タイトル:【AP】ミズキメラ再びマスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/11 22:13

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

※※※

それは、もういい加減にしてくれといいたかった。

それは、もういい加減に退治されそうな気がしてきた。

こんなもののために駆り出される能力者たちの身にもなれと叫びたかった。

※※※

「またかよ」

資料を見て、男性能力者はがっくりとうなだれる。

「またね」

資料を見て、女性能力者は怒りに拳を振るわせる。

「何で、こんなに脱走できるんだよ。ちゃんと研究所のやつは管理してねぇのかよ」

2人がそれぞれ頭を悩ませているのは、キメラ研究所から脱走したミズキメラの事だった。

一度は脱走して捕まえられたのだが、再び脱走してしまったと研究所から連絡が来たのだ。

「同感ね。今度こそ殺してもいいんじゃない?」

「でもなぁ、微妙に害がないんだよ」

ほら、と男性能力者が読んでいた資料を女性能力者へと渡す。

そこに書かれていた被害状況は‥‥。

・畑のカカシを奪われた(被害者・20代・農業者)
・夕飯用の魚を奪われた(被害者・30代・主婦)
・ゲーセンで割り込みされた(被害者・10代・学生)
・干していたふんどしを奪われた(被害者・70代・男性)

「最後のはどうかと思うんだけど」

「干してるやつ奪うなよって話だよな」

「さて、どうするのかしらねぇ‥‥」

苦笑しながら女性能力者は呟き、資料に視線を落としたのだった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
レヴィア ストレイカー(ga5340
18歳・♀・JG
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER
長門修也(gb5202
15歳・♂・FC
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
美沙・レイン(gb9833
23歳・♀・SN
紫翠 瀬良(gc1079
16歳・♂・DF

●リプレイ本文

―― ミズキメラは逃げる ――

 すべての始まりは、キメラ研究所に収容されているミズキメラが『また』脱走した事からだった。
 何で脱走出来たのか、どうやって脱走したのか――という事はこの際適当に投げ置いておこう。
 とにかくミズキメラから受ける被害は(大した事はないけれど)増えるばかりで能力者達が出動を要請されたのだった。

「また、逃げてしまったのですか‥‥?」
 石動 小夜子(ga0121)は頬に手を置き、かくりと首を傾げながら呟く。
「他のいたずらは‥‥まだ分かる‥‥けど‥‥何故ふんどしを‥‥盗んだんだろう‥‥」
 幡多野 克(ga0444)が被害状況を見ながら呟く。カカシを奪ったり、魚を奪って食べたり、ゲーセンで割り込みをしたりなど子供染みた被害が多いのだが、何故かふんどしを奪われたという老人男性からの被害届も受けている。
「どっかの不良みたいなキメラですね。危険じゃないですが、本当に迷惑な感じが何とも言えない鬱陶しさを備えています」
 長門修也(gb5202)が「はぁ」とため息を一つ漏らしながら呟く。
「ええと‥‥畑のカカシを両手に抱えて、そしてそれを武器にしてるのよ、ね? どこかの不良というより、どこかの痛い子にしか見えないのは気のせいかしら‥‥」
 美沙・レイン(gb9833)がミズキメラの状態を想像してみるけれど、それはキメラというより痛い子が戦いを仕掛けてきている姿しか想像出来ず、苦笑する。
(「ミズキメラか‥‥どんなものなんだろう」)
 紫翠 瀬良(gc1079)が資料を見ながら心の中で呟く。資料から読み取った情報でミズキメラの姿を想像してみるけれど、美沙と同じく痛い子しか想像出来ず、紫翠は首を傾げた。
「またなのね」
 シュブニグラス(ga9903)は苦笑しながら呟く。何でも彼女は旅行が続いて懐事情が寒くなった為に簡単な任務を選び、今回の依頼を見つけたらしい。
「‥‥‥‥」
 そんな中、キメラやバグアに対して激しい嫌悪感を持っているファリス(gb9339)も資料をジーっと見ていた。
「‥‥ファリスはキメラ、嫌いなの。でもさすがにこのキメラさんを殺すのは何か気が引けるの。だから、お仕置きをして二度と悪さしないように躾けるだけでいいと思うの」
 ファリスの言葉に「‥‥確かに、とにかく‥‥連れて帰ろう‥‥」と幡多野も言葉を返した。
 そんな中、集合場所近くで猫――もといレヴィア ストレイカー(ga5340)は困っていた。子供らとのふれあいの為に着ていた耳と尻尾が茶毛でお腹に肉急マークのついている白い猫の着ぐるみが脱げなくなっていたのだ。
「任務の集合時間になっても脱げないなんて‥‥」
 うろうろとどうしようと迷っているその姿は何処かほほえましいものがあった。
(「こうなったら自棄で猫になりきって任務をやろうかしら」)
 意を決して能力者たちの前に姿を現し、挨拶をしながらレヴィアはそんな事を考えていたりしていたのだった。
 しかし、幾度となく姿を現すミズキメラ――誰も『殺してしまえ』と言わないあたりが優しさいっぱい胸いっぱいで涙が出そうである。


