タイトル:少年・純真との狭間でマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/13 23:41

●オープニング本文


18歳の体に宿るのは10歳の心。

七海 鉄太――彼は8年もの間、ずっと眠り続けていたのだが奇跡的に意識を取り戻した。

そして‥‥厳しいリハビリを終えて彼は今日『傭兵』としての一歩を踏み出す。

※※※

「て、鉄太君!? そ、その姿は――!?」

彼の保護者兼主治医である男性が鉄太の姿を見て驚きに目を見開き、大きな声で叫ぶ。

彼が驚くのも無理はないだろう。

少し明るい茶色の髪、同じ明るい茶色の瞳だった鉄太が――金髪に赤瞳と、別人のように変わっていたのだから。

「な、ななななな何をしてるんだ!」

「せんせいっ、俺って18歳になったからオトナなんだよな? だからオトナの本を買って真似してみたんだ」

鉄太が「じゃんっ」と誇らしげに見せてきたのは――『チャラ男』と大きく文字が書かれた本だった。

(「鉄太‥‥違う、それ違う大人だよ‥‥」)

彼はここで激しく後悔した。

能力者になる――彼の言葉を尊重して最低限の常識は教えたつもりだった。

しかし、肝心なことが鉄太自身に伝わっていなかったのだから。

(「‥‥一緒に行ってくれる能力者達が勘違いしないといいけどなぁ‥‥」)

「せんせい、じゃあ俺行ってくる! 頑張ってればきっとお父さんやお母さんが迎えに来てくれるよね」

鉄太がにぱっと笑って言った言葉に男性は表情を歪めた。

鉄太自身には伝えられていなかったけれど、鉄太の両親はもう既にこの世に存在しないのだ。

目覚めたばかりで状況の変化、自分自身の変化に追いついていなかった鉄太に『両親の死』というツライ事実を教えるのは酷だと考えて、男性は能力者達にも口止めをしていた。

(「まだあの子は――全てを受け入れられるまで成長していない――むしろ、今のこの時代でさえもテレビやアニメの中の『ヒーロー漫画』と区分付けられているかも分からない」)

「せんせっ! いってきまーす!」

(「あの子が今の状況で全てを知ったら――‥‥」)

走っていく鉄太の姿を見ながら、男性は心配そうな表情を見せたのだった。

「今回はキメラ退治――か、無事に終わってくれればいいけど」

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
水無月 蒼依(gb4278
13歳・♀・PN
夜坂柳(gb5130
13歳・♂・FC
雨夜月(gb6285
13歳・♀・GP
夜 珪鳴(gb7377
15歳・♂・DF

