タイトル:滅び―失われた欠片マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/11/22 01:52

●オープニング本文


全てが欲しい、僕には何かがたりない、けれど‥‥それが何だったのか分からない。

※※※

「欠片を探す男?」

一人の能力者が、目の前の女性能力者に問いかける。

「そう。何か断片的に記憶を失っているみたいで『僕を知りませんか?』って聞いてくるんだって」

女性能力者が言うには、その『欠片を探す男』は数日前に廃墟と化した街で保護された人物らしい。

名前、住所、両親の名前などを覚えているから問題はないと思ったのだが‥‥彼は呟いたのだとか。

「僕、何か大切なものを忘れている気がするんです‥‥とても大事なもの、とても大事なことを」

その言葉を聞いて、彼について色々な事を調べたが、結局変わったことは報告されていない。

「あの、僕が保護された街に行きたいのですが‥‥もちろん能力者の方を雇ってになるのですが‥‥」

頭に巻いた包帯を替えている途中で、男性・シンゴが医者に問いかける。

「あの街、確かに僕は何かを探しに行ったんです‥‥それが何だったのか、僕は思い出したい」

シンゴの言葉に「無茶だけはしないように」という条件付で病院の外に出る事を許されたのだった。


●参加者一覧

ジーラ(ga0077
16歳・♀・JG
三間坂 京(ga0094
24歳・♂・GP
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
江崎里香(ga0315
16歳・♀・SN
海音・ユグドラシル(ga2788
16歳・♀・ST
シエラ(ga3258
10歳・♀・PN
赫月(ga3917
14歳・♀・FT
大川 楓(ga4011
22歳・♀・GP

●リプレイ本文

「今回は宜しくお願いします」
 ぺこりと自分の為に集まってくれた能力者達に頭を下げながらシンゴは呟く。
「此方こそ――失った記憶、ね‥‥失ってた方がつらい事を思い出さなくて済む――とは思わないの?」
 ジーラ(ga0077)がシンゴに問いかける。確かに彼女の言う通りなのかもしれない。
 忘れた記憶――それは自分自身で封じてしまった嫌な記憶なのかもしれないから。
「そうですね‥‥お医者様もそう仰られていました、けれど良い思い出かもしれないでしょう?」
 にっこりと笑って答えるシンゴにジーラは口をぽかんと開け、そして笑い出した。
「そうだね、確かに良い思い出だったら忘れてるのはもったいないもんね」
 クックッと笑うジーラに「僕は何か可笑しいこと言いましたか?」と首を傾げながら問いかける。シンゴの様子を見て赫月(ga3917)が低い声で呟く。
「記憶探しなど汝自ら探せばよいものを‥‥しかしよかろう、他人事とも思えん、この依頼を引き受けることにしよう」
 赫月はシンゴに近寄り「吾が名は赫月、汝の護衛を務めさせてもらう事になった」と手を差し出しながら話しかける。
「吾も記憶がないのだがな‥‥無いもの同士仲良くやろう」
「そうなんですか、お互い大変ですね」
「そういえば‥‥探しているモノは貴方にとって、どうしても必要なものなのかしら? 無理には言わなくていいけれど‥‥思い出せないのだろうしね」
 そう言ってシンゴに話しかけてくるのは大川 楓(ga4011)だった。
「‥‥分かりません、良いものだったにしろ、悪いものだったにしろ、僕はそれを受け入れる覚悟はしています――自分の心に穴が開いたような感覚だけが今は残っています」
 シンゴは胸の部分を強く掴みながら苦しそうな表情で呟く。
「ま、俺達の仕事はシンゴを守りつつ、記憶を取り戻す切っ掛けを作る事、こんな所だな」
 鷹見 仁(ga0232)がシンゴの肩をポンと叩きながら、安心させるように笑う。
「そうだな、一度は来た場所だ。しょーもない事でも気になったら言ってくれよ」
 三間坂京(ga0094)も鷹見の隣に立ち、シンゴに話しかける。
 そして、鷹見には気になっている事が一つだけあった。それはシンゴの体だ‥‥さっき肩を触った時に感じた事だが、一般人にしては鍛えられた体すぎるのだ。
(「シンゴはもしかしたら能力者‥‥?」)
 それだったら、本部の登録表を調べてくれば名前でもあっただろうかと、登録表を調べなかったことを少しだけ後悔した。
「そういえばキメラも討伐されていないんだよね、気を緩めずに行かなくちゃいけないね」
 江崎里香(ga0315)が呟くと「そうですね」とシエラ(ga3258)も言葉を返す。
「シンゴさん、最後に聞かせてもらっていいですか?」
「ん?」
「先ほど皆様が言っていた事と重複しますが‥‥あなたの記憶――もしかしたらつらいものかもしれません。それが、たとえ幸せな記憶だったとしても‥‥いえ、幸せだったからこそ思い出すのがつらいかもしれない‥‥」
 シエラが一度言葉を止め「それでも記憶を望みますか?」と問いかけた。
「うん、どんな記憶でも受け入れる覚悟はしているから」
「そうですか、それなら協力は惜しみません」
「さて、そろそろ出発しましょうか」
 海音・ユグドラシル(ga2788)が手をパンと叩いて、出発を促した。


