●リプレイ本文
―― 過去の傷を背負う者 ――
「極単純な依頼だな、こんなに大人数で来る必要もないんじゃ‥‥と思うが」
そうも言ってられないか、須佐 武流(
ga1461)は言葉を付け足しながら呟く。
今回の能力者達に課せられた任務は人型キメラの退治。その任務に8名の能力者達が現地へ出発する事になった。確かに須佐の言う通り、一体のキメラならば8名が出向く必要もないかもしれないが、何が起こるか分からない。
「人型か‥‥傷が‥‥疼く‥‥」
ぼそりと低い声で西島 百白(
ga2123)が呟く。大事な者を『人型』に奪われた彼は人型に対する殺意が他の能力者より高い、そのせいか今すぐにでも戦えそうな殺気を迸っている。
「ドラグーンの神宮寺 真理亜(
gb1962)だ。宜しく頼む」
透き通る声、凛とした態度で挨拶をするのはカンパネラ学園の制服に身を包んだ少女。
「しかし、本当にキメラは一体なんだろうか? そもそも軍は群れで行動する組織だ。キメラであってもその性質が残っていても可笑しくはない」
腕を組みながら神宮寺が呟く。確かに彼女の言う通り『敵を一体』と決め付けて行動するのはリスクが伴うだろう。例え能力者であろうと人間なのだから、想定外の事が起きればパニックになるかもしれないのだから。
「でも元は人間かもしれないのですよね‥‥」
不知火 チコ(
gb4476)がポツリと呟く。確かに資料には『人間を元として作られた可能性が高い』とある。
「ですが――元が人間でも、キメラはキメラ! うちらの敵です」
不知火は手を強く握り締めながら自分に言い聞かせるように少し大きめの声で口に出す。
「人型キメラか‥‥まぁ、これだけの人数も揃ってるしそれ程手こずる相手でもないだろう」
ブロント・アルフォード(
gb5351)がポツリと呟く。手こずる相手ではない、そう言いながらも彼の表情から『油断』というものは一切感じられなかった。
「‥‥‥‥はぁ」
ブロントの隣で大きなため息を吐いているのはフィルト=リンク(
gb5706)だった。
「よりによって、依頼を受けた後にAU−KVの調子が悪くなるなんて‥‥」
再び「はぁ」とため息を吐きながらフィルトは呟く。彼女のAU−KVは調子が悪くなり、今回はAU−KVを使わないという制限された中での戦闘となる。
「そういえば、今回ご一緒するヨシュアさんは来ていないのですか?」
ナンナ・オンスロート(
gb5838)が周りを見渡しながら呟く、それと同時に小走りで此方へ向かってくる男性が視界に入ってきた。
「遅れてごめん」
息を切らせてやってきたのはスナイパーの男性・ヨシュア。元々は軍人で部下を率いていたというのは彼の資料にあった。
そして彼以外が全て死んだということも。
「同じスナイパーのアトモスだ、宜しくな♪」
アトモス・ラインハルト(
gb7934)が手を差し出すと「宜しく」とヨシュアも手を出して、二人は握手をする。その様子は普通な筈なのに、他の能力者達はヨシュアに関して僅かな違和感を感じていた。
「そういえば、周辺地図を本部に申請しておいた。小さな森とは言え、地理を理解しておく事に損はないだろう」
神宮寺が借りてきた地図を広げながら能力者達に話しかける。そして作戦などを考えた上で、能力者達は高速艇に乗って現地へと出発したのだった。
―― キメラ捜索 ――
今回の能力者達は班を二つに分けて森の中をキメラ捜索する事に決まっていた。
A班・フィルト、ナンナ、神宮寺、不知火の四人。
B班・ブロント、西島、アトモス、ヨシュアの四人。
須佐は単独で行動するらしく、二つの班のどちらにも所属はしないようだった。
「何かあったら『トランシーバー』で連絡ってことで」
アトモスが呟き、それぞれの班は行動を開始し始めたのだった。
※A班※
A班は囮班として活動する事になっていた。AU−KVを使う上で静かな森では音を隠す事が出来ないと考えた能力者たちは、あえて目立つ行動を取ってキメラをおびき出そうという作戦だった。
「例えAU−KVがなくても、任務はしっかり遂行しなくちゃ‥‥」
フィルトは周りの気配を感じ取りながら小さく呟く。その研ぎ澄まされた精神は何者も見過ごす事はないのではないだろうか、というほどだ。
「しかし、地図にあった通り広い森ではなさそうだ、これなら捜索もさほど難しくはないかもしれない」
神宮寺はAU−KVを身に纏いながら森の中を捜索する。
「油断は禁物、とは言え、こうも目立つ行動をしているのに中々現われないですね」