―― 意味不明なキメラ・ミズキメラ ――

 今回、能力者たちがミズキメラを捕獲する為の舞台となったのは町。あまり大きな町ではないがキメラが現れたとあってやや緊張気味の雰囲気だった。
「とりあえず、探さないといけませんね」
 石動が呟く。今回の能力者たちはミズキメラを迅速に見つける為に班を4つに分けて行動する作戦を立てていた。
 1班・ファリス、長門の2人。
 2班・石動と幡多野の2人。
 3班・紫翠とレヴィアの2人。
 4班・美沙とシュブニグラスの2人。
 小さな町なので、班を4つに分けて探せばそこまで苦労なく見つける事が出来るだろう。
「‥‥それじゃ‥‥何かあったら‥‥連絡は取り合うようにすれば‥‥いいんじゃないかな」
 幡多野が呟き、能力者達も首を縦に振ってそれぞれの相棒となる能力者と行動を開始し始めたのだった。

※1班※
「では参りましょうか。さっさと捕まえましょう」
 長門が呟くとファリスも首を縦に振り、ミズキメラ捜索を開始する。最初に向かったのはカカシが盗まれた周辺。田んぼ道が続いており、その田んぼごとに幾つかのカカシが立っているのが視界に入ってくる。
「‥‥あれ、何か別なものが立っているの」
 ファリスが指を指すと、そこには『ただいまセール中!』と書かれた旗が立てられていた。しかも2本。
「ぬ、盗んだカカシの代わりに置いていったのかな‥‥」
 代わりを置くなら盗むなよ、と長門は心の中でツッコミを入れたい気持ちでいっぱいだったけれどあえて我慢した。
「あっ!」
 長門が呟き、ファリスが視線を移すと遠くの川でカカシを洗っている怪しげな人物を発見する。
「両手にカカシ‥‥カカシにふんどし、資料にある情報と一緒なの」
 ファリスが呟くと「じゃあさっさと捕まえますか」と長門が駆け出す。ミズキメラの所に向かう途中でトランシーバーを使い、他の班にも連絡を入れる。
「あっ」
 しかし、まだ距離がある時点でミズキメラが長門とファリスに気づいてしまい、洗っていたかかしを両脇に抱えて一目散に逃げ出してしまった。
「あぁ‥‥此処からじゃあのスピードで逃げられたら追いつけないの‥‥」
「な、何であんなに早いんだよ‥‥」
 少し息を切らしながら2人は呟き、再びトランシーバーを手にとって逃げられた事を伝えたのだった。

