●リプレイ本文
―― 彼の居る場所、惨劇の場所 ――
「宜しくお願いします」
室生 舞(gz0140)は能力者達に資料を渡しながら丁寧に頭を下げる。
「ん‥‥お前は曲がらなかったようで、何よりだ」
レィアンス(
ga2662)が舞に向けて優しい笑みを浮かべる。
「‥‥だが、まずはお前にすまないと言おう、舞。俺にはお前に『何か』を言う資格など‥‥いや」
レィアンスは少し考えるように口を閉ざした後に「結果を出しているからこそ、何かを言う資格があったのか‥‥」と言葉を付け足した。
そんな彼に舞が不思議そうな表情を向けると「俺の結果は、親の――創造者の、皆殺しだったのだから」と舞から視線を逸らしながら言葉を返した。
「レィアンスさん‥‥?」
舞が何かを言おうとした時、ゲシュペンスト(
ga5579)が大きなため息を吐いた。それはレィアンスや舞に対してではなく今回の任務の資料を見たからだった。
「偶然に偶然が重なり‥‥って訳でもなさそうだな、どうにも後味が悪くなりそうだ」
ゲシュペンストは資料を見ながらもう一度深いため息を吐く。
「そうね、でも何が起きるか分からないから、用心はしておきたいわね」
アズメリア・カンス(
ga8233)も資料に目を向けたまま小さく呟く。
「皆さん、宜しくお願いします」
椎野 のぞみ(
ga8736)が今回の任務を一緒にする能力者達に挨拶をした後、小さな声で「オーガスタ、か」と憂いた表情で呟いた。
今回の事件にオーガスタが確実に関わっているという証拠はないけれど、以前に起きた事件と似ている為、オーガスタが関わっている可能性が高いと感じていた。
「嫌な予感が当たらなければ良いのですが‥‥」
レイン・シュトラウド(
ga9279)が舞から渡された資料を見ながら呟く。恐らく彼が危惧している事は今回の能力者達すべてが考えている事だろう。
「この写真のオーガスタは少し若い感じだな」
朔月(
gb1440)がオーガスタの資料に挟まっている写真を見ながら呟く。恐らく傭兵として活動する以前の写真なのだろう、少し若く感じた。
「出来れば無事でいて欲しいんやけどなぁ」
キヨシ(
gb5991)が電子煙草を咥えながらため息混じりに小さく呟く。そんな能力者達の様子をイーリス・立花(
gb6709)は黙ったまま見つめていた。
(「欲望の為に何でもするのが彼・オーガスタ‥‥との事ですが、それって誰でも同じなんじゃないでしょうか」)
心の中でイーリスが呟くが、彼女は別にオーガスタのしている事が正しいとは思っていない。して良い事と悪い事、善悪を見分けられない時点で彼女の中からオーガスタを許すという選択肢は消えている。
「孤児院から少し離れた場所に小さな町がありますね。そこで少し聞き込みなどしてみてはいかがでしょうか、詳しい話など聞けるかもしれませんし」
イーリスの言葉に能力者達は賛成し、子供達を探す為に高速艇に乗ってLHを出発していったのだった。
―― 子供達の捜索、迫る闇 ――
子供達を捜す、その為に能力者達は班を二つに分けて行動するという作戦を立てていた。しかしまずその前に町に立ち寄って詳しい話を聞こうとなり、能力者達は町へとやってきていた。
「あそこの子供達は素直で良い子たちばかりだよ、勝手にいなくなるってのは考えにくいよねぇ」
孤児院に食料や洋服などを届けていた女性がため息混じりに呟く。
「先生達も憔悴しちゃって見ちゃおれんよ、早く見つけておくれね」
見つけておくれ、それは子供達が無事で生きていると信じて疑わない言葉。町の規模からして今までキメラにも襲われず、平和に生きてきた住人達なのだろう。
(「無事で‥‥か」)
レィアンスは心の中で呟きながら女性を見る。
