●リプレイ本文
―― 妖刀を繰るキメラ ――
「薄い刃を使う人型キメラですか‥‥なかなか厄介な武器を使うようですね」
資料を読みながらアリエイル(
ga8923)が小さな声で呟く。
今回の能力者達がキメラ退治に向かう前、別の能力者達が男性型キメラの討伐に向かっていた――が、予想外の武器と攻撃に致命傷は与えられなかったものの、キメラ退治を続行できるほど軽い傷でもなかった為に倒せないまま帰還してきたのだ。
そして今回の能力者達がそのキメラを退治する為に出発するところだった。
「普通の刀なら、そこまで自由に動くとは思えませんけど‥‥さて、どんなモンだか‥‥」
御守 剣清(
gb6210)も資料を見ながら小さく呟いた。彼は剣客として妖刀と言うものに少しばかり興味があった。
「しかし、戻ってきた能力者達の怪我を見る限り殺傷能力は低そうでござるな。大しただめーじではないからこそ、逆に怖そうなのでござるが‥‥」
兼定 一刀(
gb9921)も「うーん」と唸りながら妖刀の事を考えるけれど、妖刀という言葉自体が漠然とした物なので上手く想像することは出来なかった。
「えっと‥‥今回のキメラは‥‥刀を持った人型キメラ‥‥ですね」
御鑑 藍(
gc1485)は「‥‥人型‥‥」と言葉を付け足しながら呟いた。彼女自身、人型キメラと戦うことは初めてで緊張がないと言ったら嘘になる。
「人型は‥‥初めてだけど‥‥ん、大丈夫」
御鑑は緊張をほぐすように自分に言い聞かせる。
「動きが読めない‥‥でも、その妖刀を扱うのはキメラ本体ですよね。予測が出来ないのならば本体を狙えば‥‥」
相賀琥珀(
gc3214)は愛用の武器、夜刀神を握り締めながら呟く。どんなに武器が予測しづらくても本体は1つ。つまりそこを狙えば何とかできない相手ではないと彼は考えた。
(「傭兵としちゃぁ初仕事か。ま‥‥やる事ぁ、昔と大して変わらんか‥‥」)
荊信(
gc3542)は過去のボディガード時代を思い出し、煙草の煙を吐く。
「キメラって言っても色々いるんだな‥‥」
ポツリと火神楽 恭也(
gc3561)は資料を見て呟く。彼は色んな種類のキメラを見て、戦って、今後の為にもその経験を活かしたいと考えて今回の任務に参加していた。色々な種類のキメラと戦い、経験を積む。それは即ちどんな状況にも対応できるという事に繋がるのだから。
「‥‥ふぅ」
如月 葵(
gc3745)も小さく息を吐く。彼女も今回が初任務であり、多少緊張を感じている。
(「能力者となってから初めての実戦ですが、落ち着いてやれば大丈夫‥‥」)
如月は自分を落ち着かせながら心の中で呟く。それに彼女は今回のキメラが使う武器にも興味があった。出来れば回収したいと考えており、無理ならば確りと自分の手で破壊しようとも考えていた。
「それでは、行きましょうか」
アリエイルが呟き、能力者達はキメラを退治する為に高速艇へと乗り込んで出発していったのだった。
―― 夜の森、潜む刃 ――
今回のキメラが潜んでいる場所、それは鬱蒼とした森の中だった。森が町を囲むような作りになっており、少しばかりキメラ捜索が厄介かもしれない場所だった。
最初は全員で開けた場所に光源を置き、キメラをおびき出そうとしていたが、暫く待ってもキメラは現れず、能力者達がキメラ捜索をせざるを得なくなっていた。
勿論、能力者達はこのような状況になる事も予測しており、キメラを捜索する為に班を2つに分けて行動する作戦を立てていた。
A班・アリエイル、兼定、相賀、火神楽の4人。
B班・御鑑、荊信、如月、御守の4人。
A班は時計回り、B班は反時計回りでキメラを捜索する事にしており、どちらかの班がキメラを発見したらトランシーバーでもう片方の班に連絡を入れる事にして、それぞれ捜索を開始したのだった。
※A班※
「能力限定‥‥解除‥‥」
捜索を開始し始めると同時にアリエイルが覚醒を行う。すると光の翼が現れるが、それは懐中電灯やランタンのような光源にはならず、光源を確保する為にアリエイルはランタンを持って足元などを照らしていた。
「きめらの使う剣は徒に人を傷つけるだけの悪剣邪剣の類。剣にて身を立てる者の端くれならば、そのようなもの許すわけには行かないでござるよ」
兼定は【雅】提灯で森の中を照らし、キメラに警戒しながら愛用の刀に触れる。
「妖刀‥‥他に何か厄介な能力がないといいのですが‥‥」
