●リプレイ本文
「理由は何であれ、あだ討ちを否定する気はない‥‥が逸って一人で突出するような真似はするな‥‥苦い思いがまだ胸のうちにあるならな」
アイン・ティグレス(
ga0112)がシギに厳しく話しかける。
「‥‥あぁ、分かってる‥‥そんな馬鹿な真似は、しない」
シギは俯いて苦しそうな表情で答える。
「‥‥形は違うけれど‥‥何処にでもあることです‥‥ちゃんと終わらせて‥‥前に進みましょう」
クロード(
ga0179)がシギに話しかける。彼女はシギに対して何と話しかければよいか分からなかった、だから今の自分の心境をそのまま彼に伝える事にしたのだ。
「親友のあだ討ち――熱くなりすぎないといいんだがな?」
誰にも聞こえないような小さな声で呟くのは神無月 翡翠(
ga0238)だった。人間は感情を理性という名の鎖で繋ぎとめている。
しかし、どんなに冷静にしていても親友の仇と出会った時‥‥同じく冷静でいられる保障はない。
「あたしはシギの事、凄いと思う」
ポツリと呟いたのは時任 結香(
ga0831)だった。
「あだ討ち、気持ちの整理―‥‥どちらにしてもそれは誇れることだと思う。前を向いて、胸を張って。あたし達がちゃんとフォローするから。きっちりケジメつけるわよ!」
時任の言葉に、シギは瞳に涙を溜め、首を大きく縦に振った。
「そうそう。あんたがキメラを憎んで復讐劇を始めるのは勝手だけど――死なせるのはゴメンだわ」
斑鳩・眩(
ga1433)がシギの肩をぽんと叩きながら呟く。
「そういえば、キメラについての情報をくれ、行き当たりで戦うわけにはいかないからな、弱点があればなおさらだ」
月影・透夜(
ga1806)がシギに問いかける。
「そうですね、行き当たりで戦っても此方が不利になるだけです。何か情報を知っているのならば、教えていただきたいですね」
「じゃあ、そろそろ移動を始めようよ、敵さんを早く倒さなくちゃ」
十六夜 紅葉(
ga2963)が呟くと同時に能力者達とシギは移動を始めたのだった‥‥。
●移動、敵の情報、そしてシギとキメラの再会。
「現れたキメラは3体、これは依頼にも書いていたと思うんだけど」
移動中、シギが出会ったキメラについて語りだす。
「あぁ‥‥3体が同時に攻撃を仕掛けてくる――ともあったな」
「一旦距離を取ってからの3体同時攻撃、1体しかいないと聞かされていた俺とトキは反応が遅れて――‥‥」
そしてシギは口を噤む。
「それだけ分かっていたら、何とか対処できるよ。シギさん、無茶はしないでね? シギさんが無茶して死んじゃってもお友達は喜ばないだろうし、紅葉たちも悲しいよ」
十六夜がシギに話しかける。自分より遥かに若い十六夜に諭され、シギは苦笑する。
敵が3体いるという事で、今回集まった能力者達は3つの班に分けた。
A班:アイン、月影、神無月の三人。
B班:クロード、斑鳩、コー(
ga2931)の三人。
C班:時任、十六夜‥‥そしてシギの三人。
「シギは職業は何なの?」
時任が問いかけると「ファイター」と短く答える。
「トキはサイエンティストで、俺達は前衛後衛で上手くやっていけると思ってた‥‥」
シギが遠くを見るように呟き、時任は言葉をとめた。
「とりあえず‥‥周りを警戒する事を怠るな、そしてシギの情報があるとはいえ、情報が少ないことには変わりない、不測の事態も想定して行動しよう」
アインが能力者達に話しかける。
確かにシギの話では、キメラは3体だとあった。しかし1体だと情報にあった場所にキメラが3体存在した。もしかしたらそれ以上いる可能性もあるのだ。
「‥‥3体から5体までは‥‥何とかこのメンバーでできると思う‥‥でも、それ以上で‥‥此方が対処できないようだったら‥‥逃げよう、シギさんは‥‥納得出来ないかもしれないけれど」
クロードがシギに視線を向けながら呟く。
「いや、手に負えない数が現れたら逃げる事が一番だと、俺も思う。もう――誰かが目の前で死ぬのは、勘弁だからな」
そして、話しながら歩いていたせいか、シギとトキがキメラに襲われた場所までやってきていた。
