●リプレイ本文
―― 初夢で女の子になっちゃいました ――
その日、霧雨仙人(
ga8696)は「わぁ! 何じゃ、これは!」と驚きで目を丸く見開きながら鏡に映った自分の姿を見ていた。
鏡に映っていた人物、それは見慣れた自分の顔ではなくナイスバディの超絶美少女だったからだ。
「な、何でワシの姿がこんな超絶美少女になっとるんじゃ‥‥これはもしや長生きしていると美少女にクラスチェンジ出来るのかもしれんの‥‥納得じゃ」
うんうん、と首を縦に振りながら霧雨仙人はまじまじと鏡に映った自分を見る。その目が何処と無くちょっとだけニヤけているのはきっと気のせいだろう。
「よし、新たな人生を謳歌する為に街へと出かけるぞい!」
霧雨仙人は嬉々として着替えを始め、若者の聖地であるカンパネラ学園へと向かったのだった。
そして、この現象は霧雨仙人だけではなく他の能力者達にも発生していた。
「もしかして‥‥ボク、女の子になってる?」
ここはレイン・シュトラウド(
ga9279)の自宅、朝起きたらいつもより天井が間近に見えて、疑問に思いながらレインは鏡を覗き込んだ。
するとそこには普段のレインより少し背が高くなったモデル並のスタイルを持つ少年、いや少女が驚愕の瞳で鏡に映っていた。
「‥‥ちょっと胸の辺りが苦しいかも‥‥」
声まで変わっており、可愛らしい女の子の声で呟いた後にレインは自分の胸を見る。何故か発育の良いそれはレインに窮屈さを感じさせていた。
「‥‥ボク、元に戻れるのかな?」
普段、母親や姉達から女装させられているせいか、女の子になっても着る物には困らなかった。それを喜んで良いのか、悲しむべきなのか分からないまま着替えてため息混じりに呟く。レインの頭にあるのはオペレーターとして働く彼女の事。
「とりあえず、こうしていても始まらないし‥‥買い物にでも出かけよう」
つば広の白いハット、白の半袖サマードレス、白のハイヒールを身につけ、レインは外へと出かけていったのだった。
「‥‥‥‥お母さん?」
そして柿原 錬(
gb1931)は鏡に映った自分の姿を見て『お母さん?』と呟いていた。普段は髪の短い少年なのだが、今の姿は腰まで伸びた艶のある黒いストレートヘアーで標準的なスレンダーな体型だった。
その姿は生まれた時に死別した柿原の母親の若い頃にそっくりで、一瞬だけ柿原は『母親が帰って来た?』と思っていた。
「これ、僕‥‥いや、私なんだ‥‥」
鏡にそっと手を触れ、柿原は小さく呟きながら女の子スイッチが入ったのか「他にもこんな風になった人いるのかな?」と首を傾げながら呟き、慣れた手つきで着替えを始め、外へと出て行ったのだった。
「これは‥‥どういうことでしょうか?」
メビウス イグゼクス(
gb3858)は少しだけぽかんとした表情で現在の状況を必死に理解しようとしていた。彼が少し混乱に陥るのも無理はない。鏡に映るその姿は金髪のサラサラロングヘアーに加えて、服までファンタジーに出てきそうな聖女っぽい服装になっているのだから。体系はモデル並で微笑めばまるで天使の微笑みのような純情さが現れた。
「‥‥あれは‥‥?」
どうしたものか、と考えている時に恐らく知り合いが女性化したであろう人物を見かけて話しかける。
「ブレイズ君、どうしたんだ‥‥その格好は」
メビウスが話しかけたのはソファで眠っているブレイズ・S・イーグル(
ga7498)だった。彼も体が変異しているようで赤髪のポニーテールに体型は言うまでもなく胸の無い女性が見たら発狂しそうなほどのけしからん胸をしている。つまりナイスバディの少しワルそうなお姉さん系で服などはそのままなのでメビウスも気がつく事が出来たのだろう。
「‥‥ァ? 何言って‥‥」
大きく伸びをしながらブレイズが目を覚まし、言葉を返そうとして途中で止める。そこには自分の知らない女性が立っていたからだ。