●リプレイ本文

―― 大人で子供なんです ――

「こんにちはっ」
 能力者達が集合場所に集まると、既に一人の少年が来ていて能力者達に大きく手を振っている。
 彼の名は七海 鉄太(gz0263)、今回が初めての任務のようで、まるで小学生のようにはしゃいでいるのが分かる。
「初めての依頼‥‥確かにドキドキしたものですわ。無茶をされないと良いのですけど‥‥」
 ロジー・ビィ(ga1031)ははしゃぐ鉄太を見ながら微笑ましそうに、だけど何処か心配するように小さく呟いた。
「‥‥はぁ」
 櫻杜・眞耶(ga8467)は鉄太の姿を見てため息を吐き、その外見とテンションの高さに呆れているようで怒気を含んだ目で鉄太を見ていた。
 もちろん、はしゃいでいる鉄太がそんな彼女の様子に気づく事はなかったけれど。
「‥‥宜しく」
 雪代 蛍(gb3625)は冷めたような視線と『明らかに不機嫌です』という表情で鉄太に挨拶をする。
(「何かムカつく‥‥髪の色とか目の色が同じだからかもしれないけど――とにかくムカつく」)
 雪代は心の中で呟き、ぴょんぴょんと子供のように能力者達の周りを飛び跳ねる姿に再び怒りがこみ上げてきたのだった。
(「鉄太の奴大丈夫かなぁ、今回が初依頼みたいだけど――まぁ、俺達がフォローすれば大丈夫か」)
 篠崎 宗也(gb3875)がはしゃぐ鉄太を見ながらため息混じりに心の中で呟いた。それと同時に『先輩として頑張らないとな』と思いながら鉄太を見た。
「初めまして、鉄太様は初めてキメラを見るわけですね」
 水無月 蒼依(gb4278)が鉄太に話しかけると「うんっ、色んなのがいるって聞いてるけど見るのは初めてなんだ」と言葉を返す。
「どのような形をしていても驚かない方がいいですよ」
「え?」
 水無月の言葉を理解できず、鉄太は首を傾げると「‥‥いえ、何でもありません」と水無月は顔を逸らしながら言葉を返したのだった。
「俺ぁ夜坂柳(gb5130)ってんだ。今日は宜しく頼むぜ♪」
 夜坂が能力者達、そして鉄太に挨拶をすると「俺、てった! よろしくな」と夜坂の手を握り締めてぶんぶんと勢いよく振る。
「俺、悪い奴やっつけるために頑張るっ」
 拳を『ぐ』と握り締めながら鉄太が呟くと雨夜月(gb6285)が鉄太を見て苦笑する。
「悪い奴をやっつけるかぁ‥‥ヒーローもののようには、いかないよね‥‥きっと」
 雨夜月は小さな声で呟くが、初めての任務で舞い上がっているため、彼女の声は届かない。
「そういえば挨拶してなかったっ。俺、てった!」
「あたしは雨夜月です。私もまだまだ新米だけど、よろしくね!」
 軽く握手をして鉄太と雨夜月はお互いににこっと笑った。
「あまりふざけぬ方がいい、いざと言う時に命取りになるぞ」
 夜 珪鳴(gb7377)が鉄太に話しかけると「大丈夫、せんせいからも気をつけるようにって言われてるし」と鉄太は危機感を感じない表情で言葉を返し、夜は少しだけため息を吐いた。
「そういえば本部の方から見取り図を借りることが出来ましたわ。これを使って効率よく依頼をしていきましょうね」
 ロジーが呟きながら見取り図を能力者達に見せ、能力者達は目的地である廃墟へと出発したのだった。


―― 純真ゆえに危険な子供 ――

「あのなっ、俺のお父さんやお母さんは今別な場所にいるんだけど俺が頑張ってたら迎えに来てくれるってせんせいは言ってたんだ――でも本当に来てくれるか心配で‥‥」
 高速艇の中、鉄太が少し寂しそうな表情で呟く。彼が8年間もの間眠り続け、最近になって眼を覚ましたという事は能力者達にも知らされていた。
 だから見た目は18歳の大人に近くても中身はまだ10歳の子供なのだ。当たり前のようにいる親がいなくて寂しいと感じるのも普通なのだろう。
「絶対に迎えに来てくれるぜ!」
 夜坂は屈託のない笑みで鉄太に言葉を返す。
「そか、そうだよなっ。ありがと!」
 そう鉄太は言葉を返して、視界に入ったものに目を奪われる。
「うわぁ、カッコイイなぁ!」
 鉄太の視界に入ったのは雪代のバハムート。やはり男の子なせいかAU−KVに興味があるのだろう。
「そんなに触らないでくれない、あたしの相棒に」
 雪代がはしゃぐ鉄太に言葉を投げ「足手まといにならないでよ」と少しキツイ口調で言葉を付け足した。
「俺‥‥なんかしたかなぁ‥‥もしかして煩かったかなぁ」
 しょんぼりとした鉄太に雪代は足を止めて「鉄太には分からないよ。両親のいない子の気持ちなんて」と鉄太に背中を見せたまま呟く。
「え――「分かってもらおうとも思わないけど」――」
 どうやら鉄太が両親の話をしていた事が彼女の癇に障ったらしい。
「ま、気にすんな。依頼の前だから気が立ってるんだろ」
 篠崎が鉄太の肩をぽんと叩きながら話しかけ、今回扱う銃の手入れを始める。
「そういえば銃を扱うのは今回が初めてだなあ」
 篠崎の言葉に鉄太も『スコーピオン』を覗き込むと「到着したみたいですね」と水無月が呟く。
「俺の初めての任務っ。頑張るぞ」
 意気揚々として高速艇を降りる鉄太を見ながら能力者達は彼がはしゃぎすぎて何か問題を起こさないか一抹の不安を感じずにはいられなかった。

