●オープニング本文

お母さんがピンチになっちゃったり、私がピンチになっちゃったり‥‥。

色々あったけど、私のお誕生会はするわよ！

‥‥というわけで、傭兵諸君、私のお誕生会にプレゼントさっさと持ってきなさいよね。

っていうか、プレゼントくれた後はとっとと帰るがいいわよ。

※※※

傭兵の皆様

こんにちは。

お初の方も多いかとは思うアルが、私はリリシア・シュプールと申すでござる。

突然の文書を失礼かと思うアルが愛娘の為に筆を取らせていただいたのだ。

今回は私の娘、キルメリア・シュプール（gz0278）のお誕生会を開こうと思い、皆様をご招待したく封書を送らせていただきましたのだ。

まだまだやんちゃ盛りですので、皆様にご迷惑をおかけしている部分もあるかと思いますでごっつあんです。

もし宜しければ、キリーのお誕生会に来てくださると嬉しくて突っつきそうだ。

――リリシア・シュプール

※※※

「‥‥なんだろう、この何処から突っ込んでいいのか分からなくなるものは‥‥」

リリシア・シュプール、彼女は魔王の娘とも言われるもやしことキリーの母親である。

何故か日本語で書かれた文書がさまざまな能力者達へと送られていた。

娘のキリーは日本語などぺらぺらに喋れるのだが、リリシアの方はそうも行かないらしく色んな所で妙な言葉が混ざっている。

「しかも迷惑をおかけしている部分、じゃなくて迷惑だらけだよ」

招待状を読みながら男性は一人でツッコミを入れている。

「何よ、うちのお母さんの可愛らしい部分を否定するなんてあんた人間失格だわ、むしろ雑草みたいにその辺に立ってなさいよ、粗大ゴミ」

がすがすと男性能力者の脛を蹴りながらキリーがばっさりと酷い事を言っている。

「招待状に入れ忘れたものがあったから、送った能力者達にこれを渡しに来たのよ」

そう言ってキリーが差し出した紙に書かれていたのは‥‥。

『プレゼントがない場合、覚悟しとけよ、ゴルァ』

そんな言葉が書かれた真っ黒な紙だった。

●参加者一覧

/ 大泰司　慈海（ga0173） / レィアンス（ga2662） / 土方伊織（ga4771） / レア・デュラン（ga6212） / 百地・悠季（ga8270） / 龍深城・我斬（ga8283） / 小野塚・美鈴（ga9125） / 白虎（ga9191） / くれあ（ga9206） / 神撫（gb0167） / アレイ・シュナイダー（gb0936） / 仮染　勇輝（gb1239） / 紅月・焔（gb1386） / 如月・菫（gb1886） / ディッツァー・ライ（gb2224） / 八葉　白雪（gb2228） / ファブニール（gb4785） / 神咲　刹那（gb5472） / 諌山美雲（gb5758） / アンナ・グリム（gb6136） / 諌山詠（gb7651）

●リプレイ本文

　もやしのお誕生会、一時間前

　今日はキルメリア・シュプール（gz0278）のお誕生会、本当はもう少し早くに開催される筈だったのだけど、キリーの母親やキリー本人がピンチになっていた事もあり、少しだけ遅れての開催となった。

