タイトル:【JB】マリの結婚マスター:水貴透子

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 27 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/12 22:48

●オープニング本文


 太平洋上の無人島は、多くの手により急ピッチで調査が進んでいた。仲間達が幸せな結婚式を行う、そのための準備だと思えばやる気も増そうと言う物だ。
「ふむ。思ったよりも快適な場所のようだ。これならば、心に残る祝典が行えるだろうな」
 報告を聞いたカプロイア伯爵は、満足げに頷く。北側に見つかった入り江は遠浅で、泳ぎにも向いていた。海岸で迎えてくれる南国風の植生は明るく、当日の気分を盛り上げてくれるだろう。島中央の静かな湖畔は、ムードのある式を行いたいカップルにうってつけ、だ。
「島内の安全はまだ確認中です。崖などの危険な場所も調査中ですが‥‥」
 手付かずの森や海が見える草原といった安全そうな地点でも、キメラが見つかっている。とはいえ、花の咲き乱れる一角などは、安全さえ確保できればロマンチックな一日に文字通り華を添えそうだ。
「崖には、洞窟のような場所もあるそうだね」
「はい。危険があるかどうか、そちらも報告待ちとなっています」
 執事は、そう淡々と続ける。
「安全確認が終わったら、次の段階へ進もうか。そろそろ、人や物を動かさないとね」
 まだ空白の目立つ地図を、伯爵は楽しげに見た。

※※※

お兄ちゃん、まさか私が結婚できるなんて思わなかったよ。

『マリにそういう相手が出来たら、まず俺が相手をしてやる!』

そんな事を言ってたけど、お兄ちゃん相手出来ないし――いいよね、結婚しても。

そんなワケでわたくし、土浦 真里は本日結婚します。

※※※

「うわぁ、凄くイイ場所じゃん!」

土浦 真里は式場予定地の洞窟の中を見渡しながら感嘆のため息を漏らして呟く。

今回、マリは結婚することになったのだけど――式場を全く探してなかった。

そこで招待状を出す時に、ナットー探偵事務所のノーラ・シャムシエルに『式場探しててね♪』という内容の手紙も同封していた。

普通ならば『出来るかぁ!!』と投げ捨てられても仕方なのないことなのだけど、ノーラは見事にマリ好みの式場を探してくれていた。

入り組んだ入り江に繋がった洞窟で、白い砂浜のプライベートビーチとは裏腹に、一歩足を踏み入れればその中は囲まれた鍾乳石によって幻想的な印象を受け、ライトを当てればきらきらと吸い込まれるように反射する。

「洞窟って聞いたから『ふはははは、我に生贄を捧げよー!』的な場所かと思ったら、すっごく綺麗な場所じゃん」

マリは洞窟が気に入ったのか、嬉しそうな表情で見て回る。

その時「ちょっとぉ、マリ〜!」と遠くからチホが自分を呼ぶ声に気づく。

「なーにー?」

「あんた能力者には招待状出したの? いつもお世話になってるんだからちゃんと招待状は出しておきなさいよ」

「はいはーい、今から行くところでーす。ねぇねぇ、チホ――私ってこれから人妻になるんだけど、何かヤラしいよね。人妻って言葉」

「‥‥どうでもいいから。さっさといきなさいよ」

相変わらずお馬鹿なマリを見送り、チホは彼女の結婚生活に果てしなく不安になるのだった。

※※※

能力者の皆様へ

こんにちは、クイーンズ記者の土浦 真里です。

このたびはマリちゃんは結婚することになりました。

それで折角の晴れ舞台、いつもお世話になってる能力者、これからお世話になる能力者のみんなに見てもらいたくて招待状を出させてもらいましたっ。

もし良かったら来てくれると嬉しいです♪

それじゃ、マリちゃんでした!

●参加者一覧

/ クレイフェル(ga0435) / ナレイン・フェルド(ga0506) / 赤霧・連(ga0668) / 黒川丈一朗(ga0776) / 棗・健太郎(ga1086) / 小鳥遊神楽(ga3319) / アッシュ・リーゲン(ga3804) / 威龍(ga3859) / 八界・一騎(ga4970) / 玖堂 鷹秀(ga5346) / 玖堂 暁恒(ga6985) / オーガン・ヴァーチュス(ga7495) / 夜坂桜(ga7674) / 櫻杜・眞耶(ga8467) / 守原有希(ga8582) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / レイン・シュトラウド(ga9279) / 天(ga9852) / シュブニグラス(ga9903) / 佐倉・拓人(ga9970) / 紅月・焔(gb1386) / 朔月(gb1440) / 芝樋ノ爪 水夏(gb2060) / 東雲・智弥(gb2833) / アレックス(gb3735) / トリシア・トールズソン(gb4346) / 雪待月(gb5235

●リプレイ本文

―― 結婚式に参列する能力者達 ――

 本日、お騒がせ記者として有名な土浦 真里(gz0004)が結婚する。
 その事実は普段の彼女を知る者達を驚かせるばかりだった。
 しかも能力者達は式に参列してくれるばかりじゃなく、式の準備まで手伝ってくれる者も少なくはなく、まだ開場時間には余裕があるにも関わらず大勢の能力者達で式場は賑わっていた。

