タイトル:笑う女マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/13 23:35

●オープニング本文


その女は微笑む。

怪しく、まるで嘲るように――‥‥。

※※※

「常に笑ってるキメラ――か。気持ち悪いわねぇ」

今回現れたキメラの資料を見ながら女性能力者がため息混じりに呟く。

「どんなキメラだ?」

男性能力者が話しかけると、女性能力者は「これよ」と資料を渡しながら言葉を返す。

そこに書かれていたキメラ、それは女性型で常に笑っているという特徴があるのだとか‥‥。

「一般人が一人だけ犠牲になってるみたいね。女性型キメラで――高らかに笑いながら殺すんですって」

「笑いながら?」

男性能力者も引きつった表情を見せながら問いかけると「父親を殺された子がそう証言したって」と女性能力者は言葉を返す。

「子供の目の前でか‥‥つらいな」

「その子、ショックで証言した後は何も喋らなくなったんですって」

資料に挟まれている少年の情報、それはまだ11歳の子供だった。

父親と一緒に川原へ遊びに来ていたところ、キメラに見つかって殺されたのだとか‥‥。

「何とか無念を晴らしてやりてぇなぁ」

男性能力者は呟き、大きなため息を吐いたのだった。

●参加者一覧

木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
神凪 刹那(gb3390
15歳・♀・SN
平野 等(gb4090
20歳・♂・PN
雪待月(gb5235
21歳・♀・EL
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN

●リプレイ本文

―― 笑うキメラ ――

「子供の目の前でなんて、ひでえ真似しやがる‥‥」
 忌々しそうに、そして吐き捨てるように呟くのは桂木穣治(gb5595)だった。彼にも娘がいるらしく、少年の事は他人事とは思えない何かがあったのだろう。
「本当に残酷なことをする‥‥その子の為にも、新たな犠牲者が出ない為にも、キメラを退治しておかねば」
 木場・純平(ga3277)もサングラスをかけなおしながら低い声で呟く。
「いつも笑っているキメラ、ですか‥‥そんなに殺戮が楽しいんでしょうかね」
 神凪 刹那(gb3390)が少し厳しい表情をしながら呟く。目の前で親を殺された少年の気持ちを考えると、どうしてもキメラに対しての怒りを抑えきる事が出来ない。
「笑うキメラかぁ〜おんにゃの子の笑顔だったらもっと嬉しいのににゃ〜♪」
 にゃは、と笑いながら火絵 楓(gb0095)が資料を見て呟く。
「元気出してって言いたいけど、さすがに‥‥ちょっと簡単には言えないですねー‥‥」
 平野 等(gb4090)がポツリと呟く。大切な人を亡くした辛さや悲しさを頭では分かっていても、平野は感情面では理解する事も共感する事も出来ないのだとか。
 任務が終わった後は少年の所に見舞いに行くという話が出ていたのだけど、その時平野はどうやって接すればいいのかも分からなかった。
(「ニヤニヤしてるのがデフォの俺だもんな‥‥今回のキメラの事もあるし、トラウマ刺激しちゃいそうだなぁ」)
 平野は心の中で呟き、他の能力者達の顔を見たのだった。
「目の前でお父様を亡くしてしまった少年‥‥その心境を本当に分かち合う事は、出来ないと思います――けれど、その想いを分かろうとする事は出来ると思うから‥‥」
 雪待月(gb5235)が俯き、その表情を悲しみに歪ませながら小さな声で呟いて言葉を続ける。
「喋らなくなった原因がキメラにあるとすれば、まずはキメラを討ちます」
 そう雪待月は呟くのだが、彼女の心には引っ掛かっている事があった。