●廃墟―彼が失ったもの、そしてキメラとの戦闘

「記憶を失う前の事で何か覚えていらっしゃることはありますか?」
 海音が問いかけると「それは吾も聞きたい」と赫月も話に入ってくる。
「シンゴ殿、汝はその『記憶の欠片』についてどれほど覚えている?」
「ぼんやりとしか覚えていないんですけど、何か大事な約束をしていたんです‥‥それで仕事の帰り――仕事?」
 シンゴは呟くと同時に激しい頭痛に見舞われ、その場に蹲ってしまう。
「シンゴ!」
 それを心配した海音が駆け寄る。
「いえ、大丈夫ですから‥‥」
 頭を押さえながらシンゴは言葉を返すが、その表情はとても苦しそうなものだった。
「あまり無理はするな、話の続きだが‥‥吾の持っている記憶は唯一面の蒼の世界――それと吾を呼ぶ声だけ‥‥その時は何と呼ばれていたのだろうな‥‥吾は」
 少し寂しそうな表情をする赫月に海音、シンゴ、そして能力者達も何と声をかければ良いかと困惑していた。
「その記憶の後‥‥気づけば廃墟の中に一人立ち尽くしていた。あの時見た赫い月は綺麗だったな、この名前もその時の月から取ったものだ」
「そうなの‥‥簡単な言葉になるけど、いつか見つかるといいわね」
 江崎が赫月に話しかけると「ありがとう」と彼女は少し笑みながら答えた。
「なぁ、そういえばこの辺だろ? シンゴが保護された場所は」
 鷹見がシンゴに問いかけると「そうです」とシンゴは言葉を返す。周りを見渡すと廃墟、建物は崩れ落ちていたが、そんなに古いものではない。どちらかと言うと最近廃墟になってしまったような街だった。
「何か――あっ」
 シエラがシンゴに何か思い出したかと聞こうとしたが、彼女は杖を石にぶつけて地面に転んでしまいそうになる。
「危ないっ!」
 シエラの顔が地面に激突する寸前で、シンゴが彼女を抱きとめた。
 そして、その場にいた全員がシンゴについて一つだけ分かったことがあった。
 それは―――‥‥彼が能力者であるという事。あの素早さから見ると恐らくはグラップラー、シンゴ自身も思い出していないのか、それとも意図的に隠しているのか‥‥それは今回の仕事を引き受けた彼らの知る所ではなかった。
「大丈夫?」
 シンゴがシエラに問いかけると「は、はい‥‥すみません」と申し訳なさそうに謝る。
「大丈夫ならよかった――‥‥七海?」
 シンゴがポツリと呟く。そしてタイミング悪く現れるキメラ―‥‥。
「皆! 作戦通りに!」
 海音がキメラの姿を見ると同時に叫ぶ。今回、キメラと遭遇したときの為に彼らは対キメラ用の作戦も立てていた。
 シエラ、江崎、赫月、三間坂の四人がシンゴの警護をして、鷹見、大川、ジーラ、海音の四人がキメラを倒すという班分けだった。
「外見だけを見るなら‥‥攻撃型で素早さは低そう――かな?」
 ジーラが長弓『鬼灯』を握り締めながら呟く。
「私は戦闘が本分‥‥その他はあまり得意じゃないし‥‥ね。その代わり、この班内の危険は絶対に回避して見せるわ」