 入刀兼食用ウェディングケーキを作っている能力者達は、ケーキが倒れないようにバランスを取りながらそれぞれ役割を果たしていた。
「あの暴走娘がついに結婚か‥‥」
 ケーキのバランスを取りながらクレイフェル(ga0435)が呟く。マリとの付き合いの長い彼は彼女の幸せを見守りに今回の式に参列する事を決意した。
「‥‥明日目が覚めたらあの赤い星が消えてる、なんて事が起きそうで怖ぇな、おい」
 アッシュ・リーゲン(ga3804)も可笑しそうに笑いながら呟く。
「そこまで驚くこと――――ですよね〜」
 八界・一騎(ga4970)が少しの間を置いてからにっこりと呟き、手のひらサイズの鮭を模したマジパンを取り出す。
「それは――? 鮭?」
 ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)が八界の手に持たれているものを見ながら問いかける。何処をどう見ても鮭のマジパンだ。
「ちっちゃいので物足りないのでしたら原寸大もありますよ〜」
 八界は答えながらもう一つの袋を見せて答える。どうやら其方の袋に原寸大の鮭マジパンが入っているらしい。
「あ、これをケーキの装飾用にどうぞ。作ってきたんです」
 守原有希(ga8582)がドラジェをケーキ班に渡しながら話しかける。他にも参列者用のドラジェも作ってきており、5粒ずつ包んで藤籠に詰めて各テーブルに置く。
「幸せのおすそ分けや祝福への謝意の意味があるそうです」
 守原の言葉に「へぇ」とアッシュは呟くように答える。
「同じ月狼の仲間である鷹秀の結婚式だ、盛大にお祝いしてあげなくては」
 ユーリは生クリームの飾り絞りをしながら首を縦に振って作業を続ける。
「クリームの飾り絞りが終わったら飴細工をしますね」
 レイン・シュトラウド(ga9279)が呟く。彼は飴細工担当で板状に伸ばしてわざと割った飴を宝石のように散りばめ、ケーキ全体を包み込むような大きなリボン型の飴細工を作り、その上で更に飴細工のハートを飾ると言うものを考えていた。
「じゃあ、その前にした方がいいかな?」
 佐倉・拓人(ga9970)がチョコ細工と砂糖細工の小さな人形を取り出しながら呟く。人形の方は新郎新婦の二人を模したものに作られ、互いに食べてもらおうと佐倉は考えていた。
(「マリさんの分は合成甘味料も使用して究極の甘さに仕上げています‥‥カラシ食べさせられた仕返しです、ふふふ」)
 佐倉の心の中ではブラックな彼が出ており、理不尽な理由でカラシを食べさせられた事を根に持っているようだ。
「これ、上手く出来てるんやなぁ」
 クレイフェルが指差したのはチョコ細工で作られた葉っぱ。彼の技巧全てが駆使されているのかリーフチョコだけでなく、手が込んだものも作られており、思わず感嘆のため息が出るほどだ。
「とりあえず、ケーキはこんな感じだな」
 アッシュが呟き、ケーキ班は仕事を終えて暑さなどが大丈夫かと確認した後に他の能力者達の所へと向かったのだった。

「マリちゃん、おめでと〜! 今一番輝いてるわよ♪」
 場所は変わって此処は花嫁の控え室、ナレイン・フェルド(ga0506)が化粧道具を片手に持ちながらマリに話しかける。
「ふふ、ありがと♪ 何かお姉さまもいつもと感じ違うねー」
 マリがナレインの格好を見ながら呟く。ナレインの格好、いつものような女性的なものではなく燕尾服に白い手袋、そして胸元に飾られた青薔薇が印象的だった。
「今回は正式なイベントだものね〜、きっちり決めてきたわよ♪」
 そう笑って言葉を返すナレインだったが、その瞳は何処か寂しそうなものだった。男女の感情は無いけれど、友情と言う感情でマリを大事に思っているナレインは彼女が結婚する事に寂しさを感じるのだろう。
「なんだかんだ言っちゃって‥‥みんな泣いちゃいそうねぇ」
 シュブニグラス(ga9903)は今にも泣き出しそうなナレインを見ながら苦笑する。
「シュブちゃんも着物似合うねー♪ 和服美人だ♪」
 マリがシュブニグラスに話しかけた時に「真里さん、はじめまして」と赤霧・連(ga0668)がぺこりと丁寧に頭をさげながら控え室に入ってきた。
 その隣には赤霧と手を繋いでいる棗・健太郎(ga1086)の姿もあった。
「ふふ、仲がいいのね。将来の為の参考かしら?」
 シュブニグラスが赤霧と棗の二人をからかうように話しかけると「な、なんだよ、それ!」と棗が少し顔を赤くしながら答える。赤霧も少しだけ顔を赤くしていた。
「こんにちは、マリさん――ご結婚おめでとうございます」
 芝樋ノ爪 水夏(gb2060)が顔を覗かせながら祝辞を述べる。他の能力者達の手伝いをするつもりなのか、彼女はジャージを身に纏っている。
「すいかちゃん、来てくれてありがとう♪」
 座ったまま手を振るマリに「結婚式に招待されるのって、初めてなんですよね」とポツリと言葉を漏らした。
「でも、マリさんが結婚なんて、不思議な気がします」
 彼女の中のマリ、それはいつも無茶をしている姿しか思い浮かばない。そしてそれと同時に(「これを機に無茶が減ると良いのですが」)と心の中で呟き、また部屋を出て行った。
 芝樋ノ爪と入れ替わりで顔を覗かせたのは――トリシア・トールズソン(gb4346)だった。
「マリ、結婚おめでとうッ、凄く綺麗だよっ」
 トリシアはツインテールを揺らしながらマリのドレス姿を見て褒め称える。
「ふふ、本当に凄くお似合いです」
 雪待月(gb5235)も優しげな笑顔を見せてマリに祝辞を述べる。ラベンダー色のシフォンドレスがふわりと揺れて、更に彼女の穏やかさを引き立てていた。
「トリシアちゃんのワンピースも雪ちゃんのドレスも凄く可愛いね、もうちょいで式も始まるからそれまではゆっくりしててね」
 マリは手を振りながら二人を見送り、自分の準備を再び開始したのだった。

