●リプレイ本文
―― キメラよりも厄介な男(と書いておとめと呼ぶ) ――
「きゃあ♪ 今回の任務地は教会なのよねっ! 素敵だわ! 誰かアタシと一緒に結婚しましょうよ!」
鵺(gz0250)は頭の悪い事を言いながら能力者達(男性のみ)にバチコンと熱すぎる視線を送る。
「今回は、教会ですか? まぁ、時期ですしねぇ‥‥悪寒が走り‥‥」
榊 紫苑(
ga8258)は言いかけて言葉を止める。何故なら鵺が凝視してくるからだ。恐らくまた『悪寒』を『オカマ』と聞き間違いをしているのだろう。
「‥‥それは置いておいて、また歳を取りますか」
はぁ、と大きなため息を吐く。6月は彼の誕生月らしく少し憂鬱なようだ。
「あらあら! 紫苑ちゃんたら誕生日が来るの!? プレゼントをあげましょうか! そうねぇ‥‥ア・タ・シなんてど〜ぉ!」
榊は無言で再び大きなため息を吐く。それもそうだろう。誰だってこんなモンをプレゼントに貰いたくないだろうから。
「何か、変なのと一緒の仕事が多いんだが、俺の守護天使が昼寝でもしているんだろうかね?」
まぁこれも仕事だからきちんとやるがな、Anbar(
ga9009)は鵺を見て、小さなため息を漏らしながら呟いた。
「うふふ、貴方の守護天使がきっとアタシ達を引き合わせてくれたのよ!」
(「‥‥俺の守護天使を馬鹿にするこいつを殴ってもいいんだろうか」)
Anbarに擦り寄る鵺を見てビッグ・ロシウェル(
ga9207)が「ボクの周囲にまともな人はいないのかー!」と半分泣きながら叫んでいる。彼は今までも鵺のような人間に狙われる不幸の星の下に生まれた哀れな少年だった。
「お久しぶりですね」
皓祇(
gb4143)が鵺に話しかけると「あらン♪ 久しぶりねぇ! 会えなくて寂しかったわぁ」と言葉を返してくるのだが‥‥先ほどまでのやり取りを見ていれば寂しかったというのは嘘にしか聞こえない。
「‥‥鵺ちゃん、今日も元気そう、です」
ルカ・ブルーリバー(
gb4180)がぬいぐるみ『【OR】ぬいぐるみ カーマイン』を抱きしめながら鵺に話しかける。
「あらぁ、今日も可愛いわねぇ。アタシが男だったら放っておかないわよ〜」
この際『男だろ』というツッコミは無しにしてほしい。
「鵺、また衣装を持ってきてやった。今回は一種類だけだが、そんなに趣味は悪くないと思うぞ」
フローネ・バルクホルン(
gb4744)は大きく開いて、肩の片方にリボンで花の形が作られている。確かに趣味は悪くないのだが、それを鵺に渡す時点でどうなのだろう。
「きゃああ♪ 可愛いじゃない! でもでも、フローネちゃん――ウェディングドレス用意してくれるんなら花婿も用意してくれなくちゃダメじゃないの!」
どういう理論で花婿まで求めるのか鵺の頭の中は宇宙空間並に謎だらけである。
「それは自分で見つけろ。ついでだから髪型も変えておくか。少し落ち着きがあるようにしておくから、あまり暴れるなよ」
確かに鵺は顔立ち(だけ)は女性的な印象があるのでセットしてもらえれば普通に綺麗に見えるかもしれない。
(「‥‥竜三、あんたなんかに皆は渡さないわ!」)
柱の影から能力者(男性のみ)を見守る障子にメアリー(
gb5879)が心の中で鵺に敵対心を見せている。
(「今回の場所は教会‥‥結婚式を挙げようとしている新郎以外にも神父様とか美味そうな男が沢山いるに違いないわ! 恋敵に奪われないように、皆を見守ってあげなくちゃね!」)
「‥‥またけったいな奴がおるんやなぁ‥‥」
キヨシ(
