タイトル:彼に捧げる名前はマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/12 22:51

●オープニング本文


子供が生まれるんだ。

そう喜んだのは少し前の事。

医者からは男の子だと聞かされて、強い子に育って欲しいと願った。

こんな時代なのだから、強くなければ生き残れない、そう思ったから。

だから‥‥。

※※※

「はぁ? 子供の名前を考えて欲しい?」

男性能力者は依頼書に付け足されていることを読み上げながら少しだけマヌケな声で呟いた。

「あくまでも本来の目的はキメラ退治。小さな町らしくてね、生命線である山道にキメラが現れたみたいでそれの退治が今回の本来の目的よ」

ただ、と女性能力者が言葉を続ける。

「今回の依頼者にもうすぐ子供が生まれるみたいで、名前を考えて欲しいんですって。キメラやバグアが闊歩する今だからこそ強い子に育って欲しいと願うんでしょうね」

女性能力者の言葉に「ふぅん」と男性能力者は短く言葉を返す。

「俺はまだ子供とかいねぇし、嫁さんもいないから分かんないけど――そういう風に思うもんなのかねぇ」

「私も子供も旦那もいないけど、強い子に育って欲しいっていうのは分かるかもしれないわ」

女性能力者が呟き、資料に目を落としたのだった。

●参加者一覧

赤川 翔輝(ga3932
21歳・♂・GP
テミス(ga9179
15歳・♀・AA
織部 ジェット(gb3834
21歳・♂・GP
ミリー(gb4427
15歳・♀・ER
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
流離(gb7501
26歳・♀・ST
結城 有珠(gb7842
17歳・♀・ST
アトモス・ラインハルト(gb7934
19歳・♂・SN

●リプレイ本文

―― キメラ退治へ赴く者達 ――

「初任務、しっかりと頑張ろうかね」
 赤川 翔輝(ga3932)が大きく伸びをしながら呟く。
「‥‥何か、他人事には思えないな‥‥」
 テミス(ga9179)がポツリと小さな声で呟く。彼女はつい最近、図らずも一児の母になった為、今回の任務がどうしても他人事とは思えないらしい。キメラ退治をきちんとするのはともかく、生まれてくる子供が元気に育ってくれればなぁ‥‥と心の中で思っていた。
「皆は名前を考えて来たのか? 俺はもう考えてあるぜ。まぁ、俺のポリシーみたいな感じだけどな。参考までに、だ」
 織部 ジェット(gb3834)が他の能力者達に言葉を投げかける。能力者の中には考えてきている者が多いらしく、候補の中から依頼人に決めてもらおうという事にしたらしい。
「子供は人類の宝だもんね〜、めでたいね〜。めでたいんだから邪魔なキメラなんか即斬しちゃいましょー」
 子供の為にも皆の為にも一生懸命頑張るぞー、とミリー(gb4427)が間延びした声で呟き「おー」と手を大きく挙げる。
「子供、ねぇ。こんな時代に生まれる子供だからこそ逞しく育って欲しいモンだね」
 ヤナギ・エリューナク(gb5107)が赤い髪をかきあげながら呟く。
「‥‥子供の名前、かぁ‥‥」
 流離(gb7501)が資料を見ながら小さく呟く。彼女も26歳と子供がいてもおかしくはない年齢なのだが、生まれつき身体が弱く、まだ子供が産める身体と医者から判断されていないらしい。
「‥‥私はまだ産める身体じゃないけど、その分、素敵な名前、お送りしたいです」
 流離が小さく呟くと、彼女の隣には依頼の緊張に身体を震わせる結城 有珠(gb7842)の姿があった。彼女は今回で二回目の任務となるのだが、まだ戦いの場に慣れていないのだろう。
「‥‥やっぱり‥‥慣れません‥‥でも‥‥」
 頑張らなくちゃ、結城は瞳を閉じて深く深呼吸をして自分の心を落ち着かせる。
「ここまで来て‥‥帰れませんから‥‥」
 ふぅ、とため息を吐きつつ小さな声で結城は言葉を付け足したのだった。
「あ、どうも。今回が初めての任務だけど頑張るんで宜しく」
 アトモス・ラインハルト(gb7934)が飄々とした口調で能力者達に挨拶をして、能力者達はキメラが潜む場所へと出発する為に高速艇へと乗り込んだのだった。


