●リプレイ本文
―― キメラ退治へ赴く能力者達 ――
「‥‥住人の避難が済んでいれば? 馬鹿にしないで、と言いたいね」
夢守 ルキア(
gb9436)が資料を見ながら小さく呟いた。
「私達はプロなんだ、住人が避難していない事も想定して、避難に人員を裂くべきだった――弱いダケ、詰めが甘かったダケ」
夢守は感情の読めない表情で冷たく呟き、資料をバサリと置く。
「そう‥‥ですね。住人の避難に人員を裂くべきだったという点は確かに私も同感です。例え避難が完了しているという報告があったとしても、もしかしたら逃げ遅れた人がいるかもしれない‥‥そう思って動くのは当たり前だと思います」
アリエイル(
ga8923)も小さくため息を吐きながら言葉を返した。別に彼女自身、以前に赴いた能力者達を責めようという気持ちはなかった。
ただ、夢守が言った通り『避難に人員を裂くべきだった』という事だけはアリエイルも考えていのだ。
「ありきたりな依頼でも、ミス等あれば致命的になるのは多々ある事だ――犠牲者は運がなかった、それだけだ」
ORT=ヴェアデュリス(
gb2988)も資料を見ながら小さく呟く。どんな依頼でも万が一の事があるかもしれない、だからこそ覚悟を持って依頼に挑まなければならないのだ。
「運、確かにそうだね。この人達は、しなければならない事を怠ったせいで自らの運を落としたんだと思うよ」
夢守が呟く。
「そういえば、動物型キメラだとモデルがいるのでわかるんですけど、わざわざ人型を作るのはどうしてなのです? 動物さんなら普通に強いですけど、人型の長所ってお馬鹿さんなキメラじゃ生かせない気がするのですよ?」
ヨダカ(
gc2990)が首をかくりと傾げながら他の能力者達に問いかけるように呟くと「そうねぇ‥‥」とラナ・ヴェクサー(
gc1748)が言葉を引き取る。
「人の油断を誘う為とか、多分そういう類じゃないか‥‥? 私はバグアやキメラとは違うからいまいち奴らの考えは理解しかねるけどな」
ラナが苦笑しながら言葉を返すと「なるほど、そういう理由もあるかもですね」とヨダカは頷きながら応えた。
「大剣を持つキメラ‥‥受け切れればいいんだけど」
空漸司・影華(
gc3059)が資料を見ながら呟く。今回のキメラは大剣を携えた人型キメラ――しかも現れた場所は町、キメラを退治する事は勿論だけれど建物などを壊さないように戦わなければならないというやや不利な条件の中で能力者達は戦う事を強いられていた。
だが、建物を壊さずに――というのは能力者達が住人の事を考えて提案したものである。
「幸いにも開けた場所はそれなりに多いようだ」
幽噛 礼夢(
gc3884)が地図を見せながら呟く。資料と一緒に地図も同封されており、その地図には幾つも赤い印がつけられていた。地図につけられている付箋を見ると、赤い印は開けた場所なのだと書いてある。
「住人は避難済み‥‥でも逃げ遅れた人がいるかもしれない‥‥その探索も忘れないにしよう」
幽噛が呟くと「そうだね。逃げ遅れた人がいたら危ないもんね」と夢守が言葉を返してきた。
「まぁ、ようするに今回は他人の尻拭い、か。一先ず‥‥あの世でリベンジ出来るよう、少しだけ真面目に働くか‥‥」
牧野・和輝(
gc4042)がパチンと懐中時計を閉めながら呟く。
「とりあえず、小さな町みたいだしキメラ捜索にも苦労する事はないんじゃないか?」
まぁ、油断は出来ないけどな――と牧野が言葉を付け足しながら呟くと「そうですね、油断は命取りになりますから」と空漸司が言葉を返した。
「それじゃ、さっさと行ってさっさと終わらせるか」
ヴェアデュリスが呟き、能力者達は高速艇に乗り込んでキメラが徘徊する町へと出発していったのだった。
―― 小さな町に現れたキメラ ――
能力者達が町へと到着すると、ひっそりとした空気が能力者達を出迎えた。住人が避難しているせいだろうか、普段ならば穏やかな空気の筈であろうその場所は冷たく何処か寂しい雰囲気を能力者達に感じさせていた。
「それでは、班に分かれてキメラ捜索をするとしようか」
ラナが呟く。
今回の能力者達は班を2つに分けてキメラ捜索を行う作戦を取っていた。
A班・アリエイル、空漸司、ラナ、ヨダカの4名。
B班・夢守、ヴェアデュリス、幽噛、牧野の4名。
お互いの班で何か異変があったら、トランシーバーで連絡を取り合う事にしている。
「合流の空き地は何処にしますです? 迷子になっちゃったら大変なのですよ」