gb5991)が鵺を見ながら小さく呟く。
「さぁ、皆! 新郎をゲット‥‥じゃなくて平和の為に頑張りましょうねっ!」
鵺の言葉にキヨシは『キメラの討伐もやけど新郎を鵺から見守らなあかん‥‥』と心の中で呟き、能力者達は目的地へと向かい始めたのだった。
―― 教会に潜むキメラ・能力者の中に潜む鵺 ――
今回の能力者達は任務を迅速に遂行する為に班を二つに分けた。
突入班・榊、ビッグ、ルカの三人。
迎撃班・Anbar、皓祇、フローネ、障子にメアリー、キヨシ、鵺の六人。
もちろんこの班分けはビッグの作戦が失敗した時に使われるものなのだけど。
「きゃあ、素敵な町ねぇ♪ こういう町で結婚式挙げられたら幸せだと思わない? キヨシちゃん♪」
すすす、とキヨシに擦り寄りながら鵺が問いかけると――「せ、せやな‥‥うん」とすすす、と擦り寄られた分だけ離れていく。
「ちょっと‥‥離れるなんて酷いじゃないの!」
鵺は叫ぶと助走をつけてキヨシに抱きつき(という名のタックル)をする。
「やめんかぁ!」
ばしっと『巨大ハリセン』で叩きながらキヨシは身を守るのだが‥‥鵺はさめざめと泣きながら「酷いわ‥‥」とキヨシに視線を送る。
「‥‥鵺ちゃん、苛めちゃダメですよ‥‥」
(「えええっ、この場合俺が悪いん!?」)
キヨシは心の中で大きく叫び、男性能力者からは「きっと良い事あるさ」という哀れみの視線が送られたのだった。
「あまり暴れると折角セットした髪が崩れるぞ。大人しくしておれ」
フローネの言葉に「そうね、折角皆を誘惑する為に着替えたんだもの!」と果てしなく頭の悪い事を言って納得している。
「今回は‥‥自腹で買ってきた燻煙殺虫剤でキメラを教会から引きずり出してやる」
ビッグは集合する前に購入してきた殺虫剤を見せながら呟く。もちろん『使用上の注意』なんて無視するつもりである。
「あら‥‥住人の皆は避難してるのね。こうなったら今回の仲間の皆だけでもしっかりとその勇姿を見守らなくっちゃ!」
見守るだけで決して一緒に戦おうとはしない障子にメアリーにAnbarがため息混じりに呟く。
「あのよ〜、マジメに仕事する気がないなら帰って貰って良いぜ。仕事は俺たちできちんとやっておくからな」
「いいえ、メアリーちゃんは帰らないわ。残ってみんなを見守るんだから」
障子にメアリーは見守ると称するストーカー行為を止める気はないようだ。
「そろそろ教会が見えてくるはずだが‥‥お、あれがそうではないのか?」
フローネは綺麗な教会を指差しながら呟く。この町には教会は一つしかないので、見えてきたあの教会がキメラの潜んでいる場所で間違いないだろう。
「さて‥‥とりあえず早く外におびき出して仕事を終わらせよう」
ビッグはちらりと鵺と障子にメアリーに視線を向ける。明らかに獲物を狙う目、その獲物に自分も入っていることから素早く仕事を終わらせて、素早くあの危険人物から離れたい――それがビッグの心の底からの願いなのだとか。
ビッグは殺虫剤を持って、榊やルカと共に教会へと向かう。その他の能力者達はおびき出されたキメラを迎撃する為にそれぞれ準備をする。
「やぁん、アタシも行くわーーっ!」
鵺がじたばたと暴れながら叫ぶ。それを皓祇が「我侭を言ってはいけませんよ」と宥める。既に鵺への生贄に捧げられた彼は鵺の扱いはお手の物といったところだろうか。
「‥‥大変やなぁ」
キヨシは鵺から少し距離を置いたところで小さく呟く。
「きぃっ、竜三! 独り占めなんて許さないんだからね!」
