タイトル:春ノ風マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/15 23:47

●オープニング本文


それは突然吹く。

それは人を傷つける邪風――‥‥。

※※※

「突風?」

小さな町で1体のキメラが現れたという情報があった。

強い風を巻き起こすキメラで死者こそ出ていないけれど十数名の怪我人が出ているらしい。

「突風っていわれてもな、どんな感じなんだよ」

男性能力者が資料を見ながら呟くと「別に風を操るとかじゃないみたいよ」と女性能力者が言葉を返した。

「夏場に暑かったら団扇で扇いだりするでしょう? あんな感じで風を巻き起こしてくるみたい――それだけの風を巻き起こすのだから力は結構強いんでしょうね」

女性能力者の言葉に「へぇ、こんな子供の形をしたキメラがねぇ」と男性能力者は資料にある写真を見る。

そこには住人が撮った写真があり、ぼやけてはいるけれど12、3歳くらいの少年が写っていた。

「その町、結構被害が大きいのよね」

「へ? でも怪我人だけって‥‥資料見る限り、重傷者はいるけどさ」

「その次の写真見て見なさいよ」

女性能力者に促され、二枚目の写真を見ると家が吹き飛んでいる写真があった。

「人には被害が少なくても、家とか建物に被害が多いみたい。こんな中で死者がいないのは本当に奇跡よね」

女性能力者の言葉を聞きながら「そうだな」と男性能力者は言葉を返したのだった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
ユウ・ナイトレイン(gb8963
19歳・♂・FC
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
ライフェット・エモンツ(gc0545
13歳・♀・FC
音無 音夢(gc0637
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

―― 邪風を打ち倒す為に ――

「ふん、気にいらねぇな‥‥」
 キメラの資料を見ながら呟くのはウェイケル・クスペリア(gb9006)だった。彼女の口の悪さは普段からなのだが、彼女の機嫌が悪いのには理由があった。
 今回のキメラは大きな団扇を持ち、風を繰り出して攻撃してくるとオペレーターから渡された資料には書いてあった。全く同じというわけではないだろうが、今回のキメラと彼女の攻撃方法が似ており、まるで自分の偽者を見ているみたいだと彼女は呟いていた。
「大きな団扇で風を撒き散らすキメラか‥‥ガキの頃、大きな団扇で風を起こせば空を飛べると考えた事もあるが、まったく何を考えてこんなキメラを作ったんだろうな」
 榊兵衛(ga0388)はため息混じりに資料を見て呟く。
「まあ、良い。街の平安の為に早々にご退場願うとしようか」
 榊は資料にあるキメラ情報を見て呟いた。
「そうですね‥‥早くキメラを倒さないと更に被害が‥‥」
 音無 音夢(gc0637)が榊の言葉に首を縦に振りながら言葉を返した。
(「これ以上‥‥被害を広げるわけにはいきません‥‥」)
「結構好き勝手に暴れたみたいだな――にしても大きい団扇を持っているとなれば動きそのものはそんなに早くないかな‥‥?」
 実際に対峙しないと分からないけどな、ユウ・ナイトレイン(gb8963)が呟く。確かにキメラの力そのものがどれほどなのかまだ能力者達には分かっていないけれど、外見は子供、子供の姿で大きな団扇を持っているとなれば動きそのものが早いとは考えにくいのだろう。
「キメラの外見は子供ですか、ふぅ‥‥」
 ナンナ・オンスロート(gb5838)は呟く。恐らくあまり深い意味はないのだろう。
(「子供‥‥か」)
 ナンナの呟きを聞いて赤い霧(gb5521)が資料に視線を落としながら心の中で呟く。赤い霧自身、子供は好きである。
 だが、敵ならば子供でも容赦はしない――これが彼の心構えだった。子供の姿をしているからと言って殺る――退治の為に躊躇う事はない。泣き叫ぼうが、たとえどんな激痛が来ようとも動じる事はない。気を抜けば殺されるのは自分なのだから。
「風は好き‥‥でも、それが人を傷つけているなら、容赦しないよ。建物は‥‥また、建て直せる」
 死者が出る前に倒さなきゃ、ライフェット・エモンツ(gc0545)は言葉を付け足しながら呟く。
「うん、そうだね」
 ライフェットの言葉にエイミ・シーン(gb9420)が言葉を返す。
(「どんなに強い風が吹いたとしても、止まない嵐は‥‥無いですよね」)
 きゅっと拳を握り締めながらエイミは心の中で呟く。
「それじゃ、出発しようか。あまりゆっくりしていても被害は広がるばかりだしな」
 榊が呟き、能力者達は高速艇に乗って被害にあっている街を目指して出発していったのだった。