「や‥‥やっと出来た‥‥」
 朔月(gb1440)は明らかに寝不足の瞳でよろよろと会場までやってきていた。彼女は披露宴の時にマリと新郎である玖堂 鷹秀(ga5346)に着せる服を用意してくれていた。
「朔‥‥ケープは出来たけど、この後どうしたらいい?」
 櫻杜・眞耶(ga8467)が朔月に話しかけるが、既に彼女は疲労が限界に来ているのか言葉を返さない。
「とりあえず、真里はんのところに持っていこうか」
 櫻杜は呟き、衣装とケープ、そしてローズクォーツを使って作ったペンダントを持ってマリが化粧をしている場所へと向かっていったのだった。
「さて、俺はどうしようかな。なぁ、ティエンラン」
 黒毛の狼犬を撫でながら朔月は呟き、着ぐるみに身を包んで歩き出したのだった。

 式の準備も大半が終わり、あとは時間が来るのを待つだけとなった。
 その間にも能力者達はマリと鷹秀の話、あの時のマリは――などと思い出話に花を咲かせていた。
「あの記者さんが結婚するとはなぁ‥‥」
 黒川丈一朗(ga0776)は苦笑気味に呟く。普段の彼女のお転婆――を越えた無茶振りを考えるとどうしても『誰かの妻』となる彼女の姿を想像する事は難しいのだろう。
「マリさんもとうとう結婚か、親友としてはぜひお祝いに駆けつけないとね」
 小鳥遊神楽(ga3319)はピンク系のシックなドレスを身に纏いながら呟く。化粧だけはナレインに頼んでしてもらい、普段の彼女とは少しだけ雰囲気が違って見える。
「普段着慣れてないから、さすがにちょっと恥ずかしいモノがあるわね。でも折角のマリさんの結婚式ですものね。このくらいのお洒落はしてもいいかもね」
 自分に言い聞かせるように小鳥遊は呟く。
「だが、マリが本当に結婚できるとはねぇ〜。蓼食う虫も好き好きとは言うが、随分と思い切った事を考えるヤツもいるもんだ」
 威龍(ga3859)がクッと喉を鳴らしながら呟く。
「でも――あんなに楽しそうなマリの顔は久々に見たわね」
 クイーンズ記者の静流が威龍の隣に立ちながら小さく呟く。
「ふふ、何か普段と雰囲気が違うね」
「静流もいつも以上に綺麗だぜ」
 威龍の言葉に「ありがとう」と彼女は笑みを浮かべて「また後でね」と軽く手を振ってその場を後にする。
「あの褌娘が結婚たぁ恐れいるぜぃ!」
 オーガン・ヴァーチュス(ga7495)が豪快な笑い声と共に呟く。しかし声が大きい為か『呟く』と言うよりは『叫ぶ』という表現の方が正しいかもしれない。
「あの褌娘がねぇ、世の中何が起こるか分からないもんだぜぃ」
 オーガンの中では『ふんどしーちょ祭』の中のマリしか知らないため『マリ=褌娘』と言う法則が出来上がってしまっているのだろう。
「いやはや今回は本当におめでたい事で〜、もう僕どうしたらいいのかわからなくて‥‥って何でここにいるのかな! 馬鹿親父!」
 にこにことしていた八界の表情が険しいものへと変わり、オーガンを強くきつい目で見る。格好などはお祝いムードなのに実の父親であり犬猿の仲でもあるオーガンを見て感情が高ぶったのだろう。
「なんでぃ、つれねぇなぁ‥‥ひねくれちまってんのかぁ?」
 どうやら『犬猿の仲』とは言っても八界の一方通行のようだ。その証拠にオーガンの息子に対する態度は普通なのだから。
「健太郎さん、ちょっと式場見学に行っちゃいましょう、もちろん迷惑にならない程度で」
 赤霧の提案に棗は首を縦に振り、二人手を繋いだまま式場の中へと入っていったのだった。
「健太郎さん、GOGOです」
 赤霧の言葉に棗は「姉ちゃんもこういう結婚式に憧れる?」と小さな声で問いかけたのだが、その言葉は赤霧に届くことはなかった。
 そんな浮き足立った能力者達の様子を見ながら苦笑するのは、主役の一人である鷹秀だった。
「何浮かない顔してやがる」
 兄である玖堂 暁恒(ga6985)がため息混じりに問いかける。
「トントン拍子に式まで漕ぎ着けてしまったからでしょうか、今一つ結婚するという実感が沸いて来ませんね‥‥」
 あはは、と鷹秀は苦笑しながら呟く。命を懸けて戦う『傭兵』を生業にしているのだから実感が沸かないのも無理は無いのかもしれない。
「あぁ‥‥? 実感無いとか、今更何言ってんだ‥‥緊張感がないヤツだとは思ってたが‥‥ここまでとはな‥‥」
 ため息と共にもれる玖堂の言葉に鷹秀は再び苦笑する。
「‥‥真里のドレスでも見てきて、実感沸かせて来い‥‥」
 玖堂から背中を軽く叩かれ、鷹秀は少しだけよろけてしまう。その先にあるものは――有名な大将のフィギュア(ドレスバージョン)で、鷹秀は思わず顔を背けてしまう。
「あ、マリさん! おめでとうございます」