　しっと団総帥・白虎（ga9191）はキリーに花束をプレゼントする為に花を買いに花屋へと来ていた。
「大好きなおねえちゃんの誕生日に花束を贈りたいのニャー」
　ほっぺたを赤く染め、瞳をうるうるとさせ、上目遣いでもじもじしながら白虎は店員へと告げる。
「まぁ‥‥！　優しいのね（何てこと、もじもじした姿が可愛いわ！）‥‥それじゃ、今から花束を作るから待っててね（萌えー！）」
　女性店員の心の声など白虎に聞こえる筈もなく、白虎は花束が出来上がるまで椅子に腰掛けて待つ事にした。
　ちなみにこれは白虎が考えた購入作戦ではない。同じしっと団員の龍深城・我斬（ga8283）が総帥である白虎に教えた方法である。実に愉快である。
　しかし、彼はまだ気がついていない。優しい（筈の）仲間達が白虎の今後を愉快‥‥ごほん、ロマンチックに仕上げてやろうという面白半分‥‥げふん、優しい心意気が待っているという事に。
「はわわ、ついに審判の日が来ちゃったのです。下手なものプレゼントしたらきっと、まおー様の怒りが炸裂しちゃうのですよ」
　お、おそろしい‥‥と体を震わせながら呟くのは土方伊織（ga4771）だった。ちなみに彼はキリーから『わんこ』と呼ばれており、彼自身は否定しているのだが、今日の格好は『狼のヘアバンド』と『狼のベルト』を装着しており、服装は執事服と見事にわんこ執事だったりするのだが、あえてそこは気づかない振りをしてあげよう。
「どうだ！　ちゃんと買って来たニャ！」
　じゃん、と花束を白虎が自慢気に見せる。何故か金額以上の花束になっているのはきっと店員の白虎萌え効果なのだろう。
「さぁ‥‥覚悟はいいかな？　白虎君」
　にやりと神咲　刹那（gb5472）が黒い笑顔を浮かべながら白虎に詰め寄る。白虎も身の危険を感じたのか一歩後ろに後退したのだが‥‥そこに待ち構えるのは明らかに敵の顔をした仲間達。
「総帥、肩にゴミがついてるよっ」
　大泰司　慈海（ga0173）がニヤリと後ろから話しかけて「え」と白虎は肩の方を見る‥‥が何かある筈もない。大泰司の嘘なのだから。
「隙ありっ！」
　大泰司は呟くと持っていたロープで亀甲縛りにして白虎の動きを封じる。そこに何故亀甲縛りなのかという疑問を投げかけてはいけない。彼は大人『あだると』なのだ。
「な、何をするー！　貴様ー！」
「首領‥‥プレゼントは僕にゃ、大作戦だよ、クカカカカ‥‥」
　龍深城が低い声で呟く。そこに普段の彼の姿はない。
「はわわ、僕の不用意な一言で白虎さんがプレゼントされる事になっちゃったデスヨ。はわわ、ぼくはどーすれば‥‥」
　そう、今回の『僕を受け取って☆』大作戦は土方の何気ない一言で始まりを告げていた。自分の一言のせいだと土方は自分に何か出来ないかと考えるのだが‥‥。
「うん、お約束はどーしようもないのでお手伝いします、白虎さん、大人しく梱包されてーですよ」
　あまり自分のせいだと思っていないようで、白虎にとっては状況が悪化しただけだった。
「白虎ちゃん、これを忘れてるわ」
　白虎の母親であるくれあ（ga9206）がにっこりと笑顔で服従の証である首輪を装着させる。白虎は自分の味方となってくれる者は少なくともこの中にはいない事を知り「き、きさまらー！」とばたばたと暴れ始める。
「お休み、白虎くん。起きた時には‥‥素晴らしい光景が広がっているはずだよ」
　多分ね、神咲は言葉を付け足して白虎を大人しくさせようとするが、大人しく梱包される彼でもない。
「ちょっと手荒になっちゃうけど、ごめんね」
　アンナ・グリム（gb6136）は白虎にチョップをして黙らせる。そして続いて龍深城が首筋に当身を食らわせて白虎を気絶させた。
「さぁ、総帥‥‥巨大金ダライで湯浴みをしてキレイキレイしましょーねー♪」
　大泰司は笑いながら気絶した白虎と巨大金ダライを抱えて何処かへと行く。流石に女性が居る中での湯浴み（という名前の拷問）は可哀想だと考えたのだろう。
「梱包したらリンドヴルムでお届けしてやるから感謝すると良いのですよ、ふひひひ」
　にら、ではなく如月・菫（gb1886）が叫ぶが、気絶している白虎に聞こえる筈もなかった。
　目が覚めた後、白虎を待ち受けるのは天国か地獄か、ある意味では天国であり、普通に考えたら地獄――とあまり結果は変わらないような気がするのはきっと気のせいだろう。