―― 山道付近で待つ依頼人、そしてキメラ捜索 ――

 依頼人は能力者達が来る時間に合わせて山道付近に来ていた。能力者達に自分が知っている情報を渡す為だと言っていたが、その行動には危険も付き纏う。山道に来る途中でキメラに襲われる可能性もあったからだ。
「町で待っていて下さったら、私達の方が出向いたのですが‥‥」
 テミスが苦笑しながら呟くと「いえ、此処から町へ来る前にキメラに会うかもしれないと思ったので」と依頼人である男性が申し訳なさそうに言葉を返してきた。
「あんたが今度父親になる人か、おめでとさん。元気なコが生まれると良いな?」
 ヤナギの言葉に「ありがとう」と凄く嬉しそうに男性は言葉を返してくる。
「で、どんなヤツなんだ?」
 ヤナギが問いかけると「槍を持った人間みたいなキメラです」と男性は言葉を返してくる。
「この山道が向こうの町と俺たちの町を繋いでいて、キメラが現れてからは行き来も出来なくなって困ってるんだ‥‥」
 ふぅ、と男性はため息を漏らしながら呟く。そして彼が知っているキメラ情報を能力者達へと渡すと高速艇の中に避難しておくようにと指示される。
 この場所から町へ戻られるより、キメラ退治が終わるまで高速艇の中へ避難していてもらった方が確実に能力者達の仕事も減る。
「さて、此処からは話し合った班に分かれて行動した方が良さそうだな」
 織部が呟くと「そうだな」と赤川も首を縦に振りながら言葉を返す。
 この場所へやってくるまでに能力者達は今回の任務に関していろいろな事を話し合ってきていた。その中で2人4組に分かれてキメラ捜索を行う事になった。
 1班・アトモス、テミスの2人。
 2班・結城、ヤナギの2人。
 3班・流離、織部の2人。
 4班・ミリー、赤川の2人。
「それじゃ、頑張ってキメラ捜索して、退治しよ〜」
 ミリーが呟き、能力者達はそれぞれ分かれて行動を開始し始めたのだった。

※1班・アトモス&テミス※
「強そうな名前、ね。どんなのがいいかな〜」
 う〜ん、と唸るように考え込みながらアトモスは提供する名前を一生懸命考えているようだった。
「私は湊――日本名だとマズいかもなのでミナトという名前をと考えています。依頼人の考える『強さ』が何か分かりませんが‥‥私は『何にでも確り受け止める事が出来る』湊のような存在こそ強いと思ったので」
 テミスの言葉に「へぇ」とアトモスは感心したような言葉を漏らす。
「ただ強いってだけなら某知事の名前とかどうかな? 生存力と耐久力に定評があるって話だよ〜」
 アトモスの言葉に「それは、確かに強そうですけど」とテミスは苦笑する。
「さって、此処から樹の上に乗って捜索するとするかな」
 アトモスは呟きながら樹の上へと身軽に乗り、テミスは彼の護衛をする為に武器を構える。
「ま、護衛宜しくって感じかな〜」
 軽い口調で呟いている彼だったが、捜索を行う目は真剣なものでテミスも周りを警戒し始めたのだった。

※2班・結城&ヤナギ※
 1班の少し前方には音を鳴らしながら捜索をするヤナギと結城ペアの姿があった。呼笛、ベース、ブルースハープを使って音を鳴らして、なるべく目立つように行動する。
「こっちに誘き寄せられれば儲けモンってな! 巧く音に反応して出てきてくれればいいケド‥‥」
 ヤナギは呟きながら『トランシーバー』で他の班と定期的に連絡を取るようにしていた。ヤナギが別の班と話している時、結城のトランシーバーも通信音を響かせた。
「は、はい‥‥な、何でしょうか」
 結城がトランシーバーに出て呟くと、自分達の班でキメラを見つけた? と言う問いかけの通信だった。
「い、いえ‥‥まだなんです、す、すみません‥‥は、はい。何か分かったらまたお知らせします」
 結城はそれだけ言葉を返すとトランシーバーを切り、再び捜索を続ける。
「中々出てこないモンだなぁ、もしかして聞こえてねぇのかな」
 少し不服そうにヤナギが呟くと「‥‥あ、あの‥‥」と結城がおずおずとヤナギに声をかける。
「へ、変な感じが‥‥私の気のせい‥‥?」
 結城が呟いた時だった、木の影からがばっと槍を持って人型キメラが2人を襲ってきたのだった。

