●リプレイ本文
― 魔王に支配される学園 ―
この学園は魔王によって支配されている。
魔王の傍若無人ぶりに、生徒達は八つ当たりがいつ来るのかと怯え、楽しい学園ライフをびくびくしながら過ごしていた。魔王というのは生徒会長であるキルメリア・シュプール(gz0278)の事であり、彼女を失脚させれば事は穏便に済むのだろうが、彼女は理事長の娘であり、成績も優秀である――彼女を失脚させる事は果てしなく困難な事だった。
「水を‥‥」
いきなり瀕死で現れたのはもやし学園の番長(自称)であるフェリア(
ga9011)だった。ちなみに『水』と要求している割に自分で持っていたらしくバッグの中からジュースを取り出してごくごくと飲んでいる。フェリアはもやし学園を離れ、他の学園の平穏の為に戦っていたのだが、皮肉にも彼女が離れている間にもやし学園は魔の巣窟となってしまった(魔王は1人だけど)。
「学園の平穏を取り戻さなくては‥‥」
国士無双と書かれた木刀を持ってフェリアはキリーを探す為に行動を開始したのだった。持っている木刀が3mという巨大な物な為に他の生徒達から視線を浴びている事にも気がつかずに。
そしてもう1人‥‥もやし学園を離れていて帰って来た人物がいる。彼の名は白虎(
ga9191)と言い「私、どこかの王子様と結婚したいの」というキリーの言葉を真に受けて『王子』になる為に国の乗っ取りを画策したという何とも可愛い奴である。そして『褌帝国』に単身渡り、レジスタンスの人々と共に皇帝打倒の戦いを繰り広げてきた。様々な事があったけれど、その国で密かに開発されていた戦闘ロボ『KV』で皇帝を打ち倒したのだが、王政廃止という結果になり白虎が望んでいた『王子』にはなれずに学園へと戻ってきたのだ。
(「キリーお姉ちゃんの方が大事にゃー」)
大統領就任の話もあったけれど、白虎はキリーの為に断った。しかしその想いがキリーに届いているかと言うと‥‥まぁ、その、分かるだろ?(視線逸らし)という感じだ。
「くそ、もやし如きが俺様を停学処分にしやがって」
ち、と忌々しそうに舌打ちをしながら登校しているのは化学部の部長であるテト・シュタイナー(
gb5138)だった。彼女はキリーと反目しており、色々な実験(危険行為)を続けているせいでキリーによって停学処分を下されていた。
そして漸く今日、停学が解除になって学園に登校してきたのである。
「あんた‥‥さっきコンビニに行ったわよね? そこで最後の一個ビッグプリンを買ったでしょう? あれを毎朝食べるのが私の日課なのに何邪魔してんのよ! ヘタレ!」
キリーの叫ぶ声がした次の瞬間に『ごす』と鈍い音が響き渡り、男子生徒が額を押さえながら蹲っている。どうやら頭突きを食らわされた模様である。
「ほらほら、あんまり騒いでると遅刻しちゃうわよ。今日はそれぞれの部の決算もあるでしょ? 早く生徒会室に行かないと」
キリーの頭を撫でながら宥めているのは生徒会役員をしつつ風紀委員長でもある百地・悠季(
ga8270)だった。彼女はキリーの家の分家出身であり、キリーにとって良きお姉さんでもあった。
しかしキリーの行動をあまり止める事はなく猫可愛がりをしてキリーの行動を増長させている感も否めない。髪の毛をアップにして何処から見ても『キツイ優等生』の雰囲気が醸し出しているけれどスタイルの良さは隠せない。
「あまりお嬢様を甘やかしちゃダメですっていうか、ちゃんと風紀委員の仕事やってくださいですよー、お仕事しに行って下さいですぅ」
今にも泣きそうな顔をしているのは土方伊織(
ga4771)であり、親がキリーの両親の執事をしている事もあってか息子である土方もキリーのお世話をする為に学園へと入学していた。学園なのだから『お嬢様』と呼ばなくてもいいのだろうが、屋敷にいる時のクセが中々抜けずに『お嬢様』と呼ぶ事が多いらしい。
