●リプレイ本文
―― 最後の記者活動 ――
「こんにちは、今回は宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げながら室生 舞(gz0140)が自分の護衛をしてくれる能力者達に挨拶をした。その表情には最近では見られなかった笑顔があり、能力者達は少し安堵した。
「‥‥落ち着いたようですね?」
神無月 紫翠(
ga0243)が問いかけると「はい」と苦笑しながら舞は言葉を返す。
「前にも言ったように心が決まったなら後は従えばいい。元々、俺がどうこう言うもんでもないけどな」
ゲシュペンスト(
ga5579)が帽子を被りなおしながら話しかける。
「最初から上手くいくとは思えませんケド、ボク――頑張ります」
言葉そのものは小さく、弱々しいものだったけれど舞の表情には強い決意が込められており生半可な覚悟ではない事を彼は理解した。
(「一抹の光が見え始めた今が‥‥一番キツいんですよね」)
櫻杜・眞耶(
ga8467)が心の中で呟く。彼女も舞同様に大切な者を奪われた過去がある。痛みを知っているからこそ彼女は舞に言葉を掛けようとはしなかった。
「こんにちわ、舞さん。答え‥‥見つかったみたいだね」
椎野 のぞみ(
ga8736)が舞に話しかける。その表情はいつもと違った微笑みで安心するような穏やかなものだった。
「はい‥‥悩みぬいた結果ですから、頑張ります」
舞の言葉に椎野は「うん、ボクも応援してるから」と言葉を返したのだった。
「今回は舞さんの最後の仕事ですからね、悔いが残らないように終わらせましょう」
レイン・シュトラウド(
ga9279)が呟くと「ありがとうございます」と笑顔で言葉を返した。
「舞さんには、やっぱり笑顔が一番似合いますよ」
舞の笑顔を見てレインがポツリと呟き「え」と舞は少し顔を赤くする。
「あの、ボク――‥‥「もう、大丈夫みたいだな」――‥‥」
突然、頭をくしゃりと撫でられて驚いたように舞が振り返ると痛々しい傷を負った朔月(
gb1440)がニッコリと笑って見ていた。
「あ、怪我――大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だ、それよりもう、ハルの生きた時間を否定する事だけはすんなよ?」
朔月の言葉に舞は少し表情を沈ませた後、無言で首を縦に振る。
その様子を見ながら「舞さんが、オペレーター‥‥か」とクリス・フレイシア(
gb2547)がポツリと呟いていた。
「こんにちは、クリスさん。今日は宜しくお願いします」
舞がクリスを見つけて駆け寄って頭を軽く下げる。
「次に会う時は、目上になるかもしれないんだな‥‥貫通弾、キミに使う事がなくて残念だ」
クリスは皮肉っぽく呟くが、舞は彼女なりの励ましなのだろうという事を理解しており「ボクも残念です」とバッグから一冊のノートを取り出してクリスに見せる。表紙部分に『恨☆日記』と書かれており、その中には舞の恨みつらみがびっしりと書かれている。
「‥‥‥‥‥」
クリスは表情にこそ出さなかったけれど、心の中では爽やかな笑顔で言い放つ舞が少し怖くなったのだとか‥‥。
「初めまして、君が舞さん?」
結城悠璃(
gb6689)に話しかけられ「はい。そうですけど」と言葉を返す。その後に結城はジッと舞を見てにっこりと笑う。
「‥‥良い目をしてるね。今の自分に出来る事を、精一杯やろうと決めた目」
僕も頑張らないと、結城は短く言葉を付け足す。
そして、挨拶を終えた能力者達は舞の最後の記者活動を成功させるべく、目的地へと出発していったのだった。
―― バルバトスの出現 ――
「おや、何をしてるんです?」
