●リプレイ本文
―― 予言爺、現る ――
本部にてキメラ退治の任務を受け、出発しようとしていた矢先に予言爺によって不吉な予言を能力者達は受けてしまった。
「変な予言をされたわ‥‥」
ミンティア・タブレット(
ga6672)が肩より少し長い髪を掻き上げながら独り言のように小さく呟く。
ちなみに予言爺が能力者達に告げた予言は『無数の刃が汝らを襲い、急水がトドメを刺す』と言うものだった。
「‥‥刃‥‥水‥‥」
ミンティアは予言爺が指す言葉の意味を探ろうと小さく呟きながら、実行される内容を考える。
(「無数の刃が強烈な腹痛、急水がトイレ――というのを思いついたけど‥‥」)
ミンティアは『何か変な物を食べさせられてトイレに篭る羽目になる』と言う予言内容を予測したのだけれど、老人の悪戯にしては度が過ぎ、陰湿すぎてありえなさそうと言う事から能力者達に言う事はなかった。
(「でも‥‥喰らった時の精神、社会的ダメージが大きいから一応対策しておこう」)
ありえないとは考えながらもミンティアは『万が一』の時の為に対策を取る事にした。
「予言内容も具体的な事が分からないのでスルーする事にしますねー。こういうのは何か起こった時に対処すればよいですよねー」
臨機応変って奴ですねー、と言葉を付け足しながら澄野・絣(
gb3855)がにっこりと笑顔で呟く。
この場合『臨機応変』よりも『行き当たりばったり』という言葉の方が相応しいと思うのはきっと気のせいだろう。
「っていうか、刃や急水って何なのですかっ?!」
橘川 海(
gb4179)が驚いたように目を丸くしながら呟く。彼女のように反応の良い人ならばきっと過去にも嘘を吐かれたり、驚かされたりした事があるのだろう。
(「うん、でもきっとこういう事をするには何か悩みがあるからなはず。キメラ討伐からお爺さんの悩みまで、解決してこそ能力者だよねっ」)
橘川は心の中で呟きながら拳を『ぐ』と握り締めて予言爺の更生を心に誓う。
「あの、私は最近になって依頼を受け始めたので、このお爺さんの事はよく存じませんが‥‥」
朝霧 舞(
ga4958)が少し離れた所で別の能力者達に予言をしている老人を見ながらポツリと呟く。
「変わったお爺さんだよね。何でこんな事をするんだろう‥‥?」
ディアナ・バレンタイン(
gb4219)が苦笑しながら呟くと「もしかしたら一人身になって寂しいのかもしれませんね」と朝霧が言葉を返した。
「あぁ、確かに‥‥エロ爺って事もあるんだろうけど、奥さんを亡くして大きな屋敷に一人暮らしだって話だから舞の言う通り寂しいからこんな事をしてるのかもね」
ディアナが呟くのだけれど、フローネ・バルクホルン(
gb4744)が少し黒いオーラを背負いながら「ほぅ」と短く呟いた。
「目の前にこのような人間がいるというのに‥‥ぴちぴちギャルを所望すると言うのか‥‥まぁ、年齢的にはどうやってもロリコンとしか思えないが」
フローネはぶつぶつと呟きながら予言爺をじろりと睨んだ。実年齢が34歳である彼女だけれど、年齢さえ除けば予言爺の条件をぴったりと満たしている。
「む、主らはまだ危険回避のぴちぴちギャルを見つけていないのか? そんなんじゃ刃と急水に襲われて死んでしまうぞい」
つかつかと予言爺がやってきて能力者達に言葉を投げかけてくる。
(「そういえばお爺さんの言う刃と急水って何なんだろ、うちなら鋸でも持ってくるんだけど」)
榊原 ノギス(
gb7736)が心の中で呟きながら老人を見やる。どこをどう見ても鋸や刃となりうる危険物を持っているようには見えない。
(「うちが考えたんは扇風機なんだけど、持ってないなぁ」)
榊原は老人をじろじろと見るが、扇風機を持っているようには見えない。
(「扇風機回して、スカートめくりとかも『攻撃』にはなると思ったんだけど」)
自分が考えて自分で呆れる行動なのだが、目の前の老人ならばやりかねない。
「急水は‥‥」
榊原は呟きながら天井を見やる。スプリンクラーの類が彼女の頭に過ぎったのだがそのまますぎだし、本部の中で水を撒き散らしたら被害は数え知れない。
「何でそんなにぴちぴちギャルに拘るんですか?」
ミンティアが予言爺に問いかけると「‥‥お主には理解出来まいて」と哀れみの視線を返され、少しだけ、本当に少しだけだが苛立ちが彼女の中に募る。
