タイトル:隠された真実マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/01 23:53

●オープニング本文



大人なんてズルい。

大人はすぐに嘘を吐く。

大人なんて‥‥‥‥大嫌いだ!!

※※※

「先生のうそつき!! 先生なんて大嫌いだ!!」

七海・鉄太(gz0263)は大きな声で保護者兼担当医の男性に向かって叫び、住んでいる家から出て行った。

※※※

事の始まりは数時間前、担当医の男性が家を開けた僅かな時間に起きた。

担当医の男性も迂闊と言えば迂闊だったのだろう。

いつもならば鉄太が開けられない金庫の中に『ソレ』は厳重に保管されていた。

しかし今日は違った。同じ金庫に保管されている資料を持ち出さねばならなかったため、しかも鍵を閉め忘れるという初歩的なミスも犯していた。

「せんせー? あれ? いないのかな?」

家中を見渡してみるけれど、鉄太が探している男性は見当たらず。首を傾げながらリビングへ向かうと『鉄太へ』と書かれたメモが朝食と一緒に置かれていた。

「えーと、鉄太へ、ちょっと出かけてくるので朝ごはんを食べて待っていてください――か、うん、俺おとなしくご飯食べて待ってる」

聞くものはいないけれど鉄太は首を縦に振りながら返事をすると、顔を洗って、手を洗って、用意されていた朝食を食べ始めたのだった。

しかし朝食を食べ終わっても男性が帰ってくる気配はなく、鉄太は暇つぶしの本を探す為に男性の部屋へと足を踏み入れた。

普段、鉄太が読めそうな本などは全て男性の部屋に置かれている。言葉や漢字の勉強などをする為の教科書なども同じ部屋に置かれている。

「えーと、昨日はここまで読んだから〜‥‥今日はこっちからだな」

うーん、と手を伸ばして少し高めの棚に置かれている本を手に取った。

「あれ?」

そこでいつもは厳重に扉が閉められている金庫に目がいった。今日はよほど慌てていたのか扉は無造作に開かれ、中の資料が少しだけ金庫から出てしまっていた。

「せんせーってばだらしねぇなぁ」

資料を中に戻そうとした時『七海鉄太』と書かれた資料の茶色い袋を見つけて、鉄太は好奇心からか中の資料を読み始めてしまった。

ほとんどが難しい言葉ばかりで鉄太は首を傾げる事ばかりだったけれど――彼でも分かる言葉を見つけてしまう。

『七海・健、香――死亡』

七海・健は鉄太の父親、香は母親の名前。

そしてその隣に並べられた二つの文字――死亡、これは既にこの世に二人がいないことを示す言葉だった。

「しぼう、し‥‥しんだ‥‥もう、あえない?」

するりと鉄太の手から資料がばさばさと乾いた音を立てて床へと落ちる。

「せんせい、二人ともお仕事だって‥‥すぐに会えるって‥‥」

その時、玄関のドアが開く音が聞こえ「ただいま、鉄太?」と男性の声が鉄太の耳に届いてくる。

「てっ――――」

男性が部屋へと入ってきて、鉄太の足元に落ちている資料を見て顔色を青ざめさせた。

「先生」

男性に背中を向けたまま鉄太が小さく呟く。その声は男性が聴いた中で一番静かで、何処か怖いとさえも思えるほどの冷たい声だった。

「何で嘘吐いたの、もう‥‥お父さんにもお母さんにも会えないじゃん」

「‥‥多分、どんな言葉を言ってもいいわけにしかならないと思うけど‥‥キミはずっと眠り続けていた、キミが眠りにつく前の状況と今の状況は全く変わっているし、そんな中で二人の死を知らせるのは酷だと‥‥僕が判断した」

「じゃあ、先生は俺が今まで二人に会えるかなって言ってたとき、影では笑ってたの? それとも哀れんでいたの? 俺は――先生を信じてたのに」

「鉄――「先生のうそつき!! 先生なんて大嫌いだ!」――鉄太!!」

鉄太は男性を突き飛ばし、そのまま行方不明となった。

しかし本部には彼が一つの任務を受けていた痕跡が残っており、能力者達に依頼して鉄太捜索を申し出たのだった。

男性、そして能力者達はまだ知らない。

無謀にも鉄太は一人で任務に赴き、現在瀕死に陥っていることに。

●参加者一覧

アリエイル(ga8923
21歳・♀・AA
ディッツァー・ライ(gb2224
28歳・♂・AA
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
篠崎 宗也(gb3875
20歳・♂・AA
水無月 蒼依(gb4278
13歳・♀・PN
夜坂柳(gb5130
13歳・♂・FC
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER

●リプレイ本文

―― 事実を知った少年 ――

「‥‥もしも俺達が正直に言えば、こんな事にはならなかったのかな」
 篠崎 宗也(gb3875)がポツリと小さな声で呟いた。その表情からいつもの元気さは感じられない。むしろ今回の能力者達全員と言っていいほど同じような曇った表情を見せている。
 その原因は七海・鉄太(gz0263)が自分の両親が死んでいるという事実を知ってしまい、保護者である男性の所から出て行き、現在行方不明となっていることだった。
「‥‥いつかはこうなる気がしてたけど‥‥ったくバカなんだから」
 雪代 蛍(gb3625)はため息混じりに毒づいてみせるが、その表情はどこか心配しているようなものだ。
「‥‥真実を知って自棄になってしまったのでしょうか‥‥1人でキメラ退治なんて‥‥無茶にも程があります」
 水無月 蒼依(gb4278)は俯きながら、いまだ現在地へ着かない高速艇に少し苛立ちを感じていた。
 鉄太は行方不明、確かにそうなのだが本部には彼が任務を受けた痕跡が残っており、能力者達はそこへと向かっている最中である。
「無事でいてくれるといいんだけど‥‥」
 白雪(gb2228)が小さな声で呟き、それと同時によろめいてしまう。彼女は先日の任務で重傷を負ってしまったのだが、鉄太を心配して今回の任務に参加したのだ。
「大丈夫か?」
 ディッツァー・ライ(gb2224)がよろめく白雪に話しかけると「大丈夫よ」と白雪‥‥いや、真白が言葉を返してきた。
「これくらいの傷は慣れてるから」
 にっこりと笑って強がりを言う真白、本当は大丈夫ではないのだが任務中に辛さを見せないようにしていた。
「しかし、大分やべぇ事態になっちまったみたいだな」
 ディッツァーがため息混じりに呟く。事情を知っている能力者達ならば『こうなる前に言っておくべきだったのだろうか』という自責の念に駆られるけれど、きっと何時言ったとしてもこのような事態は避けられなかった事だろう。
「‥‥真実を隠すのが正しい時と誤っている時がありますが‥‥今回はどうでしょうね‥‥」
 アリエイル(ga8923)が小さな声で呟く。教えて欲しかった鉄太、鉄太の事を考えていえなかった保護者の男性、能力者たちはどちらの気持ちも分かる為、どちらの判断が正しかったのか答えなど分かる筈もなかった。
「やけっぱちになるのもわからなくもねぇけど‥‥ああ、もう!」
 ぐしゃぐしゃと頭を掻きながら夜坂柳(gb5130)が大きな声で叫ぶ。
「こんなにも鉄太坊を心配している人がいる、鉄太坊は何としても生きて連れ帰らなくてはねぃ」
 ゼンラー(gb8572)が「ふむ」と呟くと同時に高速艇がガクンと揺れて降下を始めたのだった。


―― 少年の心、能力者達の心 ――

 今回の能力者達は迅速に鉄太を見つけ、そして潜んでいるキメラを退治する為に班を3つに分けて行動する作戦を立てていた。
 A班・アリエイル、水無月の二人。
 B班・雪代、篠崎、夜坂の三人。
 C班・ディッツァー、白雪、ゼンラーの三人。
「何かありましたらトランシーバーで連絡を取り合うようにしましょう」
 水無月が呟き、能力者達はそれぞれ鉄太がいるであろう林の中へと足を踏み入れていったのだった。

