●リプレイ本文
―― ケーキ☆バイキング開催 ――
今回は週刊個人雑誌・クイーンズの記者である土浦 真里(gz0004)が手に入れたケーキバイキングのチケット――それを能力者達に譲り‥‥もとい売りつけた事から始まった。
そこそこ名前の知れた高級ホテル、そこのパティシエは何度も賞を受賞しているという説明もチケットの隅っこに記載してある。
「甘いものは乙女の天敵っ! でも今日だけは味方としてあげようっ」
ぐ、と握り拳を作りながらマリは能力者達が来るのを待っていたのだった。
※午前の部※
「食欲の秋と言ったら、やっぱり甘い物が一番よね」
紺と白のツーWAYワンピースに水色のエプロンドレスを重ね着してやってきたのは百地・悠季(
ga8270)だった。
「あ、いらっしゃーい♪」
マリがぶんぶんと手を振りながら百地を出迎える。どうやら一人でがつがつ食べるのには抵抗があったらしくマリは誰かが来てから食べようと決めていたようだ。
「もうマリちゃんてば楽しみで楽しみでっ、昨日の晩御飯から抜いてきたんだよ」
それは楽しみにしすぎでしょう、百地は思わずツッコミを入れたくなったけれどそれをグッと堪える。
「まぁ、楽しみなのも分かるけどね。果実類が豊富な季節なものだからそのままでも美味しいけど加工するともっと美味しくなるし」
苦笑気味に百地は言葉を返す。百地自身、料理人のアシスタントくらいなら不備なく勤まる腕前を持っている。
それにマリ自身も料理は得意な方で結構能力者達に振舞う機会も多かった。しかしやはり有名シェフに適う筈もなく、今回は『食べる側』として楽しみにきたのだ。
「そういえば、チケットはこれでいいのよね? 明らかに『1000C』って手書きっぽく見えるけど‥‥」
「え? さ、最近は手書き風が流行ってるんじゃない?」
視線を逸らしながら呟くマリの様子は明らかに動揺しているけれど『まあ、良いか。これくらいはした金だしね』と百地は心の中で呟いて『ケーキバイキング会場』とボードに書かれた大宴会場へと足を進めたのだった。
「あら? 行かないの?」
先に会場内へ入ろうとする百地は入り口でまだ待っているマリに声をかける。
「うん、午前の部はあと2人から連絡貰ってるし、皆を出迎えてから行くね」
「そう? それじゃあたしは先に行くわね」
百地はひらひらと手を振って大宴会場へと入っていった。
「おや?」
そこでマリは見知った人物が此方に向かって歩いてくるのを見た。
「この企画って私にとって、悪魔の誘い以外の何者でもないですよね‥‥」
独り言のように呟きながら歩いているのは芝樋ノ爪 水夏(
gb2060)だった。
「でも参加しちゃう辺り‥‥私の心って弱いのかな‥‥「おーいっ、何ぼんやりしてんのっ」わぁっ! ま、マリさん‥‥何時からそこにっ」
ぼんやりと考え事をしていたせいで芝樋ノ爪がマリに気づく事に少し遅れてしまう。
「まぁ、何とも失礼なっ! マリちゃんはずっとここに立ってたぞ、むしろすいかちゃんがこっちに近寄ってきてたのに‥‥マリちゃんてばそんなに存在感ないかしら‥‥」
泣き真似をしながらマリが呟く。
(「いえ、多分マリさんほど存在感が高い人もそんなにいないと‥‥」)
「ていっ、何か失礼な事を思ったわね、きみはっ」
マリはチョップをしながら「何かお悩みー?」と首を傾げて問いかける。
「あ、いえ‥‥食べ過ぎると太っちゃうかなぁと思いまして‥‥」
芝樋ノ爪の言葉に「何を言うか、バカモノ!」とマリがくわっと表情を険しくしながら言葉を返す。
「ケーキバイキングに来て太る事を考えるとは何事かぁ!」