『キメラは何故笑っているのか』
『何故子供を残し、父親だけを殺したのか』

 そして同じ事を桂木も考えていた。現場にいたのは少年、キメラの事を言った後から何も話さなくなった少年――その辺とも関わりがあるのかもしれないが‥‥。
(「まずはキメラだなぁ‥‥」)
 桂木は大きなため息を吐き、心の中で呟いたのだった。
(「俺も‥‥同じように家族を失ったから、こいつの事――心配だな‥‥何とか元気になってもらえる方法はないかな」)
 番 朝(ga7743)はキメラ退治の任務だとは分かっているのだけど、どうしても自分と似た境遇の少年の事を考えずにはいられなかった。
「お父さん、早く行こう?」
 皇 流叶(gb6275)が桂木の服の裾を掴みながら話しかける。
「‥‥子供らしいとは今のような口調でいいのだろうか?」
 皇は普段の言葉に戻して桂木に問いかけると「あ、あぁ」と目を瞬かせながら桂木は言葉を返す。
 今回は桂木と皇が親子の振りをしてキメラをおびき出すと言う作戦を立てている。その最終確認の為に口調を変えて皇は話したのだろう。
「とにかく、まずはキメラ退治だね♪ みんな頑張ろうね」
 火絵が呟き、能力者達は少年の父親を殺したキメラを退治すべく本部を出発したのだった。


―― 事件現場、少年の身に起きたことは ――

「考えすぎかなぁとは思ったんだが‥‥キメラが少年を殺さなかった理由、まさかそのキメラの元が母親――とか考えたんだが、流石に杞憂だよな」
 高速艇で事件現場となった場所へ向かう途中、桂木が一枚の写真を他の能力者達に見せながら苦笑気味に呟く。
「この写真は‥‥」
 雪待月が写真を覗きこむと、母親と父親の間で笑っている少年の写真だった。
 現在、病院で治療などを受けている少年と写真の中の少年――本当に同一人物かと疑いたくなる程に表情も何もかもが違っている。
 その写真を見て、今回の事件がどれほど少年を傷つけたのかと思うと、能力者達は居た堪れない気持ちになった。
「幸せそうな家族だ‥‥こんな事になるなんて、夢にも思わなかっただろうに‥‥」
 皇は目を伏せながら呟くと「‥‥そう、ですね‥‥」と雪待月も悲しそうに答えた。
 その時、高速艇が目的地に到着した事を知らされ、能力者達はそれぞれ準備に取り掛かったのだった。

「さて‥‥此処ら辺りから、だな‥‥」
 皇は呟くと「お父さんっ」と桂木に向けて手を差し出す。普段の彼女を知っている者ならば『何があったのだろう』というほどに無邪気な少女を装っていた。
 桂木と皇がキメラをおびき寄せる囮役をするため、川原へと向かう。
「俺は誰かが戦闘場所に入り込まないように此処で見張っとくからさ」
 平野は川原へは降りず、土手で待機をして一般人達が戦闘をしている川原に入り込んだり、戦闘に巻き込まれたりしないように見張り役をする事になっていた。
「それじゃ此処はお任せしますね」
 神凪が平野に言葉を残し、平野以外の能力者達は待機するための場所へと移動していったのだった。

「お父さんっ、お父さんっ、そろそろ帰らないとお母さんが待ってるよー?」
 皇が桂木の手を可愛らしく引っ張りながら首を傾げて話しかける。口調をがらりと変えて喋るその様は年齢通りの少女に見えて桂木は苦笑した。
「そうだな、帰ろうか」
 桂木が皇に手を差し出して、手を繋ぐ。もちろんこれはキメラが不意打ちで襲い掛かってきた時に対処する為でもある。
 その時だった、鎌のような鋭い武器を手に持ち、にやにやと下卑た笑みを向けながら桂木と皇の二人を見比べる女。
「ひぁっ!?」
 皇は恐怖で肩を竦める――演技をした後に「なんてな」と呟きながら覚醒を行ってキメラの攻撃を『竜宮篭手』で受けて防御する。
 それを少し離れた場所から見ていた待機組の能力者達も飛び出してきて、川原での戦闘が開始されたのだった。