ランタンを持って捜索をしながら相賀が呟く。ランタンで照らしながらではないと、とてもじゃないけれどスムーズに歩く事は出来そうにない。木の根がそこら中にあり、気を抜けば足を引っ掛けてしまいそうなほどだった。
「他の能力‥‥もしかしたらあるかもしれませんね――でも、これ以上は実際に対峙してみないと何とも言えませんね」
相賀の言葉にアリエイルが言葉を返す。
「あまり考えすぎても戦いに支障があるかもしれんしな、気楽に――とは言えないがあまり気負いすぎずに行こう」
火神楽が呟く。彼は覚醒をしているせいかサングラス越しでも分かるほどに右眼だけが金色に輝いていた。
――ガサ。
「む‥‥」
物音がした方向に火神楽はスコーピオンを向けて警戒をする。しかし森に住む動物だったらしく銃口を向けられた動物は怯えて何処かへといってしまった。
「やはりこの視界の悪さは此方にとって不利ですね――?!」
アリエイルが呟いた時、何か風を切る音がして其方へと視線を向ける。
「ありえいる殿! 危ないでござる!」
その音が何なのか、確認する前に兼定によって突き飛ばされる。アリエイルが「痛い」と呟いた瞬間、兼定と自分の間を何かがひゅんと通り過ぎ、そして木にどすりと突き刺さる。
「すまぬでござる。大丈夫でござるか?」
兼定がアリエイルに話しかけると「えぇ、大丈夫です。ありがとうございます」と助けてもらったお礼を言う。
「だが、ちょっと落ち着いている暇なんかなさそうだぜ?」
火神楽が苦笑しながら3人に話しかける。彼の頬には嫌な汗が流れ伝う。それも其のはず。キメラは木に身を隠しながら確実に能力者達を狙って攻撃してきているのだから。
「此方A班、キメラと遭遇しました。場所は――‥‥」
近くに巨大な岩がある事が目印になると思い、相賀はB班に現在地の特徴とキメラと遭遇した事を伝えたのだった。
「此処はそれなりに開けた場所‥‥きめらさえ此方側に引きずり出せば、何とかなるでござる」
兼定が呟き、B班が合流するまでの間、キメラを足止め、牽制しておく事に徹するのだった。
※B班※
まだA班がキメラと遭遇していない頃、B班は反時計回りに森の中を捜索していた。
「やれやれ、何処から来るかな」
荊信は煙草の煙を吐きながら小さく呟く。煙草の火と匂いでキメラが寄って来るかもしれないと考え、彼はあえて煙草を吸うという選択をした。
「それにしても暗いですね‥‥鬱蒼としているせいか月明かりもあまり入り込んできませんし‥‥」
如月がランタンで足元を照らしながら小さく呟く。月が出ていたはずなのに、ほとんど光は入ってこない。それゆえに光源なくては少しばかり歩くのは厄介だった。
「あ、此処なら結構戦闘するのに適した場所ですね」
捜索しているうちに少し開けた場所に出て、御鑑が呟く。開けているせいか少しだけ月明かりも差し込んできており、ランタンなどを置けば十分に戦闘が出来る場所だった。
「でも‥‥周りに何か居るような気配は感じられませんね」
御守が周りを見渡しながら呟く。動物の動く音などは聞こえるけれど明らかに此方に対して敵意を持っている気配は感じられない。
「この周辺にはいないのかねぇ」
荊信がふぅと煙を吐きながら呟く。それなりに騒いで目立つように捜索しているにも関わらず、キメラは出てこない。
その時だった、少し離れた所から銃声が夜の森に響き渡ったのは‥‥そしてそれから1分という時間も経たないうちにトランシーバーに連絡が入り、巨大岩近くでキメラと交戦中という事をA班から告げられたのだった。
―― 戦闘開始・能力者 VS 妖刀使い ――
A班がB班に連絡をして20分近くが経過した頃、ようやくB班とA班が合流して8人の能力者達が揃った。
「其の刃ごとン‥‥粉砕します! 音速の刃‥‥蒼電一閃!!」
アリエイルがスキルを使用しながらキメラへと攻撃を仕掛ける。だがキメラのぐにゃりと変則的に曲がる刀によって攻撃を受け、アリエイルの力が僅かに弱まってしまい、キメラに大きなダメージを与える事は出来なかった。
「攻撃の方は、皆さんにお任せしちゃっていいですかね?」
御守は呟きながらスキルを使用してキメラとの距離を一気に詰める。其の間にもキメラの持つ刀が襲い掛かってきたけれど、ダメージを気にする事なく御守はキメラへと接近して腕や足を狙って攻撃を仕掛ける。
「いざ参るッ!」
兼定も大きな声で叫び、愛刀を握り締めてスキルを使用し、キメラへと攻撃を仕掛ける。やはり能力者達が最初に予測していた通り、変則的な動きをするのはキメラが持つ武器だけであり、キメラ本体は単調な動きしか見せていない。