「え? え? え、ご、ごめんなさい?」
別にマリが太るとか言ったわけではないのに怒られてしまい、条件反射で芝樋ノ爪は思わず謝ってしまう。
「分かればよろしいっ! 目指せ! 10キロ増!」
(「目指したくありません」)
じゃんじゃん食べてきなさいよね、芝樋ノ爪は背中をバシンとマリから叩かれて大宴会場へと押しやられてしまった。
「ケーキバイキングは此処ですか
芝樋ノ爪と喋っている間に午前の部、最後の1人である最上 空(
gb3976)がマリの所へとやってきていた。
「やっぱり小さい子は甘いもの大好きだよね、うん」
マリが納得したように呟くと「違います」と最上は短く言葉を返した。
「空は大規模作戦で疲弊した体を癒す為に、バイキングにやってきました。えぇ、決してケーキ食べ放題に釣られたわけではないのですよ?」
最上の淡々とした口調に「そ、そうなの?」とマリが少したじろぎながら言葉を返す。
「はい、あくまで失った糖分を取り戻す為です。糖分が十分摂取されないと、頭も働きませんし、活動に支障が出ますからね」
最上は呟きながらチケットを見て、マリに視線を戻す。
「ですので『朝一番で行けば独り占めし放題』とか『全力で食べてやる!』とか『体重が増加しても知った事ではない!』とか内心思ってたりとかはないですよ?」
最上のフォローの言葉に『そう思ってるんだ‥‥』とマリは口にする事なく心の中で言葉を返した。
「それじゃ、疲労を取る為にも沢山食べちゃおう♪」
マリは最上と一緒に大宴会場へと入っていった。
大宴会場に入ると、先に入った百地と芝樋ノ爪はケーキが並べられている場所で色々なケーキや軽食を見ていた。
「最初は生フルーツから頂こうかな、あと喉を潤すのに牛乳」
百地は最初からケーキを取る事はせず、フルーツを食べた後は様々なタルト・パイが並べられている場所へと足を進めていた。
その頃、芝樋ノ爪は「う〜ん‥‥」と様々なケーキに目移りをしているようでお皿を持ったままうろうろとしている。
「どれも凄く美味しそうで、迷ってしまいますね」
芝樋ノ爪は迷った末にチーズケーキとチョコムースを皿に乗せてテーブルまで歩いていく。本当は自重して食べようという気持ちが彼女の中にはあるのだが、様々なケーキを前にして自重出来る自信ががらがらと崩れていったのだとか。
「‥‥よし、空は此処で食べよう」
最上はまず最初にケーキを取る事をせずに自分が座る場所を確保していた。しかも糖分が高そうがケーキを沢山置いてある近くのテーブルに荷物を置き、そしてケーキを取りに向かう。
(「ここなら円滑に素早くケーキを確保できます」)
きりっとした表情で皿を手に取り、最上は狙っていたチョコクリームがたっぷり使われたチョコケーキや様々なフルーツで飾られたクリームケーキなどを皿に1つ、また1つと乗せていく。
「あ、ここで食べてたんだ? 私も色々迷っちゃったけどとりあえずはこれだけ食べようかなって♪」
マリが両手に持った皿を見せながら最上に話しかけてきた。
「その一口が豚の元と、空は耳元で囁いてみます」
「ぐ‥‥! そ、それ言うならキミだってそうでしょー!」
「10歳の空と一緒にしないで下さい」
「う、う、う、今日は太るの覚悟で食べにきてるんだもんっ!」
うわぁぁん、マリは叫びながらテーブルまで走っていき、勢いよく食べ始めた。
「あらあら、あんなに一気に食べると消化不良起こしちゃいそうだけど」
百地はモンブランやイチゴたっぷりのショートケーキを乗せた皿を持って自分が座るところまで歩いていく。淡々としているけれども彼女は既にサンドイッチやチョコ系のケーキをお腹に収めた後である。
