タイトル:滅び―失われた自由マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/13 03:18

●オープニング本文


「明日を生きる為に、今日を生きる、今日を生きる為に、今日も戦う‥‥」

※※※※

北海道‥‥日本で一番大きな場所だが、此処は既に一部地域がバグアに支配されており、既に全土が戦場となっているため『自由』は存在しない。

軍事施設や人間が有利になる場所は全て制圧され、人々が心から笑える場所など‥‥とうになくなってしまった。

人々の心を支配するのは、死への恐怖、そして未知なる存在バグアに対しての畏怖のみである。

「良かった、まだ大丈夫みたいね」

女性・橘・菫(たちばな・すみれ)は山間の小さな街にある薬剤所を見てほっと安堵のため息を漏らした。

元はとある製薬会社が所有していた小さな施設なのだが、バグア襲撃の際に製薬会社が壊滅し、この場所も忘れ去られていたのだ。

そして、隠れるには格好のこの場所では菫が軍が支配される前に持ち出した銃器類の設定書を元に武器が作られている。

武器とは言ってもバグアやキメラ達に十分に対抗できるほどの量はない。

「ごめんね、みんな‥‥これ差し入れよ」

薬剤所の地下で武器生成をする元軍人や研究者達に持って来た食料を渡しながら呟いた。

「やっぱり十分な設備がないから武器と呼べるものは作れないよ」

一人の男が作り上げた武器を菫に見せながらため息を吐く。

その武器はみすぼらしくとてもバグアたちと戦っていけるような物ではない。

「何か十分なものを用意できればいいんだけど‥軍関係の施設は制圧されていて近づくことすらできないし‥‥」

その時、上の玄関の音がバタンと激しく開く音がした――‥‥いや、開くというよりは壊されたと言った方が正しいのかもしれない。

「待ってて、見てくるわ」

菫は地下への入り口からソッと上の状況を見るとキメラが一匹、唸りながら薬剤所内を見渡していた。

「参ったわね‥‥キメラが一匹上にいるわ」

外見は神話上の生物『ミノタウロス』を模したような外見で、玄関の前に立っているので外に出る事はできない。

「ここもいずれは見つかるわ‥‥戦わなければ―――死」

菫は作られたみすぼらしい銃を取り「この場所に来るようなことがあれば‥‥戦うわ」と低い声で呟いた。


●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
柴村千鳥(ga0701
17歳・♂・GP
麻斬 紘馬(ga0933
15歳・♂・GP
ジャンぴゅう(ga1078
20歳・♂・GP
眠狗(ga1654
17歳・♂・SN
角田 彩弥子(ga1774
27歳・♀・FT
カーグ(ga1887
17歳・♂・FT

●リプレイ本文

「みんな頑張ろうね〜」
 ミノタウロスを倒し、危険に晒されている者達を助ける作戦をしながらハルカ(ga0640)が今回一緒に仕事をするメンバーに声を掛ける。
「薬剤所の場所は移動艇内で確認済みです、此処からそう遠くはありません」
 柴村千鳥(ga0701)が薬剤所がある場所を指差しながら呟く。
「ったく! 気にいらねえな。人ん家で好き放題暴れやがって! 此処で暴れていいのは俺様だけだっつーの!」
 角田 彩弥子(ga1774)がぶつぶつと文句を独り言のように言っている、彼女は北海道出身らしく地元を踏みにじられて怒っているようだ。
「まあまあ、怒りは全てミノタウロスにぶつければいいじゃないか」
 カーグ(ga1887)が怒る角田を諌めながら呟く。
「時間はねえから、気楽にとばかりにはいかなさそうだけどな」
 麻斬 紘馬(ga0933)が呟きながら作戦の再確認をしてミノタウロスがいる薬剤所へと向かい始めた。


 今回の作戦はスナイパーの攻撃でミノタウロスの注意を引き、残っているメンバーでボコ殴りにしようという作戦だ。
 しかし、非戦闘員が襲われている場合には作戦も違ってくるのだが‥‥。
「‥‥お互い頑張りましょう」
 同じスナイパーの眠狗(ga1654)に話しかけるのは霞澄 セラフィエル(ga0495)だった。スナイパーの二人がまず攻撃の先駆けとして動かねばならない。二人が失敗すれば救出を待つ者達の命も危うくなってしまうため、慎重に動く必要がある。
「‥‥?」
 ふいに、ジャンぴゅう(ga1078)が「しっ」と指を口に当てながら小さな声で呟く。
「どうした?」
 角田がジャンぴゅうに合わせて小さな声で問いかけると「何かが壊される音が聞こえる」と答えた。
「急いだ方がいいな」
 呟くと同時に歩いていた足を、急ぎ足に切り替え、薬剤所へと向かった。


「あそこ!」
 麻斬が言いながら指差す方向にはミノタウロスが玄関口から顔を覗かせていた。様子を見る限りでは中にいる人達に危害を加えている感じはしなかった。
「では、此処で待っていて下さいね、ミノタウロスを薬剤所から引き離しますから」
 おっとりとした口調で眠狗が呟き、霞澄と警戒役としてハルカが同行した。
「俺達も周りに敵がいないか慎重に行こうぜ」
 性に合わないけどな、麻斬は愚痴りながらスナイパー二人とハルカを見送ったのだった。


