●リプレイ本文
―― 夜の森へ出発する者達 ――
今回の能力者達に課せられた任務、それはキメラ退治とは別にもう1つ存在した。
「あの森に実はもう1人いるんだよ‥‥」
今回の能力者達の前に赴いた能力者達が置いてきてしまった人物――その人物の救助も任務の1つに入っていた。
「誰を置いてきたのかを聞くのを忘れてたな‥‥」
まひる(
ga9244)は高速艇の中で呟く。キメラが徘徊する場所、しかも夜という事もあり能力者達はすぐに本部を出発したのだがどんな人物なのかを聞いた者はいなかった。
「まぁ、すぐに出発したんだし大丈夫だろ‥‥とは言っても能力者じゃなかったら危険だよな」
佐賀十蔵(
gb5442)は口元に手を当てながら呟く。ちなみに今回、彼が任務に参加したのは『猪鍋が食えるかもしれないから』という理由だったりする。
「真っ暗ですねぇ‥‥夜だから当たり前なんですけど。暗中模索‥‥とはいえ、まぁ出来る限り早めに済ませたい所です」
置いていかれた人の為にもね、とイーリス・立花(
gb6709)は言葉を付け足しながら呟く。
「到着したみたいね」
神楽 菖蒲(
gb8448)が呟き、能力者達は高速艇から降りる。すると森の中からけたたましい叫び声が聞こえる。それは獣の声のようでもあり、誰かが叫んでいる声のようでもあった。
「森が騒がしいわね。キメラ以外にも何かいるんじゃないの?」
神楽が呟くと「確かに‥‥キメラは猪型だったよな?」とユウ・ナイトレイン(
gb8963)が資料を確認しながら呟く。
「‥‥猪型で間違いないな‥‥猪ってこんな悲鳴みたいな鳴き声をするのか?」
ユウが呟くと「まさか。普通の猪ならありえないわ‥‥キメラだから一概にそうは言えないけど」と神楽が言葉を返した。
「暗いなぁ‥‥キメラなんかよりお化けが出てきそうで怖いよ。猪くらいなら、なんてことはないんだけど」
布野 あすみ(
gc0588)は苦笑しながら真っ暗な森を見上げた。真っ暗なせいで視界が悪いせいかキメラよりも幽霊の方が怖く感じてしまうのは、やはり布野が女の子だからだろう。
「森の中のキメラ‥‥被害が出る前に早々に掃除してしまわないといけませんね」
リュティア・アマリリス(
gc0778)は愛用の双短剣をちらりと見ながら呟く。
「そういえば、そこなんか待機用の場所に最適ではありませんか?」
リュティアが森の入り口から少し歩いた所を指差して呟く。
今回、能力者達は捜索班と待機班に分かれて待機班は拠点となる場所で捜索班からの連絡を待つ――という方法を取っていた。
捜索班(A)・まひる、神楽。
捜索班(B)イーリス。
待機班・佐賀、リュティア、布野、ユウ。
「ま、何かあったらトランシーバーで連絡取り合うようにすればいいかな」
まひるが呟き、待機班はそのまま、そして捜索班は夜の森へと向かって出発したのだった。
※捜索班※
本当ならば捜索班は2つに分かれて行動――という作戦を取っていたのだが、急遽1人来られなくなり、捜索班はまひる、神楽、イーリスの3人で行動する事になった。
流石にキメラが徘徊している場所でイーリス1人の捜索になってしまえば何が起こるか分からないからだ。
「キメラもいますし、あまりおおっぴらに騒音や光源をばら撒くのもマズイですよね‥‥」
イーリスは呟きながら探査の眼を使用し、暗視スコープを使いながらキメラ、そして迷い人を探す事にしたのだった。
「あ、とりあえず待機班にも飲ませたんだけど。コーヒーでも飲もう」
まひるは自身でブレンドしたコーヒーを神楽とイーリスにも振舞い、そして自分でも飲む。
「眠くなる前に済ませちゃいたいもんだね」