※A班※
「足元や周りを見ていないかもしれません。分かりやすい足跡とかがあると良いのですが‥‥」
 やや急ぎ足気味で水無月が小さく呟く。水無月は今の鉄太には冷静さはないはず、と考えており鉄太自身が残した痕跡を探していた。
「能力限定‥‥解除‥‥。さて、参りましょうか。仮にも此処にはキメラがいるとされていますし、鉄太さんも心配です」
 アリエイルは早めに覚醒を行い、鉄太が通ったと思われる痕跡を探していく。勿論キメラに対しての警戒を緩めることはしない。
 その時だった、少し遠くからけたたましい鳥の鳴き声が聞こえ、三人は勢いよく空を見上げる。
「此処からじゃ姿は確認できないですね‥‥」
 アリエイルはため息混じりに呟き、空から地面へと視線を戻す。
「‥‥急ぎましょう‥‥キメラと遭遇していたら‥‥怪我をされているかもしれません‥‥」
 キメラの雄たけびを聞いて鉄太の事が余計に心配になったのか水無月が静かに呟き、鉄太とキメラ捜索を再開したのだった。

※B班※
「ほんっとにバカなんだから、バカ鉄太」
 ぶつぶつと文句を言いながら捜索しているのは雪代だった。
「こんな事でくたばったりしないでよ、絶対に連れ帰って見せるんだから」
 文句を言うような素振りをしているけれど、これは彼女なりの責任の取り方なのかもしれない。彼女も鉄太に事実を隠していたという過去があるのだから。
「なぁ、ここってあんまり人が近寄らない場所なんだよな?」
 確認するように篠崎が雪代と夜坂に問いかける。二人は本部から渡された資料をぱらぱらと捲りながら「確かに『人はあまり近寄らない』って書いてあるな」と夜坂が言葉を返した。
「この靴跡って‥‥どう見ても新しい感じだよな」
 篠崎が指した靴跡、それは彼も言っているように新しいものだった。ここ数日というよりはついさっきついたばかりのようにも見える。
「雪代ねーさん、あれって‥‥」
 夜坂が目を丸く見開きながら指差したもの、それは岩にべっとりとこびり付いた血の跡。まだ渇ききっていない事から新しい事が伺える。
「ちょっと待って‥‥これだけの量の血痕――まさか鉄太の?」
 雪代はさぁっと血の気が引いていくのを感じながら呟く。
「篠崎にーさん! 血の跡がこっちに続いてる!」
 夜坂が岩から点々と続く血痕を見つけたらしく慌ててかけていく。少し奥まった所の木に凭れかかっていたのは‥‥。
「鉄太!!」
 着ているシャツが真っ赤に染まるほどに出血した鉄太だった。雪代は大きな声で鉄太の名前を叫んで近寄ると鉄太は荒く浅い息を繰り返し、意識は既になかった。
「B班だけど鉄太を発見したぞ! けどかなりの出血だから急いで‥‥え‥‥」
 篠崎の言葉が途中で止まり「篠崎にーさん、どうしたんだ?」と夜坂が不思議そうに問いかける。
「‥‥どうかしたの?」
 雪代も怪訝そうな表情で問いかけると「実は‥‥」と篠崎が言葉を紡ぎ始める。
「A班は現在こっちに向かってる最中、C班は‥‥キメラと交戦中、しかも此処から近い場所に居るらしい」
 C班の事を聞いて夜坂と雪代の二人の表情が強張る。鉄太が重傷中だって言うのににもキメラがこちらに来た場合、鉄太を守りきれるかどうかが分からないのだ。
「でもゼンラーにーさんが来れば鉄太も治療してもらえるだろうし、とりあえずキメラが来た時の為に警戒しとこうぜ」
 夜坂が呟き、三人はA班が到着するのを待つのみだった。

