タイトル:【9月】月が笑うマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/27 01:39

●オープニング本文


9月――夏が終わり、秋が姿を見せ始める‥‥。

だが、月が陰る夜――惨劇は起こる。

※※※

「了解しました、すぐに傭兵を集めて其方に向かわせます、資料に纏めますのでもう一度状況説明をお願いします」

オペレーターである室生 舞(gz0140)が顔色を悪くした女性に言葉を投げかける。

女性はLHより離れたそれなりに大きな街に住んでおり、キメラが現れた事で本部に助けを求めにやってきたのだと言う。

「狐のような‥‥だけど狐より少し大きい感じのキメラで‥‥既に5人が殺されてしまいました。全員がキメラに食い散らかされるような残虐なやり方で‥‥」

女性はぽつり、ぽつりと震える声で状況を説明していく。

「このままでは犠牲者が増えるだけです、私の夫も殺されました‥‥どうか、キメラを退治に来てください」

女性は疲れたようなやつれた表情で舞に向かって深く頭を下げたのだった。

※※※

「キメラは狐のような外見で、住人が写真を撮ったみたいですけど動きが素早く上手く撮れているものは一枚もありませんでした。だからキメラのはっきりとした外見が分からないです」

能力者達に資料を渡しながら舞が言葉を続けた。

「それと依頼人の女性なのですが、これから現地に向かうと夜になりますので危険だと判断して能力者の皆さんに護衛をお願いしたいです」

舞が待合室で待っている女性を見ながら呟く。

「住人の避難は済んでおり、街に向かう途中にある避難所まで彼女を連れて行ってください」

宜しくお願いします、舞は頭を下げながら能力者たちを見送ったのだった。


●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
レイン・シュトラウド(ga9279
15歳・♂・SN
朔月(gb1440
13歳・♀・BM
浅川 聖次(gb4658
24歳・♂・DG
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF
巳乃木 沙耶(gb6323
20歳・♀・DF
布野 橘(gb8011
19歳・♂・GP
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

―― キメラ退治に向かう者達 ――

「これが資料です、依頼者の方は向こうにいますのでどうぞ宜しくお願いします」
 室生 舞(gz0140)が待合室の方に視線を向けて女性の居場所を教え、それと同時に資料を渡す。
「狐型のキメラ‥‥素早さが武器‥‥か‥‥。逃すと犠牲が増える‥‥確実に仕留めないと‥‥」
 幡多野 克(ga0444)が資料をぱらぱらと捲りながら呟く。そしてチラリと待合室の方に視線を向けて「‥‥彼女の‥‥敵討ちの為にも‥‥ね‥‥」と言葉を付け足した。
「随分憔悴されてますね。何事もなく避難所に着けば良いのですが‥‥」
 げっそりとやつれたような女性を見てレイン・シュトラウド(ga9279)が小さな声で呟く。
「最愛の人を奪われる‥‥その痛みは言葉では表せないでしょうね、せめてその仇を討ちたいと思います」
 浅川 聖次(gb4658)が夫を奪われた女性の事を思い、少しつらそうに表情を歪めながら呟いた。
「ふぅん、意外と戦いやすそうな袋小路はあるんだな」
 朔月(gb1440)が資料として受け取った現地の地図を見ながら呟く。戦闘の際には戦いやすい袋小路に追い込んで戦おうと考えていた彼女にとっては都合が良かった。
「あの‥‥宜しくお願いします」
 その時、依頼者の女性・リオが能力者達の所へやってきて深く頭を下げて挨拶をしてきた。
「今日は、その、宜しくお願いします」
 弱くやつれた声で呟くと「大丈夫や。ウチらに任しときぃ?」と冴木氷狩(gb6236)がにっこりと穏やかな笑みを浮かべてリオに言葉を返した。
「これだけ能力者も揃ってるし、修羅場もそれなりに潜ってる、だからあなたが心配することはないと思うわ」
 巳乃木 沙耶(gb6323)が少し冷めた口調でリオに向けて言葉を投げかける。結果的にキメラを倒せば彼女の敵討ちの果たされるのだから、巳乃木は『キメラの掃討』だけを頭に置いて行動する事にしていた。
「とりあえず、ちゃんと避難所まで無事に送るから安心しろって」
 にかっと歯を見せて笑うのはフーノ・タチバナ(gb8011)だった。
「えぇ、ありがとう‥‥宜しくね」
 リオは弱々しく言葉を返し、小さく笑みを見せる。その隣では白蓮(gb8102)が複雑そうな表情を見せていた。
(「既に5人も犠牲者が出ているなんて、能力者と言っても突発的なキメラ被害に対しては無力なものですね‥‥」)
 白蓮は拳を少し強く握り締めながら心の中で呟く。そして自分に出来る事を考える。
「自分に出来る事は、被害者の親族に代わりキメラを倒すことだけですっ」
 瞳を伏せ、自分に言い聞かせるように白蓮は呟き、能力者達はキメラ退治の為に高速艇へと乗り込んで現地へと出発したのだった。