そして自分の体の異変にも気がついたのだろう、視線を下へとやり「なんだコレ」と言葉を付け足した。
「ちなみに俺です、メビウスです」
「お前か‥‥一体これは何の冗談なんだ? まぁ、俺はあんまり興味ないけどな」
ブレイズは煙草を噛みつつ陽気に言葉を返した。
「そのうち戻るだろ、もしかしたら他にもこんな風になってる奴がいるかもな」
ブレイズの言葉に「呑気ですね‥‥」と言葉を返しつつ、他の能力者達もなっているかもしれないという言葉を聞き「なるほど」と言葉を付け足した。
「もしかしたら、俺たち以外にも‥‥行きましょう」
メビウスはそれだけ言葉を残すと部屋から出て行き、異変の被害や被害状況などを見て、そして真相を突き止めるために行動を開始したのだった。
「やれやれ、付いてってやるか。アイツ1人だと何やらかすかもわからねーしな」
ため息を吐き、煙草を灰皿にもみ消しつつブレイズも立ち上がり、先に出て行ったメビウスを追いかけたのだった。
「ちょ、な、何で服が!?」
神咲 刹那(
gb5472)は和服姿で子犬・ランサーの散歩に来ていた。今日は晴れていて散歩日和だな、そんな事を考えている時に異変は起きた。突然服が膨れて‥‥というか、胸の部分が膨らんできたのだ。
「うわぁっ! ‥‥ぁ、えと‥‥これでよし」
このままではあられもない格好を晒す事になってしまうので、神咲は慌てて服装を整える。
「‥‥っと、そういえばさっき湧輝さんがいたっけ‥‥あっちに行ってみるかなぁ‥‥」
神咲は自分を見上げる子犬を見た後に小さくため息を漏らし、知り合いである水無月 湧輝(
gb4056)を見かけた場所まで戻っていく。
「ねぇ、ちょっと、湧輝さん! 起きてよ、起きてってば! 何でこんな状況で呑気に寝てられるのかなぁ」
やや呆れ気味に神咲が呟いていると「ん〜、よく寝た」と大きく伸びをして水無月が目を覚ました。
「‥‥何かあったのか? お嬢さん」
自分を呼ぶ声に目を覚ました水無月だったが、見知らぬ少女が話しかけていた事を知ると紳士っぽく言葉を返した。
「‥‥冗談言ってる場合じゃないよ、なぜかボク達の体が女の子になってるんだけど‥‥どうしよう?」
「お? おぉ‥‥何か変な感じがすると思ったら‥‥とりあえず、姪よりも胸があるようだな」
ふむ、と自分の胸を触りながら水無月が納得するように呟く。
「‥‥というか、誰だ。キミは」
水無月の言葉に「はぁ」と盛大なため息を吐きながら「刹那だよ、神咲 刹那」と言葉を返した。
「っていうか、どうしよう」
神咲は心から困っているように呟くのだが、水無月はあまり困っている様子が伺えず、おもむろに発声練習を始めた。
「あ、あ〜〜、ふむ‥‥中々いい音域だな。楽器の方は‥‥と」
水無月はリュートを弾き始めるが、普段の自分と違うので弾きながらやや違和感を感じていた。
「弾く方もちょっと練習すれば問題ないな‥‥よし、これで普段歌えない歌が歌えるぞ」
水無月は困るどころかむしろ喜んでいるらしく、演奏の練習や発声練習を本格的に始めている。
「刹那はどうするんだ?」
「どうするんだって‥‥どうしようって聞いていたのはボクなんだけどね」
神咲が苦笑しながら呟くと「暇だったらその辺でも歩いてみたらどうだ?」と水無月が言葉を返してくる。
「どうせ周りは同じような状況だろうしな、面白いものが見れるかもしれないぜ」
水無月が周りを見ながら呟く。神咲のように「うわぁ!」とか「何これ!」とか叫んでいる人たちが多いところを見ると水無月の言う通り、他の能力者達にも影響が出ているということなのだろう。
「い、いいよ‥‥別に面白いものとか見たくないし‥‥湧輝さんはどうするの?」