「‥‥これは――トキの――」
足元で何かが光り、シギが拾い上げると同時に「来たぞ!」と誰かが叫んだのが耳に入ってきた。
●A班:アイン、月影、神無月の戦い。
キメラが来た、その言葉を聞くと同時に3つの班はそれぞれ自分が相手するキメラのところへと走り出す。
そして相手するキメラの標的を自分達に向ける事で、他の班に行かせないという同時攻撃を封じる役目もあった。
「戦闘は任せるぜ? 無茶と無謀は違うからな? 気をつけろよ?」
神無月が前衛2人に話しかける。そして最初にキメラに攻撃を仕掛けたのは月影だった。彼の武器はロングスピアでリーチが長いから少し距離をとって攻撃する事ができるからだ。
「翡翠、今出てきているキメラ以外に気配は感じないが、一応注意を頼む」
月影が神無月に向けて叫ぶ。
「分かった、怪我をしたら回復をするから後方に下がれ、無茶をすると死ぬからな」
「あぁ――わか――っ!」
呟くと同時にキメラが月影の攻撃を避け、懐に入ってくる。
「下がれ! その武器じゃ接近戦は無理だ」
アインが叫び、それと同時に月影がアインと入れ替わりに下がり、近づいてきたキメラをアインがファングで攻撃する。
「確かに個々のキメラに大した力はない、苦労することはなさそうだなっ!」
言いながらアインが力強くキメラを殴りつける。そしてキメラがバランスを崩したときに月影が前線に戻り、ロングスピアで突き刺す。
「そのまま刺してろっ!」
アインが月影に言いながら、助走をつけてアインは走り、キメラを殴る。
「奪われた生命、その代償がお前達の生命では割に合わんがここで消えてもらう! 貫け!」
月影が叫び、ロングスピアをさらに深く貫くように押し込める。
するとキメラは「グオオオッ」と叫びながら大量の血を吐き、そのまま地面に突っ伏したのだった。
「怪我は――ないな? ったく‥‥少しは俺の出番も寄越せよな」
怪我なく戻ってきたアイン、月影の二人に苦笑しながら神無月は呟いたのだった。
「さて、キメラを倒した後は他の班の援護に向かうんだったな」
そう神無月が呟き、いまだキメラを倒せていないB班、C班を見たのだった。
●B班:クロード、斑鳩、コーの戦い。
「はぁっ!」
クロードが豪破斬撃を駆使しながらキメラに攻撃を仕掛ける。
B班はスナイパーであるコーの射線に入らないようにクロード、斑鳩の二人が接近戦でキメラと戦うという作戦だった。
「くらえ!」
斑鳩は瞬天速を使い、キメラに一撃を食らわす。現れたキメラは3体とも同系のキメラらしく、A班が倒したキメラ同様に大した能力を持ち合わせていない。
ただ、3体同時に相手にすると厄介なキメラだっただろう。しかしその能力を封じ、1体ごとに相手している今、こちらが有利な状況だった。
「左右に飛んでください」
コーからの指示が入り、クロードはキメラから左、斑鳩はキメラから右に飛んで離れる。それと同時にキメラの目がコーの射撃によって撃ち抜かれる。
キメラが目に手を当て、苦しがっている間にクロードは再び豪破斬激で攻撃を、斑鳩はメタルナックルで直接攻撃を左右同時にくらわせる。
しかし攻撃をくらいながらもキメラはクロードへと攻撃を仕掛けてくる。だが、クロードは攻撃を流し、カウンターのように3回目の豪破斬激を発動させた。
「うーん、さすがはキメラ。頑丈ね」
中々倒れないキメラに斑鳩が少し愚痴るように呟く。
「隙を作ります、その時に二人でしとめてください」
コーの言葉にクロード、斑鳩が首を縦に振り、キメラから距離を置いて、コーが隙を作り出す瞬間を待っていた。
そして暫く射撃を繰り返していたコーだったが、先ほど撃った目の反対も撃ちぬき「今です!」と言う。
「兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
クロードが呟き、キメラに向かって走り出す。
「ケンカ上等! 拳で語りましょうか!」
続けて斑鳩も走り出し、キメラへと攻撃を仕掛ける。