「わんこ、あんた誰に向かってそんな事言ってンの? 大事なモンちょん切って『わんこ』じゃなくて『犬娘(わんこ)』にしてあげましょうか?」
腕組みをしながら威圧感たっぷりで土方に言葉を投げかけると「それにね」と百地が言葉を続ける。
「あたしがちゃんとお仕事したら、まずキミが対象になるのよ? 髪の毛、男の子っぽく坊主にしてあげましょうか?」
百地もにっこりと笑顔で呟くと「さ、先に生徒会室に行ってるですぅ」と慌てたように駆け出していった。
「あら、ゆーきだわ」
キリーが前から歩いてくる親衛隊長であり、生徒会副会長でもある仮染 勇輝(
gb1239)を見て「ゆーき!」と軽く手を振る。仮染は人望もあるのだがキリーに惚れているという事実からか反生徒会長組織の人間に襲われる事が多い。
「あ、会長‥‥」
「何ノートとにらめっこしてンのよ」
「あ、英語が少し分からなくて」
苦笑しながら言葉を返してくる仮染のノートを見てキリーは絶句する。
「あんた、これ‥‥HELLOって書きたいわけ? HELLになってるわよ、地獄って挨拶してどうすんのよ」
キリーが引きつった笑顔で呟くと「あ、英語が苦手なんで‥‥良ければ教えてもらえませんか?」と仮染が言葉を返すのだが‥‥。
「生徒会長にそんな時間はありません、今日は決算報告もあるし忙しいの。英語辞書とでもにらめっこしてなさい」
百地が厳しい言葉を投げかける。百地と仮染は職務上犬猿の仲であり、百地は隙あらば仮染を失脚させようとしていた。
「そんなに忙しいの? ヤダなぁ‥‥ま、いいや。ゆーき、英語はまた今度ね」
キリーは言葉を返し、百地と共に生徒会室へと向かっていったのだった。
「あ、生徒会副会長だから俺も行かなくちゃいけないんですけど‥‥」
残された仮染は小さく呟き、ノートをバッグにしまって生徒会室へと向かっていった。
「‥‥なんて酷いんだ、大丈夫かい?」
先ほどキリーに頭突きされた男子生徒に話しかけるのは転校生の神咲 刹那(
gb5472)だった。
「うぅ、酷い目にあった‥‥まさかプリンで頭突きを食らわされるとは‥‥しかし、生徒会長には誰にも逆らえない、俺が悪かったんだ」
へへ、と諦めた口調で呟く男子生徒に対して「ここは、ボクに任せて」と神咲は言葉を返した。
「え?」
「大丈夫、ボクが直談判してくるよ」
神咲の言葉に「やめとけ、目をつけられたら学園を出て行く羽目になるぞ」と心配そうに言葉を投げかけてくるのだが神咲の決意は硬い。
「大丈夫だよ、ボクは転校生だし、何とかなるって」
神咲はひらひらと手を振って、生徒会長を探し始めたのだった。
「出来れば穏便に済ませたいが‥‥果たしてあの生徒会長、そして取り巻き共がそれを許してくれるかな」
神咲と男子生徒のやり取りを見ているのは反生徒会長組織のリーダーであるユウ・ナイトレイン(
gb8963)だった。彼もキリーによって様々な被害をもたらされ、同じような被害を受けた生徒たちと反生徒会長組織を作り上げたのだ。本人としてはリーダーに乗り気ではないけれど、他の皆が頼ってくれているのでそれを見捨てる事は出来なかった。
「白雪(
gb2228)、今日の帰りにショッピングでも行かない? ちょうど初売りのセール中でしょう?」
「うんいいよ。その帰りにホテルのラウンジでお茶しよう、今凄くイルミネーションが綺麗らしいよ」
もやし学園では滅多にいないほのぼのとした会話をする双子、理系の真白と文系の白雪。双子だけれど性格などは全く正反対の2人。珍しくもやしからの被害を受けていないという貴重な人物達でもある。
「ああぁぁ! 今日は決算の日なのに! 遅刻なんてしちゃったら会長から怒られちゃう」
ばたばたと慌しく駆けて来るのは生徒会役員の冴木美雲(