 東雲・智弥(gb2833)が現れたマリの姿を見つけたらしく駆け寄って祝辞を述べる。
「えへへー、ありがとー! 何だか改まって言われちゃうと恥ずかしいね」
 東雲の言葉に少し照れたような表情を見せてマリが言葉を返す。
「二人とも、結婚本当におめでとうな」
 天(ga9852)が穏やかな笑みを浮かべてマリと鷹秀に話しかける。その隣には彼の大事な女性でもあるノーラ・シャムシエル(gz0122)も立っている。
「あ、ノーラさん。今回はこんなに素敵な式場ありがとねー♪」
 今回の式場を見つけてくれたノーラに話しかけると「別にいいわよ」と言葉を返してくる。
「そうだ、これをお祝いにと持ってきたんだ」
 天が差し出したのは――『名店の菓子折』と『巨大天ぐるみ』だった。
「ええええっ! これもらっていいの!? わぁい、おっきな天ぐるみ貰っちゃったっ!」
 マリが巨大天ぐるみを嬉しそうに抱きかかえている中――ノーラだけが笑っていなかった。無表情でジーッと横から天ぐるみと天を交互に見比べている。
 その視線からは『私も欲しい』というオーラがバシバシと天へと伝わっている。そんなノーラの気持ちを知っているのか知らないのか分からないけど「可愛いよねっ」と自慢気に巨大天ぐるみを見せる。
「の、ノーラにはほら、これを――」
 天が慌ててノーラに差し出したのは‥‥彼がいつも持っていると思われる小さな天ぐるみ。
 そしてノーラは巨大天ぐるみと小さい天ぐるみを見て無言で(「小さくない?」)と天に訴える。
「ん? ノーラさんはどうかした?」
「べ、別に。これお祝い」
 そう言ってノーラは持っていたお酒を渡す。
「わーいっ、お酒だ♪ 飲も「これから結婚式なんですから酔っ払われても困るので没収です」――ケチ」
 ぶぅ、と頬を膨らませながら没収されてクイーンズ記者に持っていかれるお酒と一緒に巨大天ぐるみ、名店の菓子折を名残惜しそうに見ていた。
「あ! がすっちょ! 何してんの。そんな隅っこで」
 マリが見つけたように指差したのは紅月・焔(gb1386)だった。何故か隅っこの壁に寄りかかりながら哀愁を漂わせ「‥‥真里りんが結婚か‥‥結婚か‥‥」とぶつぶつと呟いている。
「‥‥がすっちょー?」
 返事のない紅月を不審に思ったのか手を大きく振るけれど‥‥やはり彼は哀愁を漂わせながら何かをぶつぶつと呟いている。
「‥‥また一人‥‥売れ残り組みが減ったか‥‥」
 何処か悔しそうな、悲しそうなその表情に「マリちゃんは売れ残り組みじゃないしっ」とベシンと紅月の頭を叩く。
「真里さん」
 鷹秀の声が聞こえ、マリはそっちに視線を向けると――夜坂桜(ga7674)の姿があった。
「お久しぶりです。ダンパ以来ですから半年振りでしょうか」
 知らぬ間に進展なさっていたんですね、夜坂は心から嬉しいのか表情を緩ませながら呟く。
「うん、もう少しで始まると思うから――ゆっくりしていってね」
 マリと鷹秀は軽く会釈をすると、能力者達の前から姿を消したのだった。彼女達が夫婦と呼ばれるまで、あともう少し。

「全く、思い返せばマリって俺に対して結構酷い事ばっかしとるやんな」
 クレイフェルがため息混じりに呟く。思い込みが激しくて猪突猛進、襲われたり捕まったり、目を離すと何処にいくか分からなくて目が離せない。
「でも、あんなふうにドレス着てるマリ見ると、感慨深いよなぁ」
 クレイフェルの言葉に「そうねぇ〜私なんてちょっと呆けちゃった」とナレインが言葉を返す。ちなみにナレインは『化けたわね』と心の中で思ったのは他の能力者達には内緒である。
「まぁあれで苦労はしている奴だからな、家事は心配ないだろうが‥‥少しは落ち着くかなぁ‥‥」
 黒川が心配そうに呟いたのだが「無理だろうな」と威龍が間髪いれずに言葉を返す。
「だよなぁ‥‥」
 黒川もそれは感じていたらしく苦笑しながら先ほどまでマリがいた場所を見たのだった。
(「手のかかる妹、のように感じとったんかも、な」)
 クレイフェルは心の中で呟く。実際にあんな妹がいたら困るのだろうが、何だかんだ言いつつもマリを嫌いになれない自分がいることに彼は気づいていた。
(「マリの兄貴、空から見とけよ。妹の晴れ姿をな」)
 クレイフェルは既に亡くなっているマリの兄に向けて心の中で呟く。まるで自分がマリの兄代わりのようだ、と少しだけ苦笑を漏らしたのだった。
「そうねぇ‥‥落ち着いてくれるのが一番なんでしょうけど、あれがマリちゃんだものね」
 ナレインも少しだけ寂しそうに呟く。
「だが、信じられんよなぁ‥‥」
 黒川は小さく呟き、式の始まりを告げる音が響いたのだった。