飲みながらまひるが呟くと「そうね、早く済ませてベッドで眠りたいものだわ」と神楽も言葉を返してきた。
「‥‥見つかりませんね。やはり、昼間を待つべきだったのでは?」
イーリスが呟く。
「でも昼間を待つ間に最悪の状況にならないという保障もないものね」
神楽が言葉を返す、確かに昼間を待った方が任務成功率はぐっと上がるだろう。それがキメラ退治だけならば。
だが先ほど神楽が言った通り、昼間を待って最悪の状況になる可能性も考えられる以上は多少無理をして夜に動かなければならないのだ。
「印つけてんの?」
まひるが神楽を見ながら呟く。神楽はさっきから歩くたび、迷わないようにと木に紅で傷を入れて目印をつけながら歩いていた。
「暗くて見えにくいけど、つけないよりはマシでしょ」
「ちょっと待って」
まひるが呟き、神楽とイーリスは足を止めてまひるを見る。
「どうかしましたか?」
「何か、聞こえない?」
まひるが呟き、イーリスと神楽は耳を澄ませる。
「きゃああああああっ! 誰か助けてェェェェェ!!」
女性の叫び声に3人が身構えると、物陰から狼に追われた女性が現れた。
「キメラ!?」
「いえ、ただの狼みたいね」
イーリスと神楽が呟き、まひるが狼を追い払うと「助かったぁっ!」と女性はその場に座り込んだ。
「一般人? もしかして置いていかれた人‥‥?」
神楽が呟き「ありが――」と女性がお礼を言おうとしたのだがイーリスの姿を見て「ひぃっ!」と座ったまま後ずさりを始めた。
女性――ネコタマが驚くのも無理はない。なぜならイーリスの格好は黒尽くめ、其の上にフェイスマスク着用。ぱっと見た目ではバグア戦闘員に見えても仕方がないのだ。
「きゃあああ! ネコタマはヨリシロにしても役に立ちませんっ! おまけに最近ちょっと便秘気味で食べても美味しくないですし! っていうか乙女に何言わせるのっ!」
べしっとツッコミを入れながらネコタマは一人漫才を続けた。
「あー‥‥とりあえず、あんたが誰か聞いていい? この森にはキメラと置いていかれた人がいるって聞いていたんだけど」
「それ私! 置いてかれたの私! っていうかあの人達帰ってたの!? 信じられない! 同じ仲間のはずの能力者を普通置いていく!?」
きぃぃ、と1人でネコタマは頭を抱えながら今はここにいない能力者達に向けて文句を飛ばし続ける。
「‥‥能力者?」
てっきり一般人だと思っていた神楽は能力者発言をするネコタマを少し驚いた表情で見ている。
「うい! 猫井珠子! 今回が2回目の任務のスナイパーでっす! ちなみに迷ったからはぐれたんだけどねっ!」
あは、と笑うネコタマの言葉を聞いて(「能力者で迷うなよ」)と心の中で3人の声が一致したのは言うまでもない。
その後、ネコタマを発見した事を待機班に連絡して、キメラ捜索を続ける事になったのだった。
※待機班※
「また猫井か‥‥にしても何で迷子になるんだ? まぁ‥‥とりあえず無事ならいいんだが‥‥」
捜索班から置いていかれた人物――猫井を保護した事を聞いたユウはため息混じりに呟いた。
「‥‥タマったら、こんな所で何してたんだろ‥‥」
「何でもはぐれて仲間に置いていかれたらしいぞ」
佐賀の言葉に「タマらしいって言えばタマらしいけど‥‥何だかねぇ」と布野は苦笑しながら小さく呟いた。
「まぁ、キメラではなく獣に追いかけられるだけで済んで良かったです。これがキメラでしたらもっと酷い状況だったんですもの」
リュティアの言葉に「確かに。悪運は強いのかもね、タマは」と布野が苦笑しながら言葉を返したのだった。
「そういえば猫井さんは此方に向かっているんでしょうか?」
リュティアが小さく呟くと「いや、捜索班と一緒にキメラを探しているらしい」と佐賀が言葉を返した。
