タイトル:滅び―失われていく自由マスター:水貴透子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/10 23:55

●オープニング本文


多分、これが俺の最後の戦い――‥‥。

※※※

少し前から手が震える。

体の自由がなくなるのもそう遠い話ではないだろう。

事の発端は少し前に出かけたキメラ討伐の時に起こった。

その時、俺・ガイルは初めて『恐怖』というモノを味わった。

しかし、その時のキメラは上手く倒すことが出来た――が、問題はその次の仕事だった。

目の前の敵は大した能力もない、雑魚キメラ。

それなのに、俺の手は震えて攻撃を仕掛ける場面で硬直し、キメラの攻撃を受けてしまった。

その後、俺は病院にいって体の不調を訴えたが、医者から告げられた言葉はとても残酷なものだった‥‥。

「――え?」

「‥‥ですから、あなたの体の不調は病気などではありません――‥‥恐らく心の方に問題があるんだと思います」

「心‥‥?」

「事の発端となったキメラ討伐、あなたはそこで恐怖を味わった、そう言いましたね? これは仮説ですが、あなたの心の中に『恐怖』がすり込まれ、戦いの場で心の方が戦いを拒んでいる――そうとしか思えません」

医者から告げられた言葉に俺は、何の言葉も返す事が出来ず、ただ黙って俯いていた。

「俺の心が‥‥戦いを拒んでいる――‥‥」

「戦いを生業とするあなたには残酷かもしれませんが‥‥傭兵業は辞められたほうがお命の為かと思います」

その後の事はよく覚えていない。

ふらふらと家に帰り、気がついたらベッドの上で天井を見上げていた。

「とんだお笑い話だな‥‥怪我で傭兵を続けられなくなったのならともかく‥‥怯えて続けられなくなるなんてな‥‥」

そして、俺はもう一度だけ仕事をして‥‥傭兵を辞める決意をしたのだった‥‥。



●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
橘・朔耶(ga1980
13歳・♀・SN
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
赫月(ga3917
14歳・♀・FT
ミオ・リトマイネン(ga4310
14歳・♀・SN
アークレイ・クウェル(ga4676
30歳・♂・BM
MAKOTO(ga4693
20歳・♀・AA

●リプレイ本文

「けひゃひゃひゃ、我輩がドクター・ウェスト(ga0241)だ〜」
 奇怪な笑い声と共に挨拶をするドクターに集まった能力者は少し固まる。
「えっと‥‥俺はガイル――あまり役にたたないかもしれないけど、宜しく」
 頭を下げるガイルに「まぁ、しょうがないわな?」と橘・朔耶(ga1980)が呟いた。
「ガイルの能力者として最後の戦い――それを華で飾っておきたいですね」
 リヒト・グラオベン(ga2826)がガイルに話しかける。
「吾とは反対だな‥‥今の吾は戦う事でしか己を証明し、生を実感する事ができない‥‥」
 赫月(ga3917)が拳を握り締め、それを見ながら呟く。
「‥‥私は生身の実戦は初めて‥‥あなたにとっては最後の戦い――これも何かの縁かもね、今回は宜しく」
 ミオ・リトマイネン(ga4310)がガイルに握手を求め、挨拶をする。ガイルと能力者のやり取りを少し離れた場所から見ているのはアークレイ・クウェル(ga4676)だった。
「恐怖による戦闘行為への拒否反応‥‥か。エミタによる変調の影響――という訳でもなさそうだな、それならば彼の最後の戦い、手伝おう」
「彼のためにも、絶対に成功させたいよね」
 アークレイに話しかけるのはMAKOTO(ga4693)だった。
「そうね、でも戦いを怖がってちゃ袋叩きよ。出来る事を為してこそ人間」
 MAKOTOの呟きに答えたのはアークレイではなく、斑鳩・眩(ga1433)だった。
 そしてその時――ドクターの「何と!」と言う叫びが響いた。
「どうしたの?」
 ミオがドクターに問いかけると、ドクターは盛大なため息を吐きながら原因を話し始めた。
「今回のキメラを退治した際にサンプル採取の為に輸送機の手配を頼んだんだが‥‥断られてしまったよ〜‥‥どんなキメラであろうと調べなければ、打倒バグアの道は見えてこないというのにね〜‥‥せっかくのサンプルを捨ててしまうというのか、やれやれだ」
 ぶつぶつと文句を言うドクターに能力者達は苦笑して、彼を見ていた。
「ま、今回はサイ型みたいだから頑張っていこう」
 橘がガイルの背中をぽんと叩きながら、能力者達はキメラの出現する山の中腹を目指して歩き出した。


●罠を仕掛け、キメラを迎え撃て!