gb5758)である。常に腰に木刀を携えており、その天然さ故からキリーとは別の意味で恐怖の対象になっている人物でもあった。
「う、わぁっ!」
慌てていたせいか石に躓き、荷物全てをばら撒きながら転んでいる。彼女の何が凄いかというとばら撒いた荷物全てが必ず誰かにヒットしているということだ。むしろ狙ってやっているんだよ、と言われた方が不思議ではないくらいの命中力に生徒達は日々怯えている。
そんなこんなで始まったいつもと変わりない日常――誰もがそう思っていた。
― 全てが動き出すお昼の時間 ―
「この教室に生徒会長がいるんだね、じゃちょっと行ってくるよ」
あれから神咲は同じクラスの男子生徒にキリーのクラスを聞いて、その前に立っていた。
「あ、あのさ‥‥一応、俺止めたからな?」
男子生徒は少しびくびくしたうような表情で呟くと、キリーに見つからないようにだろう、一目散に駆け出していった。
「こんな事、皆が黙認してるなんて間違ってる‥‥誰かが言わなくちゃいけないってのに」
はぁ、とため息を吐きながら神咲はドアに手をかけた。
「あ〜ぁ、体育なんてめんどくさい〜‥‥いっそのこと体育なんてなくしちゃおうかしら」
はぁ、と盛大にため息を吐きながら体操服に着替えている時、事件は始まりを告げた。
「えっと、生徒会長がここに居るって聞いたけど‥‥わぁっ!!」
開けた瞬間が不味かった、大抵の女子生徒は体操服に着替えていたものの、文句を言っていたキリーは最後までもたついてしまったのだ。
つまり、イヤンな状態が神咲の前に広がっている。
「し、失礼しました〜〜〜!」
慌てて神咲はドアを閉めて逃げる様に駆け出していく。
「ひ、昼休みに話に行く事にしよう‥‥」
教室から出た神咲は顔を赤くしながら呟くのだが、勿論見られたキリーが黙っているはずもない。
「あ、あの‥‥体育の授業は?」
携帯電話を取り出してピピピとメールを打ち始めたキリーに女子生徒が話しかける。
「急用が出来たからお休みするって先生に伝えてくれる? もし文句があるとか先生が言うなら生徒会室までどうぞ、とも伝えてね」
にっこりと笑顔で呟き『覗き魔よ、見た事ない顔だったからすぐに調べて』と百地にメールを打ち、怒りの表情で携帯電話を閉じたのだった。
「許さないわよ、私の下着姿を見て無事に生きて学園から下校できると思わないことね」
それから生徒会役員、親衛隊に至急呼び出しを行い『生徒会長』と書かれたテーブルの上に腰掛けて役員たちが揃うのを待つのだった。
「あのぅ、お嬢様‥‥座るなら机ではなく、椅子に座った方が‥‥はわわわ」
行儀が良くない、という事で土方が注意をしたのだが『ギロリ』と睨まれてしまい、それから後に続く言葉が言えなくなってしまった。
「どうやら覗き魔君は転校生みたいね、生徒会長が『見た事ない顔』って言ってたから調べるのは簡単だったわ。名前は神咲刹那」
百地が短時間の間に調べた事をキリーに報告していく。彼女の家系の中には忍びの家系も混じっているせいか情報収集などは得意中の得意なのだ。
「ふん、どうでもいいけどそのけしからん乳は何とかしなさいって言ってるでしょ! 役員クビにするわよ!」
髪をかきあげながら百地へと言葉を投げかけるが、百地は「ごめんごめん、また今度ね」と言葉を曖昧に流して大人の対応をする。キリーがあんな態度を取るのは寂しさゆえからという事を見抜いているからこそ出来る対応だろう。
「‥‥ねぇ、ところでそこの不法侵入者はどうにか出来ないわけ?」
び、とキリーが指差した方向には3mの木刀を持つフェリアが隠れていた、勿論彼女だけが隠れていたのならばバレる事はなかったかもしれない。
しかし3mの木刀が隠れるという行為を邪魔しており、しかもフェリア本人はそれに気がついていない。
「ぬおお! 何故にレイ・ザ・バレル! おのれキルメリア殿め、千里眼の使い手だったか!」
