●リプレイ本文
―― 花が繋ぐ恋の歌 ――
(「行方不明の能力者か‥‥とにかく早期の発見が重要か」)
今回の任務内容を見てリヴァル・クロウ(
gb2337)が心の中で呟く。今回の任務は、自分が危険な場所に残り、仲間を逃がした男性能力者の救助任務と残っているキメラ退治の任務だった。
(「一週間か‥‥無事でいてくれればいいが――ともかく早急な救助が必要だな」)
宵藍(
gb4961)もリヴァルと同じ事を心の中で呟く。キメラが残っている場所に一週間、しかもおそらく救助対象の男性能力者は無傷ではない。その事もあって一週間という時間が恐ろしく厳しい現実を突きつけようとしていた。
「お願いです、どうか‥‥あいつを助けてやって下さい」
救助対象の彼と一緒に任務に向かい、逃がしてもらった能力者達が申し訳なさそうな表情で呟く。至る所に包帯が巻かれており、命に関わる傷ではなかったと言っても暫く任務を行うのは無理だろうという事が伺えた。
「その時の状況などを教えてくれ。実際に現場に行っているのは君達しかいないからな」
リヴァルの言葉に能力者達は廃墟の地図を取り出し、戦闘地点などを細かく記入していく。
「俺達も悪かったんだ、不意打ちされた時の事を全く考えていなかったから‥‥予想外の出来事が起きて、冷静さを失ってしまった‥‥」
「ふむ」
緑間 徹(
gb7712)はくいっと眼鏡をなおしつつ資料と能力者達とを交互に見る。
「敵は不意を狙ってきた、意外にクレバーな相手と見よう。直感を頼りに警戒はするが‥‥此方としても狙われる状況にひとつ心当たりはある」
緑間の言葉に「狙われる状況?」と天原大地(
gb5927)が問いかけるように言葉を返した。
「おそらく、此方の隙が出来るのは要救助者に意識が注がれる時。敵はその瞬間を狙ってくるかもしれない。確実とは言えないから警戒するポイントの1つとして考えて欲しい」
緑間の言葉に「あぁ、なるほどね。確かにそうだな」と天原も言葉を返す。
「‥‥残されてから一週間‥‥無事だと良いのですが‥‥」
結城 有珠(
gb7842)も少し表情を曇らせながら呟く。やはり宵藍と同じく『一週間』という時間が能力者達に万が一の可能性を考えさせているのだろう。
「あの人も心配してるし、どうか無事に帰ってきて欲しい‥‥」
「あの人?」
負傷した能力者達が呟いた言葉に獅月 きら(
gc1055)が首を傾げながら問いかける。
「あぁ、あいつがよく行ってる花屋の店員さんだよ。別の店員が言うには今回の事ですごくショックを受けてるらしくて‥‥」
「必ず、連れて帰りますから。その人の為にも、あなた達の為にも」
獅月の言葉に「ありがとう、お願いします」と深く頭を下げながら頼んできた。
(「仲間の為に残った人ですか‥‥獅月さんも言っている通り、必ず連れて帰らねばなりませんね」)
バーシャ(
gc1406)は心の中で呟き、手を強く握り締めたのだった。
「‥‥‥‥」
その様子を見ていたアンナ・キンダーハイム(
gc1170)がスッと時計を指差す。おそらく『早く行こう』『時間がどんどん過ぎていく』という事を言いたいのだろう。
「そうだな、確かにこのままこうしていても状況は悪くなっていく一方だ。すぐに出発しよう」
リヴァルが呟き、能力者達は残された男性能力者を救助すべく、そして廃墟に残っているキメラを退治すべく本部を出発したのだった。
―― 崩れた町、かつては賑わっていたであろう町 ――
今回の能力者達は班を2つに分けて行動する作戦を立てていた。
A班・リヴァル、緑間、結城、アンナの4人。
B班・宵藍、天原、獅月、バーシャの4人。
「実際に見てみると、そこまで大きな町でもなかったんだな。ただ‥‥瓦礫とかが散乱してる分、警戒を強くしないとマズいだろうな」
前に来た奴等も不意打ち受けてるからさ、と天原は言葉を付け足しながら呟く。
「‥‥‥‥」
捜索開始――という所でアンナが一枚の紙を見せる。そこには先ほど聞かなかった撤退した能力者達が取ったルート、そして残っている能力者の食料などの情報も纏められていた。
「なるほど、こちらの道を通ったんですね」
緑間が呟き、地図と情報とを照らし合わせる。
「たとえ逃げ回ってでも生きていてさえ下されば‥‥」
バーシャが呟く。
そして能力者達はそれぞれ違うルートから捜索を開始したのだった。
