●リプレイ本文
―― ふんどしーちょ祭 2009 開催 ――
企画・準備を経てついにやってきたこの祭。既にこの祭なくして夏を終わらせられないという病的褌愛好者も存在するほどに一部では『ふんどし』が流行している(筈)。
「はっはっはーっ、今日はついにふんどしーちょ祭だなー! 俺は感激してるんだぜー!」
変態褌男である大石・圭吾(gz0158)が櫓の上に乗りながら叫んでいる。ちなみに開催7時間前から待機しており、鶏の声と共に叫び続けている変人である。
「ついにこの日が来ました‥‥この日の為に生まれてきたと言っても過言ではなく‥‥!」
鳳 つばき(
ga7830)が歓喜に震えながら呟く。
「ねぇ、これで本当に日本の文化を知る事が出来るの?」
鳳の隣で(彼女が騙して連れてきた)ティム・ウェンライト(
gb4274)がかくりと首を傾げながら問いかけてくる。
「もちろん、日本を知る為には褌、そして祭――この2つを融合したこの祭でなら真髄を知る事が出来ますよ」
きりり、と鳳は真面目な表情でティムに言葉を返したのだけれど‥‥。
(「大石さんとティム兄を連れてくるって(勝手に)約束しちまったしな‥‥」)
鳳は心の中で呟く。そんな事が勝手に約束されているなどティムは夢にも思わず「へぇ〜」と祭の風景をきょろきょろと見回しながら言葉を返してきた。
哀れなティム(と書いて生贄と読む)が大石と接触するまであと少し‥‥。
「準備も万端。あとは祭を楽しむだけッス」
皆、楽しんでくれると良いな〜、と言葉を付け足しながら祭の風景を見ているのは黒い法被に捻り鉢巻をした六堂源治(
ga8154)だった。彼は屋台の管理を行っており、祭に集まってきた一般人や能力者達に焼きそば、たこ焼き、わたあめなどを振舞っている最中だった。
「おじちゃーん、わたあめ下さいなー」
「おじっ‥‥」
小さな女の子が手を差し出しながら六堂にわたあめを求めてくる。
「おじちゃんじゃなくておにーちゃんッスよ」
苦笑しつつも六堂は少女にわたあめを渡しながら言葉を返した。
「六堂さん、あたしにもわたあめちょーだい」
香坂・光(
ga8414)が顔を覗かせながら六堂に話しかける。先ほどから元気に走り回っている姿は六堂も確認しており、その元気さに苦笑しながらわたあめを渡す。
「次はあっちを見て来よう〜♪ あっちにも何か面白そうな事あったし」
「元気ッスね〜」
「ふっふ〜♪ こういうのは参加してこそ意義があるのだ♪」
香坂はそれだけ言葉を残すと、他の場所へと走って行ってしまった。
「‥‥ねぇ、何で私はこんな変態祭にいるのかしら」
キルメリア・シュプール(gz0278)が長い髪を靡かせながら隣に立つ白虎(
ga9191)に話しかけた。もやしと呼ばれる彼女は白虎に「祭に行くにゃ」と誘われてやってきたのだが‥‥何故か会場には褌一丁の怪しげな人物達が徘徊する祭。むしろ儀式のように彼女には思えた。
「ふっふっふ‥‥しっと団の皆もまさかキリーお姉ちゃんと来ているとは思うまい」
周りをきょろきょろと見渡しながら『しっと団』の仲間(と書いて敵と読む)がいないかを確認する。
「どうやら関係者はいないようだ‥‥ここを選んだのは正解だったようだにゃ。さぁ、キリーお姉ちゃん、祭を楽しむぷぎゃ」
白虎の台詞の最後らへんでキリーのパンチが顔面に入り、白虎は『ぷぎゃ』とマヌケな悲鳴をあげてしまう。
「人の話を聞きなさいよ、何で、私が、こんな変態祭に、いるのかしら、理由を1文字で答えなさい――はい、時間切れ」
ごす、と鳩尾に一撃入れながらキリーが呟く。ちなみに時間切れと言いながらカウントが入っていないのは気のせいだ。
「おおぅ、確か前に女性能力者を紹介してくれた悪魔の子じゃないか」
き・らーんと輝く爽やかウザ攻撃を仕掛けながら大石が白虎とキリーに話しかける。
「あ、父上がお世話になってますのにゃー」
白虎が痛々しい姿になりながらも丁寧に挨拶をすると「父上?」と大石は首を傾げる。
「実は今まで黙っていたが、俺はドリル娘だけではなくしっと団総帥・白虎の父でもある!」
