●リプレイ本文
―― 褌祭を成功させるべく ――
ふんどしーちょ祭、これは一人の能力者の読み間違いから祭にまで発展した伝統ある行事。
少し前に結婚したばかりのクイーンズ記者・土浦 真里(gz0004)が企画・開催をするはずだったのだが、大人の事情から大石・圭吾(gz0158)へと開催責任者の権限が渡されてしまった。
流石にこのBAKAだけでは不安が残るのか、マリはふんどしーちょ祭を成功に導くために4名の能力者達にも声をかけていたのだった。
「ついにこの時期がやってきました」
ふんどしーちょです、褌愛好家達の中で流行している挨拶を交わしながら鳳 つばき(
ga7830)が企画会議室へと入ってくる。褌を伝える伝道女神の称号を持つ彼女の姿は当然のように自前の褌とサラシ姿。16歳の少女にしては貫禄がありすぎて思わず涙が出そうな程だった。
「ふんどしーちょ、実は俺あんま案出しとか得意じゃないんスよねー」
先に企画会議室へと来ていた六堂源治(
ga8154)が苦笑しながら言葉を漏らす。
「なので、前回までやったもので『これはっ!!』と思うものをピックアップして、改良出来ればなーと思った次第っス」
六堂の言葉を聞いて「いいなー‥‥」と香坂・光(
ga8414)が小さく言葉を漏らした。
「あたしって去年は祭に参加できなかったんだよねー‥‥だから今年は最初から最後まで頑張って楽しむのだ〜♪」
香坂は『ぐっ』と拳を強く握り締めて、今回の祭への意欲を示す。
「それにしても大石さんに頼むなんて‥‥なんて無謀」
企画会議室の窓際で一際『きらーん』と輝いている大石を見ながら香坂が苦笑する。普通に考えたら彼は祭を壊す側の人間なので、香坂がそう思うのも無理はないのだけれど。
「俺が褌関連に参加するのは久しぶりだ、最近は娘が行く事が多かったからな」
天道・大河(
ga9197)がきりっと真面目な表情で企画会議室の扉を開ける。彼も大石同様に褌一丁という格好の為、二人並べばある意味最凶である。
「ウチの娘みたいなのにも褌の素晴らしさを目覚めさせられるような良い企画が出せればいいのだが‥‥」
言っている事は凄く真面目、表情も凄く真面目、だけど褌一丁、だがそれがいい。
「今回は集まってくれてありがとねっ、飲み物とか食べ物とか差し入れてあるから好きに飲み食いしちゃってっ」
マリが企画会議室にあるテーブルの上の大きな袋を指差しながら能力者達に話す。
「あんたもちゃんと仕事しなさいよねっ、分かった?!」
ぎっ、と大石を睨みながらマリは話したのだが‥‥「げげ、変態がもう一人いる!」と天道を見ながら叫んだ。
「俺は、大石とは一味違うから安心しろ」
きりっとした表情で天道が言葉を返すと「別に祭が成功すれば変態でもいいけどねっ」と言葉を残して慌てたように荷物を持って出て行ったのだった。
「さて、企画を始めましょうか」
鳳は書いてきた企画を他の三人の能力者達へと渡していく。
「去年の夏もやった神輿を再び、と思います。搭載した御神体役の人を発射するのも再現して祭の定番化を目指してます、あと神輿に褌の飾りつけをして見てはどうかな、と」
去年発射された鳳の言葉に「今年も発射されるんスか」と六堂が言葉を返す。
「またあたしですか!?」
六堂の言葉に鳳は驚いたように言葉を返す。しかし発射されるとしたら彼女以外に適任者がいないように思えるのは気のせいじゃないだろう。
「いや、しかし今回は別の人でもいいかもッスね、大石との任務を頑張っている人とかを『MVP』とか担ぎ上げたり‥‥」
六堂の言葉に、MVPと書いて生贄と読む人のことを考えるととても面白いものに思える、むしろ誰が選ばれるのかも気になる所だ。
「ま、まぁ‥‥発射役は置いておいて六堂さんは何を考えてるんですか?」
鳳が問いかけると「しーちょ君は生きてるんだろうか‥‥」と六堂はポツリと呟く。
「え? しーちょ君?」
香坂が『?』マークを頭の上に浮かべながら聞き返す。
「あぁ、ふんどしーちょ祭のマスコットキャラッス。出来ればスけどまたグッズ販売と、あとは屋台が出来ればなぁ‥‥と思うッス」