―― リオを避難所まで ――

 リオを避難所まで連れて行く、それが能力者達の最初に仕事だった。地図を開いてリオに聞けば避難所は高速艇が着陸する場所から遠くない場所だった。
「‥‥でも街からは‥‥少し離れてるね‥‥」
 幡多野の言葉に「えぇ、そうなんです」とリオが言葉を返してくる。
「街が襲われた時の為、街からは少し離れた所に避難所を作ろうということになって。だから荷物とか避難所の方に置いている人とか少なくないんですよ」
 私も置いてますし、リオは言葉を付け足しながら呟く。能力者達は避難所に到着する前にキメラが出た時の事を考えて、リオを囲むような形で歩いていた。
「月が陰って見えない‥‥何だか不吉ですね」
 レインが歩きながら空を見上げ、ため息混じりに呟く。
「まだ実物見てねぇから何とも言えないけど、カマイタチの巨大化した狐版って、とこかな?」
 朔月が敵の姿を思い浮かべながら呟く。
「こんなものしかありませんが‥‥宜しければ身に着けておいてください」
 浅川が取り出したのは『作業用ヘルメット』で、それをリオに渡す。リオはヘルメットと浅川を交互に見比べながら「ありがとう」と言葉を返し、ヘルメットを被った。
「もしキメラが現れても全員で護りますから安心してくださいっ」
 白蓮がリオに呟くと「頼りにしてます」と言葉を返してきた。
「そこを曲がった直ぐが避難所です、ここを真っ直ぐ行けば街の方なんですよ」
 リオが呟き、避難所の方へと向かう。そこには街の住人達が避難しており、結構な数の人間がいた。
「此処まで送ってくれてありがとうございました、あの‥‥キメラ退治、宜しくお願いします」
 リオは震える手を押さえるように能力者達に告げ、避難所から出て行く能力者達を見送ったのだった。


―― 迫り来る影、キメラとの戦闘 ――

 リオを避難所まで送り届けた能力者達は、今回の本当の任務であるキメラ退治を遂行する為に2つの班で行動してキメラを捜索する作戦を立てていた。
 A班・幡多野、浅川、レイン、白蓮の四人。
 B班・フーノ、冴木、巳乃木、朔月の四人。
「外見もはっきりとはわかっていないからお互い気をつけようぜ」
 朔月が懐中電灯を取り出しながら呟き、B班の能力者達とキメラ捜索を開始したのだった。

