●リプレイ本文
―― 死にたがりの聖女と能力者 ――
「今回は宜しく‥‥」
今回、能力者達と同行するのはマリアと名乗るファイターだった。だけど彼女だけが何か別の事を考えている目をしている事に能力者達は気づいていた。
「森の中で空飛ぶキメラか。探すのも面倒だが、倒すのも面倒そうだな」
水無月 湧輝(
gb4056)が資料を見ながらため息混じりに呟き、超機械ST−505の調律を行っている。
「そう‥‥一つ言っておく、私は多少無理をするかもしれない。そのせいで私が死んでも気に病まなくていい、ただ放っておいて欲しい」
マリアは感情の無い瞳で能力者達に告げる。そしてその言葉を聞いてマリアが『死に場所』を求めている事を能力者達は察知する。
「もしかして‥‥あの人は死に場所を求めているんじゃないでしょうか‥‥」
マリアが言いたい事だけを言って遠ざかった後、加賀 弓(
ga8749)がポツリと呟く。
「どうやら、そうみたいだな‥‥」
頭を掻きながら相賀翡翠(
gb6789)が加賀に言葉を返す。
「マリアさん、ちょっと待ってください。今回の作戦をご説明しますので聞いてください」
少し離れた所で能力者達を待っているマリアにラフィール・紫雲(
gc0741)が言葉を投げかけるのだが「必要ないわ」と短い言葉が返される。
「いいえ、聞いてください。でなければ連携出来ずにキメラから無用の傷を受けてしまいますよ」
ラフィールの言葉に「‥‥私はそれを願っているのよ、あの人の所へ逝く為に」と小さな声で言葉を返した。
「え?」
「‥‥なんでもないわ、これに作戦は書いてあるんでしょ。とりあえず読んでおくから」
マリアは資料を受け取り「先に高速艇にいるわ」と言葉を残して去っていった。
「‥‥あの人の所へ逝く為‥‥? だから死にたがっているの?」
ラフィールはポツリと呟き、先ほどの事を能力者達に説明する。
「恐らく大事な方でも亡くされたのでしょうね‥‥こう言っては何ですが、マリアさんのような境遇はそれこそ掃いて捨てるほど溢れているのが今の世の中ですよね」
加賀が俯きながら呟く。彼女も似たような境遇を持っているからこそ言える言葉なのだろう。
(「死にたがり‥‥か。今の世の中、大事な誰かを失ったりやりきれない事が多くて同じような事を考えている人は沢山いるんだな」)
桂木穣治(
gb5595)は他の能力者達が気づかない程の小さなため息を漏らし、心の中で呟いた。
(「逝くまでの戦いか‥‥今の俺にはどうしたって解んねぇな――何にしても、逝かせてやるわけにゃいかねぇよ。仲間全員無事に帰んのが、俺のポリシーだからな」)
相賀も心の中で呟き、猫のペンダントを右手に包み、瞳を閉じる。その右手首には他にも皮に銀装飾のブレスレット――彼、相賀が最愛の人物と成功と無事を誓っているものだった。
「気持ちは分かりますが、残される側の気持ちも考えて欲しいですね‥‥自身でも体験されているなら尚更です‥‥」
もうあんな思いは御免ですよ、アクセル・ランパード(
gc0052)は過去の任務を思い浮かべながら言葉を付け足した。
「幸せ失って、自分は悲劇のお姫様‥‥? はっ、いいご身分だね。死にたきゃ1人で競合地域にでも行けばいいのにさ」
ファタ・モルガナ(
gc0598)は面白くなさそうに小さくぼやく、独り言のような小さな言葉だったので他の能力者達に届く事は無かった。
「マリアさん、か‥‥」
マーガレット・ソリン(
gc0970)は小さく呟いた。マーガレットにとってマリアは他人とは思えないものを感じていた。同じような境遇、同じような適正。だけどマーガレットと決定的に違う所は死へと甘える事なく、容赦なく生きているところ。
だからマリアにも甘えることなく強く生きて欲しいと誰よりも願っていた。
「それでは、行きましょうか‥‥今回はキメラ退治だけが目的では、なさそうですから」
加賀が呟き、能力者達は先に向かったマリアを追いかけるように高速艇へと向かい、キメラを退治する為に出発していったのだった。
―― 人と鳥の獣 ――
キメラが潜んでいる森は鬱蒼と生い茂っており、昼間でも少し薄暗く感じるほどだった。捜索は全員で行い、キメラを見つけたら作戦で決めていた班に分かれるという事にしていた。
対キメラ班が加賀、桂木、相賀、ファタ、水無月の五名。
そしてマリアの事を考えて、彼女のフォローを行うのがアクセル、ラフィール、マーガレットの三人となった。なるべくならフォローが必要な状況にならない事を能力者達は願っていたけれど‥‥高速艇の中、そして今のマリアを見ていてもその願いは空しく終わりそうな気がしてならなかった。