どどどーん、と天道・大河(
ga9197)が現れながら大石に対して衝撃的事実を発表する。
「な、何て事だ。俺には嫁はおろか彼女すら出来ないのに、お前は‥‥お前は、嫁もいて、娘と息子まで‥‥っ!!」
「ちなみに妻のくれあ(
ga9206)でーす」
にっこりと笑って現れるのはどう見ても20歳以下の少女にしか見えない女性だった。
「ちなみに実の母上ですにゃ」
白虎の言葉に「‥‥年齢さ(ばちこん)ぎゃ」と言葉を全て言い終わる前にくれあのハリセンフルスイングがやってきて大石は「うをををを」と呻き始めた。
「うちの一家は年齢を気にしちゃいけないのよ、全てを知るのが良い事じゃないわ」
ふぅ、と天道 桃華(
gb0097)が哀愁漂う表情で呟く。
「おおおお! 何故だ! 何故お前にはこんな若奥様がいるんだ! 何で俺にはいないんだあああああああ!」
別な意味でヒートアップしている大石だったが、鳳と一緒に歩いているティムを見つけて「初恋ラヴァ――――!!!」とティムたちに向かって駆け出したのだった。
「あらあら、楽しい方ですね」
くれあがくすくすと笑いながら呟き「ふ〜ん、コレが、もやしちゃんね」と桃華がキリーをじろじろと見ながら呟く。
「ウチの弟に手を出してるのはアンタかっ」
桃華の言葉に「ふぅ」とキリーは一つ大きなため息を吐いた後に『ごす』と頭突きを食らわす。
「私じゃないわよ! むしろお宅の弟が私に手を出して来てるんですけど! この前なんて何したと思う? こいつったら夜這いに来ようとしたのよ? その辺の躾もちゃんとしなさいよね、このクロワッサン!」
恐らく桃華の髪型を見て『クロワッサン』と言う無理矢理な言い方をしたのだろう。
「にゅあー! ちちちちち違う! ヨバイなんてボクしてナイヨ!」
動揺しまくりで口調が果てしなく怪しげな人物になっている。
「そうだ、折角だからサラシと法被くらいは着ましょうよ」
くれあが手をぱんと叩きながら「名案」と言わんばかりにキリーに話しかける。
「‥‥すんごく無理矢理に話をぶった斬ったわね‥‥さすがは年齢詐――‥‥むぐっ」
「それは言っちゃ駄目なのにゃー!」
「あらあら、何か言ったかしら? それじゃ早く着替えるために更衣室に行かなくちゃね」
にこにことくれあがキリーを引っ張りながら更衣室へと向かっていく。
「ふ、あたしはどこぞのもやしと違ってちゃんと褌姿になるわよ、もちろんさらしもつけるわよ」
桃華が呟いた時「いや〜〜〜ん、何この漢くさい祭ぃぃぃっ」と鵺(gz0250)が腰をくねくねとくねらせながら漢の匂い漂う祭を見て叫ぶ。ちなみに彼(彼女)は大河に呼ばれてやってきたらしい。
「あれ? 師匠?」
千祭・刃(
gb1900)がティムを目掛けて走る姿を見て呟く。
「おお! 弟子も来たのか!」
「師匠、お久しぶりです! ふんどしーちょ祭、思いっきり盛り上げましょう、僕も協力しますよ」
変態な師匠に付き従う純真な青年なのだが‥‥。
「それでは、俺の初恋の人を探すんだぜっ!」
きらーん、と意味不明の指令を与えて大石は「うおおおおおっ」と叫びながら走り去っていってしまった。
「‥‥初恋の人? あれ? 祭は?」
ひゅう〜、と千祭の白い褌が風に靡くなかで、千祭は小さな声で呟いたのだった。
「これがふんどしーちょ祭かぁ‥‥」
獅子河馬(
gb5095)がふんどしーちょ祭入り口付近できょろきょろとしながら呟く。色々な競技があると聞いてやってきた彼は褌水泳に参加するつもりで祭へとやってきていた。
「まだ時間もあるみたいだし、ちょっと色々見てみようかな」
獅子河馬は呟き、屋台が並ぶ場所へと向かってゆっくりと歩き出したのだった。
「たまには半裸もいいもんだな!!」
ゼンラー(
gb8572)は呟きながら白い褌を靡かせながら仁王立ちで祭の風景を見ていた。彼は名前の通り、脱ぎたがりという大石に勝るとも劣らない性質、性格の持ち主だった。ちなみに彼は男女問わず全裸が好きらしいのだが、一番好きなのは『自分』が全裸になる事らしい。更に言うなら性的な意味で全裸が好きなのではなく、嗜好なのだと彼は後に語る。