―― 荒れた街・風の脅威 ――

「こりゃ‥‥ひでぇな」
 高速艇を町の広場に着陸させ、キメラが潜む街へと降り立った能力者達。その街の状況を見てウェイケルが呟く。
 恐らく――というより確実にキメラによる被害だろう、古い建物などは見るも無残な姿になっている。
「酷い‥‥この家の数だけそこで幸せに暮らしていた人がいるのに‥‥」
 エイミは崩れた家の前に立ちながら呟く。
「せめて‥‥これ以上の被害がないように、しましょう」
 音無が呟くと「そうですね」と赤い霧が言葉を返す。
「とりあえず、まずはキメラを探さないとな」
 ユウが呟き、街の中を見渡す。結構な数の建物が全壊とまではいかなくても窓ガラスが割れていたり、駐車場のブロック塀が壊れていたりなどして、戦闘する際にも危険となるものが散乱している。一つ一つを見ればそこまで脅威ではないかもしれないが、戦闘中にガラスの破片などが飛んできたら厄介な事になる。ドラグーンはAU−KVでそれらから身を守る事が出来るかもしれないが、AU−KVを持たない能力者達にとっては目に入るなどしたら大変な事にも繋がりうる。
(「なるべくガラスとか少ない場所で戦えたらいいんだけどな」)
 ユウは心の中で呟く。
「ウェイさん」
 キメラ捜索を始めた頃、赤い霧がウェイケルに話し掛ける。
「恐らく後からは言う暇がないと思われますので‥‥最初はお1人でやるのでしょう? ‥‥‥‥お気をつけて‥‥」
 赤い霧の言葉にウェイケルは「おう! やるからには勝つつもりで行くけどな」と笑って言葉を返してきた。
「大丈夫、もしもの時はフォローしますから」
 ナンナがウェイケルに言葉を投げかける。大丈夫、その言葉をナンナは言ったけれどやはり心配なのだろう。
 そんな能力者達の様子をライフェットは何かを考えているようにジッと見ていた。彼女は純粋にキメラを退治しようと思う一方で今の自分の力が何処まで出来るのかを試そうとしていた。
 勿論、他の能力者に迷惑が掛からない範囲で――だけれど。
 その時だった、能力者達の頬をかすかな風が掠める。
「‥‥風?」
 エイミが呟き、前方を見ると能力者達に背中を向けて団扇を構えている少年を見つける。まだ能力者達には気づいていないのだろう。
「行ってくる」
 ウェイケルは呟き囮役の榊、ライフェット、音無の3人以外は奇襲出来るようにそれぞれ適した場所を探し始め、身を潜める。
 幸いと言っていいのか分からないけれど、此処のほとんどの建物は崩れかけており、身を隠すのにはうってつけの場所だった。
 ただ、ユウが危惧していたガラスの破片なども散らばっているのが気に掛かるのだけれど。
「おい!」
 鉄扇を手にウェイケルがキメラに向かって話し掛ける。言葉が通じるとも思えなかったけれど、自分に気を引きつける必要があったのだ。
「話には聞いてたけど、やっぱあんたは気に入らねぇぜ」
 ウェイケルがキメラに向けて言葉を投げかけると、キメラは『ニィ』と楽しげな笑みを浮かべて両手で持っている団扇を振り上げる。
「楽しそうだな、おい」
 ウェイケルも鉄扇を構え、キメラが団扇を振り下ろすタイミングと合わせてスキルを使用して攻撃を繰り出した。
 2人の攻撃が始まった瞬間、近くにあった木が激しく揺れ、能力者達も目を開けていられないほどの風が舞う。
「押して‥‥ます?」
 音無がキメラとウェイケルの様子を見ながら呟く。
「そう、見えますよね‥‥?」
 ライフェットが音無に言葉を返した時「いや」と榊が呟いた。
「互角‥‥僅かに押されている」
 榊が言い終わった瞬間「だー、くそ! やっぱダメかよ!」とウェイケルが叫び、キメラの巻き起こした風によって吹き飛ばされてしまう。
 木に激突する寸前でエイミがウェイケルを抱きとめ、大きなダメージを受けずに済んだ。
「ちっ、あたしもまだまだって所かよ」
 ウェイケルが悔しそうに呟き、能力者達はキメラを退治するためにそれぞれ行動を開始したのだった。