※C班※
「あんまり無理はするなよ。ミイラ取りがミイラに‥‥なんて笑えないぜ」
 負傷中の白雪を気にかけながらディッツァーが話しかける。
「あまり無理はしないようにねい」
 ゼンラーも顔色の悪い白雪を心配して話しかける。
「大丈夫よ、でもまずは鉄太君を見つけなくちゃ‥‥」
 白雪はふらりとしながらも気丈に振舞ってみせる。
「ディッツ君こそ焦りすぎて失敗しないようにしなくちゃね」
 少し落ち着きのないディッツァーを見ながら白雪が苦笑して呟く。
「こんな時こそ焦りは禁物。解っちゃいるんだが‥‥」
 鉄太、無事でいろよ――ディツァーは言葉を付け足しながら歩く足を速める。
「それにしても鉄太君は酷く傷ついたのでしょうね、外見こそ大人だけど‥‥中身はまだ子供なんだもの」
 白雪の言葉に「そうだな‥‥だが、悲観して立ち止まることなら誰でも出来る」とディッツァーは言葉を返したのだった。
「それより此処のキメラって‥‥」
 白雪がキメラについて話そうとした時、頭上で何かが羽ばたく音が聞こえ、次の瞬間にはけたたましい叫び声が聞こえたのだった。
「「「‥‥ッ!」」」
 耳を劈くようなその奇声に三人は手で耳を押さえるが、押さえた程度で防げるような声ではなく、ぐらぐらと脳天を揺さぶられたような感覚に陥る。
「キメラ‥‥鳥型とは資料にあったが、結構大きいんだな」
 ゼンラーが空を見上げながら呟き、キメラの大きさを確認する。下から見ただけでも大きいと分かるのだから実際にキメラが降りてきたらもっと大きいと実感する事だろう。
 その時にB班からの通信が入り、近い位置で鉄太を発見したこと、予想以上に危険な状態との事が三人に知らされる。
「この位置からだと‥‥向こうまで行かないようにするのは難しそうだな」
「そうね、結構大きな鳥だから空からなら向こうの班も見つけられてしまうでしょうし‥‥なるべくなら鉄太君がいる方には行かせたくないんだけど‥‥」
 二人は呟きながらキメラの気を自分達に向けるように攻撃を仕掛けたのだった。


―― 戦闘開始・鉄太を助ける為には、まずキメラを ――

 B班から鉄太を発見したという連絡の後、十分も経たないうちにそれぞれ合流して、現在は鉄太を護りながらキメラと交戦中だ。
「大丈夫か? しっかりしろ!」
 ゼンラーは戦線から少し離れた所で鉄太の様子を見ていた。出血が酷いために意識を失っているけれど、まだかろうじて助からないわけではない。瀕死に限りなく近い状態だがゼンラーの『練成治療』で治療したおかげで、予断は許さないけれど最初の頃よりはずっとマシな状態まで引き上げる事が出来た。

「すまんが鉄太は立て込んでいるんでな、用件なら俺が代わりに聞くぞ。精々長話をしていこうぜっ!」
 ディッツァーは叫びながら愛用の武器で降下してきたキメラの足を狙って攻撃する。
「くっ‥‥」
 白雪は痛む身体を堪えながら弓でキメラへと攻撃を仕掛ける。しかし白雪の攻撃を避けてキメラはゼンラーと鉄太の方へと向かって飛んでいく。
「危ない!」
 キメラを止めた‥‥正しくはゼンラーと鉄太の代わりに攻撃を受け止めた雪代が「大丈夫だから」と鉄太を治療するゼンラーに言葉を投げかける。
「あたしが壁になるから‥‥鉄太を!」
 雪代が呟いた次の瞬間「お前の相手はこっちだろ!」と篠崎がスキルを使用しながら攻撃を仕掛けて、自分の方にキメラの気を引き付ける。
「此方は今、鉄太様の事で一杯なんです。ですから貴方には早々にご退場願いたいですね」
 水無月は呟きながら『菫』を構えてスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。一度降りてきた鳥型キメラだったが、能力者達の攻撃の連続で再び浮上する事は難しくなっていた。
「こっちには怪我人もいるんだから、少しは手加減ってモンをしろよな!」
 夜坂は叫びながら攻撃を仕掛け、そして追撃するように再び『壱式』を振り上げたのだった。
「今なら! 蒼電一閃っ‥‥せぇぇっ!!」
 アリエイルは『ミルキア』で技を繰り出して攻撃を仕掛ける。
「その翼貰った、小手ぇっ! ‥‥でいいのか?」
 人型ではなく鳥型の為に翼を小手と呼んでいいのか分からずに首を傾げるが、彼の攻撃は確実にキメラに効いていた。翼を失ったキメラは逃げることも出来ず、次から次へとやってくる能力者の攻撃によって無残に倒されたのだった。