※A班※
「リヴァルさん、宜しくお願いしますね」
結城が丁寧に頭を下げながら挨拶すると「此方こそ宜しく」と言葉が返ってくる。
「そういえば元々は今回のキメラではなく、別のキメラによって壊された町のようだ」
リヴァルが資料を見ながら呟く。昔に壊されたせいか、既に朽ちかけているものもちらほらと見受けられた。
そしてリヴァルは常に目印となる物を見つけ、入り口からのルートを記憶している。
「‥‥あの木」
緑間が呟き、折れた木に近づく。その木が折れたのはここ最近ではないらしいが、木につけられた傷は真新しいものだった。地面を見ると、赤黒く変色しかけた血痕のようなものも点々としていた。
「この血痕、そこまで古くはありませんね。この血の持ち主は‥‥こちら側に向かったと思われます」
結城が前方を指しながら呟く。その言葉を聞いてアンナが首を傾げる。
「血痕の突起物が片方にしかないのは走りながらや歩きながら落とした場合に見られる特徴です。その際、進行方向の方に突起物が出来ると本で読んだ事があります」
ほら、と結城が少し先を指すと確かに血痕は結城の言う通りに続いていた。
「‥‥‥‥へぇ」
アンナがポツリと言葉を漏らす。そして4人は血痕の続く方向へと警戒しながら進んでいく。もちろん不意打ちを受けないように警戒、という理由もあったけれど血痕の先にいるのが必ずしも要救助者――という証拠があるわけではないからだ。
「この辺で血痕は途切れてますね」
結城が呟き、周りを見渡してみるけれど誰かがいそうな気配は感じられない。
「あの血痕も乾ききっていたからな、いつまでも此処にいるとは考えられない」
緑間の言葉にアンナも無言で首を縦に振る。
その時だった。近くで激しい音が聞こえたのは。4人が勢いよく音の方を見るとふらふらになりながら逃げる男性能力者と追いかけるキメラの姿があった。
※B班※
「2mの男が不意打ち‥‥スナイパーみたいだな」
苦笑しながら宵藍が呟く。
「こんなに崩れて‥‥ひどい有様です」
獅月が町の様子を見ながらため息混じりに呟く。そして彼女が歩くたびに腰に括りつけた明かりを灯していないランタンが揺れる。
「‥‥どの傷が今回のキメラが暴れて出来た傷なのか分からねぇな」
天原は前方を特に警戒しながら歩き、曲がり角や壁際での待ち伏せ、トラップが仕掛けられていないかなどを警戒する。
そして逆に後方から歩いているバーシャは死角、頭上、背後などの警戒をしながら捜索を続けた。
「仲間の為に残ったやつを、死なせてたまるかよ」
ポツリと天原が呟く。天原自身が仲間や友を何よりも重んじる性格であるため、今回の仲間を逃がす為に囮になった男性能力者を必ず助けたいという気持ちがあった。
だが、それと同時に捜索しても手がかりすら出てこない現状にイラつきつつもある。
「そうですね、それに‥‥私はあの人達と約束しました。必ず連れて帰りますって」
獅月が負傷した能力者たちと交わした約束を思い出しながら呟く。
「約束は守るものです、だから‥‥私達は必ず残った能力者の人を助けるんです」
獅月の言葉に「そう、ですね‥‥焦らずに諦めずに頑張りましょう」とバーシャも言葉を返した。
その時、A班から「キメラと要救助者を発見した」という連絡が入る。男性能力者の方は無事に保護したけれどキメラには逃げられた、という連絡も同時に入った。
※A班※
「大丈夫ですか?」
結城がスキルを使用しながら男性能力者を治療し、話しかける。先ほど男性能力者とキメラを見つけたA班は間に入って男性能力者を助け出していた。
そして結城がすぐさま離れた場所まで連れて行き、治療を始める。その間に他のメンバーが男性能力者と結城の方にキメラが行かぬよう戦ったのだが、キメラには逃げられてしまったのだ。
しかしキメラが逃げる際にリヴァルが放った弾丸がキメラの足を貫き、キメラの動きに支障を来たす程度のダメージを与えていた。
「食料も2日前に尽きて、もう、だめかと思ってた‥‥」
その言葉を聞いてアンナがミネラルウォーターと板チョコを男性能力者へと差し出した。男性能力者はそれを見て「ありがとう」と言葉を返してがっつくように食べ、飲み始めた。
「傷の方はどうだ?」
リヴァルが問いかけると「出血は多少多いですけど、命に別状はなさそうです」と結城は言葉を返す。