高速艇での移動中、ゲシュペンストがクイーンズのバックナンバー、そして舞が関わった過去の報告書に目を通していると神無月が話しかけてくる。
「あの子は元々どんな子だったのかと思ってな」
彼は既に暴走している所の舞しか知らない、それまでどんな子だったのかと思って過去の報告書を読んでいたのだ。
「そういえば、今回のキメラの姿形はソロモン72柱が一つバルバトスか‥‥今回の取材を持ちかけた奴は悪魔学にも詳しいのかい?」
ゲシュペンストが呟くと「どういう意味ですか?」と話を聞いていた舞が首を傾げながら問いかける。
「バルバトスは過去と未来をよく知り、友情を回復する力を持つとも言う‥‥偶然にしては‥‥って思うのは考えすぎかね?」
ゲシュペンストの言葉を聞いて「そう、なんですか‥‥」と舞は小さな声で呟く。もしかしたらマリもそれを考えて取材をまわしてくれたのかもしれない、そう思うと嬉しさが彼女の中に渦巻く。
「‥‥ただ、場所は海ですか? ‥‥足場は悪いですから‥‥注意ですね」
神無月が資料に目を通しながらポツリと呟いた。
「朔は怪我してるんだから無茶しないように」
念押しのように櫻杜が朔月に話しかけると「分かってるって」と朔月から軽い言葉が返ってくる。
そうしている間に高速艇は目的地へと到着して、能力者達は高速艇から降りて徒歩でキメラがいるとされている海へと向かったのだった。
「あ、もしかして‥‥アレでしょうか‥‥」
波の音が聞こえる程に海岸部分へと近づくと、明らかに海には不釣合いな狩人の格好をしている人間――のようなモノを発見する。
今回は海――と比較的見晴らしの良い場所で敵を発見する事に苦労はなかった。勿論発見で任務が終わるわけではないので、油断は許されないのだけれど‥‥。
「俺と舞は此処までだな」
朔月が歩く舞を止めて「此処から分かる事は『トランシーバー』で連絡する」と戦闘を行う能力者達に告げる。
「あの‥‥気をつけて下さい、怪我はしないで下さいね‥‥」
やはり心配なのか舞が眉を下げながら能力者達に話しかける。
「大丈夫です、舞さん達も気をつけてね。離れてるけど、何があるか分からないから」
結城の言葉に「‥‥はい」と舞は言葉を返す。
「舞さん、最後の記事を書くためにもちゃんと取材してね」
椎野が言葉を残し、他の能力者達と共にキメラがいる場所へと向かっていった。
「悪魔退治は小説の中だけだと思ってましたけどね」
キメラを見ながらレインが苦笑気味に呟く。
「援護はしてやるが、威力は、当てにするな」
神無月は覚醒を行いながら『魔創の弓』を構える。
今回の能力者達は重傷を負った朔月と舞に攻撃が行かないよう、そしてキメラを確実に倒せるようにと作戦を立てていた。
陣形は狙撃班が一人ずつ左右に行く、この時に敵の左右ではなくあくまで敵を前面に見るような形で左右に離れる。そしてその少し後ろ、狙撃班2人の間に位置する場所に前衛班A、そして更に後ろ、前衛班を挟んで狙撃班の真後ろ辺りに前衛班B、最後に距離はあるけれど敵の真正面にもう一人狙撃者を置く――朔月と舞は更に後ろ、とそれぞれ固まってではなく離れて行動する作戦になっていた。
「悪魔さん、お呼ばれもしてないのに出てきちゃダメですよ」
椎野が『バスタードソード』を構えてキメラをじろりと見やりながら呟く。
そしてレインは『照明銃』を使うためのタイミングを計って、伏せ撃ちの格好でその時を待つ。タイミングを外してしまえば逆効果にしかならないのが彼にも分かっている為、より慎重になる。
(「しかし暑いな‥‥まぁ、基本的に僕はこの格好だけど」)
クリスは海水浴日和のこの天気と空から照りつける太陽を少しだけ恨みながら指定位置に着く。彼女の格好、デザート仕様の迷彩服であり、普通に「暑くない?」と聞きたくなる程。