　もやしのお誕生会、本番

「さて、来てみたはいいが‥‥なんというか、フリーダムだな‥‥」
　キリーの自宅を訪れたレィアンス（ga2662）は小さく呟く。明らかに来訪者が引っ掛かるようにと仕掛けられている落とし穴、ロープなどが見え隠れしており、お誕生会とは名前だけのカオスパーティーが始まる事を示していた。
「わぁ、大きなお家ですね‥‥」
　レア・デュラン（ga6212）が庭園を見渡し、その奥にある屋敷を見て感嘆のため息を漏らしながら呟いた。
（「な、なんだかとっても読みにくい日本語のお手紙がポストに入っていたのはビックリですけど‥‥プレゼント、喜んでもらえるでしょうか‥‥」）
　レアは心の中で呟く。彼女とキリーは面識がないため、何が好みなのかさっぱり分からなかったので持って来たプレゼントに少しだけ不安があるのだろう。
「何、人の家の前でボケッと突っ立ってんのよ、さっさと中に入りなさいよね、グズ」
　腰に両手を当て、キリーがレィアンスとレアに向けて暴言を吐く。
「こんにちは、今日はお邪魔するわね」
　百地・悠季（ga8270）が大きな荷物を抱えながらキリーの自宅へとやってくる。今回の彼女の服装は木綿のブラウスにレザージャケット、ゴシックマントを羽織り、下は黒のロングパンツという男装気味の服装だった。
「何よ、今回は男みたいな格好して。それでも私は色気があるのよって自慢したいわけ？　邪魔な胸なんて引きちぎっちゃいなさいよ！　別に羨ましくないけどね！」
　キリーは言葉をまくし立てた後にぷいっと横を向き「さっさと中にはいって料理でも食って待ってなさいよ、ヘタレ」ともてなしたいのかもてなしたくないのか分からない言葉を３人に投げつけて屋敷の中へと入らせたのだった。
「こんにちは〜♪　今日は誕生会のお誘いありがとうなのだ〜♪」
　小野塚・美鈴（ga9125）がにっこりと笑顔でキリーに話しかける。
「何がきんちょのクセにけしからん胸をしてるのよ」
　全く話をかみ合わせようとしないキリーに小野塚は苦笑しながら「べ、別に狙ってしてるわけじゃないのだ‥‥」と言葉を返した。
（「この機会に絶対キルメリアさんとお友達になるのだ〜♪」）
　小野塚は心の中で呟き、密かに拳をぐっと握り締めて「ちょっとリリシアさんにお話しにいくのだ〜」と言葉を残して屋敷の中へと入っていく。
「ちょっと！　待ちなさいよ！　そのけしからん胸は何食ってたら‥‥‥‥バカアアアア！！！」
　既に屋敷の中へ入っていく小野塚にキリーは大きな声で喚きたてた。
「相変わらずの横暴だなぁ‥‥まぁ、誕生日くらいは多めに見てやるかね」
　苦笑しながらキリーの背後に立つのは神撫（gb0167）だった。
「誰が横暴なのよ！　ムカつくわねっ！」
　キリーは神撫の鳩尾にパンチを食らわそうとしたが、頭を押さえられて神撫の腹に手が届かない。
「何なのよ！　俺って背が高くてカッコイイだろうとでも言いたいの！？　かっこよくないわよ！　馬鹿！」
　ぎゃあぎゃあと喚きたてるキリーに神撫は苦笑＆ため息を漏らし「とりあえず、中に入らせてもらうよ」と喚きたてるキリーを置いて屋敷の中へと入って行ったのだった。
「キリー、誕生‥‥「おめでたくないわよ！　この馬鹿！」‥‥ぐぉぅ‥‥」
　今までの出来事を知らぬアレイ・シュナイダー（gb0936）がキリーにお祝いの言葉を言おうとしたところ、見事に鳩尾にパンチがヒットする。ちなみにアレイが何かしたわけでもないし、ましてや先に行った神撫が何かしたわけでもない。ただの子供の癇癪が起きただけだと言う事は補足するまでもないだろう。
（「‥‥今、会話に入れば間違いなく俺にも被害が来るだろうなぁ‥‥」）
　アレイとキリーのやり取りをこっそりと見ながら心の中で呟くのは仮染　勇輝（gb1239）だった。
「見えてるわよ！　勇輝！　何隠れてンのよ！」
　石を投げつけながらキリーが叫び「わぁっ」と仮染は石から逃れる。
「え、えーと、キリーさんのお母様から暗‥‥じゃなくて招待状が届いたので」
　招待状を見せながら仮染が呟くと「暗号文じゃないわよ、お母さん、一生懸命書いてたんだからね！」とばちーんと平手打ちを食らわす。
「‥‥で、アレってあんたの友達なワケ」
　キリーが指差した方向にいるのは庭園の草花に隠れた‥‥ガスマスク、ではなく紅月・焔（gb1386）だった。
「いや、俺は一人で来たけど‥‥」
　美しい草花の中に潜むガスマスクではなく紅月は立ち上がりながらキリーと仮染に向かって近寄ってくる。
「‥‥誕生日とは‥‥おめでとうだな‥‥キ‥‥もやし嬢」
　紅月はキリーの名前をド忘れしたようで『もやし』とキリーを呼ぶ。別に『もやし』と呼ばれる事に抵抗はないのだけれど‥‥。
「あんた、今『キ』って私の名前言いかけたわよね、何故言いなおすのかを１０秒以内に答えなさいよね」
　キリーが紅月に向けて呟いた次の瞬間「遅いわよ！」とガスマスクに向けて石を投げつける、ちなみにキリーが待っていた時間は３秒ほどだ。
「もしかして私の名前、忘れたわけじゃないわよね！」
「はっはっは‥‥忘れる訳ないじゃないか‥‥忘れもしない‥‥あの何時だったかの依頼で会ったしな「忘れてるじゃない」‥‥え〜‥‥リリシア嬢？」
　キリーのツッコミもスルーして紅月が告げた名前は『キルメリア』ではなく『リリシア』と何故か母親の名前だった。
「勇輝、滅殺して」
　親指をくいっと下に向けながら仮染へお願いという名前の命令を下す。お願いされた仮染としてははた迷惑な話である。
「あらあら、相変わらずなのね」
　白雪（gb2228）が横暴な振る舞いを見せるキリーを見て苦笑する。ちなみに現在の人格は白雪ではなく真白だったりする。