―― 戦闘開始・笑う女 ――

 キメラが現れ、戦闘を始めると同時に木場と火絵がキメラの気を引き付けるために行動を開始する。
「どっちを見ている? お前の相手は俺たちだろう」
 木場は『瞬天速』を使用しながらキメラとの距離を詰め『【OR】クラッチャー』で攻撃を仕掛けると、後ろへと戻っていく。俗に言うヒット&アウェイでの攻撃だ。
「幸せは〜‥‥あとはなんだっけ? 度忘れしちゃった。続き、知ってる――ワケないよねぇ」
 火絵はキメラを見ながらため息混じりに呟き、キメラの気を引きつける。そして生じた隙を縫って木場が攻撃――としていたのだけど、突然キメラは自分に降りかかるダメージを気にする事もなく鎌を振るい、木場と火絵に攻撃を仕掛けてきた。
 二人は多少の傷を負ったけれど、番が間に入ってきて『【OR】樹』にて鎌を受け止め、押し返すように大剣を振り回す。
「‥‥貴方があの子に与えたのは絶望――あなたも絶望を味わうといいですよ」
 神凪は『アラスカ454』でキメラを狙いながら呟くが、視界に入った『ある事』で嫌悪に表情を歪める。
「その気持ちの悪い笑い顔を止めなさい」
 キメラが浮かべる不気味な笑み、それが能力者達の、そして神凪の癇に障る。
「笑顔は人を安らがせるもの――だけど、貴方の笑みは人を悲しませる事しかしません」
 雪待月は『月詠』で攻撃を行うが、キメラは紙一重でそれを避ける――しかし、それは雪待月の想定内だった。
「さぁ、踊れ!」
 皇が呟き超機械『ハングドマン』によって電磁波攻撃を行う。もちろん能力者達はそれを察して皇が攻撃をすると同時にキメラから離れる。
「休む暇など与えるものか――」
 皇が呟いた時だった。
 一人の子供が「うわぁ、すごい」と目をきらきらさせて川原の方へ近寄ってくるのが見えたのは‥‥。いくら平野が見張っているとは言っても川原はそれなりに広いので全てを見ていられる――というわけでもなかったのだろう。
「スミマセーンッ! 今ちょっと取り込み中なんでー!」
 平野が『瞬天速』を使用しながら子供に近寄り、状況説明を行う。しかし子供にとっては『戦い=カッコイイもの』と言うものでしか見れないのか「すごい」という言葉を連発している。
「や、だからね‥‥今本当に危ないから近寄っちゃダメだって‥‥」
 子供のキラキラとした目に平野も苦笑交じりで止めるのだが‥‥流石は子供である、大人しく言う事を聞かせようとする平野の言葉をまるっきり無視して戦いに見入っている。
「あのさ、だから――「うっさいなぁ、俺見てるんだからあっちいっててよ、おじさん」――おじ‥‥」
 これ以上大人しく言い聞かせても埒が明かないと判断したのか、平野は『スタイリッシュグラス』を外して――メンチを切る。平野の覚醒状態では白目部分が黒くなり、黒目部分が赤くなるという子供には少し、いやかなり怖いものだった。
「これより怖いモンに追いかけられたくなければ、素直に家に帰る方がいいと思うけどなー」
 平野の言葉に「ご、ごめんなさいっ」と子供は怯えた目を向けて、そのまま川原から離れていく。
(「あそこまで怯えられると俺としても複雑だなぁ」)
 平野は苦笑しながら子供が去っていくのを見て、能力者達に分かるように『○』と合図して、此方を気にする事なく戦うように告げた。

「どうやら、向こうは気にしなくても大丈夫そう――だな」
 木場はキメラの鎌攻撃を避けながら、ぱしんと手を取り体勢を崩させる。本当は転倒させる所まで持っていければよかったのだが、キメラが思いのほかに足で踏ん張り、転倒させることは出来なかった。
 しかし――‥‥武器である鎌がキメラの手から離れて地面へと落ちる。
(「痛めつけられる側の気持ち、分かってみる?」)
 番は心の中で小さく呟き、大剣を勢い良く振り回して攻撃を行い少し大きめの岩へとキメラを叩きつけたのだった。
 キメラは立ち上がり、すぐさま落とした武器のところまで走ろうとしたけれど‥‥。
「甘い! とろけるように甘いのにゃ!」
 火絵が投げた『アーミーナイフ』が手に刺さり、キメラは初めて苦痛に表情を歪めた。
 そして雪待月がキメラの足に向けて攻撃を行い、桂木が『練成弱体』を使用してキメラの防御力を低下させる。
「怪我したヤツはあとで回復してやるから、もう少し頑張ってくれ」
 桂木は能力者達を見渡しながら呟く。重傷者がいればすぐにでも彼は動くつもりだったけれど幸いにも軽傷者ばかりだったので、もう暫く我慢してもらう事にした。
 そして『練成強化』を使用して能力者達の武器を強化すると、能力者達はキメラへトドメを刺すために行動を開始する。
 木場は空手の正拳突きのように拳を繰り出し『急所突き』を使用して攻撃を仕掛ける。
「お前みたいなのがいるから‥‥」
 番は『ぐ』と唇をかみ締めながら『豪破斬撃』『流し斬り』を使用して攻撃した後に『紅蓮衝撃』を使用して追撃した。
 そして番と同じく火絵もキメラへと踏み込んで『流し斬り』と『両断剣』を使用して攻撃を仕掛ける。
「舞え! ハピネス・ラビリンス!! なんちゃって‥‥♪」
 次々に繰り出される能力者達の攻撃にキメラがよろけていると、目の前に神凪が立ちはだかる。
「厚かましいですね。人を殺しておいて逃げようと言うんですか‥‥さよなら、地獄に堕ちろ」
 神凪は『鋭覚狙撃』を使用しながらキメラの眉間に『アラスカ454』の銃弾をめり込ませたのだった。
 そして‥‥キメラは退治され、川原にはキメラの死体と、キメラが現れる以前の平穏な川原の風景が戻ったのだった。


