●リプレイ本文
― 新年を迎えても魔王は魔王 ―
「早く届かないかな〜♪」
珍しくご機嫌なのはもやし魔王ことキルメリア・シュプール(gz0278)だった。恐らく発注しているマシーンの事を考えてご機嫌なのだろう。恐ろしい。
(「はわわ‥‥新年早々イヤー(嫌)なお迎えは勘弁して欲しいのですー‥‥その前に特注ましーんってなんですかー」)
キリーと母親のやり取りを見ていたのか土方伊織(
ga4771)が心の中で呟く。
「毎度毎度やられないにゃー!」
登場と同時にキリーにピコハンの一撃を食らわすのはしっと団総帥の白虎(
ga9191)だった。ちなみに軽くピコッと一撃な辺りが彼のキリーの対する甘さが滲み出ている。
「キリーお姉ちゃんは変わらないようだが、この僕は日々進化を続けてい‥‥る‥‥」
白虎の言葉が強く続かなかったのは、たとえ軽くでも一撃を食らわされた事によってご機嫌だったキリーが魔王モードに突入したからだろう。
「進化ねぇ、更なる進化を遂げるために今生を終えるという選択もあるんじゃない? むしろ終えろ」
白虎の頭をばしばしと(拳骨で)殴りながらキリーが先ほどの仕返しをする。ちなみにキリーが受けたダメージは現在白虎に与えているダメージの十分の一にも満たない程だという事を告げておこう。
「相変わらずなんだなぁ‥‥キリーは‥‥」
苦笑しながらキリーと白虎のやり取りを温かく見守るのは神撫(
gb0167)だった。ここで助けて欲しいと白虎の視線が訴えているのはきっと気のせいなので彼は温かく、時に生温く見守ることにしたのだ。
「あけましておめでとう、キリー。今年も宜しくね」
白虎への攻撃を終えたキリーを後ろから抱きしめながら新年の挨拶をするのは、キリーから『せくはら魔』として呼ばれている神咲 刹那(
gb5472)だった。
「何抱きついてんのよ! っていうか宜しくなんてしたくないわよ!」
「ええい! 離れるにゃー!」
白虎は100tハンマーをフルスイングしながら神咲をキリーから引き離そうとするのだが、彼は気づいていない。もしこれで白虎の攻撃が当たったらキリーにも被害が及ぶという事に。
「相変わらずですね、そろそろ離れないと怒りますよ?」
冴木美雲(
gb5758)が苦笑しながら神咲に話しかけると「うん? ミクモさんもこうしてほしかった?」と神咲が言葉を返す。
「‥‥‥‥ぶっ殺しますよ?」
黒い笑顔のまま冴木が言葉を返し「殺れ」とキリーは親指を下に向けながら言葉を投げかけたのだった。
「あはは、殺されちゃ適わないから離れる事にするよ」
神咲がキリーから離れた時「こんにちは、今回は宜しく「宜しくしたくないわよ」‥‥そうだね」とファブニール(
gb4785)が言葉を投げかけて、清々しいくらいにばっさりと斬り落とされている。
(「何か気分は我が子を見守るお父さん? 構って欲しいからツンとした態度を取るんだろうなぁ‥‥何でも許せそうだ」)
ファブニールはキリーを見ながら心の中で呟く。キリーのあんな態度を見て『何でも許せそう』という彼はもしかしたら『どえむ』なのかもしれない。
「あんた誰よ。さっさと3秒以内に名乗りなさいよね。ヘタレ」
キリーが視線を向けたのは初めて会う2人、ヨネモトタケシ(
gb0843)と絶斗(
ga9337)だった。
「そういえば初見でしたねぇ‥‥自分はヨネモトと申しま「ヨネコね、別に宜しくしたくないけど仕方ないからしてあげる」‥‥ありがたいですなぁ」
普通ならば怒られてもおかしくないキリーの態度にもヨネモトは紳士な態度で言葉を返す。
「絶斗だ‥‥宜しく頼「宜しく頼むってんならそれなりの態度見せなさいよね、ヘタレ」‥‥はぁ」
