●リプレイ本文
―― ひな祭りを終わらせる能力者達 ――
今回は少し時期の外れた格好をしているキメラの討伐任務だった。
「今頃、お雛様ねぇ」
資料を見ながら大垣 春奈(
ga8566)が呟く。確かに既にひな祭りは終わっている為『今更』という風に思うのも無理はないだろう。
「バグアの考える事はよお分からへんなぁ‥‥」
正倉院命(
gb3579)も苦笑しながら呟く。資料に添付されている写真を見る限り、着物のせいで動きづらそうであり、どちらかと言えばお間抜けな部類のキメラに入る事だろう。
「いくら、お間抜けはんでも油断は禁物どす」
正倉院が呟くと「当たり前だな」と大垣が言葉を返す。
「こんなキメラに油断して大怪我しました、じゃ洒落にもならねぇよ」
大垣が呟くと「バグアって理解できない」と宵藍(
gb4961)が呟く。
「武器が弓と槍みたいだけど、弓は随臣でありだが、槍って間違ってるし‥‥まぁ、被害が出てないのは良い事なので、さっさと倒してしまうに限るな」
おそらく、このキメラを作ったバグア自体に『ひな祭り』の知識がなかったのだろう。適当に武器を持たせてみたはいいけれど、やはりまがい物はまがい物、槍と長柄傘を見間違えたのかもしれない。
「もう、桜の季節だと思ったけどな‥‥散り急ぐ花は惜しまれるが、出しっぱなしの雛人形はちょっといただけないのだよ」
緑間 徹(
gb7712)が呟く。桜、それももう散り始めている頃だというのに今更現れたのは雛人形を思い出させるキメラ。ため息の一つや二つ吐きたくなるのも無理はないだろう。
「何で‥‥このキメラはこんなに動きづらそうな格好してるの?」
かくりと首を傾げながら写真を見て呟くのはファリス(
gb9339)だった。
「もっと動きやすい格好があるとファリス思うの、お馬鹿さんなのかな?」
西洋人であるファリスには『雛人形』というモノがよく分かっていない為「何で?」と首を傾げながら不思議そうにしている。
「あー、これは雛人形と言ってな。いや、実際にはここまで大きくないんだけど、とにかく雛人形を模したキメラだからこんな格好なんだろうさ」
ジャック・ジェリア(
gc0672)が簡単にひな祭りを説明すると「‥‥ファリスにはよく分からないの」と納得していない様子で言葉を返してきた。
「まぁ、確かによく分からないよね。っていうか何を思ってこんなキメラ作ったんだろうね?」
芹佳(
gc0928)が苦笑しながら呟く。
「でも、結構場違いな格好だからキメラを見つけるのには苦労しなさそうだよね。現地に行くまではっきりと言えないけど」
芹佳の言葉に「一般人が攻撃避けれるくらいに鈍い奴みたいだからな」とジャックが言葉を返す。
「行動する速度も遅そうだし、ま、さっさと退治するに限るかね」
ジャックは煙草を消しながら呟き、能力者たちも首を縦に振って高速艇の方へと歩き出し、お雛様とお内裏様のキメラが歩き回る街へと出発していったのだった。
―― 町に潜むキメラ ――
「あんまり大きな街じゃないんだな」
高速艇から降り、街を見渡して大垣が呟く。
「ま、そんなのはどうでもいいか」
呟きながら大垣は地図を取り出して、現在地と公園の位置確認を行う。キメラを見つけたら公園におびき出すという作戦をみんなで考えていた為だ。
「今回のキメラは鈍いみたいだし、キメラ発見現場と公園が離れていた場合も考えて、空き地とか戦えそうな場所を幾つかピックアップしてみた」
宵藍も地図を取り出す。彼が持っている地図には幾つか赤いペンで丸印がつけられており、その印がつけられた場所が戦いに適した場所という事なのだろう。
今回の能力者たちは班を2つに分けてキメラ捜索を行う事に決めていた。
A班・宵藍、ファリス、緑間、正倉院。
B班・大垣、芹佳、ジャック。
キメラが二体いる事から能力者達も二班編成にし、どちらにでも対処できるようにする。
「一般人に会ったら逃げるように注意もしなくちゃな」
宵藍の言葉に「そうだね、キメラを退治しても一般人に怪我人が出ては意味がないし」と芹佳が言葉を返す。
「それじゃ、さっさとキメラ見つけてぶっ飛ばそうぜ」
大垣が呟き、能力者たちはキメラを見つける為に街を捜索し始めるのだった。