ヨダカが手を挙げて問いかけると「それなら、此処はどうでしょうか」とアリエイルが地図上の赤印を指差す。彼女が指差したのは町の中央付近に位置する空き地。これからマンションが建てられるらしいその場所はまだ工事も始まっていないようなので、何もないと資料には書かれていた。
「此処なら何処でキメラを見つけても対処できる場所だと思う、他の皆はどう思いますか?」
空漸司が他の能力者達に問いかけると「我は問題ない」ヴェアデュリスが言葉を返してくる。
「ボクもそこでいいと思うよ」
幽噛も言葉を返し、合流地点は町の中央部分にある空き地に決まり、能力者達はそれぞれの班で行動を開始したのだった。
※A班※
「アリエイルと組むのはこれが初めての仕事になるね」
空漸司がアリエイルに言葉を投げかけると「えぇ、必ず倒して帰りましょう」とアリエイルは言葉を返した。この2人は同じ小隊の仲間という事もあり、面識はあった。
「皆さんとは始めまして、ですね‥‥短い間だが、宜しく頼みますよ」
ラナが3人に声をかけると「ヨダカも宜しくなのですよ」とヨダカもぺこりと丁寧に頭を下げて挨拶をする。
「んー‥‥さすがに住人が避難というだけあって静かなのですよ」
ヨダカがキメラ捜索をしながら呟く。だが、彼女は確りと逃げ損ねた人がいてもいいようにと警戒を強めている。勿論、それは他の3人の能力者達も同じだと言えるのだけれど。
「‥‥此処は窓ガラスが破損してますね‥‥屋内に居られると厄介ですが、破損している家屋はチェックしますか」
アリエイルが呟くと「そうだね」と空漸司が言葉を返し、警戒しながら窓ガラスの割れた家屋を覗き込む。
「‥‥アリエイル、其方はどうだ?」
トランシーバーからラナの声が聞こえ「家屋の中にはキメラの姿は確認できませんでした」とアリエイルが言葉を返した。
ラナはアリエイル、空漸司、ヨダカから少し離れた所から捜索を行っている。離れているからこそ見えるものもある、という事もあるだろうと考えてのことだ。
「しか――」
たない、次の場所を探そう――と続く筈のラナの言葉はB班からの通信によって遮られる。B班から入った通信、それはキメラを発見して現在合流地点に誘導しているという内容だった。連絡を受けたA班はすぐさま合流地点へと駆け出し、B班とキメラが来るのを待つ事にしたのだった。
※B班※
まだB班がキメラを発見する前に時は少し遡る――‥‥。
「久しぶりの狩りだ‥‥手慣らしにはちょうどいい」
ヴェアデュリスが呟く。B班は最初に夢守が用意した囮の血糊を空き地へと仕掛け、トランシーバーをONにして置いておく事にした。
勿論、他の場所も捜索に行くのだが空き地にキメラが現れたらすぐに駆けつける事が出来るようにとトランシーバーを置こうと考えていた。
「さて、素直に出てくれるとこちらとしても楽なんだけどね」
夢守が血糊を仕掛けた後、苦笑しながら呟く。
「仕掛けも終わったし、捜索に行こう。逃げ遅れた人がいたらワタシ達で保護すればいいし‥‥」
幽噛が呟くと「そうだな、出来れば避難してて欲しいけどな」と牧野が言葉を返した。住人を保護する事には何の異論もない。ただ、その状態でキメラとの戦闘になってしまえばリスクが高くなる、その事を牧野は少しだけ心配していた。住人を見つけたら、キメラから護らねばならない、護る者がいるという事は能力者達の行動が狭まるという事。
だから出来れば避難していてくれ、という気持ちが牧野の中にはあった。
「A班からはまだ連絡ないし、まだ見つかっていないんだね。結構小さな町だから直ぐに見つかるかなって思ってたんだけど」
夢守が呟くと「どちらにしろ長く潜んでいる事は出来ないだろうから直ぐに見つかるさ」とヴェアデュリスが言葉を返した。
「あれは‥‥人なのか?」
幽噛が人影を見つけ、小さく呟く。B班の能力者達は警戒しながら人影の方へと赴くと――そこに大剣を地面に引きずりながら持ち歩く男性の姿を目撃した。
「あれは、やっぱり――だよね?」
夢守が呟くと「どう考えても間違いないだろう」とヴェアデュリスが言葉を返す。
「あんなに大きな剣を一般人は持たないからね‥‥」
幽噛はキメラへと視線を移す。
「‥‥刃物の扱いでワタシに勝てると思わないで欲しいな」
幽噛はマーシナリーアックスを構えながら呟く。
「こちらB班、キメラを見つけたよ。空き地に誘導するから先に行ってて欲しいな」
夢守がA班へと連絡を行い、B班はキメラの前に立ち、空き地へと誘導を始めたのだった。
―― 戦闘開始・キメラVS能力者 ――
B班が空き地に到着すると、既にA班は到着しており、戦闘準備は完了していた。
「折角用意したんだけどね」