さまざまな能力者・一般人が集まる中『ふんどしーちょ祭 2009』は開幕したのだった‥‥。
※ 競技開始 ※
「此処は私が褌にならないで誰がなる!」
ばさっと着ていた洋服を脱ぎ、鳳は褌にサラシ姿となる。
「おお、女神! あまりサラシの意味がないな! はっはっはっは」
大石が余計な言葉を呟き、鳳に祭が始まったばかりだと言うのにクリティカルヒットを繰り出す。
「くっ‥‥胸が全てじゃない、この祭に必要なのは褌であって胸ではない!」
くわっと女神の怒りのように表情を険しくして、己のまな板ぶりを誤魔化すかのように競技に移ったのだった。
・褌騎馬戦 鳳、六堂、香坂、白虎、大河、桃華、千祭、ティム、ゼンラー、大石。
・褌倒し 鳳、六堂、香坂、白虎、大河、桃華、千祭、ゼンラー、大石。
・褌マラソン 鳳、香坂、大河、桃華、千祭、ティム、ゼンラー、大石。
・褌水泳 鳳、六堂、香坂、大河、桃華、千祭、獅子河馬、ゼンラー、大石。
・サバイバル褌 鳳、香坂、白虎、大河、桃華、千祭、ティム、ゼンラー、大石
能力者達が参加する種目は上記の通りで、能力者達の他にも一般人などが大勢参加する事になっているので人数としては問題ないだろう。
「第一の競技は、褌騎馬戦、褌騎馬戦になります〜。参加される方は入場口までお集まり下さいませ」
くれあは放送スタッフとして働いてくれており、迷子のお知らせや次の競技の案内などをしてくれていた。しかし微妙にセクシーな放送の為に放送室の所まで放送人の顔を見に来る男性が続出していたとか‥‥。
※褌騎馬戦※
褌騎馬戦は二組に分かれて、競技する事になっていた。ルールは前回同様、敵側の組の帽子を取る事になって時間が切れた後にどれだけ相手の帽子を持っているかで勝敗が決まるというものだった。
A班・千祭、白虎、六堂、香坂、大石。
B班・ゼンラー、鳳、桃華、ティム、大河、白虎。
その他にも両班ともに一般人が参加する事になっている。
「それでは、褌騎馬戦を開始いたします」
くれあの言葉の後に開始合図を示す笛の音が響き渡り、それぞれ敵の帽子を目指して走り出す。能力者達はそれぞれ上を担当する事になって、彼らの運び役は一般人が快く引き受けてくれた。
「褌師匠! 僕はティムさんの帽子を取りますので他の方を「駄目だ! 弟子よ!」」
千祭の言葉に大石が猛反論して言葉を返してきた。
「初恋の人は俺が射止めるのさー!」
千祭は『なにを?』とあえて聞かずにティムから桃華へと標的を変えて競技を楽しむことにした。
「‥‥ええええっ! 何か圭吾さんが目を血走らせてこっちに来るーっ!?」
ティムはまるで『変☆質☆者』のように自分に向かってくるぎらぎらと目を血走らせた大石を見て少し怯んでしまう。
「俺はこの日の為にイメージトレーニングを積み重ねてきた」
ゼンラーは「ふふふふふ」と狙うターゲットを選びながら不敵に笑んでいる。そして香坂の帽子を狙っている桃華の後ろまで行き、素早く帽子を取り上げる。
「きゃあっ! まさか後ろから取られるなんて!」
桃華は悔しそうに叫び退場していく。
「ふはははは! 女(?)に目が眩んだお前を捻り潰すなど造作もないわ!」
大河がどこか威圧的なオーラを出しながら大石に向かっていく。しかし褌姿なので別な威圧感しか感じられなかったりする。
「嫁のいる貴様なんかに負けることなど俺の褌道が許さんのだあああ!!」
明らかに大河に対する嫉妬の炎が大石を包んでいる。
(「ふーむ、しっと団員にいいかもしれんにゃ」)
その様子を見ていた白虎は心の中で呟きながら隙を見せた香坂の帽子を取る。
「我が精鋭たちよー! 突撃ーッ!」
鳳の言葉を合図に彼女と同じ班の能力者達や一般人達は一斉に突撃させる。
「そうはさせないッスよ! こっちも同じく突撃ッス〜!」
六堂も同じく『突撃』コールを行い、それぞれ自由に動いていた班が一気に連携を取って動き出す。決着は一気につく形となり、僅差で六堂たちの班が勝利を手にしたのだった。
※褌倒し※
