●リプレイ本文
―― これぞ日本の風流? 忍者屋敷 ――
「うふふ、今回は参加してくれてありがとうね。是非とも楽しんで逝って頂戴」
今回の忍者屋敷のモニターに参加してくれた能力者達を前に製作責任者のジョセフィーヌが挨拶をしてくる。ちなみに『逝って』という辺りが彼女の本音が見え隠れしている所なのだろう。
「ツッコミマシーンの製作者が作った屋敷か〜、楽しそうだね♪」
大泰司 慈海(
ga0173)が屋敷を見上げながら呟く。
「‥‥面倒が‥‥起きなければ‥‥良いが‥‥」
西島 百白(
ga2123)が呟き、一緒に忍者屋敷を散策するメンバー、蒼翼 翡翠(
gb9379)とリュウナ・セルフィン(
gb4746)と東青 龍牙(
gb5019)を見て小さなため息を吐く。
(「‥‥‥‥無理だな」)
面倒事と深く関係のあるメンバー達と一緒に散策する為、西島は面倒事から回避する事は困難な事を悟り、もう一度だけ大きなため息を吐いた。
「リュウナ! イン! 忍者屋敷! にゃー! 今日は楽しむなりよー!」
「楽しみましょうね♪ リュウナ様♪」
「‥‥こ、怖そう‥‥」
上からリュウナ、東青、蒼翼の言葉。蒼翼は今回のモニターには来るつもりはなかったのだけれど知り合いを見かけてふらりと立ち寄った所を西島達と一緒に回る事になった。
「二人でお出かけするのも久しぶりだわ♪ ね、シンちゃん♪」
天道 桃華(
gb0097)が藤枝 真一(
ga0779)を見上げながら問いかけると「そうだな」と藤枝が言葉を返す。天道は「デートだ、デート♪」とはしゃいでいるのだが、藤枝は遊びに付き合う程度の感覚でいるのを天道はまだ知らない。
(「本気でデートしたら俺が捕まるしな‥‥」)
はしゃぐ天道の姿を見ながら藤枝は心の中で小さく呟いた。
「忍者屋敷に挑むからには、忍者のコスプレをするのが礼儀にゃー!」
くわっと強く拳を握りながら力説するのは白虎(
ga9191)だった。そんな彼の現在の格好はアニメやゲーム風なコスプレ調の強いくノ一装束だった。
「お約束だから皆の分もあるのにゃ!」
ばさっと白虎が皆の分のくノ一装束を見せながら叫ぶ。
「はわ、お約束? ‥‥お約束じゃ仕方ないですねーって、どーしてくノ一衣装なのですかー」
土方伊織(
ga4771)が最もな意見を述べるが「何故なら僕は女装ショタっ子だからだ!」と返事にならない言葉を返してきて「はわわわ」と土方の混乱度が上昇するばかりだった。
「お姉ちゃんの分もあるにゃ、皆で着ようにゃー♪」
白虎はキルメリア・シュプール(gz0278)にくノ一装束を渡す。ピンク色の忍ぶにはかなり不向きな衣装だったがロリ系の服が好きなキリーには気に入って貰えているようだ。
「‥‥スカートの丈が凄く気になるですけど‥‥はわわ、下着が見えそうなのが泣けてくるです」
土方はそう言って何の抵抗もなく着ている白虎を見て「ある意味そんけーですよ‥‥」と呟いたのだった。
「俺はくノ一コスプレはしませんよ☆」
にっこりと仮染 勇輝(
gb1239)が話を振られる前に先手を打つ。ちなみに彼は何故か忍者屋敷で反射神経を鍛える、という言葉を聞いてやってきたが全くの嘘であった事を到着と同時に知る事になった。
「‥‥ゆーき、着てくれないの? 私、ゆーきとお揃いしたかったのに‥‥」
しょんぼりと今にも泣きそうなキリーの言葉に「うっ‥‥」と仮染は言葉に詰まる。しかし彼は気づいていない、泣きそうな表情の下には『こんな面白い事させないわけないじゃない』と言う魔王の顔が隠れている事に。
「で、でも‥‥白虎さんと違って俺ははっきりと男って分かるし‥‥ね?」
「あ、私がメイクしましょうか?」
仮染の必死の逃げ台詞を冴木美雲(
gb5758)ががらがらと崩す発言をしてくる、流石『天然ドジっ娘記念物』の称号は伊達ではない。
結局逃げ切れないと分かったのか仮染は「‥‥分かりました」とがっくりと肩を落としながらコスプレする事に賛同するのだった。
「他にもメイクしたい人がいたら言って下さいね♪ 軽くですけどメイクしますから♪」
他の能力者達にも冴木は言葉を投げかけると、何名かメイク希望がいたので準備室と書かれた部屋でそれぞれ着替えとメイクをする事になった。
「忍者屋敷か‥‥仲間達に迷惑をかけないようにしなくちゃな」
伊達正和(
ga5204)は忍者屋敷を見上げながら呟く。彼が今回のモニターに参加した理由は忍者屋敷に少年の心を刺激されたから、らしい。
やはり何歳になっても男はこういうアトラクションが好きという事なのだろう。