「まずは拓けた場所を探すのが第一ですね、このまま木々が邪魔な場所でキメラを見つけ、戦闘しても此方にとってメリットもありませんし」
加賀が周りを見ながら呟く。確かに木々が密集しているこんな場所で戦うのは能力者達に不利しかもたらさないだろう。
「拓けた場所を見つけて、叩き落して止めを刺す‥‥まぁ気楽にやろう」
焦っても良い結果は出せないしな、と水無月が言葉を付け足す。
「それにしても、薄暗い上に木が邪魔だな」
相賀は左右、上空からキメラが来ないか警戒しながら捜索を続ける。捜索の際に邪魔になる枝は切り落とし、視界を広げながら相賀は捜索していた。
(「死にたがりには分かるまい。生きたくて、生きたくて。他を蹴落とし泥水を啜り、這いずりもがく。そんな人間達の心など――‥‥」)
相変わらず感情の無い瞳で捜索を続けるマリアを見てファタは心の中に広がる苛つく感情を押さえ込む。ファタがあまりマリアに対して良い感情を持てないのは単純な理由で『死にたがっている』から。生きているだけの死者に嫌悪感しか抱けないらしい。
「‥‥何か聞こえませんか?」
アクセルが呟き、能力者達は歩く音を止めて耳を澄ませる。すると何か大きな生き物が羽ばたくような翼の音が聞こえ、能力者達はそれぞれ左右、上空を見る。
するとまだ此方には気づいていないけれど、人型の上半身から翼を生やし、上空を飛ぶキメラの姿を視認することが出来た。
「なるべく早めに拓けた場所を見つけた方が良さそうだな、いつこっちに気がつくとも限らないし」
桂木の言葉に能力者達は首を縦に振り、戦闘に適した場所を探す事にした――直後、キメラが能力者達に気づいたようで、急降下を始め、手に持った弓で攻撃を仕掛けてきた。
「‥‥場所が悪いな、少し誘導する事にしよう」
水無月はキメラの攻撃を避けながら他の能力者達と共に拓けた場所を目指して走り出す。
「あそこなら戦えるんじゃないのか?」
走っている途中で相賀が足を止め、右手側に少しだけ拓けた場所を見つけて叫び。ぎりぎり戦闘が行える程度の場所で、このまま他の場所を探していて見つからなかった時の事を考えれば、今、ここで戦闘を行った方がいい――能力者達はそう考えて、予想よりも少しだけ狭い場所で戦闘を行う事にしたのだった。
―― 戦闘開始・キメラ VS 能力者 ――
少し拓けた場所に入り、能力者達は上空に視線を移す。先ほどキメラに見つかってからキメラは追いかけてきており、上手くこちら側に誘導する事も出来た。
「降りてきていただきます」
加賀は小銃スノードロップでキメラの翼を狙い撃つが、木々が邪魔して思うように当たらない。
「タイミングを合わせろ。此処で落とせなければ、後々苦労するぞ」
水無月は呟き、和弓・月ノ宮を構えてキメラを狙う。水無月の放った矢はキメラの腕を掠める程度でキメラそのものを落とすには至らなかった。水無月が攻撃をした後、相賀が拳銃バラキエルを構え、スキルを使用しながら攻撃を繰り出す。
そして相賀の攻撃に合わせるようにファタもM−121ガトリング砲で攻撃を仕掛け、キメラの翼を狙う。
しかし、此処で予想外――いや、ある程度は予想していた事が起きた。能力者達がキメラを打ち落とそうとしている間に木へと上り、そのままマリアが攻撃を仕掛けたのだ。ある意味無謀とも呼べる攻撃に能力者達は驚きを隠せなかった。無論、そのままの攻撃を仕掛けて上手くいくはずもなく、マリアはキメラからの攻撃をマトモに受けてしまい、地面へと叩きつけられる。
「大丈夫か?」
桂木が地面に叩きつけられたマリアへと言葉を投げかけスキルを使用して治療を始める。
「‥‥治療はいらない、私は‥‥」
「死にたいという願いなら、俺が同行している限りその願いは叶わんよ」
治療を行いながら桂木がマリアに言葉を投げかける。
「キメラが落ちたようだな」
桂木の呟きにマリアが視線を移せば、キメラが地面に落ちて能力者達が接近攻撃へと切り換えている姿が視界に入ってきた。
「‥‥汝、自ら死を望むことなかれ‥‥聖書に書いてあると思うがね。無謀な行為を神は認めてくれるのかね」
水無月は言葉を残し、スキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛ける。
「私の事なんて誰にも分からない‥‥放っておいて!」
マリアは剣を握り締め、キメラに向かって駆け出す。そして攻撃を仕掛けようとした時、相賀がスキルを使用して先に攻撃を仕掛けてキメラの動きを鈍くする。