「このクソガキ! 今なんつった! アタシは『鵺』だって言ってンしょうが!」
早くも此方では戦闘開始となっており、フローネは大きくため息を吐く。
その頃、教会に向かった三人は静かに中へと入り、ビッグが殺虫剤を仕込み、また静かに出る。教会の奥に背中を向けた修道服を見に纏った女性を見かけたから、アレがキメラで間違いないのだろう。
「あれが、キメラですか。上手く出てきてくれるといいんですが」
榊は小さく呟きながら教会から出る。能力者達が出た後に教会の中は殺虫剤から煙が出てあっという間に教会中を白くする。
それから数秒後にキメラが窓から出てくる。
「そこのお前達、下らん話をしてる場合か。ほれ、敵が出てきたからにはとっとと戦え」
フローネが鵺と障子にメアリーに向かって話しかけるが、最初からこの二人は戦力として除外されている為、他の能力者達が教会へと走っていく。
―― 戦闘開始 ――
「‥‥苦手型かよ? ただでさえ、精神力すり減らしているというのに‥‥」
榊は女性型キメラを見ながら盛大なため息を吐く。彼は女性が苦手という事もあり今回の戦闘は憂鬱なものでしかなかった。
「教会に修道女のキメラか‥‥まぁ、TPOは心得てるな。何の慰めにもならないが‥‥」
Anbarは小銃『S−01』を構えながら呟く。
「バグアも変な所で人間世界を研究していると見えるな。まぁ、被害が拡大しないうちにとっとと片付けるとしようぜ」
Anbarは呟きながらキメラに攻撃を仕掛ける。
「ボクは鵺とメアリーちゃんを守ることに決めたんだけど‥‥」
ビッグは鵺と障子にメアリーを守りながら‥‥自分にぺたぺたと触る鵺、凝視してくる障子にメアリーにため息を吐く。
「仕方ないから、うん、仕方ないから守るけど‥‥先にキメラに集中してね」
泣きそうな顔でビッグが呟くのだが、その表情が二人の心にクリーンヒット。
「ちょっと失礼」
皓祇は持参してきたロープで鵺をぐるぐる巻きにして遠くに投げ捨て――もとい鵺を非難させる。
「ちょ、ちょっとぉ!」
投げ捨てられた鵺は遠くから叫ぶが「大事な貴方に何かあっては大変ですから」と囁いて戦闘場所へと戻る。
「悪いが、速攻で終わらせてもらう」
榊は呟きながら『天照』を振り上げて『両断剣』と『二段撃』を使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。その際に鞭にて攻撃を受けたが、ダメージは微々たるもので彼の勢いを止める事は出来ない。
「恨むならキメラに生まれた自分を恨んでくれ」
Anbarは『強弾撃』を使用しながら確実にキメラの腕を狙い、鞭攻撃が出来ないようにする。射撃で一時動きを止めたキメラにキヨシが拳銃『ルドルフ』で足を狙い、逃げることが出来ないようにする。その攻撃の際は『影撃ち』を使用したため、キメラはがくりと膝をつく。
「‥‥頑張って、いきましょう‥‥」
ルカが小さく呟くと『練成強化』で能力者達の武器を強化して『練成弱体』でキメラの防御力を低下させる。
「早く倒さぬと鵺が動き出すぞ。強化してやるゆえ早く倒せ」
フローネもため息混じりに呟くと『練成強化』で能力者達の武器を強化する。
「それは困りますので、早めに倒れてくださいね」
皓祇が『イアリス』でキメラに向かって攻撃を仕掛ける。
「‥‥ボクがこんな目に合うのもお前のせいかーーーっ!」
ビッグは『イアリス』でキメラに怒りの剣をぶつけるのだが、それは彼が背負う運命でありキメラは全く関係がない。
「‥‥そろそろ、限界だ。いい加減倒れてくれ」