―― 戦闘開始・能力者 VS キメラ ――

 ウェイケルが飛ばされた後、囮班の3人は他の能力者達が奇襲を掛けられるようにすぐに行動を開始する。
「今のうちにキメラの死角となる場所に行ってくれ」
 榊はトランシーバーを使い、奇襲班に声をかけた後にキメラへと向かう。ライフェットはナンナのAU−KVに繋がっているロープで身をもたせている。
 囮班の能力者達が攻撃を仕掛けようとした瞬間、キメラは団扇を振り下ろして突風を巻き起こす。
「ぐぅぅぅ‥‥っ!」
 榊はスキルを使用しながら鳳煉槍を地面へと突きたて、突風によって吹き飛ばされないように耐える。
 榊と同じくライフェットや音無も武器を地面に突き立てて耐えようとするのだが‥‥彼女達は耐え切れずに突風に巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。
 ライフェットはナンナのロープによって、音無は吹き飛ばされながらも途中の木を蹴り、風の範囲外へと逃げて多少のダメージで済んでいた。
「流石に‥‥厳しいですね」
 音無は少しだけ悔しそうに小さな声で呟く。
「今回は重い武器にして正解だったか」
 榊は呟きながら、再び突風を巻き起こそうとしているキメラが視界に入り、再び耐える為に武器にかける手の力を強める。
「次の突風が収まったら奇襲をかけます」
 奇襲班からの連絡が入り、榊も奇襲班にあわせて攻撃できるように身構える。
 そして突風が巻き起こり、団扇を振り下ろした事で隙の出来たキメラに奇襲班の能力者達は一気に攻撃を仕掛ける。
 キメラも動こうとしたけれどユウの銃撃によって僅かに阻まれて行動が出遅れてしまう。
「綺麗事など言わない‥‥邪魔だ、貴様を排除する‥‥」
 赤い霧は呟いた後に覚醒を行い「グゥオオオオオ!」と獣染みた咆哮をあげてガノを振り上げ、キメラへと攻撃を仕掛ける。再び突風を巻き起こそうとしていたキメラは隙だらけで赤い霧の攻撃を防ぐ事は出来なかった。
「赤い霧さん! 横に避けて!」
 エイミの声が聞こえ、赤い霧は直ぐに横へと移動する。それと同時にエイミはスキルを使用してウェイケル、そして他の能力者達の武器を強化する。
「流石に風を巻き起こした後じゃあ、すぐには動けねーみたいだな」
 ウェイケルは呟き、ソニックブームを使用して攻撃を仕掛け、エイミもウェイケルが攻撃した方向へとロケットパンチを飛ばす。慌ててキメラも攻撃を仕掛けてきたのだが、慌てたせいで風の威力が最初ほどはなかった。
「私達の併せた力‥‥その名もブレイクストーム‥‥かな?」
 エイミが呟き、キメラの手から団扇が離れる。
「行きます‥‥あんな事をした‥‥自分を呪ってください」
 音無は呟き、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「‥‥ボクと、同じ歳くらい、だね‥‥キメラじゃなかったら友達になれたかもしれないのに‥‥」
 ライフェットは呟きながら「でも、容赦しません」と言葉をつけたしてスキルを使い、キメラを攻撃する。攻撃を受けた際にキメラは尻餅をつき、背後にたったユウを見てビクリと肩を震わせた。ユウの覚醒は氷と水の幻影を纏うものだが、今回はその幻影が剣の形をしていたからだ。
 それを使っての戦闘は無理だが、一瞬とは言えキメラを驚かせる事には成功したようだった。
 そして‥‥その一瞬が戦闘では命取りになるのだ。キメラが逃げようと立ち上がりかけた時、ナンナのガトリングシールドによって足を撃たれて再び地面へと倒れこむ。
「街は壊れてしまっても、建て直す事が出来る‥‥人はそういかない‥‥」
 だから私は迷いません、ナンナは言葉を付け足しながら再び攻撃を仕掛ける。
「‥‥子供? ‥‥武器を持てば『子供』でも『大人』でも無い‥‥『兵士』だ‥‥だから我は刃を向ける事に躊躇いはない」
 赤い霧はキメラの腕を掴み「捕まえたぞ」と冷たく言葉を投げかける。
 そしてキメラの背後にて既に攻撃態勢を取っていた榊がスキルを使用して攻撃を仕掛ける。
「これで‥‥終わりだぁアアアアアアアア!!!」
 赤い霧が叫び、ガノを勢いよく振り下ろして攻撃を仕掛けてキメラにトドメを刺したのだった‥‥。


