇー‥‥ここがカプロイア社かー‥‥とりあえず何て言えばいいのかな? 伯爵の取材をさせてくださいでいいのかな」

マリはカプロイア社の中に入るべく歩きながらぶつぶつと呟いていると前方からやってきた人物と派手にぶつかって、地面に転んでしまった。

「おや、これはすまないね。大丈夫だったかい」

目の前の男性が手を差し伸べながらマリに話しかけると――「何これ」と金色の仮面を手に取る。

「それは――」

男性は少し驚いた様子で「それは私の仮面だ、返してくれるかな」とやんわりとした口調で話しかけてくる。

「それと‥‥申し訳ないのだが、私の素顔を見たのは秘密にしてもらえないだろうか?」

「はぁ? 私は伯爵に取材のアポを取りに来ただけだし――ぶっちゃけ貴方の素顔なんて興味ないわよ、私には彼氏も居るんだから!」

あ、新手のナンパでしょ! とマリは大きな声で目の前の男性・ナイトゴールドに向かって言葉を投げかけた。

「ふむ。その着想は独創的だ。実に素晴らしい」

「まぁね、マリちゃんだもん」

ふふん、と偉そうに言葉を返すマリ。だけど目の前の男性はそれに気を悪くする様子もなく「それではぶつかってしまい、申し訳なかったね」と言葉を残してマリの前から姿を消したのだった。

「はっ。こんな事してる場合じゃない、伯爵の取材アポをとらねばーー!」

うおりゃー、と意味の分からない掛け声と共にマリはカプロイア社へと入り、アポを取りに向かう。

結局、完全にアポを取れたわけではなかったけれど秘書や伯爵に確認をしてから――という事で後日連絡が来る事になった。

「さぁ〜て、次はキメラの取材取材、頑張るぞー!」

マリは大きく伸びをしながら呟き、そのまま取材へと向かい始めたのだった。

※※※

そして、マリが取材に行った次の日――クイーンズ編集室に朝早くから客人がやってきた。

「ふぁ、誰よ、こんな時間に〜」

チホが欠伸を噛み殺しながら玄関のドアを開けると――そこに立っていたのはカプロイア伯爵その人だった。

「あ、ああああ、貴方は‥‥カプロイア伯爵‥‥」

突然の訪問にチホは寝起きの頭をフル稼働させて、一つの結論に至った。

そして‥‥。

「うちのマリがまことに申し訳ございません」

玄関先でチホがカプロイア伯爵に向けて土下座を行う。

「もうマリが悪いのは100%分かってますので、なにとぞクイーンズ潰しだけはご勘弁願えたらワタクシは光栄痛み入ります」

パニックになっているのかチホは既に自分が何を言っているのか分からない状態で、カプロイア伯爵に付き従っている秘書が苦笑をもらす。

「先日、ここの記者である土浦さんが伯爵の取材を行いたいと仰っていたらしく『それならば編集室に行こうじゃないか』と伯爵が仰り、やってきました。土浦さんはご在宅ですか?」

「い、いえ‥‥マリは取材にいってて、でも今日中には帰ってくるかと思いますでごじゃります」

結局、カプロイア伯爵と秘書はクイーンズ編集室でマリを待つ事になり、チホの胃の痛みが限界を迎えつつあったのだとか‥‥。

(「お願いだから、早く帰ってきて‥‥マリ、何かこう次元が違う人と一緒にいると胃が‥‥」)

●参加者一覧

クレイフェル(ga0435
29歳・♂・PN
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
佐伽羅 黎紀(ga8601
27歳・♀・AA
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