※3班・流離&織部※
 此方の班でも流離が呼笛を吹きながら捜索を開始していた。その際、呼笛を吹いている流離に危険が及ばぬように織部がフォローを行っており、また流離自身も草むらから突然槍が出てこないかを警戒しながら歩いている。
「この呼笛の音は、キメラにとってのイエローカードってヤツさ」
 その時、がさり、と草むらで何かが動いたような気がして2人はバッと勢いよく振り返る。
 しかし、何か獣が通り過ぎただけなのだろう。2人に敵意を向ける者は数分待っても現れる事はなかった。
「‥‥キメラじゃ、なかった‥‥みたいですね‥‥」
 何処かほっとしたような表情の流離に「現われた方が手っ取り早く済んでよかったんだが‥‥」と流離とは正反対に織部は悔しそうな表情を見せる。
 その時、トランシーバーに「き、キメラを、は、発見しました‥‥!」と結城の声が響いてきて織部と流離はヤナギと結城のいる場所を聞き出し、そのまま合流する為に駆け出したのだった。

※4班・ミリー&赤川※
「強そうな名前ならジョーだろ、ジョー! なんかストロングな気がする、私的!」
 ミリーは子供の名前を考えながら、だけど奇襲などを受けぬように警戒を緩める事なくキメラ捜索をしていた。
 赤川は呼笛を鳴らしながら進んでいくがキメラはいまだ彼らの前に姿を現さない。
「中々姿を現さないなぁ‥‥」
 ため息混じりに赤川が呟き、呼笛を鳴らしながら山の中腹を目指す。
「そういえば名前は考えてるの?」
 キメラ捜索をしながらミリーが赤川に問いかけると「一応は、ね」と言葉を返してくる。
「イナホなんてどうかなって思ってる――‥‥俺の国の主食は米だからな、その米に成る稲穂ってのはいくら踏まれてもまっすぐ育つんだ」
 へぇ、とミリーは少し感心したように呟く。
 その時だった、トランシーバーにキメラを発見したという報告を受けて「先に言っておく、ごめんな」と呟き両手を胸の前で交差させて覚醒を行い、ミリーを抱きかかえる。
「変なとこ触ったら、ごめんな」
 そう言いながらミリーを抱えて『瞬天速』を使用して、キメラと遭遇した能力者たちの所へと急いだのだった。