※A班※
「これからキメラ退治を行うので、危ないから近寄らないようにしてください」
キメラ捜索を行う途中で一般人を見つけ、宵藍が言葉を投げかける。あまりたいした事のないキメラ――という事が住人達の心に僅かな油断を招いているのだろう。よく見れば他にも出歩いている住人達が数名視界に入ってくる。
「あのね‥‥ファリス達の戦いに巻き込まれると危ないの‥‥みんなに怪我してほしくないの」
ファリスが少し悲しそうな表情で一般人に話しかけると「わ、分かったよ‥‥大人しく家にいるよ」と言葉を返してきた。
「もしかしたら、まだまだ出歩いている一般人は多いかもしれないね。警察にでも協力を得た方がいいかもしれないね」
緑間が呟くと「ここからだとあそこの交番が近いですね」と正倉院が指差しながら言葉を返してきた。正倉院の指につられるように視線を移動させると小さな交番が見え、2人の警察官がこちらを見ているのが視界に入ってくる。
4人の能力者たちは交番へと足を運び、事情を説明する。キメラを退治に来たという事、出歩いている一般人は危険だから近寄らないようにして欲しいということ。警察官は能力者の言葉に「わかった」と言葉を返すとそのまま注意をしに向かってくれた。
「これで一般人の注意、少しは安心かな」
宵藍が呟き、トランシーバーでB班に警察官のことを知らせ、キメラ捜索を続けるのだった。
※B班※
「警察が住人への注意をしてくれるみたいだね」
A班からの通信の後、芹佳がポツリと呟く。
「下手に実害の少ないキメラってのも危機感薄れていけねぇんだな、キメラはキメラだってのに」
はぁ、と大げさなため息を吐きながら大垣が呟く。強くないキメラだから、一般人でも逃げきれるほどのキメラだから、という理由で街の住人達は警戒心が薄れている。
だが大垣の言う通り、キメラはキメラでありいつ怪我をさせられるか分からないのだ。
(「ま、かく言う俺も危ないとはあんまり思ってないんだけどな」)
煙草を吸いながらジャックが心の中で呟く。芹佳の知り合いという事で手伝いをしようというのが彼が今回の任務に参加した動機だった。
(「7人の能力者も集まってるんだし、ヤバい状況にはならない――と思うんだけどな」)
ふぅ、と紫煙を吐き出しながらジャックはちらりと芹佳を見る。
「もしかして能力者の方ですか?」
キメラを捜索中、警察官から話しかけられ「そうだけど‥‥」と芹佳が言葉を返す。
「実は、向こうにキメラがいまして‥‥能力者の人を探していたんです」
「え、何処だ?」
ジャックが地図を取り出すと、警察官がそれを覗き込み「此処です」と指差す。その場所の近くには赤印でつけられている空き地があり、戦闘する場所には困る事はなさそうだった。
「あー、B班だけど地図のポイントD地点にキメラが現れたらしい。今から近くの空き地に誘導するから空き地に向かっていてくれ」
ジャックはトランシーバーでA班に連絡を入れると、警察官がキメラを発見した地点へと急いだのだった。
―― キメラとの戦闘 ――
「やっぱりひな祭りなんだな。2体一緒に行動してるみたいだし」
キメラがいる場所まで急ぎながらジャックが呟く。あれから警察官にキメラが2体いたのかなどを聞くと、一緒にいるという言葉が返ってきた。
「‥‥いた!」
芹佳が呟き、走る足を止めて前方を見る。すると確かに重そうな着物を着ており動きにくそうなキメラが2体、存在している。
「お雛様かぁ‥‥」
大垣はポツリと呟いて『ちっちゃい頃はなりたかったなー』と心の中で言う――そして我に返った大垣は顔を真っ赤にする。
(「な、何恥ずいこと考えてんだ! あたし!」)
自分で自分を叱咤し、大垣は愛用の釘バットを構える。
「A班はもう空き地に着いてるらしいから、慌てず急がずで誘導しよう」
芹佳が覚醒を行いながら呟き、小銃S−01を構える。
「よーし、ガンバレ。危なくなったら交代するから」
煙草を吸いながら少し気の抜けるような口調でガトリングガンを構えたジャックが言葉を投げかける。
「てめぇ、気にいらねぇな。ちょっとそこの公園まで来いよ!」