「そういえば、見慣れない若い人がいたわねぇ」
女性の言葉に「もしかして、コイツか?」と朔月がオーガスタの写真を見せながら問いかける。
「あぁ、そうそうその人よ。何でも弟を探してるんだって言ってたわ、こんなご時勢だってのに偉いわよねぇ」
女性の言葉など能力者達の耳には届いていなかった。何故ならオーガスタが今回の事件に関わっていることで、子供達が無事である可能性が一気に下がってしまったのだから。
「とりあえず急ぎましょう」
椎野が呟き、能力者達は予め決めていた班でそれぞれ捜索に当たるのだった。
※廃墟班1※
「流石に廃墟と言うだけあって、シンとしてるわね」
アズメリアが廃墟内を見渡しながら小さく呟く。誰もおらずシンとしているせいかそんな小さな呟きすら響き渡るように感じられた。
「何があるか分かりません、気をつけましょう」
椎野が『探査の眼』を使用しながら呟く。
「そういえば聞こうと思ってたんだが、オーガスタってそんなにヤバイ奴なのか?」
ゲシュペンストが問いかけると「‥‥そうですね、最悪の人です」と椎野が静かな声で言葉を返した。罪のない子供達を次々と手にかけてキメラにする。最悪と言う言葉すら生温いように椎野は感じていた。
「ただの失踪、もしくは何もされていなければ良いのですが‥‥」
レインが小さな声で呟く。ただの失踪ならば探せば見つかる、だけどオーガスタと接触していれば‥‥『人間』である事を捨てさせられている可能性が高い。
「敵、います! 気をつけて!」
廃墟内を少し歩いた所で椎野が叫ぶ。彼女は感じていたのだ、自分達に向けられる確かな殺気を。
「出てきなさい」
椎野の言葉が響き、能力者達はそれぞれ武器を構える。
「後ろ、一人いるわね」
アズメリアもチラリと視線だけを後ろに向けて呟く。
「‥‥な‥‥っ」
現れた『敵』の姿を確認すると同時にゲシュペンストは驚きに目を見開き、他の能力者達は険しく眉を顰めた。
※森班1※
「何もなければいいんだけどな」
朔月は失踪した子供達の写真を見ながらため息混じりに呟く。
「まだ『何か』あるようには感じませんね」
イーリスが呟く。彼女は『探査の眼』を使用しており、何かがあれば感じ取る事が出来るようにしていた。
(「オーガスタが関わっている時点で、可能性は低いが‥‥な」)
レィアンスは森の中を捜索しながら心の中で呟く。
「鳥や獣の声が響くなぁ、何や気味悪いわ」
ぎゃあぎゃあ、と鳥の声が森中に響き渡りキヨシが呟く。
「あれは‥‥」
イーリスが小さな声で呟き「どうした?」とレィアンスもイーリスと同じ方向を見ると‥‥ゆらりと動く人影が能力者達の視界に入る。
「子供‥‥?」
レィアンスが疑問系で呟く。疑問系になるのも無理はない。なぜなら‥‥。
「なんや、あれ‥‥」
キヨシも目を丸くしながら呟く。彼らの前に現れたモノ、それは‥‥元は二人の子供だったであろう無残に改造を繰り返された姿、無理矢理2つの体を1つにくっつけて、そこらのホラー映画にでも出てきそうなグロテスクな姿となっていた。
「子供に‥‥こんな真似を出来る馬鹿を俺は一人だけ知ってるよ」
朔月は唇を噛み締めながら『エクリュの爪』を構え、子供達『だった』キメラを強く睨んだ。
「やっぱりやらなアカンのか」
キヨシは「ふぅ」と深いため息を吐き、子供達を捜索ではなく『キメラ討伐』へと意識を変更する。
そしてイーリスもSMG『スコール』を構えてキメラへと向ける。この時だけは自分の覚醒時の変化に感謝していた。普段の彼女ならば例えキメラであろうと、助けられないと分かっていようとも『元は子供達だったキメラ』に対して引き金を引けない可能性があった。