榊が呟き、攻撃を仕掛けるとキメラは「きゃああ」と悲鳴を上げながら地面へと倒れていったのだった。
―― キメラ倒れ、鵺蘇る ――
「キヨシちゃあああんっ、折角教会もあるんだし結婚しましょうよおっ!」
ざざざ、とウェディングドレスを引きずりながらキヨシに向かって走ってくる。
「どりゃぁぁぁぁ!! フ〜、これで討伐完了やね」
あまりの勢いにキヨシは思わず『巨大ハリセン』だったけれど全力で鵺を叩く。
(「あ、せや。キメラの使ってた鞭もらっていこかな」)
キヨシが鵺を退治した後、キメラの鞭を探すが見当たらない。
「‥‥キヨシちゃん、酷いじゃないの‥‥アタシの愛を断るなんて!」
なんと鵺が蘇り、その手には鞭が持たれている。鵺は女王様として蘇った。
「‥‥鵺ちゃん‥‥楽しそう‥‥♪」
ルカが満足そうに呟くが追いかけられているキヨシとしては全く楽しくない状況。
「Anbarちゃあああん、キヨシちゃんたら酷いのよおおお」
標的をキヨシからAnbarに変えて走り出す。
「こ、こっちにきた! 俺はまともな可愛い娘が好きなんだ! 頼むから近寄るな!」
「それなら問題ないわ! アタシは可愛い娘だもの!」
鵺は自分が『女の子』と思っているせいかAnbarの必死の抵抗も聞かない。
「メアリーちゃんはビッグちゃんを見守るわ、えぇ、ずっと見守り続けるわ」
自分は何とか難を逃れたと安心していたビッグだが、障子にメアリーの見守り攻撃を受けて「きぃーやぁー! たーすーけーてー!」と泣きながら叫んでいる。
「そうだわ、お前なんかにイケメンを渡すもんですか! ビッグちゃん! こっちにカマーン!!」
「カモンじゃなくてカマンになってるーーー!」
「やれやれ、騒々しいの」
フローネはばたばたと走り回る鵺と標的にされた男性諸君を見ながらため息混じりに呟く。
「あらら、可哀想に‥‥でも俺から離れてよかった」
ぽろりと本音を出しながらキヨシは合掌してビッグを見る。
「‥‥みんなの幸せを守れたかな‥‥」
ルカは薄緑色の燐光が集い出来た幻想の小鳥達に微笑みながら呟く。手のひらから飛び立っていく様はこれからこの教会で新たな旅立ちをする人間達を祝福しているかのようにも見えた。
(「‥‥でも、鵺ちゃん‥‥ある意味で飛び立ってます」)
イケメンはいねがー! と叫びながら男性能力者達を追い掛け回す鵺を見てルカは心の中で呟く。
そんな中、フローネは空を見上げながら一人お祈りをしていた。
「娘ともども元気にやってるよ‥‥逝くのは当分先になりそうだが‥‥浮気するなよ」
フローネが呟いた言葉、それは先に空へと逝ってしまった彼女の最愛の人への言葉。
「アタシもフローネちゃんみたいなことを言ってみたいわあああああああああ!!」
そんな中、鵺はぐったりとしている榊を見つける。どうやら苦手型との戦いのせいで疲労が限界に来ているのだろう。
「あらあらあらあら? 疲れてるのね? アタシがゆっくりじっくり介抱してあげるわ! えぇ、遠慮はいらないわ! さぁアタシの家にいきましょう!」
ずるずると榊を引きずりながら鵺は「ほーほほほほほほ」と高速艇に向かって歩き出す。
「メアリーちゃんはビッグちゃんがお家に帰るまで見守るの」
こんなどたばたとした依頼だったが、能力者達は無事に教会を傷つけることなくキメラを退治する事に成功した。
そして報告を行う為に本部へと帰還するのだが‥‥。
「また会いましょうねぇ〜〜♪」
鵺の投げキッスを受け、最後に疲れがどっと押し寄せてきたのだった。
END