―― 愛を誓うは誰の為 ――

「えぇと、今回司会を担当させていただきますレイン・シュトラウドです」
 宜しくお願いします、と丁寧な挨拶をした後に式を進めていく。結婚式といえど形式ばったものは好んでいないらしく、気軽に出来るものが良い――そうマリは言っていた。
 それでもやはり結婚式なのだから、多少形式張るのは仕方がない。
 最初に祭壇の前に鷹秀が待っており、チホと一緒にマリが入場してくる。本来ならばチホの役目は父親がするべきものなのだが、マリに父親、そして父親代わりの兄も既に他界しており、一番付き合いの長いチホがする事となったのだ。
 スローテンポの楽団の曲が洞窟内に響き渡り、一歩、また一歩とマリはゆっくりと歩いていく。
(「まさかこんな日が来るなんて思わなかったなぁ‥‥」)
 今までの事を振り返るようにマリは心の中で呟く。そして歩くたびに自分を祝福してくれる能力者達の顔を見て、不覚にも泣きそうになった。
 そして鷹秀の前まで歩くと、神父代わりの男性の前へと二人並び、お決まりの台詞を男性が話していく。
「汝、玖堂 鷹秀、病める時も健やかなる時も土浦 真里を愛し、育む事を誓いますか?」
 男性の言葉に鷹秀は迷う事なく「誓います」と答える。
「では、土浦 真里、汝は病める時も健やかなる時も玖堂 鷹秀を愛し、育む事を誓いますか?」
 そしてマリも迷う事なく「誓います」と答え「それでは、指輪の交換を」と男性が両手を広げて棗が運んできた指輪に視線を移す。マリは鷹秀の指に、鷹秀はマリの指に指輪をはめ「誓いのキスを」と促される。
「うぅ‥‥」
 人前でキスをする事にやや抵抗を感じたマリだったが、これも結婚式の一部なので目を閉じてそっとキスをする。
「マリちゃん! キレイ‥‥うん、とってもお似合いの夫婦だわ!」
 二人が一時退場する際に青薔薇の花びらも混ぜたフラワーシャワーをしながらナレインが少し涙ぐんで呟く。
「鷹秀ちゃん! 絶対に幸せにしなきゃ、許さないからね♪」
 ナレインの言葉に鷹秀は言葉を返す事はなかったけれど、穏やかな笑みを浮かべ(「分かっています」)と無言で告げる。
「ふふ、このワクワクは結婚式だからでしょうか。それとも憧れの花嫁が私の理想の花嫁以上に綺麗だからでしょうか」
 赤霧はどこか落ち着かない様子で棗の手を強く握り締める。
(「ふふ、でももしかしたら健太郎さんと二人でいるからかもしれません――内緒ですけどね。私ってばお姉さんなのですから♪」)
「連姉ちゃんも、こういう結婚式に憧れる?」
 棗が一度問いかけた言葉を再び呟く。今度は確りと赤霧にも聞こえるような声で。赤霧はきょとんとした顔をした後「やっぱり女ですもの♪」と笑顔で言葉を返した。
「やっぱりそうだよね。約束しよう、いつかこういう結婚式をあげるって。ゆびきりげんまん!」
 棗が小指を差し出しながら答えた言葉が嬉しかったのか、赤霧は今日一番の笑顔で棗を見たのだった。
「前に出席した結婚式も凄かったけど、マリの結婚式は楽しいし、暖かい感じ」
 トリシアは此処にはいない大事な人を思いながら優しくほほえむ。
「私もいつか‥‥あんな花嫁になれたら良いなぁ‥‥」
 いつも肌身離さず持ち歩いている『チンクエディア』にそっと触れて呟く。
「焔さん、そんな隅っこにいないでもう少しこっちにきたらいいのに‥‥」
 芝樋ノ爪が相変わらず隅っこで哀愁を漂わせている紅月の手を引っ張りながらこちらに来るように促す。彼女が今日の為に新調した薄い青色のドレスがひらりと舞う。
「このドレス、どうですか? 似合って‥‥いるでしょうか?」
 芝樋ノ爪が少し照れたような表情で俯き、紅月に問いかけると「うん‥‥似合っているよ」と短い言葉が返ってくる。
 どうやら彼にとってマリが結婚したことは結構大きなダメージを与えたらしい。それもマリが好きとかいう理由ではなく『売れ残りが減った』という理由で。
「‥‥何か、疲れてるみたいですね」
 芝樋ノ爪が苦笑して、マリの方に視線を向ける。するとブーケトスの為にスタッフの人が参列者達に呼びかけている。芝樋ノ爪も折角だから参加することにした。
 花嫁のブーケを受け取った者が次の花嫁――真実味の無い言葉だけど女性にとってはやはり夢と希望に溢れている――それが花嫁の投げるブーケ。
「行くよっ!」
 マリの言葉と同時にブーケが宙を舞う。まるで自分を持つに相応しい主を探すかのように。
 そして――――‥‥。
「わっ」
 ぽすん、と小さな音をたててブーケが落ちた。その人物は少し驚いたような目で自分の手の中にあるブーケを見た。
「次の花嫁はトリシアちゃんだね」
 マリが笑って大きな声で話しかけ、トリシアは少し顔を赤くしながら、だけど何処か嬉しそうに風に揺れるブーケの花を見ていたのだった。
「さぁ、いきましょうか」
 鷹秀は呟くと、突然お姫様抱っこをしてみんなの前を通っていった。