―― 戦闘終了 ――

「何とか退治できて良かったな」
 キメラを退治した後、高速艇に戻る為に歩きながら榊が呟く。
「そうですね、ただ建物ばかりはどうにもなりませんから住人の皆さんでがんばってもらわないといけませんけど」
 赤い霧が呟くと「死者が出なかったんだ、まだマシな方だろう」と榊が言葉を返した。
(「これは戦争‥‥善悪など無い‥‥あえて言うなら勝者が悪だろうな。それだけ他人を不幸にしているのだから」)
 赤い霧は心の中で呟く。
「あたしももっと腕を磨かなきゃなー‥‥せめて今回みたいな奴にくらいは勝ちてぇ」
 ウェイケルが押し負けた事を気にしているのかやや不機嫌に呟く。
「まぁ、それでも勝てましたし‥‥今回はよしとしよう」
 ユウの言葉に「そうだけどさー」と言葉を返す。
「あれ? 音夢さんは‥‥?」
 ナンナは音無がいない事に気づき、周りを見渡すと壊れた家の前で佇む音無の姿があった。
「‥‥何故‥‥こんな事を‥‥」
 音無は妹の形見であるクリスタルペンダントを握り締めながら悲痛な表情で倒壊した家を見ていた。
「どうかしましたか?」
 ナンナが音無を呼びに来て話し掛けると「いえ、すみません」と音無は言葉を返して「帰りましょう」と言葉を続けたのだった。
 そしてそんな音無とナンナの様子を見て、ライフェットも倒壊した家へと視線を移す。
「まだ、遠いけど‥‥諦めないよ」
 その言葉が一体誰に向けて呟かれたものか、知る者は彼女のみだが、呟いた後にふわりと微笑み、高速艇へと向かうのだった。

 今回の任務は無傷ではすまなかったけれど、重傷者を出す事なく無事に終える事が出来た。
 能力者達は任務報告を行う為に本部へと帰還していったのだった。


END