フェリアは悔しそうに姿を現しながら叫ぶ。
「‥‥もし、それで本当に気がつかなかったらバカじゃん、むしろあんたがバカよ、バカ、バカチビ」
「チビではない! 我が名はフェリア! 妖精番長だ! この学園の平和を取り戻す為に! キルメリア殿、貴女を」
「そこまでですよ、キリーさんを苛めるなんて許しません」
冴木が木刀を構えながらキリーとフェリアの間に割ってはいる。冴木とキリーの父親同士が知り合いであり、冴木の父親の借金をキリーの父親が肩代わりした事からキリーの友達になって欲しいと頼まれていた。
「さっさとつまみ出しなさいよ、グズ」
冴木本人は友達のつもりで接しているのだが、キリーからは下僕程度にしか見られていないという事を彼女は知らない。
「覚悟!」
ぶん、と勢いよく木刀を冴木が振り下ろす。此処までは良かった、しかしなぜか、何故なのか、木刀は冴木の手からすり抜け、真後ろのキリーへと目掛けて飛んでいく。
「だから、何でこっちに来るのよ! この天然バカぁ!」
キリーに木刀が直撃する寸前で仮染と百地がキリーを守る、そしてお互いにらみ合う。
「キリーお姉ちゃん、遊びに来たのにゃー♪」
そこへ運良く、運悪く入ってきたのは白虎である。彼は戦闘のプロとも言える技術を身につけているはずなのにキリーにはなぜか虐げられてしまう。
「くっ、このままでは多勢に無勢――しばし退散仕る!」
フェリアはそう叫ぶと3mの木刀を持って生徒会室から退散していった。
「これで落ち着いて話が出来るわね、それでその転校生だけど‥‥」
キリーが話を進めようとしたとき、再び生徒会室の扉が開かれて反生徒会長組織のリーダーであるユウが立っていた。
「もう、忙しいんだから手短にしてくれる? 一体何なの?」
キリーが椅子に腰掛けながら面倒そうに問いかけると「我々は反生徒会長組織だ」とユウが短く呟く。
「出来れば力でなく話し合いで解決したい。我々の目的は生徒が学園生活を有意義に過ごせるようにしていきたいと言う一点だ」
ユウは自分達『反生徒会長組織』の目的を話し始め、キリーは肘をつきながらそれを聞いている。
「しかし現段階では多くの生徒がキルメリアにより悩まされている。よって今回の我々の要件はキルメリアに会長の座を降りてもらう事だ、そしてこの要件が聞き入れられないなら実力行使になる」
実力行使、この言葉に生徒会役員、そして親衛隊たちの表情が険しいものになる。
「要件ね、答えはNOよ、聞き入れるわけないじゃない、ばっかじゃないの」
嘲笑うようにしてキリーが言葉を返し「私が生徒会長のおかげで遅刻者は減る、規則違反者は減る、学園に何の問題があるっていうのよ」と言葉を返す。
「そうか、残念だ――後悔するなよ」
ユウはそれだけ言葉を返して仲間達の所へと帰っていく。
(「はわわ、お嬢様にも困ったものなのです。もう少し我侭を押さえてくれればこんな事には‥‥はわ、イエ、ナンデモナイノデス」)
土方が心の中で呟いているとジロリとまるで考えている事を見透かされているかのように睨まれて、視線を逸らした。
「お昼ご飯と三時のオヤツには間に合いそうにないわねぇ」
百地はため息を吐きながらキリーの為に持って来たお昼ご飯とプディングを見ながら呟く。
(「生徒会役員ですけど、反生徒会長組織の言う事には賛同できる部分がありますね‥‥ですが、今まで俺も色々やってきたけど、止めるのは難しそうだなぁ」)
仮染は「はぁ」と小さなため息を吐く。今までも仮染はキリーの横暴を様々な手を尽くして止めようとしたのだけれど全て失敗に終わっている。
「とりあえず問題は簡単じゃない」
キリーが呟き「どういうことですか?」と冴木が言葉を返す。
「つまり、皆ぶっ潰せばいいのよ、覗き魔も生徒会に楯突く奴もみ〜んな潰す。これは生徒会長命令よ、分かったわね」