「‥‥だけど、今の私ならば引ける‥‥嫌な事の方が多いけれど‥‥」
イーリスは落ち着いた声で呟き、先に向かって行ったレィアンスの援護を行う為に引き金を引いたのだった。
※廃墟班2※
森に捜索に向かった班の能力者達が戦いを始めた頃、廃墟で捜索をしていた能力者達の前にも『敵』は現れた。あちらに現れたものと同じ、子供達の哀れな末路となった二人の体を無理矢理くっつけられたようなキメラが。
「ひでぇことしやがる‥‥」
ゲシュペンストはキメラを見据えた後『激熱』を構える。
「許して欲しいとは言わん‥‥可哀想だが情け・容赦・躊躇は一切無しだ‥‥」
ゲシュペンストが呟き、キメラに向かっていくのを見ながらアズメリアも瞳を伏せて拳を強く握り締める。
「手遅れなのなら‥‥せめて、眠らせてあげるわ」
アズメリアは『血桜』を携えてキメラに向かって走り出す。
「‥‥大丈夫ですか?」
レインが右肩の古傷を押さえながら苦しそうな表情を浮かべる椎野に話しかけるのだが‥‥。
「大丈夫、です‥‥また‥‥くっ‥‥」
ずきずきと疼くように痛む古傷に椎野は無理した表情で「大丈夫」と告げると『バスタードソード』を構える。
「私に出来る事は‥‥素早く楽にしてあげること‥‥」
椎野は呟きながらなるべく早く眠らせてあげられるように倒そうと考え。
「そうですね、せめて‥‥苦しまないように」
レインも呟き、愛用のスナイパーライフルを構える。
「もう苦しまなくていい、眠っていろ」
ゲシュペンストはキメラに近寄り、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
「ぐっ‥‥」
しかしキメラは普通の人間には不可能な動きで攻撃を仕掛けてきて、攻撃直後だったゲシュペンストはまともにそれを受けてしまい、後ろへと下がる。
「早く眠って、天国で遊びなさい」
アズメリアは『血桜』を振り上げてスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。彼女の攻撃で足を一本駄目にしたのか、がくん、とキメラが倒れ込むけれど、4つある中の1つの足を駄目にした程度では素直に倒されてはくれなかった。
「‥‥ごめんね」
椎野は呟き、そして思い切り武器を振り下ろす。するともう1本の足が千切れ跳び、キメラはバランスを崩してその場に倒れこむ。
「おやすみなさい」
倒れこんだ所をレインがキメラの頭を狙い撃ち、なるべく痛みを感じさせないようにトドメを刺したのだった。
※森班2※
「せめて自我がないのが救いか」
レィアンスはキメラに攻撃を仕掛けながら呟く。そして彼の攻撃の後に朔月が素早く攻撃を仕掛ける。その攻撃に容赦や躊躇いは一切感じられない。
「本当は無事に連れて帰りたかったけれど、それも無理そうだな――安らかに眠りなよ」
朔月は攻撃しながらキメラに向けて話しかける。決して届かないと分かっていても言わずにはいられなかったのだ。
「すまんなぁ、でも堪忍してや」
キヨシは言いながらも攻撃の手を緩めることはしない。情けをかけても子供達を救うことなど出来ないと分かっているからだ。
「‥‥私達には何も出来ない‥‥こうして眠りを与えることだけ‥‥」
イーリスもSMGで攻撃を仕掛ける、彼女の攻撃で僅かに後ろに下がった隙を突いてキヨシが『貫通弾』を使用しながら攻撃を仕掛け、捜索対象であったはずの子供は地面へと沈み、二度と起き上がることはなかった。
―― 彼の真意 ――
2つの班はキメラを退治し終えた後、町の近くで合流した。
しかし戦闘後の一息を入れる暇もなく『彼』の来訪によって能力者達は力を抜くことが出来なかった。
「高速艇か、懐かしいね。僕も少し前まではこれで色んなキメラを狩りに行ったものだよ」