不知火がため息混じりに呟く。確かにA班は目立つように灯を隠す事なく点けていたり、音を立てながら歩いたりとしているにも関わらず、未だキメラが現われる様子はない。
捜索の際、ナンナと神宮寺は他の二人の捜索範囲を狭めるように動き、囮として少しでも危険が少なくなるようにしていた。
その時、森の少し奥まで来ていたらしく、少しだけ拓けた場所に出た。
「この辺で戦闘になれば理想的ですね」
ナンナが呟いた時に銃声が響き渡る。森の奥、そこに佇むのはよろよろと動く軍服姿の人型キメラだった。
すぐさまフィルトは『トランシーバー』でB班へと連絡を行い、合流するまでの戦闘を開始し始めたのだった。
※B班※
「さあ、たっぷり稼ぐとしようかな♪」
アトモスは『クルメタルP−38』を携えながら周囲を警戒して呟く。A班が目立つように行動を行い、B班は普通にキメラ捜索。どっちが見つけても合流して一気にキメラを叩くという作戦内容だった。
「面倒だな‥‥」
はぁ、と西島はため息を吐きながら呟く。彼はキメラの痕跡を見つける為に木の根元、草陰などに注意を払っていた。彼の中にある『人型に対する憎悪』が早く人型キメラを退治――いや、殲滅と言う名の殺戮を行いたいと彼を駆り立てるのだろう。
「しかし静かな森だ。鳥の囀りも何もない――キメラのせいだろうか」
ブロントが空を見上げながら呟く。確かに森には鳥や獣が生息していておかしくはないのに、それらを感じる事は出来なかった。
「須佐さんからも連絡ないし、まだキメラは発見できていないのかな」
ヨシュアは自分の持つ『トランシーバー』を見ながらため息混じりに呟く。
まただ、恐らくヨシュアと行動する能力者達は心の中で同じ事を呟いただろう。ヨシュアを見ていると、何処か危うい感じさえ受けるのだ。無気力なわけではないのに、何処か感情のない人形のような雰囲気を感じさせる。
しかし、今はヨシュアの事を気に掛けるより先にキメラ退治を行わねばならない為に、能力者たちはあえて気づかないフリをしたのだった。
「どうやらA班がキメラと遭遇したらしい。オレ達も行くよ」
アトモスが『トランシーバー』を見て呟く。どうやらA班から連絡が入ったようで、B班は急ぎ足でA班がいる場所へと向かっていったのだった。
※須佐※
A班とB班のどちらにも属していない須佐は木の上を伝って移動していた。森の中といえども人が歩けば痕跡が残る。
ましてやキメラがその痕跡を隠すような知恵を持っているようにも思えない――これが須佐の考えだった。
「もっとも‥‥消してあればあったで不自然なので見つけやすいだろうが」
独り言のように須佐が小さな声でぼそりと呟く。そして彼が木の上を伝って捜索している理由は見通しも良いだろうから、と言う理由だった。
それから数分後、偶然にもA班がいる場所へと到着して、キメラと遭遇している事を知ると木から下りて駆けたのだった。
―― キメラとの戦い、自分との戦い ――
能力者達が合流すると、本格的な戦闘が始まる。須佐は『刹那の爪』を使った蹴り技で攻撃を仕掛ける。その際に『【OR】タイガーファング』の鉤爪部分を使った拳や肘打ちで牽制攻撃を仕掛けてキメラの気を足から逸らさせていた。
「さぁ‥‥始めようか‥‥人型‥‥宴の‥‥始まりだ‥‥」
西島は低く呻くように呟くと姿勢を低くして、まるでタックルでもするかのようにキメラの懐へと潜り込む。
そしてキメラごと木に突き刺して行動を奪おうと試みるが、隠し持っていたナイフにより傷を負い、西島は一時下がる。
「援護する、行け!」
神宮寺がAU−KVを身に纏い、仲間達の盾役を買って出ると『M−121ガトリング砲』でキメラを攻撃する。
「哀れな‥‥たとえ、資料通りにもしも元が人間だったとしても――今はうちらの敵、敵は退治するのみ」
不知火は『エクリュの爪』を構えながら呟くと、キメラとの距離を一気に縮めて攻撃を仕掛ける。覚醒を行った事で彼女の性格は今や残忍にと化しており、その攻撃に慈悲は見られない。
「喰らえ!」
不知火の攻撃の後、キメラに攻撃をする暇を与えぬように、ブロントが前に出る。彼は『迅雷』でキメラとの距離を一気に詰めて『抜刀・瞬』を使用して主兵装と副兵装を持ち替え、更に『円閃』を使用して攻撃を仕掛ける。
「相手が悪かったな」
ブロントは吐き捨てるようにキメラに言葉を投げかける。そして彼の背後からは入れ替わりでフィルトが『【OR】おもいやり』を構えて攻撃を仕掛けていた。彼女は防御を主体として攻撃を行うが、それは彼女の持つ伸縮自在の武器があってこその兵法だ。
そして彼女を支援するようにナンナが『ドローム製SMG』で射撃を行う。
