●リプレイ本文
―― キメラ退治の為に集められた能力者達 ――
キメラによって2人の子供が殺された、そして能力者達にキメラ退治の依頼がやってきた。
「‥‥公園に住み着いちゃったのかぁ‥‥寂しかったのかもしれないけど‥‥」
アリシア(
gb9893)は少しだけ俯きながら「でも‥‥倒さなくちゃいけないんだよね‥‥」と言葉を付け足した。
例えキメラであろうと『命を奪う』という行為に対して割り切れない部分があるのだろう。
「‥‥何か思う所はあるだろうが、後にしろ。今はキメラを倒すことだけに集中しろ」
須佐 武流(
ga1461)がアリシアに話し掛けると「‥‥分かってます」とアリシアは言葉を返す。
「今回は子供型のキメラか‥‥」
藤村 瑠亥(
ga3862)が資料を見ながら呟く。だけど『子供の姿』だからと言って彼に躊躇う気持ちはなかった。既に2人の子供を殺しているのだから。
(「子供の姿のキメラ‥‥戦いにくいけど、心を鬼にして対処しなきゃね」)
ドリル(
gb2538)は心の中で呟き、小さなため息を漏らした。
「幼い子供を殺して‥‥許せない」
橘川 海(
gb4179)は拳を強く握り締めながら震える声で呟いた。今回彼女は藤村と共に囮役をするため、赤いリボンで髪を纏めた普通の少女の服装で来ていた。
「これは預かっておくわね」
カンタレラ(
gb9927)が橘川のAU−KVと棍棒を預かりながら話し掛ける。囮をする際、武器などを持つわけにも行かないのでカンタレラが一時預かる事にしていたのだ。
「お願いします」
橘川は丁寧に頭を下げながらカンタレラへと預ける。
「きにいらねぇ」
ぐしゃりと資料を握り締めながら呟くのはラグナ=カルネージ(
gb6706)だった。人を殺して当然――とでもいうかのような残虐ぶりを見せるキメラ、そしてバグアが許せないのだろう。言葉遣いなどで悪い方に誤解されがちの彼だが、今回も殺された子供達の両親の為に任務に参加したという優しい心の持ち主だった。
「外見が日本人形みたいな子供キメラか――とりあえず勝手気ままに暴れるお人形ちゃん退治だな」
世史元 兄(
gc0520)が大きく伸びをしながら呟き、能力者達はキメラを退治すべく高速艇に乗って現場へと向かっていったのだった。
―― 静かな公園に佇む鮮血の剣 ――
普通ならば子供達が遊ぶ声、母親達が井戸端会議のようにお喋りをしている公園。だけどキメラが現れて、子供が殺されるという事件が起きてからは遊びに来るものはいない。
藤村と橘川は囮として公園内に一般人を装って行き、それ以外の能力者達はキメラに気づかれないように、そして逃げられないようにそれぞれが考えて待機する。
「‥‥あまり、囮と離れすぎてもな」
須佐が小さな声で呟く。囮がキメラを引き付けた時に攻撃を仕掛けるという作戦を立てているので、囮から離れすぎると攻撃するまでに多少の差が出てしまう為、待機している意味がなくなってしまうからだろう。
「折角見つけても逃げられちゃ意味がないからね、キメラから死角になる場所と同時にボク達にとって死角になる場所も見つけて気をつけておかないと‥‥」
ドリルが双眼鏡を使って公園内を見渡す。公園の遊具は派手に壊れたものもあり、キメラによってどれだけの人が恐怖に見舞われたのだろう、それを考えるとドリルは居た堪れない気持ちになった。
「こういう公園で今の時間に誰も遊んでないっていうのも、結構不気味なもんだな」
世史元が公園を見渡しながら呟く。
「キメラを退治したら、きっとまた子供達が遊ぶ楽しい場所に変わると思うの」
アリシアが呟く。キメラがいるために今は誰もいない公園、だからキメラを倒せばまた活気のある公園へと戻るだろうと考えたのだ。