「じゃあ、作戦は来るまでに決めたものでいいんだね」
 MAKOTOが能力者達を見ながら問いかける。彼らがたてた作戦とは、キメラが出現すると言われている場所に簡単な落とし穴を掘り、鳥もちを仕掛けるというもの。
 もちろん、彼らもこれで倒せるとは考えていない、突進型のキメラのため、少しでも足止めになれば‥‥と考えての作戦だ。
「そうだ、超機械を持っていると両手が塞がってしまうから、宝の持ち腐れだね〜。惜しみなく使いたまえ〜」
 言いながらドクターは所持していた『貫通弾』をミオに渡す。
「ありがとう、ドクター。有難く使わせてもらうわ」
 ミオは貫通弾を受け取り、礼を言う。
「でもやっぱり歩きにくいね、リヒトがスパイク付登山靴を借りてきてて助かったわ」
 斑鳩が歩きながら呟く。登山靴のほかにもリヒトはインカム型の通信機や鳥もち、地図データをインストールしたPDAなど借り受けようとしたのだが、借りられたのは鳥もちと旧式な通信機に紙の地図だけだった。
「でも‥‥情報によればキメラが現れるのは――この辺りだと吾は思うが‥‥」
 地面にある足跡などを見ながら赫月が呟く。
「そろそろ‥‥キメラとの戦闘に‥‥?」
 ガイルは呟くと、今までは何ともなかった手が急にガタガタと震え始める。
「お前は私達に指示を出せ。お前が剣で戦えぬというのであれば、我々がお前の剣になる」
 震えるガイルに話しかけるのはアークレイだった。
「まずは戦いの前に罠を仕掛けるのが先だよ〜」
 MAKOTOが適当な場所に穴を掘り始める。ただひたすら掘る彼女の姿はどこぞの受刑者のように見えた。
「あ、俺も手伝う」
「私も手伝おう」
 ガイルとアークレイは呟いた後にMAKOTOの手伝いをする為に穴を一緒に掘り始めた。
「上手く引っかかってくれることを願うのみだね」
 橘が罠を仕掛ける作業を見て小さく呟く。
「私は周りの環境、そしてキメラがいないかを確認してくるわ」
 ミオは呟き、罠を仕掛けている場所から離れていく。
 それから十分程度が経過しただろうか、目の前には人が一人余裕で入れるほどの穴が掘られていて、中には鳥もちが仕掛けられている。
 その時、ミオからの通信が入り、キメラを発見したことが伝えられた。


●攻撃開始! キメラを倒せ!