神咲の言葉に「俺は行きつけのバーで歌ってくる」とリュートを抱えて水無月は行き着けのバーへと向かって歩き出したのだった。
「‥‥と、とりあえず、うちに帰ろう‥‥流石に恥ずかしいし‥‥帰るよ、ランサー」
子犬の名前を呼んで神咲は知り合いに合わない事を祈りながら自宅へと帰って行った。
「な、なんだこれ!? 僕、女の子になってる!?」
自宅の鏡にて自分の姿を確認した長門修也(
gb5202)は驚いて少し大きな声で叫んでいる。
しかし彼の頭に浮かんできたのは『どうしよう!』や『困った!』などではなかった。
「僕が女の子に‥‥だがこれはチャンス! この機に乗じてセクハラしまくってやる!」
ひゃっほうー! と叫びながら長門は軽い上着に縞パンを着て外へと出かけていく。
「ふふふふ、まさかこんな美味しいことがあるとは思わなかったあるネ、これは楽しまなくちゃ損あるヨ」
何故かエセチャイナ口調で喋る長門なのだが、理由は『その方が萌えるネ』との事。
「さぁ、最初のターゲットは誰になるネ!」
ふふふふ、と妖しげな笑みを浮かべながら長門は女性が沢山いそうな場所へと駆け出していった。
「一体、何が起きればこんな事になってんだよ‥‥」
フーノ・タチバナ(
gb8011)は呆然とした表情で鏡を見て呟く。とりあえず彼は起きてから現実を受け入れる為に1時間ほどの時間を費やしていた。
「はぁ〜〜〜、どうしよう」
自分が女性化した事にショックを受け、様々な葛藤をしつつも女子制服の中にTシャツを着て学校へ行く事にした。もちろん下着は男モノである。そこまではフーノも出来なかったらしい。
(「さて、どうしたものか‥‥」)
紅鬼(
gb8839)は「ふぅ」とため息を吐きながら自分の姿を見る。昨日の夜までは普通だったはずなのに、朝になって胸の辺りが重く違和感を感じて、鏡を見てみると見たことも無い美人女性の姿がそこには映っていた。まるでサファイアを思い出させるようなブルーの瞳に背中くらいまである長い黒髪。胸は何気にCカップはありそうだ。
「‥‥‥‥‥‥」
鏡に映った黒髪の女性が自分なのだと認識すると無意識に自分の胸へと手を当てる。
「って俺は何をしているんだ!」
何となく気持ちいいな、とか考えてしまった自分を紅鬼は嫌悪して勢いよく胸から手を放す。
「それにしても‥‥なんだ、これは」
普段はクールな彼だが、流石にこの状況には軽く取り乱してしまう。夢であってほしいと願って頬を抓ってみるが、地味に痛いような気がしないでもない。
(「仕方ない‥‥」)
紅鬼はため息を吐きつつ、妹の部屋にこっそりと忍び込み服を借りて外へ出る事を決めたのだった。
「はぁ、世の中は不思議で溢れているのですねぇ」
のほほんとした口調で鏡を見ながら呟くのは飲兵衛(
gb8895)だった。
「自分、いえ、私が身体からして変わる事になるとは‥‥まぁ折角ですし、楽しみましょうか」
飲兵衛の姿は小さい顔にロングのポニーテール、声がおっとりとしており、きっと元の姿と一緒に並んだら『親子?』といわれるような姿だった。
「‥‥しかし、着る物に困りますねぇ」
飲兵衛は男性なのだから女性用の服を持っているはずもなく、仕方なしにいつもの軍服をきたのだが‥‥男性だった自分と女性になった自分、体格があまりにも違うせいかぶかぶかである。
「ふむぅ、何が原因かは判りませぬが‥‥起こったことは仕方ないですよね♪」
飲兵衛は呟きながら朝食を食べ、自分のKVの格納庫へ向かう為に準備を始めたのだった。
「‥‥あわわわわわっ!」
Dat(
gb9035)は鏡に映った自分を見て、驚きの声をあげる。今日も一日楽しく過ごせるといいなー、なんて考えながら鏡を見た時に見たことのない人物が映っていれば誰だって慌てたくなるというものである。
「だ、誰‥‥? もしかして、ボク?」