巨大な棒に人をくくりつけ、その棒が倒された方の負けというシンプルなルールのこの競技。しかし括り付けられる方としては恐怖極まりない競技でもあった。
A班・鳳、香坂、白虎、桃華、大河、キリー。
B班・六堂、千祭、ゼンラー、大石、鵺。
何故キリーと鵺が参加する事になったのかと言うと話は数十分前になる。
〜白虎回想〜
「にゃー、お姉ちゃんも何か競技に参加しようにゃー」
折角の祭なのだから、と白虎が誘うも「嫌よ」とリンゴ飴(未開封)でゴスゴス殴りながらキリーは言葉を返してくる。その結果、綺麗なリンゴ飴は無残にもひび割れてある意味恐怖の武器と化していた。
「にゃー、そんな事言わないで一緒にやろうにゃー」
「何で私が褌一丁の貧乏人みたいなことやらなくちゃいけないのよ、あの姿を見て「わぁ♪ たのしそー♪」とか言える?」
キリーが指差したのは鼻血吹きながらティムを追いかける大石の姿。確かにあんな姿を見せられてしまえば祭を楽しもうという気持ちがグンと低下するのも分かる。
「う、じゃー勝負にゃ! 負けた方が屋台のたこ焼きを奢るでどうだっ」
白虎の言葉に「たこ焼き、焼きそば、リンゴ飴、わたあめ、クレープのフルコースならいいわよ」とキリーは白虎の挑発に乗って棒倒しに参加する事になったのだった。
――回想終了
〜大河回想〜
「ちょっとぉっ! 何でこんな祭の招待状なんか寄越したのよっ!」
きぃっと鵺が大河に詰め寄る。
「イケメンはいるだろ? 俺は間違ってないぞ。イケメンがいる祭に来いって招待状出したしなっ!」
大河は悪びれた様子もなく言葉を返す。確かに彼は嘘は言っていない。能力者・一般人、共に鵺のストライクゾーンのイケメンは多数存在するのだから。
ちなみに大河が鵺を呼んだ理由は彼が居るチーム、対戦相手の男(イケメン限定)が面白おかしいことになりそうだと考えたからだったりする。簡単に言えばカオス要員にする為に呼んだと言っても強ち間違いではないのかもしれない。
――回想終了
「私は今、空と一体化している‥‥ような気がするケド怖い――ッ!」
鳳は棒に括り付けられ、まるでこれから魔女裁判でも受けるような格好になり、空を仰ぐ。いつもよりもはるかに空に近いため清々しさより恐怖が鳳の体を支配する。
「おおおおおおっ! まるで神になったようではないかー!」
相手チームの括られ役は大石であり、大石はBAKA、BAKAである為に恐怖など微塵も感じていないのだろう、BAKAだから。
「楽しそうッスね〜‥‥」
六堂は苦笑しながら楽しそうに叫ぶ大石を見て呟く。
「ほうほう、大石さんは別のチームか♪ 思いっきり体当たりしてやろう♪」
香坂はにやりと笑って準備運動を始める。
「何で私も参加してるのよ‥‥」
はぁ、とキリーはため息を吐きながらぶつぶつと文句を呟いていると「まぁ、負けるくらいなら戦わないのも戦略の一つだけどね‥‥」と白虎が「ふっ」と挑発的な視線をキリーに向けた‥‥のだが「煩いわよ、白虎のくせに」とベチンと平手打ちをくらう。
「‥‥何故、俺の班に奴がいる‥‥俺は敵の妨害役をしようとしてるのに、奴は仲間の妨害をしてるじゃないか」
大河は仲間に擦り寄る鵺を見ながら呟く。
(「この勝負、圧倒的に俺たちが不利だぜ‥‥!」)
既に鵺によってやる気を削がれている人物が多数存在する。
「相手は大変ねぇ‥‥」
桃華は呟きながら「ねぇ、これからたこ焼きでも食べてお茶しな〜い?」と仲間をナンパしている。
「褌師匠! AU−KVは装着可能ですかっ!?」
千祭が大石に向かって叫ぶと「いかんぞー! それは危険だー!」と空から言葉が返ってくる。
「いかんですよー! それは私が危ないじゃないですかーっ!」
鳳も身の危険を感じたのか全身全霊で千祭を止める言葉を叫んでいた。
「おっと、大丈夫かい? あんまり危ないことはしないようにしような」
ゼンラーは少し躓いた桃華を見て優しく言葉を投げかける。
「大丈夫よ、でも敵だから手加減はしないからね」
桃華は言葉を返しながら自分の陣地へと向かっていく。
そして開始の合図の笛が鳴り、それぞれ敵側の棒へと駆けて行く。