※2班※
「隠れるつもりはないと思っていましたが、逃げられちゃったみたいですね」
 1班の連絡を受けた後、石動が苦笑しながら呟く。
「うん‥‥でも‥‥その前に‥‥‥カカシは洗うものじゃない‥‥と思う」
 幡多野が小さく呟く。きっと現れたカカシは酷い有様になっていそうだ、とも幡多野は言葉を付け足した。
「姿を見られて逃げられたという事は、もしミズキメラを発見しても見つからないように近寄らなくちゃいけませんね」
 石動の言葉に「‥‥そうだね」と幡多野も言葉を返す。石動と幡多野が捜索に来ているのは被害にあった『夕飯の魚を奪われた』という家の近く。この辺は住宅街になっており、幾つもの家やマンションが密集していた。
 ちなみに2人は此処に来るまでに公園を通ってきたのだが、そこには石動が罠を仕掛けていた。
 罠といっても大きな籠の中にふんどしを仕掛け、ふんどしを取ろうとしたら棒が外れて籠の中に捕獲――というシンプルなものだった。
「でも‥‥一枚既に入手してるし‥‥引っかかるかな」
 幡多野が思い出すように呟くと「いいえ、甘いです」と石動が呟く。
「欲望とは際限無きもの。きっとミズキメラも引っかかると思います――ふふ‥‥楽しみです」
 そう呟くのだが、最後の言葉だけは何処か黒い笑顔を見たような気がした幡多野だった。
「「あっ!」」
 前方からやってくるのは紛れもなくミズキメラ。何かから逃げるように必死の形相で走ってきている。どうでもいいが、走るたびにひらひらとなびくふんどしに何故か視線が行ってしまう。
「ああああああああああああっ」
 しかしミズキメラは蓋の開いていたマンホールに落ちてしまう。
「ええっ!?」
 慌ててマンホールの中を覗いてみると、既にそこにはおらず「あーあーぁー‥‥」と遠ざかっていくミズキメラの叫び声が2人に聞こえた。おそらく下水に流されていったのだろう。
「‥‥えっと、実は今ミズキメラを発見したんですけど‥‥下水に流されていってしまいました‥‥」
 伝えられた方は「何故そんな状況に!?」とツッコミを入れたくなるほどの状況だろう。
「‥‥とりあえず‥‥どこから出てくるか‥‥分からないから気をつけて」
 幡多野も連絡を行い、2人は捜索を再開したのだった。

※3班※
「川でカカシ洗って、下水に落ちて‥‥何がしたいんだろう」
 1班と2班からの連絡を受け、紫翠が呟く。
「殺す為の存在であるキメラなのに、妙な事に精を出すキメラにゃ」
「‥‥‥‥にゃ?」
 レヴィアの言葉の後、紫翠がジーッとレヴィアを見て呟くが、あまり気にしていないのかミズキメラ捜索を続けている。
「被害状況――とは言っても悪戯レベルだけど、どうしようかな」
 レヴィアと紫翠が捜索している場所は10代の男子高校生がゲーセンで割り込みをされた周辺。この辺は商店街になっておりさまざまな店が立ち並んでいる――とは言っても小さな町なのでそこまで多くの店はないのだけれど。
「悪戯好きなら、私のこの格好に惹かれて来ないかにゃ!」
 レヴィアが自分を指差しながら紫翠に問いかけると「うん、この周辺にいるなら来るかも」と言葉を返した。
「うわぁあああんっ!」
 子供の泣き叫ぶ声にレヴィアと紫翠が視線を移すと、小さな女の子が持っている猫のぬいぐるみを奪うカカシを抱えた怪しげな人物を見かける。
「あのカカシ抱えてる奴ですかね?」
「ミズキメラにゃん!」
 レヴィアが叫ぶとミズキメラが2人に気づく。そして逃げようとしたのだが、レヴィアの猫姿を見て目をクワッと見開き、勢いよく2人へと向かって駆け出してくる。
「な、な、何なのにゃんっ!?」
 レヴィアが少し怯むとミズキメラはレヴィアのお腹の肉球マークを撫でると満足そうに手を挙げてそのまま行こうとする。
「ちょっと待ちなよ」
 紫翠が呼び止めると、ミズキメラはカカシ(ふんどしを下げていない方)を投げつけて奪った猫のぬいぐるみを抱えて逃げ出した。
「あっ、逃げた! ちょ、ちょっと待つにゃん!」
 レヴィアが追いかけようとしたら、その辺においてある看板などを倒して道をふさぎ、物凄いスピードで逃げていく。
「な、何がしたいんだろう、本当に‥‥」
 紫翠は逃げていくミズキメラを見ながら小さく呟いたのだった。