「皆さん、5秒後に『照明銃』を使用します」
レインが『トランシーバー』で能力者達に告げると能力者達はサッと身構える。そして『トランシーバー』越しにカウントが始まり、能力者達は踏み込む準備を行う。
カウントがゼロになるとレインがキメラに対して『照明銃』を使用して、それがキメラの目潰しとなり、能力者達は同時にキメラへと駆け寄る。
一方、突然の事で視界を奪われたキメラは闇雲に矢を放つ。その矢は不規則に能力者達へと飛んできて避けられずに傷を負う者もいたが、立ち止まる事なくそれぞれ攻撃を仕掛ける。
「いくら、視界が奪われても、弓の使い方がなってないな‥‥」
神無月は『鋭覚狙撃』と『影撃ち』を使用しながらキメラを狙い撃つ。視界が奪われているキメラは神無月の攻撃を避ける事など出来ずに、彼の攻撃を受けてそのままよろける。
「まずはその右腕を頂く、武器が弓だけならそれで仕舞いだ!」
ゲシュペンストはレインが『照明銃』を使用すると同時に『瞬天速』を使用してキメラとの距離を一気に詰める。その際に小銃『S−01』で牽制攻撃をしながら距離を詰めたので、キメラからの攻撃はなかった。
「一気に行く! 出し惜しみはなしだ!!!」
ゲシュペンストは『ガンドルフ』を装備した両手を振り上げて『急所突き』を使用してキメラに攻撃を仕掛ける。
「私も全力で行くよ! 悪魔さん、早く地獄に行って!」
椎野も『バスタードソード』を振り回しながらキメラへ攻撃を仕掛ける。言葉どおり彼女は全力――『先手必勝』と『紅蓮衝撃』を使用しながらだ。
「貴方に相応しいのは海じゃなく地獄――早く消えて」
椎野が呟き、キメラは再び闇雲に攻撃を始める。その矢のうちの一本がレインへと向かったのだが『【OR】スナイパーライフル luna cinericia 改』で攻撃を行い、矢を撃破する。
「射撃は得意ですから‥‥それに――」
レインは呟き、キメラが朔月と舞を狙おうとしている事に気づいて「きみの相手はそっちじゃない。こっちですよ」と呟いてキメラに攻撃を仕掛ける。
「ふむ、弱い者、戦えぬ者を狙うとは卑劣だな。流石はキメラだ」
クリスは『アンチマテリアルライフル』を構えて攻撃を行いながら低く呟く。彼女は扱いが難しいとされる武器でキメラの上半身を集中的に狙って攻撃を行った。そのせいか片腕を落とされ、集中攻撃を受けるキメラに残された攻撃方法など何一つなかった。
「残った腕、頂きます!」
結城は大きく叫びながら『【OR】陽炎』を構えて『瞬天速』で距離を詰めて、攻撃を仕掛けようとしたのだけれど――残った腕で結城に掴みかかろうとする。恐らく音で大体の位置を掴まれてしまったのだろう。
だけど‥‥。
「その動きは、予測のうちです! 奔れ‥‥瞬影!!」
結城はキメラの攻撃を避けながら言葉を投げかけ『瞬天速』と『二連撃』を使用して攻撃を行い、追撃として『急所突き』で攻撃を行う。
能力者達の総攻撃を受け、キメラは立っていられなくなり、砂浜の上にがくりと膝をつく。
「公爵様には悪いけど、私も海や水場は得意なんだよ!」
櫻杜が叫び『紅』と『氷雨』でキメラを攻撃してトドメを刺したのだった。
―― キメラ退治を終えて ――
「舞、大丈夫か?」
戦闘が終了した後、朔月が舞へと話しかける。彼女は戦闘中、舞が危険な目に合わないようにと注意してくれていた。
「はい、大丈夫です。それよりも皆さんが‥‥」
舞は小さく呟く。遠目でも分かる能力者達の疲弊に表情を歪ませて駆け寄ろうとしたが、朔月に腕を掴まれて止められてしまう。
「俺は舞が1人の人間として、大好きだよ」