「何か胡散臭いわね‥‥っていうかこの主な仕掛けの『こんにゃく』って時点で何か間違っているような気がするわ」
百地・悠季(
ga8270)が苦笑しながら『案内』と書かれた看板を見ながら呟く。
「それにしても可愛いわね、何か毒気が抜けたあたしみたい。自称している腹黒さなんて底が浅いし」
キリーの様子を見ながら呟く彼女なのだが、恐らく、凄く、凄く心の広い人なのだろう。でなければあのキリーの悪行を見て尚且つ『可愛い』と呼べる者などほとんどいないのだから。
「忍者屋敷と来れば俺! 俺と言えば褌〜♪ 大石さんじょーう」
真昼間から歩く犯罪として有名な大石・圭吾(gz0158)が手を振りながらやってくる。天道は彼と知り合いなのだが、何故か知り合いと思われたくなくて大石に見つからないように人ごみに紛れた。
「やほー、この前は酷い事したし謝罪って事で‥‥♪ 楽しもうね♪」
香坂・光(
ga8414)が大石に向けて言葉を投げかけると「この前? 何かあっただろうか?」と脳みその容量の少なさが伺える言葉を返してくる。
「大石さんならあんまり気にしてないだろうと思ってたけど、まさか頭の中から消去してるなんて思わなかったよ」
苦笑しながら香坂が呟き「今日はあたしが誘ったんだし、お金は払ってあげよう♪」と香坂が大石の分までお金を払おうとすると「む、気にするな。女に金を払わせては褌の名が廃るからな」と言葉を返して、彼は自分で払ってしまった。
(「その場合、廃るのは大石さんの名前であって、褌じゃないと思うんだけどな‥‥」)
あえてツッコミをいれずに香坂は生温い目で大石を見ていたのだった。
「あのー、一応落とし穴とかの脱出用にロープお借りできますか?」
リュドレイク(
ga8720)がジョセフィーヌに問いかけると「大丈夫よ、落ちたらスタッフの黒子たちが助けに来るはずだから」と言葉を返してきた。
「なぁなぁ、忍者屋敷ってあれだろ? サムライが壁から出てきて斬りつけて来る奴だよな、俺、すっごく楽しみ!」
一人だけ超ハイテンションなのは外見は18歳だけど中身は10歳という七海・鉄太(gz0263)だった。既に鉄太が何と忍者屋敷を間違えているのか分からないリュドレイクは「‥‥た、多分、違うはず、多分ね」と言葉を返した。
「あらあら、元気ねぇ」
白雪(
gb2228)‥‥ではなく姉人格の真白が笑いながら鉄太に話しかけてくる。まるで遊園地にでも来た子供のようなはしゃぎように笑わずにはいられなかったのだろう。
「しかし大層なモンを作ったなぁ、日本文化の極みの一つ、忍者屋敷攻略か‥‥」
ディッツァー・ライ(
gb2224)が呟くと「‥‥今回はスキルを使っちゃ駄目なんですよね」とルチア(
gb3045)がポツリと呟く。
「そう‥‥みたいですね‥‥攻略‥‥出口まで行けば‥‥良いんですよね?」
行けるかなぁ、言葉を付け足しながら呟くのはハミル・ジャウザール(
gb4773)だった。彼は少しだけ忍者屋敷に圧倒されているようで目を何回も瞬かせている。
「今回はお誘いありがとうございます♪」
沢渡 深鈴(
gb8044)がにっこりと笑って相賀翡翠(
gb6789)に話しかける。
(「密かにお慕いしているのが通じたのでしょうか‥‥そんなわけはないですよね、少し自惚れてしまいました‥‥」)
「深鈴ちゃん、百面相になってるよ」
神撫(
gb0167)が苦笑しながら沢渡に話しかけると「あ、ご、ごめんなさいっ」と言葉を返したのだった。
「忍者屋敷‥‥壁がひっくり返ったり、掛け軸の裏に隠し通路があったりするんですよね? だ、大丈夫でしょうか‥‥」
百地と行動する澄野・絣(
gb3855)が心配そうに呟くと「大丈夫よ、簡単みたいだし楽しんでいきましょ」と百地が言葉を返した。
「あらあらあらあら。遅れてごめんなさ〜い、化粧のノリが悪くて時間かかっちゃったわぁ」
きゃあきゃあと騒ぎながらやってきたのは鵺(gz0250)だった。ちなみにキヨシ(
gb5991)とCHAOS(
gb9428)という勇気ある二人の若者が鵺の生贄を買って出た。
「今日はよろしくなぁ」
キヨシが苦笑しながら話しかけると「えぇ、もうイケメンゲットの為に気合十分だわ! じゃなくて忍者屋敷攻略の為に気合十分よ!」と鵺の本音と建前が凄く見え隠れしてキヨシもCHAOSも苦笑するしかなかった。
そしてカオス増調剤として白虎が精神的破壊力抜群の『ピチピチミニスカくノ一』を鵺に渡す。
「きゃあ、可愛い! アタシ、コレを着てくるわねぇ♪」
