●リプレイ本文
―― もやし、現る ――
「今回も宜しくさせてあげるわ」
お前は何様だ、と言いたいくらいの態度でキリーが能力者達の前に現れた。
「今日もお姉ちゃんと遊ぶのにゃー」
白虎(
ga9191)が呟くと「何で私が遊んであげないといけないのよ」と毒舌で言葉を返すが、何度も面識のある白虎にとって毒舌は意味を成さなかった。
「今回のキメラは森の中か――「挨拶も出来ないの?」――は?」
アレイ・シュナイダー(
gb0936)が資料を見て、今回の任務を確認していると「礼儀がなってないわね」とキリーから罵られる。
「えっと、宜しく――「言われてからなら猿でも出来るわよ」――俺にどうしろと‥‥」
挨拶をしても罵られ、アレイは引きつった笑みを見せながら言葉を返す。
「キルメリアさん、久しぶりだね」
仮染 勇輝(
gb1239)が話しかけると「別にキリーでいいわよ」と彼女は言葉を返す。
だが、ここで忘れてはならない。彼女は『あの』キリーなのだ。最初から『キリー』と呼んでいたらきっと『馴れ馴れしいわよ』とでも言うつもりだったのだろう。
「そっちのアンタは何にやにやしてるのよ、変態」
鳳覚羅(
gb3095)に話しかけると「はは、よく言われるよ」と苦笑しながら彼はキリーの毒舌を避ける。
「そう、じゃああんたはこれから変態と名乗るがいいわ。変態」
へっ、と何処ぞの芸人のような事を言いながら楽しそうに次の能力者へとキリーは話しかけに行く。
「綺麗な髪ね、あんたの心とは正反対だわ」
ソフィリア・エクセル(
gb4220)の髪を見ながらキリーが言葉を掛けた。後からの言葉はともかくキリーが褒めるとは珍しい事なので、彼女を知る能力者達は少しだけ驚いた表情をした。
「ありがとうございます、もやしさんの髪もきれ――「当たり前でしょ、あんたと違って私はまだ若いのよ」――‥‥」
キリーの言葉を聞いてソフィリアは少し(かなり)黒い笑顔で言葉を返す。
「やっほ〜、今回も宜しくね」
神咲 刹那(
gb5472)が呟くと「宜しくしたくないわよ、たわけ」とキリーが言葉を返す――のだが。
「そうそう、あんまり悪戯しちゃダメだよ〜。キリーは可愛いんだから、悪戯してると逆に興味を持ってるって思われちゃうぞ〜」
神咲がにこにこと笑顔で話しかけるのだが‥‥。
「私が可愛いのは否定しないわ」
キリーはふんぞり返りながら言葉を返す。
「そこのアンタ! 自己紹介すら満足に出来ないの? ボケ」
キリーは冴木美雲(
gb5758)をびしっと指差しながら話しかける。
「あ、すいません。聞かれなかったので忘れてました」
目を瞬かせながら冴木が言葉を返すと「これだから常識知らない奴って困るのよね」と仮染に頭突きをしながらキリーが言葉を返す。
ちなみに仮染は『先手必勝』を使ってキリーの攻撃は避ける事が出来たが、二撃目の鳩尾突きを避けきれずにその場に蹲った。
「だめですよ、仲間を攻撃しちゃ――きゃあっ」
冴木はキリーに駆け寄ろうとしたけれど、何もない所で躓いてキリーに頭突きを食らわす事になった。
「‥‥あ、ごめんなさいっ」
「‥‥‥‥私に対する宣戦布告なワケね」
ごごごご、とキリーは怒りの炎を背景に纏わせながら言葉を返す。
(「今回はな〜んかありそうやなぁ‥‥」)
キヨシ(
gb5991)が心の中で呟く。その『何か』がキメラ退治以外のような気がしてキヨシは『無事に終わればええけど』とため息を吐きながら心の中で思ったのだった。
―― 総帥に青い春の風が吹く? ――
「そういえば白虎さんはもやしさんの任務には必ずと言って良いほど参加されてますわね。もやしさんが好きなのですか?」