「貧乳に用はないようですね。わかりました」
ミンティアは予言爺に街頭で新興宗教を熱心に勧誘しているお姉さんに向けるような冷ややかな視線と共に言葉を返し、くるりと背を向ける――が、勿論警戒は怠らない。
「そういえばお爺さん、ぴちぴちボインギャルの具体的な事を教えてくれませんか? じゃないと連れて来ようにも連れて来れないですし」
澄野がかくりと首を傾げながら問いかけると「何と! お主はぴちぴちボインギャルを知らんのか!」と表情を『くわっ』と険しくしながら澄野に詰め寄る。
澄野は恋愛経験など全くない為、男性にとっての理想的な女性など想像出来ないのだ。だから後学の為にも予言爺から男性にとっての理想女性を聞きだそうとしていた。
「ふむ、ええじゃろ。ぴちぴちボインギャルとは――胸が大きい美人の事じゃ、あと若さも必要不可欠じゃな」
(「うん、そのまんまなんですね」)
澄野はにっこりと笑顔を固めたまま心の中で言葉を返した。
(「自分達じゃダメなのかな‥‥?」)
話を聞いていた橘川が首を傾げながら心の中で呟く。
「そういえば、お爺さんってどうやって予言を知る事が出来るのですかっ?」
橘川が予言爺に問いかけると「わしが考えているのじゃ」とあっさりさらりと答えてくれて、橘川は苦笑しながら「そ、そうなんだっ」と言葉を返した。
「お主にも分かるじゃろ、みんながわしを気に掛けてくれるぞ。婆さんに先立たれてから寂しかったけれど、今ではみんながわしを気に掛けてくれて寂しくないの」
ふぇっふぇ、と笑いながら予言爺は笑って能力者達を見て「さぁ、ぴちぴちボインギャルは何処じゃ」とズズイっと詰め寄る。
「他に予言回避する方法はないのかしら?」
ディアナが問いかけると「それはないのぅ、ぴちぴちボインギャルしかないわい」とはっきりきっぱり否定の言葉を返してきた。
「えぇ‥‥どうしよう、刃に急水なんて‥‥」
ディアナは怖がっている振りをしながら予言爺をチラリと見る。
「む、主には危険が来ないような気がするぞい」
あっさりと予言を覆す予言爺に能力者達は呆れたような視線を向ける。それもそのはずだ、予言爺の視線はディアナの胸を凝視しているのだから。
「そういえばお爺さん、お婆さんを亡くしたって言ってたけど‥‥他に家族はいないの?」
ディアナが問いかけると「息子も娘も、先に死んでしもうたわ」と寂しそうに予言爺は言葉を返してくる。
「しかしぴちぴちボインギャルが来るなら悲しみも少しは薄らぐというものじゃ」
「ご老人、予言の実行方法を教えてはくれないか? 出来れば穏便に済ませたいのでな」
フローネが問いかけると「教えてやるわけなかろう、さっさとぴちぴちボインギャルを連れて来い」と横をぷいっと向きながら言葉を返してきた。
「‥‥なるほど。それで、私たちに、どんな災難が襲い掛かるんだったかな? 見たところ、ご老人には女難の相が出ているようだが?」
予言爺を締め上げながらフローネが問いかけると「ぼ、暴力に屈すると思うたら大間違いじゃ」と苦しそうに言葉を返す。
「なかなか頑張るではないか。さぁ、いつまで頑張れるかな?」
フローネは生かさず殺さずの力で予言爺を締め上げる。しかし何故か予言爺の表情は笑顔そのもの。その理由はフローネの胸が当たっているからだろう。
「ちょ、ちょっとやりすぎじゃないですか?」
朝霧も少し心配そうにフローネに話しかけた時に「なぁ、爺さん。本当に爺さんがやりたい事はそんな事なのか?」とアレイ・シュナイダー(
gb0936)が話に入ってきた。
彼は最初から女性能力者達と予言爺のやり取りを見ていたのだが、流石にややこしくなってきた状況を見かねてやってきたのだろう。
「その歳でそれだけ元気で動けるのに、迷惑かけて回るのがそんなにやりたいのか?」
アレイの言葉に「ば、ばかものめ」と予言爺は言葉を返してくる。
「わしと話をするなら、この暴力女を何とかしろ。主の話なんぞ痛みで入ってこないわ」
ぐぎぎぎ、と呻きながら予言爺が言葉を返し、アレイがフローネを止める。
「もし、そうなら俺が話相手だろうと遊び相手だろうと付き合ってやるよ。相手は爺さんだからって手は抜かないがな」
アレイの言葉に「主はわしの状況を見て尚且つ暴力女の行動をスルーして話を続けるのじゃな、ある意味さすがと言いたいわ」とぜえぜえと息を荒くしながら予言爺が言葉を返してくる。