「そういえば、ネコタマさんか‥‥どんな人かな?」
佐賀が小さく呟く。先ほど通信の先から聞いた感じでは騒がしい人だという事しか分からなかった。
「うーん、騒がしいし精神年齢が低い――かも?」
苦笑しながら布野が呟く。ユウと布野はネコタマとの面識があるので説明しようとするけれど『騒がしい』という言葉以外にネコタマにぴったりな言葉は中々思いつかなかった。
その時だった。捜索班から「キメラと遭遇した」という連絡を受けたのは。待機班は捜索班がいるある程度の方向を聞いて、数分後にイーリスが照明銃を打ち上げるという事で正確な場所を特定する事にしたのだった。
―― 戦闘開始・猪キメラとネコタマと能力者と ――
キメラを発見してイーリスが照明銃を打ち上げてから10分ほどが経過した頃に待機班が捜索班と合流した。合流したとは言っても、身を隠しながらだったため、キメラに気づかれる事はない。
通常の猪より少し大きめのキメラで大きな牙が特徴的だった。
「へっへっへ、猪狩りの時間だぜ。中々の大物で嬉しいぜ」
佐賀はひょっとこのお面を着用しながら呟く。合流した事を知ったネコタマは「何故に今回はこんなに怖い人が複数いるのですかっ!」と少しびくびくしながら頭を抱えて叫んでいる。
「照明銃いくよっ!」
軽快な動きで木の上へとのぼり、照明銃を撃つ。すると光の玉が打ち上げられてぱっと夜の闇が明るくなる。
キメラは突然の光に動けなくなり、まひるは散弾ではなくスラッグ弾を装填した愛用の銃で太くてごつい鉄の塊を打ち込む。ちなみに彼女は最初にネコタマと遭遇した時に一緒に闘うか、安全に避難しているかを問いかけ、ネコタマは戦うことを選んだ。そしてまひるから靴に取り付ける銃を借りて現在は戦っている。
「猪鍋の為にさっさと倒れてもらうぜぇっ!」
佐賀は彼愛用の銃を構え、スキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。
「猪は鼻っ面に当てるくらいを狙った方が、頭に当たるらしいですよ?」
イーリスは呟きながらスキルを使用してキメラを狙い撃つ。
「ネコタマ、後ろからの援護をお願い」
神楽はネコタマに言葉を残した後、紅を構えたままキメラへと向かって駆け出す。そして自分より後ろにキメラを進ませない為にスキルを使用しながら攻撃を仕掛ける。
そして要所要所で布野が照明銃を打ち上げて光源を作り、その隙にキメラを攻撃していく。
「猪突猛進だな」
ユウは自分に向かってきたキメラを回避して側面から攻撃を仕掛ける。横からの攻撃に対処しきれず、キメラは森の中に響き渡るような大きな声で悲鳴を上げた。
「タマ! 何してんの、ちゃんと撃って!」
「うぅ、だ、だってぇ〜‥‥」
「まっすぐ撃てば当たる! 撃って、早く!」
布野から急かされるように言われ、ネコタマはまひるから借りた武器でキメラを狙い撃つ。
「おなかがすいているでしょう? 高速艇の中にみんなで食べられるおにぎりを用意していますので早く終わらせてしまいましょう」
覚醒により少々目つきが鋭くなっているけれど、リュティアはネコタマに言葉を投げかけながら愛用の双短剣を構えてキメラまで駆けていく。
そして機動力を削ぐ為にリュティアは足を狙って攻撃を行う。
「いくら猪でも、動く足を奪われてしまっては猪突猛進しようもないですもんね」
リュティアは呟きながら攻撃を仕掛けていく。ネコタマやまひるも足を狙って攻撃を行いキメラの動きを鈍くさせていく。
「きゃあああ! こっちに来る! 猪が来る! ついでに銃弾も来たァァァァ!」