たこ焼き、焼きそば、風船釣りなど祭に定番となっている屋台を挙げていく。
「あぁ、たこ焼きとかいいね。一般の人も来やすそうだし」
香坂が「ふむ」と納得したように呟く。
「そうッスね、人数が許す限り色々やってみたいッス‥‥ふんどし釣りもアリっすかね、水に浮かぶしーちょ君を釣り上げたり」
「でも、人手が足りそうにないんじゃないか?」
天道が言葉を返すと「人手が足りなくなるようなら、俺が責任者として、いくらか取り仕切るッス」と六堂が言葉を返した。
「一応、元極道なので、テキ屋の仕切りはお手の物ッス」
六堂はドンと胸を叩いて『俺に任せろ』なジェスチャーをしながら言葉を付け足したのだった。
「何か祭も色々してたんだね〜、余計に今年の祭が楽しみだよ」
香坂が呟き「あたしが考えたのはこれっ」と様々な競技が書かれた紙を見せる。
「褌水泳大会は自分よりも長い褌着用して泳ぐの、褌も長いから距離も長くしちゃおう」
どんな理屈だ、思わずツッコミを入れたい衝動に駆られるがそこはグッと我慢しておこう。
「または長い褌着用して地面につかないように走るとか♪ ‥‥ある意味忍者の修行みたいだね」
けらけらと笑いながら香坂は「褌スイカ割りとかも考えてきたよ」と褌姿で褌巻いた棍棒でスイカを割るという競技も提案してきた。
「褌の意味は何処にあるんだろう」
ぼそっと香坂は自分で考えてきた企画にツッコミを入れるが、そこを考えてしまうとふんどしーちょ祭を根底から考え直さないといけなくなるのでスルーしておくことにしよう。
「俺は映画の企画を考えてきた。褌アピールの映像作品を作って上映しようぜ!」
天道は『大石と愉快な仲間達』と書かれた分厚いレポートをドスンとテーブルの上に置く。キャッチフレーズとして『褌は変態じゃないよ、カッコイイよ』と言う言葉も迫力ある太い文字で書かれてあった。
「もちろん、俺のカッコイイ戦闘シーンも目白押し! これで銀幕デビューは貰ったぜ!」
きらーん、と大石に負けない爽やかウザスマイルで主張する。
「それはいいな! 俺の戦闘シーンとかもきっと燃えると思うんだぜ!」
それまで沈黙を続けていた大石が乗り気でがしっと天道の手を掴む。ただでさえ暑苦しい日々が続くのだからBAKAは黙っていればいいと思う能力者達。
「しかし‥‥一つ大きな問題があるんだ」
天道が真面目な表情になって、俯きながら呟く。
「え? 問題?」
鳳が首を傾げながら聞き返すと‥‥。
「大石が真面目に戦っている場面が皆無なこと」
どーん、と天道が呟くと大石に視線を移す。確かにこのBAKAは真面目に戦った事はない。むしろ普通にさえ戦った事はないのではないだろうか。
「それじゃ映画は無理じゃないですか、むしろ大石さんにそこまでお金をかけてくれる奇特な人がいるかも分からないですよ?」
鳳の何気ない言葉に「ぐっはぁっ」と大石がダメージ受けたようで部屋の隅でいじいじとしている。落ち込むくらいならば真面目に戦えば良いだけだ、と言うのはトドメになるので言わないで置いてあげよう。
「まぁ、気を取り直して――夏祭りといえば『ふんどしーちょ音頭』でしょう。太鼓とかマイクとかも要りますが、大きな木箱を積み上げたり、布か何かで誤魔化した樽とか設置してみるのもいいかもしれませんね、あとはアレンジでヘビメタチックにしてみても面白いかもしれません」
鳳の発案に『ヘビメタ音頭で踊り狂う褌たち』を想像してみる。
「‥‥確かに奇抜で面白いかもしれないッスけど」
「何か怖いような、しかししてみたいような」
六堂の言葉のあとに天道が呟く、ヘビメタ音頭、ある意味何処か儀式めいていて惹かれるのはきっと彼らが褌愛好家だからなのだろう。
「でもイベント多すぎッスかね? 締めに皆で踊るのがいいか、それとも常時ラジカセから流れる音頭をBGMにちょいちょい盛り上がってる感じとか、もしくは他のイベントと同時進行でやるのもいいかもッスね」
六堂の言葉に「同時進行はいいかもね、参加したい人だけ集まるって感じで」と香坂が言葉を返す。