腰をくねくねとしながら準備室まで走っていく姿を見て「俺、無事に帰れるんやろか」とキヨシが遠い目をしながら呟いたのだった。
―― 忍者屋敷☆攻略開始 ――
「それじゃ順番はこんな感じでいいかしら?」
ジョセフィーヌが入る順番を書いた紙を能力者達に見せていく。
A・藤枝、天道。
B・白虎、土方、冴木、仮染、キリー。
C・キヨシ、CHAOS、大泰司、鵺。
D・相賀、沢渡、神撫。
E・百地、澄野。
F・香坂、伊達、大石。
G・西島、リュウナ、蒼翼、東青
H・白雪、鉄太。
I・リュドレイク、ディッツァー、ハミル、ルチア
「ッて何姉上に手ェ出しとるんじゃー!?」
白虎が姉である天道を見つけて慌てたように駆け寄る。
「何よ、デートの邪魔しないでくれる?」
天道の言葉に「にゃにゃにゃ、で、デート‥‥だと!?」と白虎がシスコンパワー全開で「にゅおお、デートなど全力で叩き潰してくれるー!」と叫ぶ。
「デートの邪魔をしようとはいい度胸だわ、返り討ちにしてあげる。さ、行きましょ、シンちゃん」
天道は「ふんっ」と言葉を残して藤枝の手を引っ張って忍者屋敷へと入っていったのだった。
「キリーお姉ちゃん、手伝うのにゃー! 姉上が相手ならこの際何しても構わんっ!」
それでいいのか、弟よ――とツッコミたいのだが「はいはい、次の人が入るのはまだよー、大人しく待っててね」とジョセフィーヌから制止されてもだもだと暴れる総帥の姿があった。
※A班※
「大丈夫か? そこ、段差があるから気をつけろよ」
藤枝の言葉に「って子ども扱いしないでよー!」と怒りながらも何処か嬉しそうな天道、弟が見たらまたしっとの炎に燃え狂う光景だろう。
「早く行きましょ、デートの邪魔をされたら適わないわ」
天道が藤枝に話しかけると「先に行け」と言葉を返す。
「何で?」
「ふっ‥‥レディーファーストさ」
レディーファースト、その言葉が嬉しかったのか天道が猪突猛進で先に進んでいくと『カチ』というスイッチ音が響き、天道の足元から床がなくなった。
「きゃああ!」
落とし穴に落ちた、と思われたが淵を掴んで何とか下に落ちるのだけは避けれた様子。下できらんと輝く竹槍が寂しそうな哀愁を漂わせているのは気のせいだろう。
「うんまぁ、そこに罠があるのは気づいていた」
藤枝は天道を引っ張り上げながら呟き「ちなみに今、お前が寄りかかった壁も、周囲と微妙に違うな」と天道が寄りかかった壁を指差しながら呟く。
「きゃあああああ!」
「本日ノゴ来店アリガトウゴザイマス。イツモヨリ多ク回ッテオリマス」
「そんなサービスいらないぃぃぃぃ」
回転する壁かと思いきや、回転し続ける壁だったようで天道はくるくると回りながら「シンちゃん、助けてぇぇぇ‥‥」と必死に助けを求めていた。
「ふむ。これは少し度が過ぎた仕掛けだな、誰かが止めるまで回り続けるのは危険だ、安全性に問題がある‥‥大丈夫か? 桃華、怪我はないか?」
優しく気遣う藤枝に「うん、大丈夫よ、シンちゃん」と天道が言葉を返して次の部屋へと向かっていったのだった。
※B班※
「はわわ、足元がすーすーするです‥‥それに、キリーさんがいるので身の危険がすっごくする班ですぅ‥‥うぅ、僕は生きて出られるのです?」
土方はチラリとキリーを見ながら呟くと「何よ、わんこ、今すぐ息の根を止めて欲しいなら遠慮はしないわよ」と言葉を返され「ち、違いますぅ」と手をぱたぱたと振って否定する。
「あのー‥‥白虎さん、勇輝さん‥‥えっとお邪魔じゃなかったですよね‥‥?」
冴木が二人に問いかける。二人がキリーに好意を寄せているのは彼女も気づいているが自分が邪魔にならないだろうかと心配しているのだろう、土方もいる時点でその心配は無問題なのだがやはり聞かずにはいられなかった。
「うぅ、そこでお邪魔とか言われたら僕の立場もなくなっちゃうです?」
はわわ、と呟く土方に「そんな事はありませんよ」と苦笑しながら仮染が言葉を返した。既に全員がくノ一姿という状況にはあえて誰も突っ込まない。他の班の能力者も着る者がいたのだから普通なんだ、と思う事にした。
「あ、キリーさん! 危ない!」
空中を漂って前方から迫り来る金タライに気づき、冴木が横へとそれを投げ飛ばす――その先に仮染が居る事も知らずに。
「Ohー‥‥」
ぐわわ〜ん、とまるで一年の終わりを示すかのような鐘の音が一回だけ聞こえ、続いて仮染の呻き声が響く。
「ああ! ごめんなさい! まさか隣にいるなんて思わなかったんですっ」
冴木が慌てて弁解するけれど、先ほどから仮染は同じ位置に立っている。