 大川もファングを装備しながら呟く。
「頼もしいね、シンゴの為にもさっさと片付けようか」
 鷹見も蛍火を持ちながら楽しげに呟く。
「恐らくシンゴの傷とあのキメラの爪、一致するでしょう。哀れなキメラちゃん‥‥少しだけ悪さをしすぎですよ?」
 クス、と海音は笑いながら呟く。それと同時に頭の悪そうなキメラは大きく唸りながら此方へと向かってくる。
 戦闘組はシンゴ達にキメラが向かわないように少し場所を移動し、危害を加えられないようにする。
「とりあえず、あなたに暴れてもらっては困るの‥‥消えてもらうわ‥‥全力をもってね」
 大川は呟くと同時にキメラへと向かい、攻撃を繰り出す。そして背後から「離れて」という声が聞こえ、大川は横へと飛ぶ。大川が離れると同時にキメラに銃撃がくらわされる。シンゴ護衛組の江崎からの援護射撃だ。
「さて、あれが件のキメラか? これがシンゴ殿にとって吉と出るか、凶と出るか――シンゴ殿、しかと見届けられよ!」
 赫月の言葉にシンゴは下を俯いていた顔をあげ、キメラの姿を視界に入れる。
 キメラは鷹見の攻撃を受けており、意外と楽な状況に見える。そして隣にいる江崎も攻撃組がキメラを倒しやすいようにと援護射撃をしている。
「うわあああああああっ!」
 引き裂かれんばかりのシンゴの絶叫が廃墟内に響き渡る。その叫び声にキメラの標的が攻撃組からシンゴへと移り、キメラはシンゴに向かって走り出す。
「ま――っ!」
 海音が手を伸ばして叫ぶが、サイエンティストである彼女に戦うすべはない。
「左右に蛇行しながら走ってるから矢が当たらない‥‥それに下手に撃つとシンゴたちに当たる可能性があるから無闇に撃てないよ」
 ジーラも悔しそうに呟き、少し遅れてキメラの後を追う。
「シンゴ! キメラがこっちに来る! 早く此処から離れるんだ!」
 三間坂がシンゴの腕を引っ張りながら叫ぶが、シンゴは彼の言葉が聞こえていないかのように一人何かをぶつぶつと呟いている。
「シンゴ!」
 江崎が叫ぶと同時にキメラの爪がシンゴを引き裂こうと手を振り上げる――が、がきんと金属音が響いただけでシンゴの身に傷はなかった。
「あ――っぶねえ‥‥」
 金属音の正体は鷹見の武器とキメラの爪とがぶつかり合った音。キメラがシンゴの方に向かうと同時に鷹見もシンゴの方へと走り出していたのだ。
 キメラは蛇行しながら走っていたため、少し遅れていても直線を走る鷹見の方が僅かな差で早くシンゴの元へと辿り着いたという事だ。
「驚かせるなよ、お前の相手はこっちだろ」
 ぎぎぎ、とキメラの爪を受け止めながら鷹見が低く呟く。
 そして遅れて到着した攻撃組の人間が攻撃、射撃しているときに鷹見は豪破斬撃を発動する。
「くらえ‥‥豪破‥‥斬撃!」
 刀身から蛍のような光の粒子を放出しながら蛍火を振るい、キメラを無事に倒すことができた――‥‥。


