タイトル:青春ラヴァーズマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/18 04:59

●オープニング本文


青い春と書いて青春。

恋に愛と書いて恋愛。

私と書いて彼氏がいない。

※※※

それは彼氏or彼女がいない人間ならば嫉妬の炎を燃やさざるを得ないキメラだった。

キメラは何故かカップルで作られており、2人一緒に攻撃をしてくるという何ともムカつくものだった。

「見てよ。このラブビーム」

「‥‥何だよ、そのラブビームって‥‥」

苦笑しながら男性能力者が女性能力者に言葉を返すと一枚の写真を見せられる。

その写真にはキメラが住人を襲っている姿が撮られていた。

「‥‥うわぁ」

巨大なエネルギーガンのようなものを2人で持ち、2人で攻撃してくるという何がしたいのか分からないキメラの姿。

「その他にも‥‥ほら」

2人で頭突きをしてきている姿、2人で殴ってくる姿、何をするにしても2人で行動するというある意味では効率の悪い攻撃をしてくるキメラだったのだ。

「‥‥キメラってバグアが作ってんだよな、これを作ったバグアが誰か知りたいのは俺だけか?」

「大丈夫よ、私も知りたいから――」

2人は呟いた後、再び写真に視線を落として押し寄せてくる疲れに耐えるのだった。

●参加者一覧

セイン(ga5186
16歳・♀・SN
皐月・B・マイア(ga5514
20歳・♀・FC
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
アラン・レッドグレイブ(gb3158
26歳・♂・DF
鈴木 一成(gb3878
23歳・♂・GD
ピアース・空木(gb6362
23歳・♂・FC
諌山詠(gb7651
20歳・♂・FT
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG

●リプレイ本文

―― 嫉妬の炎を掻き立てるキメラを討つ為に ――

「仲良しのキメラペアか‥‥仲が良いのは良い事だけど、ここまでべったりしなくても‥‥ねぇ?」
 資料にある写真に苦笑しながらセイン(ga5186)が呟く。写真にある2体のキメラは今時のバカップルでもしないような共同作業での攻撃を行っている。
 はっきり言って「何だコイツ」と言いたくなるようなキメラだ。
「このようなキメラを送り出すとは‥‥しっと団もバグアに目をつけられたという事か!? いいだろう‥‥この挑戦状、このしっと団総帥が受けて立とう!」
 白虎(ga9191)が拳を強く握り締め、写真に写るカップルキメラに対する嫉妬の炎を燃え滾らせる。
「キメラでさえいちゃつくとは‥‥世はまさに何とかですか、そうですか」
 アラン・レッドグレイブ(gb3158)が遠い目をしながら呟く。もしこのキメラ達が人間を傷つける事がなくても、今回集まった能力者達の嫉妬炎は収まる事はなかっただろう。
 カップル、存在するだけで既に罪――そう考える者が多いみたいだから。
「‥‥ふ、ふふ、2月、3月と鬱陶しいイベントが立て続けにあるっていうのにキメラまでもバカップル‥‥どんだけ独り身を馬鹿にしてるんですかね‥‥」
 どいつもこいつもリア充しやがって‥‥鈴木 一成(gb3878)はギリギリと歯軋りを鳴らしながらボソリと言葉を付け足した。
 恐らく今回集まった能力者の中で最も不穏な空気を撒き散らしているのはきっと彼に違いない。何故なら既に彼を覆う空気が黒く淀んでいるような気がするのだから。
「‥‥なンだ? コイツぁ? キメラってのも色々いるモンだねぇ‥‥とりあえず、さっさと行ってとっとと『人生の墓場』に叩き込もぉぜ」
 ピアース・空木(gb6362)はややぐったりした表情で呟く。確かにこんなキメラなど見せられてはどっと疲れが押し寄せてくるようなものなのだから。
「キメラって当然ですけどバグアが作ってるわけで‥‥今回のキメラを作ったバグアも、リア充がどうこうとか言うんですかね、と」
 諌山詠(gb7651)が苦笑しながら呟く。それに、と諌山は他の能力者達を見て「キメラと対峙したとき皆の勢いがどうなるか楽しみです」と言葉を付け足したのだった。
「カップルキメラですってよ、奥さん」
 ふふふ、と飲兵衛(gb8895)は自らで考案したアヌビスを模した機械仕掛けの全身甲冑に身を包みながら黒いオーラを漂わせている。
「バグアめ、策を誤ったな‥‥こんなキメラを放り出した所で我らの嫉妬を煽るだけだと!」
 飲兵衛は言い切って叫ぶのだが、そこは果たして主張すべき所なのかは不明である。
 そんな嫉妬に駆られた能力者達を見ながら、1人だけ憂いた表情でため息を漏らすものがいた。
(「2年‥‥貴方はもう、忘れただろう。私の事など。私もな‥‥疲れた。疲れたんだ、待つのはもう‥‥」)
 皐月・B・マイア(ga5514)は深いため息を吐きながら心の中で呟く。恋人が失踪し、待つ事にも泣く事にも疲れた彼女は今回の任務にて過去を清算しようと考えた。
「さぁ、行こうか」
 皐月は今回一緒に任務を行う能力者達に声を掛け、高速艇に乗って目的地へと出発した。
 余談ではあるが、高速艇の中は異様な雰囲気に包まれていたと後に誰かが語っていた。