「ふふ、クリーム系ケーキの味わいは最高だし、あっちにはクィニーアマンやシュークリームもあったから食べないとね」
「あ、紅茶って何処にありましたか?」
最初のケーキを食べ終わった芝樋ノ爪が百地へと問いかける。
「あぁ、あそこの隅っこにあったわよ。紅茶だけじゃなくて色々飲み物も揃ってるみたい」
ストレート紅茶の良い香りが漂うカップを見ながら百地は言葉を返す。
「そうですか、ありがとうございます」
芝樋ノ爪も飲み物を取りに行こうとコーナーへと向かっていく――が最上はあえて飲む事はせずにケーキだけを摂取する事に決めた。
「糖分補給、これは糖分補給です。決して欲望全開で食べているわけではないのです」
自分に言い聞かせるように小さく呟きながら最上はケーキを皿に乗せていく。
「んー、やっぱり美味しい。チーズの濃さも良い感じだし、やっぱりこういうのは幾らでも食べられるわね」
甘いものは別腹、そう言ったのは誰だか分からないけれど何故か納得してしまう自分がいることに百地は苦笑する。
「今日だけは‥‥今日だけは特別なんです」
芝樋ノ爪は呟きながら「大丈夫、午後から体を動かしてカロリー消費すれば、大丈夫」と此方もまた自分に言い聞かせている。
「ケーキだけかと思ったら結構色んなものが揃ってるのね」
ぱくり、と熱々の肉汁たっぷりの肉まんに噛り付きながら百地が呟く。その後、杏仁豆腐などを食べて彼女はストップした。
「もう、無理‥‥です。これ以上ないくらい食べましたし‥‥暫くケーキはいいかな‥‥」
限界ギリギリまで食べたのか芝樋ノ爪は口元を押さえながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。
「マリさんは、今日一日中いるんですよね?」
帰り際、入り口付近にいるマリに芝樋ノ爪が話しかけると「もちろん、いるよー」とにっこりとした表情で言葉を返された。
「その、程ほどにしておかないと、後が怖いですよ?」
恐る恐る呟く芝樋ノ爪に「太るの怖がってたら何も食べれないでしょっ」と二回目のチョップを受けてしまった。
(「ふぅ、空は満足‥‥」)
思いっきり糖分補給をしたのだろう最上はすっきりとした表情で外へと出て行く。しかし彼女が「ぬぅおおおおお!!!」と自分の体重計を見て叫ぶことになるのはこれより数日後の話である。
「さて、食べるストレス発散したことだし、今日も一日頑張るわね」
百地は呟きながら大宴会場を後にしていったのだった。
※午後の部※
「こんにちは、マリさん」
マリが箸休めのサンドイッチを食べている時に小鳥遊神楽(
ga3319)が話しかけてきた。
「あ、小鳥ちゃん♪」
「折角の有名パティシエのケーキバイキングだから朝と昼をしっかり抜いてきたわ。思う存分食べる事にするわね」
小鳥遊の言葉に「ふふん、マリちゃんなんか昨日の晩御飯から抜いてきた!」と威張って言葉を返した。
(「マリさん、それは逆に食べられないんじゃ‥‥」)
あまり食事を抜きすぎるのも考え物だ、と小鳥遊はツッコミを入れそうになったけれど目の前でサンドイッチを食べるマリを見る限り心配はなさそうなので言う事はしなかった。
「あのぅ、クイーンズ記者のマリさん‥‥ですよね?」
小鳥遊と話しているとマリの写真を持っておずおずと話しかけてくる少女がいた。
「そうだよ! ん? それは私の写真? もしかして私のサインが欲しいの?」