痩せ型で小さな胸、普段より子供っぽい自分の顔は余計に少女らしさを醸し出しており「どうしよう」と何度も繰り返しながら呟いている。
そして同じ兵舎仲間のレインに電話をして「実は‥‥」と自分に起きている状況を説明する。するとレインにも同じ事が起きているという驚きの言葉が返ってきた。
「と、とりあえず外の様子を見ることにします‥‥」
茶色のTシャツを着て、帽子を被り、Datは外へと出て行ったのだった。
「‥‥な、なんだ、これは‥‥」
クラリス・ミルズ(
ga7278)は目の前にある光景を見て言葉を失う。朝、彼が起きると目の前には彼の妻が裸エプロン(ぱんつ着用)で立っていると思ったら女性化したクラリス自身だった。
「い、いったい俺は何をされたんだ‥‥? 頭がどうにかなりそうだ」
クラリスは頭をフル回転させて必死に状況を理解しようと頑張るのだが自分が女性化するなどという状況を即座に理解できるほどではない。
「声が高いと思ったら、まさか俺が女になっているとは‥‥しかしある意味ラッキー?」
ツインテールに裸エプロンの少女、しかし着用するものなんか持っていないため、ぶかぶかの洋服を着てだぶだぶの洋服を仕立て直すべく学園の裁縫科へと急いだのだった。
―― お裁縫、せくはら、鉄拳制裁、水泳、初夢だから何でもあり ――
「すみません。これ、もらえますか?」
あれからレインは市場をぶらぶらと回りながら買い物を楽しんでいた。
「‥‥なんだろう、さっきから凄く視線を感じるんだけど、そんなに変かな?」
買い物をしている間、レインは自分をちらちらと見る視線に気がついていた。しかしこれは『変』と思っているのではなく『可愛い』と思ってみられている事にレインは気がついていない。
そしてレインと同じく人目を惹きつけている紅鬼がいた。彼はレインと同じくショッピングを楽しんだり、甘いものを山ほど食べたりなどしていた。
(「まぁ、こういうことは滅多にないだろうし折角だから楽しませてもらうか」)
普段クールな彼が出来そうにない事をしており、何気に紅鬼はこの状況を楽しんでいるようにも見えた。
そして場所は変わってKVの格納庫、ここでは飲兵衛が自分のKVの清掃や調整を行っていた。しかし整備士ではないので本格的なものではなく簡単な事しか出来ないけれど。
「蛇蝎、何だかよく分からないけど‥‥何とかなるわよね」
自分のKVの愛称を呼びながら見上げ、そして呟く。
「ふぅ、こんな感じでいいかな? そろそろお腹も空いたし、お昼ご飯にしようかしら」
飲兵衛は大きく伸びをして格納庫を後にし、昼食を食べるために街へと繰り出したのだった。
「わ、わわっ! ご、ごめんなさいっ」
飲兵衛が街へ出て、昼食を何処で食べようかと悩んでいた時にDatとすれ違い様にぶつかってしまう。
「大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です‥‥」
Datは自分が女の子になってしまった恥ずかしさから帽子をずらして被っており、飲兵衛から表情は伺えない。
「そ、それじゃ‥‥」
Datは深く頭を下げてそのまま何処かへと行ってしまう。
「あ、此処にしようかな」
Datが立ち去った後、飲兵衛の視界に入ってきたのは甘味処、軽食も置いているらしく昼食を食べるにはちょうど良い場所だった。
それから飲兵衛は軽いサンドイッチとパフェを頼む。
「甘いものを周囲の目を気にせずに食べれるって良いわねぇ‥‥」
ぱくりと食べて幸せそうな顔をしながら飲兵衛は呟き、これからどうしようかな、と考える。
その時、飲兵衛の携帯電話が鳴り、知り合いのドラグーンも女性化した事を伝えてきた。嘆く相手に「とりあえず、どうにかなるのを待つしかないわよ」と言葉を返すと、学園に聴講生として来ないかと誘われた。