「うおりゃ――ッ! 倒れるッスよ〜!」
六堂が棒に体当たりをするけれど、守っている一般人が多く、なかなか倒れることがない。
「ぎゃ――ッ! 六堂さん止めてくださいよーっ!」
「止めたら競技にならないッス〜!」
六堂は言葉を返しながらも体当たりを行う。
「うん、自分で提案しておいてなんだけどこれはシュールかも‥‥まぁ、楽しければいっか♪」
香坂は棒をよじ登り、支えるものがない天辺近くで左右にぐらぐらと揺らしてみる。
「おおおおおおっ! これはヤバイ! ヤバ過ぎるぞおおおおっ!」
大石はぎゃあぎゃあと喚きながら香坂を止めるが「大石さん、グッドラック」と香坂はにっこりと満面の笑みで言葉を返す。
「にゃー♪ 倒れるのにゃー!」
しかし白虎は何故か背後からキリーによって攻撃を受けている。彼女は全く競技をするつもりはないらしく、自分のストレス解消のためか白虎を背後から殴ったり蹴ったりしている。
「此処は通さんっ! へぷっ!」
イケメンの邪魔をしようとしていた大河だったのだが、鵺によって「邪魔よ!」とばちこーんっと殴られ、鵺は「頑張ってねぇっ!」と敵に手をぶんぶんと振りながら見送る。
「‥‥一体あの人は何をしたいのかしら」
桃華は「きゃあんっ」と気色悪く腰をくねらせる鵺を見ながら小さく呟いた。
お互い、一歩も譲らない戦いが続いたけれど香坂の左右に揺れる攻撃が決定打となり、大石が括られている棒が倒れ、大石は顔面から倒れたのだった。
※褌マラソン※
「続きまして、褌を地面につけないで走るという一風変わったマラソンを行います」
くれあの放送の後、今までの競技で疲れた能力者達は息を激しく切らしながら入場口へと向かう。
A班・香坂、大河、千祭、ゼンラー。
B班・鳳、桃華、ティム、大石。
それぞれ長い褌を着用して走るというもので、地面につけたらアウトというルールだった。
「自分でやっておいてなんだけど、これって意外と大変かも」
香坂は苦笑しながら呟く。立ち止まっている時は地面についており、これを地面につかせないようにするのは至難の技だろう。
「よーい、スタート!」
第一走者の香坂と鳳が走り始める。
「スーパーアルティメット褌ターボスペシャル!」
鳳は叫びながら「うおおおおお」と叫びながらスタートと同時にスパートをかけて走り始める。
「お、鳳さん‥‥! すご――――い?」
香坂は物凄いスピードで走る鳳を見て凄いと思ったのだが‥‥それも長くは続かなかった。
「ぜひーぜひーしぬぅー‥‥」
息を激しく切らし、既に褌はひらひらと地面についている。香坂もある程度の距離を走ると褌が地面へとついて「も、もう駄目‥‥」とふらふらしているのが分かる。
「ふふふふ、娘だからと言って父は手加減はせんぞ」
「それはこっちの台詞よ、あたしだって手加減はしないわよ」
大河と桃華はお互い火花を散らしながら走り始める。
「‥‥っ! 無理無理無理! ってあたしは子供なのに褌の長さが変わらないのは何で――ッ!」
桃華は叫びながら納得行かないように叫ぶ。彼女の言うことも尤もである。子供である彼女なのに褌の長さは父である大河と全く変わりないもので、これが余計に桃華にとって不利になっていたのだから。
「娘よ、だらしないぞー‥‥って言うかマラソンで全力疾走させるなぁぁぁぁ!」
しかし大河も半分ほどを走ったところであえなく脱落してしまった。
第三走者はティムと千祭で、大石にとってはどちらも自分に大切な人だった。千祭は大切な弟子、ティムは初恋の人(男だけど)なのだから。
「褌師匠! 頑張りますか「初恋の人〜! 頑張ってくれぃ!」‥‥師匠‥‥」
大石は弟子ではなく女(実際は男だけど)の応援へと走る。最近BAKAにくわえて弟子思いすらなくなりつつある最低の褌男になりつつある。
「あはは‥‥圭吾さん」
ティムは苦笑しながら呟く。逆に千祭はがっくりと肩を落としながら「師匠‥‥」と悲しそうに呟いていた。
「師匠の馬鹿――――――――ッ!!」
千祭は「うわああああん」と泣き叫びながら勢いよく叫び、ティムを追い越し、ここまでで初めて褌マラソンで完走した能力者となった。