「足をやられて、うまく逃げる事も出来なくなってたんで結構傷を受けたから‥‥」
結城が治療を施し終わるとほぼ同時にB班から「キメラを発見した」という連絡が入る。場所を問いかけるとすぐ近くであり、結城と男性能力者を置いて行こうとしたのだが「この子はサイエンティストだろ。戦闘において支援、回復、彼女がいないとだめなんじゃないか?」と男性能力者が話しかけてきて、キメラから離れた所にいるから、という条件で男性能力者もほとんど無理やりついてくる事になったのだった。
―― 合流・戦闘開始 ――
「向こうの班も近くにいたらしい。すぐに来るって言ってた」
宵藍はキメラに攻撃を仕掛けながら他の能力者達へと告げる。
「それじゃ、今度は逃げられないようにしておかないと――なっ!」
天原が呟きながらスキルを使用し、蛍火で攻撃を仕掛ける、
「大きな斧‥‥それで、何を絶ちたいんでしょう、ね」
獅月が無駄と分かりつつもキメラに向けて呟く。そしてスキルを使用しながら射撃を行い、前衛で戦う能力者達が戦いやすいように援護射撃を行う。
「私に出来る事は多くありませんから、だからこれだけはきちんとやります」
バーシャがスキルを使用し、キメラの防御力を低下させ、能力者達の武器を強化しながら呟いた。
そしてB班が戦闘を始めてから数分が経過した頃にA班も合流し、キメラを退治するために本格的に戦闘が開始されたのだった。
リヴァルはあえて後方へと下がり、小銃・十六夜で射撃攻撃を繰り出す。
「‥‥はぁっ!」
スキルを使用しながら宵藍はキメラとの距離を一気に詰め、心臓部分を狙って攻撃を仕掛けるのだがキメラからの反撃によって狙いが逸れてしまい、心臓を刺突する事は出来なかった。
「巻き添え食うなよ!」
天原はスキルを使用し、攻撃を行う。一応能力者達に声をかける事はしたけれど巻き添えを食わせる事など天原は考えておらず、ピンポイントで衝撃波を繰り出した。
「お前を見ているとデカいのは頭が足りてないと思われそうで癪なのだよ」
緑間は「行くぞ、アキレウス。お前の出番だ」と呟きながら愛用の武器を構えて攻撃を行う。しかしよけられてしまった――けれど緑間は驚く事はなかった。
「何も俺1人で戦うつもりはないのだよ」
悪いな、と呟き横へと飛ぶ。そして現れたのは小銃S−01を構えた獅月の姿。キメラは斧で銃撃を防ごうとしたけれど先ほど緑間に向けて斧を振り下ろしたばかり。獅月の攻撃を防ぐ事は出来ずに、斧を持つ手に銃弾が送られた。
能力者達に囲まれ、次々にダメージを与えられてキメラも弱りつつある事を知ったアンナはスキルを使用してキメラの防御力を低下させ、能力者達の武器を強化する。
そして前衛の能力者達は持てる力をすべてキメラへと叩きこみ、無事にキメラを退治する事が出来たのだった。
―― 帰還・小さな恋が実る時 ――
「一応応急処置はしましたけど、あくまで応急処置ですからきちんと病院で手当してもらってください」
結城が男性能力者に言葉を投げかけると「わかった。ありがとう」と言葉を返してきた。ちゃんと自分で歩けたこと、そしてちゃんと喋れる事から大事に至る事はないだろうと能力者達は考えていた。
「貴方がまた顔を出してくれるのを楽しみに待っている人がいるんです。さぁ、帰りましょう」
獅月の言葉に「え?」と男性能力者は間の抜けた声を返す。
「そういえば小耳に挟んだんだけど、花屋の店員がお前を心配してるとか。会いに行ってやれば?」
宵藍の言葉に男性能力者は「え、あ、そ、その‥‥」と明らかな動揺を見せる。
「貴方が逃がした人たちも凄く心配していました。早く元気になって姿を見せて上げてくださいね」
バーシャの言葉に「分かった」と男性能力者は言葉を返してくる。
「‥‥‥‥」
アンナは無言のまま男性能力者の傷を指差す。おそらく『早く病院に連れて行った方がいい』という意味なのだろう。
その後、能力者達は高速艇に乗って本部へと帰還し、LHにある病院まで男性能力者を連れて行き、キメラ退治と救助成功の報告をしに向かったのだった。
後日、ふらりと花屋へ赴いた緑間が見たのは明らかに両想いであろう男性能力者と花屋の女性店員の姿。
「あれか、今日の占いにあった『馬に蹴られないように注意』というのは‥‥」
そう呟く緑間に2人が気づく事はなかったのだった。
END