大垣はキメラにメンチを切りながら叫び、つかずはなれずの距離を保ちながらキメラを公園まで誘導する。キメラから弓攻撃などが来たけれど大垣は鍋のふたでそれを防ぐ。
誘導を始めてから30分ほどが経過した頃、漸くA班の待つ公園へとキメラを誘導する事が出来て、能力者たちはキメラを殲滅するためにそれぞれ攻撃を仕掛ける。
「内裏雛はもともと代理雛。人の不幸を代わりに引き受けて川に流されるのが役割どす。あんたらも早う流れ雛になりぃや」
正倉院は呟きながらスパークマシンαを構えてスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。2体同時に現れたため、宵藍は弓使いのキメラから先に無力化する事を狙い、スキルを使用しながら一気に距離を詰める。宵藍の速さにまったくついてこれていないキメラは弓を引くけれど、宵藍によって弓の弦を斬られてしまう。
「これで弓は使えんだろ。塁死(くたばれ)!」
宵藍はキメラの首を狙い、スキルを使用しながら攻撃仕掛けるのだが槍使いによって攻撃され、急所をそれてダメージを与えてしまう。
「移動がかなり遅いな、それでは俺達には勝てないのだよ」
緑間はアキレウスを構え、槍使いにスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。元々の動きも鈍いのか、それとも服のせいなのか、どちらかは分からないけれどキメラは攻撃を避ける事が出来ずにマトモに攻撃を受けてしまう。
「‥‥ファリスは負けないの!」
戦災孤児であるファリスは、両親や友達をバグアに殺された過去を持ち、キメラやバグアに対する憎悪はそのか弱い外見からは分からない程に大きく抱えている。
「奪うことしかしない‥‥あなたたちにファリスは負けないの!」
グラーヴェを構え、スキルを使用しながらファリスは攻撃を仕掛ける。
「そんな動きじゃ、当たらないよ」
芹佳は呟きながらキメラの攻撃を避け、そして蛍火を構えて攻撃態勢を取る。
「READY! ‥‥GO!
ジャックが呟き、ガトリングガンでスキルを使用しながら攻撃仕掛けてきて、芹佳はその攻撃に合わせてキメラを攻撃する。
「キメラはこれでも食らってろ!」
大垣はスキルを使用し、釘バットを両手持ちにしてフルスイングで「ぶっ飛びやがれ!」と叫びながら攻撃を仕掛けた。
「人の不幸を代理する者が、人を不幸にするんは感心しませんえ」
正倉院がスパークマシンαで攻撃をしながら呟く、その攻撃で槍使いの動きが僅かに止まり、隙を突いた宵藍が懐へと潜り込む。
「懐に入られたら、お前の負けだ」
宵藍が攻撃を仕掛け、
「‥‥まったく、お前は本当に重いのだよ」
と自らの武器に愚痴りながら緑間もキメラの背後から攻撃を仕掛ける。彼は今日の占いで1位だったらしく「今日のしし座はとまらんぞ」と楽しげに言葉を付け足した。
7人もの能力者に囲まれ、そして俊敏に動く事も出来ないキメラ、誰が見ても勝敗は明らかで能力者たちは互いにカバーをしながら攻撃を行い、2体のキメラを見事退治してみせたのだった。
―― キメラ退治して ――
「大丈夫?」
キメラを退治し終えた後、傷を負った者はスキルを使ったり救急セットを使ったりで治療を行っていた。
「こんなの唾つけときゃ治るって!」
大垣は気丈に振舞いながら芹佳へと言葉を返す。
「しかし動きが遅いとは聞いていたが、あれほどとはな。そのおかげで大きな怪我もなく任務を終えることが出来たのだけれど」
緑間は呟きながら能力者達を見渡す。無傷で任務終了――というわけにはいかなかったけれど比較的軽い傷で任務を終える事が出来てほっとしている。
(「ファリスは‥‥負けない、これからも‥‥負けないの」)
今回、人型キメラだったせいなのか少々戦い方が荒っぽくなっていたファリスは拳を強く握り締めながら心の中で呟く。まるで己を戒めるかのように。
「おつかれさん、初陣の人はおめでとう」
ジャックが相変わらず煙草を吸いながら能力者たちに労いの言葉を投げかける。
そのとき、音楽が流れ始めて能力者達が音のほうへと視線を向けると芹佳が壁にもたれながらハーモニカを吹いていた。
青空に澄み渡るようなその音色は戦いで疲れた能力者達の心へとじんわり染みこんでいったのだった。
END