「‥‥わたし、もう無理‥‥っ、これ以上は全力で走れない」
女性であるようにと鳳から言われているため、手を抜いた全力で走って褌を地面につけてしまう。彼女(彼)が本気で走っていたら完走できたかもしれなかったのだけれど‥‥。
最後の走者はゼンラーと大石であり、お互いに最後の走者である二人は妙にやる気を見せている。
スタートの合図と共にそれぞれ全力で走る。
「ふおおおおおおっ」
大石はティムに良い所を見せたいのかかっこよく走る――のだけれど、長すぎる褌に引っ掛かって転んでしまい、呆気なく地面に褌が着地してしまう。
「はははは、だらしないっ! 俺は完走するぞ!」
ゼンラーが大石の隣を通り過ぎた所「いかせーんっ!」と大石がゼンラーの足首を掴んで失格の道連れへと誘ったのだった。
「お、俺はちゃんと練習もイメージトレーニングもしたのに! 何故こんな負け方をしなければならんのだ――っ!」
「はっはっは♪ 手がつい出てしまったZE☆」
大石は悪びれた様子もなく言葉を返し、結局マラソンでは千祭だけが完走という形になったのだった。
※褌水泳※
続いての競技は褌水泳となり、能力者の中で参加者は9名だった。今回は班分けを行う事はせずにそれぞれ全員が同時にスタートするというルールだった。
「位置について、よーいっ! スタート!」
ばん、と空砲の音が響き、それぞれがスタートを切る。
「ぐははははっ、褌ぐねぐね泳法に勝てるかなっ!」
鳳は誇らしげにぐねぐね泳法を使って泳いでいくのだが、マラソンの時と同じく
「‥‥さすがは女神、ありえない動きッス」
ぐねぐねとまるで蛇行運転のように動く鳳を見ながら苦笑する。そう言いながらも彼は器用に泳ぎ、鳳へと追いついていく。
さすがは鍛えられた男というべきか、その速さは段々と鳳を追い越し、他の能力者達を追い越し、差をつけて一番となっていた。
「ちょっ、六堂さんはやいー‥‥! ってあたしはサラシが取れそうなのだ‥‥!」
香坂は泳ぎながら、取れそうになるサラシを押さえて泳ぐのだが、片手では上手く泳げずに「げふっ、がほっ」と水を思いっきり飲み込んでしまう。
(「ふふふふ、これも勝負だ。悪く思うなよ」)
大河はニヤリと笑いながら目の前を泳ぐ人物の褌を思いっきり掴んで引っ張る。相手が女性ならば立派な、もう逃れようのないセクハラだけれど‥‥。
「いやぁぁぁぁんっ」
「げほげほっ! お前のじゃねぇよ!!!」
汚いものでも触ったかのように褌からぱっと手を放して大河が叫ぶ。ちなみに奪われた褌はカマ男の鵺のものだった。
「何するのよ! きぃぃっ!!」
鵺は抗議してくるのだが、大河とて鵺の(放送禁止用語によりお伝え出来ません)なんて見たくもない。
「何をしてるのかしら‥‥」
鵺と大河の痴話喧嘩を横目に桃華が追い越しながら心の中で呟く。
「僕に出来る事は全力で泳ぐことだけ‥‥!」
千祭はキリリとした凛々しい表情で呟くのだが、彼は長距離は泳げないために暫く泳いで、どんどん沈んでいく様が見受けられた。
「よっしゃあっ! 一番は俺が頂きます!」
獅子河馬がスピードを上げてぐんぐんと六堂との距離を詰めていく。このまま行けば六堂も追い抜くのではないか――と思われたその時に悲劇は起きる。
「ぐわ――――――っ!」
突然流木が姿を現し、獅子河馬の褌に運悪くそれが引っ掛かってしまう。そして彼は無残にも流されてしまい、結果的にリタイアとなってしまったのだった。
「周りに気を向けねばならんのに、情けないぞ! ははは――ぐっふぅ」
ゼンラーは流れ行く獅子河馬を見ながら一気に泳ごうとしたのだが、流木第二段に激突されて獅子河馬と同じく流されてリタイアとなってしまった。
「あれ? そういえば大石さんは‥‥」
既にゴールしている六堂が水を飲みながら泳いでいる能力者や一般人達を見る。しかしその中に大石の姿は見受けられない。
「‥‥‥‥どうしよう、見なかった事にした方がいいッスかね」
六堂が見たもの、それはスタート付近でぷかーんと浮かんでいる大石の姿。どうやた足が攣ったか痙攣しているようにも見えた。