(「け、警戒していたつもりだったのにまさか初っ端から来るとは‥‥」)
顔を押さえながら仮染が呻くけれど、冴木はまさか自分が警戒されていたなどとは知らずに「ごめんなさい」と連呼している。
「天雷无妄‥‥まぁ、なるようになるさ」
まるで自分に言い聞かせるように仮染は呟き「大丈夫だから、気にしないでいいですよ」と言葉を返した。
「ぱいふー、そんなにスタスタと歩いていくと罠に引っ掛かるわよ」
キリーが話しかけると「この僕を誰だと思っているっ!」という頼もしい言葉が帰って来た。
「数多くのカップルを地獄に叩き落した、しっと団総帥・白虎にゃー! トラップに関してはエキスパートなのにゃ! 『かち』」
白虎が言葉を言い終わると同時にスイッチ音が響き、上からきらりと光る刃が幾つもびっしりと敷き詰められた天井がゴゴゴゴゴと下りてくるのが視界に入った。
「は、はわわ! あんなのにぺちゃんこにされちゃったら身体中が穴だらけーですよー」
あわあわと慌てる土方に「どどどど、どうしましょう、キリーさん」と冴木がうろうろとしながら呟く。
「‥‥っ」
仮染はキリーを守ろうと身構えた‥‥のだが「なーんちゃって」という機械の女性声が聞こえたと思うと天井の刃は全てギミックナイフのような仕掛けになっていた。
「マズは一階なのでそんなに危険なものは扱いませんのでお気軽に(たの)死んでねー」
「‥‥気のせいですかね、楽しんでねという言葉が『死んでね』という言葉に聞こえるのは」
仮染の言葉に「たの、部分が凄く小さな声で『死んでね』にしか聞こえなかったのにゃ」と白虎も言葉を返した。
「と、とりあえず姉上を探すのにゃ! 桃色なんてさせるかー!」
そんな白虎の姿を見て、何故白虎がキリーに好意を寄せているのか少しだけ分かった土方、冴木、仮染の三人だった。
「わんこ、あんた罠の匂いとか嗅いで見つけてみなさいよ。それが出来なかったらわんことして失格よ、あんた」
キリーから背中をばしばし叩かれながら、そして土方はわんこ扱いをされながら先へと進んでいくのだった。
※C班※
「鵺くん、背ぇデカいねぇ」
大泰司が鵺を見上げながら話しかける。彼自身も決して小さいという訳でもないのだが、このカマは193センチと更に大きかったのだ。
「ヤダぁ、乙女の褒め言葉にはならないわよぉ、それぇ」
けらけらと笑って鵺は言葉を返すが、大泰司本人としては褒めているつもりはないので褒め言葉にならなくて当然だったりする。
(「うんうん、いい盾になるねぇ」)
そんな事を大泰司が考えているなんて夢にも思っていない鵺は楽しそうに「先に進みましょ☆」と能力者たちに言葉を投げキッスと共に放り投げたのだった。
「‥‥何でそないに後ろにおるん?」
キヨシが問いかけると大泰司はげほげほとわざとらしく咳き込みながら「俺、もう無理できない年齢だから、みんなの後ろからついていくよ★」とニヤリとした顔で言葉を返した。
「それにしても何か可愛いわねぇ。キミ☆ 似合ってるわよぉ、それ♪」
鵺がCHAOSのメッシュを使ったセクシーコスプレを見ながら話しかける。CHAOSはキヨシを守る為にあえてこんな格好をしているのだが、鵺はそんな彼の心の苦労を知らない。むしろ知ろうとしない。
「そや、鵺‥‥先に行けば?」
「え? 何で?」
「やっぱレディー? ファーストやし、お先にどうぞ」
キヨシの言葉に「レディ‥‥! もしかしてアタシの赤い糸はあなたと繋がってるのかしら!」と果てしない勘違いをしている。
(「そんな赤い糸あるんやったら今すぐにハサミで切ってやるわ」)
そう心の中で思いながらキヨシは鵺が歩く姿を見る、そして5歩程歩いた時『ごとん』と音がして鵺の上空から大量の水が落ちてくる。
「いやあああん、何よ、これぇぇぇぇ!」
びしょびしょに濡れた鵺がきぃきぃと喚きながら叫ぶ。ちなみにキヨシは罠のスイッチがある事を知った上で鵺に先に行かせていたというのは言うまでもない。
「やっぱ罠やったかぁ、ご苦労さん!」
キヨシが笑いながら言うと「ひ、酷いわよ!」と鵺が不満そうに叫ぶ。そして「寒いから暖めて〜♪」と気色悪いことを言いながら抱きつこうとするのだが‥‥キヨシは隣にいたCHAOSを盾にして回避する。
「わわ、ビックリした」
「あっ、ゴメン‥‥反射的に‥‥あはは」
苦笑しながら言葉を返すキヨシだったが「酷いわよ!」と鵺は壁をガスガス殴り始める。そんな様子を見ながら大泰司だけは「うんうん」と頷きつつ一人だけ安全圏にいた。