ソフィリアが直球で問いかける。
「にゃっ! ちょ! まて! にゃー! まつにゃー!」
何でそうなるにゃー、と白虎が動揺をモロに見せながら言葉を返す。彼が驚くのも無理はないだろう。彼は今まで『しっと団総帥』として桃色空間を悉く破壊してきたのだから。
「照れなくても良いですわ、自分の気持ちには素直になった方が良いですわよ」
うんうん、と頷きながらソフィリアが白虎を完全無視して話を進めていく。
「何だ、そうだったんだね〜。大丈夫、僕は応援するから」
神咲が笑いを堪えながら白虎の肩をポンと叩いて呟く。
「ほぅ、そうだったのか。安心しろ、誰もお前の邪魔はしない」
アレイも納得したように呟くのだが「あばばばばば!」と白虎は現在復活不能のエラーに見舞われている。どうやら彼にとって初めてとも言える桃色路線に頭の中の配線が切れてしまったのか明らかに行動がおかしい。
「‥‥‥‥」
能力者達はキリーには聞かれないように白虎を弄‥‥恋の応援をしており、自分だけを除け者にされたようでキリーの怒りは爆発寸前だ。
「殺気! キメラか!」
鳳が殺気を感じて竜斬斧『ベオウルフ』を持ったまま勢い良く後ろを振り向く――もちろん斧も一緒に旋回するのは自然の摂理なわけで。
「えええ!」
斧は仮染へ襲い掛かり、彼は『雲隠』でギリギリ斧を受け止めるが勢いがついた事もあって抑えきれず、少し離れた木の所まで吹っ飛んで気絶してしまう。
「仮染君! 誰がこんな酷い事を! バグアの仕業か!」
鳳はまさか自分で吹っ飛ばしたとは夢にも思ってないらしく、仮染へと駆け寄って「大丈夫ですか」と声をかける。
「お、お‥‥」
まるでダイイングメッセージのように仮染が犯人の名前を告げようとするが、最後まで言う事なく息絶える(気絶だが)。
「私を除け者にするなんて‥‥」
キリーは落ちていた石を能力者達に向けて投げつけるが、エラーで再起不能となっている白虎へと命中する。
「おやおや、キリーは彼にご執心かぁ。まぁ、年齢的にもお似合いかな?」
「は? 何一人で電波な事言ってるの?」
今までの会話を聞いていないキリーは神咲の言葉の意味が分からず「暑さで脳みそ腐る奴もいるのよね」とため息混じりに呟く。
「お二人は危ないですから、少し後ろから来て下さいね」
さらりとソフィリアは白虎とキリーを後方へと追いやり、後方が桃色ゾーンに侵食されていく。
「これは陰謀だー孔明の罠だー!」
白虎は叫ぶが「煩いわよ」とキリーからビンタされて「違うのにゃ! こういうのは望んでないのにゃ!」とエラーが続行する。
「お姉ちゃんをしっと団にスカウトしようと思っただけなのにゃー!」
白虎は叫び続けるが、実際は上級生のお姉さんにトキメクお年頃なワケで、年齢が邪魔して素直に言えるはずもない。
「ふむ、そろそろキメラが現れる頃かな」
アレイが呟きながら周りを見渡す。あれだけ大騒ぎしていれば、嫌でもキメラが気づくだろう。
「なぁ、アレって今回のキメラなん?」
キヨシが苦笑しながら前方に立つ女性型キメラを指差す。他の能力者達も釣られるように前方を見る。
「!?」
そして一気に視線をキリーへと集中させ、再びキメラを見る。能力者達が驚くのも無理はない。キメラの外見、それは年齢こそ違うけれどキリーを真似たのではないかと言える程にキリーと酷似していたのだから。
「‥‥似ているが、躊躇う理由にはならないな。だってキメラだから」
アレイは呟くと『デヴァステイター』を構えて照準を合わせる。
「‥‥あまり俺を怒らせるなよ‥‥」
いつの間にか復活していた仮染は覚醒を行っても黒髪のまま『雲隠』と『氷雨』を構える。キリーに似ているという事が彼を怒らせているのだろう。