きゅぽん、と何処から取り出したのか油性ペンのキャップを取って「サインしてあげようっ」とテンション高めのマリに「いえ、違うんです」と少女はきっぱりと断ってきた。
(「そんなにきっぱり断らなくても‥‥」)
心の中で呟きながらマリはペンをバッグにしまって「もしかしてバイキング?」と言葉を投げかけた。
「はい、椎野 ひかり(
gb2026)と言います、ケーキバイキングは此方でよろしいのでしょうか〜」
苗字と顔に見覚えがあるのか「うん、そうだよって‥‥あれ? もしかして‥‥」とマリが目を瞬かせながら呟く。
「はい、妹がお世話してます」
ぺこりと頭を下げながらひかりは呟く。
(「‥‥天然な子ね。お世話してます、なんてあたしでも言えないわ」)
ひかりの言葉を聞いて小鳥遊は苦笑する。
「お気づきだと思いますけど、椎野 のぞみ(
ga8736)の双子の姉です」
「そうなんだ! 髪が長いから少し分からなかったけどのぞみちゃんのお姉さんなんだね、だからそっくり‥‥でもないか」
マリの視線はひかりの胸にいき、明らかに妹より発達しているその胸にマリは少しだけ悔しくなる。
「どうかしましたか? そういえば胸が大きいって結構不便ですよね、肩が凝っちゃいますし」
苦笑しながらさりげなく、あるいは堂々と胸が大きい事を強調するひかりにマリはガクリとまるで戦いに負けた戦人のようにうな垂れる。
「あらあら〜、どうかしましたか〜?」
しかし当の本人にはマリが落ち込む理由が分かっていないのか首を傾げている。
「ふふ、何でもないんだ‥‥そういえばのぞみちゃんは?」
「あぁ、あの子なら『寄る所があるから、先に行ってて! 会場にはマリさんがいるから〜』とこの写真を渡してきたんです」
そうなんだー、と言っているうちに「マリさーん」とのぞみが少し走って此方に向かってくる姿が見えた。
「遅くなっちゃったけど大丈夫かな‥‥」
「大丈夫だよ、まだ来てない人達もいるんだから――それより、ひかりちゃんのアレ‥‥マリちゃんてばクリティカルヒットだよ‥‥」
ひかりのアレ(胸)をちらりと見てマリががっくりと肩を落とす。
「ボクより大きいマリさんが落ち込まないでよ‥‥それにあれ、双子だよ‥‥ボクの方が‥‥うぅ‥‥」
なにやらマリとのぞみ、2人して落ち込み始め「ほらほら、早く食べに行きましょ」と小鳥遊が苦笑しながらのぞみとひかりの2人を連れて大宴会場へと向かっていった。
「ふぅ、最近の若者は発達が早いねー‥‥」
何処か年寄りめいた視線でひかりとのぞみを見てマリは苦笑する。
「あら、お出迎え?」
そこへやってきたのはシュブニグラス(
ga9903)だった。
「あ、シュブちゃーん」
手をぶんぶんと振りながらマリが言葉を返すと「甘いもの、いいわよね」とシュブニグラスは言葉を返してきた。
(「明らかにこの『参加料』の部分が手書きっぽく見えるけど――まぁ、マリちゃんだしね」)
マリの性格をよく知ったシュブニグラスは『マリだし』という事であまり深く気にする事はなかった。
「もう入って食べてていいの?」
「うん、OKOK! 小鳥ちゃんとかのぞみちゃんとかひかりちゃんとか先に行ってるよ」
「あら、そうなの、それじゃお先に行くわね」
シュブニグラスを見送った後――「こんにちは、マリさん」と東雲・智弥(
gb2833)の声が聞こえて、視線を其方へと向ける。
「こんにちはー‥‥ラブいね、お2人さん」
マリはニヤニヤとしながら東雲の隣にいる如月・菫(
gb1886)を見て呟く。
「えぇ、ラブラブですから」
さらりと返ってきた言葉に「けっ、何か甘すぎる空気に胸焼けが‥‥」とマリは「ふ」と笑いながら呟く。