(「そのためには‥‥キメラを倒さなくちゃいけないの‥‥」)
やはりキメラを退治する――という事に僅かにためらいを見せていた。
「キメラ――まだ姿を現さねぇな」
ラグナは囮役の藤村と橘川の周りを見る、しかしまだキメラが姿を現す気配はなかった。
そんな中、カンタレラはキメラに気をつけながらも心の中では別の事を考えていた。
(「あの子‥‥無茶、しなきゃいいんだけど‥‥」)
橘川から預かったAU−KVを見ながらため息混じりに呟く。家族でも、小隊仲間でもないけれど『守りたい』という気持ちに駆られており、カンタレラ自身も違和感を感じていた。
そして――囮の2人はといえば‥‥。
「なかなか現れないものだな」
藤村は公園の中を見渡しながら呟く。ひっそりとした公園の中、キメラはまだ姿を現さない。何処からか見ているのか、やけにシンとしているのが能力者たちに妙な緊張感を与えていた。
「‥‥‥‥」
橘川は拳を震わせて、その瞳に涙を滲ませていた。子供を奪われた両親の事を考えたからだろう。
ゆるせない、橘川が呟いた時――がらがらと赤い剣を引きずりながら少女が藤村と橘川の方へとゆっくりと歩いてきていた。
その表情には子供らしさは感じられず、獲物を見つけて喜ぶ獣のような表情だった。
「その剣で‥‥」
橘川はキッと強くキメラを睨みつけて「それを、残すわけにはいきませんっ!」と赤い剣を見ながら叫んだ。
「ようやく現れたか、手間を掛けさせる‥‥」
藤村が呟き、コートの中に隠していた小太刀で攻撃を仕掛ける。そして囮を襲う瞬間に攻撃を仕掛けようとしていた須佐が出遅れ、藤村が攻撃を仕掛けて下がった後にライフルで攻撃を仕掛けた。
しかしキメラは橘川に向けて剣を投げて攻撃を仕掛けてきて、僅かに動作の遅れた橘川は防御する事が出来なかった。
「――っ!」
攻撃を受ける、そう思った時に橘川のAU−KVを走らせてカンタレラが割って入ってくる。そしてエンジェルシールドでキメラの攻撃から橘川を守った。
「‥‥無事ですか?」
カンタレラが問いかけると「はい、ありがとうございます」と丁寧に言葉を返す。そんな橘川を見て戦闘からも悲しみからも守らなくちゃ、という思いにカンタレラは駆られる。
「人形は人形らしく大人しくしてなよ、子供がトラウマになるだろうが!」
世史元が壱式を振り上げながらキメラへと攻撃を仕掛ける。キメラは日本人形のような髪を靡かせて世史元の攻撃を避けた。
しかしドリルが隠しておいたAU−KVを装着し、スキルを使用して真デヴァステイターをキメラへと向けて攻撃する。その攻撃は前衛で戦う能力者達の援護となり、キメラを足止めする事にも成功していた。
「気に入らねーんだよ! てめーみたいにさも殺して当然みてーなツラしてるやつァよ!」
ラグナは叫びながらスキルを使用して攻撃を仕掛ける。キメラの武器も大剣、もともとの力量がそれなりにあるのか、キメラは剣を盾にし、足が地面にめり込んでもその場から動く事なくラグナの攻撃に耐えて、終わると同時に剣を簡単に振り回して攻撃をし返す。
「大丈夫?」
アリシアがラグナに言葉を投げかけ、スキルを使用して治療を施す。そしてアリシアは視線をキメラへと向けて「‥‥ごめんなさい‥‥あなたを倒さなきゃいけないの」と言葉を付け足し、スキルを使い能力者達の武器を強化した。
「ッあああああッ!」
橘川はAU−KVを装着した後、キメラが攻撃を仕掛けてきたにも関わらず攻撃を避ける動作を行わない。それどころか手にした棍棒でキメラの大剣を受け止める。
(「この剣には‥‥負けたくないッ」)
激しい衝撃に耐えるかのように橘川は大きく叫び、スキルを使用しながらキメラと大剣ごと押し返した。
そこを須佐が背後から攻撃を仕掛け、橘川も手数の多さで勝負を仕掛ける。