―― 二次会 ――

 結婚式が終わり、次は披露宴となる。能力者が準備してくれたウェディングケーキの入刀を行う。ケーキはそれぞれのテーブルへと配られ『幸せのおすそ分け』と言う事で喜んで食べる能力者達が多かった。
「この度は私達の結婚式にお集まりいただきありがとうございます。今まで多々ご迷惑をおかけしてきましたが、今後も何かあった時は変わらぬお力添えを頂けるよう、この場を借りてお礼方々とさせていただきます」
 披露宴が開始されると同時に鷹秀が参列者に向けて挨拶をする。そして飲み食いが始まった所で新郎新婦はそれぞれに挨拶周りをする事となった。
「マリちゃん‥‥大好きよ。私もあなたの幸せを守るわ」
 ナレインがにっこりと三つ編みツインテールを揺らしながら話しかけてくる。
「ありがとう、お姉さま」
「ほらほら、ナレインちゃん。折角おめでたい日なんだから涙を流しちゃダメでしょ」
 シュブニグラスがナレインの瞳に浮いている涙に気づき、苦笑気味に呟く。
「んー♪ 美味しい♪」
 赤霧が出される料理などを食べながら呟く。そしてその隣に座る棗は恐らく運び込まれたのであろうピアノが使われずに置いてあるのに目を留める。
「あれって使ってもいいのかな?」
 棗はピアノを指差しながら問いかけると「うん、大丈夫みたい」とマリが答え「連姉ちゃん、行こう」と棗は赤霧の手を引っ張ってステージのようなものにあがる。
 棗がピアノを弾き始め、赤霧は最近会わなくなった人の言葉を思い出す。
「音大生ならば歌を歌え」
 赤霧はその人の言葉を自分に言い聞かせるように小さく呟くと、棗の演奏にあわせて『賛美歌』を歌い始める。彼女自身、信仰を持つというわけではないのだが、聖歌はすきなのだとか。なぜなら、そこには人の思いがあるかららしい。
「真里さん、お幸せに」
 そう願いをこめて赤霧は歌を歌い、棗は演奏を続けたのだった。
「実際、あんなふうに走り回ってはキメラと遭遇していた記者さんが、まさかこういう日を迎えるとは‥‥」
 あのような状況を思い出すと、目の前で笑っているマリが夢のようだ――黒川は心の中で呟く。
 だからこそ、それゆえに黒川はマリと鷹秀の幸せを願わずにはいられなかった。
「おめでとう、マリさん、玖堂さん」
 小鳥遊が挨拶周りにやってきた二人に話しかける。
「マリさん、今日から玖堂さんのお嫁さんになるんだから、ちゃんと自分を大事にしてね。マリさんが無茶をしたら一番悲しむのは玖堂さんなんだからね」
 今まで耳にタコが出来るほどに言われた言葉を聞き「分かってるって♪」とマリは分かっているのか分かっていないのかどちらとも取れる言葉を返したのだった。
「もちろん、あたしも怒って悲しむわよ。玖堂さん、言うまでもないと思うけど――マリさんをお願いしますね。きちんとマリさんの手綱を握って下さいね」
 親友だと思ってるあたしの言葉も馬耳東風な以上、頼れるのは玖堂さんだけですから――小鳥遊は言葉を付け足す。
「えぇ、分かってます。危険な目になんてあわせませんよ」
 鷹秀の言葉に小鳥遊は安心したように「今日は本当におめでとう」と言葉を付け足したのだった。
「マリ、あんまタカのストレスになるような事ばっかして、タカを早死にさせんじゃねぇぞ? タカも無理だと思ったら見切りつけて逃げちまっていいからな」
 からかうようにアッシュが言うと「あ、アッちゃん! 何て事言うのっ!」とマリが慌てたように叫ぶ。
「これで本当に鷹秀がいなくなっちゃったらアッちゃんのせいだからねっ」
「お前がタカに負担をかけなけりゃいいだけの話だろ」
 アッシュの言葉に「うぅ」と唸っているところを見ればマリは今後も無茶をする予定だったのだろう。
「結婚おめでとうな、マリ、玖堂」
 アッシュの隣の席から威龍に声をかけられる。
「玖堂はマリをきちんと支えていってくれよ。俺から言うまでもなく知ってると思うが、恐らく変わらないだろうから、マリは」
 威龍の言葉に「さぁっすが! マリちゃんの事を良く分かってるね☆」と褒められてもいないのに照れたような表情になる。
「褒めてないからな。マリはこれから玖堂の嫁さんなんだから、少しは落ち着いて無茶は程ほどにしとけな」
 そう言っている威龍だったけれど、言っても聞くようなマリではない事は彼も分かっていた――しかし無駄なあがきをしてみたかったのだろう。
「もふKING☆ はっけ――モフってない‥‥」
 がーん、とマリが少し残念そうに八界を見ながら呟く。マリの中での八界は既にタヌキ姿の彼しかない為、普通の格好の八界を見れば違和感を感じてしょうがないのだろう。