「そうそう、今回はご招待ありがとうございます。確か無料って聞いたけどぼったくり?」
東雲のにこにことした笑顔の裏にある黒い部分が垣間見えた気がして「ま、まさかぁ‥‥気のせいだよ!」と視線を逸らしながらマリは言葉を返した。
「もう他の人たちは揃ってるし、中に入ったら自由に食べていいからね♪」
わかりました、東雲と如月は手をつなぎながら大宴会場へと向かっていく。
「マリさん曰く、高級ホテルだから、行儀悪くしては駄目だよ?」
向かう途中で東雲が如月に向けて言葉を投げかけた。
「ば、馬鹿にするななのですよ。私だって本気を出せば、こんなフォーマルな場所でも」
如月は言葉を返しながら「ほほほ」と良い所のお嬢様な雰囲気で言葉を返した。しかし本気を出せば、という所を見ると普段はそれなりの暴走ぶりなのだろう。
「さて、マリちゃんもサンドイッチ食べ終わったし――お昼のケーキに行くぞー! きゃほー!」
マリも東雲や如月に続いて大宴会場へと向かって、ケーキを食べる事にした。
「さすがに一流の有名どころが作っただけあるわね。どれも美味しいし、来た甲斐があったというものね」
小鳥遊は大の甘い物好きにも関わらず食べても太らないという女性ならば誰もが羨む体質の持ち主であり、彼女は一通りのケーキなどを口にしていた。
「そんなに食べると太っちゃうぞー」
マリがからかうように小鳥遊に話しかけると「大丈夫よ」と彼女はさらりと言葉を返した。
「食べても太った事はないし、食べた分だけエネルギーを発散すればいいんだから」
小鳥遊は一度ケーキを食べるのをやめて、箸休めとしてサンドイッチを食べながら言葉を返した。
「‥‥くっ、今――小鳥ちゃんは全女子を敵にしたわよっ」
きぃ、と意味の分からない奇声をあげながらマリはさらにケーキを食べるべく駆け出していった。
「‥‥相変わらずのじゃじゃ馬ぶりね、マリさんは」
苦笑しながらも小鳥遊はサンドイッチを頬張る。
「お気に召しましたでしょうか?」
そこへ一人の男性が小鳥遊に話しかける。
「あなたは?」
「あぁ、失礼しました――パティシエです」
男性の言葉に「あぁ、そういえば‥‥」とチケットに載っていた写真の男性の顔を思い出す。
「凄く美味しいケーキばかりで大満足だわ、でも‥‥何故マリさんにチケットを?」
小鳥遊が気になっている事をさりげなく問いかけると「あぁ、ちょっとした知り合いなんですよ。今回も彼女に『チケット譲れ』と言われて」とパティシエの男性は苦笑しながら言葉を返した。
(「‥‥マリさんの交友関係、一度全部知ってみたいわね」)
「それでは、引き続きお楽しみ下さい」
ぺこりと丁寧に頭を下げ、パティシエの男性は小鳥遊の所から去り、彼女も再びケーキを食べる為にコーナーへと向かい始めたのだった。
「さぁ、あたし達もケーキバリバリ全開食おうぜ!」
叫んだのはひかり。何故か彼女は極度の興奮状態に陥ったのか覚醒を行い、性格がお世辞にも『おしとやか』からかなり離れてしまった。
「覚醒するのやめい!!」
ぺちん、とのぞみがひかりの頭を軽く叩きながらツッコミを入れると「冗談なのに〜‥‥」とひかりは頭をさすりながら言葉を返していた。
「あ、あのケーキ美味しそう〜♪」
ひかりは気になるケーキを見つけたのかコーナーに駆け寄り、持っていた皿に乗せる。
「あ、本当だ。美味しそう」
チョコレートたっぷりのケーキを見てのぞみも皿へと乗せ、席に戻ってそれを口にする。
「「うーん、おいしー♪」」
いい終わった後、2人は頭を右に傾けてにっこりと満足そうに笑う。性格や体格などは違えどもやはり双子という事もあり、選ぶケーキや食べる仕草などはリンクしておりそっくりである。