―― 少年・心の傷は ――

 キメラ退治を終えた後、能力者達はその事を少年へと伝える為に彼が入院している病院へと足を運んでいた。
「‥‥‥‥」
 相変わらず少年は何も言わず、能力者達の顔を一人一人覚えるように見る。
「キメラを退治したからな、その報せにやってきた」
 木場が呟くと少年は何も言わずに俯くだけ。
(「バグアとの戦いが続く限り、このような悲劇は続いていくことだろう。早く戦争を終わらせられれば良いのだが‥‥」)
 やはり子供が表情を、言葉をなくす状況に木場も少しだけ今の時代に怒りを感じたのだろう。
「俺もな、目の前から大切なの居なくなっちゃったことあるよ」
 番が無表情で淡々として呟く。少年もそれをだまって聞いている。
「会いたいって思った、会いに行きたいって思った――そしたらな、ある人が言ったんだ‥‥『生きていればいつか会える』って」
 番は拳を強く握り締めながら言葉を続ける。
「『だからそれまでに、いっぱい思い出っていうお土産を用意しましょう』って――だから、んーと‥‥お父さんと会えた時お互い楽しく笑っていっぱいお話できるように、早く元気出して楽しいお土産いっぱい作って欲しいんだ」
 番の言葉に少年は手が白くなるほどにシーツを握り締める。
「うにゃ〜? どうしたのかにゃ〜?」
 火絵が少年を抱きしめながら問いかける。少年は暴れるでもなくされるがままだったけれど、何処か安心したような、そんな表情だった。
「悲しい時に泣いておかないとダメだよ? でないと後でつらいよ? 悲しい時に泣いて涙が枯れたらお父さんにさよならしようね」
 火絵の言葉に少年は表情を少しだけ歪める。
 そんな様子を見ながら神凪は時間が少年の心を解決してくれる事をひっそりと祈っていた。
(「父親が殺されて間もない‥‥キメラを退治したからと言って彼の心が晴れるわけではない――時間が解決してくれるのを待つしかないんだ」)
 神凪は心の中で呟き、いまだ笑顔を見せない少年を見つめていた。
(「ううん、流石に今のこの状況でテンションあげとか無理みたいですねー」)
 平野は少し残念そうに心の中で呟く。彼も少年の心の傷を抉ってはいけないと病室の壁に寄りかかって少年を見ていた。
「ぁ‥‥ぅ‥‥」
 少年が何か無理に喋ろうとしたとき、それを雪待月が止めた。
「無理に喋らなくても、いいのですよ。声を出したくなった時に、何でもいいから話してみると良いと思うのです」
 雪待月の言葉の後に桂木が少年の頭に軽く手を置いて「今は辛くても、きっと時間が解決してくれると思うから‥‥諦めることだけはしないでくれよ」と言葉を残す。
 その言葉は桂木の心からの言葉であり、偽りも何もなかった。
「ほら、元気出しなよ、これ、あげるからさ」
 皇は『小さなオルゴール』を少年に差し出す。小さな宝石のついたそれを見て少年は薄く笑んだ。
 まるで『ありがとう』と言うかのように‥‥。

 結局、何故キメラが少年を殺さなかったのかははっきりと分からなかった。
 少し大きめの岩場がいくつかあるから、そこに身を隠して助かったのではないかとも言われていたが、少年はあの通りの為、きっとその事が分かるのはまだ先の事だろう。
 何はともあれ、能力者達はキメラを無事に退治して本部へと帰還していったのだった。


END