理不尽な命令に従うもの、不満を持つもの、中立のもの、全てが動き始める。
― 既に学園じゃないし、それぞれのテロ活動 ―
「はい、今日のお弁当。貴女が好きな鳥そぼろを作ってみたわよ」
此処は学園の中でも一番のお昼ご飯スポット、天気の良い日は多くの人で賑わっている裏庭なのだが、今日はなぜか白雪と真白の2人の他に数名の生徒がいるだけだ。
「わぁ、美味しそう。ありがとう! お姉ちゃん、はいお茶どうぞ」
白雪がお茶を渡し、ご飯を一口食べる。
「美味しい、凄く美味しい!」
「ふふ、ありがと。白雪‥‥こんな生活がずっと続け――――へぶっ」
続けばいいわね、そう続くはずの言葉は反生徒会長組織の流れ弾によって遮られてしまった。
「だ、大丈夫? 何事かしら‥‥」
白雪が姉の心配をしながらものが飛んできた方向を見ると大勢の生徒たちがなにやら話し込んでいる姿が白雪の視界に入ってきた。
「やっぱり実力行使で行く事になったようだ。全員、目的は会長だ。会長には悪いが少しは痛い目にあってもらった方がいいのかもしれないな、それじゃ全員行くぞ!」
ユウがそう叫んだ後に「おうっ!」と他の生徒たちも沸きあがるように叫び、生徒会長・キリーを目指して進軍していったのだった。
「‥‥目的は生徒会長じゃないのかしら? 私に被害が来た事は総スルー? まぁそれは許せても折角白雪とのまったりお昼ご飯タイムを邪魔する事は許さないわよ」
「お、お姉ちゃん?」
黒い笑顔を顔に貼り付けたままぶつぶつと呟き「‥‥よし、白雪、ちょっと待ってて」と笑顔のまま白雪に言葉を投げかける。
「え? でもお姉ちゃんは?」
「大丈夫、ちょっと軽くSATSUGAIしてくるだけだから」
そう言葉を残して真白は「ぶえっくしょい!」と花粉症で苦しむ野球部員から素敵バットを奪った後に反生徒会長組織が向かった方向へと駆け出していったのだった。
「はわわ、大人しく話し合いで解決してほしかったですよー‥‥でもお嬢様に怪我させちゃったら、僕お家に帰れなくなっちゃうですし‥‥」
土方は呟きながらチラリとキリーを見て小さくため息を吐く。
「お嬢様の命令には逆らえないので‥‥迎撃するですよー」
土方は襲ってくるであろう反生徒会長組織に向けてトンファーを構えた。
「ふぅ、折角おやつを作ってきたのに‥‥早めに切り上げてキリーにおやつを食べさせてあげなくちゃね」
百地は呟き、キリーが被害を受けないように近くに立つ。
「だからそういうの止めなってば〜‥‥」
苦笑しながら白虎がキリーに向けて言葉を投げるのだが「おだまり」と頭突きを返されてしまう。彼としては自分が犠牲になる事で他者への被害を食い止めようとしているのだが、既に騒ぎが大きくなりすぎて彼1人が犠牲になっても状況は変わらない。
「仕方ないにゃー‥‥」
白虎は諦めたように携帯電話を取り出して何処かへと電話を始めた。
「あ、ボクにゃー。実は例のものを用意してほしいのにゃー、え? 事情は聞くなにゃー。男には譲れない時があるのにゃー」
そして白虎は電話が終わった後にキリーを見て「全員殲滅したら平和になるよね!」と呟き、彼自身も行動に移ったのだった。
「オマエラ、其処に直れ! それ以上キリーさんに近づくことは許さん!」
既に暴動になっている学園内でキリーを捕まえようとする輩に仮染が木刀を振り下ろしながら反生徒会長組織をなぎ倒していく。
「ふはははははは! 俺様が帰って来てやったぜぇ? もやしちゃんよぉ!」
屋根の上からけたたましく笑う声が響き渡り、まるで特撮ものの悪の幹部のような登場をするのは化学部の部長・テトだった。
「今日という日を、テメェの社会的な命日にしてやんよ!」
テトは反生徒会長組織が襲撃に行くのを偶然知り、キリーさえいなければ実験(危険行為)が好き放題出来るんじゃね? という考えからどさくさに紛れてキリー襲撃を実行に移したのだった。