「オカマの生贄になるのも、忍者屋敷の犠牲になるのも若い者の役目だよね★ 救急セットで治療は出来るから思う存分、罠に嵌るといいと思うよ」
そんな事を言われているなどキヨシもCHAOSも全く知らない。
「うわっ、ちょ! 色んな罠が発動してるやん! やめんかいっ!」
鵺が「酷いわ」と叫んで壁を叩くたびに何かの罠が発動している。キヨシやCHAOSはそれらを何とか回避しながら漸く罠連発が終わったかと思ったら‥‥。
「にゅぅ‥‥たーすーけーてー‥‥」
CHAOSは床から出てきた網に引っ掛かって宙吊り、キヨシは竹槍が仕込まれた落とし穴に落ちかけている。
「流石に竹槍はやりすぎだと思うんだっ」
大泰司は苦笑しながらキヨシを助ける、先にCHAOSかとも思ったけれどまず危険なのは竹槍だと判断してキヨシを彼は先に助けていた。
「鵺‥‥後でご褒美あげるから助けてくれないかな‥‥?」
CHAOSが鵺に向けて話しかけると「勿論だわ! 今すぐ助けてあげる」と素早く網から助けたのだが‥‥。
「はい、ご褒美」
そう言って渡されたのはお菓子。確かにCHAOSは『何』をご褒美としてあげるのか明確に言っていないから約束を破ってはいないけれど‥‥。
「酷いわよ‥‥!」
がくりとうな垂れながら泣きそうな鬱陶しいカマへとなる鵺。
「さぁて、次のトラップは何が仕掛けられているのかなー?」
大泰司は楽しそうにキヨシ、CHAOS、ついでに鵺と先を進み始めたのだった。
※D班※
「大丈夫か?」
忍者屋敷を散策する中、着物での移動をする沢渡を気遣って足を止め、相賀が話しかける。
「大丈夫です、気を遣わせてごめんなさい」
沢渡が苦笑しながら言葉を返すと「それにしても結構おかしな罠があるもんだね」と神撫が話しかける。
3人が味わった罠は数種類存在しており、多少の擦り傷や切り傷を味わいながらも此処までやってきた。
「っつーか、竹槍は危ねぇだろ、常識的に考えて。何考えてんだよ、ここの製作者」
ぶつぶつと相賀が文句を言うのだが「相賀さん、聞こえてますよー」といきなりスピーカーからジョセフィーヌが離しかけてきて別な意味で怖くなった。
「ふぅ、楽しいですけど少し疲れますね」
そう言って沢渡が壁に寄りかかった途端、彼女の表情が凍りつく。
「ん? どうした?」
「深鈴ちゃん、どうかした? 具合でも悪いの?」
相賀と神撫が沢渡に話しかけると「あの、ご、ごめんなさい」と沢渡が謝ってくる。しかし2人は謝られる覚えがないのでハテナマークを頭の上に浮かべる。
「私が寄りかかった壁、何かスイッチがあったみたいなんです‥‥なんかカチって音がして‥‥」
彼女の言葉が終わった後、数秒後に木材で作られた壁を補強するかのように下から鉄板が出てくる。
そして‥‥ゴゴゴゴゴゴと何かが転がってくるような音が響いてきて3人が恐る恐る後ろを振り返ると‥‥ニコマークの描かれた大岩が此方へとめがけてやってくるのが見えた。
「ちょ、悪ぃ!」
「え? きゃあっ」
相賀が着物で走りづらい沢渡をお姫様抱っこして抱え上げ、全力で大岩から逃げ出す。
「ちょ! 俺を置いていくか! 薄情な奴だな、お前はっ!」
神撫も全力で走りながら相賀に言葉を投げかけるが「他が犠牲になろうが気にしてられっか!」と冷たい言葉が返ってくる。
「っつーか、神撫ファイターだろ! 何とかしろよ!」
「無茶言うな! お前はファイターを勘違いしている!」
神撫はチラリと大岩に視線を向ける。大きく描かれた黄色のニコマークが腹立たしい。
「あ、あそこ! 避難場所があるみたいです」
沢渡が指差すと左右に人が入れるほどのくぼみがある。
「俺は右に行く」
「じゃあ俺は左で」
相賀は沢渡を抱きかかえたまま右へ入り、神撫は左へと入る。大岩はごろごろと転がっていきながら、やがてゴトンと何処かに落ちる音がして、漸く落ち着く事が出来た。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
ぺこりと沢渡が相賀に頭を下げた後、神撫が「言うの遅くなったが何してんだ?」と沢渡に聞こえないような小さな声で耳打ちする。
「仕方ないだろ、あのままだったら深鈴が大岩にぺちゃんこにされてただろうが」
あくまで沢渡には不穏な空気は見せず、2人ともこれ以上ないくらいに爽やかな笑顔で話していた。
「あんまり調子に乗ってると鵺に喰わせるぞ」
「調子に乗るってなんだよ、俺は――『べしょ』――」
相賀が言葉を返そうとした時、顔面に直撃する吊りこんにゃく。
「くっ、こんな物にビビってたら、家族と生活なんて出来なかったよ」