※サバイバル※
そして競技としては最後のものとなるサバイバルゲーム。
「はははははっ! 俺を倒せるものならば倒すが良い!」
大河は陣地の高台に登って高々と名乗りを上げる。その姿は『俺を撃ってくれ☆』と言っているようにしか見えず、敵側となっている能力者達は思いっきり、遠慮なく大河に集中砲火を喰らわせたのだった。
「父上は何をしてるのにゃ‥‥」
白虎は集中砲火によってあえなく撃沈した父を見ながら呆れたように呟く。
「くっくっく‥‥これでも喰らえなのにゃー!」
白虎は消火栓からホースを引っ張ってきて敵側に向けて一斉放水する。
「くっ、この馬鹿! そんなモン使うってどういう神経してるのよ!」
密かに参加していたキリーが叫ぶと「水鉄砲には変わりないのにゃー♪」と楽しそうにキリーを攻撃していた。
サバイバルの途中、少し抜けた香坂は競技の連続で体力を使い過ぎ「ぐぅ」と可愛く鳴るお腹を満たすために屋台の食べ歩きをしていた。
「腹が減っては戦は出来ぬってねー♪」
そして鳳はといえば「はっ」「とぅ!」「やぁ!」と派手なオーバーアクションで敵の攻撃を避けていた。ちなみに派手に動かなくても攻撃を避ける事が出来るのは気のせいだ。
「見せるぜっ! フンドシックアクション!」
しゃきーん、と鳳は無駄な動きで動き回り、その結果――忍び足で近づいてきた大石によって(エアーソフト剣)斬りつけられてリタイアとなったのだった。
「白虎、あんたの生意気な姉を滅殺しておしまい」
キリーが魔王の微笑みで呟き、白虎は魔王にそそのかされてホースで桃華を攻撃する。しかし此処で空気を読まないBAKAの登場である。大石が白虎の背後から「褌斬り!」とわけの分からない事を叫んで攻撃してきたのだから。
「師匠に手を出すな!」
千祭は水鉄砲を構えて大石を狙っている一般人に向けて攻撃――のはずだがくしゃみが出て標的が狂ってしまい、大石を攻撃してしまう形になったのだった。
「‥‥‥‥弟子よ」
ほろりと泣きながら大石が千祭に向けて話しかけると「す、すみません、褌師匠!」と千祭ががばっと頭を下げながら謝ってくる。
「お、お詫びに終わった後にマッサージしますから!」
「あら、大石さんはリタイアになったんですか?」
そこへ現れたるはティム。
「初恋の人――――っ!」
美しい師弟愛のはずなのだが、ティムが入ってくるとその師弟愛も脆く儚く崩れ去ってしまうことを千祭は再び学んだのだった。
「結局、マトモにしているのは俺だけか」
ゼンラーが呟きながら攻撃を仕掛けてきた一般人にカウンターをして相手を逆にリタイアさせる。これで彼は5人ほどをリタイアさせていた。
結局2時間ほどサバイバルを続けていたけれど、最後まで残ったのはゼンラー一人だった。
「おおぅ! 頑張ったじゃないかー!」
優勝賞品(?)は大石の熱いハグであり、それを見ていた能力者達、一般人達は『優勝しなくて良かった』と心の中で密かに思ったのだった‥‥。
―― 祭も終盤、褌神輿と褌音頭 ――
「いよいよ、祭も終盤となって来ました。これより褌神輿を開始します」
くれあが放送をすると、褌によって飾りつけされた神輿が登場してくる。
「‥‥くっ、やはり身長差がっ」
神輿を担ごうとした所、鳳は身長差のせいかぶらーんとぶら下がっているだけ。
「大丈夫ッスか‥‥」
六堂が苦笑気味に鳳に話しかけると「女神に不可能はないっ」とぶら下がりながら担いでいる。
「はっはっはっは、ふんどしーちょーっ!」
大石も楽しそうに笑いながら担いでいる。力BAKAなので大石のやる気が他の担ぎ手達に多少(というよりかなり)迷惑行為になっている。
「あ、これは楽チンだわ」
桃華は神輿に乗りながらゆらゆらと揺れながら神輿を楽しんでいる。彼女の身長では届かないということもあり、神輿の上に乗る事にしたのだ。元々重い神輿なのだから彼女一人の体重分が増えても担ぎ手達には問題ないだろう。
「そういえば、発射される人って誰なんでしょうね」