「それにしてもディッツ君ったら‥‥」
　真白は隣に立つディッツァー・ライ（gb2224）を見てくすくすと笑う。真白の服装は着物、ディッツァーは誕生会と言う事もあって正装して来ていた。
「‥‥むぅ、そんなに変か？」
　スーツとネクタイという格好のディッツァーだが、既製品では彼の体格に合わずパツンパツンになっており、寒々しいほどに似合っていないのだ。
「‥‥‥‥うわぁ」
　キリーは特に突っ込む事なく、ディッツァーを見て「ぷぷ」と笑う。
「そんなにへ「変よ」‥‥そうか」
　そんなに変か、とディッツァーは聞きたかったのだがキリーは彼の言葉を最後まで聞く事なく否定する。１つ大人になったにも関わらずキリーの横暴さに変化はないようだ。
「あらあら、キリーったら‥‥皆を案内しなくちゃ駄目じゃない」
　ぱたぱたとキリーの母親、リリシアが駆け寄ってきて「今日は来て下さりありがとうございます」と丁寧に頭を下げた。
「この度はお招き頂き誠に有難う御座います、こちら降らぬ物ですが「くだらないモンなら持ってくるんじゃないわよ」」
　真白がシャンパンを渡しながら言う言葉にツッコミを入れると「キリー！　なんてコト言うの！」とリリシアがばちんと頭を叩く。
「お母さん、知らないの？　日本ではそういう風に言うのが当たり前なのよ？」
　ほら、とキリーは自分用のメモをリリシアに見せる。
「あら、そうなの？　お母さん、日本語はまだ上手く喋れないのよね、えぇと、お礼は‥‥つまらねぇモン持ってくるんじゃねぇよ、帰れ、バカヤロウ――でいいのね、日本語は難しいわ」
（「分からない事を良い事に変な言葉ばかり教えてるのね、この子ったら‥‥」）
　明らかに違う意味の言葉をリリシアは真白へと告げるが、にこにことお礼を言っている（つもりの）リリシアに『違う』とはとてもじゃないけれど言える雰囲気ではなかった。
「えっと、此処でいいのかな」
　ファブニール（gb4785）がひょこっと顔を覗かせながらやってくる。
「こんにちは、僕は「誰よ、あんたは。まず最初に自己紹介からするのが礼儀ってモンでしょ、ヘタレ」‥‥今言う所だったんだけど‥‥」
　リリシアは先ほどやってきた能力者達を屋敷へと案内している。つまりキリーは猫を被る必要がなくなったので魔王全開でファブニールへと言葉を投げかける。
「さっさとあんたも屋敷に入りなさいよね、グズ「キリーさん」‥‥？」
　ファブニールに暴言を吐く中、自分の名を呼ぶ声に気づき、キリーは其方へと視線を向ける。
「‥‥ナニ、アレ」
　自分の名前を呼ぶのは巨大なコーギー‥‥の着ぐるみを着た誰か。
「キリーさん、お誕生日おめ‥‥うわっ！」
　そしてそのコーギーは何故か、何故か（大事なので二度言います）何もない所で躓いてキリーに襲い掛かる。
「ふぐっ‥‥！」
　まるでタックルでも喰らったかのように呻くキリーの上に乗りながら「だ、大丈夫ですか！」と起き上がり、顔を見せる。
「‥‥美雲‥‥」
　そう、巨大コーギーの着ぐるみを着ていたのは冴木美雲（gb5758）だった。何もない所で躓くという天然を見た時点でキリーは誰なのか予想していたのは内緒。
「えへへ、ハロウィンですからね」
　冴木は着ぐるみを脱ぎながらウィッチ姿へと変わる。
「どうですか、似合いますか「まず謝れ、地べたに頭こすり付けて摩擦で怪我するほどに謝れ」」
　ごす、と頭突きを食らわしながらキリーは冴木に向けて言葉を投げかける。言葉こそ大人しいのだが、静かな炎のようにキリーの怒りゲージは既にフル充電されている。
「あ、これ誕生日プレゼントです」
　冴木は言いながら足の所まで下りた着ぐるみから巨大なウサギのぬいぐるみを取り出そうとするのだが‥‥この後の展開は言うまでもなく着ぐるみに足を引っ掛けた冴木がキリーに頭突きを食らわす。
「いたああい！！」
　どすん、と尻餅をついてキリーが叫び、目を開けた次の瞬間に視界に入ってきたのは自分に襲い掛かってくる巨大なウサギのぬいぐるみ。
「‥‥‥‥美雲、とりあえずあんたは私に１００万回詫びて、ウサギは嬉しいけど、その前の攻撃について反省文を書いて持ってきなさいよね」
「何か取り込み中かな‥‥」
　諌山詠（gb7651）がウサギのぬいぐるみに押し倒されているキリーの姿を見ながら苦笑して呟く。
「何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いわね。命綱ナシの逆バンジーして私に詫びろ、ヘタレ」
　キリーは諌山の脛をグーで叩きながらぶつぶつと文句を言う。恐らくキリーとあって暴言を吐かれない人はいないだろう。
「やぁキリーちゃん久しぶりっ。お誕生会にご招待ありがとうっ」
　大泰司がにこにことキリーに話しかけながらやってくる。彼の後ろには土方、龍深城、くれあ、如月、神咲、アンナの姿もある。
「あら、こんにちは、来てくださってありがとう」
　リリシアがやってきて丁寧に能力者達へと挨拶をする。
「お招き頂きありがとうございます。美しいマドモアゼル」
　龍深城がリリシアに話しかけていると‥‥魔王の微笑みをしたキリーがパシャッとリリシアと龍深城の写真を撮っている。勿論、龍深城の行動は冗談なのだが「恋人さんに見せちゃおうかなあ」とキリーは悪魔の言葉を囁いている。
　しかしここでキリーは気づく。龍深城の恋人が誰なのかを知らないということに。
「‥‥？　何その荷物」
　如月のリンドヴルムによって運ばれている大きな荷物を指差してキリーが問いかけると、全員でニヤリと笑う。その笑顔にキリーが「気持ち悪いわね、変態」と罵ったのは言うまでもなかった。