―― 鉄太 ――

 キメラとの戦闘が終了した後、暫く経った頃に鉄太が意識を取り戻した。
「俺‥‥生きてるんだ‥‥」
 ぼそりと呟いた言葉に鉄太が『死を求めて』この場所にやってきた事が伺えた。
「お父さんとお母さんに会えるの‥‥楽しみだったのに‥‥もう会えない‥‥」
 ぐすぐすと涙をぼろぼろ零しながら鉄太が小さな声で呟く。
「真実を隠されていた事に憤りを感じ、絶望するのも分かります‥‥しかし、それは貴方が全てを理解できるようになってからの為‥‥だと思います」
 アリエイルの言葉に「何で‥‥それを人が決めるの?」と鉄太が小さな声で反論してきた。
「俺が理解できるようになってからって、それを誰が決めるんだ? 俺は早く言って欲しかった‥‥お父さん達が死んでるのに、俺、呑気に笑ってたんだよ‥‥」
「‥‥つらいってのは、解る。俺も同じだからな。だが同じようにつらい連中なんて数え切れない程いるぞ。現実から逃げて死に急ぐなんざ愚の骨頂だ」
 お前の両親はそんな事を望んじゃいねぇだろ――ディッツァーは言葉を付け足しながら鉄太へと言葉を投げかけた。心はまだ10歳の少年なのだからどこまで理解できるかわからないけれど、鉄太ならきっと理解してくれるだろうと考えての言葉だった。
「でも、俺‥‥「鉄太君はそんなに何に腹を立てているの?」‥‥え」
 白雪の言葉に鉄太が荒い息できょとんとした表情を見せた。
「先生が鉄太君を騙したこと? それとも鉄太君を信じて真実を教えてくれなかったこと?」
 白雪の言葉に「‥‥信じてくれなかったこと」と鉄太は短く言葉を返した。
「そう‥‥ね。それは怒って当然ね、じゃあ帰って先生に言いましょう。僕はそんなに弱い男じゃないって」
 鉄太が言葉を返さずに黙ったままでいると「あたしもごめん」と雪代がポツリと呟いた。
「鉄太の親のこと、知ってたのに言わなかったから‥‥だけど鉄太は逃げたよね‥‥それしか出来なかったんだろうけど」
 雪代は一度言葉をとめて「あたしは、逃げたくても受け入れるしか出来なかった、一人だったからさ」と寂しそうに言葉を付け足した。
「折角生きてるのに粗末にしないでよ、命を‥‥きっとそんな事望んでいないはずだよ」
 雪代が涙声で呟き、しまいには不意に涙が零れる。
「人前では泣かないはずなのにさ、もうバカ鉄太のせいなんだからねっ」
 雪代は顔を背けながら乱暴に叫ぶが、それが本意ではないという事が誰でも見て取れた。
「鉄太、もう無茶な真似すんじゃねーぞ。本当に心配したんだからな」
 篠崎が苦笑して呟くと「‥‥ごめん」と鉄太は短く言葉を返した。
「‥‥ご両親の事は私も聞いていました‥‥話をする事が出来なかった私にも責任がありますわ‥‥本当にすみません」
 水無月が深く頭を下げながら鉄太に対して謝罪する。
「鉄太、無謀な事すんなよ、死んじまったら遊べねぇじゃん」
 夜坂が鉄太に向けて呟く。
「鉄太の親がさ、自慢できるくらいに頑張ろうぜ。それに俺はいつか迎えに来るって信じてるから一人でも頑張れんだ」
 遠くを見るような視線で呟き、夜坂は言葉を続ける。
「そう簡単に許せないって判るけど、とりあえず帰ろうぜ」
「そうだぞ、鉄太坊のことを本気で心配していたんだからなぁ、鉄太坊は『ごめんなさい』と『何で教えてくれなかったの』って言うべきだな」
 ゼンラーが鉄太に向けて言葉を投げかけ、能力者たちは本部へと報告の為に帰還して、鉄太はそのまま病院へと入院することになった。
 ゼンラーの治療のおかげで鉄太は数週間の入院で済むことになったのだった。

 そして後日、鉄太から一通の手紙が能力者たちへと届いた。

『ちゃんと謝ったからな!』


END