―― ハイテンション☆週刊記者 ――

「やほーい、今日はどうぞ宜しくねー♪」
 クイーンズ記者・土浦 真里(gz0004)は護衛をしてくれる能力者達に挨拶をした。
「マリ、久しぶりー。相変わらず暴走しとるん?」
 クレイフェル(ga0435)が軽く手を挙げながらマリに話しかけたのだが「いつも暴走してないでしょっ」と鳩尾に突きを入れる。これは痛い。
「ぐ‥‥そういうんを暴走言うんや」
 クレイフェルは任務開始早々、キメラもいないのにマリから攻撃を受けて痛む腹を押さえながら呻くように呟く。
「何度目か分からないけど、マリさんだから言っておくわ。無茶、暴走はしない事、お願いね」
 小鳥遊神楽(ga3319)が苦笑しながらマリに話しかける。
「ういー」
 マリは全く覚える気がないのか、彼女の言葉をさらりと流す。
「ふぅ、夜勤が続くとキメラ退治が楽しみですねぇ‥‥ではなくて被害が出る前に討伐頑張りましょう」
 佐伽羅 黎紀(ga8601)が欠伸を噛み殺しながら呟く。彼女は夜勤が終わってそのまま任務らしく、眠気が襲っているのだろう。
(「そういえば‥‥今日は何か編集室に行かない方がいいような気がしたのよね。チホちゃんにジュエリーウォッチを手に入れた事を教えたかったんだけど‥‥なぜかしら」)
 シュブニグラス(ga9903)は大事にしまっているジュエリーウォッチを見ながら心の中で呟く。この後、彼女は先に編集室に行かなかった事を酷く後悔する事になる。
「真里さんはいつもエネルギッシュですね」
 銀色の髪を風に靡かせながらレイン・シュトラウド(ga9279)が無駄に元気なマリを見て呟く。
「まぁ、マリが元気なのはいつもの事だしな」
 朔月(gb1440)も苦笑しながらレインの言葉に賛同する。
「クイーンズのマリさんだっ、サイン貰っていいですかっ?」
 目をきらきらとさせながらマリを見るのは橘川 海(gb4179)だった。サインを下さいと言われた事にマリは気分を良くしたのかバッグの中から色紙を取り出す。
「ふふふん、いいでしょう! マリちゃんのサインをあげましょう! 今なら特製ブロマイドもあげちゃう!」
 マリは橘川に五枚のサイン色紙を渡して何故かブロマイドまで渡した。
(「ど、どうしようっ。今更こんなにいらないなんて言えないっ」)
 橘川は少しだけサインを欲しがった事を後悔したのだった。
「真里さん、今日はいつにもましてテンションが高めですね、何か良い事でもありましたか?」
 真里の婚約者でもある玖堂 鷹秀(ga5346)が問いかけると「えへへ〜」と嬉しそうな顔を向ける。
「そういえば、チホさんから聞いたけどカプロイア伯爵に取材を申し込んだんですってね?」
 小鳥遊が思い出したように呟くと「ほほう」と玖堂が少しだけ驚いたような声で呟く。
「こう言っては失礼ですがクイーンズにそんなコネがあったとは思いませんでしたよ」
 玖堂は呟くが彼は分かっていない。もし本当にクイーンズにコネがあるのならば、もっと大きな雑誌になっているという事を。
「私のミカもカプロイア社の製品なんですっ。かわいいですよね?」
 にこっと笑いながら橘川は自分のAU−KVであるミカエルを見せる。
「‥‥マリちゃんはキミの方が可愛いと思うっ」
 バイクを自慢する橘川が可愛かったのか、マリは思いっきり橘川を抱きしめた。
「相変わらずねぇ‥‥」
 シュブニグラスがマリを見ながら呟き、能力者達はキメラが潜む森へと出発したのだった。


―― 潜むキメラ・騒ぐマリ ――

「森も狭くないですし、すぐに見つかるといいんですけどね」
 森に到着すると同時にクレイフェルが覚醒を行い、小さく呟く。

 スパーーンっ!