べり、とこんにゃくを引き剥がす。何気に破天荒な実家生活を暴露した気がするのだが気のせいだろうか。
「大丈夫か?」
相賀が沢渡に話しかけると「はい、大丈夫です‥‥あの、2人とも大丈夫ですか?」と聞き返してくる。
「俺は平気だって」
「俺も。深鈴ちゃんが心配するような事は何もないよ」
それぞれ沢渡を心配させないような言葉を返し、次へと進んでいったのだった。
※E班※
「意外と道が分かれてるのよね、よくもまぁこんな複雑な作りにしたものだわ」
ある程度のコースを頭に叩き込んでおいた百地が苦笑気味に呟く。前方を百地、後方を澄野が警戒しており、今の所はまだ何も被害はない。
「悠季さん、危ないです!」
澄野が言うと同時に持っていた杖で『それ』を払う。天井から勢いよく飛び出してきたものはこんにゃく。
「まったく、何で忍者屋敷にこんにゃくなのか分からないわね」
百地はそう呟きながらこんにゃくを持って来たビニール袋へと入れる。どうやらお持ち帰りをするようだ。
「悠季さん、それ‥‥持って帰るんですか?」
かくりと首を傾げながら澄野が問いかけると「勿論よ」と即答で言葉を返してきた。
「夕飯のおかずに使おうと思って、主婦の嗜みよね」
百地はそう答えるのだけれど、はたしてこんにゃくを持ち帰るのが嗜みになるのかは定かではないけれど僅かな節約にはなるのかもしれない。
「ちょっとストップ」
百地は呟きながら澄野が歩くのを止める。何やら怪しい場所を見つけたらしく百地は持って来たスコップでその場所を叩いてみる。すると『ガチ』という音と共に叩いた所に水が勢いよく流れ落ちてくる。そのまま歩いていれば水をまともに受けていた事だろう。
「あ、危なかったですね‥‥まともに水を受けるところでした――!」
澄野が呟いた瞬間、背中の壁から棒切れが出てきて2人は強く背中を打ち付けてしまう。
「‥‥いったぁ‥‥まさかいきなり壁から出てくるなんて‥‥」
「お、思わなかったですね‥‥」
2人とも背中を押さえながら周りを警戒しつつ、忍者屋敷の中を進み始めた。
※F班※
「危ないぞ!」
どーん、と香坂を突き飛ばし大石が金タライの餌食となる。
「もう少し胸が育っていれば守り甲斐があるんだけ『すぱ――んっ』いたたた」
「何か言った? 大石さん、胸がどうのとか聞こえたけど?」
ハリセンを振り回しながら香坂が黒い笑顔で話しかける。彼女に胸の話題は禁句のようだと知っている筈なのに学習能力皆無な大石の頭の中にはそんな事など入っていない。
「止まれ、そこの床だけ足音が違う」
伊達が大石と香坂を止めて、落ちていた石を投げる。するとスイッチ音と共に床が開き、あのまま歩いていたら三人とも落とし穴に落ちていたに違いない。
「あれれ、行き止まり? 他に道なんてあったっけ?」
落とし穴を回避して暫く歩くと行き止まり、しかし来た道には分かれ道なんてものは存在しなかった。
「‥‥大体ゲームだと、こうなるはずだ」
伊達は手探りで壁を触り、一箇所だけ感触の違う場所を見つけて強めに叩く。するとガコンと行き止まりだった場所の板が回転して次に進めるようになった。
「俺は主役も脇役も、悪役もイロモノもやってきたっ! 声優を舐めるなっ」
元声優の彼はゲームなどが好きだったのか、ゲーマーらしい言葉を言いながら次へと進んでいく。
「きゃ、冷たっ!?」
進んだ先で香坂の顔にべしょりと突進してきたのはこんにゃく。
「こんにゃくの罠ってお化け屋敷じゃないんだから‥‥」
べしっと弾きながら香坂は次へと進む。
「わっ、何これ! 危なさ過ぎるよ‥‥!」
ぶらーんと振り子のようになっている刃物を見て香坂が驚いたように叫ぶ。
「大丈夫さ! 褌の力があれば! とーぉぅ!」
そう言いながら振り子を避けていく大石なのだが、色んな場所に掠っているため、大量ではないにしろ切り傷だらけになっている。
「‥‥まぁ、振り子と言っても勢いはないから大丈夫だとは思うんだが‥‥」
伊達も呟きながら器用によけていくのだが、やはり多少の傷は覚悟しておかないといけないらしい。
「うー‥‥なんか怖いなぁ‥‥」
香坂が呟きながら避けていくのだが、やはり同じように切り傷が出来てしまう。しかし此処で予想外の事が起こった。
「わ!? あ、折角のくノ一衣装がー!」
刃物に引っ掛かって無残なことになってしまったのだ。
「はぁ、結局大石さんといると褌姿になっちゃうのね」
ため息を吐きながら香坂は衣装を脱ぎ、褌とサラシという姿になった。
(「‥‥これって弁償してもらえるのかな? ま、いっか。だめな時は大石さんに請求書回そう」)