絶斗は基本的にキリーの毒舌はスルーなようで、小さなため息を吐いて言葉を返す事はしなかった。
「とりあえず、こうしてるのも楽しいけどキメラ退治に向かおうか」
ファブニールが呟き、能力者達はキメラが潜む森へと出発したのだった。
― 魔王の攻撃を避けろ、キメラを見つけ出せ ―
「さて、今日のキメラはどんなキメラなんだろうね。キリーは何か知ってる?」
キメラがいるとされている森に到着して、能力者達は森の中を索敵する事にした。その途中で神咲がキリーへと話し掛けるのだが‥‥。
「資料くらい読みなさいよ。その目ン玉は飾りなわけ?」
このようにばっさりと斬られてしまう。
(「今回のキメラ‥‥はわわ、巨大なミミズっぽいキメラですか‥‥ぬめぬめしてそうな敵さんなのですよー‥‥」)
土方は資料に書いてあった事を思い出しながら『わんこはミミズを食べません、わんこは食べないのです』とキリーからこの事に触れられない事を祈るばかりだった。
(「ぼ、僕だけ‥‥僕1人でセクハラ魔の手からキリーお姉ちゃんを守り通せるだろうか‥‥ええい、守り通さねば!」)
白虎は心の中で葛藤するが、つい先ほど守れなかった事は忘れている。
「噂に違わぬお嬢さんなのですなぁ」
ヨネモトが後ろを歩くキリーをちらりと見ながら独り言のように呟く。
「何見てンのよ、ヨネコ。ちゃんと前見て歩きなさいよね。基本でしょ」
「まぁ‥‥あの子のアレはいつも通りだから気にしない方がいいよ」
苦笑しながら神撫がキリーの毒舌・初被害に対して言葉を投げかける。
「いやいや、気になどしてないのですなぁ」
「俺も‥‥気にしていない‥‥」
ヨネモトと絶斗はそれぞれ言葉を返すと「それならいいんだけど‥‥ちなみにあの子は戦力として数えない方がいいよ」と神撫が言葉を付け足した。
「白虎くん、美雲も数えていいか怪しいかなぁ‥‥まぁ、他がちゃんとすれば大丈夫だろうけど、上手く連携取れるようにするから頑張ろうね」
きっと最後の砦はこの3人とファブニールを合わせて合計で4人なのだろう。ここが崩されればきっとキメラ退治は失敗する。
「はわわ‥‥そこに何故僕も入れてくれないのですかー‥‥」
密かに3人の会話を聞いていた土方が少しだけ切なくなったのは言うまでも無い。
「荷物持ってあげようか?」
キリーが背中に背負っている何が入っているのかと聞きたくなるくらいにぱんぱんに膨れ上がったうさぎのリュックを見てファブニールが問いかける。
「何よ、もしかして私の荷物を持って匂いでもすーはーすーはー吸おうって言うのね、変態」
「あはは、そんな事はしないよ。するんだったら直接言うよ」
言うのか!? ファブニールの発言に全能力者が驚いたがあえて口にする事は無かった。
「まぁ、いいわ。持たせてあげるから七代先まで感謝しなさい」
そう偉そうに呟くとリュックをファブニールへと渡したのだった。
(「よし、この隙に‥‥」)
「それにしても薄暗い森ですね〜、気をつけないとコケちゃいそう‥‥わぁっ」
自分で言ったばかりなのにコケる冴木、しかし彼女に傷はない――なぜなら。
「危なかったぁ‥‥「ちょっと、人をクッションにして『危なかった』はないでしょ」
あれ? 何でそんな所にいるんですか?」
「あんたのせいよ! 何であんたとはいつも話がかみ合わないのよ!」
ぎゃあぎゃあと喚くキリーだったが、ふいにその声も止まる。それと同時に能力者達の表情も険しくなった。
その理由は、ずるずると気持ちの悪い音をたてながら探していたキメラが此方へと向かってきていたからだ。
「うぅ‥‥気持ち悪いキメラですね‥‥」