「やほー♪ 食べてるー?」
皿に2つのケーキを乗せたマリがひかりとのぞみの座っている席へとやってくる。
「はい、凄くおいしくて次はどれを食べようか迷ってますよ〜」
ひかりが言葉を返し「あ」と思い出したように小さく呟く。
「そういえばぁ〜マリさん、この間のぞみを泣かせたでしょ? 依頼から帰って来た時泣いていたんだから〜」
ひかりの言葉にのぞみとマリは「え」と目を丸くしてひかりを見た。
「ちょ‥‥! そ、そういうことは言わんでいいっ!」
べしっとひかりの頭を手刀で叩きながらのぞみが慌てて言葉を投げかける。
「いや、別にあれは泣かせようと思ってたわけじゃないし‥‥「今度のぞみ泣かせたら‥‥お仕置きしますからね」――き、気をつけマス」
にっこりと穏やかな口調にも関わらず、何故か逆らえない雰囲気たっぷりでマリは「はい」としか言葉を返す事が出来なかった。
「気をつけてくれるならいいんだけど‥‥でも、マリさん‥‥あんまり心配かけないでね」
のぞみも心配そうに呟き、残った最後の一口をぱくりと食べた。
「それにしてもケーキ美味しいなぁ‥‥これ、家に帰ったら作ってみよう♪」
のぞみは呟き、ひかりと一緒に次のケーキを取りに行く。
「‥‥ひかりちゃんはそこはかとなく腹黒っぽい‥‥と」
マリはメモに書き記しながら彼女を怒らせないよう気をつけようと心に決めたのだった。
「あれ? シュブちゃん?」
マリが視線を移すとコーナーの前でなにやら悩んでいるシュブニグラスを発見する。
「どうしようかしら‥‥美味しそうだし、食べたいんだけど‥‥」
様々なモンブランが並ぶコーナーの前でぶつぶつとシュブニグラスは「うーん」と唸りながら呟いている。
「どしたの? シュブちゃん」
マリがかくりと首を傾げながら問いかけると「あぁ、マリちゃん」と言葉を返し、何かを思いついたように「ねぇ」と言葉を続けた。
「美味しそうなケーキが沢山あるんだけど、量が多くて食べ切れそうにないの。だから半分コして食べない?」
シュブニグラスの言葉に「いいよー、んじゃシュブちゃんの食べたいケーキを半分コしよ?」とマリはにぱっと笑って言葉を返した。
「色んな種類のモンブランがあるのね、あとタルトも沢山あって嬉しいわ」
シュブニグラスは色々なモンブランやタルトを皿に乗せて、マリと一緒の席に座って半分に分けながら食べ始める。
「そういえば、これ取材よね?」
モンブランなどを食べた後、紅茶を飲みながら一息つき、シュブニグラスが問いかける。
「うん、もちろん。食べる取材」
(「マリちゃん‥‥取材ならパティシエに話を聞くとか、そういうのがベストだと思うんだけど」)
しかしマリなので、と言う理由からシュブニグラスのツッコミは自らの心の中だけに留めておく事にした。
「あ、レアチーズケーキもあるのね」
色々なケーキを食べ、おしまいにしようかと考えていた時にシュブニグラスはレアチーズケーキを見つけ、それを食べておしまいにしようと決めた。
「シュブちゃん、そんなに食べると太るよ?」
朝から食べているマリに言われたくはないけれど、シュブニグラスはドキッとフォークを止める。
「‥‥ま、まぁ‥‥冬だから? 気にする必要なんてないわよ、ないわ」
まるで自分に言い聞かせる言葉にマリは苦笑する。
「あっちにはモンブランがあるですよ! さっさと行くです!」
「ちょ、ちょっと待ってってば」
なにやら騒がしい声が聞こえ、其方に視線を向ければケーキを前にしてお嬢様仮面の外れた如月と手を引っ張られて振り回されている東雲の姿があった。