彼・オーガスタは高速艇に寄りかかりながら懐かしそうに高速艇に触れる。
「Raisan Ancestor‥‥祖の理だったか。俺の本名、口にするだけで反吐がでるが、とりあえずは覚えていてもらおうか、オーガスタ」
レィアンスが切っ先を向けながらオーガスタに向けて呟く。
「‥‥何か殺気立ってるけど、僕が気に入らないみたいだね」
オーガスタが「くっ」と喉で笑いながら言葉を返すと、能力者達を取り巻く空気がザワと変わり、先ほど以上の殺気をオーガスタへと向ける。
「‥‥お前は俺の結果の原因に似ている、故にこそ俺は何度でもお前を否定しよう」
レィアンスが今にも飛び掛りそうな空気を纏いながら言葉を投げかける。
「‥‥お久しぶりですね‥‥オーガスタ・レイニーさん、ここで何をしてるんですか」
椎野も問いかけると「弟探しかな、四人ともハズレだったけど」と下卑た笑みを浮かべながら言葉を返した。
「何故、貴方はそこまでして弟という存在に執着するんですか?」
レインの問いかけにオーガスタは暫く考え込むと冷酷な笑みを浮かべながら答えた。
「可愛い弟を探して何が悪い? きみたちだって家族が生きていれば探したくなるだろ? あれ、テトラは死んだんだっけ‥‥どうでもいいや、僕に逆らわない従順な弟、僕はそれを探してるだけだよ」
オーガスタの支離滅裂な言葉に能力者達は何処かぞっとする物を感じながら彼の言葉を聞いていた。
「いずれにせよ、貴方がやっている事は間違いです。償ってもらいますよ」
レインが呟くと同時に「覚悟しろや!」とキヨシの荒い言葉がオーガスタへ投げられた。
「そうか、お前達は弟を探したいという僕の願いを邪魔するんだ‥‥殺してあげようか、僕に逆らったテトラみたいにさぁ」
数本のメスを取り出し、能力者達へと投げつけようとした時だった。
「いい加減にしなさいよ、オーガスタ」
オーガスタの首に剣が当てられ、聞きなれない女性の言葉にその場の空気が硬直する。
「何や、あの女‥‥」
黒い髪を靡かせ、能力者達よりもオーガスタの前に立ち、尚且つ剣の切っ先を向ける女性。誰もが予想しなかった事態に能力者達は動く事が出来なかった。
「あらあた、あたしとした事が自己紹介を忘れてたわね、あたしの名前はビスタ・ボルニカ。位置的には‥‥こいつの味方であんた達の敵になるのかしら。とりあえず宜しくね」
黒い髪を靡かせながらビスタはにっこりと笑って自己紹介をしてみせる。
「あらあら、妙に好戦的な能力者ね。何したのよ、あんた」
「弟探しをしただけだけど」
「‥‥あんたのやり方はエグイからね、そりゃあっちも怒るの無理ないわよ」
まるで他人事のようにビスタは肩を竦めてみせ、能力者達に背中を見せる。
「そうだ。東の小屋に行ってみなさい」
「ビスタ!」
ビスタの言葉にオーガスタが大きな声で言葉の続きを止めようとする。
「どういうことですか?」
イーリスが問いかけると「アンタって天才よね、こいつらすっかり騙されちゃってるもの」とオーガスタを見ながらため息混じりに呟く。
「子供三人」
ビスタの言葉の意図が分からず能力者達が怪訝そうな顔をしてビスタを見る。
「アンタ達が倒したキメラを作った材料」
「どういう‥‥事だ」
「頭悪いわね、四人全てを使ったように見せて、こいつは一人だけキープしてたのよ。キメラをよ〜く見れば分かる筈よ。で、どうする?」
ビスタは嘲るように言葉を返し、そのままオーガスタと共に消える。後には静けさと能力者達のみが残された。
「とりあえず‥‥急いで東の小屋に行ってみようか」
朔月が呟き、能力者達が東の小屋に行ってみると‥‥そこには失踪した少年の一人ががたがたと震えて蹲っていたのだった。
END