「やはりその剣、受けには向かぬでござろう? 流すには良さそうでござるが‥‥ならばこれで!」
兼定は小さく呟いた後にスキルを使用し、キメラの刀の鍔元近くに強力な一撃を狙う――が、キメラがぐにゃりと手首を返すと伸びていた刀もぐにゃりと曲がる。そのせいで兼定は腹部付近に傷を負うのだが、戦闘が出来ないほどの傷ではなく、足を踏ん張ってその場に倒れないようにする。
「まだまだでござる‥‥この程度の傷!」
「其方にばかり気を取られていていいんですか?」
キメラが再び兼定に攻撃を仕掛けようとした所を御鑑がキメラに対して言葉を投げかけ、キメラの転倒を狙って足を攻撃する。彼女の持つ蛍火がキメラの足へと突き刺さり、キメラは大きな声で痛みを訴え、刀を持つ手を離してしまう。
「持つ手が鈍れば脅威ではありません」
相賀は呟きながら、夜刀神で刀身を砕くために振り下ろす。元々が薄い刃だと言う事もあり、強烈な一撃には耐えられず、ぱきん、と小気味よい音を鳴らしながら刀身が折れる。
「自慢の武器は砕けました。貴方になすすべはもうありませんよ」
相賀は武器からキメラへと視線を移し、スキルを使用して接近して攻撃を仕掛ける。特殊な動きをする武器を持っていた為に今まで攻撃出来ていたキメラだが、武器を奪われては攻撃をする事も適わない。
「ほらほら、隙だらけだぜ?」
荊信が呟き、零距離射程から拳銃・ブリッツェンで射撃を食らわす。至近距離からの攻撃にキメラは膝折れてその場にガクリと座り込む。
「今のうちだ、さっさと殺っちまおうぜ」
荊信が動けないキメラを見て、他の能力者達に言葉を投げかける。
「荊信!」
火神楽が叫び、荊信がキメラを見ると武器をなくしたキメラは素手で荊信に殴りかかろうとしていた。
しかし火神楽がスキルを使用しながら射撃を行い、荊信はダメージを受けることはなかった。
「早く、倒されてください。この姿――夜叉みたいで好きじゃないんです」
白い髪を靡かせながら如月がキメラを見据えて呟く。
「あなたは刀に頼りすぎでしたね。切っ先が変則的に動いても、動きの少ない根元部分を狙われたらどうしようもないと言う事に気づくべきでした」
如月は刀を振り下ろしながら言葉を投げかけ「でも、もう遅いですけれど」と言葉を付け足して攻撃を行ったのだった。
「これでトドメです‥‥蒼電機槍撃‥‥一撃‥‥必倒ッ‥‥せぇぇぇ!!」
アリエイルが攻撃を仕掛け、それと同時に他の能力者達も連携して攻撃を合わせる。結果的に武器を失った時点で戦うすべをなくしたキメラに勝ち目はなく、誰が見ても能力者達の完全勝利でキメラ退治は終わったのだった。
―― キメラ退治後 ――
「さすがに、無傷で‥‥と言う訳にゃぁいかんようだな」
傷口から流れ出る血を舐め取りながら荊信が小さく呟く。だがその表情は恐怖ではなく、どこか不敵な笑みに見えた。
「まぁ‥‥とにかく任務完了‥‥ですかね」
アリエイルが呟く。能力者達は大きなダメージではないけれど、皆が多少傷を負う形でキメラ退治を終えた。だがこの程度のダメージで任務を終えられたという事は能力者達の作戦がよかったということなのだろう。
「もっと、俺が気を配って入れたらよかったんだけど‥‥」
御守が俯きながら呟く。彼は戦闘中、他の能力者の代わりにダメージを受けるという面もあった。
「おぬしは十分に他の者をかばっていたでござるよ。あのような武器を使うきめら相手にこれくらいの傷で済ませられたのはむしろ喜ぶべき事でござる」
兼定の言葉に「そう、でしょうか」と御守は言葉を返した。
「お主も真っ当な師につけば剣の何たるかを学ぶ事も出来たであろうに」
兼定は今はもう動かないキメラに対して言葉を投げかけ、合掌する。
「あ、皆さん。お怪我は大丈夫ですか? 救急セットありますし治療が必要な人がいたら治療します」
相賀が救急セットを持ちながら能力者達に話し掛けるけれど今すぐに治療が必要と言う能力者はおらず救急セットの出番は幸いにもなかった。
「一体、この刀はなんだったんだろうな。丈夫かと思ったらすぐに折れたし‥‥いまいちそういう刀剣類には詳しくないからわかんないけどよ」
火神楽が折れた刀を見ながら呟く。だが結局刀のことは謎のままで終わってしまった。
「皆さん、お疲れ様でした」
如月は今回一緒になった能力者達に丁寧に頭を下げてねぎらいの言葉を投げかける。
それから休憩を終えた能力者達は報告の為に高速艇へと乗り込み、LHへと帰還していったのだった。
END