香坂は心の中で呟き、次の場所へと目指していったのだった。
※G班※
「にゃ! これはなんか怪しいのら!」
リュウナはピンと指を立ててポチッとスイッチを押す。
「‥‥っ!」
「‥‥ひぅっ!」
「リュウナ様‥‥!」
上から西島、蒼翼、東青。リュウナは忍者の格好で気になるスイッチをどんどんと押していき、既にこのG班がトラップに見舞われた回数は数えるのも嫌になるくらいだ。
「‥‥大丈夫か」
落とし穴に落ちかけた三人は最初に西島が脱出して、先に落ちそうな東青を助ける。
「あ、ありがとうございます」
東青は少し顔を赤くしながら礼を言い、次に蒼翼を助ける。リュウナと言えば赤いスイッチを何度も押しており、奥に見える回転板が何回もぐるぐると回っていた。
「ひゃくしろー! これは何のスイッチなのらー」
少し離れた所でリュウナが新しいスイッチを見つけたらしく再びポチっと押す。それと同時に周りに鉄の板が出現して、ごごごごご、と音を立てて『何か』がやってくる。
「面倒だな‥‥ここは‥‥」
西島は大きくため息を吐き、東青と蒼翼を抱きかかえ、走って逃げる途中でリュウナに「‥‥飛び乗れ」と言うとリュウナは西島の背中にしがみつく。リュウナのその表情は物凄く楽しそうであり、西島は何度目になるか分からないため息を吐いた。
「西島さん、あそこに避ける場所があります」
東青が避難所を指差し、そこへと逃げ込む。場所は狭かったけれど出ていればぺちゃんこになるのは必然なので、無理矢理押し込んで大岩を回避する。
「‥‥行ったか‥‥?」
西島は大岩が通り過ぎた事を確認しようと避難所から出ると‥‥。
「‥‥‥‥フニャ!」
こんにゃくがビタンと顔に張り付いてくる。バックステップで距離を取るのだが、ぶらんとマヌケに宙を彷徨うこんにゃくが見えるだけだった。
「大丈夫ですか?」
東青が問いかけると「‥‥問題ない‥‥」と短く西島は言葉を返した。
「わっ‥‥」
再びこんにゃくが降ってきて蒼翼の顔に張り付く。
「‥‥怖いよぉ‥‥もうやだよぉ‥‥」
ぐすぐすと今にも泣きそうな声をしていたのだが‥‥ぷつりとそれが途切れる。
「蒼翼っち?」
リュウナがかくりと首を傾げながら話しかけると「ああ、もう鬱陶しい!」と今までの大人しい蒼翼とは人格が変わったかのように口調が変わる。
「こんなちんけな罠にこの私がかかると思『ぐわわ〜ん』‥‥うひゃわっ」
こんにゃくをべしっと投げ捨てながら蒼翼が叫んだのだが続いて落ちてきた金タライをまともに受けて頭を押さえて蹲る。口調が女になっているせいか、くノ一姿の蒼翼は何処から見ても女の子にしか見えない。
「‥‥そろそろ出口が近いでしょうか、もう少し頑張りましょう」
東青が呟き、4人は罠を警戒しながら先へと進んでいくのだった。
※H班&I班※
「さぁ、楽しむぞー!」
鉄太がわくわくした口調で呟いた瞬間に真白はその場に蹲る。
「‥‥何故か唐突に立ちくらみが!?」
「わわ、だ、大丈夫か? スタッフの人に言って出る?」
「それは駄目よ、少しこうしてたら治るから心配しないで」
真白がいきなり立ちくらみを起こした原因、それは後ろから来るI班と合流する為だった。
蹲ること5分程度、I班が来るのを見て真白はスッと立ち上がった。
「あれ? 具合悪いんじゃないのか?」
「立ちくらみなんて嘘よ」
まさか合流するための嘘とは言えず、それだけ言葉を返すと鉄太は意味が分からないといった感じで首を傾げている。
「‥‥各々方、討ち入りでござ‥‥ってちょっと待て! 俺を置いていくな!」
雰囲気たっぷりに入場したディッツァーだったが、仲間から置いていかれるという仕掛けられてもいない罠に嵌る。
「‥‥あれ? 何してるんですか? ディッツさん、置いてっちゃいますよっ?」
「もう置いていってるじゃないか!」
「とりあえず此処までは罠とかなかったですけ「何かここにレバーがあるぞ!」‥‥レバー?」
リュドレイクが鉄太の言葉を聞いて勢いよく振り返る。
「え、ちょっと待ってそれ引いちゃ駄目‥‥って引いちゃったー!!」
それと同時にリュドレイク達を襲う水柱。おかげで水も滴る良い男と良い女になってしまった。
「あはは、ごめんごめん。まさか水が降ってくるなんて思わなくてさ」
笑って鉄太が謝ってくる、中身が子供という事もあって中々強く言える者もいないのだろう。
「‥‥あ‥‥そこは‥‥避けて下さい‥‥音が‥‥違いますから‥‥」
先端部分に布を巻いた槍で床の安全などを確認していたハミルが能力者達に言う。どうやら音がそこだけ違うらしく、あきらかに落とし穴のような雰囲気たっぷりの場所だ。