―― 存在するだけで罪、カップルキメラを退治せよ ――

 今回のバカップルキメラが存在しているのは街の中でも人、特に子供が集まる公園だった。
 幸いにも街の方の住人は既に避難済みと資料には書いてあるのだが、公園にいた数名はいまだ避難出来ていないと言うあまり有難くない情報も一緒に書いてあった。
「全く何を考えてカップルキメラなんて、ねぇ?」
 セインが「貴方も嫉妬が〜というタイプ?」と諌山に問いかけると「え? あぁいえ俺は大事な恋人がいますから、違いますよ」と言葉を返した。
 しかし彼は気づいていない、先ほどまでキメラに向けられていた敵意が諌山にも向けられつつあると言う事を。
 だが、そんな事には気づいていない諌山は言葉を続ける。
「別に嫉妬の炎というか、そういうのはないんですけど‥‥‥‥見習うべきですかね、と」
 諌山は苦笑して呟いた。しかしセインを含めた能力者達は同じ言葉が頭の中に浮かんでいた。

(「その場合、見習うのは能力者? それともバカップルキメラ?」)

 彼がどっちを見習うべきかと思っているのか、それはきっと彼自身にしか分からない。
「此処がキメラのいる街ですか‥‥」
 鈴木が高速艇から降りながら呟く。団地などが多く目立ち、資料にある地図では団地の向こう側に問題の公園があると書かれている。
(「何か、空気が異様に重いような‥‥キメラ退治の任務だから緊張感があるのは分かるけど‥‥何となくそういうのじゃなさそうなんだよね」)
 皐月は歩きながら心の中で呟く。この異様な空気が嫉妬のせいだと皐月が理解するのはこれより数十分後にキメラと接触してからだった。