冴木が嫌悪感を出しながら呟き武器を手に取る。
「さて‥‥行くか‥‥」
絶斗は愛用の斧剣を構えながら呟き、自分の攻撃範囲に入るのを待つ。
「さて、自分も行きますかなぁ「さっさと行きなさいよね、ヨネコ! ‥‥いたぁ!」だ、大丈夫ですかなぁ?」
キリーがヨネモトの足を蹴ったのだが重装甲の為、逆に痛い目を見る羽目になった。
「覚えてなさいよ! ヨネコ!」
「‥‥自分は何もしていない、筈なのですがなぁ?」
苦笑しながら武器を構えて呟く。
「さ〜て、今回は見た目がちょっとあれだから‥‥こっちで勝負かな」
神咲は両手に銃を持ち、キメラを狙い撃つ。
「キリーは後方だから、前線メンバーで半包囲を展開すればいいかな」
神撫も覚醒を行いながら呟き、足手まとい‥‥もといキリーが前線に出てこないように祈る。
「待ってーですよー。僕も最後の砦に入れてですよー」
土方も愛用のトンファーを構えながら駆けていく。
(「にゅー、セクハラ魔が何か妙な動きをすれば例え戦闘中であろうともカキーンとさよならホームランでバイバイなのにゃ‥‥というか大事を取って何も起こらないうちに倒しておいた方がいいかにゃー」)
白虎の敵はキメラではなくセクハラ魔のようだ。
「キリーさん、私の後ろに下がっていてください!」
「言われなくても下がってるし、私の無事を願うなら何もしないで」
しかしこれで話が通じないのが天然な冴木である。
「見るに耐えん姿だ‥‥早々に退場してもらうぞ」
絶斗は斧剣を振り上げ、無謀な突撃を行う――が、その行動はヨネモトの行動をカバーする為のものだった。
「我流‥‥流双刃!」
絶斗の攻撃がキメラを僅かに足止めし、動きが止まった瞬間を狙ってヨネモトが攻撃を仕掛ける。
「絶斗さん、俺が攻撃した後に攻撃をお願いするよ」
神撫はヨネモトが攻撃した後、交代するように前へと出る。
「‥‥了解‥‥」
絶斗は神撫が攻撃し終わるのを武器を構えながら待つ。しかし神撫の攻撃が終わった後にキメラがまるで突進でもするかのように勢いよく此方へとやってくる。
「わっ‥‥気持ち悪いからこっち来ないで欲しいんだけどなー」
神咲も銃での攻撃を行いながら少しだけ表情を歪める。
「キリーさん、危ない!」
冴木がキリーを助けようと突き飛ばした、そう、敵の方に。
「美雲ー!! あんた実はこのキメラの仲間でしょう! そうなのね! 強化人間!? それともヨリシロ!? これでマトモだって言うなら世の中のドジ属性の人に謝りなさい!」
「‥‥なんでキリーが出てくるの「私の意志じゃないわよ!」‥‥とりあえず白虎君、助けに行くよ」
1人だけキメラの方に向かうのは嫌、そう考えたキリーは冴木を道連れにキメラに締め付けられてしまう。
「あうぅ‥‥助けてください」
「美雲、まず助かったら私は1つだけやりたい事があるの。あんたのほっぺたがおたふく風邪みたいになるまで往復びんたする事よ」
キリーの言葉に「えぇ‥‥」と冴木にとっては助かっても助からなくてもあまり状況が変わらないような事態になってしまう。
「2人が捕まっていれば、下手な攻撃は出来ませんね‥‥」
ファブニールが捕まった2人を見ながら呟く。確かにこのまま下手に攻撃してしまえば2人に被害が行く。仮に冴木は許してくれたとしてもキリーに攻撃が行こうものならば七代先までねちねちと言われるに違いない。
「はわわ、だからあんまり頑張って欲しくなかったですー‥‥自業自得ですよー」
土方は呟きながら2人に攻撃が行かないようにスキルを使用しながらかっこよく攻撃を行う。土方の攻撃によってキメラの締め付けが緩み、2人は解放されたのだが‥‥かっこよく攻撃を決めた土方に文句があるのか「わんこのくせに」とお礼ではなく罵倒の言葉を投げかけたのだった。