「ほらぁ。働き蜂のようにさっさと働きなさいよ、報酬泥棒」
後方から野次だけを飛ばしてくるキリーに「‥‥大人しく、しててね‥‥?」と爽やか笑顔で鳳が言葉を返す。
「ぼ、ぼくも行くにゃ! こうなったら一刻も早く仕事を終わらせるしかぬぁい!」
桃色ゾーンから脱出を図ろうとする白虎だったが、神咲がにっこりと笑って後ろを向く。
「あ〜白虎君、キミが前に出る必要はないよ。キリーと一緒に後ろにいてもらって、じっくりと楽しんでいるといいよ」
眩しすぎる笑顔で前衛に来ようとする白虎を押さえ、後ろへとターンさせる。再び白虎にエラーが出現したのだった。
「ちょっと! ちゃんと倒しなさいよ!」
後ろから野次を飛ばすキリーに「はい?」と冴木が長弓を構えたまま後ろを振り返り、手が滑ってそのまま矢を放ってしまう。放たれた矢はキリーの頬を掠め、一筋の赤い線を作る。
「にゃー!! お姉ちゃんに何て事するのにゃ!」
何故か白虎がハンマーを投げてキリーを庇う。その姿を見て、他の能力者達は微笑ましく(面白おかしく)見守っている。
「ち、違うにゃ! しっと団の活動の一環にゃ!」
ちなみに今の行動に『しっと団の活動』はない。むしろ『俺のオンナに手ェ出すんじゃねえYO☆』的なノリだった。
そして、ここまで能力者達は桃色ばかり気にしてキメラを相手にしていなかった。そのせいかキリーに似たキメラは少し怒りを露にして能力者達に攻撃を仕掛けてくる。
(「へぇ、怒った顔も似とるなぁ。キメラの方が大人っぽくてええけどねぇ」)
キヨシが向かってくるキメラの感想を心の中で呟くと「そんなに女に餓えてるわけ? キメラの乳なんか凝視しちゃって」と後ろからキリーが野次を飛ばしてくる。
ちなみにキヨシはキメラの胸を凝視してはいない。
(「ここは相手したらあかん。相手したら調子に乗るだけやからな」)
キヨシは自分に言い聞かせて『クルメタルP−38』をキメラに向けて構える。
「動いているせいか、頭が狙いにくいな‥‥」
ため息混じりにアレイはキメラの頭を、むしろ頭ばかりを狙う。キメラが相手なのだからと言ってはいるが、キリーに似ているから遠慮もなく頭ばかりを狙っているのではないだろうか‥‥とさえ思えてくる。
「む、前に出てくるなと言われているはずだが‥‥」
こそこそと前衛に出てこようとする白虎を発見してアレイが首根っこを持って、後ろにポイする。何故か白虎は今回の任務で『しっと団総帥』としての威厳も何もかもを失いそうな気がするのは果たして気のせいなのだろうか。
能力者達の攻撃を受け、キメラはよろけて仮染に抱きつく形になってしまう。その時、仮染は凄く不愉快そうな表情へと顔を歪めて「好きな女以外に抱かれたくはねぇな」と呟き小銃『S−01』でキメラの顎を狙って発砲するのだが、キメラはそれを寸での所で避け、彼の放った弾丸はキメラの肩を貫通した。
「早く退治しなさいよー!」
何もしない、大事な事なのでもう一度言おう、何もしないキリーが後ろから野次だけを飛ばし続ける。
(「まだ野次だけなら優しいものだ、うん、邪魔さえしてくれなければ」)
鳳は笑顔を顔に貼り付けたまま機械剣『莫邪宝剣』を構えて『流し斬り』を使用しながら攻撃を行う。
「ふふ、暴れられると余計に手元が狂いそうですわ」
ソフィリアは黒い笑顔を浮かべたまま洋弓『メルクリウス』で攻撃を行った。
「いつも通り後ろに攻撃は行かせないよ、さって‥‥微妙にキリーに似てる気がするけど‥‥キリーはそんなにスタイル良くない。そして、おっきくなったキリーにそんなに魅力はないんだああああっ!」