「痛ッ! 何をするんですか」
「何するんですかはコッチの台詞だよ。クレイやん! その口調止めてって言ってるでしょ!」
 物凄く理不尽な理由で叩かれ、クレイフェルは納得出来なかったが、その後の言葉をマリは全く聞こうとしない。
「何か久々ね、このやり取り」
 小鳥遊が苦笑しながら二人とのやり取りを見ている。
「この辺は異常ナシ、か」
 朔月は地面や木々の異変を調べていた。もしキメラがこの周辺にいるのならば何らかの痕跡を残しているかもしれないと考えたからだ。
「そういえば‥‥海ちゃんはバイク好きなんだね。さっき嬉しそうに言ってたから」
 マリが思い出したように橘川に話しかけると「はいっ」と元気よく言葉を返してきた。
「私のお母さんも、バイクを綺麗に乗る人だったので、それが目標ですっ」
「へぇ、そうなんだ?」
「はいっ。赤い蝶とか呼ばれてたみたいですよっ、あはは、元レディースさんなのですっ」
 橘川の言葉にピキンと固まり「そ、そりゃバイクを綺麗に乗るのが仕事みたいな人だもんね‥‥」と少し驚きながら言葉を返したのだった。
「キメラは何処にいるんでしょう」
 レインはゴーグルを額の所までずらして『軍用双眼鏡』でキメラを探すが、それらしきものはまだ見つからない。
「今回はマリちゃんが見つけたキメラじゃないものね、警戒していかないと‥‥」
 シュブニグラスの言葉に「シュブちゃん! それどういう意味!?」とマリが離れた場所から抗議してくるが「そのままの意味よ」とさらりと言葉を返す。
「あ」
 呟いたのはレイン。どうやらキメラを見つけたらしく、レインは小さな声でキメラがいる場所を他の能力者達に教えていく。
「気づいていないなら、こっちから先制攻撃だねっ」
 橘川は『棍棒』を構えながら呟くと「この人数ですし、楽に決着がつくでしょう」と玖堂もマリを後ろに下がらせながら言葉を返す。
「いつも通りに真里さんはちょっと下がってて貰えますか? 危ないですしね」
「えぇ〜、もうちょっと前で見たいんだけど‥‥」
 マリが頬を膨らませながら反論すると「駄目です」とあっさりはっきり玖堂に断られてしまう。
「‥‥‥‥‥これでも駄目?」
 ちらりとマリは着ていたスカートを上げながら呟くのだが「‥‥駄目です」とやはり断られてしまう。
(「気のせいでしょうか、少しだけ間が空いたような気がするんですけど」)
 佐伽羅は心の中で呟きながら『バックラー』を持って後衛役の盾に徹する。
「さぁ、大人しくやられる事ね」
 小鳥遊は『スナイパーライフル』でキメラを攻撃しながら前衛が十分に力を発揮出来るよう援護射撃に徹する。
「いくらリーチの長い武器を使っていても、使い手が大した事なかったら宝の持ち腐れですね」
 クレイフェルは『疾風脚』を使用して『ルベウス』で攻撃を行う。
「悪いけど、そこでジッとしていてもらうよ」
 レインは短く呟くと『狙撃眼』を使用して『スコーピオン』を使い、後衛、そしてマリの近くにキメラが来ないように足止めをする。
 その間にシュブニグラスが『練成強化』を使用して能力者達の武器を強化していく。
「行き着いた先がこんな森での引きこもりかよ!」
 朔月は『【OR】天狼』でキメラの腕を射抜く。
「おっとっ、危ないですねっ」
 キメラは槍を使って枝を斬り、鋭い枝を能力者達に向けて投げつけてくる。だけどダメージのせいか能力者達にその枝が当たることはなかった。
「槍ほどリーチが長いわけじゃないですけど‥‥負けないですよっ」
 橘川は呟きながら果敢に接近戦を挑むが、やはり槍と棍棒ではリーチの差がある。
「!」
 キメラの攻撃を受けている間に橘川は木の所まで追い詰められ、足を止められてしまう。勿論キメラがその隙を逃すはずもなく‥‥。
「橘川さん!」
 佐伽羅がキメラの顔面を狙って『ペイント弾』を使用する。槍が橘川へと振り下ろされる間際、ペイント弾がキメラの視界を塞ぎ、狙いが定まらない。
「木に槍を拘束させてもらいますっ」
 橘川は呟き、キメラの槍攻撃を避け、槍は深く木へと刺さる。
「避けてください!」
 クレイフェルが大きく叫び『【OR】ハリセン なんでやねん』を構え『瞬即撃』を使用してばちこんとキメラに攻撃を行う。
「流石にSES搭載型ハリセンは効くでしょう?」
 クレイフェルは不敵に、そして満足そうに笑いながらキメラに向かって呟く。しかしいくらSES搭載武器だとしても『ルベウス』などに比べると格段と攻撃力が下がるのでトドメを刺すまでには至らなかった。
 キメラは視界を奪われ、槍を奪われ、為すすべもない状況にあったが能力者達に向かってヨロヨロと攻撃をしようとする。
「この人数差で勝とうとか思うのは止めとけ、とっとと堕ちちまいな!」
 玖堂はキメラに向かって『練成弱体』を使用してキメラの防御力を低下させ、そして『エネルギーガン』で攻撃を行う。
「隙あり、ですね」
 佐伽羅は周りがはっきり見えていないキメラに接近して、足払いをして地面へと転ばせる。
「これはお返ししますよ」
 木に突き刺さったままの槍を持って、レインはキメラの胸を目掛けて投げつける。
「あらあら、槍を投げるって情報を聞いていたけど‥‥まさかキメラも自分の武器を投げられるとは思ってなかったでしょうね」
 シュブニグラスが胸を貫かれるキメラを見ながら小さな声で呟く。
 キメラはずるずると這いずるように能力者達から離れようとするが、その前に小鳥遊が立ちはだかった。
「お生憎様ね。あたしがここにいる限り、あなたには逃亡する自由もないのよ。大人しくここでくたばるのね」
 小鳥遊は弱ったキメラに『スナイパーライフル』で攻撃を仕掛け、トドメを刺す。最初は『貫通弾』も使おうと決めていたが、弱ったキメラならば普通に攻撃で十分にトドメを刺せる為に使う事はしなかったのだった。