流石に両方の目を失い、二人の攻撃を避ける事もできず、キメラは二人からの攻撃で絶命したのだった‥‥。
「お疲れ様です」
コーのところ二人が戻ると、そう言って迎えられた。
「とりあえずA班の敵も倒しているみたいだし――‥‥残るはC班のみだね」
斑鳩は呟き、A班同様に援護に向かうため、C班が戦っている場所へと走り出したのだった。
●C班:時任・十六夜・シギの戦い。
「ほら! こっちよ!」
時任がキメラを牽制しながら、走り回る。今回の彼女の役目はキメラを牽制して十六夜やシギがキメラを攻撃する際にフォローするという役割だった。
「頼んだわよ! 紅葉! シギ!」
時任は叫びながら、キメラの攻撃を紙一重で避けている。
「これより敵の排除に移ります」
十六夜はリボンを外し、髪を流すとアーチェリーボウを構える。
「シギさん、残るキメラはこの1体のみみたいです、頑張り――‥‥?」
十六夜がシギに話しかけるが、彼の様子がどうもおかしい、刀を握り締める手が小刻みに震えていて、表情も険しい。
「アイツ――‥‥トキの――うわああああっ!」
シギは狂ったように叫ぶと、刀を構えてキメラに走り出す。その様子はとても冷静とは言えず、考えナシに飛び込んでいるようにしか見えなかった。
「シギ! あぶな――っ!」
真っ向から向かってくる敵ほど狙いやすいものはない、キメラは時任からシギへと狙いを変える。
「ダメ――っ!」
時任が手を伸ばしてシギを止めようとするが、間に合わない。
その時、援護にやってきた月影がロングスピアの石突で腹を突く。
「ぐはっ――」
シギは月影の攻撃によってキメラから遠く離され、時任はその間に再び自分に注意を引き付ける。
「シギ、俺達を集めたのは怨恨のためか? 復讐するなとは言わない。逃げた自分が許せないなど理由は沢山あるだろう。みんなそれぞれ戦う理由があるから。それを信念とするか、恥とするかはお前次第だ」
そう言って月影は背中を向け「だが、お前は一人じゃない。忘れるなよ」と言ってキメラに向かい始める。
「シギさん、あなたはけじめをつけたいんだよね? だったら‥‥ここで逃げるべきじゃないと紅葉は思うよ」
十六夜の言葉にハッと俯いていた顔を上げ、シギは剣を取る。
「あのキメラ――‥‥の耳に引っ掛かっている飾り――あれは俺とトキとでチーム組んだ時にお守り代わりで買ったものなんだ――‥‥頭では分かっていたんだけど、どうしても理性を繋ぎとめておけなかった」
唇を噛み締め「今度こそ、ちゃんとケジメをつける」とシギは呟き、キメラへと向かっていった。
そして、十六夜もアーチェリーボウで援護射撃をして、戦いやすいように攻撃を仕掛ける。
「トキの無念、そして友人を亡くしたシギの悲しみと苦しみ、償わせてやるっ!」
時任は叫び、ツーハンドソードで攻撃を仕掛けると「あとはシギの役目だよ!」と弱ったキメラを指差す。
「トキの仇――討たせてもらう!」
シギは走りながら刀を構え、キメラへと突き刺した。
「この飾り、返してもらう。これはお前が持っていていいようなモノじゃないんだ」
シギは低く呟き、キメラの耳に引っ掛かっている飾りを取り上げ、とどめをさすように再度斬りつけたのだった。
●そして――‥‥
「さっき何を見つけていたの?」
時任が問いかける。キメラが現れる直前、シギは何かを見つけ、足を止めていた。
「この場所――トキが死んだ場所なんだ。恐らく‥‥遺体はキメラか野犬かに食われているんだろうが‥‥この飾りについていた赤い宝石、それが落ちていた」
シギは呟き、息を大きく吸い込む。
「ありがとうございましたっ!」
シギは頭を深く下げ、今回自分に付き合ってくれた能力者達に礼を言う。
「これで全部吹っ切ったわけじゃないけど――‥‥」
溢れそうになる涙を堪えながらシギが震える声で呟き続ける。
「‥‥過ぎたことは‥‥変わりませんけど‥‥未だな事は‥‥願う形に‥‥できる筈です」
クロードの言葉にシギは「ありがとう」と答える。
その表情は最初出会った時のような影のある表情ではなく、これからを前向きに生きようとする清清しい表情だった――‥‥。
END