※A班※
「‥‥そっちは行き止まり‥‥みたいですよ‥‥」
 前を歩くレインに声をかけると「あ、すみません」と進路を変える。街の住人は全て避難しているせいか、街中にも明かりはなく真っ暗で不気味ささえ感じるほどだった。
「流石に少し暗いですね、明かりをつけますのでご注意を」
 浅川がAU−KVのヘッドライトとランタンを使いながら真っ暗だった道を照らしていく。
「ル〜ルルルル〜っと狐を呼び寄せるといえばこれですよねっ」
 白蓮が歌うように口笛を吹きながら呟く。
「‥‥街そのものの大きさは‥‥そこまでないから‥‥直ぐに見つかると思うんだけど‥‥」
 幡多野が呟くと「確かに地図を見ても大きな街とはいえませんね」と浅川が言葉を返す。
 その時だった。B班から「キメラを発見しました!」という連絡がやってきたのは‥‥。
「急ぎましょうっ!」
 白蓮が叫ぶように呟き、B班の現在地を聞き出してA班は合流する為に急いで駆け出したのだった。

※B班※
 まだキメラを発見する前、A班と別れた後のB班はA班とは逆側からキメラ捜索をする事にしていた。
「住人の避難が終わってはるんなら、キメラにしてみれば、ウチらが唯一の獲物みたいなもんやな? 案外、向こうから勝手にやってくるかもしれへんね?」
 冴木がキメラ捜索をしながら呟くと「奇襲とかじゃなければ大歓迎だけどな」とフーノが冗談交じりで言葉を返した。フーノはリオを避難させた後は装着していたAU−KVをバイク形態にしており、押して捜索を行っている。
「それにしても住人がいないだけで街も変わってしまうのね」
 まるでゴーストタウンね、巳乃木が言葉を付け足しながら街の中を見渡す。
「まぁ、頭上や死角からの不意打ちなんてされないように気をつけとこうぜ、洒落にならないからな」
 朔月が呟いた時だった。前方からうなり声のようなものをあげながら此方へ向かってくる大きな獣を確認したのは。
「あれがキメラやね」
 冴木が呟くと巳乃木がすぐさまA班へと連絡を入れて先にある袋小路へと追い詰めることを伝えたのだった。