 今回の任務場所、それは過去にキメラによって壊滅させられた町のひとつなのだろう。建物は倒壊して、地面はひび割れ、草木は枯れて人が住んでいるようにも見えなかった。
「まずは、皆さんの動きを見るようにしてくださいね。いきなり飛び出すと危ないですから」
 水無月がきょろきょろと周りを見渡す鉄太に言葉を投げかけると「うん」と聞いているのか聞いていないのか、鉄太は軽く言葉を返した。
「臆するな‥‥迷いとふざけは死を生ず‥‥」
 夜が鉄太に話しかけると「う、うん。気をつける」と鉄太は言葉を返した。
 今回の能力者達は鉄太の事も考慮して前衛、後衛、そして鉄太に着く能力者と三つに分けることにしていた。
 前衛・水無月、雪代、夜、ロジー。
 後衛・櫻杜、篠崎。
 鉄太フォロー・夜坂、雨夜月。
 特に鉄太の方は彼がふらふらと飛び出していかないかをきっちりと見ておく必要がある為に責任重大である。
「さて、さくさくと片付けましょか‥‥」
 櫻杜は鉄太に対して何か言いたげだったが、それを堪えて廃墟内を進む。
「あれなんだろ!」
 鉄太が何かを見つけたらしく突然走り出したのだが、雨夜月が『瞬天速』を使用して鉄太を捕まえて「こらぁ! 何してるの!」と可愛らしく怒った仕草を見せる。
「綺麗な花が咲いてるから、せんせいに持って帰ろうかなって」
 鉄太はほにゃりと笑い、道端に咲いた小さな花を指差す。
「もう、勝手に走っていかないの! 先輩たちの言う事は、聞くものなんだからね!」
 雨夜月の言葉に「ごめんなさい」としょんぼりとしながら謝る。
 その時だった、廃墟の奥から一人の子供が姿を現した。
「あ―――っ」
 危ない、鉄太が言いかけたのだが雨夜月が彼の前に手を伸ばして子供に近寄らないように遮る。
「な、何すんの‥‥あんな所にいたら危ないじゃんか」
 鉄太が雨夜月を見ると「鉄太、外見に騙されてはいけませんわ!」とロジーの声が鉄太の耳に入る。
 ロジーの言葉の直後、子供型キメラは手に持っていたナイフで能力者達に攻撃を仕掛けてくる。
「え――‥‥」
 鉄太は驚いたようにきょとんとして攻撃してくるキメラをジッと見ることしか出来なかった。
 ロジーはキメラが投げてくるナイフを二刀小太刀『花鳥風月』で捌きながら少しずつキメラとの距離を詰めていく。
「子供の遊び道具にゃ、そんな獲物は少し似合わないねぇ?」
 櫻杜は呟きながら拳銃『黒猫』で攻撃を仕掛け、キメラの攻撃を防ぐ。
「お、俺も頑張らなくちゃ‥‥」
 鉄太が呟いた時「まぁ、精々頑張れば? 期待なんてしてないけど」と雪代が言葉を残してバハムートを繰りながらキメラへと近づく。
「俺も子供みたいな外見だからって容赦しないぜ!」
 篠崎がキメラの両手を狙って『スコーピオン』で攻撃を仕掛ける。容赦しない、と彼は言っているけれどその心の中では多少の罪悪感は感じているようだ。
「問答無用、ですか。此方としてもやりやすいですね」
 苦笑しながら水無月がキメラに向かって駆け出し、その間にもキメラはナイフで攻撃を仕掛けてくるのだが――『バックラー』で攻撃を防御して『円閃』と『二連撃』を繰り出して攻撃を行う。
「予想通りというか事ですか。流石に、ここで油断してるようでは話になりませんね」
 再び攻撃を繰り出しながら水無月は「見た目で惑わそうとしても無駄です」と言葉を付け足す。
「あぶねぇ!!」
 夜坂は『迅雷』を使用して鉄太に向かって飛んでいくナイフを代わりに受ける。そして『刹那』を繰り出してキメラへと攻撃を行い、キメラは枯れている木へと叩きつけられる。
「大丈夫!?」
 雨夜月はカタカタと小刻みに震えている鉄太を物陰に隠しながら、キメラの攻撃をやり過ごして鉄太に話しかける。
「あ、う、うん」
「‥‥あんな姿をしてるけれど、キメラなの。どうか、姿形に惑わされないで」
「で、でもあいつ子供だしっ」
「目に映るものが全てじゃない。あの子――キメラがあなたに、あたしにしている事は何?」
 雨夜月の言葉に鉄太は俯く。
「だから言ったろう、臆するな、と」
 夜が呟き、キメラの前へと立ち「汝が相手はこの我よ‥‥」と重爪『ガント』でキメラを攻撃する。その際に『流し斬り』を使用して攻撃を行い、キメラは何度も能力者達の攻撃を身に受けて既に限界が近かった。
「何をしてるんだか‥‥あたしはキメラなんかに躊躇しない」
 雪代は鉄太を見て、眉を顰めながら小さく独り言を言う。
「最初に戦った時は無茶してた、自分の力量なんて考えないで‥‥一人で戦うつもりだったし、一人だと思ってた――」
 その時、雪代の頭の中には両親の事などいなくなってしまえ――と思ってしまった過去の自分がいた。
(「何余計なこと考えてるんだろ」)
 雪代はキメラのナイフを弾きながら心の中で呟き、キメラの至近距離から『照明銃』を発砲する。そしてその出来事にひるんだキメラに雪代は『龍の咆哮』を使用する。
 そして再びキメラはナイフを投げようと構えるけれど、ロジーの『ソニックブーム』によってナイフを落とさせることに成功した。
「これで終わりですの‥‥っ!」
 ロジーは『流し斬り』と『紅蓮衝撃』を使用しながら攻撃をしかけ、キメラは避ける事も出来ずにまともにロジーの攻撃を受けてしまう。
 その後、能力者達はキメラにトドメを刺すためにそれぞれ攻撃を行い、鉄太にとって初めての任務は少し何かもやもやした何かが残る結末となったのだった。