「ヨシュアも射撃で仲間を援護してくれよ? 頼んだよ♪」
アトモスは『隠密潜行』を使用しながらヨシュアに話しかけ、キメラに狙撃しやすいポイントへと戻っていく。
アトモスの言葉にヨシュアは首を縦に振り、自らの武器で援護射撃を行う。
「オレの弾丸からは逃げられないよ〜、大人しく倒されなよ♪」
アトモスは『鋭覚狙撃』と『強弾撃』を使用しながら攻撃を仕掛け、キメラを後ろへと下がらせる。
「もう少し下がりなさい」
ナンナは呟くと『貫通弾』でキメラを攻撃して、勢いよく後ろへと下がらせる。しかしキメラも踏ん張り、再び前へと出てこようとするのだが、ナンナはもう一度『貫通弾』で攻撃を仕掛けてキメラを木へと激突させる。
そしてその僅かな隙を見逃さずに西島が飛び出て、キメラの両腕を攻撃した後、腹部に『グラファイトソード』を突き刺して木にくくりつける。
「遠慮するな‥‥人型‥‥死ぬほど痛いだけだ‥‥」
西島は呟くと『ハンドガン』をゼロ距離から発砲してキメラを攻撃する。そして須佐がジャンプをして連続キックを行った後に『忍刀 颯颯』に武器を持ち変えて攻撃を仕掛ける。能力者達の連携攻撃を受けてキメラは銃で無差別に攻撃を行ったが、能力者達には大したダメージを与えられぬまま息絶えていったのだった。
「ガアァァァァ!!!」
戦闘終了後、西島はまるで獣のように雄たけびを上げる。
「‥‥まだ、俺は生きてる――許されないんだな」
ヨシュアがぽつりと呟いた言葉、それは誰も聞き逃すことはなかった。
―― 彼に償いを ――
「死にたければ勝手に死になさい。生きる意志の薄弱な人間がうろうろしているのは迷惑です」
ヨシュアの言葉を聞いたナンナが突き放すように言葉を投げかけた。
「俺の罪が許されるのは、俺が死ぬときだ――だから、俺は」
ヨシュアが呟いている途中で「死者が死ぬのは覚えている人間が居なくなった時」とナンナが言葉を挟んだ。
「何をしても罪だと思うならそれは一生消えない。それを苦に終わりにしたければすればいい。生きたいなら‥‥一生地べたを這いずり回って生きることだ」
須佐がヨシュアに話しかける。
「戦争中に‥‥罪を償おうと‥‥考えるな‥‥死ぬなら‥‥平和な時代に‥‥散れ‥‥散った者達の為に‥‥今を生きろ」
西島がぽつり、ぽつりと重みのある言葉を吐いていく。
「貴方はただの人形に成り下がりましたか?」
不知火の言葉の意図が分からずヨシュアが首を傾げると「うちは大事な家族を殺したキメラを許せない」と不知火は言葉を続けていく。
「貴方はどうしたいのでしょうか? 怒りを乗せるわけでもなく、ただ子供のように泣き崩れているだけですか? 貴方には力があるというのに」
力を持っているヨシュアだからこそ、不知火は立ち直って欲しいと考えているのだろう。その様子をフィルトは黙って見ていた。
彼女は昔に父を亡くし、人を殺し、それを止めようとした友人でさえも殺そうとした過去がある。死のうとして自傷していた時期もあったのだとか。
(「でも、結局、意味なんてないですよね。死んだら何もなくなるだけですから」)
フィルトは心の中で呟きながら黙ったまま俯くヨシュアを見ていた。
「人間、死ぬときは死にます。どんなに理不尽でも‥‥」
ナンナが小さな声で呟く。
(「死ぬという事は甘えること。私が死んでも、世界は回り続けます」)
中々甘えることは出来ませんね、フィルトはため息混じりに小さな声で呟いた。本当に小さな声だったので他の能力者達の耳に入る事はなかったのだけれど。
「貴方の死は貴方が大事に思っていた部下達の死でもあります。死んでいった人の為にこそ、今ある生を喜び、精一杯生きて欲しい」
ナンナの言葉に「俺は甘えていたのかな」とヨシュアがポツリと呟いた。
「死んでいった部下達の為に死んでやること、だけど自分で死ぬことはきっと部下達が許さない。だから俺は殺されたかった。殺される日まで生きようと決めた」
ヨシュアは自分の胸に秘めていた思いを小さな声で呟いていく。
「直ぐに考えを変えるなんて無理だと思う。だから、なるべく、今後は部下達の為に、部下達が出来なかったことをして生きていこうと思う」
気づかせてくれてありがとう、ヨシュアは俯きながら能力者達に礼を言う。彼が顔を上げない理由、それは能力者達にも分かっていただろう。
彼の足元には雨も降っていないのに、ぽつり、ぽつりと雫が落ちて地面に染みを作っていたのだから。
「さて、行くか‥‥」
ブロントが呟き、能力者達は報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。
END