―― 忍び寄る影、キメラとの戦闘開始 ――

「さぁ‥‥ギタギタにしてやんぜっ!」
 覚醒を行いながら冴木が大きく叫ぶ。
 B班は能力者達が戦うに有利となるであろう袋小路にキメラを誘導して、A班が到着するまで牽制攻撃を繰り返していた。無理をしてA班が到着する前に自分たちが大怪我を負ってしまってはキメラを逃してしまう可能性も出てくるためだ。
「あなたは今まで5人もの命を奪い、その人たちに関する人々を泣かせてきた。罪は大きいわね」
 巳乃木が『M−121ガトリング砲』を構えながら呟き、キメラへと向けて攻撃する。さすがに素早いといわれているだけあって、なかなか照準が定まらずキメラへ攻撃を当てることが出来ない。
「猛獣戦士タチバナンの力見せてやるぜっ!」
 フーノが「くっ」と不敵に笑み「猛獣戦士タチバナン、参ッ上ッ!」と特撮映画のように大きな声で叫んだ。
「チェェエエンジ、モーケン・バトルモード!」
 叫びながらフーノはAU−KVを装着してキメラに『イグニート』で攻撃を仕掛けた。
「チョコマカと‥‥ウゼェな‥‥」
 目障りなほどに動き回るキメラを見て朔月が呟き、自分のところへ向かってきたために多少のダメージは覚悟しながらキメラに蹴りを入れる。
 そこへちょうどA班が合流して、能力者たちは牽制攻撃から殲滅へと向けて攻撃方法を変えていく。
「犠牲者の痛みを‥‥思い知れ!」
 幡多野が『月詠』を構えながらキメラへと向かって走り、攻撃を仕掛ける。前衛である彼は積極的に前へと出て、後衛のレインが射撃できるように隙を作ろうと考えていた。
「その程度の攻撃、俺には通用しない」
 数々の修羅場を駆け巡ってきた幡多野が低い声で呟く。キメラからの攻撃があったのだが、予想以上に威力はなく、幡多野の動きを止めるような致命傷にはならなかった。
「お待たせしてすみません、一気に決めましょう」
 浅川はランス『ザドキエル』を振り上げてキメラへと攻撃を行い、そして後ろへと下がる。
「おら! どうした!? それで終わりか?」
 覚醒前とは全く別人のような口調で冴木がキメラを嘲り『イアリス』で攻撃を行う。
「流石にこの人数での相手はきキツイみたいね、動きが鈍ってきてるわ」
 巳乃木が呟き、至近距離からガトリング砲を撃ち込み、キメラが派手に吹き飛んで壁へと叩きつけられる。
「その程度で偉そうにしてたのか? 全然駄目だな、お前!」
 フーノは武器を大きく振り回しながらキメラへと追撃を行い、スキルを使用しながら白蓮がキメラへと接近する。
「お前が更なる被害者を出す前に、魂の安息すらない場所に堕としてあげるねっ」
 白蓮は爪で攻撃を行い、再びスキルを使用して後ろへと下がる。
「ほ〜ら、こっちだよっ」
 後退する際にキメラを挑発するような言葉を残し、白蓮は後ろへと下がる。
「皆! 閃光手榴弾使うから巻き込まれんなよ!」
 冴木が叫ぶと同時に『閃光手榴弾』を投げ、能力者達はそれぞれ巻き込まれないように対策を取る。キメラは攻撃を受けた直後だったので、例え対策を取ろうとしても間に合うことはなかっただろう。閃光手榴弾の影響を受けたキメラは鳴き声のようなものをあげながら動く事が出来ず「いきます」とレインの声が能力者達の耳に届く。
 彼は『先手必勝』『強弾撃』を使用しながら愛用のスナイパーライフルでキメラの足を狙撃して撃つ。
「いくら素早くても、足を封じられれば意味がないですからね」
 続いて『即射』を使用して完全にキメラの足を封じる。レインの狙撃が成功した事により、能力者達はキメラに向けて総攻撃を仕掛ける。
 幡多野は『流し斬り』を使用してキメラを攻撃し、朔月も間違っても生き返らぬように頭を狙って撃つ。
「家族を奪われた人の言葉に出来ぬ痛みに代わり‥‥せめてこの槍、受けてもらいましょうか!」
 浅川はランス『ザドキエル』を強く突き刺しながら攻撃をする、それはまるで奪われた人たちの痛みを突き刺すかのようだった。
「逃げる、なんて許すとお思いで?」
 足を引きずり、逃げ出そうとしたキメラの前に巳乃木が呟く。そして予備として持ってきていた小銃を撃ちこんで逃げ出すのを阻止する。
「恨むんならキメラに生まれた自分を恨むんだな!」
 フーノも攻撃を仕掛け、白蓮も「さよならっ」とトドメを刺すように攻撃を仕掛け、キメラは地面に大量の血を吐きだして倒れ、動かなくなったのだった。


―― キメラ退治を終えて ――

 能力者達はキメラ退治を終えて、住人達が避難している場所へとやってきて、キメラを無事に退治したことを知らせた。
(「ある程度場数を踏んでいますが、この手の任務にはまだ慣れないですね‥‥」)
 浅川は複雑そうな表情で住人達を見ていた。この中に大事な人を失ったものがいる、大切な人を失い悲嘆する人々を見ていると『もし自分が大切な人を失ったら』と考えてしまうのだ。
「ありがとうございました」
 リオが深く頭を下げ、涙を流しながら能力者達に何度も礼を言う。
「失ったものは‥‥永遠に‥‥戻らない‥‥願わくば‥‥その傷が‥‥早く埋まるように‥‥」
 幡多野が呟くと「えぇ、時間はかかるでしょうけど‥‥」とリオが言葉を返した。
 その後、傷の手当てなどを行った後に能力者たちは本部に報告するために帰還していったのだった。

「舞さん、今日は綺麗な月が出そうですね。もし宜しければ一緒に月見でもしませんか?」
 レインの誘いに「はい、もうすぐ仕事が終わりますから待っててください」と舞は言葉を返した。
 舞を待っている間にレインは着物へと着替え、月見団子を用意する。それから数分後に舞がやってきて、二人は舞の自宅であるクイーンズ編集室で小さな月見をしたのだった。


END