―― 初めての任務を終えて ――

 能力者達はキメラを退治した後、それぞれ傷の手当をしていた。お世辞にも強いキメラとはいえなかったけれど、能力者達は多少なりとも傷を受けていたのだ。
「‥‥子供みたいなキメラもいるんだ‥‥」
 しょんぼりとして鉄太は予想もしていなかった敵、そして勇んできたはずなのに何も出来なかった――怖くて出来なかった自分を恥じて涙を流した。
「鉄太‥‥バグアは此方が攻撃しにくい対象をキメラとしますの」
 ロジーが鉄太を慰めるように話しかけると「‥‥うん」と俯きながら鉄太は言葉を返す。
「ですから‥‥そんなに落ち込まないで。でないと、今後、能力者としてやっていけませんわ」
 ロジーはにっこりと穏やかに笑みながら「鉄太はそんなに弱い子じゃありませんわよね」と優しく言葉を付け足す。
(「‥‥馬鹿みたいに子供っぽくて、すぐに落ち込んで――ああいうお兄ちゃんが欲しかった‥‥って何考えてるの。鉄太はただの子供じゃない」)
 雪代は頭を振り、心の中で自分の考えを否定する。
「初依頼はどうだった――って聞くまでもないか。まぁ、いきなり子供型のキメラじゃ罪悪感わくよな」
 篠崎もため息混じりに呟くと「何もできなかった、おれ」と鉄太はしょんぼりを寂しそうに呟く。
「まぁ、気にするなって。俺も少しは罪悪感持ってるんだけどな‥‥でも気にしてたらこの先やっていけないぜ」
 篠崎の言葉に「そうですね」と水無月も首を縦に振りながら呟く。
「‥‥見た目で戸惑う事があるのは当然です。慣れろ、というのは酷な言い方ですから‥‥急ぐ必要はありません。ゆっくり勉強していけばいいですわ」
 水無月の言葉に「お父さんとお母さん、がっかりしたかなぁ‥‥迎えに来てくれるかなぁ」と拳を強く握り締めながら泣きそうな声で呟く。
「大丈夫だって、鉄太は今回が初めての依頼なんだから。一回ですぐに何でもやれる奴なんてそんなにいないんだからさ」
 夜坂の言葉に「うん、ありがと‥‥」と鉄太は乱暴に服の袖で涙を拭う。
「今度は依頼抜きで遊べたらいいな♪」
 夜坂の言葉に「おれ、サッカーしたい」と笑って言葉を返したのだった。
「みんな、お疲れ様‥‥共闘出来た事有難く思う。我も得るモノが多かった‥‥」
 夜は能力者達に軽く頭を下げて今回一緒に出来た事を感謝する言葉を投げかけた。
 その後、帰りの高速艇の中で「怪我はない?」「疲れた?」とまるでお姉さんのように振舞う雨夜月の姿があって、他の能力者達を和ませたのだとか‥‥。


END