「きゃああっ!」
 団地を抜け、公園が近づいてくると女性の悲鳴が聞こえてきて能力者達は慌てて公園へと向かう。
「「「「「「「「うわぁ‥‥」」」」」」」」
 公園に到着して、その光景を見た能力者達は引きつった笑顔で「うわぁ」としか言いようがなかったのだ。
 沢山のハートが散りばめられた巨大なエネルギーガンのようなものを2人で一般人へと向けて発砲しようとしている。しかも男性型キメラの腕は女性型キメラの腰へと回らされており、嫉妬に駆られる能力者達に対して火に油を注ぐようなものだった。
「私が民間人について公園から避難させる、その間にキメラの対応をお願い」
 セインが公園に取り残されている女性2人と子供3人がいる場所へと向かって走り出す。
「ヒィ――ハァ――! ひゃはははははひーっひっひっひ! バカップルは殲滅だぁぁぁぁぁ!」
 ヒャッハー! とけたたましい叫び声と共に鈴木が槍斧ガープでキメラへと襲い掛かる。ちなみに彼の言葉を聞いていると『キメラだから倒す』ではなく『バカップルだから殲滅する』と言う風に聞こえるのは気のせいだろうか。
「味方の怖さも、今ばかりは頼もしい同士さな‥‥!」
 飲兵衛は小銃シエルクラインを構えてバカップルキメラへと向ける。
「さぁ、鉛弾という名の鉄槌を下してやる‥‥このアヌビスっぽいのがな!」
 飲兵衛は呟きながらバカップルキメラへと向けてスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。銃弾が足元に届く度に互いを庇いあうように行動するバカップルキメラに更に嫉妬ボルテージは上がっていく。
「今まさにしっとの心に触れ、この俺もしっとの悲しみを背負う事が出来たわ‥‥罪無き人にまで脅威を与える。バカップルは消毒せねばならんな!」
 アランはイアリスを構え『くわっ』と険しい表情でバカップルキメラを睨みつける。しかし彼も鈴木と同じく『バカップルだから退治する』と言っているように思えるのは気のせいだろうか。
「うわぁぁぁん、変な人がもっと増えたよぅ!」
 バカップルキメラと戦う能力者達を見て子供の1人が泣きだしてしまう。
「と、とりあえずこの公園から避難すれば安心だから‥‥だから頑張ろうね」
 泣きじゃくる子供達を宥め、他の仲間達が気を引き付けている間にセインは民間人を公園から逃がす。そして公園から見えなくなるくらいに避難したのを確認すると、戦闘へと戻っていった。
「‥‥サーチアンドデストロォォ――――イ!!」
 皐月はまるで獣の咆哮のように大きく叫ぶと彼女が所持している特注のチェーンソーを構える。
「殴れ! 刺れ! 殺れ! 壊っちまえ――! 破壊(デストロ――――イ)!」
 皐月は周りの嫉妬環境に毒されたのか、理性のタガが飛んだようにチェーンソーを振り回し始める。
「にゅ、今回は頼もしいしっ闘士達が多いようで総帥としては嬉しいのにゃ!」
 白虎は呟きながら能力者達を見渡す。
「俺の方も行くぜぇ!」
 ピアースは民間人の避難を確認して、閃光手榴弾を取り出す。予めこれを使う事は伝えてあり『構えろ!』と爆発のタイミングでピアースが叫ぶ事も他の能力者達には作戦を決める段階で伝えていた。
「3、2‥‥構えろ!」
 ピアースが叫んだ後、閃光手榴弾から強烈な閃光と音が繰り出される。ピアースの合図で能力者達は影響を受ける事はなかったけれど、マトモに受けてしまったバカップルキメラは視界と聴覚を奪われた状態だった。
「さぁ、今日も‥‥リア充爆発しろにゃー☆」
 白虎は楽しそうに呟くとスキルを使用して男性型キメラの方へと向かう。そして用意していたピンを抜いた閃光手榴弾をバケツの中にいれ、爆発寸前で男性型の頭に被せる。
「行き場のない光と音は、バケツの内側‥‥つまり、お前の頭にだけダイレクトに襲い掛かるのだ!」
 いまだマトモに攻撃できる状態ではない男性型キメラだが、カップルを引き剥がすという目的もある為、少しでも長く動けない状態にする方がいい。
 白虎の目論見通り動けない男性型キメラを、女性型キメラから引き剥がそうと100tハンマーを振りかぶって「このまま飛んでいけにゃー☆」と殴りつける。
 きっと漫画的表現をするならばカキーンという効果音とキランとお空の星になる効果音がついていた事だろう。
 しかし、現実はそこまでは行かず、殴られた男性型キメラは公園の遊具に激突して背中を強く打つ。
「ヒャッハー! カップルは殲滅だぁぁぁ!」
 鈴木は叫びながらスキルを使用して槍斧ガープでフルスイングする。近くに互いの相手がいない事に気がついたのだろう。キメラは攻撃を後回しにして合流しようと行動を起こし始める。
「合流などさせるものか!」
 その行動にて更に火のついた鈴木は「所詮、生まれるも1人! 逝くのも1人だぁぁ!」と何やら悲しくなる言葉を叫びながら攻撃を仕掛けたのだった。
 ちなみに先ほど、白虎が男性型キメラを吹き飛ばした後、ピアースも同じタイミングで女性型キメラを男性型とは真逆の方向にルベウスにて殴り飛ばしていた。
「よぉネェちゃん、あんなのヤメて俺にしな。天国(あの世)見せてやっからよ☆」
 ピアースの言葉を聞き、女性型キメラは男性型キメラの元へ帰ろうと走り始める。
「そうはさせませんよ、と」
 諌山が女性型の前に立ちはだかり、スキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
「恋人の元に戻りたい気持ちは分かりますけどね」
 苦笑しながら諌山は呟く。
「避けて!」
 飲兵衛の言葉が聞こえ、女性型キメラの近くにいた諌山とピアースはそれぞれ横に避け、飲兵衛はスキルを使用しながら銃撃を繰り出す。
「銃弾の雨って程でも無いが、当たると痛いぞ」
 飲兵衛は呟きながら銃撃を食らわし、女性型キメラからは悲痛な叫び声があがる。
 だが、男性型キメラが恐るべき速さで女性型キメラの元へと駆けて来て巨大エネルギーガンを構える。女性型キメラも巨大エネルギーガンに手を沿え、あくまでも『2人で攻撃』するのがポリシーらしい。
「全てデストローーォォイ!」
 皐月は叫びながら大口径ガトリング砲で攻撃を仕掛け、チェーンソーを手に持つ。
「にゅ! しっと団総帥としてこの戦だけには負けるわけにはいかないのにゃー!」
 白虎も100tハンマーを構え、キメラへ向かって攻撃を仕掛ける。途中で女性型からの邪魔が入りそうになったけれど、アランがイアリスにて女性型を攻撃して、白虎の邪魔をさせないようする。
「ヒャ――ハハハハァ! 1人で死んで逝け! 1人で!」
 鈴木は槍斧ガープを存分に振るいながら攻撃を仕掛けて、追撃するように皐月がチェーンソーで「エイメェン!!」と叫びながら攻撃を行った。
「貴様等はその存在目的すら果たさせぬ‥‥! 貴様等のせいでどれだけの独り身が嘆いていると思っているのだ!」
 アランもその内の1人なのだろうか、イアリスを握り締め「存在が罪なら滅するまで!」と叫んで攻撃を仕掛ける。
「それじゃ、そろそろ眠っていただきましょうかね」
 諌山は呟き、クルメタルP−38で攻撃を仕掛ける。飲兵衛もその攻撃に合わせて銃撃を小銃シエルクラインにて行い、続いて再び諌山が壱式を構えて攻撃を行う。
 しっとに燃えた(1名除く)能力者達の総攻撃によってバカップルキメラは無事に退治されたのだった‥‥。