「きゃああ!」
解放されて喜んだのもつかの間、キメラの攻撃がキリーに向かい、腕をかまれてしまう。
「あらら‥‥体が動かないみたいだね。こういう時って王子様のキスが必要とか‥‥「んなわけあるかぁぁぁ!」なんだ、やらないの?」
途中で白虎のツッコミが入り、白虎はキリーをずるずると引きずって後方へと下がった。
「とりあえず‥‥倒していいのか‥‥?」
キメラ自身の強さはお世辞にも高いとは言えず、油断さえしなければ問題なく勝てる相手だったため、絶斗が呟く。
「さっさと倒してしまおう、これ以上余計な被害はごめんだからね」
神撫は苦笑しながら呟くと「それじゃ、いきますかなぁ」とヨネモトと共に攻撃を繰り出す。
「怒涛の流れ‥‥流双刃『激』!」
ヨネモトがキメラの側面から攻撃を仕掛け、絶斗はヨネモトが側面に回るのをキメラに気づかれぬように真正面から攻撃、そして神撫は締め付けようとしてくるキメラの攻撃を避けながら背後から攻撃を仕掛け、無事にキメラ退治を終えたのだった。
― 全ては魔王様の為に ―
「ねぇ、そろそろバッグ返しなさいよ。青はぶー」
手を差し出しながらキリーが呟く。
「‥‥青はぶー?」
「あんた『はぶにーる』でしょ? 戦闘のとき青かったから『青はぶー』よ」
「いや、ファブニー「私の言う事に文句があるわけ?」‥‥ナイデス」
戦闘が終わり、高速艇へと向かう途中でファブニールとキリーのこんなやり取りがあった。そのバッグの中にファブニールがこっそりと渡しそびれていた誕生日プレゼントが入っているという事も知らずに。
「そういえば、キリーさん。忍者屋敷はどうなってるです? やばいあとらくしょんになってないです?」
土方が恐る恐る問いかけると「イイ感じにヤバくなってるみたいよ」とキリーの満面の笑みと共に言葉が返ってくる。
「お姉ちゃん、怪我は大丈夫かにゃ? 女の子なんだから傷が残ると「目指せ! LH!」にゅああああ‥‥」
何故か白虎がキリーの心配をするという真面目行動をしていると絶斗の『総帥☆ホームラン』が炸裂する。
「せくはら魔がいるのに飛んでられるかー!」
スキルを使用して白虎は帰ってくるのだが「何してんのよ」とキリーからの心配の欠片もない言葉に少しだけ泣きたくなったのだった。
「でも皆さん、あまり大きな怪我がなくてよかったですね! キリーさんも大丈夫ですか?」
「‥‥自分はヨネモトですがぁ」
「あんたの中で私はどういう風に写ってるのよ!?」
ばしっ、と痛そうな音をたてて殴られたのは神咲の背中。勿論不意打ちで食らってしまったので神咲は前のめりになってコケてしまう。
「ちょっとキリー、酷いよ。何もない所で転ばせないでよね‥‥ミクモさんみたいになったらどうするのさ」
神咲の言葉に「‥‥なんですか? 刹那さん」と黒い笑顔で冴木が神咲に言葉を返し、能力者たちは本部へと帰還していったのだった。
「何これ‥‥」
自宅に到着してからキリーはバッグの中に見慣れぬものが入っている事に気づく。
『遅ればせながら誕生日プレゼントを。中身は桃色天然石ストラップ! これで気になる彼の心も‥‥?』
「何処の通信販売員よ、あんたは」
手紙にツッコミを入れながら文面を読んでいくと下に『P・S』とかかれて言葉が続けられていた。
『皆はキミがどんなに振舞おうと本当の気持ちに気づいていると思うよ。これからも愛らしいキミを貫いてね。プレゼント忘れちゃっててごめんね〜』
しかしそれが誰からの物なのかキリーは知らない。なぜなら手紙にもプレゼントが入った箱にも差出人はかかれていなかったのだから。
END