千祭が呟く。今回の神輿でも『誰か』が発射されることになっていた。それは誰にも知らされておらず、誰が発射されるのか誰にも分からないのだ。
「それでは、いよいよ発射役の発表です。厳正な抽選により、大石さんと六堂さんに決まりました」
くれあの発表と同時に「わぁ」と一般人達も沸きあがる。多分自分に関係なければ危険そうなこともOKなのだろう。
「しかしこれから発射とは随分と危険そうだな‥‥」
ゼンラーの言葉に「大丈夫ですよ、うん、私も大丈夫でしたから」と発射経験のある鳳が「ふふふ」と遠い目をしながら呟く。
「俺ッスか、何で俺なんスか!」
六堂は発射台に括られながら抗議をする‥‥が、もちろん却下である。
「六堂さん、ある意味おいしいですよ」
鳳は人事なので笑いを堪えるように六堂を励ます――というか面白がっている。
「何で俺までぇぇぇぇぇっ!!」
大石も叫んでいるが、誰も何も言葉を返してあげない。どうやら彼らの中では『大石発射』は決定事項だったようだ。
それから神輿はぐるりと回った後、カウントが入った後に大石と六堂が神輿から発射されて、水泳をした場所に落下したのだった。
そして祭も終盤、最後の音頭を残すのみとなった。
「経験者としてまずは私がお手本を見せますっ!」
女神である鳳がポーズを取りながら音頭を踊る。今回は二種類の曲を用意しており、最初は従来通りの音頭で、後半に入るとヘビメタ調になるというものだった。
しかしヘビメタ調の音頭になると踊りも激しくなり、何処か異様な雰囲気を感じるのはきっと気のせいだろう。
「今日はキリーお姉ちゃんとデートなのにゃー」
「‥‥褌祭をデートに選ぶのってどうなのよ‥‥っていうかデートって言うんならフランス料理とか美術館とかオペラとか、そういうモンに連れて行きなさいよね」
べしっとキリーが白虎を殴りながら音頭を見ている。
「おや、姉上は‥‥」
白虎は桃華が『しーちょ君グッズ』を買いあさっている姿を見て首を傾げる。
「何だか知らないけど、妙に気になるのよね」
桃華はどっさりと買い込んだ『しーちょ君』グッズを見て苦笑する。
そして千祭は大石と一緒に褌音頭を踊っている。
「これがないと、日本の夏は終わりません」
千祭は呟きながら踊りを続ける。舞台は日本ではないのだけれど、やはり日本人としての彼は夏祭りの盆踊りは外せないものなのだろう。
「おっちゃん、普段は全裸なのか」
ゼンラーは子供達を引き連れて踊ったり歌ったりして楽しんでいた。
「そうだなー。で、坊主、ゼンラと褌、どっちが好きなんだ?」
ゼンラーが問いかけると「俺は普通がいい」と少し悲しい言葉を返されてしまった。
そして祭も終わり、能力者達は片付けなどをしていた時に事件は起きた。
「――――家に帰るまでが祭、だ。忘れてはいかん」
UNKNOWN(
ga4276)が大石を見ながら呟く。片付けも終わり、先に大石は帰宅する事になった。
しかし、真正面からやってくる車にドーンっとぶつかられ、大石は自宅目の前で事故に起きてしまった。
「こ、今回はあんのんは来てなかった筈なのに‥‥! くっ、まさか本当にバグアなのか‥‥バグアめっ‥‥!」
やはりBAKA、所詮はBAKAである。UNKNOWNの言う通りあながちバグアが俺を狙っているのも間違いではないのかもしれない、そう思い始めてしまった大石だった。
そして祭会場では「お疲れさんっ!」と六堂が大人にはビール、未成年者にはジュースを渡してお疲れ会を開いていた。
「企画や準備は大変だったッスけど、楽しかったッスね!」
ビールを一気飲みしながら六堂が呟き「‥‥飛ばされたッスけどね」と言葉を付け足したのだった。
「お祭は楽しかったね〜♪ 片付けが終わっちゃうとちょっと寂しいけど」
既にテントの片付け作業なども終わっている会場を見ながら香坂が少し寂しそうに言葉を呟いた。
それから数日後、大石が事故に遭ったことを聞いてティムがお見舞いに行ったのだけれど何故か大石が完全回復しており、ティムに「デェェェトォォォォ」と叫びながら見舞いに来てくれたはずのティムを追いかける姿が多数の能力者達に見受けられたのだった。
END