(「‥‥学園、か。このまま帰っても暇なだけだし‥‥行ってみようかな?」)
飲兵衛は昼食が済んだら行くとだけ伝えて電話を切ったのだった。
「このままじゃ着るものがなくなっちゃう」
だぶだぶの洋服を仕立て直す為に学園の裁縫科へ来たのはクラリスだった。そこにはフーノや柿原もいて、フーノは針に糸を通す作業に苦労していた。
「‥‥ダメだ、全然糸通らねぇ‥‥」
「教えてあげよっか? 困ってるみたいだし‥‥」
苦笑しながら柿原がフーノに話しかけ、手本として糸を通す作業を難なくやってみせる。
「す、すげぇな‥‥何でこんなモンできるんだ‥‥?」
糸が通った針と柿原とを交互に見比べながらフーノは目を瞬かせて呟く。
「僕も経験ないけど‥‥従姉妹のお姉さんのやり方知ってるから。意外と何とかなるものだね」
にっこりと柿原が呟くと「こ、これで経験ねぇのかよ」とフーノは驚きで目を丸くする。
一方、クラリスも洋服を仕立て直す為にきた筈なのに、何故かドジっ娘属性が発動して持って来た洋服は次々に見るも無残な姿となっていく。結局数時間を仕立てに費やしたけれど、仕立てに成功した洋服は一着もなく、女子生徒から制服を借りる事となった。
「し、下着だけは勘弁ね!」
「いや、普通に考えて下着は貸さないし」
冷静なツッコミにクラリスは「え〜ん、スースーするよう」と半べそでスカートの裾を押さえている。
そして昼休みを挟んだ後に午後は水泳を行う事になった。
「え‥‥ビキニなんて‥‥」
「申し訳ありませんがビキニはおいてません、着たければご自分で用意をお願いします」
売店のおばちゃんから言葉を返され、仕方なくクラリスはスクール水着を購入する。フーノや柿原もスクール水着を恥ずかしそうに購入している姿があった。
「若造よ! ワシのダイナマイツバディを拝むとええわい!」
水泳の時間になって現れたのは霧雨仙人、彼はきわどい水着を着用してセクシーポーズを取りながらプールサイドを歩き、男性たちの注目を浴びていた。
「ファファファ、美しさで注目を浴びるのはたまらんのう。病み付きになりそうじゃ、見るがええ、美人という原罪は見られるということで贖罪になるんじゃ」
霧雨仙人が男性たちの注目を浴びている中、他の能力者達は女子更衣室で水着に着替えている最中だった。
「女子更衣室に入るなんて‥‥こんな事になってなければ犯罪だよ」
レインはため息を吐きながら着替えを終わり、露出を抑えた白地に水色の入ったタンキニを着た。
「わぁ‥‥結構可愛い、かも?」
鏡の前でポーズを取るのは柿原。彼はスクール水着を着用しているのだが予想以上に似合っていることから更なる女の子スイッチが入った。
「ぶは‥‥俺は無理だ、水着を買ったけど無理だ」
フーノはぼたぼたと流れる鼻血を手で押さえながらジャージに着替え「俺、見学」と短く呟き、足早に女子更衣室を後にする。
「‥‥まさか、女の子用の水着を着る事になるとは‥‥」
Datは手にしたスクール水着を見ながら遠い目をして呟く。彼にとって水泳はほぼ初めてであり、初めての水泳がスクール水着着用なのである。
それぞれが着替えを終わった後、水泳を開始する。
「ん〜、この豊満な感じがイイネ! 最高アルヨ!」
水の中に入ろうとした瞬間、セクハラの為に潜んでいた長門が現れて能力者達の胸を触りまくっている。
「ん〜。ちょっと成長具合が足りないアルネ。でもそれがいいアルヨ!」
きゃあきゃあと甲高い声が飛び交う中、プール横の道を通っていた神咲は「ふぅ‥‥」と楽しそうな(実際は逃げ回っているけれど)様子を見てため息を吐く。
「うらやましい‥‥何も考えないで遊んでいたいよ‥‥」
しかし神咲は知らない。現在、長門によってセクハラ真っ最中だと言うことを。
「いやぁぁぁん、折角女の子になったのに彼氏に成ってくれそうな人がいないわぁ!」