「っていうか、だいたい、これだけの女の子に囲まれて贅沢すぎやしませんかっ!」
橘川が予言爺に向かって言葉を投げかける。ちなみに彼女の言うことは尤もである。7人もの女性に囲まれていながら『ぴちぴちボインギャル』を望むなんて女性達にとって失礼きわまりない事なのだから。
「おお、主はわしの胸メーターには達しておらんがそのむくれた姿が可愛いのぉ」
ふぇっふぇと笑いながら予言爺は橘川に萌えを感じてにこりと表情を崩した。
(「‥‥こわいですっ」)
橘川は心の中で反論した。口に出せば何故かそれ以上の反撃が来るような気がして口に出すことは出来なかった。
「あのさ、悪い予言を実現させるんじゃなくて、良い予言をしてそれを実現させる方がいいんじゃないかな?」
ディアナの言葉に「そうだな」とアレイが言葉を返してくる。
「俺は爺さんともっと話してみたいと思っている。良い予言をしていけば他の能力者達もそう思う奴はいるはずだ」
アレイの言葉に「ふむぅ」と予言爺は何かを考えるように俯いた。
「今はまだ誰も言ってないかもしれないけど、爺だからってセクハラは犯罪ですよ!」
榊原が腰に手を置きながら説教するように予言爺に話しかける。
「俺たちの話を聞いてやるか、相手にでもなってやるか、もし爺さんがそう思っているなら俺たちはもう他人ではない。友人だ」
アレイは「な、そうだろう?」と女性能力者達に同意を求めるように問いかける。
「アレイさんもぴちぴち何とか‥‥が好きなんですかね。それならすぐに友達になれますよ」
榊原がからかい混じりに言葉を返すと「なんと! お主もぴちぴちボインギャルが好きだったのか!」と手をがしっと握られて何故か予言爺から同類を見るようなまなざしを向けられてしまう。
その時だった。予言爺のポケットから『まきびし』が大量に落ちてきたのは。
「無数の刃‥‥」
ミンティアは呆れたようにまきびしと予言爺とを交互に見ながらため息を吐いた。
「悪戯もあまり度を過ぎると恨まれるだけですよ。どうせなら穏やかに楽しみたいですよね」
朝霧の言葉に「むぅ」と予言爺はポケットに入れていたまきびしを持って「悪い予言はもう止める」と短く能力者達に告げた。
「悪い事をやめるなら、あたしもメル友にくらいはなってあげられるかもしれないよ」
ディアナが携帯電話を取り出しながら呟くと「おお、メアドを教えてくれ」と最新機種の携帯電話を予言爺は取り出してくる。
(「‥‥あたしの携帯より新しいやつ、しかも何この文字打ちの速さ」)
本当に老人かと疑いたくなるほどに文字打ちの速さにディアナはぽかんとしながら予言爺を見ていた。
「ふむ、止めるならそれに越したことはないな。まぁ、悪戯するのも良いが、私以外にやる事だな。もしも、私に危害が加わるようなら‥‥海に浮かぶことになるぞ」
フローネは本気の目で予言爺を睨みながら「頼まれても主には悪戯してやらんわい」とぷいっと横を向きながら言葉を返した。
「さて、依頼に向かうとするか、無事に何も起こらないに越したことはないがな。爺さんが言ってたこと、少しは気に掛けて油断しないようにしようか」
フローネは出発の準備をしながら呟く。
「帰ってきたら茶くらい付き合いますよ。勿論、年齢に関係なく男のおごりですけど!」
榊原はそう言いながら軽く手を挙げて本部から出て行く。彼女もセクハラ発言などは許せないと思っていたが、奥さんに先立たれて寂しいのだろうと少しは相手してやろうかなと思えるようになったのだとか‥‥。
「爺さん、一つ聞いていいか? ぴちぴち‥‥ボインギャル? とはなんだ?」
アレイが予言爺に問いかけると「なんじゃ、知らぬのに好きとは‥‥主もとことんな変態じゃの」と予言爺は「ふぇっふぇ」と笑いながら言葉を返してきた。
勿論、アレイは知っていたのだけれど和ませるためにあえて知らぬ振りをしたのに何故か『とことんな変態』にされてしまった。
それから、予言爺は『良い予言』をするようになったと能力者達の間でも噂になった。
しかし、何故か『ぴちぴちボインギャルを連れてくると良い事があるぞ』とあまり内容の変わらない予言だったことを聞いて今回の能力者達は疲れがドッと押し寄せてきたのだとか‥‥。
END