　もやしの誕生会だもの、カオスにならない筈がないよね☆

「キリー、お母さんは少し向こうに居るから皆で仲良くしなさいね」
　リリシアは言葉を残して向こうの部屋へと向かう。デザート系の準備をするのだろう、甘い匂いがこちら側まで漂ってきている。
　ばたん、とドアの閉まる音が聞こえると同時に「今日は誘ってあげた私に感謝しなさいよね」とキリー大魔王が降臨する。
　そして何故かキリーの隣に設置してあるのは見慣れない機械、パイ投げマシーン。
「料理を食べる前にプレゼントさっさと寄越しなさいよね」
　キリーのそわそわしている態度を見ながら能力者達は苦笑して各自持ち寄ったプレゼントをキリーに渡し始める。
「これ、俺からのプレゼントだよ」
　大泰司が差し出したのは『プレート型オルゴール　チューリップ』だった。
「ドイツのフリーデン社ってとこのオルゴールなんだ、気に入ってくれると嬉しいな♪」
　キリーは渡されたオルゴールを見ながら「おやぢ、ありがと」とオルゴールを大事そうに抱えた。
「招待、どうも‥‥そして誕生日、おめでとう‥‥」
　レィアンスが差し出したのは『スターダスト』のイヤリングだった。
「俺が持っていた所で、宝の持ち腐れでな、装備して使うなり換金するなり、好きに使ってくれ」
　レィアンスの言葉に「貰ったモンを売るような事はしないわよ、ありがとう、今度からつけるね」とキリーは言葉を返した。
「さて、挨拶もプレゼントも済んだことだし、俺は俺で、のんびりとさせてもらおう」
　レィアンスは呟いて料理に手を伸ばしかけた所で「そうだった、確認したい」とパイ投げマシーンを見ながら「アレは迎撃してしまっても、構わんのか？」とキリーに問いかけた。
「駄目よ、いくら掛かってると思ってるのよ！　馬鹿」
　一体いくら使ったんだろう、レィアンスは心の中で呟きながら「そうか‥‥」と短い言葉を返したのだった。
「はわわ、僕の番が来てしまったのですよ‥‥え、えとコレなのですけど‥‥」
　土方が取り出したのは『【ＺＯＯ】キャットスーツ』だった。
「‥‥‥‥‥わんこ」
　ちょいちょいと手招きしながらキリーが呟き、土方を呼ぶ。そして‥‥「このド阿呆が！」と頭突きを食らわす。
「まず、どんな顔してコレを買ったか知りたいわね。このスケベ。むしろあんたが着て詫びろ」
「で、でもこっちが本命プレゼントなのです‥‥いたい、いたいですよぅ」
　土方が差し出したのは『鷹目の指輪』と『白兎の懐中時計』だった。
「指輪に深い意味はないのです。でもホークアイよりデビルアイの方が似合いそうです‥‥け、ど‥‥はわわ」
　土方の言葉にキリーのデビルアイが『クワッ』と光る。そして土方の少し後ろではキリーが誰かを怒るたびにびくっと肩を震わせるレアの姿があった。
「こ、これがボクのプレゼントです‥‥以前、半漁人さんに捕まったと聞きましたけど、これならピンさえ抜いて頂ければ木っ端微塵で‥‥す？」
「つまり、あんたは私も木っ端微塵になれと言ってるのね、いい度胸じゃないの。むしろ実演してほしいわね。ほら、さっさと吹っ飛びなさいよ、馬鹿、ヘタレ」
「ぼ、ボクはいません‥‥」
　レアは何か痛い事をされそうな予感がして『ギリースーツ』を着て涙目になりながらダンゴムシ状態になる。
「ほらほら、あたしからのプレゼントはいらないの？」
　百地が苦笑しながらキリーを諌めながらプレゼントを渡す。彼女がキリーに用意したプレゼントは『犬のぬいぐるみ』『雪だるまのぬいぐるみ』『しゅてるんのぬいぐるみ』『ろんぐぼうのぬいぐるみ』『あぬびすのぬいぐるみ』とぬいぐるみ三昧だった。
「どれが好み？」
　百地がキリーに問いかけると「しゅてんるん！」とキリーは言葉を返す。
「それが良いんだ？　なら今度一緒に訓練で乗る？」
　百地の言葉にカチンとキリーは固まる。キリーは能力者という肩書きを持ちながらＫＶでの戦闘などの任務は一回も行った事がない。
「あ、あんたがどうしてもって言うなら乗ってあげてもいいわよ。別に私は乗りたくないけど、どうしてもって言うなら考えに考えて、考え抜いて断ってやるわ」
　ＫＶが苦手なのか理由は分からないがキリーは少し、いやかなり動揺している。
「そ、それよりさっさと寄越しなさいよね！」
　龍深城に話を振って、話の流れを誤魔化そうとするが「誤魔化されないからね」と百地の言葉が聞こえて「‥‥乳デカめっ」と小さな声で呟いた。
「年頃の女の子が欲しがる物なんて分からんから能力者としての実用品を、と思ってね」
　龍深城が差し出したのは可愛くラッピングされた『黒曜石の腕輪』だった。
「へぇ、綺麗ね――じゃなくてありがたく貰ってあげるから感謝しなさいよね」
　ふん、とあくまでもツンデレ風に言葉を返すのは止めないらしい。
「はい、私からはコレなのだ」
　小野塚が差し出したのは兎の形をしたイヤリングで瞳の部分が赤いクリスタルになっている『兎のイヤリング』と赤いひし形の水晶が埋め込まれている『翼のネックレス』とフリルがふんだんに使われた『美鈴お手製のゴシックワンピース』の三つだった。