如月の持つ皿には幾つものケーキが積み重なっており、様々なケーキを食べ比べているのが分かる。
「コレは美味しいよ? そっちは?」
2人とも席につき、それぞれが持って来たケーキを食べ比べている。
「これも美味しいですよ――って何してるのです」
如月は東雲が『おくちあーん』をしているのを見て如月は真っ赤になって東雲の言葉を待つ。
「え? だからそれ食べたいから食べさせて? 的な行動だけど?」
さも当たり前と言わんばかりの言葉に如月の顔はさらに赤くなる。
「あ、あーん‥‥って、こういうの普通は男の方が恥ずかしがる気がするのです‥‥」
如月は照れながらも東雲の口に一口サイズに切り分けたケーキを食べさせる。
「うん、美味しいね――はい、菫も」
東雲が先ほど自分にしてくれたように「あーん」とフォークを差し出しながらすると「うぅ‥‥」と顔を真っ赤にしながら如月も口を開けて、ぱくりと食べる。
(「うぅ、恥ずかしすぎるのですー」)
如月は恥ずかしさを隠すためかガツガツとケーキを勢いよく食べ始め「うごっ‥‥」と喉に詰まらせてしまう。
「もう、急いで食べるから‥‥」
むせる如月の背中をさすりながら東雲が苦笑する。
「飲み物を持ってくるね、甘い物ばかりだから飲み物はコーヒーとか苦いのが良いね?」
東雲の言葉に「苦いのは飲めないですよ」とむせながら如月が言葉を返した。
「え? 苦いの駄目なの? 分かった、それじゃ何か飲めそうなのを持ってくるね」
東雲はそう言葉を残してドリンクコーナーへと向かい、自分用にコーヒーを如月用に甘い紅茶を持って席へと戻る。
「はい、甘い紅茶なら大丈夫だよね」
東雲が如月に紅茶のカップを渡すと「あ、ありがとなのですよ」とカップを受け取りながら小さな声で言葉を返してきた。
「またこういうバイキングなどあったら一緒に来ようか」
東雲が如月の肩を抱きながら話しかけると「‥‥うん」と首を縦に振り言葉を返した。
それから昼の部を終了する放送が流れ、ケーキを思い切り楽しんだ能力者達は大宴会場を後にしていったのだった。
※夜の部※
「ぐ‥‥さ、流石に一日中、ケーキとかデザート類だけで過ごすのはキツいな‥‥」
既に胃の中全部がデザートで埋め尽くされているような気がしてマリは壁へと寄りかかりながら一日中いる事にした過去の自分を悔いる。
「あれ? マリさん‥‥? どうしたんですか?」
壁に向かって「うぅー‥‥」と唸っているとレイン・シュトラウド(
ga9279)が話しかけてきた。
「だ、大丈夫よ‥‥ちょっと一日中ケーキとか食べまくって胸焼けしてるだけだから‥‥」
うっぷ、と言いながらもケーキへ向かおうとする執念だけはあるらしく「たべなくちゃー‥‥たべなくちゃー‥‥」とその言葉しか知らぬかのように呟いている。
「あんまり調子の乗って食べ過ぎると、あとが怖いですよ、例えば‥‥体重計とか「レイン坊、それは乙女の前では禁句よ? 体重計とか乗らないから気にしないのっ」はぁ‥‥」
拳を固めて正論とでも言うような口調で言葉を返すマリだったが、所詮現実逃避である。
「あの‥‥今日、舞さんは来てます?」
こっそりと小さな声でレインがマリに問いかけると「いや、来てないよー?」という言葉が返ってくる。
「何か仕事が忙しいらしくて、誘ったんだけどね。どうしても抜けれない仕事だって言ってたから‥‥」
「そう、ですか」
少しがっかりしたようなレインにマリはにやにやとしながら「若人やのぉ、レイン坊」と背中をバシバシと叩きながら「自棄食いしちゃえー」と言葉を残して軽めのプリンなどをつまみにマリもコーナーへと向かっていく。