「何驚いた顔してんだよ、連携は当然。俺は普通にやってんぜ?」
相賀は不敵な笑みを浮かべたまま言葉を投げかける。相賀が攻撃を行ったおかげでマリアへの危険がなくなり、それをマリアは唇を噛み締めながら眉を潜めた。
「何で邪魔するのよ! 私が死んだ後にキメラを倒せばいいじゃない! 邪魔しないでよ!」
マリアが叫んだ後に再びキメラへと無謀な攻撃を仕掛ける。だがアクセルがスキルを使用してマリアに追いつき、竜斬斧ベオウルフでキメラからの攻撃を受け止め、マリアを庇う。
「最後まで生き抜け! 死のうとするな! ‥‥頼むから今を生きる人だけではなく、死んだ人間にまであの世で心配させるな!」
アクセルの言葉にマリアの動きがピタリと止まる。
そしてアクセルはスキルを使用しながらベオウルフを回転させ、キメラへと攻撃を行う。
「どいつもこいつも‥‥死にたがりばかりか、ここは!」
ファタがスキルを使用しながらキメラを攻撃して叫ぶ。マリアの事を気にするあまり、アクセル自身も熱くなっている部分があったためだろう。
「もう少し自分を大切にしてくださいね。折角ある命なのですから」
ラフィールは呟きながら機械剣αでキメラへと攻撃を仕掛ける。ファタのスキル攻撃によって一時的にキメラの動きが止まっていたため、キメラはラフィールの攻撃を避ける事が出来ず、マトモに受けてしまう。
そしてラフィールが攻撃を仕掛けた後、マーガレットが紫電槌でキメラを殴る。
「こんなにも、世界は神様の嘆きで満ちているのに貴女はこの世界から逃げ出すのね――私は逃げないわ」
マーガレットは攻撃を仕掛けた後、マリアを真っ直ぐ見て呟く。
「いきます」
加賀は鬼蛍を構えてキメラへと攻撃を仕掛ける、その際にファタがスキルを使用して援護を行い、水無月が矢を放つ。
そして前衛の能力者達に桂木がスキルを使用して武器を強化し、キメラにスキルを使用し防御力を低下させる。
「土は土に、灰は灰に! 塵は塵に! 悉く無に還れ!」
アクセルが叫びながら攻撃を仕掛け、相賀、ファタ、マーガレットも攻撃を合わせて連携を行い、無事にキメラを退治する事が出来たのだった。
―― 生きる意志、聖女の願い ――
「私は貴女の気持ちが分かるなどと無責任な事はいいません。逆にマリアさんにも私の気持ちが分かるはずもありません――少しでもあの人の傍にいる為に能力者になったのに、なった時には遺体の一部だけが帰ってきた、死に顔さえ分からなかった私の気持ちは‥‥ですが、死ぬ為に戦うのは止めてください、きっと死ぬ時は貴女だけではすまないでしょうから」
加賀は少し厳しい表情で、座り込むマリアへと言葉を投げる。
「バグアを恨むというのは何処にでもある話だ。だからと言って、そこに死に場所を求めても仕方が無いな」
水無月が呟き、再び調律を始める。
「あんたには迷惑かもしれねぇが、心配するさ。誰も失いたかねぇんだぜ? それが今日会ったばっかの仲間でもよ」
相賀は言葉を投げ、マリアに背中を向ける。マリアは次々に投げかけられる言葉に座り込んだまま地面の土を握り締める。
「貴女は全てを他のせいにして、悪魔に魂を差し出した事と変わりない。本当に亡くなった人の事を思うのなら、死なないで生きる事が貴女の今まで自分の命を軽んじた罰よ――死に急いで、神様の声が聞こえない貴女に相応しい罰」
マーガレットは少し強い口調で呟く。だけどそれはマリアの事を本気で心配しているからだと言う事が伺える。
「人は死にたい奴もいる、生きたい奴もいる。だが運命はそういうものを関係なく飲み込んでいくものさ。そこで何を求めるか‥‥人生なんてそんなものだろうよ」
水無月の言葉に「それじゃ、あなたは何を求めるの」とマリアが言葉を返す。
「あぁ? 俺はうまい酒が呑めて歌を歌って、理解してくれる伴侶がいればそれで良いさ」
「酷いのね、私が大切な人を亡くしたと知っていながらそういう事を言うんだもの‥‥貴方は恵まれているわ――でも彼女の言う通りかもしれない」
マリアは立ち上がりながらマーガレットを見る、そして加賀、相賀を見て瞳を伏せる。
「なるべく、生きてみようと思うわ‥‥私を仲間だといってくれた人の為にも、私なんかの為に叱ってくれた人の為に‥‥」
ありがとう、マリアは言葉を付け足して高速艇へと向かって歩き出す。生きる意志を持ったマリアを見てファタは初めてマリアへの感情が変わった。
「お疲れさん‥‥ま、ゆっくり休むがいいさ」
ファタは軽くマリアの肩を叩きながら一緒に高速艇へと向かう。
その姿を見て、他の能力者達は少しだけ安心して高速艇へと向かい、本部へと帰還していったのだった。
END