※4班※
「さて、みんなからの報告によると意味不明な行動ばかり起こしてるわねぇ」
 シュブニグラスが苦笑しながら呟く。
「まったくよね、えぇと‥‥この辺は例のふんどし奪われたお爺ちゃんの家付近ね」
 美沙が周りを見ながら呟く。
「それにしても何でふんどしなのかしら。しかも使用済みの干してあるふんどし‥‥私だったら絶対に盗まないわ」
 美沙が呟くと「きっと物凄く魅力的なものに見えたのよ」とシュブニグラスが言葉を返す。
「あら、ここに公園があるのね」
 シュブニグラスが公園を見かけて足を止める。すると罠のようなものが見えて2人は互いに顔を見合わせた。
「誰か、設置したのかしら‥‥」
「明らかにミズキメラ対策――よね、あれ」
 籠の中に仕掛けられたふんどしを見て呟く。
「あ――隠れて!」
 美沙がコートを翻しながらシュブニグラスの背中を押して姿が見えない位置まで移動する。
「どうしたの?」
 シュブニグラスが問いかけると、美沙は言葉は返さずに先ほど立っていた周辺を指差す。
 すると籠の中のふんどしに目を輝かせながら近づくミズキメラの姿があった。
「えぇっと、今こっちは公園にいるんだけど――何か罠みたいなものにミズキメラが近づいているわ。だから公園に来てね」
 美沙がトランシーバーで連絡し、ミズキメラが罠に掛かる事、そして能力者達がやってくるのを待ち始めたのだった。


―― ミズキメラを捕獲せよ ――

「いつまで見てるのかしら」
 あれから20分、既に能力者達は合流しているのだが、ミズキメラはふんどしを眺めているだけで罠にかかる様子はない。
「あ、引っかかる!」
 長門が呟いた瞬間、籠を支えていた棒が倒れてミズキメラを捕獲した。しかし能力者達は逃げ出したお仕置きも考えており、このまま簡単に研究所へと送り返す事は考えていない。
「私はここで逃げないように見張っていますね」
 入り口付近に石動が立ち、ミズキメラが逃げないようにする。
「‥‥カカシは奪わせてもらうよ」
 呟く幡多野だったが、武器が猫槍『エノコロ』なのでミズキメラにくすぐる程度のダメージしか与えられない。しかも喜んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「ふんどし‥‥単なる布に見えるかもしれないけど、あれは下着だから。盗んだりしたらいけないよ?」
 幡多野が言うけれど理解はできないようでカカシで威嚇してくる。
「悪いキメラにお仕置きにゃ〜! 褌奪われたお爺ちゃんのあだ討ちにゃっ!」
 ちなみに老人は死んでいない。
「カカシなんて振り回して‥‥それカッコイイって思ってるのか!? ぶっちゃけダサイよ!?」
 長門の言葉にミズキメラはかなり(精神的に)ダメージを受けたように驚いた表情をしている。おそらくカッコイイと思っていたのだろう。
「ふふ、私の曲撃ち、見ていきなさい!」
 美沙は大きく叫ぶとマシンガンと小銃を使い分けながらまるで曲芸でもするかのように零距離射撃と内臓ブレードを展開して(峰打ち)攻撃を仕掛ける。
「捕まえてもまた脱走したら意味がありません。逃げようと思わないように躾けておきましょう」
 巨大ピコピコハンマーをスチャっと構えて無表情で殴っていく紫翠が一番怖かったかもしれない。
「わんわんでも悪い事したら、お仕置きされるの。だから泥棒した罰は受けてもらうの! 泣くまでファリスは叩くのをやめないの!」
 キッと強い瞳でファリスが言葉を投げかけるのだが、既に泣いているミズキメラに対して彼女はどうするのだろう。
「泣いてもやめてあげないの!」
 ファリスは言葉を言い直しながらグラーヴェの柄部分でぼこぼこと殴り始める。
「ふふ、これの出番かしらね」
 シュブニグラスは金色に塗った閃光手榴弾を取り出して見る。ちなみにミズキメラの目の前で使うと他の能力者にも伝えてあるのだが‥‥。
「き、気を失ってる‥‥」
 どうやら使う前に気を失ってしまったようで、金色に塗られた閃光手榴弾が悲しく輝いたのだった。

 それから研究所の人間がミズキメラを引き取りにやってきた。二度も脱走されているので少しばかり申し訳なさそうな表情である。
 しかし――‥‥。
「ううううううう」
 檻の中からジト目で能力者を睨み付けるミズキメラ。
「う〜ん、あいつの目はあきらめてないにゃ‥‥いつかきっとまた逃げ出す気にゃ」
 レヴィアが呟き、結局ジト目で見たまま車に揺られてミズキメラは研究所へと戻されたのだった。

END