「逃げる隙など与えん‥‥っ!」
藤村がスキルを使用してキメラとの距離を詰め、攻撃を仕掛ける。
「たとえ、今のあなたが泣いて命乞いをしてきてもボク達は許せそうにないよ――‥‥逆に嫌悪している。子供を殺したあなたが、子供の姿をしている事に」
ドリルは呟き真デヴァステイターで射撃を行いながら呟く。いかに扱いなれているとはいえ、大剣を扱うには多少の時間が掛かる。僅かな時間だけれど、それがキメラにとっては命取りになるには十分な時間だった。
「行くぜ‥‥俺の必殺技! ‥‥クリムゾン・ディバイダァァァ!」
ラグナは自らの必殺技を繰り出し、その後に続いて世史元が攻撃を仕掛ける。しかし既に攻撃態勢に入っていたキメラは世史元の攻撃に耐えた後、鋭い一撃を世史元へと仕掛けた。
「痛ってー、流石に半端ないね〜あの剣」
咄嗟に世史元は壱式で防御するけれど、衝撃全てを殺すことは出来ずに近くの遊具に叩きつけられてしまう。
しかしまだマシな方なのだろう、咄嗟の行動がなければ大怪我を負っていたのだから。
「何か、今日の私は少し変なのよね‥‥だから、楽に死ねると思わないでね」
カンタレラは誰にも聞こえないような小さな声で呟き、キメラからの攻撃を避ける事もせずに機械剣を思い切り振り下ろした。
そして須佐の連続蹴りが炸裂し、蹴りによって吹き飛ばされたキメラを追いかけ、再び蹴りで叩き落す。
倒れた隙を突いて藤村が逃げられないように足などを切断する、公園中に悲痛な声が響き渡る。
「お前が殺した子供もそうやって泣き叫んだんだろうな、死にたくないと願って」
しかし藤村はキメラの泣き叫ぶ声を聴いても眉一つ動かすことなく攻撃を続ける。
「これ以上、その大剣で傷一つつけることは許しません!」
橘川は叫びながらスキルを使用し、キメラではなく大剣に攻撃を仕掛ける。すると赤い大剣はばきばきとヒビが入って、ばきん、と音を立てて二つに折れてしまった。
そして武器を失ったキメラに能力者達はそれぞれ攻撃を仕掛ける。
「バイバイ‥‥次はお友達になれるといいね‥‥」
キメラが倒される瞬間、アリシアが悲しそうに呟いた。
―― 赤き剣折れて、キメラ墜ちる ――
「‥‥すまんな、急だったので今日は何も持ってきていない‥‥レクイエムでも‥‥聞かせてやりたかったのだけどな」
子供達が殺された場所の前に立ち、須佐がポツリと申し訳なさそうに呟いた後に空を仰ぐ。
「子供達の命なんか取りよって‥‥取るんならうちらから先に取りに来いって」
世史元はキメラの死体を見ながら小さく呟いた。
そしてキメラを退治したことを子供達の父親がいる家へと能力者達は報告に行く。
「‥‥そう、ですか‥‥ありがとうございます‥‥だけど」
父親は子供達の遺影に視線を移しながら「キメラが死んでも、あの子たちは帰ってこない」と寂しそうに小さく言葉を付け足した。
そんな父親の姿を見て橘川はかける言葉が見つからなかった。キメラによって最愛の子供達を失い、そのせいで奥さんは病院に入院する羽目になった。
キメラさえいなければ今も幸せな家族だっただろうに。今は気を張っていてもいつか崩れてしまう、そんな気持ちが橘川の中にあった。
「‥‥せめてもの手向けだ、成仏しな‥‥」
子供達の遺影に手を合わせながらラグナが呟く。
「‥‥大丈夫よ」
カンタレラは橘川の頭を撫でながら、少しでも彼女の中に溜まってしまった悲しみが癒えればいいと心の中で呟く。
その後、父親に報告を終えた能力者達は本部に報告する為にLHへと帰還した。
しかし、橘川だけはその後も父親の元へといって母親のところに一緒にお見舞いに行っていた。
亡くしたものは戻らない、彼女はそれを知っていたけれど放っておくのはもっとつらいから、と彼女は後日語るのだった。
END