●彼の正体、そして彼の罪‥‥

 キメラを倒した後、シンゴは無言で廃墟の中を歩き回る。その表情は無機質なもので、何処か不気味ささえ感じられるほどだった。
「ボクは‥‥今持ってる記憶をなくしたい、今の彼のように‥‥」
 シンゴの少し後ろでジーラがポツリと呟く。
「記憶を失うことを願っているボクが言うのもおかしいかな‥‥取り戻した記憶の先に、彼の幸せが在らんことを。たとえ‥‥どんなにつらい現実が待っていてもね‥‥」
 キメラとの交戦中にシンゴの様子がおかしくなった。恐らくは記憶を取り戻した、もしくは取り戻しかけているのかもしれない。
「なぁ、これ――‥‥」
 先を歩くシンゴを余所に三間坂が建物の中から出てくる。その手には写真が持たれている。
「これ、シンゴじゃないか?」
 埃をかぶった写真を能力者たちにみせる。
 確かにそこに写っているのは今より、少し若いシンゴの姿だった。
「僕はここに妻となる女性を置いて仕事に出かけていたんです――キメラ退治の仕事に」
 突然、後ろにシンゴが現れ、ポツリと呟く。
「思い出しました、全て――‥‥七海という女性でよく転ぶ人でした。ボクは生まれてくる子供の為に幸せな家庭を作りたかった‥‥傭兵業をしていたのもその為です」
 クッ、と自嘲気味に笑い、空を仰ぎながらシンゴは言葉を続ける。
「僕はキメラを倒し、この街とは呼ぶには狭すぎる場所へ戻ってきました――まさか背後から傷ついたキメラが追いかけてきている事にも気づかずに‥‥そのまま僕は用事があって本部へと七海に会わずに出かけました――そして‥‥帰ってきた時には」
 キメラによって街の人は殺され、七海も殺されていました――無表情でシンゴは呟く。
「これが全てです、僕には良い思い出なんか待っていなかった‥‥待っていたのは絶望、そして自分の罪だけだったんです」
 あははは、とけたたましく笑い出すシンゴに能力者たちは表情を歪める。
「‥‥何を思い出したとしても、それも自分の一部。無意識に求めたのは必要で大切だからこそだ、違うか?」
 三間坂の言葉に「貴方に僕の何が分かるんです!」とシンゴが強く叫んだ。
「だけど、それもお前の記憶なんだろう? ならば受け入れろ、それに引きずられるな。お前は生きている、それは例えつらい現実があったとしても変えていける力だ」
 鷹見の言葉に「僕は‥‥」とシンゴは泣き崩れ落ちる。
「仁の言う通りよ、シンゴ。顔を上げなさい。貴方が絶望するには、まだ早すぎるわ」
 海音の言葉にシンゴは顔を上げる。
「つらい過去でも――幸せな過去でも、それでも今までの貴方を紡いできたものです。それは大切なもの、大切にしてください」
 シエラの諭すような言葉にシンゴの瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ちる。
「シエラ殿の言う通りだ。それが汝たる証――二度と無くすでないぞ」
 赫月の言葉にシンゴは首を縦に振り続ける。
「探しモノ、見つかって‥‥まずは良かったわね。これで私達の任務は終わり―――‥‥後は、貴方次第‥‥ってところかしらね」
 大川がシンゴに話しかける。
「‥‥今回はありがとうございました。僕はこの廃墟に残ります。そして‥‥皆の墓を作り終えた後に帰ります」
 シンゴは荒れ果てた街を見て、目を細めながら呟く。
「‥‥大丈夫ですか?」
 シエラが問いかける。
「あぁ、大丈夫。皆さんのおかげです。一度心の整理をつけてから再び傭兵を続けようと思います」
 ありがとうございました、そう言って頭を下げるシンゴの表情は明るい‥‥とはいえなかったが、前向きに生きることに決めた良い表情をしていた。


END