―― 任務終了・いざ編集室へ ――

「ふ、今日もまたマリちゃんのおかげでキメラが一匹減ったぜ‥‥」
 能力者達がキメラを退治した後、マリが短い髪を風に靡かせながら哀愁漂わせ呟く。
 勿論、頑張ったのはマリではなく能力者達。それなのに自分の手柄のように言うマリを見てクレイフェルは『巨大ハリセン』を握ってふるふると手を震わせている。
「ん? クレイやん、その『巨大ハリセン』で何をする気かな? しかも強化して強そうに見えるハリセンでマリちゃんを叩くのね‥‥」
 よよよ、と泣き真似をするマリに「せやな、ここは我慢せな」と大人であるクレイフェルは我慢しようとしたのだが。
「それでマリちゃん叩かれると痛いから鷹秀叩いていいよ」
「え! 真里さん、私ですか!?」
 マリの言葉に一番驚いたのは玖堂である。まさか自分が盾にされるとは露ほどにも思っていなかったのだから。
「やだなぁ♪ 私と鷹秀は運命共同体じゃん? だから叩かれるのも鷹秀でいいんだよ」
 その言葉を聞いて、クレイフェルは勿論他の能力者も「‥‥哀れな」と玖堂に同情をしたのだとか‥‥。
「ま、まぁ‥‥その辺にしておいて。土浦さん、編集室にお邪魔してもいいですか? 興味があるんですよね‥‥」
 佐伽羅が上手く話を誤魔化すと「勿論! クイーンズはいつでも見学大歓迎なんだから」とマリは言葉を返し、帰路へと着く。
「‥‥玖堂さん、いいえ、何でもないわ」
 シュブニグラスは心の底から玖堂を哀れむ視線を送り、歌を歌いご機嫌で帰るマリの背中を見ていたのだった。