きゃあきゃあと騒ぎながらネコタマは自分で持ってきていた小銃を乱射し始める。
「ちょっ‥‥」
「はいはい、そこまでー‥‥パニックになっているのは分かるんだけど落ち着こうね。このままだとこっちまで瀕死になってパニックになって全滅しそうだから」
イーリスがネコタマを落ち着かせながら宥める。
(「18歳との事ですけど騒ぐ姿を見てると外見年齢÷2の精神年齢にしか見えないですね‥‥」)
ネコタマを見ながらイーリスは心の中で呟く。
「私が攻撃した後に銃撃で動きを止めて頂戴」
神楽がネコタマに告げた後、走り出す。ネコタマは銃を構えて発砲する。神楽が攻撃して、ネコタマが射撃した後にユウが走り出して双剣でキメラを斬り付け、先ほどと同じように側面から攻撃を仕掛けた。
「はいはい、そっちばかり見てると怪我しちゃうよ!」
布野が照明銃を投げつけた後に靴に取り付けたステュムの爪で攻撃を仕掛ける。
「そろそろご退場願います」
布野の攻撃の後、キメラにリュティアが攻撃を仕掛ける。
その後も能力者達の連携攻撃は続き、キメラはなすすべもなく倒されたのだった。
―― ネコタマ、助けられる ――
「はぁ、また何も役に立てなかった。それどころか迷惑ばかりかけちゃって‥‥」
ネコタマは何度もため息を吐き、それを見たまひるがぺしっとネコタマのお尻を叩く。
「んま、頑張りなさいな。肩肘張らずに自分のペースでね」
「‥‥っ! うん、でも1つだけ言わせて‥‥」
「ん?」
「なんってけしからん乳をしてるのっ! 神様は不公平です! 戦闘中もゆらゆら揺れるうらやましい乳をして! 私なんか寄せて寄せて寄せてこれなのにぃぃ!」
(「‥‥まさか、戦闘中にこんな事ばっかり考えてたのかな、この子は」)
ネコタマの嘆きを聞いてまひるは苦笑するしかなかった。
「まぁまぁ、マタタビ吸って気を落ち着かせるが良かろう」
佐賀がマタタビを差し出すが「猫じゃなーい!」とべしっと振り払われてしまう。
「あ、ユウ君。今回はありがとねー!」
木にもたれているユウにネコタマが近寄りながら話しかける。
「とりあえず、今後もこんな目にあいたくないなら勝手な行動するな、そんで冷静になれ。あと知ってる奴に一緒に行ってもらうとかした方がお前も安心だろ」
「おお、そうだね! 今度からは知ってる人と一緒に任務に行くことにするよ! さすがユウ君。あったまいい! よしよし、ネコタマ的なでなでをしてあげよう!」
ネコタマは呟くとユウの頭をぐしゃぐしゃと撫でて「ヤメロ」とユウから手を振り払われていた。
「あー、今度からはちゃんとトランシーバー買わないと! 何となくトランシーバー買うお金ももったいなくてさ!」
ネコタマの言葉に「分かる分かる、実はあたしも今回の為に買ったクチでさー」と布野も苦笑気味に「駄目仲間だね」と言葉を付け足した。
「でも次からはちゃんと用意しなくちゃ駄目だよ? 今回はあたしらが来たから良かったものの‥‥もし、もしこのままあたし達が来なかったら、このまま1人ぼっちだったね」
真面目な顔で布野が呟き「うん、今度からは気をつける」とネコタマも俯きながら言葉を返したのだった。
「そうそう、この銃は差し上げます。今後にお役に立ててください」
リュティアが小銃S−01をネコタマにあげようとするのだが‥‥。
「だ、駄目だよ! 何か悪いしもらえないよ‥‥本当は凄く嬉しいんだけど‥‥これ貰っちゃったらまたネコタマ的に甘えちゃいそうだから‥‥」
だからありがとう、でもごめんなさい――とネコタマは言葉を返した。
その後、高速艇の中でリュティアが用意したおにぎりを食べながら本部に帰還したのだが‥‥ほとんどのおにぎりをネコタマが食べたのは言うまでもない。
END