朔月の言葉にポカンとしながら舞は「え」と言葉に詰まる。
「ちなみに、俺は‥‥恋愛感情込みで舞の事が好きだよ♪」
朔月の言葉に舞は目を丸く見開いて驚く。そして。
「あの、嬉しいですけど‥‥ボクは好きな人がいます」
そう呟いて舞は能力者達へと視線を移す。その言葉で朔月は舞が誰に好意を寄せているのか分かったのだろう。
「朔月さんにだけ教えますね、ボクの好きな人は‥‥」
告げられた朔月は「そっか」と言葉を返し「早く行こうぜ」と舞の手を引っ張って能力者達の所へと向かったのだった。
「えと、知ってる方もいらっしゃるでしょうが‥‥ボクは今後、オペレーターとして活動する事に決めました。だから記者は今回で最後なんです。ありがとうございましたっ」
頭を下げながら礼を言う舞に神無月が優しく話しかける。
「やりたい事が‥‥見つかりましたか‥‥自分で選んだ道なんですから‥‥どんなにつらくても‥‥頑張るんですよ‥‥」
神無月の言葉に「はいっ」と言葉を返した。
「これは私の経験からなのですが‥‥この世界には素敵なものが沢山ありますよ。どうか、ハルさんと一緒に見てくださいな」
櫻杜が舞の手を握り締めながら呟くと「いいえ」と舞は言葉を返した。
「ハルを忘れる訳じゃありません、だけど――ハルに縛られるのは止めようと思うんです。忘れるなんて出来ないけど、これからはボクらしく生きようと思います」
そう呟く舞の姿は何処か自信に満ちていて、櫻杜は言葉を返す事が出来なかった。
「舞さんがオペレーターになるって事は、ボク達を依頼伝達とかで後ろから守ってくれる人たち‥‥舞さん! これからも宜しくね!」
椎野が握手を求めるように手を差し出しながら言葉を投げかけると「はい、此方こそ宜しくお願いします」と舞も手を差し出したのだった。
「そうだ、これよかったら‥‥」
椎野が差し出したのはオペレーター姿の舞を象った可愛い人形だった。
「ありがとうございます、大事にしますね!」
舞がお礼を言うと「今後は本部で会う事が多くなりそうですね」とレインが声をかけてきた。
(「流石にまだ、話せませんよね‥‥」)
レインは心の中で呟き、苦笑していると「どうかしましたか?」と舞が首を傾げながら言葉を返してくる。
「いいえ、何でもないです。これからも頑張ってくださいね」
レインが呟くと「はい」と舞は言葉を返す。
「君なりの戦い方、見つかったようだな。君の選んだ、立派な道だ。簡単にはなれぬ、険しい道だ。期待しておいてやる、それなりにな‥‥」
クリスが呟くが、舞は笑って「はい」と言葉を返す。皮肉に聞こえる言葉の中に見え隠れする優しさに舞は笑うしかなかったのだ。
「‥‥それと‥‥僕の事、日記に書いてたりしないよね?」
クリスの言葉にきょとんとした表情を舞が見せて、その後。
「まだ、書いてないですよ」
まだの部分を強調しながら舞は少しだけ黒い笑顔で言葉を返したのだった。
「一人で出来る事は、そう多くありません。でも仲間と協力すれば出来る事は広がります。忘れないで下さいね、僕らは貴方の仲間です。辛い時は頼ってください」
結城の言葉に舞は泣きそうになりながら「はいっ」と言葉を返す。
「今の自分に出来る事、今はまだ出来ないけれど、いずれ出来るようになりたいと願う事、それをしっかり見据えて、前に進んで下さい」
僕も頑張ります、結城は言葉を付け足す。
そして本部へと帰還する能力者達だったが、レインは少し疑問に思っている事があった。
(「そういえば、舞さん‥‥最初に何か言いかけてなかったかな‥‥」)
首を傾げるが、既に別れた後なので聞くことは出来ない。だけどその答えは現在朔月だけが知っている。
『ボクの好きな人は――レインさんなんです』
END