「あとは褌借り物競争、褌一丁でするだけの借り物競争ですけど参加者達に借りてくるものを書いてもらう事で盛り上がる‥‥かも? あとは褌ムカデ競争とか、いい笑顔で行進するのが基本――という競技です」
鳳の競技を聞いて「あ」と六堂が思い出したように呟く。
「褌騎馬戦とかいいッスよね、これは前々回やった時、かなり楽しかったッス。ルールとかはそのままでふんどしーちょ祭公式競技とかに出来ないッスかねー」
六堂が頬杖をつきながら呟く。
「でも騎馬戦は結構皆楽しそうにしてましたし、今回も出来そうですよね」
鳳の言葉に「あ、あたし褌倒しっての考えたんだけど」と香坂が手を挙げながら呟く。
「褌着用した人を棒にくくりつけて、それを倒されないように皆で守る――褌を棒にくくりつければいいじゃんってツッコミはいらないからね」
香坂の言う『褌倒し』の競技を想像して、昔にあったという魔女狩りの火刑を思い出すのは何故だろうか。きっとはたはたと靡く褌が哀愁を倍増させる事だろう。
「あとは普通のムカデ競争より早いレースが見れる褌ムカデ競争とか、たすきの代わりに自分が着用してる褌を脱いで、それを次の走者に渡し、着用してもらってから走る褌リレーとか」
ムカデ競争はともかく、リレーは恐らく賛成する人と反対する人が極端に別れそうである。むしろ大石が着用していた褌なんて自分で着用したいはずがない。
「あと、褌を広めるって事で初心者向け褌講座とかしたいな。皆で一緒に褌しようぜ! って感じで新たな褌使いを発掘したりして」
「それいいな! それ賛成だ! むしろそれだけでいいと思うんだ、俺は!」
はいはいはい、とウザイほどに手を挙げて大石が賛成の意を示すが「とりあえず、お前は黙って茶でも啜ってればいいと思うんだ」と天道から言われて「ずずずずず」と会議室内に響き渡る大きな音をたてながら大石はお茶を飲み始めた。
「あと褌一丁でサバイバルゲームとか、武器は勿論殺傷能力のない水鉄砲を使うとして、ピコハンやハリセン、エアーソフト剣なら接近戦もアリって事はどうだろう」
「でもそれって中々決着つきそうにないッスよね‥‥祭でやるより、むしろそれだけの目的のイベントをした方がいいような気もするッス」
六堂の言葉を聞いて「それしよう! 俺が何とかするから!」と隅っこ族となった大石が手を挙げて言葉を返してくる。
(「本当にしそうだから、返す言葉に困るッスね」)
六堂は心の中で呟き、やる気満々の大石を見て苦笑したのだった。
「あと射的とかどうでしょう、褌を鞭のように使って景品を叩いて落とすシンプルゲーム。褌をぬらしたりするのは反則扱いという事で。景品がネックになるでしょうが‥‥あたしの案はこんな所ですね」
鳳の言葉に「俺もさっき提案したくらいッスかね〜」と六堂も企画をメモした紙を見ながら呟く。
「あたしも全部言ったかな、神輿とか盆踊りみたいな奴は今回もして欲しいなって考えてる。コンテストも面白そうだよね♪」
「俺が考えたのは、後は金魚すくいならぬ褌すくいかなぁ、水に浮かんだ褌を引っ張りあげるとゲットできる‥‥需要はないか、そうですか」
提案をしながら『褌? 別にいらなくね?』と言う人の言葉が容易に想像できたのか天道は途中で少し落ち込んだように呟く。
「とりあえず、提案は出揃ったみたいだな! 皆ご苦労なんだぜ!」
企画の責任者であるはずの大石が能力者達を労うようにキランと爽やかスマイルをプレゼントする。
そこできっと能力者達は思った事だろう。
『お前も何か案出せよ、人任せにしてんじゃないよ』
全くもってご尤もな事なのだが、ZENRA歴のあるBAKAだからという事で納得して欲しい。結構な戦闘も行っているはずなのにまともな戦闘シーンすらないBAKAなのだからという事で納得して欲しい。
「とりあえず、これは俺の方から週刊記者の彼女に渡しておくから、後日皆には連絡するからな!」
とりあえず、大石が任されたのは『責任者』と言う名前を借りた『おつかい』のようだった。
ふんふんふんどし〜、と歌いながら大石は会議室から出て行ったのだが‥‥案出しの役に立っていなかったという事実を知った週刊記者からグーパンチで殴られた‥‥と言うのはまたこれから数日後の話。
END