夢守はトランシーバーを取り、仕掛けた血糊を見ながら呟く。
「まぁ、いい。さっさとやられてくれよ」
牧野は呟きながらスキルを使用してキメラへと攻撃を仕掛ける。
「牽制します! 音速の刃よ‥‥斬り裂け!」
アリエイルは呟きながらスキルを使用して、キメラを攻撃する。アリエイルの攻撃に対してなにやらキメラが動きを見せたけれど、牧野の射撃により動くタイミングをズラされてしまい、アリエイルの攻撃をマトモに受けてしまう。
「目標確認――撃破する」
攻撃開始、ヴェアデュリスは言葉を付け足しながら呟き、愛用の刀を構えながらキメラへと向かって駆け出した。
その時、夢守とヨダカは能力者達に向かってスキルを使用して能力者達の武器を強化する。
「これでパワーアップなのですよ!」
ヨダカはスキルを使用した後に呟き「キメラさんは柔らかくなっちゃえなのですよ!」と言葉をつけたし、スキルを使用してキメラの防御力を低下させた。
「前ばかりを気にしていていいのか?」
ラナは弓を構え、キメラへと攻撃を仕掛ける。スキルを使用して気配を隠していたせいか、キメラはラナに気づく事は出来ず、放たれた矢はキメラの腕を貫通した。
「あまり動いてくれるなよ、なるべく景観を壊したくないんだ」
ラナは言葉を付け足した後に再び風きり音をさせながら矢を放つ。ラナの攻撃のすぐ後に空漸司が攻撃のために駆け出す。
だが、キメラも矢に貫かれながらも攻撃態勢を取って大剣を空漸司へと向けて振り下ろす。
「攻撃は最大の防御‥‥煌け一刃!」
スキルを使用しながら空漸司はキメラへと攻撃を仕掛ける。そのせいか自身もダメージを負ったけれど、今後の戦いに支障が出るような傷にはならなかった。
「キミは2人の命を奪ったんだろう? だったら、奪われても文句は言えない‥‥」
幽噛は呟き、マーシナリーアックスで攻撃を仕掛ける。その攻撃の痛みに耐えかね、キメラは持っていた大剣を地面へとガランと音をたてて落とす。
「これで、もう剣を握ることは出来ない」
ざしゅ、という鈍い音と共にキメラの腕が斬り落とされる。
「お前が殺した奴もきっと痛いとかそういう気持ちでいっぱいだっただろうな」
キメラの持っていた大剣を遠くへと蹴り飛ばし、牧野がスキルを使用しながらキメラへ向けて射撃を行う。
「さようなら、貴方が亡くなった方とあの世で会えるとは思わないけど――彼らの為にも散ってください」
空漸司は呟くと同時に攻撃を仕掛ける。それと同時にアリエイルとヴェアデュリス、幽噛が攻撃を仕掛ける為に駆け出す。
「打ち倒します! 蒼電一刃‥‥せぇぇぇぇっ!!」
アリエイルが攻撃を繰り出し、幽噛とヴェアデュリスも攻撃を仕掛け、キメラを無事に退治する事が出来たのだった。
―― 散りし者達へ ――
キメラを退治した後、能力者達は応急手当などを行っていた。
「‥‥やはり戦いに身を置いていれば‥‥何時自分の身に降りかかってくるか判らないですね‥‥戦士たちの魂よ、安らかな安息の時を‥‥」
アリエイルは呟き、散ってしまった戦士達へ祈りを捧げる。
「私は英雄でも何でもない、だから取捨選択をする――‥‥ビジネスなら、10を護る為に1を捨てる。たとえ1が私であろうと‥‥」
夢守は呟いた後、大きく空を仰いだ。
「これは‥‥バグアの作った武器なのかな‥‥興味がそそられる」
ラナはキメラが持っていた大剣を見ながら呟く。持って帰りたいという気持ちもあるが、やはり報告の時に本部に渡した方がいいだろうと考え、自分の物にすることを諦めた。
「他に怪我をした人いないですかー? 帰る時は皆で元気に帰るのです」
ヨダカは治療を終えた後、他の能力者達に問いかける――が、ほとんどの能力者達は治療を終えたので「大丈夫」という言葉をヨダカに返すのだった。
「命を散らせてしまった戦士達に‥‥安らかな眠りを‥‥」
空漸司は呟き、空を仰ぎながら死んでしまった戦士達の冥福を祈る。
「悪いな、ワタシはまだ死ねないんだ」
右手でナイフを器用にまわしながら幽噛が既に動くことのないキメラの死体を見ながら呟く。
「さて、他にキメラがいないか確認し終わった後は亡くなった奴らに報告にでも行くか」
牧野は懐中時計を見つめながら小さく呟く。
そして、他の能力者達がそれぞれ思いをめぐらせている間、ヴェアデュリスは少し離れた所でマスクを外し、空を仰ぎながら煙草を吸っていた。何を言うでもなかったけれど、何かを考えているような、そんな表情でヴェアデュリスは空を見続けていた。
その後、能力者達は高速艇へと乗り込み、報告をする為に本部へと帰還していったのだった。
END