―― 嫉妬に燃える戦士たちの夢のあと ――

「あ‥‥あはハ‥‥アははハハはっ!」
 キメラ退治を終えた後、皐月は笑いながら号泣していた。それはキメラに対してではなく自分自身が抱えることについての涙だったのだろう。
「とりあえず、無事に退治できて良かった‥‥」
 セインが呟くと「そうですね‥‥」と皐月も涙を拭いながら言葉を返した。
「ふむっ、フリーのしっと戦士達‥‥そしてバグアにも正しい闘士活動‥‥しっと団との戦い方というものを教えていかなくてはいけないようだなっ」
 白虎は総帥として、新たな闘士活動への使命に燃えている。
「湧き上がる嫉妬の心を、止められぬ哀しみ‥‥これが哀か‥‥」
 何か違うような気がするが、アランは青空を見上げながら小さく呟いた。
「2人は愛に殉じましたとさ‥‥アーメン、結構ハッチャケてたなぁ♪」
 ピアースは鈴木に話し掛けると「い、いえ‥‥その、キメラ退治ですし‥‥自分に出来る事をしただけっていうか‥‥」と戦闘中とは違いややおどおどとした口調で言葉を返していた。
(「それにしてもしっ闘士って凄いんですねぇ‥‥明らかに八つ当た――いえ、止めときましょうかね」)
 諌山は片付けをしながら心の中で呟く。
「しかしまぁ‥‥本当にバグアって何を考えているのかねぃ‥‥ま、どうでもいいことなんだけどな」
 飲兵衛は特注全身甲冑の頭部部分を外して空を仰ぐ。ちなみに頭部部分はモノアイになっており、偶に光ったりするらしい。戦闘中も何回か光っていたらしく、そのモノアイもあり、相手に恐怖を多少与えていた事を彼は知らない。
「‥‥帰ろう。前を向いて、前に。私もいい加減、大人にならないと‥‥」
 皐月は呟き、一度大きく深呼吸をしながら高速艇へと能力者達と一緒に向かい始めた。

 ちなみに倒されたキメラ、それぞれの嫉妬が分かるほどに無残な姿で退治されていたのは言うまでもなかったりする。

END