「さて、ボクも食べに行こうかな‥‥」
レインは呟きながらあっさりとしたフルーツ系のケーキやクリームケーキなどを食べている。
「やっぱりフルーツ系は見た目が華やかですよね」
フルーツがたっぷり使われて色も形も華やかなケーキを見てレインが呟く。そしてショートケーキなどを食べた後に少し味が濃厚なチョコやチーズ系のケーキへと手を伸ばす。
「まだ、大丈夫かな?」
レインは自分のお腹に手を置いてケーキを2つほど取る。
「いくら食べ放題とは言っても、食べすぎはよくありませんからね」
ちらりとマリを見ながら呟く。明らかにマリは『食べすぎた人』である。
「あ、パティシエさん‥‥」
そこへ会場を見回るパティシエの姿を見つけて「すみません」とレインは声をかけた。
「どうかしましたか?」
「あの、ケーキの作り方‥‥というかコツを教えてもらえませんか? ボクもお菓子作るのは大好きなんです」
レインの言葉に「ほぉ、宜しければレシピを差し上げましょうか」とパティシエの男性はレインに少し待つように言って一度奥へと引っ込み、数枚のレシピを持って帰って来た。
「流石にメインケーキのレシピはお渡しできませんけど、こちらでしたらどうぞもって行って下さい」
そのレシピには綺麗にデコレーションされたケーキの写真もついており「綺麗ですね、職人技って感じがします」とレインは目を瞬かせながら呟いた。
「もしよかったら作って見てください、そんなに難しいレシピではないので」
「ありがとうございます」
レインはぺこりと頭を下げてレシピをマジマジと見る。そして今日来れなかった彼の大事な人の為に作ってみよう、レインは心の中で呟いたのだった。
「ほへ、幸せです」
そして会場の一角にて幸せそうにケーキを頬張るのは藤河・小春(
gb4801)だった。
「小春ちゃん、幸せそうに食べるねー」
苦笑しながらマリが藤河に話しかけると「ほへ、幸せですから」と穏やかな笑みと共に言葉を返してきた。
「実は、一人なので、ご一緒にと行きたいのですが‥‥いいですか?」
藤河の言葉に「もちろんっ、じゃあ向こうからカップとお皿持ってくるね」と今まで座っていた場所からカップと皿を運んできて、藤河と同じテーブルにつく。
「それにしても、小春ちゃん、あんまり食べ過ぎると太っちゃうんじゃなーい?」
ふふふ、とからかうようにマリが言葉を投げかけると「ほへ‥‥」と何かを考えた後に藤河が言葉を続けた。
「‥‥大変申し上げにくいですが、傭兵は激しく戦っているので、お仕事に出かけていると、すぐにカロリー消費しそうです。あと、頭を使う事をしてると、そっちにエネルギーもいきそうですね、ほへ」
だから大丈夫ですよ、藤河はにっこりとこれ以上ない笑顔で言葉を返した。
「ほへ、つまりマリさんだけが怯えることになると思っています」
にっこりと言葉を紡いだ後に一呼吸置き「しかし」と藤河は呟く。
「やはり、それでも体重計に乗るのは怖いですね‥‥ほへ」
藤河はショートケーキを食べながら頬を朱に染めて呟いた。
「た、確かに‥‥マリちゃんてば皆みたいに激しく動くことはないし頭もそんなに使ってない気がする‥‥このままじゃ、もしかしたらヤバい?」
ぶつぶつと呟いたいる間にも藤河はケーキを食べたり、紅茶を飲んだりしてまったりとして、最後にワインを飲んでおしまいにしたのだった。
ケーキバイキングは何事もなく無事に終わったのだが、それから暫くの間スポーツジムに通うマリの姿が見受けられたのは言うまでもない。
END