「そういえば、伯爵ってどんな人なのかな? 顔も知らないからよくわかんないんだよね」
 帰りの高速艇の中、呟いたマリの言葉に能力者達は驚きで目を瞬かせた。
「マリ‥‥伯爵の顔も知らなかったのかよ!?」
 最初にツッコミ入れたのは朔月だった。
「うん、会社に行って『伯爵に取材させて♪』って頼んだだけだもん」
 その言葉を聞いて玖堂は頭が痛むのを感じ、額に手を当てる。
「真里さん‥‥最低限の事前情報として、取材する相手の顔くらい調べていきましょうよ」
「すごいですね‥‥普通顔も知らない相手の取材なんてしようと思いませんよ‥‥」
 佐伽羅が苦笑しながら呟くと「まぁ、あれがマリちゃんだものね」とシュブニグラスはマリだからという事で納得している。

 そして、編集室に到着して「とりあえずチホにお茶でも出させるからリビングで待っててね」と呟きながらマリが編集室の扉を開く。
「マリ〜〜〜〜〜っ!」
 扉を開けると同時にチホが待ち構えていて、マリに抱きつく。
「あんたね、あんたね! 原因作るだけ作ってさっさと取材なんかに行って!」
 よほど興奮しているのかチホの言葉の意味が全く分からない。
「やぁ、お邪魔させてもらっているよ」
 ぴかん、と神々しいまでにオーラを放ちながら奥から姿を現した人――その人はまさしくカプロイア伯爵だった。
「初めまして、クレイフェルです」
 クレイフェルはニッコリと笑顔でカプロイア伯爵に挨拶をする。彼の知り合いが伯爵ファンらしく話だけは聞いていたらしい。
「‥‥伊達と酔狂で生きている人と言うのもあながち間違いじゃないかも‥‥まさか直々に乗り込んでくるなんてね」
 マリの破天荒さと通じる部分を感じて、小鳥遊は苦笑する。
「お初にお目にかかります、伯爵。私は土浦さんの婚約者でサイエンティストでもある玖堂鷹秀と申します。以後お見知りおきを」
「あら、伯爵。ごきげんよう」
 佐伽羅は伯爵と面識があるらしく多少驚きながらも普通に挨拶を交わす。
「本当に伯爵だ‥‥でも伯爵がどうして此処に?」
 レインが驚きながら呟くと、秘書である男性が事情を詳しく話す。
「ちょっとチホちゃん、大丈夫? こんなに危機的状況だったなんて‥‥超感覚に従わないで編集室に顔を出しておくべきだったわ」
 シュブニグラスは胃痛でぐったりとしているチホを見て後悔している。
「ところで、この人が伯爵? 何か見たことあるような、ないような‥‥」
 マリの頭はありんこ並らしく先日ぶつかった事も忘れているらしい。
「誰よりも早く動き、仲間の為に道を拓く――私も主のようにそんな戦いを目指したいです」
 尊敬のまなざしで橘川が伯爵を見て力説する。
「へ、へぇ‥‥そうなんだ〜」
 マリは橘川の力説に少し驚きながらも取材の準備を始める。
 そしてマリが準備をしている間に、朔月がミルクティーの準備を行い、レインが作ってきたザッハトルテを出してみんなで食べ始める。
 マリの粗相を心配する者、伯爵は大物なのでその辺は心配いらないかもと思う者、様々だったけどマリの取材が無事に終わる事を祈るのだった。

 その後、マリは急いで編集作業に入り、ページ数が足りない事に嘆き記者達に八つ当たりをしていたのだとか。
「もうヤダ‥‥私、いつか胃にブラックホールが出来そう」
 嘆くチホに「今度ストレス発散の為にドライブでも行きましょうね」と心配そうに誘うシュブニグラスの姿が編集室の中にあったのだった。


END