「こちらミオ、現在目標は罠のある中腹部分に向かって移動、私は頂上方向に狙撃に適した場所を見つけたので、そこからの援護射撃を行います」
 ミオは山を少し登り、崖のような少し高い場所からキメラ、そして能力者達を見下ろしながら自分の武器・スコーピオンを構え、そしてドクターから渡された貫通弾を手に取る。
「さて――ここからが本番よ、失敗しないように頑張ろう」
 斑鳩の言葉にガイルは首を縦に振り、剣を構えた。
「さっきは指示を出すだけでいいって言われたけど‥‥これは俺の最後の仕事だ、後悔するような終わりにはしたくない!」
 ガイルの言葉に「その意気だ」と赫月が答えた。
「皆さん、準備はいいですか? これより誘導を開始します」
 通信機によってリヒトの声が流れ、彼がキメラの誘導を開始する。木々が倒れる音と同時にサイ型キメラが姿を現した。
「前足だ、前足を狙いたまえ〜」
 ドクターの言葉にミオが一つ目の貫通弾を使ってサイ型キメラの前足を狙う。
「――罠にかかった!」
 橘が叫び、サイ型キメラは鳥もちに足を取られ、身動きが思うようにならないようだ。
「超機械、起動〜」
 ドクターは楽しげに叫び、超機械を起動させる。彼は超機械の電磁波がフォースフィールドにどのような影響を与えるのか、それを観察したいようだ。
「援護頼むわよ!」
 斑鳩が叫ぶと同時にキメラの側面へと移動しメタルナックルで攻撃をする。
 そして、斑鳩がキメラに辿り着く前に後衛から橘がコンポジットボウで放った矢がキメラの左目を射抜く。
「――危ない! 横に飛べ!」
 突然、ガイルが叫んだかと思うと、橘はガイルによって突き飛ばされた。
「い‥‥ったあ‥‥」
 橘が起き上がると、キメラのツノがガイルの腹部を掠めていた。
「だ、大丈夫かよ!」
 橘が慌ててガイルに問いかけると「大丈夫」と痛みに表情を歪めながらガイルは答える。
 そして、遠くから援護射撃をしているミオが二つ目の貫通弾を使い、残ったキメラの目を奪う。視覚を失ったキメラは闇雲に暴れまわっていたが、単調な攻撃のために回避はしやすかった。
「外は硬くても――中まで硬い、という事はないでしょ」
 MAKOTOは叫びながらキメラの頭を何度も攻撃する。
 能力者達の容赦ない攻撃にキメラが雄叫びのようなものを上げる。
「黙ってろっての!!」
 斑鳩が叫び、キメラを攻撃する。
 何度も攻撃されるうちに段々と弱っていく。
「ガイル殿! 最後の仕事だ! 悔いを残さぬようにな!」
 赫月の叫び声と共に、ガイルが弱ったキメラに止めを刺した。後には鳥もち塗れになったキメラの死骸のみが残った。
「しまった〜、皆が活躍するから我輩の出番がなかったではないか〜」
 超機械を構えたまま、ドクターの叫び声だけが山に響いていた――。


●ありがとう――‥‥

「これからどうするの?」
 キメラを倒した後、斑鳩がガイルに問いかける。
「さぁ‥‥俺には傭兵業しかなかったから‥‥何をするかまでは決めてないや」
 ガイルは苦笑しながら答えた。
「キメラ相手に戦えないのであれば、後進育成に努めてみればいいではないか〜」
 ドクターの言葉に「え?」とガイルがきょとんとした顔を見せた。
「貴方自身の戦いはまだ終わっていません。ドクターの言うように後任を育てる要職に就いてはどうでしょうか? 恐怖を知る事は恥ではなく、その体験と培った経験を後輩たちに伝えて行く事も一つの道だと思います」
 リヒトの言葉に「でも‥‥俺は逃げ出す人間だし」と俯きながらガイルは呟く。
「敵に対して畏怖を感じて戦場から身を引くのは、けして逃げるというわけじゃないよ? 本当にまずいのは恐怖に対して麻痺していたり、無知のまま何も知ろうとしないことなんだし‥‥」
 橘がガイルをフォローするように話しかける。
「恐怖を知るなら、それを生かすことも出来よう。汝の後ろを歩むものを照らす生き方というのもあながち悪い生き方ではないだろう?」
 赫月が呟くと、ミオも続いてガイルに話しかけた。
「私は口下手だから上手くはいえない‥‥でも貴方の経験を必要とする人たちはいる、必ずね」
「俺は――皆のような意見は言わない。だが、とにかく生き残れ、平和な世界になった時、また会えることを楽しみにしている」
 アークレイはガイルの背中を叩き、薄く笑みを浮かべる。
「恐怖を克服するのは人それぞれ、この手のトラウマはこの業界にはよくあること。酷なようだけど、心の問題は自分の思い一つでいくらでも癒したり、深くしたり出来る、結局は自分次第――だから、頑張って」
 MAKOTOが話しかけると「俺、頑張るよ」とガイルが笑顔を見せながら呟く。
「自分の経験を生かしたいのも事実だ、だから‥‥経験を生かす為にも、俺は恐怖を克服してみせる――絶対に」
 呟くガイルの表情は最初の時のような、怯えて震えるものではなかった。
 きっと、彼が問題を克服するまでには長い時間が掛かるだろう。
 けれど――‥‥それを乗り越えた時こそ、彼の本当の生き方が見つかるのだ――。


END