「式場で覚醒するわけにもいきませんしねぇ‥‥何かしてあげれることがあればいいんですけど〜」
 八界の言葉に「今度もふり権一年分頂戴ね」と言葉を残して次の場所へと行く。つまり彼は今後最低でも一年間はもふられ続けるという事なのだろう。
「給仕ならうちがしますよ」
 あまり慣れていなさそうな玖堂を見て守原が苦笑気味に話しかける。玖堂としては鷹秀の親族と言うこともあり、裏方に徹しようと決めていたのだ。
「‥‥わりぃ‥‥」
 元々が寡黙なほうなので玖堂は給仕とかには向いていないのだろう。給仕を守原に任せた後、彼は「わざわざ弟達の為に集まってくれて感謝している」と能力者達に挨拶をし始めたのだった。
「お前、何でそんなにひねくれてんだぁ? 今日はめでてぇ日なんだからもうちっと笑ってろい」
 オーガンが八界の頬をつつきながら話しかけるが、父親苦手の彼としては(「放っておいてくれ」)というのが心からの願い。
「そぉら、花嫁! どんどん飲めーい!」
 酒瓶を高くあげながらオーガンが叫ぶが「止めてくださいって!」と八界から必死に止められている。
「やれやれ、これで私達の肩の荷が下りるといいんだけど」
 あいさつ回りをするマリを見ながらチホがため息混じりに呟く。
「でもあの方の破天荒っぷりが変わることはないんでしょうね」
「あぁ、もうそれ考えると頭痛くなるわぁ‥‥」
 頭を抱えて悩むチホに「分かりきっている事など悩むだけ損ですよ」とあっさり答える。確かに夜坂の言う通りなのだけど、付き合うのはやはりチホ達が長いわけで心配することをやめるなど出来るはずも無かった。
「息抜きもトラブルもあなたさえ良ければお付き合いしますよ」
 夜坂の言葉に「そうねぇ、じゃあその時はお願いしようかしら」とチホは苦笑気味に言葉を返す。
「え?」
 チホの言葉が予想外だったのか、夜坂は少しだけ驚いた表情を見せたあと「その折には連絡下さい。飛んでまいりますよ」と夜坂は言葉を返したのだった。
「真里はんのこんな姿が見れる日が来るなんて‥‥夢のようです」
 雑用をしながら櫻杜が呟き「日本舞踊を舞ってよ」というマリからのリクエストで「ほな、お二人の門出を祝して祝いの舞をひとさし‥‥」と割烹着を脱ぎながら舞い始めたのだった。
「うちの姉ちゃん達の式も見たかなぁ‥‥」
 一連の行事を終えて守原がため息混じりにポツリと呟く。祝い事の席とはいえ何か働いていないと落ち着かないのか、今回守原は裏で物凄く働いてくれていた。
 ちなみに彼の姉達は性格良くて『自分と喧嘩できる人』が理想の男性らしく、いまだその条件をクリアできるものはいないらしい。
(「折角告白されても相手を試すという名目で何人殴り飛ばしたことか‥‥」)
 美人でスタイルも良い姉達は守原の自慢の姉のはずなのに――『自分と喧嘩できる』と言う条件さえ譲歩すれば男達は放っておかないはずなのだ。
(「強盗に反撃させずに病院送りにする人と互角ってそうそうおらんのにねぇ‥‥」)
 姉達の結婚がまだ先だと分かると守原は疲れが押し寄せてきて、その疲れを振り払うかのように再び働き始めたのだった。
「わっ」
 突然マリの声が聞こえユーリは其方に視線を向ける。
 するとウェルカムボード用に持ってきていたくまのぬいぐるみにじゃれついているユーリの雪狼・ラグナがマリに近寄っていっていた。
「大丈夫ですよ」
 苦笑しながら鷹秀がラグナとマリを引き離すと、まるで『嫌われた?』とでも言いたそうな寂しげな瞳でマリを見つめる。
 その時だった。朔月の飼い犬である狼犬・ティエンランがラグナを呼びに来て「2匹とも来な」と朔月が呼んでいる姿が見える。
「外に行くぜ!」
 先導するように朔月が先に外に行くと、ラグナとティエンランも後を追いかけるように外へと出て行ったのだった。
「あ、舞さんもいらっしゃってたんですね」
 室生 舞(gz0140)の姿を見つけてレインが話しかけると「こんにちは」と最近はあまり見せなくなったはずの笑顔で挨拶を返してきた。
「ボクはずっと舞さんの味方ですから。舞さんは安心して自分の道を進んでください」
 レインの言葉が嬉しくて舞は「ありがとう」と笑って言葉を返した。
「何で、ボクの事をそんなに心配してくれるんですか?」
 舞が首を傾げながらレインに問いかけると「それは‥‥」とレインは少しだけ顔を赤くして呟く。その表情からは少し困ったような雰囲気が見て取れた。
(「まさか好意を抱いているから、とは言えないですよね」)
 レインは心の中で呟くと、誤魔化すように曖昧に笑ったのだった。
「結婚かぁ‥‥」
 天は隣のノーラをチラリと見ながら小さく呟く。この二人も恋人同士なのだから結婚に行き着いてもおかしくはない。むしろ自然なのだろう。