「‥‥ねぇ、あれってさ、誰?」
「そうそう、誰と聞かれれば答えないわけにはいかねぇなぁ‥‥って覚えてろよ! テメェが俺様を停学にしたじゃねぇのかよ!」
思わずノリツッコミをしてしまい、テトがぜぇぜぇと息を乱す。
「バカね、生徒の顔くらい全員覚えてるわよ、バカじゃないの? 天才気取りのバカ化学部長」
「くそ‥‥こいつをばら撒けばお前のすかした顔色も真っ青だろうぜ!」
ばっ、と屋根の上からテトはキリーの羞恥心を煽るための生写真ばら撒き攻撃を行う。なお、コラージュ写真なので本物ではない。
「「あああああああああああああああああああ!!」」
なぜかダメージを受けているのはキリーに惚れている白虎と仮染の2人だった。慌てて2人は写真をかき集め他の生徒たちが見ないように頑張る――が仮染はキリーによって耳を抓られる。
「ゆーき、その内ポケットにいれた写真を出しなさい」
「‥‥‥‥すみません」
仮染は写真を取り出し、キリーに差し出すとキリーは写真をびりびりに破く。
「くっ、さすがにこれだけじゃ大したダメージにはならねぇな‥‥次は化学部ならではの攻撃だ! くらえ、刺激臭!」
テトは自分の鼻を守りながら『化学部の研究の結晶』を反生徒会長組織、そして生徒会役員、親衛隊たちに投げつける。
「やっぱ、化学部っつったらコレだろ?」
にやり、とテトが呟くのだが‥‥テトが投げたそれは『べちょ』と音を立てたまま地面から動かない。
「‥‥‥‥くさや?」
そう、動くはずもないのだ。テトが投げたのは『くさや』なのだから。確かに臭いけれど化学部の結晶と言うのはお手軽すぎるものだった。
「くそぅ! 効いてないだと!? バカな!」
テトは悔しがりながらも『くさや』をぽいぽいと投げ捨てていく。
「危ない! キリーさん、下がって! 此処は私が引き受けます!」
冴木がキリーに襲い来る『くさや』に向かって攻撃を行う。遠くに投げ飛ばそうとホームランを狙うまではよかった、しかし狙った先にキリーがいて、結果――遠くへ飛ばす処か加速させてしまい、キリーの顔に『くさや』がヒットする。
「み〜〜く〜〜もおおおおおお‥‥」
「あ、あれー?」
くさやを引き剥がし、地面に投げ捨てた後でつかつかと冴木に近寄り「何してんのよ!」と怒鳴りたてる。
「く、くさ‥‥」
しかしキリーの顔には『くさや』の匂いがべっちょりとついており、思わず冴木は顔を背けてしまった。
「誰のせいよ、誰の!」
「大丈夫です。天も地も、この世のもの全てがキリーさんの敵になっても、臭くても私はずっとキリーさんの味方です♪」
「私の敵は、今あんたなのよ!!」
ぎゃあぎゃあと喚きたてるけれど冴木は全く気にしない。
「生徒会長! その任を下りてもらうぞ! それが学園の平和の為だ!」
ユウがキリーに襲いかかろうとした時だった。
「‥‥SATSUGAI戦士、真白――天に代わって人誅よ!」
ごすり、とユウの頭を真白が殴りつける。
「動く奴は邪魔者よ! 動かない奴も邪魔者よ!」
真白が釘バットで邪魔者を殴りつけながら「奇麗なバットには棘があるのよ」と言葉を付け足した。しかし彼女が携えているバットは奇麗というよりも奇怪という表現の方が正しいような気がするのは気のせいだろうか。
「此方としても討ち死にする覚悟だ。邪魔するならば倒させてもらうぞ!」
ユウは呟き、くわっと目を見開きながら真白へと攻撃を仕掛ける。しかし生徒に討ち死にを覚悟させるほどの圧政をするキリーは椅子に腰掛けながら騒ぎを見てジュースを飲んでいた。
「キリーさん、これを見て何も思わないんですか?」
仮染の言葉に「煩いくらいしか思わないけど?」と言葉を返す。
「もう少し、世間の常識というものを学んでください」
軽くチョップしながら仮染が呟くと「‥‥あんた、私に逆らう気ね」とジト目で見ながら言葉を返した。