「それならまだいいじゃないか、俺なんか何時もの格好が出来ないんだぞ!」
神咲は帰り道、変なもの(主に鵺と大石)を見てげんなりとして家に到着したのだった。
「ん? 何だか騒がしいな――ったく肩が凝るな‥‥なんでこんな体型なのやら。もうちっと動きやすくならねーのか」
肩を叩きながらブレイズは呟き、プールでの騒ぎを目にする。
「確かに‥‥ですが被害は結構大きいみたいですね、なんと不純な‥‥っ!」
メビウス達も色々な場所を回ってきたけれど、女性化している男性が多く、今のところまだ原因も何も分かっていない。
そして長門がセクハラ真っ最中な姿を見て「不埒な奴め!」と叫びながらフェンスを越えて長門に鉄拳制裁を行う。
「ぐはぁっ!」
長門は鉄拳制裁を受けて派手に吹っ飛び、プールに平和が訪れたのだった。
「やはり、バグアの仕業でしょうか? にしては随分と遠回しな攻撃だ‥‥」
メビウスは呟きブレイズと共に再び捜査を開始したのだった。
「さて、泳ぎましょうか‥‥」
長門が強制退去させられた後、レインが呟き水の中へと入る。
「外が暑いから気持ちいい‥‥」
クロールや背泳ぎをしながらレインは気持ち良さそうに泳いでいるのだが「ちょ、ちょっと待ってください」とDatがばしゃばしゃと追いかけてきている。
「う‥‥わぁっ‥‥!」
ろくに準備運動もせずに水の中に入ってしまったせいか、Datは足が攣ってしまい水の中へと落ちていく。
「大丈夫か!?」
そんなDatの姿を見てプールサイドで見学していたフーノが慌てて水の中に入り、Datを救出する。
「おい、しっかりしろ! 水吐け、水!」
助け出した後、フーノが大きな声でDatに叫び「げほっ」とむせながらも飲み込んだ水をDatは吐き出し、フーノも一安心して座り込んだのだった。
「あぶねぇなぁ‥‥」
「す、すみません‥‥」
ぺこぺこと頭を何度も下げながらDatはフーノにお礼と謝罪をいい、初心者コースの方へといって練習をする事にしたのだった。
「ねぇ、どうして泳がないの?」
Datを助けた後、先ほどと同じようにプールサイドへと腰を下ろしたフーノを見て柿原が言葉を投げかけた。
「いや、別に俺の事は気にしないでいいから泳いで来いよ」
苦笑しながらフーノが言葉を返すと「フーノ、折角女の子なんだよ?」と言って柿原はフーノの手を引っ張って水の中へと引きずり込んだ。
「ちょっ! 何す「それにこんなに可愛いのにさ‥‥受け入れようよ」耳もとで話すなっ!」
ぎゅー、と柿原はフーノに抱きつきながら耳元で話しかけ「あは、照れてる」と笑いながら言葉を返した。
そして他の能力者達が楽しんでいる時に霧雨仙人は「わし、お腹が減ったんじゃけど食事でもご一緒いただけせんかのう?」と金持ちの男子生徒に話しかけていた。現在の霧雨仙人は超絶美少女、こんな美少女に誘われて断る男性など存在せず、男子生徒はにやけた顔をしながら霧雨仙人と一緒にプールから出て行ったのだった。
「活気に満ち溢れていますねぇ、何だか私も元気を貰ったように思えるわ」
飲兵衛はプールで騒ぐみんなの姿を見ながらポツリと呟いた。
「泳がないんですか?」
プールサイドでぼーっとしている飲兵衛にレインが話しかけると「えぇ、私は見学しておこうと思って」と飲兵衛は言葉を返してきた。
「私の事は気にせず泳いできていいわよ」
にっこりと笑うと「そう、ですか?」とレインが言葉を返し、再び潜って泳ぎだした。
「Datさん、一緒に遊びましょう」
レインがDatに話しかけると「い、今こそ練習の成果を見せるときですねっ」と言葉を返してレインの所へと泳いで向かう。
それからプールで遊んでいる能力者達は空が橙色になるまで遊んでいた――というところで夢は終わったのだった。
―― 全ては夢 ――