―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――

 キメラ発見から他の能力者達が合流するまでの数分、ヤナギと結城、そしてキメラに攻撃などはなかった。
「‥‥み、みなさん、がんばってください‥‥」
 結城が『練成強化』を使用して能力者達の武器を強化する。
「到着っ! 必殺、ショウキィィイイック! ‥‥なんてな」
 合流すると同時にミリーを下ろして赤川がキメラに向かってスライディングキックを食らわしながら登場する。
 赤川のスライディングのおかげでキメラはバランスを崩して地面に倒れこむ。
「貴方のせいで大勢の人が迷惑を被っています、退治――させていただきます」
 テミスは『【OR】ティワズ・ブラスター』を構えて攻撃を仕掛ける。彼女の攻撃の直ぐ後にアトモスが『クルメタルP−38』で攻撃を仕掛け、キメラに反撃をさせる暇なく追撃する。
「お前がフォワードなら、俺たちは鉄壁のディフェンダーだ!」
 キメラが後ろにいる射撃手達を狙い、走ろうとした所を織部が止めて、足を狙ったローキックで攻撃を仕掛ける。
「さて、さっさご退場願いましょうか〜」
 ミリーが二刀小太刀『永劫回帰』を駆使して『迅雷』を使いキメラとの距離を縮めて、一撃を喰らわせる。
「そんなおっかないモン振り回してンじゃ‥‥ねーよっ」
 ヤナギはキメラの攻撃を避けながら『迅雷』を使用してキメラの懐へともぐりこむ。そして『イアリス』を使用して『円閃』を使用しながら攻撃を繰り出す。
「お願いします!」
 そしてそのまま足を踏ん張り『二連撃』を使用しながら追撃しようとした時に流離が『練成強化』を使用してヤナギの武器を強化する。
「『練成弱体』使いますので、宜しくお願いします」
 流離が呟くと『練成弱体』を使用してキメラの防御力を低下させる。
「おらっ、何処見てんだ? お前の相手はこっちだろ」
 赤川はキメラの背後から攻撃を仕掛けながら呟き、キメラが反撃の為に振り向くのだが、既に赤川は離れた後。
「行きます」
 テミスは武器を打撃武器として使う為にキメラへと接近して鳩尾に『急所付き』を使用する。流石に効いたのかキメラはガクリと膝をついて苦しそうな表情を見せる。
「赤き双銃は伊達じゃない事が分かっただろう」
 テミスはぶんっと武器を振り下ろすと、何処か得意気にキメラを見下ろしながら呟く。
「退場処分は俺達がくれてやるぞ!」
 織部は呟きながらキメラに攻撃を仕掛け、そして二撃目として蹴り上げる。
「迅雷抜刀! 真・刹那!」
 ミリーが叫ぶと同時にキメラとの距離をつめて『抜刀・瞬』で『カレンデュラ』に持ち替えて『刹那』を使用して攻撃、その後再び『抜刀・瞬』を使用して二刀小太刀へと持ち変える。
 そして『鋭覚狙撃』『強弾撃』を使用しながらアトモスがキメラの頭を撃ちぬいてトドメを刺したのだった。


―― キメラ退治終わり、名前は ――

 キメラを退治した後、男性を町まで送り、彼の家で少し休んでいく事になった。
「‥‥私は誕生石から考えてきて‥‥アイオライトから、ライト君‥‥というのは簡単すぎますか? ダイクロアイトという呼び方もありますから‥‥クロア君というのも‥‥」
 結城は考えてきた名前を男性に告げる。
「あ、意味合いは違うけど俺もライトってどうかなって思ってた‥‥最初の言葉、光在れに基づく言葉、そして今の時代に欲されるのは闇ではなく、強く明るい希望の光。気に入ってもらえれば嬉しいな」
 ヤナギの言葉に「ライト、か」と男性は小さく呟く。
「俺は何でも真っ直ぐに、自分に嘘吐かずに、皆の為に正しいことをする人になれるように――まぁ、最終的に子供の名前を考えるのは親なんだろうけどさ」
 織部は少し照れたように髪をくしゃりとかきあげる。
「私が考えてきたのは‥‥ありがちかもしれませんがユウト。強い子に、このような時代だからこそ、私は『心』の強さを持ってもらいたいと思います。何に対しても悠然と構えられる人に
 流離の言葉を聞いて「悠然と、かぁ」と男性も納得するように呟く。
 そして全員分の名前を聞き終わって、男性が選んだのは――結城とヤナギの考えてきた『ライト』と言う名前だった。
「明るい希望の名前、その言葉に惹かれたんだ。誕生石と言うのもあったし、素敵な名前をありがとう。二人とも」
 男性がぺこりと頭を下げると、お腹の大きい女性も「ありがとうございます」とお礼を言ってくる。
「それじゃ、胎教にはなんねェかもしんないけどサ、一曲プレゼントするよ。きっとお腹の子にも聞こえるだろ」
 そう言ってヤナギは楽器を構えて奏で始める。子供の記憶には残らなくても、きっとその両親が子供に語りついで行く事だろう。
 自分の名前にこめられた意味と願い、そして幾人もの能力者が自分の為に名前を提案してくれたことを‥‥。


END