「よし、此処は避け「なぁなぁ、何でそんなに髪の毛長いんだ?」あぁぁぁぁぁぁ」
どーんと鉄太が後ろから勢いよくやってきたため、踏んじゃ駄目、と言われている場所を踏んでしまう。もちろんその後に続くのはスイッチ音と落ちるディッツァーの姿。しかし彼も中々にしぶといようで淵を握って踏ん張っている。
「た、頼む! 早く引っ張りあげてくれ! いや、下さい! なるべく急いで、迅速に! あ、手汗が‥‥」
「あはは、何か必死な演技してるけど演技が上手いなー」
鉄太はけらけらと笑っているけれど、ディッツァーは演技ではなく本気(マジ)である。
「あ、ディッツ君。それも鍛錬よ、頑張ってね」
真白は投げやりに言葉を返し「先を急ぎましょ」と能力者達と一緒に先を進む。
「ああああああ‥‥」
「ライさん‥‥大丈夫‥‥でしょうか‥‥?」
ハミルが心配そうによろめくディッツァーを見ると「大丈夫よ、タフだから、彼」と真白がにっこりと言葉を返す。
「鉄太君、怪しい物は触らないで‥‥今何押しました?」
リュドレイクが鉄太に問いかけると「これ! 押してくれって書いてた!」と満面の笑みで『押してみて、デンジャーだから♪』と書かれた紙を指差した。
そして‥‥転がってくる大岩が視界に入ってきて「わあああああっ」と叫びながら逃げ始める。
「でぃ、ディッツさん、その壁に手を置くと罠が作動しちゃいます!」
ルチアが止めるように言うのだが、既に時既に遅し、ディッツァーは見事に手を置いていた。
「‥‥お、大岩が‥‥増えました‥‥」
ハミルが顔を青ざめさせながら呟き、ごろごろと転がってくる大岩から全力で逃げ始める。
「ふぅ、気をつけろよなー‥‥まったく」
鉄太が呆れたように言ってきて、何故かディッツァーは反論したくなった。それもそのはずだろう、罠を作動させている回数は鉄太の方が多いのだから。
「私ももう少し早く言うべきでしたね、すみません‥‥」
ルチアがしょんぼりとしながら呟くと「違うって、悪いのは罠を作動させたあっちだから!」と鉄太が指差して言葉を返す。
(「耐えろ、俺は大人だ‥‥相手は18歳だけど10歳の子供‥‥耐えろ、俺大人、大人ね」)
それからも何度も鉄太によって罠を作動させられて何度も危険に曝されながらゴールへとたどり着いたのだった。
―― 忍者屋敷 1F攻略終了 ――
「にゅああああ!」
ゴールした能力者達に聞こえてきたのは白虎の声。姉である天道の桃色デートを邪魔しようと意気込んだのは良いのだが、姉弟共々罠に嵌ってしまい、ある意味では白虎が勝利して、自分も巻き込まれた事を考えれば敗北したような複雑な気持ちになっていた。
「ほら、さっさとしなさいよね。後ろが閊えているでしょ、ヘタレ」
「僕の周りには、キリーお姉ちゃんや姉上や母上のような女の人しかいないのかぁーっ!」
白虎が泣き叫ぶが「どういう意味よ!」と天道とキリーの2人から攻撃を受けて再び床へと沈んだ。
「ふふ、今日はどうだったかしら?」
ジョセフィーヌが問いかけてきて藤枝がマップの罠が仕掛けられている場所を指す。
「‥‥ここの仕掛けはもっと狡猾にするべきだと思う。スリルが足りない」
「あら、貴重な意見ありがとうね」
「そういえばあたしもこういうのを書いておいたから参考にしてくれる?」
百地がジョセフィーヌに差し出したのは今回の感想を纏めたレポート。ジョセフィーヌは「ありがとう」と言ってレポートを受け取った。
「一階だけだったけど結構面白かったかな? 他の階も出来たらまた来るのだ♪ ‥‥大石さんを壁代わりにして♪」
香坂が大石を見ながら「にゃはは」と笑って呟く。
「こんにゃく、今日はあんたが天井からぶら下がってたわね」
キリーが神撫に話しかけると「変なあだ名で呼ばないの」とデコピン(軽め)を食らわす。
「乙女に攻撃なんて何考えてるのよ、野蛮人!」
攻撃的な口調だけれど、仮染を盾にしながら言う辺りが神撫は彼女にとって『恐怖大王』なのだろう。
「あの、まさかパイ投げ君・改とか頼んでないよね?」
仮染が問いかけると「馬鹿ね、そんなモンより楽しいモノを発注してるわよ」とあまりありがたくない言葉が返ってきた。
「キリーさん、大丈夫でしたか――わぁっ!」
駆け寄る冴木だったが、転んだ拍子にキリーにラリアットが食らわされたという事実に気づくまでそれから3秒。
そして忍者屋敷散策を終えた能力者達は、仲間達でご飯を食べにいく者、そのまま帰る者など様々なのだった。
END