「最悪の片鱗を味わったぜ‥‥」
そう呟きながら起き上がるのはクラリス、しかし満更でもないような表情をしているのは気のせいだろうか。
「変な夢、見たなぁ‥‥っつーか、夢の中でとはいえ女になるなんてな。とりあえず、もう一眠りするか」
ふあ、と欠伸をした後ブレイズは再びベッドの上へと舞い戻って夢の中へと戻っていった。
「はて、夢か‥‥せっかく美人になれたと思ったのにのう‥‥」
霧雨仙人は少し残念そうに呟き「折角夢の中でミツグ君を捕まえたというのに‥‥」と言葉を付け足したのだった。
「さっきのは夢か‥‥でも夢で本当に良かった‥‥」
とろんとした表情のままレインは呟き、元に戻れたことを心から喜ぶ。
「とりあえず、紅茶でも飲もう」
レインはベッドから降りると、目を覚ますための紅茶を淹れはじめたのだった。
「夢の中の事とは言え、楽しかったな‥‥」
柿原も眠たそうな目を擦りながら呟き、ベッドから降りる。
「姉さんに話したら、笑われるかな?」
そんな事を呟きながら柿原の一日は始まっていくのだった。
「‥‥ッ! 今のは‥‥夢だったのか? 実に奇妙な夢だった‥‥」
メビウスは勢いよく起き上がりながら自分の体がちゃんと男に戻っていることを確かめ、安堵のため息を吐く。
「しかし、夢の中の出来事とはいえ、一体何が原因であんなことに‥‥」
うーん、と考え込むのだがさっぱり見当もつかず気になる事が1つ無駄に増えただけだった。
「‥‥‥‥夢、か」
少しだけ残念そうな声を出すのは水無月だった。夢の中であれから彼はバーで歌を披露し、拍手喝采の中で目を覚ましてしまった。
それゆえに『男に戻れてよかった』というより『残念だ』という気持ちの方が強いのだろう。
「まぁ、夢の中の事だしな、気にしても仕方ないか」
水無月は欠伸を噛み殺しながら1日の準備を始めたのだった。
「‥‥何か、痛い気がする」
頬をさすりながら長門は目を覚まし、夢の中でセクハラをしまくったことを思い出して顔をニヤけさせる。
それと同時に鉄拳制裁の記憶も蘇り「‥‥マトモが一番かも」と呟いたのだった。
「やっぱり夢か‥‥夢でよかった」
ベッドの中、見慣れた体に安堵して神咲は心から喜ぶ。
「それにしても初夢があんなのなんて最悪だよ〜‥‥」
はぁ、とため息を吐きながら神咲は着替えを始めたのだった。
「どうすんだよ、この服の山――‥‥山?」
寝言を言いながら起きたのはフーノ。しかし起き上がってみると見慣れた景色に慣れたからだ、全てが夢だったことを悟ると「はぁ〜〜」と大きなため息を吐いた。
「そうだよな、いくらなんでも女になるって夢じゃないとありえないよな」
うし、と呟きながらフーノは元気よくベッドから降りて朝ご飯を食べ始めたのだった。
「‥‥夢、か」
紅鬼はいつも通りの見慣れた天井を見ながらポツリと呟いた。起き上がって鏡で自分を見て見ればいつも通りの体、もちろん胸なんてある筈もない。
「‥‥‥‥」
紅鬼は夢だったことを少しだけ残念に思いながらも、やはり男に戻れてよかったと安堵のため息を漏らし、いつもと変わりない日常に戻っていくのだった。
「あらら‥‥夢、ですか」
飲兵衛は目を擦りながら夢の中の事を思い出して苦笑する。
「まぁ、夢の中とはいえ楽しかったからそれでいいんですけど‥‥」
欠伸をしながら「もう少し寝ます」と呟いてコテンとベッドに倒れていったのだった。
「初めての水泳が夢の中、し、しかも溺れるなんてリアルすぎです‥‥」
Datは目を覚ました後、自分の体を見てちゃんと男に戻ってることを確認すると安心したように呟いた。
「で、でも何があるか分からないですし‥‥次に泳ぐ時はちゃんと準備運動してから泳ごう‥‥」
夢の中の出来事を思い出し「もう溺れるのは嫌ですしね」と言葉を付け足したのだった。
END