「あなたね、キリーを支える立場のはずの副会長が反生徒会長組織に感化されてどうするのよ、なんならその座から引きずり下ろしてあげましょうか?」
百地の言葉に「う、別にそういうことじゃ‥‥」と仮染が言葉を返す。
「お姉ちゃん! 危ないのにゃ!」
ちょえあー、と中国拳法を使いながら反生徒会長組織がキリーに攻撃するのを食い止める。
「お前、生徒会役員の割りにマトモな考えを持っていると見た。つまり俺たちと最終目的は一緒なんだから協力してくれないか?」
ユウが先ほどの仮染の言葉を聞いていたのか、協力してくれ、と言葉を投げかける。
「俺は‥‥「きゃあっ!」‥‥!」
言葉を返す間際でキリーの悲鳴が聞こえて仮染はキリーを抱きかかえながら庇い、そして木刀の切っ先をユウに向ける。
「確かに目標は一緒なのかもしれない、だが――彼女を傷つける奴は許さない」
仮染の言葉に「残念だ」とユウは言葉を返し、木刀に手を掛ける。
「だったら――「その身に刻みなさい――神技!」――ぐぼぁぁっ‥‥」
話の途中で真白の右ストレートが炸裂してユウは派手にぶっ飛ぶ。
「き、貴様等ー! 俺様を置いて話を進めんじゃねぇ!」
梯子を使って屋根から下りるテトが叫び「俺様も好き勝手させやがれぇぇぇ!」とパンチを仕掛けるのだが、百地が間に入り、クロスカウンターでテトは敗れてしまう。
「もも、あっちも」
びし、とキリーが指差した先には3mの木刀を両手に抱えたフェリアが立っており「フェリアが何故強いのか‥‥それは番長だから強いのよ!」と百地に向かって攻撃を仕掛ける。
「フェリシア神剣奥義‥‥国士百烈け「ちびっこちゃん、おいたはダメよ」――か、返せ!」
技の名前を言う途中で百地が木刀を奪い取りフェリアを丸腰にする。
「キルメリア殿! 今すぐ捕縛されるのだ!」
「あんた、今の自分の状況分かってンの? もも、リクエスト通り捕縛『して』あげて」
にや、とキリーが呟いた瞬間――どかーんっと何かが破壊される音が響き渡る。
「な、何事!」
百地が見上げた先には巨大なロボが立っており、その前に白虎が仁王立ちで立っている。そのロボは白虎がかつての戦友にKVによる爆撃を要請した事でやってきた。
「お姉ちゃん、ボク‥‥考えたにゃ。争いを無くすためには両方消えればいいのにゃ☆」
可愛らしく言っているけれど内容は「はぁ!?」と言う内容である。
「爆撃開始にゃー!」
白虎の言葉を合図にドドドドドドと銃がぶっ放されて学園も崩れ落ちてしまう。それでも死者が出ないのは夢だから、これは初夢だから死人も怪我人も出ないのである。
「そうだ、お姉ちゃん! 王子様じゃないけど大統領はどう? ボク、今すぐにでも大統領になれるにゃ!」
爆撃を終えた後、白虎がさりげなくキリーにプロポーズするのだが「‥‥白虎」とアフロになったキリーが溢れる怒りを堪えながら低い声で呟く。
「あんたの言う通り、確かに仲良くなったかもしれないわ‥‥共通の敵が出来た事でね。大統領? なら私があんたを滅殺して大統領になってあげるから安心なさい。でも安らかには眠らせないわよ」
そう、白虎は争いを無くすために喧嘩両成敗をやってのけた。しかし、これは双方に共通の敵を作るだけに終わってしまったのだ。
「はわわ‥‥僕の髪の毛がー、あふろなのですよー‥‥ひどいですぅ」
しくしくと泣く犬娘(わんこ、もとい土方)はアフロになった自分の髪を鏡で見て嘆く。
「に、にゃー‥‥?」
ごごごご、と全生徒に囲まれながら白虎は誤魔化すように笑う――が誤魔化される人間が誰1人としていなかった。
そんな騒ぎを他所に、完全な廃墟と化した学園の裏庭では‥‥。
「‥‥うん、色々あるけど、私は元気です‥‥」
遠くを見ながら白雪が誰に言うでもなく独り言のように呟き、現実逃避をしたのだった。
END