叫びながら神咲が攻撃を仕掛けるのだが、着地したと同時に石が次々に彼を襲う。
「私だってあと5年もすれば立派な乳に育つし、スタイルだってボンキュボンになるんだから!」
石攻撃を続けながらキリーは叫ぶが、負け犬の遠吠えにしか聞こえない能力者達は右から左に言葉を流す事にした。
「キルメリアさん! 危ない!」
キメラが攻撃する際に武器として使っていた鞭から手を放してしまい、鞭そのものがキリーと白虎のいる場所へと飛んでいく。冴木は長弓を使って鞭の軌道を変えようとしたのだが、矢は鞭ではなくキリー達に向かって飛んでいく。
「ええええええ!」
「にゃー! 何なのにゃー!」
矢が次々に飛んでくるのでキリーと白虎は立っている場所を移動し、そのおかげで鞭がぶつからずに済んだのだけれど‥‥。
「あんたねぇ! こんな遠回しな助け方しなくても口で言えっつーの!」
しかし、冴木にとっては『ありがとう、助かったわ』にしか聞こえないようで「ご無事で何よりです」と満面の笑顔を二人に向ける。
「とりあえず、お前は邪魔――という事だな」
アレイが『デヴァステイター』で攻撃を仕掛けると、見事キメラの頭にヒットしてそのままバタリと倒れ、そのまま起き上がってくる事はなかった。
「キルメリアさんに似てたけど、何だかスッキリしました」
冴木は悪気はないのだろうが、天然な発言をしてキリーの怒りボルテージが上昇したのだった。
―― 皆から祝福される初恋の彼 ――
「さて、戦闘中に色々としてくれましたわね。もやしさん」
ズゴゴ、と黒い笑顔でソフィリアがキリーに話しかけるのだが、その間に白虎が入ってくる。
「このままでは、もやしお姉ちゃんの命が危ないっ!」
その姿を見て「やっぱりラヴなんじゃないですか♪」とソフィリアは満面の笑みで応える。
「ぼ、僕が勝つ前に他の人に倒されたら困るだけにゃー!!」
そう叫びながら白虎は照れ隠しで逃げようとするのだが、アレイが前に立ちふさがり、神咲から首根っこをつかまれてキリーの所へと運ばれた。
「そうだ、漫画の懸賞に外れたって聞いたので‥‥」
仮染が『イエローロータス』と『ヤドリギの腕輪』をキリーに差し出しながら話しかける。
「‥‥有難くもらってあげるわ――ヤドリギ?」
キリーが「やっぱりロリコンなのね」と哀れみをこめた視線で仮染を見てため息を吐いたのだった。
「キリー‥‥どうせやるなら相手の精神を折るくらいの事はやらないと」
鳳が何故かブラックな人に見える口調で呟き、キリーにこれからの悪戯方針を指導していく。明らかにこれは更正じゃなく悪化の道を辿る事だろう。
その隣で白虎は「にゃーにゃー」とエラー続行中で叫び続けている。
「‥‥何してンのよ、あんたは」
それを見たキリーがため息混じりに呟くと「まぁ、経験のないお二人ですし‥‥ムキになって否定なさるのも分かりますわ」とソフィリアが答えた。
「フ〜、終わったぁ‥‥にしてもこっちの方が大変な事になってるなぁ‥‥」
キヨシは能力者達を見ながら呟く。ある意味、何故か今回はキメラ退治という任務が薄く感じられたのはきっと気のせいではない。
「白虎」
キリーに呼ばれて、白虎が彼女の方を向いた時、キリーが白虎の頬に軽く『ちゅう』をした。
「な、な、何するにゃー! こんな桃色ボクは望んでないにゃー!」
叫ぶ白虎を見て「ふふん、嬉しいくせに」とキリーは言葉を返す。意外とまんざらでもないのか――と思った能力者達だったが。
(「こうすればしっと団総帥としての立場はどうなるのかしらね、面白い、実に面白すぎるわ! ‥‥まぁ、白虎の事はキライじゃないけど」)
こんな事をキリーが思っている事に気づく者は誰もいなかったのだった。
END