「‥‥‥‥可愛い」
　ゴシックワンピースを手に取りながらキリーが小さな声で呟く。キリーは普段からフリル系の洋服を好むために気に入ったのだろう。
「こっちのワンピースは私お手製なのだ〜、もうすぐ冬だから生地は保湿性の高いの選んで作ったんだよ」
　小野塚の言葉に「ありがと」とキリーは言葉を返したのだった。
「えぇと、うさぎさんが好きなのよね」
　くれあがにっこりと差し出してきたのは‥‥バニーガールの衣装、そして魔法少女セットの二つだった。
「これは愛と正義の魔法少女として数々の変態を粛清してきた衣装なの。撲殺用の魔女っ子ステッキ付よ」
「‥‥！」
　何故かくれあの説明文にある『変態』と言う言葉で紅月がびくっと肩を震わせた。自分が粛清されるとでも思ったのだろうか。
「あ、これは胸が育ちすぎてもう着れないからキリーちゃんが着ちゃって」
　胸が育ちすぎて、胸が育ちすぎて、胸が‥‥その言葉がキリーの中でリピートされて「‥‥まず粛清されるのは、あんたね」と衣装を握り締めながら嫉妬の炎を燃やした。
「俺からは、これ」
　はい、と神撫が渡したのは『ミニハット』だった。
「普段の服装にも似合いそうだと思うんだよね、気に入ってくれればいいけど」
　ミニハットを見ながら「そういえば、私ってリボンはあるけど帽子って持ってないや」と思い出すように呟く。
「ありがと、こんにゃく」
「‥‥‥‥‥こんにゃく？」
「だって、あんた『かんな』でしょ？　確かどっかで『かんにゃ』とか呼ばれてたわよね。だから私的にアレンジして『こんにゃく』にしてあげたわよ」
　感謝しなさいよね、ふんぞり返りながら呟くキリーに思わずプレゼントを取り返したくなる程だった。
「あんたは？　ガスマスクとか言ったらマスクの中に熱湯入れるからね」
　紅月にプレゼントを催促すると「忘れ‥‥！」と言いかけた時に彼の永遠の心の友（と書いて赤の他人と読む）アレイを見つけて「にゅほほほほ」と不気味な笑い声と共に彼に擦り寄る。
「今回のプレゼントは僕ら２人で準備しました」
　きりっとした表情（ガスマスクの中だけど）で呟く紅月だったが「はぁ！？」とアレイは思わず目を丸くしながら叫ぶ。
「どうでもいいからさっさと寄越しなさいよ」
　キリーの催促に「‥‥あ、プレゼントは忘れた‥‥すまんな」とアレイが言葉を返す。
「はぁ！」
　今度は紅月が叫ぶ。
「いや、別に冗だ‥‥「死ね」」
　アレイが『冗談だよ』という前にキリーの新☆必殺技が炸裂する。
「我がシュプール家が誇るニューカマー！　ゴンザレス！！」
　キリーの言葉と共に現れたのは‥‥見るからにゴンザレスと言う感じのマッチョムキムキなオカマだった。
「ゴンザレス、あいつらを好きにヤっちゃっていいわよ」
　にっこりと魔王の言葉をゴンザレスに投げかけると「いやん、ゴンジー照れちゃう」ともじもじする。ちなみにゴンザレスをゴンジーと略したからと言って可愛くなるわけではない、むしろ暑苦しさ倍増だ。
「こ、こいつをやろう」
　アレイが紅月をぐいとゴンジーの方へと押し出す。
「いやよ！　あたいは女の子を見ながら料理を食べるんだから！　あたいはイヤよ！」
　紅月もゴンジーに負けないおねえ言葉で反論する。
「あらあら、照れちゃって‥‥！　２人ともこっちにいらっしゃ〜い」
　ぐい、と２人の首根っこを引っ張って部屋から連れ出す。
「あの‥‥大丈夫なんですか？　その‥‥」
「？」
　仮染が連れられていく２人を見ながらキリーに問いかけると「多少こき使われるくらいじゃないの？」と言葉を返した。
「こき使う？」
　神咲の言葉に「何か勘違いしてない？　ゴンザレスはうちのシェフだけど」とキリーが爆弾発言をする。
「オネエだし、暑苦しいからある意味必殺技にしてるけど」
　ヤっちゃえ、という言葉に能力者たちは別な想像をしたが、どうやらソレの心配はなさそうなので料理を食べ始める。
「とりあえず、どうぞ‥‥二回目ですけ「細かい事気にしてたらハゲるわよ」」
　仮染の言葉を途中で遮りながらキリーがプレゼントを受け取る。デンファレの花束を抱えた兎の抱き枕にもなりそうな大きさのぬいぐるみで、着脱可能なサングラスをしていた。
「デンファレはわがままな美人という花言葉らしいですよ‥‥というか隊長の趣味でも移ったかな、花言葉とか」
　苦笑しながら仮染が呟くと「ふふ、わがままは余計だけど美人は有難く褒め言葉で貰っておくわ」とキリーが言葉を返した。
「にゅふふ、私の番なのです。プレゼントはこれです、もやしです」
　どどん、と大量に積まれた『もやし』を見てキリーはげんなりとした表情をした。
「もやしは、所詮もやしでも食ってろってコトなのです。傑作なのですよ、あっひゃっひゃ」
　けたたましく笑いながら如月はキリーにもやしの山をプレゼントする。
「さて、私もつい先日、誕生日だったので。ほらほら何か寄越すのです」
　如月の言葉にキリーは暫く考えて「分かったわ、喜んでもらえるものを用意するわね」と天使の笑顔で言葉を返した。