「んぐっ」
 ケーキを食べていたノーラが喉に詰まらせて胸の辺りを叩いている。
「慌てて食べるからだよ」
 天は呆れたようにミネラルウォーターを差し出しながら苦笑する。
「天ぐるみーっ、ノーラさんっ! 今回は本当にありがとうねっ。結婚式できたのはノーラさんとか式場準備とかしてくれたみんなのおかげだよ」
 マリはにぱっと笑って周りをきょろきょろとすると――‥‥。
「二人の結婚式の時には絶対マリちゃんも呼んでねっ。呼んでくれないと酷いんだからねっ」
 それだけ言葉を残してマリは去っていく。
(「結婚かぁ‥‥」)
 台風のように言いたい事だけを言って去っていったマリを見ながら天は少しだけ暑くなって扇子でぱたぱたと扇ぐ。
「大丈夫?」
 隣を見ればノーラも少し暑そうだったので天はパタパタと扇いでやる。意外とこの二人が結婚するのは近いかも――しれない?
「何かみんな泣きそうで泣かないわねぇ」
 シュブニグラスは少しだけ残念そうに呟く。チホも何だかんだ言いながらマリを祝福しているようだし、ナレインもマリの為を思って泣くのを我慢しているようにも見える。
「幸せそうな姿を見せられたら、泣くに泣けない人もいるんじゃないでしょうか」
 佐倉が苦笑しながらシュブニグラスに話しかける。色々な能力者達に祝福される二人の姿を見ているだけで自分も幸せになったような気がして佐倉は気分が良かった。
「願わくばこの幸せが、出来る限り長く続きますように。お二人の道行きに幸あれ」
 佐倉は小さく呟き、ジュースを手にとって飲み干したのだった。
(「ネタ空間以外はどうも苦手だ‥‥」)
 壁に寄りかかりながら一人壁の花になっている紅月はざわめく会場を見て心の中で呟く。
「まぁ、何にせよ――めでたいことだな、真里りん」
「焔さん、一緒に何か食べに行きましょう。おいしそうなものが沢山ありますよ」
 芝樋ノ爪に引っ張られながら紅月も会場の真ん中まで連れてこられ、目の前に並ぶご馳走を頬張ることにしたのだった。
「そういえば、真里さんと玖堂さんの出会いってどんな感じだったんですか?」
 東雲が料理を食べながら鷹秀に問いかける。
「最初は旅行だったよね? 何か話が長くなりそうだからストップしたの」
 マリがさも当然とでも言わんばかりに答え、東雲は「しょ、初対面からそれですか」と苦笑するしか出来なかった。
「でもあなたにもいるんでしょう? そういう放って置けない相手が」
 鷹秀の言葉に東雲はまるでユデダコのように顔を赤くする。
「は、はい。闘いも接近戦は苦手なんですけど――好きな人を守りたいから頑張ろうって思えるようになって」
 東雲がどんどんとノロケモードに入るのをマリと鷹秀は微笑ましく笑って見ていた。しまいには彼の大事な人のことを1から10まで説明し始めて「誰か止めたほうがいいんじゃ‥‥」と思うようになるほどだったとか‥‥。
「ブーケ、もらっちゃった‥‥次は私が花嫁になれるかな」
 トリシアは綺麗な花で飾られたブーケを見て嬉しそうに呟き、これを見た彼女の大事な人が何と言ってくれるだろうと今から楽しみなのだった。
 そして、人気の無いところに威龍はクイーンズ記者の静流を呼び出していた。
「マリの結婚式に便乗するようで、我ながら格好悪いのは承知している。だが、自分の気持ちは言葉にしないと余計格好悪いと思ってな」
 威龍の言葉を静流は黙って聞いている。
「‥‥好きだ、静流――――愛してるぜ」
 威龍の言葉に静流は首を縦に振って「ありがとう」とOKの返事を出す――と同時に威龍に抱きしめられて口付けをされたのだった。


 それから、暫くの間能力者達は騒ぎ、食べて、飲んで、マリと鷹秀の結婚式は無事に終了したのだった‥‥。
 式場の片付けなどが終わり、二人が帰ったのは既に日付が変わる寸前だった。
「あー、疲れたー! 結婚式って結構疲れるモンなんだねー」
 ベッドに体を放り投げながらマリが鷹秀に向けて呟く。
「そうですね、でも楽しかったでしょう?」
 鷹秀の言葉に「もちろん、みんなに祝福してもらえて幸せだった♪」と即答でマリは言葉を返す。
「真里さん」
 鷹秀はマリの目を真っ直ぐ見て真剣な表情で話しかける。
「んー?」
「貴女の妻としての証、私にいただけますか?」
 疲れきった頭でその内容を理解するのにマリは数十秒ほど必要とし、意味を理解して真っ赤になる。
「‥‥べ、別にそういうのは断り入れなくてもいいんじゃないかなー‥‥なんて思うケド。だって‥‥ふーふなんだから」
 そうやって言葉を返すマリは今日という日の中で一番真っ赤な顔をしていたのだった。



Happy Wedding!!