「私が周りを見とくね」
 ハルカは少し離れた所で止まり、眠狗はライフルで、霞澄は弓で攻撃を開始する。
「‥‥行きます」
 霞澄は呟き、弓に弾頭矢を番えて撃つ。それを数回繰り返し、眠狗がアサルトライフルを撃ち、ミノタウロスを薬剤所内から誘き出した。
「より成果をあげれば父が誉めてくれる‥‥だから、此処で負けるわけには行かないんです」
 眠狗は発砲しながら呟く――‥‥だが、眠狗の背後から別のキメラが現れ、彼を攻撃しようと手を振り被る。
 そこでハルカの出番だ、ハルカは眠狗を攻撃しようとしているキメラを殴り飛ばす。
「あっちはミノタウロスの相手で忙しいの、私が相手してあげるから光栄に思いなさい」
 ハルカはにっこりと微笑んで拳を振り上げた。


「何とか、ミノタウロスを誘き出すのには成功したみたいだな」
 カーグが薬剤所から完全に姿を現したミノタウロスを見て、小さく呟く。
「ようやく俺様の出番か」
 ロングスピアを持ち、豪力発現と豪破斬撃を使い、角田が「俺様が相手だ!この牛野郎がぁ!」と叫ぶ、それはミノタウロスの標的がスナイパーに行かず、自分に来るのを計算した行動だった。
 しかし――‥‥その時、予想していない出来事が起きた。叫び声に気づいたのか、それとも戦いの音に気づいたのか、どちらかは分からないが地下にいたであろう女性・菫が見栄えの悪い銃を持って出てきてしまったのだ。
 それに気づいたミノタウロスが方向を変え、菫の方へと鈍く歩いていく。
(「余計な事を‥‥」)
 柴村は心の中で忌々しげに呟くと、瞬天速を使い、ミノタウロスの攻撃から菫を守る――‥‥自分の体を盾として。
 深くはないが、彼の背中はミノタウロスの爪によって裂け、多少の血が流れる。それを見た菫はパニック状態になり、女性特有の甲高い声で叫ぶ。
「オイオイ、ミノちゃん。じゃれる相手が違うんじゃねえか?」
 麻斬は一度攻撃を与えた後、後退する。仲間がミノタウロスから離れたのを好都合にスナイパー二人が援護攻撃を繰り出した。
 グオオ‥‥とミノタウロスが叫び、よろめいた所をジャンぴゅうが「良いですね、良いですよ」と笑顔で呟きながら大柄な体格を生かした連発攻撃でミノタウロスにダメージを与えていった。
「あんまり無理すんなよ」
 ジャンぴゅうが戦っている間、麻斬が救急セットで柴村の傷を手当していく。見た目以上に傷は深くなく、傷も残る事などなさそうだ。
「これ、使えませんか?」
 柴村が取り出したのは少し強度の高いワイヤー、何処で手に入れたのかと聞けば、先ほどミノタウロスから攻撃を受けた際、倒れる直前に拾ったものだと柴村は答えた。
(「結構‥‥抜け目ねえんだな」)
 感心したような目で麻斬は柴村を見て「これで動きを封じれればいいな」とワイヤーを手に持つ。幸いにもミノタウロスの意識はジャンぴゅうに向かっており、ワイヤーを巻きつける事は出来そうだ。
 このままミノタウロスの意識が此方に向かなければ。
「カーグ君と私で巻きつけ係をするよ」
 言い出したのはハルカ、確かにこの中でも俊敏さはジャンぴゅう、ハルカ、カーグの三人がダントツだ。一番素早いジャンぴゅうが敵を翻弄し次に素早い二人がワイヤーをまきつける、理論としてはかなり成功率の高い話になる。
「‥‥この方法しかないな、じゃあ‥‥いってみよーか」
 麻斬、角田、柴村が攻撃を仕掛け、ミノタウロスを倒す。この方法で行く事に決めたメンバーはそれぞれが向かう場所に走り出した。


「ジャンぴゅう君!そのまま敵を翻弄して!」
 ハルカが叫ぶと、ジャンぴゅうは状況を把握してないけれど「分かりました」と答え、ミノタウロスの方を再び向く。
「かなり痛いですけど我慢してくださいね♪」
 ジャンぴゅうは軽い口調でミノタウロスに問いかけ、攻撃を繰り出す。その隙にハルカとカーグの二人がミノタウロスにワイヤーを巻きつけ、動きを封じた。
 そして、ミノタウロスが動けなくなると同時に全員で襲い掛かり、ボコ殴りタイムが始まったのだった。


「終了っ」
 角田が満足気に手を高く上げて叫ぶ。
「あ、の‥‥ありがとう、ございました」
 銃を持ってカタカタと震えている菫の手から「その武器‥‥貴女には荷が重過ぎます」と言って柴村が取り上げた。
「結局、矢が一つしか残りませんでした」
 霞澄が残った一本の矢を見せながら苦笑気味に呟く。ワイヤーで動きを封じたミノタウロスを後方から攻撃して、トドメを刺した。
 もちろん、接近戦のメンバーには離れてもらったが。そうでないと万が一味方を攻撃してしまう可能性もあったのだから。
「此処には貴女一人か?」
 カーグが問いかけると「地下にまだ人が‥‥」と菫は小さく答えた。
「では、きみは地下にいる人を集めて街へ戻るんだ。ここもキメラが現れた以上、安全ではなくなったのだから」
 カーグが諭すように呟くと「‥‥分かりました」と菫は下を俯きながら答えた。
「バグアたちと戦えるのはエミタと同調した者だけだ、気持ちは分からなくもないけど、死に急ぐ必要はねえだろ」
 麻斬が菫に話し、メンバーは任務達成の報告をしにUPC本部へと戻っていったのだった。


END