「ゴンザレス！」
　先ほどのカマシェフを呼び、なにやら耳元で話して「分かったわ」とゴンザレスはもやしの山を持って厨房へと帰っていく。ちなみにもやしの山を運んだのはアレイと紅月（ゴンザレスの趣味によりフリルエプロン着用）だったとか。
「それにしても此処に居る連中のほとんどが、言っちまえば『もやし被害者の会』の会員達か‥‥いや、もやしに基本的人権のあり方を訴える会、か？　ハハハっ‥‥ハッ！」
　ディッツァーが楽しげに喋っている間にキリーが背後に来て「へぇ、そういう事言うのね」とパイ投げマシーンのスイッチを押す。ちなみにこれには仮染が悪戯をしており、ハバネロ＆韮エキスたっぷりのタバスコ入りのパイも存在する。
「はぶっ！　ふぼぁっ！　ぎゃあああああ‥‥」
　見事にハバネロパイを選んだらしくディッツァーは転がりまわる、そして壁に激突しして止まった所にキリーが蹴りを入れる。
「被害を訴えてみる？　訴えてみなさいよ、あ？　あんたみたいなゴツイおっさんと私みたいな可愛らしい天使少女の話、どっちを信用してくれるかしらね」
　魔王スマイルでディッツァーを脅すが、キリーは気づいていない。自分の悪名がそこら中に知れ渡っているという事に。
「プレゼントは用意してないの？　さっさと渡しなさいよ、このグズ」
「‥‥あ、あぁ‥‥すまん、すっかり忘れてた‥‥なんて言うと思ったか？　勿論用意してあべしっ！」
「ごちゃごちゃと御託はいいか渡すモンさっさと出せっつってんのよ」
　いい加減苛々してきたのかディッツァーに対する仕打ちが半端ない。ディッツァーはよろよろしながらもプレゼントを渡す。
　彼のプレゼントは『ミュール』なのだが、友人の真白に「花の一輪でも添えられていたら違うのに」という指摘に従って箱に花が添えられていた。
「よりによってロベリア‥‥あとは宜しくね、寸分迷わぬように冥土に送ってあげて‥‥」
　ディッツァーの添えた花『ロベリア』を見て真白はため息混じりに呟いた。
「ロベリア‥‥？　よぅし、その喧嘩五割増しで買うわ」
「‥‥あの〜、キリー殿？　拙者、何かお気に触るような事を‥‥「問答無用よ、盆踊りしながら切腹でもしちゃいなさいよ」アーッ！」
　部屋の中にディッツァーの悲鳴が響き渡る。彼は知らない。ロベリアの花言葉が『悪意、謙遜、譲る心』だったという事を。
「次は私の番ね、誤って着物を持って来てしまったから着てみない？　折角の誕生日だし」
　真白の問いかけに「仕方ないわね、別に着たくないけど着てあげるわよ、あんたがかわいそうだからね」と素直じゃないキリーの言葉を聞いて真白は苦笑する。彼女は『ホワイトリリー』『オルゴール』『カニ缶』とプレゼントを用意してきており、その他に着物一式をキリーにプレゼントしてくれた。
「わぁ、可愛いじゃないか」
　真白に着物を着付けてもらい、キリーは着物へと着替えた。やはり生粋の日本人である真白には適わないけれど初めての着物にキリーは何処か嬉しそうだった。
「‥‥それであんたは？　何料理ばっか喰ってパーティー満喫してんのよ」
　ファブニールに話しかけると「え？」と彼は目を瞬かせながら言葉を返す――次の瞬間にパイ投げマシーンの餌食となってしまう。
「うぅ、そ、そうだ‥‥その大きな箱は何なのかな、さっきから気になってるんだけど」
　ファブニールはパイ塗れになった顔をタオルで拭いながら大きな箱を指差す。確かにそれはキリーも気になっていた事だった。
「ハッピーバースデー、キリー。さ〜思い切って開けて見て」
　神咲に促されてキリーは箱を開ける。
「‥‥‥‥」
　そこに入っていたのは、古代ローマっぽい腰布だけを着用して『プレゼントは僕にゃ』と書いたプレートを提げている白虎だった。素肌にはピンクのリボンがぐるぐる巻きにされている。
「んーーーーーっ！　んーーーー！」
　猿轡をされており、白虎が何か言いたそうにしているのだが。
「白虎、私が言いたい事は一つだけよ。このド変態が」
　キリーはにっこりと今まで白虎が見た事のないような笑顔で箱を閉める。
「寒いから庭で燃やしたらよく燃えるでしょうねぇ、今日は空気も乾燥してるし」
　ふはははは、と魔王の高笑いをしながら呟くキリーを見て「ナイス・カオス」と仮染は密かに呟いていた。
「違うのにゃー！　これには深い事情があるの‥‥ニャーーーーー！」
　暴れたおかげで猿轡が取れて箱から出てきたのだが‥‥箱に白虎の腰布が引っ掛かって‥‥これ以上は言う必要はないだろう。
「ぎゃあああああああ！　な、な、な、何そんなもん出してんのよ！　前々から変態だとは思ってたけど‥‥この露出狂！」
　それからは大騒ぎとなり、楽しい誕生会が世にも奇妙なカオスパーティーへとなってしまった。
「おっと、危ない、アンナ。大丈夫？」
「えぇ、何か凄いことになってるわね。あ、あのお料理美味しかったのに‥‥」
　がしゃん、ぱりん、べしょ、さまざまな音がなって料理の皿が床に落ちたり、宙を舞ったりしている。
「ちょっとキリーにプレゼントを渡してくるよ」
　神咲は呟きながら黒い吸血鬼を模したマントを翻してキリーの所へと行く。
「はい、キリー。プレゼントだよ」
　そう言って後ろからキリーの首筋にキスをすると同時に『セント・クロス』をかけてやる。
「「ああああああああ！！！」」
　叫んだのは白虎と仮染の２人。
「吸血鬼は美女の血を吸うからね。変な虫はその十字架で追い払ってね」
　にっこりと神咲が呟くと「まず‥‥追っ払うのはアンタよ！」とキリーのアッパーが神咲にヒットする。
「おっと、アンナ。リリシアさんの所にでも避難しよう、アッチは安全だろうから」
　神咲はアンナの手を引っ張ってカオス場となっている部屋から脱出する。その前にアンナはキリーの所へと行き、プレゼントを渡す。
「百合が好きだって聞いたから、だけどつけすぎちゃ駄目よ」
　アンナが渡したのは『ホワイトリリー』の香水だった。
「ありがとう、でも‥‥刹那ぁぁぁぁ！　待てやあああ！」
　パイ投げマシーンで攻撃をしながら神咲を狙うがアンナが日傘で庇う。
「駄目よ、刹那が汚れちゃうじゃない」
　そう言ってアンナは神咲と共に部屋から出て行った。
「キリーさん！　私も手伝います！」
　冴木がパイ投げマシーンのスイッチを入れると「ボウソウモード　ボウソウモード」と機械から変な声が出始める。
「あんた何処のスイッチ押したのよ！　馬鹿！」
　既にパイ投げマシーンにとって敵は目の前にいるすべての生き物となってしまい、無差別に攻撃を仕掛けてくる。
「あらあら、キリーちゃんたら楽しそうねぇ、えぇとスミレちゃんってあなた？」
　ゴンザレスが如月を呼んで「キリーちゃんからの誕生日プレゼントよ」と別室へと案内する。案内されたその場所にあったのは、如月がプレゼントしたもやしが大量に炒められ、ろうそくの代わりに韮が生えている立派なもやし炒めだった。
「ぐ、ぐぬぬぬ‥‥てめぇだって菜類だろうがあああっ！」
　如月もカオスモードへと変わり、部屋へと戻っていく。
「えぇと、どうしよう‥‥ラリアットはパスしたいからプレゼント用意してきたんだけどな‥‥」
　諌山が苦笑気味に呟く。彼がキリーに用意してきたのは『オイルイエロー』というキャンドルだった。
「あ、冴木さん、ちょっと‥‥」
　会場がカオスとなっている今がチャンスと言わんばかりに諌山は冴木を呼んでプレゼントを渡す。冴木も最近誕生日だったらしく彼は冴木の分も用意していたのだ。
「これ、どうぞ」
　諌山が『ルシッドガントレット』と『グリーンメロン』を冴木に渡しながら「お誕生日おめでとうございます」と言葉を付け足した。
　それを見ていた仮染が「そういえば‥‥」と荷物から１０月生まれの能力者達に持って来たプレゼントがあった事を思い出す。
「そうだ、これを――うわっ」
　どうぞ、と言い終わる前に「僕も誕生日だったのニャー！」とパイ投げマシーンと共に暴走する白虎によって攻撃を受ける。顔はガードしたものの腕がべっとりとパイ塗れだ。
　ちなみに仮染はちゃんと白虎や他の１０月生まれの人たちの分まで用意していたにも関わらず攻撃されていた。
「あたいも食べるブッ」
　漸くゴンザレスから解放された紅月とアレイが部屋に戻ってきたのだが、紅月はパイ投げを受けてしまい、アレイは部屋の惨状を見て絶句していた。
「攻撃を受けきるのがポリシー、そんなあたいは元ポリス‥‥だけど涙が出ちゃう、男の子だから」
　がくりと崩れ落ちながら紅月は泣く真似をするのだが、アレイに向かってきた攻撃の盾にされてしまう。
「あ、あの‥‥さっき渡しそびれていたんですけど‥‥」
　レアがカオスの中キリーに渡したのはアンティークショップで見つけた小物入れだった。底に何か書いてあるのだがフランス語だから大丈夫だろうとレアは判断してキリーにプレゼントしていた。
「総帥のサプライズは‥‥ベストね！」
　ぐっ、と拳を握り締めながら百地は攻撃を避けて料理を食べる。まだ無事な料理が幾つかはあったので、彼女は惨劇を見ながらそれを黙々と食べていた。

　結局カオスによって料理は殆ど駄目になってしまい、アレイが最初に作っていたデザートや簡単な食べ物が後から片付けられたテーブルに出されたのだった。
　しかし如月の前だけは『ハッピーバースデー、ニラ』と書かれた大量のもやし炒めが存在していたのだと言う。
「でも‥‥キリーおねえちゃんも、母上様も無事で、また一緒におバカな事して遊べてよかったにゃ「バカなことって言うのは今のあんたみたいな格好の事を言うのよ」‥‥にゃー‥‥」
　ちょっとシリアス風味な白虎だったのにキリー一言によってばっさりと斬り捨てられてしまう。
（「結局ディッツァーさん以外にハバネロエキスとか誰にいったんだろう‥‥」）
　仮染はかくりと首を傾げながら自分が悪戯したパイ投げマシーンの片付けをし始めるのだった。


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